「ご先祖様の家系図」と「相続で使う相続関係説明図」は全くの別物です
ご自身のルーツをたどり、家族の歴史を形にした家系図は、とても価値があり素晴らしいものです。しかし、相続手続きという法律的な場面においては、残念ながらその家系図をそのまま使うことはできません。
このお話をすると、多くの方が「どうして?ちゃんと家族関係が書いてあるのに…」と不思議そうな顔をされます。そのお気持ち、とてもよく分かります。
以前、私が相続登記を担当させていただいた調布市にお住まいのAさんから、こんなお電話をいただいたことがありました。
「竹内さん、相続をきっかけに自分のご先祖様のことが気になって、家系図を作りたいんです。司法書士さんなら戸籍を集めるプロだから、お願いできませんか?」
正直なところ、当事務所では家系図作成を専門にはしていませんが、Aさんの熱心なご依頼もあり、お手伝いさせていただくことになりました。しかし、この経験を通じて、相続手続きで私たちが扱う戸籍と、家系図作成でたどる戸籍とでは、その目的も、集める範囲も、そして最終的に出来上がる図も「全くの別物」なのだと改めて痛感させられました。
相続手続きでは、亡くなった方(被相続人)を中心に「誰が法律上の相続人なのか」を確定させるために戸籍を集めます。一方、家系図は父方、母方へと枝分かれしながら、何代もさかのぼっていくため、集める戸籍の量は膨大になります。Aさんのケースでは、最終的に47枚もの戸籍が集まり、それを読み解いて複数の系統に分けて図にしていくのは、まさに大作業でした。
この記事では、この時の経験も交えながら、ロマンあふれる「家系図」と、法的手続きをスムーズに進めるための機能的な「相続関係説明図」との違いを、分かりやすく解説していきます。なぜ家系図が使えないのか、その理由がスッキリとご理解いただけるはずです。
なお、相続手続きで登場する専門用語については、相続関係の法律用語で詳しく解説していますので、全体像を掴むためにもぜひご一読ください。
なぜ相続手続きに「家系図」は使えないのか?3つの理由
「うちには立派な家系図があるのに、どうして相続手続きには使えないの?」この疑問に、専門家の視点からハッキリとお答えします。理由は大きく分けて3つあります。このポイントさえ押さえれば、なぜ「相続関係説明図」という別の書類が必要になるのか、きっとご納得いただけるでしょう。

理由1:相続人を法的に証明する力(公的証明力)がないから
相続手続きを行う法務局や金融機関が最も重視するのは、「誰が正当な相続人なのか」を客観的な証拠で確認することです。そのための基本となる公的な書類が、戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍などの戸籍関係書類なのです。
ご家庭で大切に保管されている家系図は、たとえその内容が正確であったとしても、あくまで個人や民間の業者が作成した「私的な文書」です。役所が内容を証明したものではないため、残念ながら法的な手続きの場で「この人が相続人です」と証明する力(公的証明力)を持ちません。
万が一、家系図の内容に誤りがあったり、記載されていない相続人がいたりした場合、手続き全体が覆ってしまう大きなリスクがあります。そのため、手続きを行う側は、公的機関が発行した戸籍謄本という「お墨付き」のある書類でなければ、受け付けることができないのです。時には戸籍調査で知らない兄弟が発覚するケースもあるほど、相続人の確定は厳格に行われます。
理由2:手続きに必要な情報(本籍・住所など)が書かれていないから
一般的な家系図に記載されているのは、主に氏名、続柄、生年月日や没年月日といった情報です。しかし、相続手続き、特に不動産の名義変更(相続登記)では、それだけでは情報が全く足りません。
具体的には、以下のような詳細な情報が必要になります。
- 被相続人(亡くなった方)の情報
- 最後の本籍地
- 最後の住所地(住民票の除票に記載の住所)
- 登記簿上の住所(不動産をお持ちの場合)
- 相続人の情報
- 現在の本籍地
- 現在の住所地
これらの情報は、相続人を特定し、不動産の権利を正確に移転するために不可欠です。家系図は、家族のつながりを視覚的に理解することを目的としているため、このような事務手続きに必要な細かい情報までは網羅されていないことがほとんどです。これが、家系図が手続きに使えない2つ目の大きな理由となります。
理由3:情報の正確性を戸籍謄本で裏付けできないから
相続手続きで提出する「相続関係説明図」は、それ一枚だけで効力を発揮するわけではありません。相続関係説明図は、それ自体が公的証明書ではないため、実務上は戸籍関係書類(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍など)と併せて内容を確認してもらう形で使われます。
法務局や金融機関の担当者は、提出された相続関係説明図と、山のようにある戸籍謄本の内容を一つひとつ照らし合わせ、「図に書かれている内容が、すべて戸籍謄本で証明できるか」を厳しくチェックします。この照合作業を経て、初めて手続きが進められるのです。
家系図の場合、そもそも何に基づいて作成されたのかが不明確であったり、元となる戸籍が手元になかったりするため、この「裏付け確認」ができません。つまり、家系図は相続関係を整理する「参考」にはなり得ますが、相続人であることの公的な証明は戸籍関係書類に基づいて行われるのが基本です。
参照:法務局|相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等
相続関係説明図とは?作成する3つのメリット
では、家系図の代わりに必要となる「相続関係説明図」とは、一体どのような書類なのでしょうか。簡単に言えば、「戸籍謄本に書かれている複雑な相続関係を、誰にでも分かりやすく一枚の図にまとめた、手続き専用の書類」です。
この書類を作成することには、相続手続きをスムーズに進めるための大きなメリットが3つあります。
メリット1:戸籍謄本一式の原本を返してもらえる(原本還付)
相続関係説明図を作成する最大のメリットは、これかもしれません。相続手続きでは、不動産の名義変更(法務局)、預貯金の解約(銀行)、株式の名義変更(証券会社)など、複数の窓口で戸籍謄本一式の提出を求められます。
もし相続関係説明図がない場合、手続き先ごとに戸籍謄本一式を提出し、その都度返却を待つか、あるいは手続き先の数だけ戸籍謄本のセットを取得し直さなければなりません。戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)は1通450円、除籍謄本や改製原戸籍は1通750円などの手数料がかかり、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集めると、それなりの枚数と金額になります。これが複数セット必要となると、費用も時間も大きな負担です。
しかし、相続関係説明図を添付して提出することで、戸籍関係書類の原本還付(確認後に原本の返却を受けること)がしやすくなり、結果として同じ戸籍一式を別の手続で使いやすくなります。私たち司法書士が実務で必ず作成するのは、このメリットが非常に大きいからです。
メリット2:複雑な相続関係を整理し、相続人を確定できる
相続は、必ずしも単純な親子関係だけとは限りません。代襲相続(子が先に亡くなり孫が相続人になる)、数次相続(相続手続き中に相続人が亡くなる)、前妻の子や認知した子がいる場合など、戸籍をただ眺めているだけでは、誰が最終的な相続人なのか分かりにくいケースが多々あります。
相続関係説明図を作成する過程で、戸籍を丹念に読み解き、関係性を一本ずつ線で結んでいくことで、複雑に絡み合った親族関係が整理されます。これにより、「誰が相続人で、誰が相続人ではないのか」が一目瞭然となり、相続人全員の共通認識を形成するのに役立ちます。
これは、後の遺産分割協議を円滑に進めるための「地図」のような役割を果たしてくれるのです。
メリット3:司法書士や税理士への相談がスムーズに進む
専門家に相続の相談をする際、口頭だけで複雑な家族構成を正確に伝えるのは、想像以上に難しいものです。「父の兄の妻の…」といった説明では、誤解が生じたり、何度も同じことを確認したりと、時間がかかってしまいます。
そんな時、相続関係説明図が1枚あるだけで、司法書士や税理士は瞬時に状況を把握できます。これにより、相談が非常にスムーズに進み、より的確なアドバイスを短時間で受けることが可能になります。相談時間の短縮は、結果的に専門家へ支払う費用を抑えることにも繋がるかもしれません。
相続関係説明図と法定相続情報一覧図、どちらを選ぶべき?
相続手続きの書類を調べていると、「法定相続情報一覧図」という言葉も目にするかもしれません。これは相続関係説明図とよく似ていますが、決定的な違いがあります。
- 相続関係説明図:ご自身や司法書士などが作成する「私文書」。戸籍一式とセットで提出することで効力を発揮する。
- 法定相続情報一覧図:法務局に戸籍一式を提出し、内容が正しいとお墨付きをもらった「公的な証明書」。これ1枚で戸籍一式の代わりになる。
どちらも相続関係を証明する書類ですが、その性質と使い勝手が異なります。どちらを選ぶべきか、状況に応じて判断しましょう。
| 相続関係説明図 | 法定相続情報一覧図 | |
|---|---|---|
| 性質 | 私文書 | 公的な証明書 |
| 作成者 | 本人、司法書士など | 法務局(申出は本人、司法書士など) |
| メリット | ・様式が比較的自由・すぐに作成できる | ・これ1枚で戸籍一式の代わりになる・無料で何枚でも発行可能 |
| デメリット | ・必ず戸籍一式とセットで提出が必要 | ・法務局での確認・交付までに一定の時間がかかる場合がある・様式が厳格に決まっている |
| おすすめのケース | ・相続登記など、手続き先が法務局のみの場合・手続きを急いでいる場合 | ・銀行や証券会社など、複数の金融機関で手続きが必要な場合・相続税申告が必要な場合 |
簡単に言えば、手続き先が少ないなら「相続関係説明図」で十分ですし、多くの金融機関を回る必要があるなら「法定相続情報一覧図」を取得しておくと、その後の手続きが非常に楽になります。ただし、住民票が廃棄済みで被相続人の住所が証明できない場合など、一覧図の作成に特殊な対応が必要なケースもあります。
司法書士が解説!相続関係説明図の作成方法と注意点
それでは、実際に相続関係説明図を作成する手順を見ていきましょう。ご自身で作成に挑戦される方は、ぜひ参考にしてください。
ステップ1:まずは必要書類を集める(戸籍謄本など)
何よりも先に、図の根拠となる公的書類を集める必要があります。これがなければ始まりません。最低限、以下の書類を準備しましょう。
- 被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本:出生から死亡までの一連のものすべて
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票):最後の住所地を証明するため
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票:不動産を相続する人は必須
これらの戸籍には人の歴史が詰まっており、収集は相続手続きの第一歩です。2024年3月から始まった「戸籍の広域交付制度」により、本籍地以外の役所でもまとめて戸籍を取得できるようになり、以前よりは負担が軽減されています。
ステップ2:基本の書き方と記載すべき項目
書類が集まったら、いよいよ図を作成します。手書きでも、WordやExcelで作成しても構いません。法務局の様式を参考に、以下の項目を漏れなく記載しましょう。
- タイトル:「相続関係説明図」と明記します。
- 被相続人の情報:氏名、最後の本籍、最後の住所、登記簿上の住所、生年月日、死亡年月日を記載します。
- 相続人の情報:被相続人との続柄、氏名、住所、生年月日を記載します。
- 関係性の表示:夫婦は二重線(=)、親子や兄弟は一重線(-)で結びます。すでに亡くなっている方には氏名に×をつけます。
- 相続関係の記載:不動産を相続する人の名前の横に「(相続)」、遺産分割協議により相続しない人には「(分割)」、相続放棄した人には「(相続放棄)」などと記載します。
- 作成日の記載:最後に、作成年月日と作成者の氏名を記載します。
ステップ3:【ケース別】間違いやすいポイントと記載例
実務では、より複雑なケースによく遭遇します。ここでは、特に間違いやすいポイントをいくつかご紹介します。
- 代襲相続がある場合:本来の相続人(子など)が被相続人より先に亡くなっている場合、その子(被相続人から見て孫)が相続人になります。この孫の続柄は「孫(代襲相続人)」と記載し、先に亡くなった子の情報も記載します。
- 数次相続がある場合:被相続人が亡くなった後、遺産分割協議が終わらないうちに相続人の一人が亡くなった場合です。この場合、亡くなった相続人の相続人が、その地位を引き継ぎます。図が複雑になるため、専門家への相談をおすすめします。
- 離婚・再婚・養子縁組がある場合:離婚した元配偶者は相続人になりませんが、その間の子は相続人です。再婚相手や養子も法律上の相続人となります。関係性が分かるように、戸籍の情報を正確に図に反映させる必要があります。
これらの複雑なケースでは、相続人が死亡している場合の書き方も異なり、判断が難しくなります。少しでも不安を感じたら、無理せず専門家を頼ってください。
相続関係説明図の作成は司法書士に相談すべき?判断の目安
ここまで読んで、「自分でも作れそうだけど、やっぱり大変そう…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。ご自身で対応するか、専門家に依頼するかは、どのように判断すれば良いのでしょうか。

相続人が配偶者と子どものみ、といったシンプルな家族構成であれば、ご自身で作成に挑戦してみるのも良いでしょう。しかし、以下のようなケースでは、司法書士に依頼するメリットが大きいと言えます。
- 相続関係が複雑で、誰が相続人になるのか自信がない。
- 代襲相続や数次相続が発生している。
- 戸籍を集める時間がない、または本籍地が全国に散らばっていて大変。
- 相続人の中に行方不明の人や、連絡を取りたくない人がいる。
- 相続登記の義務化の期限が迫っており、手続きを迅速・正確に進めたい。
相続は、単なる手続きの連続ではありません。ご家族を亡くされた悲しみの中で、慣れない作業を進めるのは精神的にも大きな負担です。私自身、心理カウンセラーの資格も持っていますが、手続きの不安だけでなく、ご家族間のストレスや悩みを抱え込んでしまう方をたくさん見てきました。
戸籍の収集から相続関係説明図の作成、その後の不動産の名義変更まで、一括してお任せいただくことで、皆様の心と時間の負担を大きく減らすことができます。少しでも不安があれば、一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ:目的を理解し、ご自身の状況に合った書類を準備しましょう
今回は、「家系図」と「相続関係説明図」の違いについて解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 家系図:ご先祖様とのつながりや家族の歴史を知るための、ロマンあふれるもの。
- 相続関係説明図:法的な相続手続きを円滑に進めるための、機能的な書類。公的な証明力はないが、戸籍の原本還付を受けられるなど大きなメリットがある。
この「目的の違い」をご理解いただければ、なぜ相続手続きに家系図が使えないのか、そして相続関係説明図(または法定相続情報一覧図)が必要なのかがお分かりいただけたかと思います。
相続手続きは、人生で何度も経験することではありません。分からないこと、不安なことがあって当然です。この記事が、皆様の次の一歩を踏み出すための助けとなれば幸いです。もし手続きのことでお困りでしたら、いつでも私たち専門家を頼ってくださいね。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

