成年後見人は会いに来ない?訪問頻度のリアルと個別対応の理由

「成年後見人は会いに来ない」は本当?ある司法書士の現場から

「成年後見人になったのに、一度も本人に会いにこない」
インターネットやメディアで、時折このような成年後見制度に対する批判的な声を目にすることがあります。大切なご家族を専門家に託そうと考えている方にとって、このような話は「本当に任せて大丈夫だろうか」「放置されてしまうのではないか」と、大きな不安を感じさせるものだと思います。

しばらく前に、YouTubeでどこかの地方テレビ局が成年後見制度について特集しているものを見ました。主に1つの事例をとりあげつつ、担当する成年後見人(多分、司法書士か弁護士さんだと思います)の対応を批判しながら制度全体の問題点を取り上げるものでした。その批判の1つに「成年後見人が本人に一度も会いにこない」というものがありました。司法書士として多くの成年後見業務に携わる私自身の現場感覚から申し上げますと、後見人が一度もご本人に会わない、ということは極めて稀なケースです。たとえご本人が他者との会話が難しい状態であっても、その方の財産を守り、生活を支える手続きを担う以上、直接お会いして状況を把握することは基本的な対応だと考えています。

ただ、実際の後見業務では、一般的な説明だけでは整理しきれない個別事情があるのも事実です。例えば、コロナ禍の真っただ中、私が後見人に就任した方で、施設側から「感染症対策のため、なるべく面会は控えてほしい」と強く要請されたことがありました。施設側の事情も十分に理解でき、約1年後のコロナが明けないタイミングでその方は亡くなりました。結果的に一度もお会いしませんでした。

また、医療上の都合で、無理に面会することがご本人や病院、ご家族にとってかえって大きな負担になってしまうケースもあります。このような時、杓子定規に「後見人だから会わなければならない」と押し通すことが、本当にご本人のためになるのでしょうか。

大切なのは、画一的なルールを当てはめることではなく、ご本人、そしてその方を支える周りの方々の状況も尊重しながら、最適な関わり方を見つけていくことだと私は信じています。この記事では、「後見人は会いに来ない」といわれる背景について、現場の実情に即してお話ししたいと思います。成年後見制度の全体像については、法定後見・任意後見で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

成年後見人の訪問、基本は「月に一度」が目安

では、成年後見人はどれくらいの頻度でご本人に会いに来るのが一般的なのでしょうか。多くの弁護士や司法書士といった専門職の間で、一つの目安とされているのが「月に一度」という頻度です。

成年後見人の2大業務である「身上保護」と「財産管理」の役割をアイコンと共に解説した図解。

なぜ「月に一度」?身上保護と財産管理の観点から

「月に一度」という目安には、成年後見人の2つの大きな仕事である「身上保護」と「財産管理」が深く関わっています。

身上保護とは、ご本人が安心して穏やかな生活を送れるように、生活環境や心身の状態に配慮することです。月に一度お会いすることで、

  • お顔の色や表情から、健康状態に変化はないか
  • 施設での生活に不満や困りごとはないか
  • 衣類や日用品で不足しているものはないか

といった細やかな変化に気づくことができます。直接お会いして言葉を交わす時間は、ご本人の状態を把握する上で何よりも大切な情報源となるのです。

一方の財産管理は、ご本人の財産を守り、生活に必要な費用を適切に管理することです。例えば、施設で使うお小遣いが不足していないかを確認し補充したり、急な入院などで予期せぬ出費が必要になったりする場合にも、定期的に状況を把握していればスムーズに対応できます。このように、ご本人の生活実態に合わせた金銭の管理を行うためにも、月一回程度の訪問は理にかなっていると言えます。

法的義務はある?家庭裁判所への報告との関係

「成年後見人は月1回以上訪問しなければならない」といった法律上の明確な義務はありません。しかし、だからといって訪問しなくてもよい、ということにはなりません。

私たち後見人は、家庭裁判所に対して年に一度、ご本人の財産状況や生活の様子を報告する義務を負っています。そして近年、家庭裁判所が提出を求める報告書の書式が変わり、後見人がご本人とどのくらいの頻度で、どのような方法(直接面会、電話、オンラインなど)で交流しているかを具体的に記載する欄が設けられました。

これは、裁判所が後見人によるご本人との直接的な関わりを非常に重視していることの表れです。適切な報告書を作成するためには、当然ながら定期的にご本人とお会いし、その状況をきちんと把握しておく必要があります。この報告義務が、間接的に定期的な訪問を促す仕組みとして機能しているのです。場合によっては、裁判所が後見人の業務を監督するために後見監督人を選任することもあります。

家庭裁判所が使用している報告書の書式については、以下のウェブサイトで確認することができます。

参照:成年後見人・保佐人・補助人の報告書式(裁判所)

訪問頻度が変動する「5つの個別事情」

「月に一度」はあくまで目安です。実際には、ご本人やご家族を取り巻く様々な状況によって、訪問頻度は柔軟に変わってきます。「訪問が少ない=仕事をしていない」と一概に言えないのは、ここに理由があります。ここでは、訪問頻度が変動する代表的な5つの事情について解説します。

1. ご本人の健康状態や意思疎通の可否

ご本人の心身の状態は、訪問頻度を決める最も大きな要因です。例えば、ご自身の希望や考えをはっきり伝えられる方であれば、必要なものを伺ったり、相談に乗ったりするために、訪問回数が自然と多くなることがあります。

一方で、重度の認知症であったり、寝たきりの状態であったりして、面会そのものがご本人の穏やかな生活を妨げてしまう可能性も考えられます。そのような場合は、無理に訪問回数を増やすのではなく、施設や病院のスタッフの方々と密に連携を取り、間接的にご本人の様子を把握する方が、結果的にご本人のためになることもあるのです。回数にこだわるのではなく、ご本人の状態に合わせた最適な方法で状況を見守ることが重要です。入院時の対応など、医療機関との連携も後見人の大切な仕事の一つです。

2. 生活環境(在宅、施設入所など)の違い

ご本人がどこで暮らしているかによっても、訪問の必要性は変わります。もしご自宅で一人暮らしをされているのであれば、生活に困っていることはないか、安全に暮らせているかといった安否確認の意味合いも強くなるため、訪問頻度は高くなる傾向があります。

これに対し、施設に入所されている場合は、日常的なご本人の様子を施設スタッフの方々から詳しく聞くことができます。そのため、後見人が直接訪問する回数は少なくなるかもしれませんが、その分、施設との良好な関係を築き、情報共有を密にすることが、適切な後見業務につながるのです。施設への入所や転居が関わる場面では、特にご本人やご家族とのコミュニケーションが重要になります。

介護施設で成年後見人である司法書士が高齢の女性と面談している様子。信頼関係が伝わる穏やかな雰囲気。

3. 不動産売却など特別な財産管理の有無

後見業務には、日々の金銭管理だけでなく、特別な手続きが必要になる時期があります。例えば、後見が始まった直後の財産調査や、ご本人の生活費・施設費を捻出するための不動産売却、遺産分割協議への参加といった大きなイベントがある期間は、ご本人への報告や意思確認のために、月に数回お会いするなど、訪問頻度は格段に増えます。

逆に、こうした大きな手続きが一段落し、財産の状況が安定して毎月の収支管理が中心となる「安定期」に入ると、訪問頻度は目安通りか、ご本人の状況によっては数ヶ月に一度となるケースもあります。後見人の仕事には、このように波があることをご理解いただけると幸いです。

4. ご家族との関係性や協力体制

ご家族との連携も、訪問頻度を決める大切な要素です。ご家族がこまめにご本人に面会し、その様子を後見人に共有してくださるような協力的な関係が築けている場合、後見人としての訪問は、ご家族の面会と重複しないように調整することがあります。

反対に、ご家族が遠方にお住まいだったり、ご高齢でなかなか会いに行けなかったりする場合には、「家族の代わりに様子を見てきてほしい」というご要望をいただくことも少なくありません。私自身も、そうしたご親族の想いに応える形で、月に一度の訪問を続けているケースがあります。後見人はご家族にとっても頼れるパートナーでありたいと考えています。また、ご家族が遠方に住んでいても、後見人になることは可能です。

5. 感染症対策など社会的な制約

後見人の意向だけではどうにもならない、社会的な事情によって訪問が制限されることもあります。冒頭でも触れましたが、新型コロナウイルスの流行時には、多くの高齢者施設で面会が厳しく制限されました。

このような状況では、後見人として訪問したくても物理的にできなくなってしまいます。その場合は、電話やオンライン面会に切り替えたり、施設職員の方からこまめに様子を伺ったりすることで、ご本人の状況把握に努めます。これは「訪問しない」のではなく、「訪問できない」正当な理由の一例であり、後見人が職務を怠っているわけではないことをご理解いただければと思います。

後見人との良好な関係を築くためにできること

ここまで読んでいただき、成年後見人の訪問頻度が一律ではない理由がお分かりいただけたかと思います。それでは最後に、これから制度の利用を考える方が、後見人とのすれ違いを防ぎ、良い関係を築くためにできることをご紹介します。

申立て前:後見人候補者との面談で希望を伝える

成年後見の申立てをする前に、後見人の候補者となる司法書士や弁護士と直接話す機会を持つことを強くお勧めします。その面談の場で、ご家族として後見人に期待することを具体的に伝えてみましょう。

例えば、「月に一度は本人のもとへ足を運んでいただき、その時の様子を簡単で結構ですのでメールで教えていただけますか?」といった形です。事前にこうした希望を伝えておくことで、お互いの認識のズレがなくなり、後々の「こんなはずではなかった」というトラブルを防ぐことができます。これは、申立て前の準備として非常に重要です。

開始後:不安な時はまず後見人に直接尋ねてみる

後見が始まった後、もし訪問の頻度やご本人の様子が気になったり、不安に感じたりした時は、一人で抱え込まずに、まずは後見人に直接連絡を取ってみてください。

その際、感情的に「なぜ来てくれないのですか!」と問い詰めるのではなく、「最近、母(父)の様子はいかがでしょうか?」と、穏やかに尋ねてみるのが良いでしょう。専門職後見人は多くの案件を抱えていることもありますが、ご家族からのご連絡は、ご本人の状況を改めてお伝えする良いきっかけになります。

後見人は、ご家族と対立するための存在ではなく、ご本人を支える関係者の一員です。建設的なコミュニケーションが、信頼関係を深め、より良いサポートにつながっていきます。私たちは、ご家族が円満でいられるような後見を目指しています。

まとめ:訪問頻度は「回数」もさることながら「質」と「信頼関係」が重要

成年後見人の訪問頻度は「月に一度」が一般的な目安ですが、それは決して絶対的なルールではありません。ご本人の健康状態、生活環境、ご家族との関係など、様々な事情を考慮した上で、一人ひとりに合わせた柔軟な対応が行われています。

本当に大切なのは、訪問の「回数」という数字に一喜一憂することではなく、その後見人がご本人の状況をきちんと把握し、その時々で最も必要なサポートを提供しているかという「業務の質」です。そして、それを支えるのが、ご家族と後見人との間の「信頼関係」に他なりません。

この記事が、「後見人は会いに来ないのではないか」というあなたの不安を和らげ、成年後見制度を正しく理解する一助となれば幸いです。認知症への備えには、様々な制度の選択肢があります。もし具体的なご心配ごとがございましたら、どうぞお気軽に当事務所にご相談ください。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

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