民事信託で第二受託者を決められない…その悩み、あなただけではありません
「親のために民事信託を組みたいけれど、自分の次に財産管理を任せられる人がいない…」
「兄弟は海外にいるし、自分の子どもに負担はかけたくない。第二受託者を決められずに、計画が止まってしまっている」
民事信託(家族信託)の準備を進める中で、このような「後継者問題」に頭を悩ませていらっしゃる方は、実は非常に多いのです。ご自身の万が一のことまで考え、何十年にもわたる財産管理の道筋を完璧に描こうとすれば、後継者選びでつまずいてしまうのは、むしろ自然なことと言えるかもしれません。
私たち司法書士は、ご家族の歴史や想いに触れる機会が多くあります。だからこそ、そのお悩みの深さがよくわかります。しかし、ここで知っておいていただきたいのは、「完璧な準備ができないからといって、信託を諦める必要は全くない」ということです。
この記事では、第二受託者を決められないというお悩みに対し、具体的なリスクと、現実的な解決策を一緒に考えていきます。一人で抱え込まず、まずは専門家と一緒に、ご自身の状況を整理してみませんか。この記事が、あなたの不安を解消し、大切なご家族を守るための一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
結論:第二受託者は「必須」ではない。でもリスクは知っておこう
さっそく結論からお伝えします。民事信託の契約において、第二受託者(後継受託者)を定めることは法律上の義務ではありません。つまり、必ずしも設定しなくてはならない、というわけではないのです。
まずは、第二受託者を定めない選択肢もあり得ることを確認しておきましょう。適任者が見つからないからといって、信託そのものを諦める必要はないのです。
ただし、ここで一つ大切なことがあります。それは、「第二受託者を設定しないことによるリスクを正しく理解した上で、ご自身の意思で『設定しない』という選択をすること」です。何も考えずにただ設定しないのと、リスクを理解した上で設定しないのとでは、意味が全く異なります。
なぜなら、予期せぬ事態が起きたときに、せっかく組んだ信託が目的半ばで終わってしまったり、かえってご家族に負担をかけてしまったりする可能性があるからです。信託の目的を実現し、家族の負担を抑えるために、まずはどのようなリスクがあるのかを確認していきましょう。これは、他の制度との比較検討においても重要な視点となります。

第二受託者を決めない場合に起こりうる3つのリスク
もし第二受託者を定めていない状況で、初代の受託者に万が一のことがあった場合、具体的にどのようなことが起こるのでしょうか。主なリスクを3つに絞って解説します。
リスク1:信託が強制的に終了してしまう
信託法では、受託者がいなくなってから1年間、新しい受託者が就任しない場合、その信託は終了すると定められています。つまり、受託者が亡くなった後、後継者が決まらないまま1年が経過すると、信託契約はその目的を果たせず、強制的に終わってしまう可能性があるのです。
リスク2:財産管理が一時的にストップする
受託者が亡くなったり、病気で任務ができなくなったりすると、新しい受託者が就任するまで、信託財産の通常の管理・処分が滞る「空白期間」が生じる可能性があります。例えば、親の介護費用を信託口座から引き出していた場合、新しい受託者が決まるまでお金を下ろせなくなってしまいます。この状態が長引けば、施設の支払いや日々の生活費に困るなど、深刻な事態を招きかねません。
リスク3:新しい受託者選びで家族が揉める
第二受託者の定めがない場合、新しい受託者を選ぶには原則として「委託者(親など)」と「受益者(親など)」の合意が必要です。しかし、その時点で委託者や受益者が認知症などで判断能力を失っていたら、合意はできません。その場合は、利害関係者が家庭裁判所に申し立てて、新しい受託者を選んでもらうことになります。
この手続きは時間がかかるだけでなく、誰が新受託者にふさわしいかで親族間の意見が対立し、思わぬトラブルに発展するケースも少なくありません。受託者には大きな責任が伴うため、その選任は慎重に行う必要があります。
では、第二受託者が実際に就任するのはどんな時?3つのケース
「もしも」の備えと言われても、具体的にどのような状況で第二受託者の出番が来るのか、イメージが湧きにくいかもしれません。ここでは、第二受託者が実際に就任する典型的な3つのケースをご紹介します。
ケース1:初代受託者の「死亡」
これは最も一般的で分かりやすいケースです。初代受託者が亡くなった場合、事前に定められた第二受託者がその任務を引き継ぎ、信託契約に基づいた財産管理を継続します。この定めがないと、先ほどのリスクで説明したような財産管理の空白期間や、信託終了の可能性が生じます。
ケース2:初代受託者の「判断能力の低下」
認知症や病気、不慮の事故などによって、初代受託者が財産を管理する能力を失ってしまうケースです。信託契約書に「受託者が後見開始の審判を受けた時」などと定めておくことで、スムーズに第二受託者へバトンタッチできます。特に、認知症になると不動産売却などの法律行為ができなくなるため、このような事態への備えは非常に重要です。
ケース3:初代受託者の「辞任・破産」
初代受託者が自身の都合で任務を続けられなくなる場合もあります。例えば、海外転勤で物理的に管理が難しくなったり、高齢や健康上の理由で辞任を申し出たりするケースです。また、万が一受託者が自己破産した場合も、受託者の任務は終了します。このような予期せぬ事態でも、第二受託者を定めておけば、信託財産を滞りなく守り続けることができます。

適任者がいない…第二受託者を決められない時の3つの現実的な対処法
リスクは分かったけれど、それでもやはり適任者が見つからない…という方もいらっしゃるでしょう。そのような場合でも、検討できる対応策があります。ここでは、専門家の視点から3つの現実的な対処法をご紹介します。ご自身の状況に最も合うのはどの選択肢か、考えてみてください。
選択肢1:第二受託者を定めず「信託を終了させる」と割り切る
一つ目の方法は、あえて第二受託者を定めず、「初代受託者に万が一のことがあった時点で、信託の目的は達成されたとみなし、信託を終了させる」と契約書に明記する方法です。
例えば、「親が認知症になった場合に備えて、子どもが財産管理をする」という目的で信託を組んだとします。もし、親が亡くなる前に子ども(初代受託者)が先に亡くなってしまった場合、その時点で信託を終了させ、残った財産は通常の相続財産として扱う、と割り切る考え方です。
この方法は、信託の目的が主に「親の生前の財産管理」に限定されている場合には合理的な選択肢となり得ます。ただし、信託終了後の財産は、信託契約で定めた残余財産受益者や帰属権利者に帰属するため、終了後の財産の帰属先を契約書で明確にしておく必要があります。また、障害を持つ子の生活を長期的に支えるための信託(福祉型信託)など、初代受託者の後も財産管理を継続させたい場合には、この方法は向きません。
選択肢2:候補者は決めず「選任方法」だけを定めておく
「今すぐには決められないけれど、将来的に誰かに引き継いでほしい」という場合に有効なのが、この方法です。信託契約書に「Aさんを第二受託者とする」と個人名を指定するのではなく、「新しい受託者の選び方」のルールだけを決めておくのです。
具体的には、以下のような定め方が考えられます。
- 「受益者との合意によって、新しい受託者を選任する」
- 「特定の親族(例:長男の子)の中から、受益者が指名する」
この方法のメリットは、将来の状況変化に柔軟に対応できる点です。今はいなくても、数年後には頼れる人が現れるかもしれません。一方で、いざという時に親族間で合意ができなかったり、専門家に依頼する費用が発生したりといったデメリットも考慮する必要があります。それでも、信託契約における意思確認の重要性を踏まえ、将来の不確実性に対応する次善の策として有効な選択肢です。
選択肢3:司法書士や信託会社など「家族以外の専門家」を候補にする
どうしても親族の中に適任者が見つからない場合には、信託会社などの信託業務を行える機関の活用や、司法書士・弁護士・税理士などの専門家への相談を通じて、家族以外の関与方法を検討することがあります。
メリットは、専門的な知識と経験に基づき、中立的な立場から財産管理に関与してもらえる可能性がある点です。特に、信託財産が高額で管理が複雑な場合や、親族間の関係性があまり良好でない場合には、第三者である専門家が入ることでスムーズに進むこともあります。
一方で、当然ながら専門家への報酬(費用)が発生するというデメリットがあります。他の制度との費用比較も行いながら、費用対効果を慎重に検討する必要があります。どの専門家に相談するべきかを含め、信頼できるパートナーを見つけることが重要です。
【事例】第二受託者を決めかねていたAさんのケース
ここで、実際に当事務所にご相談いただいたAさんの事例をご紹介します。Aさんは、さいたま市にお住まいのお父様のために民事信託を検討されていましたが、第二受託者をどうするかで悩んでいらっしゃいました。
打ち合わせの中で、私はAさんにこう尋ねました。
「もしAさんがお父様の財産管理をできなくなった時のために、第二受託者を設定することもできます。どなたか候補はいらっしゃいますか?」
するとAさんは、少し困った表情でこうおっしゃいました。
「妹はいるのですが、海外に移住していて日本にはいません。私の娘もいますが、祖父のことであまり負担をかけたくなくて…。一度、娘に相談してみようとは思っているのですが…」
Aさんのお気持ちは、とてもよく分かります。そこで、私はこうお伝えしました。
「第二受託者は、必ず決めておかなければならないものではないので、いなくても大丈夫ですよ。そもそもご家族やご親族の中で信託を組む場合、候補者が少なくて第二受託者まで決められない、ということは珍しくありません。それに、契約書に名前を書いたからといって、その方が必ず就任しなければならない義務もありません。『もしもの時は、まずこの人に声をかけてみよう』という、最初に相談する相手が決まっている、くらいの感覚でお考えいただいて大丈夫です。」
この説明を受けて、Aさんは第二受託者の位置づけを理解されました。
「なるほど、そういうことなんですね。それなら、妹にしようと思います。私がすぐどうこうなるわけではないでしょうし、妹もその頃には日本に帰ってきているかもしれません。妹はしっかり者なので、いざという時も任せやすいです。」
このお話を経て、Aさんの心の負担は軽くなったようでした。最終的に、海外にお住まいの妹さんを第二受託者として信託契約を無事に組成することができました。たとえ遠方に住んでいても、信頼関係があれば候補者となり得るのです。
まとめ:一人で抱え込まず、まずは専門家と考えを整理しませんか
この記事では、民事信託における第二受託者の問題について解説してきました。
- 第二受託者の設定は法律上の義務ではないこと
- ただし、設定しない場合は「信託の強制終了」「財産管理の停止」「親族トラブル」などのリスクがあること
- 適任者がいない場合でも「信託を終了させると割り切る」「選任方法だけ決めておく」「専門家を候補にする」といった対処法があること
第二受託者を決められないという悩みは、決して特別なことではありません。むしろ、ご家族の将来を真剣に考えているからこそ直面する、大切な悩みです。
大切なのは、完璧な答えを一人で出そうと抱え込まないことです。私たち司法書士のような専門家は、単に法律の知識を提供するだけではありません。お客様一人ひとりのご家庭の状況や想いを丁寧にお伺いし、様々な選択肢のメリット・デメリットを整理しながら、ご家庭の状況に応じた選択肢を整理し、現実的な対応方法を検討する役割も担います。
「うちの場合はどうなんだろう?」「どの選択肢が合っているんだろう?」少しでもそう感じたら、ぜひ一度お話をお聞かせください。無料相談の場などを活用し、まずは専門家と一緒に考えを整理することから始めてみませんか。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

