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成年後見人は立退料を支払える?家裁への必要性立証ガイド
成年後見人は立退料を支払える?司法書士が実例で解説
成年後見人として、ご本人(被後見人)が所有する賃貸アパートの管理をしていると、時に難しい判断を迫られることがあります。老朽化が進んだり、空室が目立ったりして、いっそのこと売却や建て替えを検討したい。しかし、そのためには現在お住まいの入居者に立ち退いていただく必要があり、それには「立退料」の支払いが必要になるかもしれません。
このとき、後見人にとって問題となるのは、「そもそも、ご本人の財産から立退料を支払うことを、家庭裁判所に合理的に説明できるのだろうか」という点です。このような状況で、どのように説明や資料準備を進めればよいか分からない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この問題は、資料を整理し、被後見人の利益を具体的に説明することで対応を検討できます。今日は不動産会社での勤務経験があり、現在も10人以上の後見人を務める世田谷区の司法書士が、成年後見制度を利用している場合の立退料の支払いについて、実際に私が経験したケースをもとに、家庭裁判所への事前相談や、必要に応じた許可・報告の進め方について解説していきます。
成年後見人が関わる収益物件の売却では、時に口頭での約束が大きなトラブルに発展するケースもありますので、慎重な対応が求められます。
立退料の支払いが難しい根本的な理由
本題に入る前に、なぜ成年後見人が立退料を支払うことが原則として難しいのか、その法的な背景からご説明します。この点を理解することが、家庭裁判所を説得する上での第一歩となります。
成年後見人には、被後見人の財産を適切に管理し、その利益を守る義務があります。これを法律用語で「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」と呼びます。これは、他人の財産を預かる専門家として、通常期待されるレベルの注意を払って財産を管理・保存しなければならない、という非常に重い責任です。
この大原則から見ると、立退料の支払いは、被後見人の預金という財産を直接的に「減少させる」行為に他なりません。家庭裁判所の基本的なスタンスは、あくまで「財産の保全」です。そのため、後見人が財産を減少させる行為に対しては、極めて慎重な姿勢を取ります。
特別な理由なく「入居者に退去してもらうために、数百万円を支払います」と申し出ても、「なぜご本人の財産を減らしてまで、そのようなことをする必要があるのですか?」と問われ、許可が下りない可能性が高いのです。これは、後見の申立て前のお金の使い方と同様に、財産の動きについては常に合理的な説明が求められるのです。
このように、立退料の支払いは後見人の財産保全義務と真っ向から対立するように見えるため、原則としては「NO」と考えて出発するべきと考えます。

【突破口】家庭裁判所に説明するための立証戦略
「原則は難しい」と聞くと、諦めてしまいそうになるかもしれません。しかし、説明の方法を整理することで、対応を検討できる場合があります。実際に私が経験したケースに基づいて、どのような形で裁判所に必要性を説明していけば良いのか、その具体的な戦略をお話しします。
結論から申し上げますと、「立退料を支払うことが、一時的な支出以上に、結果として被後見人の財産を大きく増やす(または損失を防ぐ)ことにつながる」という点を、客観的な証拠に基づいて論理的に証明することです。
家庭裁判所も、決して杓子定規に判断しているわけではありません。ご本人の利益になるのであれば、柔軟な判断を示すことも十分にあり得ます。重要なのは、後見人の主観的な「こうしたい」という希望ではなく、「なぜそうすることがご本人の利益になるのか」を誰が見ても納得できる形で提示することなのです。
そのための戦略を、具体的な3つのステップに分けて解説します。
ステップ1:2種類の不動産査定書で「利益の差」を可視化する
まず、私が実際に行ったのは、不動産会社に依頼して2種類の査定書を取り寄せることでした。
- 現状のまま(賃借人がいる状態)で売却した場合の査定書
- 建物を解体し、更地にして売却した場合の査定書
賃借人が残っている状態の収益物件(いわゆるオーナーチェンジ物件)は、買い手にとって利回りが低かったり、自由な活用ができなかったりするため、売却価格が低くなる傾向にあります。一方、更地であれば、買い手は自由に建物を建てられるため、より高い価格で売れることが一般的です。
この2つの査定書を並べることで、「現状」と「更地」の売却価格にどれだけの差額が生まれるのかが、具体的な金額として可視化されます。これが、立退き交渉によって得られる「経済的な利益の最大値」を示す、最初の強力な証拠となります。ただ漠然と不動産の価格を考えるのではなく、条件による価格差を明確にすることが重要です。
ステップ2:立退き経費を算出し、損益分岐点を明確にする
次に、立退きを実現するために必要な経費の総額を算出します。これには、以下のものが含まれます。
- 賃借人に支払う立退料(例:引っ越し費用実費 + 新居の家賃との差額数ヶ月分など)
- 建物の解体費用
- その他、測量費や登記費用など
そして、ステップ1で算出した「売却価格の差額」と、この「立退き経費の総額」を比較します。この計算式は、家庭裁判所に経済的合理性を説明するうえで重要なポイントです。
(更地売却価格 − 現状売却価格) > 立退き経費の総額
この不等式が成り立つのであれば、「立退料や解体費用を支払ったとしても、なお被後見人の手元にはこれだけの利益が残ります。したがって、この支出はご本人の利益に適うものです」と、明確に主張することができます。
例えば、引っ越し費用に加えて家賃3ヶ月分といった常識的な範囲の立退料であれば、この計算式が成立するケースは少なくありません。主観的な説明にとどめず、客観的な数字で損益分岐点を示すことが重要です。特に空き家に関する税制なども考慮すると、放置するデメリットが大きくなることもあります。

ステップ3:【最終手段】買付証明書で説明資料を補強する
査定書はあくまで「このくらいの価格で売れるだろう」という不動産会社の予測値です。立証の精度をさらに高め、立証資料を補強するための有力な資料の一つが「買付証明書(購入申込書)」です。
これは、実際にその不動産を購入したいという買い手から、「更地にしてくれるのであれば、○○円で購入します」という具体的な意思表示を書面で取得するものです。
査定価格が不動産会社による見込みであるのに対し、買付証明書は「現実の購入希望者」が存在し、具体的な購入希望額が示されていることを説明する資料になります。ただし、通常は売買契約と同じ法的拘束力を持つものではないため、あくまで有力な参考資料として位置づける必要があります。これを提出できれば、裁判所としても「この取引は被後見人にとって確実に利益をもたらす」と判断しやすくなり、許可が下りる可能性は格段に高まります。
不動産会社と連携し、更地での売却を前提とした販売活動を先行させ、購入希望者を見つけておく方法もあります。具体的な購入希望額を示す資料があれば、説明資料としての説得力を高めやすくなります。こうした不動産売却許可のタイミングを見計らう上でも、非常に有効な手段と言えるでしょう。また、不動産売却では契約後の判断能力の問題など、後見人が注意すべき点は多岐にわたります。
立退料の支払いについて家庭裁判所に説明する際のよくある質問
ここまで具体的な戦略を解説してきましたが、まだ細かな疑問点が残っているかもしれません。ここでは、立退料の支払い許可に関してよくいただくご質問にお答えします。
意外に思われるかもしれませんが、家庭裁判所は一定の説明さえできれば、柔軟に出金を認めてくれることも多いです。立退料に限らず、「どうせ裁判所は認めないだろう」と思い込まずに、きちんと資料を集め、冷静に説明のポイントを整理していくことで、対応を検討できる場合があります。
Q1. 立退料の金額に法的な基準や相場はありますか?
立退料の金額について、法律で「いくら」と明確に定められた基準はありません。これはケースバイケースで判断されます。
ただし、実務上の目安としては、以下の要素を組み合わせて算定されることが一般的です。
- 移転にかかる実費:引っ越し代、新しい物件の契約にかかる初期費用(敷金、礼金、仲介手数料など)
- 営業補償:店舗などの場合、移転に伴う休業期間の損失補填
- 借家権価格:借主がその場所に住み続ける権利の価値
- 家賃差額:現在の家賃と、同程度の物件を新たに借りる場合の家賃との差額(数ヶ月分から2年分程度)
後見人が申し立てる上で最も重要なのは、「社会通念上、不相当に高額ではない」と裁判所に説明できることです。入居者との交渉で合意した金額が、上記の要素を考慮して常識的な範囲内であることを示す必要があります。
Q2. 自宅と同じような裁判所の許可が必要ですか?
自宅と違い、賃貸物件の場合は裁判所の許可を得ることが法律で明記されているわけではありません。しかし、大きな財産を動かすことには変わりなく、自宅と同レベルの裁判所との調整が必要と考えるのが常識的でしょう。
Q3. 売却ではなく、アパートの建て替えが目的でも同様に考えられますか?
はい、目的が「売却」ではなく「建て替え」の場合でも、基本的な考え方は同じと思って良いでしょう。ただ、売却の場合は一括で被後見人も多額の現金を得ることになりますが賃貸アパートの建て替えの場合は、少しずつ長期に渡って利益を得ていくことになります。より裁判所への対応は複雑化するでしょう。
この場合の立証のポイントは、「老朽化したアパートをこのまま放置した場合の収益・資産価値」と「建て替え後の新しいアパートから得られる将来的な収益・資産価値」を比較することです。
例えば、以下のような資料を証拠として提出します。
- 現状の収支報告書(家賃収入、修繕費、管理費など)
- 建築会社からの建て替え見積書
- 建て替え後の収支シミュレーション(想定家賃収入、ローン返済額など)
- 近隣の新築物件の賃料相場データ
これらの資料に基づき、「一時的に立退料や建築費用という大きな支出は発生するものの、長期的には収益性が大幅に改善し、資産価値も向上するため、被後見人の利益に繋がる」という論理を組み立てます。マンションの建て替えなど、大規模な計画になるほど、将来の収益性を具体的に示すことが重要になります。後見人が関わる不動産取引では、住所の記載など思わぬ点で手続きが滞ることもあるため、専門家によるサポートが有効です。
まとめ|複雑な不動産問題は専門家への相談も検討しましょう
今回は、成年後見人が立退料を支払うという難しいテーマについて、家庭裁判所の許可を得るための具体的な戦略を解説しました。
要点をまとめると以下の通りです。
- 成年後見人による立退料の支払いは、財産保全義務の観点から原則として難しい。
- しかし、「立退料を支払うことが、結果的に被後見人の利益に繋がる」ことを客観的な証拠で立証すれば、許可を得ることは可能。
- 具体的な証拠として、「現状」と「更地」の2種類の不動産査定書や、より強力な「買付証明書」が有効。
- 目的が売却でも建て替えでも、支出を上回る利益が生まれることを数字で示すという基本戦略は同じ。
後見人が関わる不動産の問題は、法律の知識だけでなく、不動産取引の実務経験も必要となる非常に複雑な分野です。特に、家庭裁判所への説明は、専門的な知見と丁寧な準備が求められます。
このような問題で対応に迷っている場合は、早めに専門家へ相談することも選択肢の一つです。当事務所は、不動産業界での実務経験と、司法書士として数多くの後見業務に携わってきた実績があります。また、心理カウンセラーの資格も有しており、法律的な問題解決だけでなく、ご家族が抱える不安やストレスに寄り添うことも大切にしています。
何から手をつけて良いか分からないという段階でも構いません。まずは、あなたの状況をお聞かせください。専門家と一緒に状況を整理し、必要な資料や進め方を検討することで、対応の見通しを立てやすくなります。ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用いただければと思います。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
離婚で合同会社が崩壊?持分譲渡と退社登記の落とし穴【司法書士解説】
夫婦経営の合同会社、離婚で全てを失う前に
夫婦で築いてきた会社も、離婚をきっかけに事業継続、財産分与、経営権の整理といった問題に直面することがあります。このような状況で、どの手続きから進めるべきか悩む経営者の方も少なくありません。会社経営と離婚問題が同時に生じると、対応すべき事項を整理しにくくなることがあります。
この記事では、これまで世田谷区や渋谷区などで相続・離婚により発生した合同会社の課題を解決してきた司法書士が、その複雑な問題を乗り越えるための具体的な道筋を解説します。夫婦間の対立と会社経営上の判断を分けて整理し、必要な手続きを冷静に検討するための参考になれば幸いです。
離婚で直面する3つの「会社の問題」
夫婦経営の合同会社が離婚に直面したとき、問題は単なる「夫婦喧嘩の延長」では済みません。具体的には、以下の3つの法的な問題が同時に発生します。
- 財産分与の問題
会社の財産(持分)は、夫婦の共有財産と見なされることがほとんどです。そのため、離婚時には預貯金や不動産と同じように、会社の持分も財産分与の対象となります。会社の価値をどのように評価し、財産分与にどのように反映するかという金銭的な問題を検討する必要があります。 - 経営権の問題
合同会社は、株式会社と異なり「所有(社員)と経営(業務執行社員)が一致」しているのが大きな特徴です。つまり、社員である配偶者が会社を辞めない限り、経営に関する重要な決定に口を出す権利を持ち続けます。関係が悪化した元配偶者が経営に残り続けることは、迅速な意思決定を妨げ、事業の停滞を招く大きなリスクとなります。 - 法的手続きの問題
配偶者に会社を辞めてもらう(退社してもらう)には、単に「辞めてください」と言うだけでは不十分です。持分をどうするか(譲渡するのか、払い戻すのか)、その合意を書面にし(持分譲渡契約)、最終的に法務局へ会社の変更を届け出る(変更登記)という、一連の法的手続きが不可欠です。このプロセスを一つでも誤ると、後々大きなトラブルに発展しかねません。これらの問題は、創業者同士の契約がいかに重要であるかを物語っています。

【司法書士の現場から】離婚は「感情」会社は「理性」の板挟み
先日、渋谷区で合同会社を経営されているAさんから、会社登記に関するご相談をいただきました。会社の登記情報を見ると、Aさんと同じ姓の女性が業務執行社員として登記されていました。おそらくご家族だろうと思いながらお話を伺うと、やはり奥様で、今回の相談はその奥様をめぐる問題でした。
「実は妻と離婚することになりまして。妻は会社を離れるので、会社の登記内容を変更してほしいんです」
その話しぶりから、Aさんがこの手続きを想像以上に軽く考えていらっしゃることが分かり、私はどう説明すべきか一瞬迷いました。そして、慎重に言葉を選びながら説明を始めました。
「Aさん、合同会社の社員というのは、株式会社でいうところの『株主』と同じ、会社の所有者です。社員の登記を削除するにはまず社員でなくなる必要があります。つまり、奥様の会社の『持分』を、何らかの形で手放していただかなければなりません。一般的にはAさんがその持分を譲り受ける形になるでしょう。そして『譲渡』ということは、れっきとした契約行為です。契約書も必要ですし、その持分をいくらで譲り受けるのか、価格も決めなくてはなりません」
私の説明を聞いたAさんは、驚いた表情でこうおっしゃいました。
「思ったより、ずっと大変なんですね…。価格は、いくらくらいにすれば良いんでしょうか?」
「それは会社の現在の価値によります。顧問の税理士さんはいらっしゃいますか?一度、会社の資産状況を評価してもらうのが良いでしょう」
後日、Aさんは税理士さんと相談して持分の価格を決定し、その価格を記載した持分譲渡契約書を私が作成しました。そして、奥様にもその内容で相違ないか、意思の確認をさせていただきました。
この事例のように、合同会社は「所有と経営が一致」しているため、社員間の仲が悪くなると、手続きを進めるのが非常に困難になるケースが少なくありません。もしこの会社が株式会社だったら、手続きはもっとシンプルだったかもしれません。Aさんが100%株主で、奥様が取締役(役員)という形であれば、奥様が取締役を辞任するだけで済み、持分の評価や譲渡契約といった複雑なステップは不要でした。
設立費用の安さが魅力の合同会社ですが、複数人で経営に関わる場合は、それぞれの立場と権利関係を明確にできる株式会社の方が、後々のトラブルを避けやすい側面があることを実感した事例でした。
合同会社の離婚問題を解決する「持分譲渡・退社登記」4ステップ
離婚に伴う合同会社の手続きは、整理せずに進めると途中で問題が生じることがあります。しかし、やるべきことを順番に確認すれば、解決に向けた見通しを立てやすくなります。ここでは、その一連の流れを4つのステップに分解して解説します。

ステップ1:持分の価値を知る(財産評価)
最初に行うべき最も重要なステップは、会社の持分の価値を客観的に評価することです。これが財産分与の金額や、持分譲渡の価格を決定する全ての基礎となります。
持分の評価は、基本的には会社の貸借対照表に記載されている「純資産額」を基準に行います。しかし、不動産や有価証券など、帳簿上の価格と時価が大きく異なる資産がある場合は、それらを時価で評価し直す必要があります。この評価は法的な知識だけでなく税務の知識も必要となるため、ご自身で判断するのではなく、必ず顧問税理士などの専門家に相談してください。
客観的な評価額を算出することは、感情的な対立を避け、公平な財産分与と円滑な譲渡交渉に繋がる第一歩です。当事務所でも、必要に応じて税理士などの専門家と連携し、ワンストップで対応することが可能です。
ステップ2:譲渡の条件を決める(持分譲渡契約)
会社の価値が明らかになったら、次はその持分をどうするか、具体的な譲渡の条件を決定します。
最も一般的なのは、会社に残る一方の配偶者が、会社を去る配偶者の持分を買い取る(譲り受ける)方法です。その際、以下の点を明確に合意する必要があります。
- 譲渡価格:いくらで譲渡するのか。財産分与の一環として無償(贈与)とするのか、あるいはステップ1で算出した評価額を基に有償とするのかを決めます。
- 支払方法:有償の場合、いつまでに、どのような方法(一括か分割か)で支払うのかを具体的に定めます。
そして、これらの合意内容は必ず「持分譲渡契約書」という法的な書面に残してください。口頭の合意だけでは、後日、合意内容をめぐって争いになるおそれがあります。なお、持分を売却した側には、売却益に対して譲渡所得税が発生する可能性がある点にも注意が必要です。
ステップ3:会社のルールを変更する(総社員の同意・定款変更)
持分譲渡の合意は、あくまで当事者間の契約です。次に、それを会社として正式に承認する手続きが必要になります。
会社法では、社員がその持分を他人に譲渡するには、原則として「他の社員全員の承諾」を得なければならないと定められています。ただし、業務を執行しない有限責任社員の持分譲渡については、業務執行社員全員の承諾で足りる場合があります。夫婦2人だけの会社であれば、実質的に2人の同意ということになりますが、他に社員がいる場合は、その方々の同意も必要不可欠です。
この同意が得られたら、「総社員の同意書」を作成します。また、社員が退社することに伴い、会社の根本規則である定款に記載されている社員の氏名や住所、出資額などを変更する必要も出てきます。これらの会社内部での正式な手続きを踏むことで、譲渡の有効性が確かなものとなります。
参照:会社法の条文
ステップ4:法務局へ登記申請(社員退社の変更登記)
全ての合意と社内手続きが完了したら、最後の仕上げとして、その変更内容を法務局に届け出ます。これが「社員の退社に伴う変更登記申請」です。
登記申請書に、これまでのステップで作成した以下の書類などを添付して提出します。
- 持分譲渡契約書
- 総社員の同意書
- 変更後の定款
- その他、法務局が指定する書類
この変更登記には、「変更があった日(この場合は社員が退社した日)から2週間以内」という申請期限が定められています。期限を過ぎると過料(罰金のようなもの)の対象となる可能性もあるため、速やかな手続きが求められます。
この登記申請が受理されると、会社の登記事項証明書に記載されている業務執行社員や代表社員に関する情報が更新されます。この登記手続きは司法書士の専門分野であり、複雑な書類作成から申請までを代理することが可能です。
手続きを円滑に進めるための3つの心構え
法的な手続きの流れを理解しても、離婚という特殊な状況下では、感情が邪魔をしてなかなか前に進めないことも少なくありません。ここでは、無用なトラブルを避け、冷静に手続きを乗り切るための心構えを3つお伝えします。

1. 感情と経営を切り離して考える
離婚協議では、どうしてもこれまでの不満や怒りが噴出し、感情的になりがちです。しかし、会社の清算手続きは、法とルールに基づいた極めて理性的な作業です。「夫婦としては終わりでも、会社の財産を清算する上ではビジネスパートナーである」という意識を、一時的にでも持つことが重要になります。
感情的な対立が長引けば、会社の意思決定は停滞し、取引先や金融機関からの信用を失いかねません。それは会社の価値を毀損し、結果的に双方が受け取る財産を減らすことに繋がります。冷静な対話こそが、お互いの未来にとって最善の利益となることを忘れないでください。感情的な対立の解決には、時に第三者の視点が有効です。
2. すべてを書面に残す
離婚問題では、口頭での合意だけにしておくと、後日、合意内容をめぐって紛争になるおそれがあります。どんなに些細な合意事項でも、必ず書面に残すことを徹底してください。
特に、「持分をいくらで、いつまでに支払うのか」といった金銭的な取り決めを明記した「持分譲渡契約書」や、財産分与全体について定めた「離婚協議書」は、将来のトラブルを防ぐための重要な資料となります。司法書士などの専門家が作成に関与した書面は、法的な要件を満たし、その証拠能力は極めて高くなります。
3. 第三者の専門家を間に立てる
冷静になろうとしても、当事者同士での話し合いがどうしても難しい場合は、無理に進めようとせず、中立的な第三者である専門家を間に立てることを検討してください。
司法書士や弁護士などの専門家に相談することで、法的な論点を整理し、必要な手続きや書類作成を進めやすくなります。ただし、当事者間で争いがある場合の交渉や代理対応については、事案に応じて弁護士への相談が必要になることがあります。誰に相談すれば良いか分からない時こそ、専門家を頼るべきです。
まとめ|複雑な合同会社の離婚問題は、まずご相談ください
夫婦で経営してきた合同会社の離婚問題は、財産分与、経営権、そして複雑な法的手続きが絡み合う、非常にデリケートで難しい問題です。感情的な対立も相まって、当事者だけで解決しようとすると、かえって事態を悪化させてしまうことも少なくありません。
この記事で解説した4つのステップは、問題を整理するための基本的な流れですが、一つひとつのステップには専門的な判断が求められます。一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談いただくことが、最善の解決策への近道です。
下北沢司法書士事務所では、法的な手続きのサポートはもちろんのこと、心理カウンセラーの資格を持つ司法書士が、皆様の心理的なご負担にも寄り添いながら、問題解決をお手伝いします。世田谷区を中心に、都内全域からのご相談に対応しております。初回のご相談は無料ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
生命保険照会制度は相続で使える?司法書士が解説
故人の生命保険、心当たりは?照会制度の利用を考える前に
生命保険の手続きも、相続の中で意外と難しかったり、手間も多く、仕事にに追われる社会人はなかなか進められないことも多いです。。今日は、世田谷区を中心に杉並区・中野区などで生命保険請求を含む多くの相続手続きに携わってきた下北沢司法書士事務所が、生命保険の手続きについて解説します。
「故人が生命保険に入っていたかもしれない…」
遺品を整理していると、ふと古い保険証券や、何年も前の保険会社からの通知が見つかることがあります。あるいは、生前に家族が「保険に入っている」と話していたのを思い出すこともあるでしょう。しかし、具体的にどの会社のどの保険なのか、はっきりしないケースは少なくありません。
そんな時、生命保険契約の有無を確認し、保険金請求の漏れを防ぐための仕組みが「生命保険契約照会制度」です。
この記事では、相続の専門家である司法書士の視点から、この制度の基本的な使い方から、数次相続や相続放棄といった複雑なケースでの注意点まで、詳しく、そして分かりやすく解説していきます。この記事では、手続きの進め方と注意点を順に確認できるよう整理します。生命保険の手続きの全体像については、生命保険の手続きで体系的に解説しています。
生命保険契約照会制度とは?基本的な仕組みを理解しよう
生命保険契約照会制度は、ご家族などが亡くなった際に、被相続人(亡くなった方)がどの生命保険会社と契約していたかを、一般社団法人生命保険協会にまとめて問い合わせることができる制度です。2021年7月に始まった比較的新しい仕組みで、保険金の請求漏れを防ぐことを目的としています。
これまで、心当たりのある保険会社一社一社に連絡して確認するしかありませんでしたが、この制度を使えば、生命保険協会に加盟している生命保険会社に対して、一度の手続きで照会が可能です。
ただし、一つ大切な注意点があります。この制度でわかるのは、あくまで「契約の有無」までです。保険の種類や保険金額、受取人が誰かといった具体的な契約内容までは教えてくれません。契約があることが判明したら、その後、ご自身で各保険会社に問い合わせて詳細を確認し、請求手続きを進める必要があります。
この制度は、契約が存在する可能性を確認するための最初の手続きと考えるとよいでしょう。

利用できる人・費用・期間のまとめ
制度を利用できる人や、かかる費用・期間の目安は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 利用できる人 | ・法定相続人・遺言執行者・法定相続人の法定代理人(親権者、成年後見人など)・上記の方々から依頼を受けた専門家(弁護士、司法書士、税理士、行政書士など) |
| 費用 | 調査対象となるご親族等1名につきWEB申請:6,000円、書面申請:7,000円 |
| 結果判明までの期間 | 必要資料の提出と利用料の支払完了日から原則14営業日以内(生命保険協会からの回答) |
このように、ご自身で手続きを進めるのが難しいと感じる場合は、私たちのような相続手続きの専門家に依頼することも可能です。相続の問題は、状況に応じて様々な専門家の力が必要になることがあります。どの専門家に相談すべきか迷った際も、まずはお気軽にご相談ください。
手続きの流れと必要書類
手続きは、生命保険協会のウェブサイトを通じた「オンライン申請」と、書類を郵送する「郵送申請」の2種類があります。どちらの方法でも、準備する書類が手続きの最も重要なポイントになります。
主な必要書類
- 照会者の本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカードなど
- 被相続人の死亡が確認できる公的書類:死亡の記載がある戸籍謄本(除籍謄本)や住民票の除票など
- 照会者と被相続人の関係がわかる公的書類:戸籍謄本など
特に「照会者と被相続人の関係がわかる公的書類」は、被相続人が生まれてから亡くなるまでの一連の戸籍謄本(いわゆる「戸籍一式」)が必要になる場合があり、収集に時間と手間がかかることがあります。本籍地が何度も変わっている方だと、全国の役所から取り寄せる必要が出てくるからです。
もし事前に戸籍の収集が済んでいれば、法務局で法定相続情報一覧図の写しを取得しておくことをお勧めします。この書類が1枚あれば、戸籍一式の代わりに使えるため、手続きが非常にスムーズになります。
【司法書士の実体験】生命保険照会制度の思わぬ壁
生命保険契約照会制度は、たしかに便利な仕組みです。しかし、数年前に制度が始まってから実際に利用してみると、思わぬ壁に突き当たることがありました。これは、中野区にお住まいのAさんから、叔父様の相続についてご相談いただいた時のことです。
Aさんが叔父様の遺品を整理していたところ、紙の色がすっかり変わってしまった、数十年も前の保険会社からの通知が2通出てきました。「もしかしたら、他にも契約があるかもしれない」と考えた私は、この新しい照会制度の利用をAさんにご提案しました。
ところが、です。生命保険協会に問い合わせたところ、「Aさんは数次相続での相続人にあたるため、この制度は利用できません」という、まさかの回答が返ってきたのです。
そのため、この制度による照会は進められませんでした。結局、私は方針を切り替え、通知文のあった保険会社それぞれに直接問い合わせることにしました。しかし、その後の保険会社への個別照会でも、手続きに手間がかかりました。
ある会社では、問い合わせの決まった書式もなく、「聞きたいことをご自身でWordなどで作成し、返送用のレターパックを同封して送ってください」と指示されました。言われた通りに書類を送ると、後日届いたのは「冠省」から始まる非常に短い文章で、「お尋ねの件、弊社との保険契約はありません」とだけ書かれた、事務的な返信でした。
新しい契約を勧めるときとは比べものにならない、その面倒くささがにじみ出るような対応に、私はAさんが直接確認しなくて良かったなと思います。私は仕事だからともかく、Aさんがこの対応をされたらきっと心の疲れを感じていたことでしょう。
最終的に、叔父様の保険契約は見つかりませんでした。しかし、結果がどうであれ、「もう調べることはない」と確定できたことで、Aさんはとてもスッキリしたご様子でした。そして、Aさんが保険会社の冷たい対応に直接触れ、心を痛めることがなかっただけでも、私が間に入った意味はあったのかな、と心から思っています。

数次相続や相続放棄でも照会制度は使えるのか?
私の経験談のように、相続の状況が少し複雑になると、制度の利用に「待った」がかかることがあります。ここでは、特にご質問の多い「数次相続」と「相続放棄」のケースについて、専門家として詳しく解説します。これらは相続の方法を考える上で非常に重要なポイントです。
ケース1:数次相続が発生している場合
数次相続とは、例えば祖父が亡くなった後、その遺産分割協議をしないうちに父も亡くなってしまうなど、相続が連続して発生し、権利関係が複雑になっている状態を指します。
私が経験したように、生命保険協会は数次相続のケースで照会を断ることがあります。なぜなら、彼らからすると「現在の正式な法定相続人が誰なのか、提出された戸籍だけで100%確実に判断できない」かと考えるからだと思います。協会側としては、万が一にも間違った人に情報を開示するわけにはいきません。そのため、少しでも相続関係が複雑で判断に迷う場合は、安全策として照会を断るという運用になっていると考えられます。
数次相続で照会制度の利用に挑戦するためには、大前提として、膨大な量の戸籍を完璧に収集し、誰が見ても現在の相続関係が明確にわかる状態にする必要があります。これは非常に専門的な作業であり、司法書士が関与することで、戸籍収集や相続関係の整理を進めやすくなる場合があります。数次相続が発生した場合の遺産分割は、通常の相続とは異なる知識が求められます。
ケース2:相続放棄を検討している場合
「故人に借金があるかもしれない。相続放棄を考えているけれど、その前に財産を調べておきたい。でも、保険の照会をしたら『相続する意思がある』とみなされて、放棄できなくなるのでは…?」
これは、多くの方が抱く非常に切実な不安だと思います。ですが、どうぞご安心ください。
結論から申し上げますと、生命保険契約の有無を調査する行為(照会制度の利用)は、財産を自分のものにする「処分行為」にはあたらないため、「単純承認」とはみなされません。
したがって、相続放棄をするかどうかの判断材料を集めるために、安心してこの制度を利用することができます。故人の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)をしっかり調査した上で、相続するか、放棄するかを冷静に判断することが大切です。
ただし、注意点が一つ。照会の結果、保険契約が見つかり、その保険金を受け取る場合は話が変わってきます。保険金の受取人が「被相続人本人」になっていた場合、その保険金は相続財産の一部となります。それを相続人が受け取ってしまうと、相続を承認したとみなされ、原則として相続放棄はできなくなります。一方で、受取人が特定の相続人(例えば「妻」や「子」)に指定されていれば、それは受取人固有の財産となり、受け取っても相続放棄に影響しないのが一般的です。このあたりは、死亡退職金と相続放棄の関係と似た考え方になりますし、かなり微妙な判断です。自己判断せずに必ず専門家にご相談ください。
まとめ:複雑な相続では、専門家への相談も検討しましょう
生命保険契約照会制度は、忘れられていたかもしれない保険契約を見つけ出すための、非常に有効なツールです。しかし、私の実体験でもお話ししたように、特に数次相続が絡むような複雑なケースでは、制度利用の入り口で断られてしまったり、その後の保険会社とのやり取りで大きなストレスを感じたりする可能性があります。
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下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
遺産分割協議は可能?認知症の判断基準を司法書士が解説
ご家族の認知能力に不安がある場合の遺産分割協議の注意点
「最近、親の物忘れが気になるけれど、話し合いはまだできるはず…」「相続の話を進めたいけど、うちの親は本当に内容を理解できているだろうか?」ご家族の認知能力に少しでも不安を感じながら、遺産分割協議を前にして、このように悩んでいる方は少なくありません。
インターネットで調べると、「認知症の人は遺産分割協議ができず、成年後見制度が必要」と出てきますが、認知症といっても程度は様々。果たしてどの程度までなら大丈夫なのか。
今日は認知症と遺産分割協議をテーマに、世田谷区から相続の現場で課題解決してきた司法書士があなたにお話しさせていただきます。
ご家族が亡くなった後は、相続手続きを進める必要があります。その中心となるのが、相続人全員での「遺産分割協議」です。しかし、この協議に参加するご家族の中に一人でも認知能力に不安がある方がいると、遺産分割協議の有効性や、その後の相続手続きに支障が生じることがあります。
「まあ、まだ大丈夫だろう」という安易な判断で話し合いを進めてしまうと、せっかくまとまったはずの協議が、後から「無効」だと判断され、協議をやり直す必要が生じる可能性があるのです。
そうなれば、預貯金の解約や不動産の名義変更といった手続きが何年もストップし、ご家族の関係にまで亀裂が入りかねません。特に、高齢の親からその子どもへ、さらにその子どもへと世代をまたぐ老老相続では、こうした問題がより深刻になりがちです。
この記事では、そうしたトラブルを避けるため、どのような場合に遺産分割協議が可能で、どこからが危険なラインなのか、その判断基準を司法書士の視点から具体的にお伝えします。ご家族の未来を守るための大切な知識です。ぜひ、最後までお読みください。
【司法書士の私見】遺産分割協議が可能かの判断基準5つ
「共同相続人の中に認知症の人がいると遺産分割協議が無効」「認知症の人が遺産分割協議をするには成年後見制度の利用が必要」相続が発生した人は、このような知識に触れることがあるかも知れません。確かにその通りではあるのですが、実際に皆様が自分のケースにあてはまると非常にとまどう部分も出るかも知れません。自分の親は確かに最近物忘れが激しかったり同じ話を繰り返すことが増えたがこれは認知症なのかどうなのか・・・叔父さんや叔母さんの相続が発生し、存命の叔父・叔母の認知能力はどうなのか。現実問題として成年後見制度の利用は大変だし時間もかかるどうしても利用しなければいけないのか。こういう疑問がわくと思います。当事務所は、法律を杓子行儀に述べていくだけの仕事はしないように気を付けています。現実問題として目の前にある皆様の課題を解決していくことを大切にしています。どういう状態であれば遺産分割協議は可能であるか、みなさまに基準をお示しします。これは本来は誰でも見れるホームページで書くようなことではないかもしれません。この基準はあくまで私見ですし、みなさまのケースにあてはめた時問題が起きないことを保証するものではありません。具体的には必ず当事務所にご相談いただきたいのですが、参考になれば幸いです。

1.認知症の程度
まず、遺産分割協議に必要な認知能力はどの程度のものか考えていきたいと思います。基本的には、自分の住所、氏名、生年月日を言えて、ざっくりと相続の内容を理解できれば、有効に協議ができると考えます。日常生活の中で認知能力があやしいところがある、または過去と比較して衰えた雰囲気があっても上記を満たしていれば問題ないと考えます。医師の診断を受けている場合でも、その診断書の内容によっては協議を進められることもあります。
逆に、全く言葉を発することができない状態、ほぼ終日寝たきりで「うーん」などの言葉を少し話す程度の時は、基本的には成年後見制度の利用が必要でしょう。こういう状態の場合、「~月~日の時点でそういう状態であった」というのはほぼ後からでも証明できる状態と思います。入院しているか介護施設にいるでしょうし、何らかの形で記録もとられていると思います。ということは証拠があって「後から無効主張しやすい」状態でもあるので成年後見制度を利用しないで進めるのは、読者の方にとって危険と考えます。
2.法定相続分を満たしているか
これも成年後見制度を利用するか、現実問題として考える基準になってくると私は考えます。成年後見制度はそもそもが「認知症になった方等の権利を守るため」にあります。そこで、そもそもの協議の内容が法律上の権利(法定相続分)を満たしているか、遺産分割協議において法定相続分を下回る内容になるのか。これも現実問題として成年後見制度を利用するかどうかの判断基準になりえると考えます
3.共同相続人同士の関係性
共同相続人同士の仲が悪いと、誰かが遺産分割協議の内容に不満を持つかも知れません。不満を持つということは、無効主張できる材料がある場合、それを使って無効主張する危険性が高まります。これも成年後見制度を利用して無効主張させない体制を作るかどうか、考える基準になると思います。
4.相続の背景
例えばこんなケースがよくあります。子どもがいない夫婦で配偶者が亡くなった。亡くなった配偶者と遺産分割協議が必要だが、実際には配偶者が全て相続する。こういう時に財産を相続せず、単に手続きに協力するだけの兄弟姉妹に成年後見制度の利用を求めることが現実的でしょうか。成年後見制度を利用すると、選ばれた成年後見人の立場としては全部を配偶者に相続する内容の協議は、立場上かなりしづらいと思います。また、協議後に成年後見制度の利用によって大変になるのは配偶者ではなく利用した兄弟姉妹の家族です。手続きに協力を求める相手方に、成年後見制度の利用に伴う手続きや継続的な負担を求めることが現実的かどうかも検討が必要です。
5.印鑑証明書は取得できるのか
不動産の相続登記や遺産分割協議をして銀行での預貯金の払い戻しをするにあたり、印鑑証明書の提出が求められます。もともと印鑑登録していなかったり、身体的都合で印鑑証明書を取得できないなどの事情があった場合、各種の手続きを通すことができません。考える基準になると思います。
自己判断で進めた場合に起こりうる主なリスク
先ほどの判断基準を見て、「うちは大丈夫そうだ」と少し安心されたかもしれません。しかし、安易な自己判断は非常に危険です。法的な観点から見た「意思能力」の有無は、専門家でなければ正確な判断が難しい領域です。もし判断を誤ったまま手続きを進めてしまうと、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。
ここでは、問題を放置したり、自己判断で進めてしまったりした場合に起こりうる、3つの最悪のシナリオをご紹介します。こうした相続手続きの難しさを軽視すると、後で大きな後悔につながりかねません。
ケース1:他の相続人から「無効だ」と訴えられる
最も避けたいのが、親族間での争いです。遺産分割協議が一度まとまったとしても、後になって他の相続人の気が変わり、「あの時の母(父)には正常な判断能力がなかった。だから協議は無効だ」と、遺産分割協議無効確認の訴えを起こされるリスクがあります。
こうなると、時間も費用も、そして何より精神的に大きな負担を強いられる裁判へと発展してしまいます。一度は合意したはずの家族と法廷で争うことは、精神的な負担が大きい手続きになる可能性があります。特に、生前の意思確認が不十分だったために契約が無効とされた家族信託の判例もあり、本人の意思能力は極めて厳格に判断される傾向にあります。
ケース2:金融機関や法務局で手続きが止まる
相続人全員で署名・押印した遺産分割協議書を作成しても、いざ手続きに進んだ段階でストップがかかるケースも少なくありません。銀行の窓口担当者や法務局の登記官が、相続人名簿に記載されたご高齢の方の意思能力に疑問を抱き、「ご本人様の意思確認ができないと手続きは進められません」と判断することがあるのです。
特に最近は、金融機関での本人確認が厳格化しています。専門家が関与していない当事者だけの協議書では、窓口で受理を拒否され、銀行手続きが頓挫してしまうという現実的なリスクがあります。故人の口座が凍結されたまま、葬儀費用や当面の生活費を引き出せないといった事態にもなりかねません。
ケース3:相続税の特例が使えず、納税額が増える
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限内に遺産分割協議が確定していない場合、当初申告では「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を適用できません。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して申告し、原則として申告期限から3年以内に分割された場合には、後から特例の適用を受けられる可能性があります。
もし協議が無効になったり、意思能力の問題で長引いたりすると、当初申告でこれらの特例を使えず、いったん相続税の負担が大きくなる可能性があります。問題を先送りすることが、結果的に大きな金銭的損失につながる最悪のシナリオです。相続税の申告期限が迫っている状況では、特に注意が必要です。

どうしても手続きが必要な場合の解決策「成年後見制度」とは
ここまでお読みいただき、自己判断で進めることのリスクを強く感じられたのではないでしょうか。では、判断能力が不十分な相続人がいる場合、法的に最も安全で確実な手続きは何か。その答えが「成年後見制度」です。
この制度に対して、「手続きが面倒」「費用がかかる」「家族が自由にできなくなる」といったネガティブなイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
しかし、成年後見制度は、判断能力が不十分になったご本人の財産を守り、法的に有効な契約や手続きを進めるために国が定めた、ご本人を保護するための大切な仕組みです。この制度を利用することで、家庭裁判所が選んだ「成年後見人」がご本人に代わって遺産分割協議に参加し、財産管理を行うことができます。これにより、協議の有効性をめぐるリスクを抑えながら、法的な手続きに沿って相続手続きを進めやすくなります。他にも任意後見や家族信託といった制度もありますが、認知症が発症した後に利用できるのは基本的にこの法定後見制度となります。
より詳しい情報については、厚生労働省の成年後見制度利用促進ポータルサイトもご参照ください。
参照:法定後見制度とは(手続の流れ、費用)
成年後見制度を利用するメリットとデメリット
成年後見制度を利用するかどうかは、メリットとデメリットを正しく理解した上で慎重に判断する必要があります。
【メリット】
- 法的に有効な遺産分割協議を進めやすくなる:後から無効を主張されるリスクを抑え、手続きを進めやすくなります。
- 不動産の売却や預貯金の管理が可能になる:ご本人名義の不動産を売却して介護費用に充てるなど、財産を有効活用できます。成年後見制度を利用した不動産売却には家庭裁判所の許可が必要ですが、法的な手続きを踏むことで可能になります。
- ご本人の財産が保護される:後見人が財産を管理するため、悪質な詐欺などからご本人を守ることができます。
【デメリット】
- 申立てに手間と費用がかかる:家庭裁判所への申立てには、多くの書類作成が必要で、数万円から十数万円程度の実費がかかります。
- 専門家が後見人に選ばれると報酬が発生する:司法書士や弁護士が後見人になると、財産額に応じて月々数万円の報酬が発生します。
- 家族が後見人になれない場合がある:財産額が大きい、親族間に争いがあるなどのケースでは、中立的な立場の専門家が選ばれやすくなります。
- 一度始めると原則やめられない:ご本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで制度は続きます。
- 財産管理が厳格になる:後見人は家庭裁判所に定期的な報告義務があり、ご本人のためにならない財産の処分(例えば、相続税対策のための生前贈与など)は認められません。
申立てから遺産分割協議までの流れ
実際に成年後見制度を利用する場合、どのような流れで進むのでしょうか。大まかなステップは以下の通りです。
- 家庭裁判所への申立て準備:申立書、親族関係図、財産目録、本人の診断書など、必要な書類を収集・作成します。この段階で司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。
- 家庭裁判所での審理:申立て後、家庭裁判所の調査官が申立人や後見人候補者と面談を行います。場合によっては、本人の意思能力について医師による鑑定が行われることもあります。
- 後見人の選任(審判):審理が終わると、家庭裁判所が最も適任と判断した人物を成年後見人として選任する「審判」を下します。家族が候補者となっていても、確実に選ばれるとは限りません。
- 遺産分割協議への参加:選任された成年後見人が、本人に代わって他の相続人と遺産分割協議を行います。後見人は本人の法定相続分を確保することを第一に考えるため、協議内容は法的に公平なものになります。
申立てから法定後見の開始までの期間は事案によって異なりますが、多くの場合は4か月以内とされています。相続手続きを円滑に進めるためには、早めの準備が重要です。
こんな時はどうする?印鑑証明書が取得できないケースの対処法
遺産分割協議を進める上で、具体的な問題となるのが「印鑑証明書」の取得です。相続手続きには実印と印鑑証明書が不可欠ですが、ご本人の状況によっては取得が困難な場合があります。状況別にどう対処すべきかを見ていきましょう。
判断能力はあるが、身体的に窓口へ行けない場合
意思ははっきりしているものの、入院中であったり、施設に入所していたりして、物理的に役所の窓口に行けないというケースです。この場合、成年後見制度を利用する必要はありません。
多くの市区町村では、代理人による印鑑登録申請や、委任状を使った印鑑証明書の取得が認められています。必要な書類や手続きは自治体によって異なるため、事前に電話などで確認しましょう。司法書士にご依頼いただければ、こうした外出困難な方の手続き代行も可能です。
判断能力が不十分で、本人が手続きできない場合
認知症が進行し、ご本人が印鑑登録の意味を理解できない、あるいは自署ができないといった場合は、代理人による手続きは認められません。本人の意思確認ができないためです。
このようなケースでは、成年後見制度の利用が必要です。前述の流れで家庭裁判所に申立てを行い、成年後見人を選任してもらう必要があります。選任された後見人は、本人の代理人として役所で印鑑登録の手続きを行い、印鑑証明書を取得することができるようになります。例えば、親名義の不動産に関する手続きを進める際など、判断能力の有無によって解決策が大きく変わってきます。
少しでも不安なら、まずは司法書士にご相談ください
ここまで、認知能力に不安のあるご家族がいる場合の遺産分割協議について、判断基準からリスク、具体的な解決策まで解説してきました。お読みいただいて、「思ったより複雑で、自分たちだけで判断するのは難しい」と感じられたのではないでしょうか。
その通りです。相続人の判断能力の問題は、法律的な知識だけでなく、ご家族の状況やご本人の状態を総合的に見て判断する必要がある、非常にデリケートな問題です。自己判断で進めてしまうと、後日のトラブルにつながる可能性があります。
私たち下北沢司法書士事務所は、こうしたご家族の不安に寄り添うことを何よりも大切にしています。代表司法書士は心理カウンセラーの資格も有しており、法律的な問題解決はもちろん、ご家族が抱えるお気持ちの面でもサポートさせていただきます。少しでも不安を感じたら、どうか一人で抱え込まず、私たち専門家にご相談ください。それが、ご家族全員にとって最も安全で確実な道です。
当事務所が提供できるサポート内容

ご相談いただくことで、皆様の負担を大きく軽減できます。具体的には、以下のようなサポートを提供しています。
- 現状の丁寧なヒアリングと法的なリスク診断:ご家族の状況を詳しくお伺いし、将来起こりうるリスクを具体的にお伝えします。
- 成年後見制度の利用要否の判断サポート:実務経験に基づき、制度を利用すべきか、他の方法はないか、ご家族にとって最適な選択肢を一緒に考えます。
- 複雑な手続きのサポート:成年後見の申立てから、戸籍収集、遺産分割協議書の作成、不動産や預貯金の名義変更まで、必要な確認をいただきながら煩雑な手続きを支援する遺産承継サービスもご用意しています。
- 税理士や弁護士との連携:相続税の申告が必要な場合や、相続人間で争いが生じている場合には、信頼できる税理士や弁護士と連携してワンストップで問題解決にあたります。
ご相談から解決までの流れと費用
「専門家に相談すると、高額な費用を請求されるのでは…」というご心配は無用です。当事務所では、安心してご相談いただけるよう、透明性の高い料金体系を心がけています。
1.初回無料相談のご予約
まずはお電話かメールフォームでお気軽にお問い合わせください。ご都合の良い日時を調整いたします。
2.ご状況のヒアリングと解決策のご提案
事務所にお越しいただくか、ご自宅への出張相談も可能です。丁寧にお話を伺い、最適な解決策と手続きの流れをご説明します。
3.お見積りの提示
ご依頼いただく前に、必ず明確なお見積りを提示いたします。内容にご納得いただけないまま手続きを進めることは一切ありません。
4.業務開始・解決
ご依頼後は、私たちが責任を持って手続きを進め、定期的に進捗状況をご報告します。
相続の問題は、ご家族の事情や財産状況によって必要な対応が異なります。下北沢駅から徒歩3分、アクセスしやすい事務所で、あなたのお話をお待ちしております。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
相続登記で使えない!?自筆証書遺言の書き方と8つの注意点
その遺言、相続登記で使えますか?自筆証書遺言の落とし穴
「費用もかからないし、手軽だから」と、ご両親が自筆で書いてくれた遺言書。大切な想いが詰まったその一枚が、いざ相続という時になって、法務局で「この遺言書では不動産の名義変更(相続登記)はできません」と突き返されてしまう…。このように、作成した遺言書が相続登記で使えないケースは実務上見受けられます。
自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑さえあれば誰でも作成できる、最も手軽な遺言の形式です。一方で、法律で定められた厳格なルールや、専門家でなければ気づきにくい実務上の注意点があります。
形式的な不備があれば、遺言そのものが無効になってしまうことも。せっかく遺してくれたご家族の想いを無駄にしないため、そして、残された家族が手続きで途方に暮れることがないように、正しい知識を身につけることが不可欠です。この記事では、数々の相続登記を手がけてきた司法書士の視点から、自筆証書遺言の作成で絶対に押さえておくべきポイントと、思わぬ失敗を避けるための注意点を具体的に解説していきます。もし、親に遺言の話を切り出すことにためらいを感じている方も、この記事をきっかけに、正しい知識を持って対話を始めてみてはいかがでしょうか。
最低限のルール:自筆証書遺言の法的な形式要件とは
まず、遺言書にはいくつかの種類がありますが、自筆証書遺言が法的に有効と認められるためには、民法で定められた最低限のルール(形式要件)を守る必要があります。まずは、この基本ルールを正確に理解する必要があります。
①全文・日付・氏名を自筆で書く
遺言書の基本中の基本は、以下の3点を必ず自分で手書きすることです。
- 遺言書の本文すべて
- 作成した日付
- ご自身の氏名
パソコンで作成したり、誰かに代筆してもらったりしたものは、原則として無効となります。
特に「日付」は重要です。「令和6年8月吉日」のような曖昧な書き方では、日付が特定できないため無効と判断される可能性があります。必ず「令和6年8月4日」のように、年月日が特定できるように記載してください。
氏名については、戸籍上の氏名を書くのが最も確実です。通称やペンネームでも、本人と特定できれば有効とされる場合もありますが、無用なトラブルを避けるためにも、戸籍通りの氏名を記載しましょう。
なお、法改正により、遺言書に添付する財産目録については、パソコンでの作成や預金通帳のコピーを添付することが可能になりました。ただし、その財産目録の全ページに署名と押印が必要です。この点についてのより詳しい情報は、相続法改正に関する解説もご参照ください。
②押印は必須!実印でなくても良い?
署名の下には、必ず押印が必要です。この押印がないだけで、遺言書は無効になってしまいます。
使用する印鑑は、必ずしも実印である必要はなく、認印でも法律上は問題ありません。しかし、インク浸透印(シャチハタなど)は、印影が変形しやすく、誰でも同じものを入手できる可能性があるため、避けるべきです。遺言者の意思を明確にし、偽造を防ぐためにも、朱肉を使うタイプの印鑑(できれば実印か銀行印)を使用することを強くお勧めします。印影が欠けたり、かすれたりしないよう、鮮明に押印することも大切です。
③訂正方法にも厳格なルールがある
遺言書を書き間違えた場合、修正テープや二重線で消すだけではいけません。訂正方法にも法律で定められた厳格なルールがあります。
- 間違えた箇所を二重線で消す。
- 二重線の近くに正しい文字を書き加える。
- 訂正した箇所に押印する。(遺言書本文で使用した印鑑と同じもの)
- 遺言書の余白に「〇字削除、〇字加入」などと書き加え、そこに署名する。
この手順を一つでも間違うと、訂正そのものが無効とされ、最悪の場合、遺言全体の有効性が争われる原因にもなりかねません。もし訂正箇所が多くなってしまった場合は、面倒でも全文を書き直すのが最も安全で確実な方法です。

【司法書士の実体験】表現が曖昧で登記がきないケース
法律で定められた形式要件を守ることは、もちろん大前提です。しかし、私たちの実務の現場では、「形式は一見完璧なのに、いざ相続登記をしようとすると問題が噴出する」というケースに頻繁に遭遇します。
以前、こんなご相談がありました。亡くなったお兄様が遺した自筆証書遺言を手に、弟のAさんが事務所を訪れたのです。
遺言書は便箋に書かれ、日付、お兄様の署名、押印もきちんと揃っていました。内容は「府中のマンションを弟Aに相続させる」というもの。一見すると、何の問題もなさそうに見えました。
しかし、プロの目で詳しく拝見すると、いくつかの看過できない懸念点が浮かび上がってきたのです。
- 不動産の表示が曖昧:マンションの所在地が書かれていましたが、登記情報と照合すると、微妙に表記が異なっていました。これでは、法務局が「どの不動産のことか特定できない」と判断するリスクがあります。
- 相続人の特定が不十分:受取人であるAさんについて、「A(名前)」としか書かれていませんでした。同姓同名の人がいる可能性もゼロではなく、「弟のA」といった続柄や、住所・生年月日がなければ、人物の特定として弱いのです。
- 紛らわしい一文:遺言の最後に「弟Aにお世話になった方へのお礼を任せます」という一文がありました。これは故人の感謝の気持ちでしょうが、法的に見ると「財産の帰属先を曖昧にする」と解釈されかねない、非常に危うい表現でした。
このままでは、法務局に登記申請をしても「この遺言では登記できません」と却下される可能性が非常に高い。私は、家庭裁判所での「検認」手続きを進めると同時に、法務局へ事前照会を行いました。
もちろん、ただ「この遺言で通りますか?」と聞くのではありません。「不動産の表記は若干違うが、他の情報から客観的に特定は可能である」「相続人についても、氏名と『相続させる』という文言から、法定相続人である弟Aさん以外に考えられない」といった根拠を組み立て、書面で法務局の見解を求めたのです。
幸い、このケースでは私たちの主張が認められ、無事に相続登記を完了できましたが、一歩間違えれば、故人の想いが実現できないところでした。このように、法律の条文知識だけでは乗り越えられない「実務の壁」が存在するのです。
相続登記を見据えた「不動産」の正しい書き方
相続財産に不動産が含まれる場合、自筆証書遺言の成否を分ける最大のポイントが「不動産の特定」です。ここでつまずくケースが非常に多いため、特に注意が必要です。
登記事項証明書(登記簿謄本)の通りに書くのが鉄則
「自宅を長男に相続させる」といった書き方や、普段使っている住所(住居表示)を書いただけでは、相続登記はできません。法務局は、遺言書に書かれた不動産が、登記記録上のどの不動産を指すのかを客観的に判断する必要があるからです。
その唯一の正解が、不動産の「登記事項証明書(登記簿謄本)」に書かれている情報を一言一句そのまま書き写すことです。なぜなら、登記の手続きはすべて登記事項証明書に基づいて行われるからです。

具体的には、以下の項目を正確に転記します。
- 【土地の場合】
- 所在
- 地番
- 地目
- 地積
- 【建物の場合】
- 所在
- 家屋番号
- 種類
- 構造
- 床面積
遺言を作成する前に、必ず法務局で最新の登記事項証明書を取得し、その内容を正確に遺言書に反映させることが、将来の相続登記をスムーズに進めるための鍵となります。なお、ご自身の所有不動産を網羅的に確認できる制度も始まりますので、併せて知っておくとよいでしょう。
登記事項証明書の取得については、法務局のウェブサイトで詳しい手続きを確認できます。
参照:各種証明書請求手続 – 法務局
マンション(敷地権付き区分建物)の注意点
マンションの場合は、さらに注意が必要です。一戸建てと異なり、建物(専有部分)と土地(敷地権)が一体として登記されているため、記載がより複雑になります。
登記事項証明書に記載されている、以下の項目を正確に書き写す必要があります。
- 一棟の建物の表示
- 専有部分の建物の表示(家屋番号を含む)
- 敷地権の表示(土地の符号、所在、地番、地目、地積、敷地権の種類・割合)
特に「敷地権の表示」を書き漏らしてしまうと、建物の部屋の権利は移転できても、その土地の権利が移転できず、不完全な相続登記になってしまいます。こうしたマンション特有の登記の複雑さは、専門家でなければ見落としがちなポイントです。
死後に必須!家庭裁判所での「検認」手続きとは
法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言が見つかった場合、その遺言書を使って相続手続きを進める前に、必ず家庭裁判所で「検認」という手続きを経る必要があります。手書きの遺言による相続手続きでは避けて通れないプロセスです。
ここで重要なのは、検認は遺言の内容が有効か無効かを判断する手続きではない、ということです。検認の目的は、あくまで相続人全員に対し遺言書の存在とその内容を知らせ、検認日時点での遺言書の状態(形状、加除訂正の状態、日付、署名など)を明確に記録することで、その後の偽造や変造を防ぐことにあります。
検認手続きの概要については、裁判所のウェブサイトにも説明があります。
参照:遺言書の検認 | 裁判所
検認手続きの流れと必要書類
検認手続きは、大まかに以下の流れで進みます。申立てから検認期日まで、通常1〜2ヶ月程度の時間がかかります。
- 申立て:遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、検認の申立書と必要書類を提出します。
- 必要書類の収集:申立書に加え、主に以下の書類が必要です。
- 遺言者の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- (その他、事案に応じて追加書類が必要な場合も)
- 検認期日の通知:裁判所から相続人全員に、検認を行う日時と場所が通知されます。
- 検認の実施:指定された日時に、申立人が遺言書を持参して家庭裁判所へ出頭します。申立人が遺言書を持参して家庭裁判所へ出頭し、裁判所で遺言書が開封され、形状や内容が確認されます。申立人以外の相続人の出席は各人の判断に委ねられます。
- 検認済証明書の交付:検認が終わると、遺言書に「検認済証明書」が合綴されます。この証明書があって初めて、不動産の名義変更や預貯金の解約といった相続手続きを進めることができます。
特に「遺言者の出生から死亡までの連続した戸籍謄本」の収集は、本籍地の変更が多い方などの場合、複数の役所を辿る必要があり、一般の方には非常に時間と手間のかかる作業です。この戸籍収集の過程で、相続関係を正確に把握することが重要になります。
検認を怠った場合のリスク
封筒に入った遺言書を見つけた際に、家庭裁判所での検認を経ずに勝手に開封してしまうと、5万円以下の過料(行政上のペナルティ)に処せられる可能性があります。
しかし、それ以上に重大なリスクは、「検認済証明書」がなければ、その後の相続手続きが一切進められないという点です。不動産の名義変更(相続登記)も、銀行預金の解約・名義変更も、すべてストップしてしまいます。 検認をしないことによる法的な無効とは別に、実務上、その後の相続手続きに必要な書類が整わない、と理解しておきましょう。
【例外】検認が不要になる「法務局保管制度」
これまで述べた検認手続きの煩雑さや、遺言書の紛失・改ざんといったリスクを解消するために、2020年から「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしました。
これは、作成した自筆証書遺言を法務局で預かってもらう制度です。この制度を利用する大きなメリットは以下の通りです。
- 形式要件のチェック:法務局が保管申請を受ける際に、日付や署名・押印の有無など、最低限の形式要件をチェックしてくれます。
- 紛失・改ざんの防止:原本が法務局で厳重に保管されるため、紛失したり、誰かに隠されたり、書き換えられたりする心配がありません。
- 検認が不要:この制度を利用して保管された遺言書は、相続開始後の家庭裁判所での検認が不要になります。
これから自筆証書遺言の作成を検討している、あるいはご両親にお願いしようと考えている方にとっては、自筆証書遺言書保管制度は非常に有力な選択肢となるでしょう。
まとめ:確実な相続登記のために、司法書士へ相談を
自筆証書遺言は、手軽に作成できるという大きなメリットがある一方で、法律上の厳格なルールと、相続登記という実務の観点から見た「記載の正確性」が求められる、非常にデリケートな書類です。
この記事で解説したポイントは以下の通りです。
- 基本要件の遵守:全文自書、正確な日付、署名、押印は絶対条件です。
- 不動産の特定:登記事項証明書通りに、一言一句正確に記載することが相続登記の鍵です。
- 曖昧な表現の排除:誰に、何を、どれだけ相続させるのか、第三者が読んでも解釈に迷わない明確な言葉で書く必要があります。
- 検認手続きの理解:法務局保管制度を利用しない限り、検認は必須の手続きです。
これらのルールを一つでも見落としてしまうと、せっかくの遺言書が「使えない」ものになりかねません。故人の最後の想いを確実に実現し、残されたご家族が円満に相続手続きを終えるためには、遺言書を作成する段階から専門家である司法書士に相談することで、形式面や相続登記で問題になりやすい記載を事前に確認しやすくなります。
当事務所では、ご家族の状況を丁寧にお伺いした上で、法的に有効かつ、将来の相続登記まで見据えた実務的に問題のない遺言書の作成をサポートいたします。相続登記・遺言書作成に関する無料相談も実施しておりますので、「うちの場合はどうだろう?」と少しでも不安に感じたら、どうぞお気軽にご連絡ください。
遺言書の作成から相続登記まで、専門家がしっかりサポートします。
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下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
固定資産税の督促状で相続人に。司法書士が教える初期対応
固定資産税の督促状が届いたときに、まず確認すべきことと避けるべき対応
ある日、これまで関わりのなかった自治体から『固定資産税の督促状』が届きます。「なぜ私が?」「払わなければいけないの?」このような通知を受け取ると、状況をすぐに理解できず不安を感じる方も少なくありません。特に、疎遠だったご親族の名前が書かれていて、そこで初めて自分が相続人だと知ったとしたら、その混乱は計り知れないでしょう。
しかし、どうか一度、深呼吸をしてください。今、あなたが一番してはいけないのは、焦って行動してしまうことです。
「役所からの通知だから、すぐに支払わないと大変なことになる」
「面倒なことに関わりたくないから、見て見ぬふりをしよう」
この二つの行動は、実はあなたの状況をかえって不利にしてしまう可能性があります。良かれと思って支払ったことで、気づかなかった多額の借金を背負うことになったり、無視し続けた結果、ご自身の財産が差し押さえられる事態に発展したりすることもあり得るのです。
この記事では、固定資産税の督促状が届いた場合に最初に確認すべきことを、司法書士の立場から具体的に解説します。まずはこの記事を最後まで読んで、ご自身の状況を正しく理解することから始めましょう。正しい手順を確認しながら進めることで、状況に応じた対応策を見つけやすくなります。
状況を整理する3ステップ|焦らず一つずつ確認しよう
パニック状態から抜け出し、冷静に現状を把握するために、具体的な3つのステップに沿って状況を整理していきましょう。複雑に見える問題も、一つずつ分解すれば、やるべきことが見えてきます。
ステップ1:督促状の内容を再確認する
まずは、手元にある督促状をもう一度、落ち着いて見てみましょう。漠然とした不安の正体を突き止めることが第一歩です。
- 誰の(被相続人): 亡くなった方の氏名が記載されています。
- どの不動産に対する: 土地や建物の所在地(地番・家屋番号など)が書かれています。
- いくらの税金か: 滞納している税額と、延滞金が記載されています。
「納税義務者」の欄に、亡くなった方の名前と並んで、ご自身の名前が書かれているかもしれません。これは、役所が戸籍などを調査し、あなたが法定相続人であることを把握したためです。決して間違いではありません。
そして、督促状に記載されている役所の連絡先(市区町村名、担当課、電話番号)を必ず控えておきましょう。後で連絡を取る際に必要になります。この段階では、まだ電話をかける必要はありません。まずは情報を集めることに集中してください。
故人が他にも不動産を持っていないか心配な場合は、所有不動産記録証明制度などを活用して調査することも考えられます。
ステップ2:故人との関係と他の相続人を思い出す
次に、ご自身と亡くなった方との関係性を整理してみましょう。「亡くなったのは、父の弟だから自分は甥にあたる」「故人には子供がいたはずだけど、今はどこにいるか分からない」など、わかる範囲で構いません。

相続には法律で定められた順位があります。例えば、亡くなった方に子供がいれば、その子供が第一順位の相続人です。子供がいない場合は、第二順位であるご両親、ご両親も亡くなっていれば第三順位の兄弟姉妹へと権利が移ります。そして、兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子供である甥や姪が代わって相続人(代襲相続人)になるのです。
この問題は、あなた一人だけで抱え込む必要はありません。他に相続人となる可能性のあるご親族がいるはずです。わかる範囲で構いませんので、思い当たる方の名前や連絡先を書き出してみてください。今はまだ、慌てて連絡を取る必要はありません。まずは情報を整理することが大切です。場合によっては、戸籍調査をすることで初めて知る相続人がいる可能性もあります。
ステップ3:絶対にやってはいけない行動を再認識する
ここで、取り返しのつかない失敗を防ぐために、絶対にやってはいけない「NG行動」を改めて確認しましょう。これは、相続放棄ができなくなるリスクを避けるために重要な確認事項です。
【最重要】故人の預金から税金を支払う
この点は特に注意が必要です。「故人のお金で払うのだから問題ないだろう」と考えてしまいがちですが、これは法律上「相続財産を処分した」とみなされます。その結果、不動産や預貯金といったプラスの財産も、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐ意思があるとされ(法定単純承認)、後から「やはり相続放棄したい」と思っても、原則として認められなくなってしまいます。ご自身のポケットマネーで立て替える場合は基本的に相続放棄に影響はないですが、外観上は一見、誰のお金で払ったか見分けがつきにくいものです。やはり状況を整理してから行動した方がよいでしょう。
その他、以下のような行動も避けてください。
- 督促状を完全に無視する: 最終的には、あなたの給与や預貯金が差し押さえられる可能性があります。
- 価値がありそうな遺品を勝手に持ち帰る: 形見分けのつもりでも、財産価値のあるものを持ち帰ると、相続を承認したとみなされるリスクがあります。
専門家に相談して方針が決まるまでは、「何もしない」こと、つまり現状を維持することが最善の策なのです。例えば、死亡退職金のように、相続財産に含まれないものもありますので、自己判断は禁物です。
【司法書士の現場から】Aさんのケースを見てみよう
先日、当事務所にご相談に来られたAさん(杉並区在住)も、あなたと全く同じ状況で深い不安を抱えていらっしゃいました。Aさんの事例は、同じような状況で対応を考える際の参考になります。
ある日、Aさんの元に新宿区役所から一通の通知が届きました。開けてみると、固定資産税の督促状。Aさんは新宿区に不動産を持っておらず、全く心当たりがありません。よく見ると、そこには疎遠だった叔母Bさんの名前が記載されていました。Aさんは、Bさんの相続人として請求を受けていたのです。
「役所からお金を請求されるなんて怖い…。金額もそれほど大きくないし、いっそ払ってしまおうか…」
そう考えたAさんでしたが、念のためにと当事務所にお電話をくださいました。私はお会いして、まずこうお伝えしました。
「Aさん、すぐに支払うのは待ってください。それは一番危険な選択かもしれません。もし叔母様に借金があった場合、この税金を支払うことで、Aさんがすべての借金を背負うことになりかねないのです。そうなると、相続放棄という選択肢が使えなくなってしまう可能性があります。」
私の言葉に、Aさんは、支払う前に確認すべき点があることを理解されました。「では、どうすれば…?」
「まずは、他のご親族、Aさんから見て叔父様やお従妹さんたちと連絡を取ってみて、叔母様の晩年のご様子を伺ってみるのが良いでしょう。」
「そうですよね。でも実は、叔父のことが少し苦手で…連絡しづらいんです。」
「お気持ちお察しします。では、まず役所の担当者に連絡してみるのも一つの手です。行政としても相続手続きが進まないと困るわけですから、他の相続人の状況を少しだけ教えてくれるかもしれません。」
その後、Aさんのご依頼を受け、私が正式に戸籍調査を進め、他の相続人の皆様と連絡を取りました。幸い、叔母様には大きな借金はなく、最終的には新宿区のマンションを売却し、滞納していた固定資産税などの経費を差し引いた上で、売却代金を相続人の皆様で公平に分けることができました。もちろん、固定資産税も相続人の皆様で公平に負担することになりました。
もし、Aさんが最初に焦って税金を一人で支払っていたら、どうなっていたでしょう。後から他の相続人にその分を請求するのも気まずいですし、遺産の分配も複雑になっていたはずです。あの一歩手前で立ち止まり、ご相談いただけたことが、Aさんにとって最善の結果に繋がったのです。このケースのように、相続人が多いケースでは、専門家が間に入ることでスムーズに進むことがよくあります。
今後の選択肢と、あなたが次にとるべき行動
ここまで、状況整理の方法と具体的な事例を確認しました。ここからは、あなたの状況に応じた今後の選択肢と、次にとるべき行動について解説します。相続の全体像については、相続の方法と特徴で体系的に解説しています。
選択肢1:相続放棄を検討する
亡くなった方に、固定資産税の滞納以外にも借金がある可能性が高い場合、あるいは不動産に価値がなく、これ以上関わりたくないと考える場合には、「相続放棄」が有効な選択肢となります。
相続放棄をすれば、借金を含むすべての財産を引き継ぐ義務がなくなります。しかし、その代わり預貯金や不動産といったプラスの財産も一切相続できなくなります。
ここで最も注意すべきは、「自分が相続人になったことを知った時から3ヶ月以内」という厳格な期限です。今回のあなたのように、督促状が届いて初めて相続の事実を知ったのであれば、その日が期限の計算を始める日(起算点)となる可能性が高いです。しかし、時間は刻一刻と過ぎていきます。3ヶ月の熟慮期間を過ぎてしまうと、状況は複雑になります。
財産の調査に時間がかかり、3ヶ月以内に判断できない場合は、家庭裁判所に期間の延長を申し立てることも可能です。相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要であり、期限も厳格なため、この選択肢を少しでも考えるなら、一日も早く専門家へ相談することをおすすめします。
選択肢2:相続して、不動産の活用や売却を考える
亡くなった方にめぼましい借金がなく、不動産に価値がありそうな場合は、「相続」する道も考えられます。
先のAさんの事例のように、他の相続人と協力して不動産を売却し、滞納していた固定資産税や諸経費を支払った後、残ったお金を法律に従って分配する方法です。この場合、まずは故人の財産全体(他にどんなプラスの財産やマイナスの財産があるか)を正確に調査する必要があります。

そして、他の相続人全員で話し合い(遺産分割協議)を行い、全員の合意のもとで手続きを進めることになります。もし借金と財産の両方がある場合の遺産分割は、慎重な判断が求められます。財産調査や相続人間の調整は非常に手間がかかるため、この場合も専門家のサポートがあった方がスムーズかつ円満に進められるでしょう。
まず専門家に相談し、道筋を立ててもらう
おそらく、ここまで読んでも「自分の場合は相続放棄すべきか、相続すべきか、やっぱり判断できない…」と感じている方がほとんどではないでしょうか。それは当然のことです。
だからこそ、結論を急がず、まずは専門家に相談して状況を整理することが重要です。
私たち司法書士にご相談いただければ、以下のようなお手伝いができます。
- 戸籍を収集し、他に誰が相続人なのかを法的に確定させる
- どのような財産や負債があるのか、財産調査をサポートする
- あなたの状況で考えられる法的な選択肢と、それぞれのメリット・デメリットを整理する
- 手続きに必要な範囲で、他の相続人への連絡方法や必要書類の準備をサポートする
法律的な手続きはもちろんですが、相続は親族間の感情的な問題が絡むことも少なくありません。当事務所の代表司法書士は、心理カウンセラーの資格も有しており、あなたの不安な気持ちに寄り添いながら、法的な問題解決のサポートをすることができます。
何から手をつけてよいか分からない場合は、専門家と一緒に手続きの優先順位を整理することが大切です。まずは無料相談で状況をお聞かせください。お話を伺うことで、状況や今後の対応を整理しやすくなります。
まとめ:一人で判断せず、まずは専門家に相談しましょう
突然の固定資産税の督促状。それは、あなたにとって予想していなかった通知だったかもしれません。しかし、この記事をここまで読んでくださったあなたは、もうパニック状態からは抜け出しているはずです。最後に、大切なことをもう一度確認しましょう。
- 焦って支払わない、そして無視しないこと
- 「知った時から3ヶ月」という期限を意識すること
- 相続すべきか、放棄すべきか、一人で判断しないこと
この複雑で、精神的にも負担の大きい問題を、たった一人で乗り越える必要はありません。私たちのような専門家は、法律上の選択肢を整理し、必要な手続きを進めるためのサポートを行います。どの選択肢が適しているか、手続き上の影響や見通しを確認しながら、判断に必要な情報を整理します。
あなたは一人ではありません。不安がある場合は、状況を整理するために専門家へ相談することをご検討ください。早めに相談することで、今後の対応を具体的に整理しやすくなります。相続専門の司法書士に相談することで、手続きだけでなく気持ちの面でもスムーズに進めることができます。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
後見監督人との悩み解決法|司法書士が教える正しい対応
「後見監督人が理不尽…」その悩み、あなただけではありません
「一生懸命やっているのに、後見監督人の対応が高圧的でつらい…」
「質問しても、はっきりしない返事ばかりでどう動けばいいか分からない…」
ご家族のためにと親族後見人になったあなたが、専門家であるはずの後見監督人との関係で、このような理不尽さや孤独を感じているのではありませんか。そのお悩み、決してあなた一人だけのものではありません。
司法書士として多くの成年後見のご相談をお受けする中で、真面目な方ほど監督人との関係に悩み、疲弊してしまうケースを数多く目の当たりにしてきました。これは、あなただけの問題ではなく、制度が抱える構造的な側面もあるのです。
この記事では、感情的に対立して消耗するのではなく、冷静に、そして戦略的に問題を解決していくための「正しい対応法」を具体的にお伝えします。後見人としてのあなたの負担を少しでも軽くし、本来の目的である「ご本人のためのサポート」に集中できるよう、専門家として、そして一人の人間として、あなたの隣で一緒に考えていきたいと思います。
司法書士が経験した、後見監督人との向き合い方
以前、別のお客様からのご紹介でAさんという方のご相談に乗ったことがあります。Aさんはお母様の成年後見人を務めていらっしゃいました。認知症が進んだお母様のためにと成年後見制度を利用したものの、監督人である司法書士との関係に深く悩んでおられたのです。
とても真面目なAさんは、お母様のお金を使うたびに「これは正当なのだろうか」と不安になり、その都度、監督人に質問をしていました。しかし、返ってくるのは「監督人が判断することではありませんが、ご本人の希望や経済状況を鑑みて適正に判断してください」といった、結局どうしていいか分からない曖昧な答えばかり。
その結果、Aさんは後から問題になることを恐れ、お母様に必要なものでもご自身の預貯金から支払うようになってしまっていました。「これからどうやって後見業務を進めていけばいいのか…」と、途方に暮れていらっしゃったのです。
私はAさんにこのようにお伝えしました。
「まず、介護ベッドや車いすなど、ご本人の生活に必要なものは常識の範囲で自信を持って購入して大丈夫です。監督人が気になるなら、『〇〇を買っていいですか?』と許可を求めるのではなく、『〇〇を買います』と事後に報告する形にしてみましょう。もし判断に迷うことがあれば、ご自身の意見を添えて『こうしたいのですが、いかがでしょうか』と相談してみてください。それでも曖昧な答えしか返ってこない時は、『では、このように進めます。もし問題があるなら、どうすれば良いか具体的に指示してください』と、YESかNOで答えられるように話を絞り込んでいくのが有効です。本当に話が進まず困ったときは、家庭裁判所に直接相談するという選択肢もありますよ」と。
Aさんのように真面目な方ほど、「法律を知らないから」と気後れしてしまいがちですが、過度に心配する必要はありません。ご本人のためを思うあなたの常識的な感覚と、その理由を伝えることができれば、それで十分なのです。
後見人として「本人が施設移転を拒否…費用不足時の対処法」でお困りの方は、施設移転を拒否された場合の費用不足への対処法も参考にしてください。
まず知るべき「後見監督人」の役割と限界
後見監督人との無用な対立を避け、冷静に対処するためには、まず彼らの法的な立ち位置を正しく理解することが不可欠です。彼らは一体何をする人で、何ができないのでしょうか。
この点を押さえるだけで、あなたが感じている「理不尽さ」の背景が見え、感情的な反発を「構造の理解」へと変えることができます。より詳しい役割の違いについては、後見監督人と成年後見人の役割の違いの記事もぜひご覧ください。
後見監督人の主な仕事は「チェック」と「報告」
後見監督人の役割は、一言でいえば後見人の業務を「監督」することです。決して、後見人の業務を代行したり、何でも相談に乗ってくれるサポーターというわけではありません。主な仕事は以下の3つに集約されます。
- 後見人が作成した財産目録や収支報告書などをチェックする
- 後見業務がご本人のために適切に行われているかを監督する
- 監督した結果を家庭裁判所に報告する
つまり、彼らは後見人の「上司」ではなく、家庭裁判所の「目」として機能している、とイメージすると分かりやすいかもしれません。そのため、一つひとつの支出に事前許可を与える立場にはないのです。
なぜ監督人の対応は理不尽に感じるのか?
では、なぜ彼らの対応が冷たく、理不尽に感じられるのでしょうか。それには、成年後見制度の構造が関係しています。
後見監督人の多くは、私たち司法書士や弁護士といった法律の専門家です。そして、彼らは後見人に対してではなく、家庭裁判所に対して責任を負っています。もし後見人の業務に問題があれば、監督不行き届きとして裁判所から責任を問われる可能性があるのです。
この立場から、以下のような対応が生まれやすくなります。
- リスク回避的な言動:断定的なことを言わず、責任を回避しようとする。
- 曖昧な指示:最終的な判断を後見人に委ねることで、自身の責任範囲を限定しようとする。
- 形式的な対応:親族と深く関わりすぎず、あくまで報告書ベースでのやり取りを好む。
これは監督人個人の人柄だけの問題ではなく、「裁判所に報告する」という職務の特性から、慎重な対応になりやすい面があると考えられます。この背景を理解するだけでも、少し冷静に相手の言動を受け止められるようになるのではないでしょうか。専門家である成年後見人とのコミュニケーションにおいても、こうした構造的な課題は存在します。
明日からできる!後見監督人との関係改善3ステップ
監督人の立場を理解した上で、次はこちらからアプローチを変えてみましょう。感情的にならず、建設的な関係を築くための具体的な3つのステップをご紹介します。これは精神論ではなく、誰でも今日から実践できる具体的な行動です。

ステップ1:できるだけやり取りを「記録」する
まず、自己防衛と状況整理の第一歩として、監督人との全てのやり取りを記録する習慣をつけましょう。
- 電話:日時、相手の名前、話した内容の要点をメモする
- メールやFAX:全て保管しておく
- 郵送物:届いた書類は日付を書いてファイリングする
ノートやスマートフォンのメモアプリで構いません。時系列で記録を残しておくことで、「言った・言わない」といった水掛け論を防ぐことができます。さらに、この記録は、後々、家庭裁判所などに相談する際に、客観的な状況を説明するための強力な「証拠」となります。あなた自身を守るためにも、ぜひ今日から始めてみてください。特に金銭の動きは重要で、後見申立て前の財産管理の段階から記録は重要になります。
ステップ2:相談は「〇〇したいが問題ないか」と具体的に
監督人から明確な回答を引き出すには、質問の仕方を工夫することが非常に効果的です。
【悪い例】「どうすればいいですか?」
これでは、相手に判断を丸投げしていることになり、曖昧な答えが返ってきやすくなります。
【良い例】「母の生活のために介護ベッドを購入したいと考えています。費用は約10万円です。この支出について、後見業務として何か法的な問題はありますでしょうか?」
このように、「自分の意思と具体的な計画」を示した上で、法的な問題の有無を問う形にしてみましょう。こうすることで、監督人は単純な「イエス・ノー」で答えやすくなり、もし「ノー」なのであれば、その具体的な理由を説明する責任が生じます。主導権をこちらが握ることで、相手を動かすことができるのです。例えば、病院から連帯保証を求められたといった専門的な判断が必要な場面でも、この質問形式は有効です。
ステップ3:連絡は「事後報告」を基本にする
監督人との信頼関係を築く上で、「報告」の仕方も大切なポイントです。日常的な食費や消耗品の購入といった細かな支出まで、お伺いをたてるのはいささかやりすぎです。
もちろん、ご本人の居住用不動産の売却などの重要な財産処分は、家庭裁判所の許可が必要になるため、必ず事前に確認しましょう。しかし、常識の範囲内で行える日々の業務については、ある程度まとめて「事後報告」するスタイルに切り替えてみましょう。
例えば、毎月の収支報告の際に「今月は本人の衣類代として〇円支出しました」と報告するのです。これにより、あなたは「自分で適切に判断できる後見人」として監督人に認識され、無用な干渉を減らすことができます。これは、あなたの主体性を示すと同時に、監督人の業務負担を軽減することにも繋がり、結果として良好な関係を築きやすくなるのです。
それでも改善しない場合の「正しい詰め方」
コミュニケーションの改善を試みても、なお状況が変わらない…。そんな時は、より一歩踏み込んだ対処法を考える必要があります。ここで言う「詰め方」とは、感情的に相手を問い詰めることではありません。法的な手続きに則って、冷静に、しかし着実にこちらの要求を伝えていく方法です。

まずは家庭裁判所の書記官に相談する
やはりどう考えも監督人の対応がおかしい、または後見人としての仕事がまわらず困っている時は、家庭裁判所への相談を考えても良いかも知れません。本来であれば、監督人がいるときは後見人は裁判所と直接やりとりすことはないのですが、いたしかたがないでしょう。とはいえ、「解任申立て」のような大げさな手続きをいきなり考える必要はありません。
まずは、後見事件を担当している部署に電話をし、「〇〇(被後見人名)の後見事件について、監督人の対応で困っていることがある」と伝えて、担当の書記官につないでもらいましょう。
相談する際は、ステップ1で記録した内容が役立ちます。以下のポイントを整理して、冷静に伝えましょう。
- これまでの経緯(いつから、どのようなことで困っているか)
- 具体的なやり取りの内容(記録したメモを元に)
- 現在、具体的に何ができずに困っているか
家庭裁判所は、後見制度全体の監督機関です。親族後見人からの相談が届けば、裁判所から監督人に対して状況確認や指導が入ることがあります。これだけで、監督人の態度が大きく改善されることもあると思います。一人で抱え込まず、公的な機関に状況を共有し、必要な助言を受けるという視点を持つことも大切です。裁判所への説明の仕方に不安があれば、成年後見の理由書作成のポイントも参考になるかもしれません。
最終手段としての「後見監督人解任申立て」
家庭裁判所に相談してもなお改善が見られず、ご本人の利益が著しく害されていると感じる場合には、最終手段として「後見監督人の解任申立て」という手続きがあります。
ただし、これは非常にハードルが高い手続きであるとご理解ください。「対応が気に入らない」「コミュニケーションが取りづらい」といった主観的な理由だけでは、解任が認められることはまずありません。解任が認められるのは、以下のような客観的な事実がある場合に限られます。
- 不正な行為:財産の横領など
- 著しい不行跡:監督業務の放棄など
- その他後見の任務に適しない事由
申立てを行うには、これらの事実を証明する客観的な証拠(記録したメモやメールなど)が不可欠です。安易に申し立てるべきではありませんが、万が一の際の選択肢として知っておくことは重要です。この段階に至った場合は、手続きが複雑になるため、必ず専門家にご相談ください。
【立ち止まって考える】そもそも成年後見制度は必要でしたか?
後見監督人とのトラブルを経験し、大変な思いをされた今だからこそ、少し立ち止まって考えてみていただきたいことがあります。それは、「そもそも、あなたのご家族にとって成年後見制度は本当に唯一の選択肢だったのでしょうか?」ということです。
先ほどのAさんのケースを振り返ると、実はお母様には成年後見制度を使わなければ解決できないような、差し迫った法的な課題はありませんでした。Aさんはその真面目さから、「認知症になったら、成年後見制度を使わなければならない」と思い込んでいらっしゃったのです。
しかし、「認知症=成年後見」は必ずしも正解ではありません。大切なのは、ご本人にとってどのような課題があり、その課題を解決するために最も利益となる制度は何か、という視点で判断することです。
例えば、判断能力がしっかりしているうちであれば、将来に備えて任意後見契約を結んだり、家族信託といった他の選択肢を検討することもできます。制度の利用で苦しむ前に、ぜひ一度、その必要性を根本から見直してみることをお勧めします。
既に制度を利用してしまった方は認知症などが回復しない限り・・つまり現実的にはこのまま続けるしかありませんが、もしかしたらご親類の方等、別の方のケースで約にたつ視点になるかも知れません。
まとめ:成年後見制度の利用は、専門家にご相談を
後見監督人との関係が難しい、そもそも成年後見制度は必要だったのかなど、いざ制度利用してから課題や問題に直面することは珍しくありません。こういう問題を起こらなくしたり、小さくしたりするコツは初動から専門家に相談して、段取りを整理しながら進めることです。う。
私たち司法書士は、法律の専門家であると同時に、ご家族の悩みに寄り添うパートナーでもあります。もし、現在の対応に不安や負担を感じている場合は、どうぞお気軽にご相談ください。法律的なサポートはもちろん、心理カウンセラーの資格を持つ司法書士として、あなたのお話を丁寧に伺いながら、状況に応じた対応方法を一緒に検討します。
詳しい事務所の考え方については、なぜ司法書士が心理カウンセラーの資格をとったのか?もご覧いただけると幸いです。
早めに相談することで、状況を整理し、次に取るべき対応を検討しやすくなります。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
民事信託で第二受託者は必要ない?決めないリスクと対処法
民事信託で第二受託者を決められない…その悩み、あなただけではありません
「親のために民事信託を組みたいけれど、自分の次に財産管理を任せられる人がいない…」
「兄弟は海外にいるし、自分の子どもに負担はかけたくない。第二受託者を決められずに、計画が止まってしまっている」
民事信託(家族信託)の準備を進める中で、このような「後継者問題」に頭を悩ませていらっしゃる方は、実は非常に多いのです。ご自身の万が一のことまで考え、何十年にもわたる財産管理の道筋を完璧に描こうとすれば、後継者選びでつまずいてしまうのは、むしろ自然なことと言えるかもしれません。
私たち司法書士は、ご家族の歴史や想いに触れる機会が多くあります。だからこそ、そのお悩みの深さがよくわかります。しかし、ここで知っておいていただきたいのは、「完璧な準備ができないからといって、信託を諦める必要は全くない」ということです。
この記事では、第二受託者を決められないというお悩みに対し、具体的なリスクと、現実的な解決策を一緒に考えていきます。一人で抱え込まず、まずは専門家と一緒に、ご自身の状況を整理してみませんか。この記事が、あなたの不安を解消し、大切なご家族を守るための一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
結論:第二受託者は「必須」ではない。でもリスクは知っておこう
さっそく結論からお伝えします。民事信託の契約において、第二受託者(後継受託者)を定めることは法律上の義務ではありません。つまり、必ずしも設定しなくてはならない、というわけではないのです。
まずは、第二受託者を定めない選択肢もあり得ることを確認しておきましょう。適任者が見つからないからといって、信託そのものを諦める必要はないのです。
ただし、ここで一つ大切なことがあります。それは、「第二受託者を設定しないことによるリスクを正しく理解した上で、ご自身の意思で『設定しない』という選択をすること」です。何も考えずにただ設定しないのと、リスクを理解した上で設定しないのとでは、意味が全く異なります。
なぜなら、予期せぬ事態が起きたときに、せっかく組んだ信託が目的半ばで終わってしまったり、かえってご家族に負担をかけてしまったりする可能性があるからです。信託の目的を実現し、家族の負担を抑えるために、まずはどのようなリスクがあるのかを確認していきましょう。これは、他の制度との比較検討においても重要な視点となります。

第二受託者を決めない場合に起こりうる3つのリスク
もし第二受託者を定めていない状況で、初代の受託者に万が一のことがあった場合、具体的にどのようなことが起こるのでしょうか。主なリスクを3つに絞って解説します。
リスク1:信託が強制的に終了してしまう
信託法では、受託者がいなくなってから1年間、新しい受託者が就任しない場合、その信託は終了すると定められています。つまり、受託者が亡くなった後、後継者が決まらないまま1年が経過すると、信託契約はその目的を果たせず、強制的に終わってしまう可能性があるのです。
リスク2:財産管理が一時的にストップする
受託者が亡くなったり、病気で任務ができなくなったりすると、新しい受託者が就任するまで、信託財産の通常の管理・処分が滞る「空白期間」が生じる可能性があります。例えば、親の介護費用を信託口座から引き出していた場合、新しい受託者が決まるまでお金を下ろせなくなってしまいます。この状態が長引けば、施設の支払いや日々の生活費に困るなど、深刻な事態を招きかねません。
リスク3:新しい受託者選びで家族が揉める
第二受託者の定めがない場合、新しい受託者を選ぶには原則として「委託者(親など)」と「受益者(親など)」の合意が必要です。しかし、その時点で委託者や受益者が認知症などで判断能力を失っていたら、合意はできません。その場合は、利害関係者が家庭裁判所に申し立てて、新しい受託者を選んでもらうことになります。
この手続きは時間がかかるだけでなく、誰が新受託者にふさわしいかで親族間の意見が対立し、思わぬトラブルに発展するケースも少なくありません。受託者には大きな責任が伴うため、その選任は慎重に行う必要があります。
では、第二受託者が実際に就任するのはどんな時?3つのケース
「もしも」の備えと言われても、具体的にどのような状況で第二受託者の出番が来るのか、イメージが湧きにくいかもしれません。ここでは、第二受託者が実際に就任する典型的な3つのケースをご紹介します。
ケース1:初代受託者の「死亡」
これは最も一般的で分かりやすいケースです。初代受託者が亡くなった場合、事前に定められた第二受託者がその任務を引き継ぎ、信託契約に基づいた財産管理を継続します。この定めがないと、先ほどのリスクで説明したような財産管理の空白期間や、信託終了の可能性が生じます。
ケース2:初代受託者の「判断能力の低下」
認知症や病気、不慮の事故などによって、初代受託者が財産を管理する能力を失ってしまうケースです。信託契約書に「受託者が後見開始の審判を受けた時」などと定めておくことで、スムーズに第二受託者へバトンタッチできます。特に、認知症になると不動産売却などの法律行為ができなくなるため、このような事態への備えは非常に重要です。
ケース3:初代受託者の「辞任・破産」
初代受託者が自身の都合で任務を続けられなくなる場合もあります。例えば、海外転勤で物理的に管理が難しくなったり、高齢や健康上の理由で辞任を申し出たりするケースです。また、万が一受託者が自己破産した場合も、受託者の任務は終了します。このような予期せぬ事態でも、第二受託者を定めておけば、信託財産を滞りなく守り続けることができます。

適任者がいない…第二受託者を決められない時の3つの現実的な対処法
リスクは分かったけれど、それでもやはり適任者が見つからない…という方もいらっしゃるでしょう。そのような場合でも、検討できる対応策があります。ここでは、専門家の視点から3つの現実的な対処法をご紹介します。ご自身の状況に最も合うのはどの選択肢か、考えてみてください。
選択肢1:第二受託者を定めず「信託を終了させる」と割り切る
一つ目の方法は、あえて第二受託者を定めず、「初代受託者に万が一のことがあった時点で、信託の目的は達成されたとみなし、信託を終了させる」と契約書に明記する方法です。
例えば、「親が認知症になった場合に備えて、子どもが財産管理をする」という目的で信託を組んだとします。もし、親が亡くなる前に子ども(初代受託者)が先に亡くなってしまった場合、その時点で信託を終了させ、残った財産は通常の相続財産として扱う、と割り切る考え方です。
この方法は、信託の目的が主に「親の生前の財産管理」に限定されている場合には合理的な選択肢となり得ます。ただし、信託終了後の財産は、信託契約で定めた残余財産受益者や帰属権利者に帰属するため、終了後の財産の帰属先を契約書で明確にしておく必要があります。また、障害を持つ子の生活を長期的に支えるための信託(福祉型信託)など、初代受託者の後も財産管理を継続させたい場合には、この方法は向きません。
選択肢2:候補者は決めず「選任方法」だけを定めておく
「今すぐには決められないけれど、将来的に誰かに引き継いでほしい」という場合に有効なのが、この方法です。信託契約書に「Aさんを第二受託者とする」と個人名を指定するのではなく、「新しい受託者の選び方」のルールだけを決めておくのです。
具体的には、以下のような定め方が考えられます。
- 「受益者との合意によって、新しい受託者を選任する」
- 「特定の親族(例:長男の子)の中から、受益者が指名する」
この方法のメリットは、将来の状況変化に柔軟に対応できる点です。今はいなくても、数年後には頼れる人が現れるかもしれません。一方で、いざという時に親族間で合意ができなかったり、専門家に依頼する費用が発生したりといったデメリットも考慮する必要があります。それでも、信託契約における意思確認の重要性を踏まえ、将来の不確実性に対応する次善の策として有効な選択肢です。
選択肢3:司法書士や信託会社など「家族以外の専門家」を候補にする
どうしても親族の中に適任者が見つからない場合には、信託会社などの信託業務を行える機関の活用や、司法書士・弁護士・税理士などの専門家への相談を通じて、家族以外の関与方法を検討することがあります。
メリットは、専門的な知識と経験に基づき、中立的な立場から財産管理に関与してもらえる可能性がある点です。特に、信託財産が高額で管理が複雑な場合や、親族間の関係性があまり良好でない場合には、第三者である専門家が入ることでスムーズに進むこともあります。
一方で、当然ながら専門家への報酬(費用)が発生するというデメリットがあります。他の制度との費用比較も行いながら、費用対効果を慎重に検討する必要があります。どの専門家に相談するべきかを含め、信頼できるパートナーを見つけることが重要です。
【事例】第二受託者を決めかねていたAさんのケース
ここで、実際に当事務所にご相談いただいたAさんの事例をご紹介します。Aさんは、さいたま市にお住まいのお父様のために民事信託を検討されていましたが、第二受託者をどうするかで悩んでいらっしゃいました。
打ち合わせの中で、私はAさんにこう尋ねました。
「もしAさんがお父様の財産管理をできなくなった時のために、第二受託者を設定することもできます。どなたか候補はいらっしゃいますか?」
するとAさんは、少し困った表情でこうおっしゃいました。
「妹はいるのですが、海外に移住していて日本にはいません。私の娘もいますが、祖父のことであまり負担をかけたくなくて…。一度、娘に相談してみようとは思っているのですが…」
Aさんのお気持ちは、とてもよく分かります。そこで、私はこうお伝えしました。
「第二受託者は、必ず決めておかなければならないものではないので、いなくても大丈夫ですよ。そもそもご家族やご親族の中で信託を組む場合、候補者が少なくて第二受託者まで決められない、ということは珍しくありません。それに、契約書に名前を書いたからといって、その方が必ず就任しなければならない義務もありません。『もしもの時は、まずこの人に声をかけてみよう』という、最初に相談する相手が決まっている、くらいの感覚でお考えいただいて大丈夫です。」
この説明を受けて、Aさんは第二受託者の位置づけを理解されました。
「なるほど、そういうことなんですね。それなら、妹にしようと思います。私がすぐどうこうなるわけではないでしょうし、妹もその頃には日本に帰ってきているかもしれません。妹はしっかり者なので、いざという時も任せやすいです。」
このお話を経て、Aさんの心の負担は軽くなったようでした。最終的に、海外にお住まいの妹さんを第二受託者として信託契約を無事に組成することができました。たとえ遠方に住んでいても、信頼関係があれば候補者となり得るのです。
まとめ:一人で抱え込まず、まずは専門家と考えを整理しませんか
この記事では、民事信託における第二受託者の問題について解説してきました。
- 第二受託者の設定は法律上の義務ではないこと
- ただし、設定しない場合は「信託の強制終了」「財産管理の停止」「親族トラブル」などのリスクがあること
- 適任者がいない場合でも「信託を終了させると割り切る」「選任方法だけ決めておく」「専門家を候補にする」といった対処法があること
第二受託者を決められないという悩みは、決して特別なことではありません。むしろ、ご家族の将来を真剣に考えているからこそ直面する、大切な悩みです。
大切なのは、完璧な答えを一人で出そうと抱え込まないことです。私たち司法書士のような専門家は、単に法律の知識を提供するだけではありません。お客様一人ひとりのご家庭の状況や想いを丁寧にお伺いし、様々な選択肢のメリット・デメリットを整理しながら、ご家庭の状況に応じた選択肢を整理し、現実的な対応方法を検討する役割も担います。
「うちの場合はどうなんだろう?」「どの選択肢が合っているんだろう?」少しでもそう感じたら、ぜひ一度お話をお聞かせください。無料相談の場などを活用し、まずは専門家と一緒に考えを整理することから始めてみませんか。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
家族信託で空き家特例が使えない?3000万円控除の注意点
【実例】信託を選ぶべきか?空き家特例と天秤にかけたA様のケース
「認知症対策として家族信託を組みたいが、税金で損をするかもしれない…」
近年、家族信託のご相談が増える中で、このようなジレンマを抱える方が少なくありません。特に、ご実家が将来空き家になる可能性がある場合、「空き家特例の3000万円控除」が使えなくなるという問題は、多くの方にとって大きな懸念点となっています。
先日ご相談に見えたA様も、まさにその一人でした。大田区にお住まいの一人暮らしの叔父様を案じ、認知症による資産凍結を防ぐために家族信託を検討されていました。
「叔父が認知症になったら、自宅の修繕や将来の施設入居のための売却ができなくなると聞きました。裁判所が関わる成年後見制度は避けたいので、家族信託はとても魅力的です」
私はA様に家族信託のメリットや仕組みをご説明し、A様も前向きに検討を進めていました。しかし、私は専門家として、見過ごせないデメリットについてもお伝えする必要がありました。
「A様、一つ重要な点があります。もし叔父様が亡くなられて、相続でご実家が空き家になった場合、A様が売却する際には『空き家特例』で最大3000万円まで譲渡所得が控除される可能性が高いです。しかし…現状の法律では、家族信託を組むと、この空き家特例が使えなくなってしまうのです。信託契約が終わってからご実家を売却すると、税金面で不利になる可能性があります」
A様の表情が少し曇りました。認知症対策と節税、どちらを優先すべきか。この問いは、多くの方が直面する難しい選択です。
「では、叔父が生きているうちに売却した場合はどうなりますか?」
「その場合は『居住用財産の3000万円控除』という別の特例が使える可能性があり、空き家特例の話とは切り離して考えられます。あくまで、叔父様が亡くなった後に、相続した空き家を売る場合の問題です」
A様はしばらく考えた後、こうおっしゃいました。
「先のことは断定できませんが、おそらく叔父は将来介護施設に入り、自宅は売却することになると思います。税金の特例が使えない可能性があるのは確かに気になりますが、それよりも、叔父が元気なうちから財産管理をスムーズに進められることの方が、私たち家族にとっては重要です。信託で進めたいと思います」
この決断を受け、後日、私も叔父様のご自宅に伺い、ご本人にご説明の上で信託契約の意思確認をしっかりと行い、契約書の作成と不動産の信託登記を完了させました。
家族信託には多くのメリットがありますが、A様のケースのようにデメリットも存在します。私たち専門家は、良い面だけでなく、潜在的なリスクや不利益もしっかりとご説明し、ご家族にとって最善の選択は何かを一緒に考えることが使命だと考えています。この記事では、まさにA様が直面した「家族信託と空き家特例」の問題について、その理由と具体的な対策を詳しく解説していきます。
まず結論:家族信託を組むと「空き家特例」は原則使えません
早速ですが、本記事の結論からお伝えします。2026年7月現在、親や親族が亡くなった後に、家族信託契約に基づいて引き継いだ実家(空き家)を売却しても、原則として「空き家特例(3000万円特別控除)」を適用することはできません。
これは、単なる噂や一部の専門家の見解ではなく、国税庁が公式にその見解を示しているためです。令和4年12月20日に公表された文書回答事例において、国税庁は「信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した家屋は、本特例の適用対象とはならない」と明確に回答しています。
なぜ、認知症対策として利用される家族信託で、税制上このような問題が生じるのでしょうか。その理由を確認していきます。
参照:国税庁「別紙 信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した被相続人居住用家屋の譲渡に係る所得税の取扱いについて」
なぜ?法律が「相続または遺贈」に限定しているから
空き家特例が使えない理由は、ひとえに法律の条文にあります。
この特例を定めている「租税特別措置法」という法律では、特例の対象となる人を「相続または遺贈により」被相続人居住用家屋(=亡くなった親などが住んでいた家)を取得した個人に限定しています。
一方で、家族信託ではどうでしょうか。親(委託者)が亡くなったことで信託契約が終了し、子(残余財産帰属権利者)が実家を引き継ぐ場合、その法的な原因は「信託契約」です。これは、法律上「相続」や「遺贈」とは明確に区別される行為なのです。

つまり、たとえ親の死亡をきっかけに財産が移転するという点では同じように見えても、その根拠となる法律行為が異なるため、空き家特例の「相続または遺贈により」という要件を満たせない、というのが現在の法解釈となります。この点が、家族信託と空き家特例が両立できない最大の理由です。より詳しい用語については、自益信託などの基本用語もご参照ください。
「みなし相続」の注意点|相続税と所得税はルールが違う
ここで多くの方が疑問に思われるのが、「信託で財産をもらっても相続税がかかるのだから、相続と同じ扱いではないのか?」という点です。
確かにその通りで、相続税法には「信託契約によって財産を取得した場合は、遺贈によって取得したものとみなす」という規定があります。これを「みなし相続(みなし遺贈)」と呼びます。この規定があるため、信託で引き継いだ財産にも相続税が課税されるのです。
ただし、この点については税目ごとの取扱いを分けて考える必要があります。この「みなし相続」のルールは、あくまで相続税法の中だけの話なのです。
今回問題となっている空き家特例は、譲渡所得税(所得税)の特例であり、これを定めた租税特別措置法には、相続税法のような「みなし相続」の規定がありません。
つまり、
- 相続税の計算上は、信託による取得も「相続」とみなされる。
- 所得税の特例(空き家特例)の適用上は、信託による取得は「相続」とはみなされない。
という、税金の種類によって適用されるルールが異なるという点に注意が必要です。この「税法ごとのルールの違い」が、多くの方を混乱させる原因となっています。
そもそも「空き家特例」とは?制度の概要と要件を再確認
では、そもそも今回問題となっている「空き家特例」とは、どのような制度なのでしょうか。その重要性を理解するためにも、制度の概要と要件を改めて確認しておきましょう。
正式名称を「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。これは、社会問題化している空き家問題を解消する目的で創設された制度です。
相続した実家を売却した際に得た利益(譲渡所得)から、最大で3,000万円を控除できるという非常に大きな税金の優遇措置です。仮に3,000万円の利益が出た場合、この特例を使えるかどうかで、所得税・住民税合わせて約600万円(税率20.315%で計算)もの税額差が生まれる可能性があります。このように税額への影響が大きい可能性があるため、家族信託を検討する際には重要な確認事項となります。
参照:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

特例を受けるための主なチェックリスト
この特例を受けるためには、様々な要件をクリアする必要があります。ご自身の状況が当てはまるか、以下のリストで確認してみましょう。
- 【重要】相続または遺贈によって家を取得したこと
- 亡くなった方が、亡くなる直前までその家に一人で住んでいたこと
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(※譲渡時に一定の耐震基準を満たす必要があります)
- マンションなどの区分所有建物ではないこと
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却代金が1億円以下であること
- 売却する相手が、親子や配偶者など特別な関係にある人ではないこと
この中でも、一番最初の「相続または遺贈によって家を取得したこと」という要件が、家族信託を利用した場合にクリアできない点であることを改めてご理解いただけたかと思います。
家族信託と空き家特例を検討する際の3つの対応方法
「家族信託では空き家特例が使えない」という事実を知り、不安に思われた方も多いでしょう。しかし、諦める必要はありません。認知症による資産凍結リスクに備えつつ、税金の負担も考慮した「出口戦略」は存在します。ここでは、状況に応じた3つの具体的な戦略をご紹介します。
戦略①:親が元気なうちに売却する(居住用財産3000万円控除の活用)
最も現実的で効果的な対策が、親御様が元気なうちに、信託契約に基づいてご実家を売却することです。
この場合、問題となっている「空き家特例」ではなく、「居住用財産の3,000万円特別控除」という、別の特例を使える可能性があります。この特例は、マイホームを売ったときに使えるもので、家族信託を組んでいても、受益者である親御様が要件を満たせば適用可能です。
「居住用財産の3,000万円控除」は、「空き家特例」よりも要件が緩やかで、建物の築年数に関する制限もありません。親御様が施設に入所する場合でも、「住まなくなってから3年目の年末まで」に売却すれば適用できる可能性があります。
この方法は、親御様の存命中に資産を現金化することで、認知症による資産凍結リスクに備えながら、税金の控除を受けられる可能性がある方法です。
戦略②:実家だけ信託から外し「遺言」で引き継ぐ
もし、どうしても空き家特例の適用を最優先したい、という場合は、実家の不動産だけを信託財産に含めず、預貯金などの他の財産だけを信託するという方法も考えられます。
そして、信託から外した実家については、別途遺言書を作成し、特定の子に相続させるように指定しておくのです。
【メリット】
- 実家は「相続」によって引き継がれるため、他の要件を満たせば空き家特例を利用できる可能性があります。
【デメリット】
- 親御様の認知症が進行した場合、生前に実家を売却することが困難になります。遺言書があっても、生きている間の契約行為は本人の意思能力が必要なため、結局「資産凍結」のリスクが残ってしまいます。
この方法は、「最大限の節税」と「確実な資産管理」のどちらを優先するか、ご家族の価値観や状況に応じた慎重な判断が求められます。
戦略③:そもそも譲渡益が出るか確認する
最後に、少し視点を変えた戦略です。それは、「そもそもご実家を売却した場合に、3,000万円もの利益(譲渡所得)が出るのか?」を確認することです。
譲渡所得は、単純に「売却価格」ではありません。「売却価格」から「取得費(購入時の価格や手数料)」と「譲渡費用(売却時の仲介手数料など)」を差し引いて計算します。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
もし、ご実家が都心部ではなく、購入時の価格もそれなりに高かった場合、売却しても利益が出ない、あるいは利益がごくわずかというケースも少なくありません。利益が出なければ、そもそも譲渡所得税はかからず、空き家特例の必要性も低くなります。
まずは、親御様がご実家を購入した当時の売買契約書を探し、取得費を確認してみましょう。もし見つからない場合でも、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することができます。現在の不動産のおおよその査定額と照らし合わせ、大きな利益が見込めないのであれば、不要な心配をせず、安心して認知症対策としての家族信託を進めるという判断も十分に合理的です。
まとめ:家族信託では目的の優先順位を整理することが重要です
ここまで、家族信託を組むと空き家特例が使えなくなる理由と、その対策について解説してきました。税金の問題は非常に重要ですが、忘れてはならないのは、そもそもなぜ家族信託を検討し始めたのか、という原点です。
多くの場合、その目的は「親の財産を認知症による資産凍結から守り、安心して生活を送れるようにすること」であるはずです。だとすれば、税金の特例が使えないというデメリットがあったとしても、資産管理を円滑に進めるという家族信託本来のメリットの方が大きいと判断されるケースは少なくありません。冒頭のA様も、まさにそうでした。
もちろん、ご家庭の状況や資産背景、そして何よりもご家族の価値観によって、最適な選択は異なります。「認知症対策」と「節税」、どちらを優先すべきか。あるいは、その両立を目指す道はないか。
一つの正解がないからこそ、安易に自己判断するのは危険です。様々な制度のメリット・デメリットを比較検討し、ご家族の状況に合わせたオーダーメイドの対策を考える必要があります。私たち司法書士は、法律や税務の知識を駆使して、様々な専門家と連携しながら、皆様の課題と多角的に向き合います。一人で悩まず、まずは一度、専門家にご相談ください。
ご家族の状況に合わせた最適なプランを一緒に考えます。
まずはお気軽にご相談ください。
家族信託について専門家に相談する
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
家族信託の落とし穴|賃貸アパートの赤字は損益通算不可?
「家族信託は万能じゃない?」アパートオーナー様が知るべき税金の落とし穴
「認知症になると、アパートの管理や修繕、売却ができなくなるらしい」「その対策として、家族信託という方法が良いと聞いた」
最近、賃貸アパートを経営されているオーナー様から、このようなご相談をいただくことが増えました。確かに、家族信託は認知症による資産凍結を防ぐための、とても有効な手段の一つです。大切な資産をご家族のために守り、活かし続けることができる素晴らしい仕組みといえるでしょう。
しかし、万能に見える家族信託にも、特に賃貸アパートのオーナー様にとっては、思わぬ「落とし穴」が存在することをご存知でしょうか。
それは、税金に関する非常に重要なルールです。
具体的には、アパート経営に欠かせない外壁塗装や給排水設備の更新といった大規模修繕を行った結果、その年の不動産所得が赤字になってしまった場合。通常であれば、その赤字を給与所得など他の黒字の所得と相殺(損益通算)して、払いすぎた税金の還付を受けることができます。ですが、家族信託にすると、この損益通算が一切できなくなってしまうのです。
「え、どうして?」「それじゃあ、修繕費で出た赤字は全部自分で被らないといけないの?」そんな不安な声が聞こえてきそうです。
ご安心ください。この記事では、なぜ家族信託をすると損益通算ができなくなるのか、その仕組みと理由を専門家の視点から丁寧に解説します。そして何より、この大きなデメリットを回避するための具体的な対策を3つ、分かりやすくお伝えしていきます。
この記事を最後までお読みいただければ、税務上のリスクをしっかりと理解し、安心して家族信託の準備を進めることができるようになります。大切な資産とご家族を守るために、一緒に知識を深めていきましょう。高齢者詐欺対策と家族信託も合わせてご覧ください。
そもそも「損益通算」とは?不動産所得における税金の基本
家族信託の落とし穴についてお話しする前に、まずは「損益通算」という税金の基本的な仕組みについて、簡単におさらいしておきましょう。特に、会社員として給与を受け取りながらアパート経営をされている「サラリーマン大家さん」にとっては、非常になじみ深い制度かもしれませんね。
所得税は、個人の一年間のすべての所得を合計して計算されます。所得には給与所得、事業所得、不動産所得など、いくつかの種類があります。
「損益通算」とは、これらの所得のうち、ある所得で赤字(損失)が出た場合に、その赤字分を他の黒字の所得から差し引くことができる仕組みのことです。
例えば、アパート経営をしているAさんのケースで考えてみましょう。
- 給与所得:500万円
- 不動産所得:▲100万円(100万円の赤字)
この場合、もし損益通算がなければ、Aさんは給与所得の500万円に対して所得税が課税されます。しかし、損益通算ができると、給与所得の黒字500万円から不動産所得の赤字100万円を差し引くことができます。
500万円(給与所得) – 100万円(不動産所得の赤字) = 400万円
その結果、課税対象となる所得が400万円に減り、納めるべき所得税や住民税も安くなるのです。給与から天引き(源泉徴収)されている場合は、確定申告をすることで払いすぎていた税金が戻ってくる(還付される)ことになります。
このように、損益通算はアパートオーナーにとって、予期せぬ出費があった年の税負担を軽減してくれる、とても重要な制度なのです。この基本的な考え方を頭に入れた上で、次の章の本題に進んでいきましょう。不動産と税金についてもご興味があればご覧ください。

家族信託の税務上の罠「損益通算の禁止」とは?
さて、ここからがこの記事の核心です。なぜ、認知症対策として有効なはずの家族信託を利用すると、先ほどご説明した「損益通算」というメリットが使えなくなってしまうのでしょうか。
それは、「信託された不動産から生じた損失は、税務上なかったものとみなす」という特別なルールが法律で定められているからです。少し難しく聞こえるかもしれませんが、ご安心ください。一つずつ丁寧に解説していきますね。
このルールは、過去に信託の仕組みを悪用して不当に税金を安くしようとする「租税回避スキーム」が問題となったため、その対策として設けられました。具体的には、租税特別措置法という法律に根拠があります。健全な制度利用を守るためのルールではありますが、結果として、賃貸アパートのオーナー様にとっては注意すべき大きな制約となっているのです。家族信託が失敗しないためには、こうした税務上のルールもしっかりと理解しておくことが大切です。
信託不動産の赤字は「なかったもの」として扱われる
「損失はなかったものとみなされる」とは、具体的にどういうことでしょうか。先ほどのAさんの例で、アパートを家族信託していた場合を考えてみましょう。
Aさんは所有するアパートの大規模修繕を行い、その年の不動産所得が300万円の大きな赤字になりました。一方で、給与所得は変わらず500万円の黒字です。
【信託していない場合】
損益通算ができるので、課税所得は「500万円 – 300万円 = 200万円」となります。
【家族信託をしている場合】
信託不動産から生じた赤字300万円は、税金の計算上「0円」として扱われます。つまり、「なかったもの」とされてしまうのです。
そのため、給与所得の500万円と相殺することはできず、課税所得は「500万円 – 0円 = 500万円」のまま。Aさんは、500万円全額に対して所得税を納めなければなりません。
同じ状況でも、家族信託をしているか否かで、課税対象となる所得に300万円もの差が生まれてしまうのです。これは、オーナー様の手元に残るキャッシュに直接影響する、非常に大きな違いだということがお分かりいただけるかと思います。
複数の信託契約間でも損益通算はできない
複数の収益物件をお持ちのオーナー様が、特に注意すべき点があります。それは、損益の計算は「信託契約ごと」に独立して行われるということです。
例えば、アパートAとマンションBという2つの物件をお持ちのオーナー様が、長男を受託者として「アパートAの信託契約」を、長女を受託者として「マンションBの信託契約」を、それぞれ別々に結んだとします。
その年、アパートAの経営が大規模修繕で100万円の赤字になり、一方でマンションBは安定経営で200万円の黒字だったとしましょう。信託をしていなければ、この2つの不動産所得を合算し、「-100万円 + 200万円 = 100万円」の黒字として申告できます。
しかし、信託契約が別々の場合、アパートAの赤字とマンションBの黒字を相殺(損益通算)することはできません。
アパートAの赤字は「なかったもの」とされ、マンションBの黒字200万円に対してそのまま課税されてしまいます。良かれと思って組んだ信託が、かえって税務上の不利益を生んでしまう可能性があるのです。こうした信託契約の設計には専門的な調整作業が不可欠です。
司法書士が解説!損益通算禁止リスクを回避する3つの対策
ここまで読んで、「家族信託にはそんな大きな税務リスクがあるのか…」と不安に思われたかもしれません。ですが、ご安心ください。これらのリスクは、事前にきちんと理解し、計画的に対策を検討することで、影響を抑えられる可能性があります。
私たち司法書士は、信託契約や登記の専門家として、必要に応じて税理士とも連携しながら、お客様の状況に合わせた信託契約の設計をお手伝いしています。ここでは、その実務経験から導き出した、具体的で実践的な3つの対策をご紹介します。

対策①:大規模修繕など赤字が見込まれる計画は信託契約「前」に実行する
最もシンプルで、かつ効果的な対策は「タイミングを調整する」ことです。
もし、近い将来に外壁塗装や屋上の防水工事、給排水管の更新といった大規模修繕を計画しているのであれば、その計画を実行し、修繕費の計上と損益通算をすべて終えた「後」に家族信託契約を開始するのです。
順番を工夫するだけで、損益通算による税金の還付・軽減というメリットをしっかりと受け取った上で、その後に認知症対策としての家族信託のメリットも享受することができます。
もちろん、「いつ認知症になるか分からないから、対策は一日でも早く始めたい」というお気持ちもよく分かります。だからこそ、ご自身の健康状態やアパートの築年数、修繕計画などを総合的に考慮し、専門家と相談しながら最適なタイミングを見極めることが非常に重要になります。計画的に準備することで、将来の税務上・手続上のリスクを抑えやすくなります。
対策②:赤字不動産と黒字不動産を「一つの契約」でまとめて信託する
複数の収益物件をお持ちのオーナー様に有効な、少し高度な対策です。
先ほど、「信託契約が別々だと、その契約間での損益通算はできない」とご説明しました。これを逆手にとると、「同じ一つの信託契約の中であれば、損益通算は可能である」ということになります。
そこで、将来的に大規模修繕などで赤字になる可能性が高い築古のアパートと、安定して黒字を生み出している築浅のマンションを、「同じ一つの信託契約」にまとめて信託するという方法が考えられます。
こうすることで、信託契約の「内部」で、アパートの赤字とマンションの黒字が相殺されます。結果として、信託全体としての所得がプラスであれば、損益通算の禁止ルールによるデメリットを回避できる可能性があるのです。まさに信託する不動産の組み合わせが重要になります。
ただし、この方法は注意点もあります。そもそも信託は、不動産オーナー認知症対策・将来の争族対策・不動産管理をスムーズにするなどの目的でするものです。2つの賃貸物件を1つの信託契約にまとめて、これらの目的が達成される信託組成になっているのか、元々の目的を忘れて損益通算ばかりにとらわれていないか確認する姿勢が必要になります。
対策③:信託契約の設計で工夫する(追加信託の活用)
これは、司法書士ならではの専門的な視点を活かした、より柔軟な対策です。
それは、「追加信託」という仕組みを活用する方法です。具体的には、まず最初に、経営が安定している黒字物件だけで家族信託契約を開始します。そして、大規模修繕の計画がある赤字見込みの物件については、その修繕と損益通算が完了した後に、既存の信託契約に「追加」で組み入れるのです。
この方法を実現するためには、最初の信託契約書を作成する段階で、あらかじめ「将来、他の不動産を追加で信託できる」という旨の条項を盛り込んでおくことが極めて重要です。
この対策には、将来の状況変化に対応しやすくなるという利点があります。まずは緊急性の高い資産凍結対策から始めつつ、状況の変化に合わせて柔軟に信託の内容を見直していくことができます。このような個別事情に応じた契約設計では、司法書士や税理士といった専門家が連携してご提案できる価値だと考えています。より詳しい手続きについては、「信託不動産の登記手続き」をご覧ください。
【当事務所の見解】信託財産から生じる損失の考え方
ここまでお読みいただき、家族信託における不動産所得の損失の扱いが、いかに特別で注意が必要か、ご理解いただけたかと思います。
私たち司法書士がお客様にご説明する際、特に大切にしているポイントがいくつかあります。それは、この「損失はなかったものとみなす」というルールが、実は不動産所得にだけ課せられた、かなり厳しいルールだということです。
例えば、同じ家族信託でも、信託した財産が上場株式などの有価証券だった場合、その売却で損失が出たとしても、配当所得と損益通算したり、翌年以降に損失を繰り越したりすることが認められています。しかし、賃貸不動産から生じる赤字だけは、それが一切許されないのです。
アパート経営をされていると、大口のテナントさんが退去してしまったり、今回のテーマである大規模修繕が必要になったりと、不動産所得が赤字になることは決して珍しいことではありません。だからこそ、この税務上のルールを知らずに信託を組んでしまうと、後で「こんなはずではなかった」と後悔することになりかねないのです。
もう一つ、実務家として補足しておきたい大切な視点があります。それは、大規模修繕の工事内容によって、税務上の扱いが変わってくる、という点です。
工事にかかった費用が、建物の価値を高めたり耐久性を増したりする「資本的支出」と判断されるか、それとも通常の維持管理のための「修繕費」と判断されるか。もし「修繕費」であれば、その年に一括で経費に計上するため、大きな赤字が出やすくなります。一方で「資本的支出」と判断されれば、一度資産として計上し、何年かに分けて減価償却費として費用化していくため、単年度での赤字は出にくくなります。
この判断は非常に専門的であり、税理士の先生との緊密な連携が不可欠です。私たちは、相続税申告など税務の専門家と連携しながら、お客様にとって最善の信託設計をご提案することを常に心がけています。
まとめ:家族信託は計画的に。税務の専門家と一緒に進めましょう
今回は、家族信託の税務上の大きな落とし穴である「損益通算の禁止」について、その仕組みと具体的な対策を詳しく解説しました。
改めて大切なポイントを振り返ってみましょう。
- 家族信託した賃貸アパートで大規模修繕などにより赤字が出ても、その赤字は給与所得など他の黒字所得と損益通算できない。
- このリスクは、修繕後に信託を開始する、複数の物件を一つの契約で信託するなど、計画的な対策で回避することが可能。
家族信託は、認知症による資産凍結を防ぎ、ご家族による柔軟な財産管理を実現するとても有効な手段です。しかし、その一方で、今回ご説明したような税務上の重要な注意点も存在します。
大切なのは、メリットだけに目を向けるのではなく、デメリットもしっかりと理解した上で、ご自身の状況に合わせた最適な判断をすることです。そして、そのためには専門家のサポートが不可欠です。
「うちの場合は、どの対策が一番良いのだろう?」「修繕の計画もあるし、一度相談してみたい」
もし少しでもご不安や疑問を感じたら、どうぞお気軽に私たち下北沢司法書士事務所にご相談ください。信託契約や登記の面を中心に、必要に応じて税理士などの専門家とも連携しながら、あなたとご家族に合った進め方を一緒に考えさせていただきます。制度ごとの費用比較なども含め、丁寧にお話を伺い、あなたにとって最良のご提案をいたします。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。
