成年後見の理由書|「介護が限界」を「本人の利益」へ言い換える技術

「介護が限界だから施設へ」その理由、裁判所に伝わりますか?

「もう、これ以上ひとりで親の介護を続けるのは限界…」
「施設に入ってもらうしかないけれど、そのための費用を本人の預金から支払いたい」
「実家も空き家になるし、管理も大変だから売却したい」

認知症の親御さんを想うからこそ、成年後見制度の利用を考え始めたあなたの胸には、このような切実な想いがあるのではないでしょうか。しかし同時に、裁判所に対してどのように話して良いのか、お悩みになるかも知れません。理由を文章にしてみると、意外と独りよがりの考えに思えてくることもあります。

ご安心ください。この記事は、そんなあなたのためのものです。司法書士として、そして心理カウンセラーとして、これまで多くのご家族の葛藤に寄り添ってきた私だからこそお伝えできる、あなたの「本音」を、裁判所が納得する「本人の利益」へと正しく変換する『言い換えの技術』を具体的にお伝えします。

この記事を読み終える頃には、あなたの不安は自信に変わり、ご自身の想いを堂々と理由書に記すことができるようになっているはずです。

大原則:成年後見制度は「本人の利益」を守るためのもの

まず、裁判所は「本人の利益」にこだわります。の大前提からお話しさせてください。成年後見制度は、判断能力が不十分になった方の財産や権利を、周囲からの不利益な行為(時には悪意のない家族による使い込みなども含みます)から守るための、いわば「ご本人のためのセーフティネット」です。

ですから、裁判官は常に「その決定が、本当にご本人のためになるのか?」という視点で物事を判断します。あなたの「もう限界だ」という切実な叫びも、裁判所の視点を通すと「それは、ご本人の利益にどう繋がるのですか?」という問いに変換されてしまうのです。

ここで最も重要なのは、思考のスイッチを切り替えること。「家族が大変だから」という主語を、「このままでは、ご本人が不利益を被るから」という主語に変えてみることです。この視点の転換こそが、理由書作成のすべての基本となります。成年後見制度の全体像については、認知症に備えるための他の制度と比較した任意後見や家族信託との違いを解説した記事も参考にしてください。

より詳しい制度の概要については、以下の厚生労働省のページも参考になります。

参照:法定後見制度とは(手続の流れ、費用)

裁判所が「本人の利益」を判断する3つの視点

では、裁判官は具体的にどのような基準で「本人の利益」を判断しているのでしょうか。大きく分けて、以下の3つの視点があります。

  1. 財産的な利益:本人の財産が不当に減らないか、適切に管理・維持されるか。これには、詐欺などから財産を守ることだけでなく、不要な支出(例えば、空き家の固定資産税や管理費など)を抑えることも含まれます。適切な財産管理は後見人の重要な責務です。
  2. 心身の安全・生活環境:本人が安全で、尊厳のある生活を送れるか。健康状態に応じた適切な医療や介護を受けられる環境が確保されているか、といった点が重視されます。
  3. 本人の意思・自己決定の尊重:本人がこれまでどのような人生を送り、何を大切にしてきたか。判断能力が低下していても、残された意思や価値観をできる限り尊重しようとします。

理由書では、あなたの希望する手続き(施設入居や不動産売却など)が、これら3つの視点のいずれか、あるいは複数において、ご本人にとってプラスになるのだということを、客観的な事実に基づいて説明する必要があるのです。

これが却下理由に?やってはいけないNGな書き方

良かれと思って書いた理由が、実は逆効果になってしまうケースは少なくありません。特に、以下のような「介護者側の都合」が前面に出た表現は、裁判所に良い印象を与えず、却下のリスクを高めてしまいます。

  • 「仕事と介護の両立が難しく、私が楽になりたいから」
  • 「遠方の実家の管理に行くのが面倒だから、早く売りたい」
  • 「施設入居の費用で、私の貯金が減ってしまうのは困る」
  • 「他の兄弟は協力してくれないので、私ばかりが大変だから」

こうした表現は、たとえ事実であったとしても、「本人の利益」ではなく「申立人の利益」を優先していると見なされかねません。「自分の考えはこれに近いかも…」とドキッとした方も、大丈夫です。次の章で、これらの本音を「本人の利益」へと昇華させる具体的な方法を見ていきましょう。

司法書士が伝授!「介護者の本音」を「本人の利益」へ変える言い換えの技術

成年後見制度を利用する中で、「なんで分かってくれないのだろう」「こんなに大変なのに」と、裁判所や後見監督人とのやり取りにストレスを感じる方は少なくありません。彼らもあなたの状況を理解していないわけではありませんが、その立場上、あくまで「本人の利益」という観点からしか物事を判断できないのです。

しかし、その「認められない壁」は、ほんの少し視点を変え、言葉を選ぶだけで乗り越えられることがあります。成年後見制度は、究極的には「本人の保護」が目的です。極端な言い方をすれば、周りの家族がどれだけ困っているかは、直接の判断基準にはなりません。

でも、考えてみてください。あなたが困っているとき、きっとご本人も何かしらの形で困っているはずなのです。その「ご本人の困りごと」を起点に話を進めること。それが、実務経験を積んできた司法書士だからこそお伝えできる、言い換えの技術の核心です。

成年後見の理由書作成における「介護者の本音」を「本人の利益」へ視点を転換する重要性を解説した図解。

ケース1:「介護が限界」→ 施設入居で本人が適切なケアを受けられる

【あなたの本音】
「もう心身ともに限界。24時間つきっきりの介護は無理だから、施設に入ってほしい」

これをそのまま書いてしまうと、「家族の都合」と捉えられかねません。視点を「ご本人」に移してみましょう。

【NGな書き方】
「家族が心身ともに疲弊しており、これ以上の在宅介護は困難です」

【OKな書き方(言い換え例)】
「日中、家族が仕事で不在の時間帯は、本人ひとりで過ごすことになり、火の不始末や転倒などの危険性が非常に高い状況です。また、夜間も徘徊が見られるようになり、家族だけでは十分な見守りができず、本人の安全確保が困難になっています。施設に入居することで、24時間体制の専門的な介護と看護を受けられ、本人の心身の安全が確保された、穏やかな生活を送ることができます

【言い換えのポイント】
家族の負担が限界に達しているということは、裏を返せば、介護の質が低下し、ご本人が危険に晒されるリスクが高まっているということです。介護者の負担軽減が、結果的に「ご本人の安全確保」という最大の利益に繋がる、という論理構造で説明することが重要です。後見人による施設への移転は、本人の意思も尊重しながら進める必要があります。

ケース2:「空き家の管理が面倒」→ 不動産売却で本人の財産を守る

【あなたの本音】
「親が施設に入って実家が空き家になった。固定資産税もかかるし、草むしりや見回りも大変だから、早く売ってしまいたい」

これも「面倒だから」という気持ちを前面に出すのは禁物です。

【NGな書き方】
「実家が遠方で、管理に行くのが大変なので売却したいです」

【OKな書き方(言い換え例)】
「本人が自宅に戻って生活する見込みはなく、今後も空き家の状態が継続します。このままでは、固定資産税や修繕費、火災保険料などの維持管理費が本人の財産から支出され続けることになります。また、万が一、建物の倒壊や火災が発生した場合の管理責任も本人が負うことになり、多額の損害賠償を請求されるリスクがあります。不動産を売却して現金化し、その売却代金を本人の施設利用料や今後の生活費、医療費に充てることが、財産の減少を防ぎ、管理責任から解放される上で、本人の利益に適うものと考えます

【言い換えのポイント】
「管理が面倒」という感情を、「経済的な負担」と「法的なリスク」という客観的な不利益に変換します。売却することが、単に負担をなくすだけでなく、本人の財産を守り、将来の安心な生活資金を確保するための積極的な手段なのだと説明することが大切です。家庭裁判所の許可を得るための不動産売却のポイントについても、併せてご確認ください。

管理されずに空き家となっている一戸建て。成年後見制度における不動産売却の必要性を考えさせる。

ケース3:「孫へのお祝い金」→ 本人の意思尊重と精神的な満足

【あなたの本音】
「孫が大学に合格した。お祝い金をあげたいけど、親の口座から出していいものか…」

これは一見すると本人の財産を減らす行為であり、説明が難しいケースです。

【NGな書き方】
「孫が可哀想なので、お祝い金をあげたいです」

【OKな書き方(言い換え例)】
「本人は、判断能力が低下する以前から、孫の成長を何よりも楽しみにしており、節目ごとにお祝いを渡すことを習慣としていました。今回、社会通念上相当な金額の入学祝い金を贈ることは、本人の長年にわたる意思を尊重し、家族との繋がりを実感する機会となり、本人の精神的な満足感や生きがいにも繋がるものと考えます。これは本人の生活の質の維持・向上という観点から、本人の利益に適うものです」

【言い換えのポイント】
ポイントは「本人のこれまでの生き方・価値観」と「精神的な満足」です。財産を少し減らしてでも、それ以上に得られる本人の精神的な喜びが大きいのであれば、それもまた「本人の利益」であると裁判所は判断してくれる可能性があります。申立て前のお金の使い方については注意が必要な点も多いため、不安な場合は事前に確認しましょう。

【実例】司法書士が「本人の利益」を見出した申立て費用返金のケース

言葉の選び方ひとつで、裁判所の判断が変わることがある――。私が成年後見人として関わった、ある印象的な事例をご紹介します。

私が担当することになったAさん。後見制度の利用を申し立てたのは、姪にあたるBさんでした。Bさんとお会いしてお話を伺うと、申立ての際に司法書士へ依頼した書類作成費用(10万円台半ば)を、Bさんご自身が立て替えて支払っていました。

申立てにかかる司法書士報酬は申立人が負担するのが原則とされています。なぜなら、本人は後見制度の利用が必要な程度に判断能力が下がっているので、出金が必要かどうかを判断できないからだとされています。しかし、親族とはいえ、叔母のために姪が十数万円もの費用を負担するのは酷な話です。

そこで私は、単に「返金してください」とお願いするのではなく、以下のような文書を作成して裁判所に相談しました。

「姪御さんから申立て費用の返金について相談を受けております。確かに後見制度の趣旨からすれば、申立て時の専門家報酬は申立人が負担すべきものと承知しております。

しかし、姪のBさんは、介護関係者や私のような職業専門家を除けば、ご本人にとって唯一交流のある大切なご親族です。そのBさんと良好な関係を保ち続けることは、ご本人の精神的な安定と満足にとって、何物にも代えがたい利益となります。

今回の費用負担をBさんに強いることは、今後の関係にわだかまりを残しかねません。司法書士費用を本人の財産から返金することは、この大切な関係性を維持するために必要な出費であると考えます。また、本人には十分な預貯金があり、返金によって生活に支障が出ることは一切ございません。社会常識的に考えても、叔母のために姪がこれほどの金銭的負担を強いられるのは、上記の観点から望ましくないと考えます」

結果として、この主張は裁判所に認められ、無事にご本人の口座からBさんへ費用を返金することができました。

このケースのポイントは、単なる金銭的な問題として捉えるのではなく、「唯一の身近な親族との良好な関係維持」という、ご本人の精神的な幸福、つまり「本人の利益」に繋がるのだ、というストーリーを構築した点にあります。「本人の利益」とは、必ずしも財産が増えることだけを指すのではないのです。

司法書士に相談し、安心した表情を浮かべる女性。専門家への相談の重要性を示している。

専門家への相談が「本人の利益」を守る最短ルートになることも

ここまで読んで「自分ができるだろうか」と不安に感じた方もいらっしゃるかも知れません。確かに裁判所や成年後見監督人とのやりとりは、ある種独特なもので時に専門性が必要になることもあります

手続きが長期化するリスクや、不適切な財産管理によってご本人が被るかもしれない不利益を考えれば、専門家に依頼してスムーズに手続きを進めることも、結果的に時間的にも経済的にも、あなたやご本人の穏やかな生活を、守ることにつながることも多いです。

特に、ご親族間で意見がまとまらない場合や、不動産売却のように複雑な手続きが関係する場合には、早期にご相談いただくことが、問題をこじらせずに解決する鍵となります。各種制度の費用についても、長期的な視点で比較検討することが大切です。

まとめ:視点を変えれば、あなたの想いは「本人の利益」になる

成年後見の理由書作成で大切なのは、嘘をつくことでも、自分を偽ることでもありません。ただ、「視点を変える」こと。それだけです。

「介護者の負担軽減」と「本人の利益」は、決して対立するものではありません。むしろ、深く結びついています。あなたが心身ともに健康で、余裕を持って介護に向き合えること。それこそが、ご本人が質の高いケアを受け、穏やかに暮らしていくための基盤となるのです。

あなたが楽になることは、巡り巡って、ご本人の幸せに繋がります。

この記事でお伝えした「言い換えの技術」が、あなたの心の負担を少しでも軽くし、自信を持って次の一歩を踏み出すためのきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。一人で抱え込まず、いつでも私たち専門家を頼ってくださいね。

成年後見制度の利用でお悩みではありませんか?
初回のご相談の費用・条件は、お問い合わせ時にご案内します。あなたのお話をじっくりお聞かせください。
成年後見の無料相談(お問い合わせ)

下北沢司法書士事務所 竹内友章

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

0368055496電話番号リンク 問い合わせバナー