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離婚の財産分与登記|税金・費用と司法書士への相談

2026-02-03

離婚後の不動産、手続きは大丈夫?財産分与登記の現実

離婚という、大きな決断を乗り越えようとされている今、心身ともにお疲れのことと思います。ただでさえ精神的な負担が大きい中で、さらにご自宅など不動産の名義変更(財産分与登記)という、複雑で専門的な手続きが待ち受けている状況に、不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。

「今は考えたくない」「できれば元パートナーとはもう連絡を取りたくない…」
そうしたお気持ちになるのは、ごく自然なことです。

しかし、この財産分与の登記手続きは、単なる名義の書き換えではありません。後回しにしてしまうと、予期せぬ多額の税金が発生したり、将来的に不動産を失ってしまうような深刻なトラブルに発展したりする可能性を秘めているのです。

この記事では、離婚後の不動産手続きという大きな不安を抱えるあなたのために、司法書士が専門家の視点から、財産分与登記にかかる税金や費用のこと、そして放置した場合のリスクについて、一つひとつ丁寧に解説していきます。この記事が、あなたの不安を少しでも和らげ、新しい一歩を踏み出すための道しるべとなれば幸いです。

財産分与登記にかかる税金と費用はいくら?

「いったい、いくらお金がかかるの?」
おそらく、今あなたが最も気になっているのは、この「お金」の問題でしょう。財産分与登記では、主に4種類の税金と、司法書士に依頼した場合の報酬が関係してきます。誰が、いつ、どのくらい支払う可能性があるのか、全体像を把握して、予期せぬ出費への不安を解消しましょう。

離婚時の財産分与登記で発生する可能性のある4つの税金(譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税、贈与税)の関係性をまとめた図解。

【渡す側】に課される可能性のある「譲渡所得税」

不動産を渡す側(譲渡する側)に、思わぬ形で課税される可能性があるのが「譲渡所得税」です。

これは、不動産を取得した時(購入した時)の価格よりも、財産分与する時の時価の方が高くなっている場合、その「値上がり益(譲渡所得)」に対してかかる税金です。現金で利益を得ているわけではないのに税金がかかる、という点に注意が必要です。

基本的な計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 分与時の時価 – (取得費 + 譲渡費用)

この計算でプラスになった場合、原則として譲渡所得税が課税されます。
しかし、ご安心ください。ご自宅として住んでいた不動産の場合、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」という特例が使える可能性があります。この特例を適用できれば、譲渡所得が3,000万円までなら税金はかかりません。

ただし、この特例には重要な注意点があります。例えば、離婚前の配偶者への譲渡は「親子や夫婦など『特別の関係がある人』に対して売ったもの」に該当し、特例を適用できない可能性があります。一方、離婚後であっても、居住要件など他の要件を満たさなければ特例は使えません。適用可否は事案により変わるため、事前に専門家へ確認することが重要です。

参照:国税庁「No.3114 離婚して土地建物などを渡したとき」

【もらう側】が登記時に支払う「登録免許税」

不動産をもらう側が、名義変更(所有権移転登記)の際に必ず支払う税金が「登録免許税」です。これは、登記を申請する際に法務局へ納める手数料のようなものです。

税額は、以下の計算式で算出されます。
登録免許税 = 不動産の固定資産税評価額 × 2%

例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産であれば、登録免許税は40万円となります。
ご自身の不動産の評価額は、毎年春頃に市区町村から送られてくる「固定資産税の納税通知書」に記載されています。また、市区町村の役所で「固定資産評価証明書」を取得することでも確認できます。

注意すべきその他の税金(不動産取得税・贈与税)

上記の2つに加えて、状況によっては「不動産取得税」と「贈与税」がかかるケースもあります。

  • 不動産取得税:不動産を取得した際にかかる税金ですが、夫婦の共有財産を清算する目的の「清算的財産分与」であれば、原則として課税されません。しかし、離婚の原因を作った側が支払う慰謝料として不動産を渡した場合(慰謝料的財産分与)や、離婚後の生活を支える目的(扶養的財産分与)とみなされると、課税対象となる可能性があります。
  • 贈与税:こちらも原則として課税されませんが、分与された財産の額が、婚姻中の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過大であると判断された場合、その過大な部分に対して贈与税が課されるリスクがあります。

これらの税金がかかるかどうかの判断は非常に専門的で、安易な自己判断は危険です。事前に税理士さんへ相談し、ご自身の状況がどのケースに当てはまるのかを正確に把握しておくことも大切です。当事務所では依頼者様のご希望に合わせて、税理士さんと連携してご相談を承ることも可能です。

またテーマについては、不動産と離婚の重要知識を解説!でも解説していますので、こちらも合わせてご覧ください。。

財産分与登記を放置するリスクとよくあるトラブル

「手続きが面倒だから」「落ち着いてからでいいか」と、財産分与登記を先延ばしにすることには、想像以上に大きなリスクが潜んでいます。時間が経てば経つほど、問題は複雑になり、解決が困難になってしまうのです。

「言った言わない」は通用しない?口約束の危険性

離婚時に「家はあなたにあげる」という口約束だけで済ませてしまうのは、非常に危険です。離婚協議書や公正証書といった書面がなければ、後になって「そんな約束はしていない」と言われてしまう可能性があります。

特に、時間が経ち、元パートナーの気持ちが変わってしまったり、再婚して新しい家族ができたりすると、手続きへの協力を得るのは非常に難しくなります。法的に名義変更を強制することも困難になり、最悪の場合、住む家を失うことにもなりかねません。

離婚後の不動産手続きに悩み、頭を抱える女性。

元パートナーが非協力的に…司法書士が見た実例

離婚後の手続きは、合理的に考えれば協力すべきことでも、感情的な対立から進まなくなるケースが少なくありません。これは、私が司法書士として実際に体験したお話です。

開業してまだ1年もたたないころ、ホームページ経由で60代の男性からご依頼がありました。すでに離婚は成立し、弁護士さんが作成した公正証書もある。あとは公正証書通りに、ご依頼者様から元奥様へ不動産の名義を移す登記をするだけ、という状況でした。

ご依頼者様からは「話し合いは終わっているから、妻に直接連絡してもらって大丈夫です」と元奥様の連絡先を伺いました。財産をもらう側の元奥様にとって、司法書士からの連絡は所有権移転登記をして自分の名義にするためのステップです。そう否定的な反応は無いと思っていた私は、まだまだ経験不足でした。

早速お電話しましたが、つながりません。何度か日を改めても状況は変わらず、お手紙を出そうかと思っていた頃、一本の電話が。しかし、相手はご本人ではなく息子さんを名乗る男性でした。

「本人に承諾もなく、勝手に個人情報を聞き出して連絡するとは何事ですか!」

電話口で、強い口調で叱責されてしまいました。合理的に考えれば、財産を受け取る手続きの連絡で元奥様にとってプラスに働く連絡です。しかし、息子さんにとっては「父親が手配した人間=敵」という認識だったのでしょう。個人情報の問題を本気で指摘しているわけではない、感情的な反発なのだと感じました。

私はすぐにご依頼者様へ報告し、元奥様の代理人だった弁護士の先生に間に入っていただく形で、なんとか書類を揃え、無事に登記を終えることができました。この一件以来、緊張感のある相手方へ連絡する際は、まずお手紙をお送りするようにしています。

離婚後の当事者間のやり取りは、このように法律や理屈だけでは進まない、感情的な対立を避ける対応が不可欠です。だからこそ、第三者である司法書士が間に入ることで、精神的な負担を減らし、確実な手続きを進めるお手伝いができるのです。

住宅ローンが残っている場合の大きな落とし穴

不動産に住宅ローンが残っている場合、問題はさらに複雑になります。最も注意すべき点は、不動産の名義変更をしても、ローンの債務者は自動的に変わらないということです。

例えば、夫名義のローンが残った家を、妻が財産分与で受け取ったとします。家の名義は妻に変わっても、ローンを支払う義務は夫に残ったままです。もし夫が返済を滞納すれば、金融機関は家を差し押さえることができ、妻は住む場所を失ってしまいます。

また、金融機関に無断で名義変更をすることは、ローン契約の違反にあたる可能性もあります。必ず金融機関に離婚することを伝え、今後の手続きについて相談しましょう。

司法書士が解決!財産分与登記の進め方と必要書類

ここまでお読みいただき、財産分与登記の重要性と複雑さをご理解いただけたかと思います。「自分一人で進めるのは難しそう…」と感じられたかもしれません。司法書士にご依頼いただくことで、これらの煩雑な手続きを整理し、手続きが進めやすくなる場合があります。

当事務所では、お客様の精神的なご負担を少しでも軽くできるよう、当事者同士が極力顔を合わせずに済む手続きを心がけています。

ご相談から登記完了までの5ステップ

司法書士に依頼した場合、手続きは主に以下の5つのステップで進みます。

  1. ご相談:まずはお客様の状況を詳しくお伺いします。財産分与の内容、住宅ローンの有無、税金の心配など、どんなことでもお話しください。
  2. 財産分与内容の確認と書類作成:離婚協議書や公正証書の内容を確認し、登記に必要な書類(登記原因証明情報など)を作成します。そもそも協議書そのものがない場合もご安心ください。司法書士が文案を作成します。
  3. 当事者双方への連絡と意思確認:司法書士が中立的な立場で、不動産を渡す方・もらう方それぞれにご連絡します。登記内容の意思確認や必要書類のご案内を行うため、お客様が直接元パートナーとやり取りする場面を減らせる場合があります。
  4. 登記申請:必要書類がすべて揃いましたら、司法書士が法務局へ所有権移転登記を申請します。
  5. 登記完了・書類のお渡し:登記が完了しましたら、新しい権利証(登記識別情報通知)など、関係書類一式をお客様にお渡しして、手続きは終了です。

財産分与登記に必要な書類一覧

登記手続きには、主に以下の書類が必要となります。事案によって異なりますので、あくまで一般的な例としてご参照ください。

【不動産を渡す方(登記義務者)】

  • 不動産の権利証(または登記識別情報通知)
  • 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
  • 実印

【不動産をもらう方(登記権利者)】

  • 住民票
  • 認印

【共通して必要なもの】

  • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
  • 固定資産評価証明書
  • 財産分与契約書、離婚協議書、公正証書など登記の原因を証明する書類(遺産分割協議書と同様に、登記の根拠となる重要な書面です)
  • 離婚の事実がわかる戸籍謄本

これらの書類の収集や作成も、司法書士がサポートいたしますのでご安心ください。

司法書士に相談し、問題が解決して安堵の表情を浮かべる女性。

まとめ:心の負担を軽くする、下北沢司法書士事務所の想い

離婚に伴う財産分与登記は、単に書類を作成し、申請するだけの事務的な作業ではありません。そこには、お二人が共に過ごした時間や、様々な想いが詰まっています。だからこそ、手続きの不安が、あなたの新しい人生への一歩を妨げるものであってはならないと、私たちは考えています。

司法書士の役割は、法的な手続きを代行することだけではありません。お客様が抱える不安や悩みに寄り添い、法的な手続きの心配から解放することで、心穏やかに次のステージへ進むためのお手伝いをすることです。

当事務所の代表は、不動産業界での実務経験に加え、心理カウンセラーの資格も有しております。「心に優しく、多角的に丁寧に課題と向き合う」ことを大切に、法律の専門家として、そして一人の人間として、あなたの再出発を全力でサポートいたします。

こうした姿勢が評価され、東京23区はもちろん東京都下や千葉・埼玉・神奈川などの首都圏からもご依頼をいただいております。

対応エリア | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

どうぞお気軽にご相談ください。

財産分与登記の相談・お問い合わせ

下北沢司法書士事務所 竹内友章

遺留分侵害と相続登記|不動産しかない場合の対処法

2026-02-02

「遺留分を請求されたら、この家を失ってしまうの?」ある相談者の不安

「このまま相続登記を進めて、後から姉に遺留分を請求されたら、とんでもないことになりませんか…?」

当事務所を開業してから数年がたったころ、税理士さんからご紹介いただいた相続登記のご相談でのこと。お母様が遺してくれたご自宅に、一人で暮らすご依頼者の娘さんは、消え入りそうな声でそうおっしゃいました。

遺言には、この家をすべて娘さんに相続させると書かれていました。しかし、戸籍を拝見すると、ご依頼者にはお姉様が一人いらっしゃいます。詳しくお話を伺うと、お母様の財産はこのご自宅がほとんどで、現金はあまりないとのこと。ご依頼者自身も、ご病気のこともあり長時間働くことが難しく、家賃のかからないこの家を頼りに、パート収入でなんとか暮らしているという状況でした。依頼者様はネットで知った「遺留分」について非常に心配されていました。

お母様を亡くされた悲しみと、一人暮らしになった心細さ。そして、「遺留分」という聞き慣れない言葉への漠然とした不安が、依頼者様の心を重くしているのが伝わってきました。

「もし、姉から多額のお金を請求されたら…?どうやって対応すれば良いのですか?」

私は、二つのことを丁寧にお伝えしました。

一つは、遺留分は「必ず請求されるとは限らない」ということ。ご姉妹は疎遠ではあるものの、特段仲が悪いわけではなく、お姉様の生活も安定しているご様子。実際、遺留分が侵害されていても、請求に至らないケースはたくさんあります。例えば「母が全部相続する」という遺言があったからといって子が遺留分請求するケースの方が数としては少ないでしょうし、自宅を相続した長男に次男が遺留分侵害請求することも数としては少ないと思います。

そして、もう一つ。これが最も大切なことですが、「遺留分は『お金』で支払うものなので、請求されたからといって、このご自宅の所有権がすぐに脅かされるわけではない」という事実です。

この言葉に、彼女の表情が少しだけ和らいだのを今でも覚えています。法的な手続きを進めるだけでなく、不安な心に寄り添い、少しでも気持ちを軽くすることを大事にしたいなと思った出来事でした。

この記事を読んでくださっているあなたも、もしかしたら、かつての彼女と同じような不安を抱えているのかもしれません。大丈夫です。この記事を読み終える頃には、その不安の正体が分かり、次に何をすべきかが明確になっているはずです。一緒に、一歩ずつ進んでいきましょう。

まず落ち着いて確認。遺留分と相続登記の基本

不安な気持ちでいると、どうしても悪い方向にばかり考えてしまいがちです。まずは冷静に、今の状況を正しく理解することから始めましょう。遺留分と相続登記について、知っておくべき基本的なポイントは2つです。

遺留分と相続登記の基本を図解したインフォグラフィック。遺留分が金銭請求であること、相続登記が3年以内に義務化されたことを示している。

遺留分とは?最低限の取り分を「お金で」請求する権利

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、最低限の遺産の取り分のことです。具体的には、配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属(父母や祖父母など)が遺留分権利者となります。たとえ遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていても、他の遺留分権利者(例えば次男や長女)は、この遺留分を請求する権利を持っています。

ここで非常に重要なのが、相続法改正(民法等改正)です。改正により、遺留分の請求は「遺留分侵害額請求(民法1046条)」として金銭の支払を求める形に整理され、令和元年(2019年)7月1日以後に開始した相続から適用されています。改正前は、不動産そのものの返還を求める(共有持分を主張する)こともできましたが、現在は原則としてお金での解決が求められます。

つまり、遺留分を請求されても、いきなり不動産が共有状態になったり、家を追い出されたりするわけではない、ということです。これが、まずあなたに知っておいてほしい一番の安心材料です。

遺留分の割合は、法定相続分によって異なります。例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者の遺留分は全財産の1/4、子2人の遺留分は合わせて1/4となります。もし5,000万円の価値がある不動産が唯一の相続財産で、相続人が子2人(長男・次男)だったとします。遺言で「すべて長男へ」とあった場合、次男の遺留分は「5,000万円 × 1/2(法定相続分) × 1/2(遺留分割合) = 1,250万円」となります。次男は長男に対して、この1,250万円を金銭で支払うよう請求できる、ということになります。具体的な相続分の計算は相手方のあること。話し合いで決まってくる部分もあります。

参照:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について|法務省

相続登記の義務化|遺留分問題があっても手続きは必須

もう一つ、避けては通れないのが相続登記です。2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続(遺言を含む。)により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があり、正当な理由なく怠った場合には10万円以下の過料の適用対象となります。なお、施行日前に開始した相続で未登記の不動産にも義務は及び、原則として令和9年(2027年)3月31日までに相続登記が必要です。

「遺留分の問題が解決していないから…」という理由で、相続登記を先延ばしにすることはできません。むしろ、問題が複雑に絡み合っているからこそ、放置すればするほど状況は悪化してしまいます。たとえば、相続人が増えてしまうなど、さらなるトラブルの原因にもなりかねません。

問題が複雑だからこそ、専門家と一緒に計画を立て、着実に進めていくことが何よりも大切なのです。

相続財産が不動産しかない場合の遺留分の支払い方

「理屈は分かったけれど、結局、支払うためのお金がない…」
ここが、多くの方が一番頭を悩ませる点だと思います。相続財産がご自宅だけ、というケースは決して珍しくありません。そんな時に考えられる、具体的な3つの支払い方法を見ていきましょう。

相続財産が不動産しかない場合の遺留分の支払い方3つの方法。不動産売却、代物弁済、期限の許与という選択肢を図解している。

①不動産を売却して現金で支払う

最もシンプルで分かりやすいのが、相続した不動産を売却し、その売却代金から遺留分侵害額を支払う方法です。これを「換価分割」と呼びます。

  • メリット:公平に金銭で解決できるため、後腐れがありません。また、不動産の維持管理といった負担からも解放されます。
  • デメリット:当然ながら、住み慣れた家を失うことになります。また、不動産が希望する価格やタイミングで売れるとは限らないという不確実性もあります。

注意点として、不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、「譲渡所得税」という税金がかかる可能性があります。売却を検討する際は、司法書士だけでなく、税理士にも相談し、税金のことも含めて計画を立てることが不可欠です。私たち司法書士は、不動産の売却を前提とした遺産分割協議書の作成から、登記手続きまでサポートいたします。

②不動産の一部を渡す(代物弁済)

現金を用意できない場合に、金銭の代わりに不動産の所有権の一部を相手方に渡すことで解決する方法です。これを「代物弁済(だいぶつべんさい)」といいます。

  • メリット:手元に現金がなくても解決が可能です。家に住み続けながら、相手方と不動産を共有するという形になります。
  • デメリット:不動産を共有することで、将来の売却や建て替えの際に、また相手方の同意が必要になるなど、新たな問題の火種となる可能性があります。

そして、代物弁済には非常に重要な注意点があります。それは、不動産を渡した側に「譲渡所得税」が課税される可能性があるということです。「お金をもらっていないのになぜ?」と思われるかもしれませんが、税法上は「不動産を時価で売却し、そのお金で借金を返済した」と見なされるのです。

この方法を選択する場合は、当事者間の合意を書面(遺産分割協議書など)に残し、「代物弁済」を原因として所有権を一部移転する登記手続きが必要です。予期せぬ税負担を避けるためにも、必ず事前に専門家へご相談ください。

③支払い期限を延期してもらう(期限の許与)

売却しようにも早急な支払いを求められているなどの事情がある場合、裁判所に対して申し立てを行うことで、支払い期限を延ばしてもらえる「期限の許与」という制度があります。

これは、遺留分を支払う側の資力や状況を考慮して、裁判所が相当の期限を定めてくれるものです。ただし、これはあくまで最終手段の一つであり、認められるかどうかは裁判所の判断によります。まずは当事者間で分割払いの交渉をするなど、話し合いによる解決を目指すのが基本です。このような制度があることを知識として知っておくだけでも、少し心の余裕が生まれるかもしれません。

遺留分と相続登記、誰に相談すべき?最適な専門家の選び方

ここまで読んでいただき、問題の全体像は見えてきたものの、「自分一人で進めるのは無理だ」と感じられたのではないでしょうか。その通りです。遺留分と相続登記が絡む問題は、法律や税金、そして何より家族の感情が複雑に絡み合うため、専門家のサポートが不可欠です。

司法書士事務所で、相談者の女性が司法書士に安心して相談している様子。専門家への相談の重要性を示している。

司法書士と弁護士の役割分担と連携

では、誰に相談すればよいのでしょうか。ここで登場するのが、司法書士と弁護士です。それぞれの役割には違いがあります。

専門家主な役割得意なこと
司法書士登記・書類作成のプロ相続登記、遺産分割協議書の作成、法的な状況の整理、相続人調査など。円満な話し合いのサポート。法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)は、簡易裁判所で取り扱える民事事件(訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求事件)等について、裁判手続や裁判外の和解等の「簡裁訴訟代理等関係業務」の範囲で代理業務を行うことができます。
弁護士交渉・紛争解決のプロ代理人として相手方と直接交渉する、調停や裁判で主張を行うなど、争いになった場合の対応。
司法書士と弁護士の役割

簡単に言えば、話し合いで円満に解決できそうな段階や、手続き・書類作成がメインの場合は「司法書士」すでに関係がこじれており、交渉や裁判が必要な場合は「弁護士」が主な担当となります。

大切なのは、両者が敵対するのではなく、連携してお客様にとって最善の解決を目指すことです。まずは司法書士に相談して状況を整理し、必要に応じて弁護士や税理士と協力しながら進めていくのが、最もスムーズで安心できる進め方です。

まずは司法書士の無料相談で状況を整理しましょう

遺留分と不動産の相続登記。一人で抱え込むには、あまりにも重い問題です。何から手をつけていいか分からず、時間だけが過ぎていく…そんな状況は、精神的にも非常につらいものです。

解決への第一歩は、あなたの状況を専門家に話し、客観的に整理してもらうことです。

下北沢司法書士事務所では、単に手続きを代行するだけではありません。心理カウンセラーの資格を持つ司法書士が、あなたの不安な気持ちに寄り添いながら、法的な状況を分かりやすくご説明します。そして、あなたのご希望を丁寧にお伺いした上で、考えられる選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを提示し、一緒に最適な解決策を見つけていきます。

エリアも事務所のある世田谷区だけでなく東京23区や東京都下、千葉・埼玉・神奈川の首都圏の方から多くご依頼をいただいております。どうぞお気軽に電話やお問合せフォームでご相談ください。

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役員変更登記の落とし穴|招集権者がいない時の解決策

2026-01-30

役員変更登記で直面した「招集権者がいない」という壁

会社の役員変更登記は、司法書士にとって基本的な業務の1つ。特に小規模な役員変更登記は、司法書士試験に合格した直後の方に最初に取り組んでもらう業務にしている司法書士事務所も少なくないと思います。しかし、そんな役員変更登記も時に思わぬ落とし穴が待ち受けていることがあります。

当事務所にご相談いただいたご依頼はは、まさにその典型でした。複数の会社を経営されている方からの、ある1社の取締役を変更したいというご依頼。一見すると、よくある役員変更登記です。しかし、お話を伺うと、事態は複雑でした。

「実は、その取締役が会社のお金を横領して、失踪してしまったんです」

会社にとって重大な事態です。速やかに役員変更登記をしなければと思いました。役員の退任理由として一般的なのは「任期満了」か「辞任」です。しかし任期はまだ残っている。本人と連絡が取れない以上、自発的な「辞任」は望めません。となると、残された選択肢は会社側から一方的に役員を辞めさせる「解任」しかありませんでした。

解任は相手方から損害賠償請求されるリスクのある手法です。しかし今回は横領という明確な理由があるため、一応のリスク説明をご依頼者にしましたが特に問題ないであろうと考えました。ところがいざ書類を作成しようとしたその時、意外な課題に気が付きました。

取締役を解任するには、株主総会の決議が必要です。そして、その株主総会を招集する権限(招集権)を持つのは、定款上、まさに今から解任しようとしている、失踪中の取締役ただ一人だったのです。

招集権者がいない。つまり、正規の方法では株主総会を開くことすらできないのです。

私は解決の糸口を探して会社法の条文を一つひとつ確認していきました。そして、解決につながる条文を見つけました。

なぜ株主総会が開けない?招集権者の基本ルール

解決策に進む前に、まず「なぜ株主総会が開けないのか」という問題の根本原因を理解しておきましょう。すべての株式会社にとって、株主総会は会社の重要事項を決定する最高意思決定機関です。しかし、この重要な会議は、誰でも自由に開催できるわけではありません。会社法で定められた「招集権者」だけが、株主総会を招集できるのです。

招集権者が誰になるかは、会社の機関設計によって異なります。

  • 取締役会を設置している会社:取締役会の決議で株主総会の招集に関する事項を決定し、当該決議に基づき取締役(通常は代表取締役)が招集します。
  • 取締役会を設置していない会社:原則として、各取締役がそれぞれ招集権を持ちます。ただし、定款で特定の取締役を招集権者として定めることも可能です。

今回の事例のように問題が起こりやすいのは、後者の「取締役会非設置会社」です。特に、取締役が1名しかいない会社では、その唯一の取締役が音信不通になってしまうと、誰も株主総会を招集できなくなるという事態に陥ってしまうのです。

取締役会非設置会社における株主総会の招集権者の原則と例外を比較した図解。原則では各取締役に招集権があるが、定款で特定の一人に定めることも可能。

これは、会社設立時にはなかなか想定しにくいリスクかもしれません。しかし、実際に起こってしまうと、役員の補充や解任ができず、会社の経営が完全にストップしてしまう可能性があります。将来的なリスクを避けるためには、会社設立の際に定款で招集権者となる取締役を複数名定めておくなどの対策が有効です。とはいえ、今まさに問題に直面している方にとっては、過去には戻れません。では、どうすればこの状況を打開できるのでしょうか。

解決策①:会社法319条1項「みなし決議」という切り札

招集権者がおらず、株主総会が開催できない。この問題を解決する条文は、会社法第319条第1項に定められた「みなし決議(書面決議)」です。

これは、一言でいえば「株主総会を物理的に開催することなく、書面(または電磁的記録)だけで決議を成立させる」ための特別なルールです。株主が集まる必要も、招集権者が招集通知を出す必要もありません。この規定こそが、冒頭の事例で私が突破口として見出したものでした。

この「みなし決議」を利用できるのは、以下の条件を満たす場合です。

【絶対条件】議決権を持つ株主全員が、提案された議題に対して書面等で「同意」すること

つまり、株主があなた一人である場合や、他の株主全員から協力を得られる場合には、この方法で役員変更を決議し、登記手続きを進めることが可能になります。たとえ招集権者である取締役が音信不通になっていても、株主全員の合意さえあれば、その取締役を解任し、新しい取締役を選任することができるのです。

みなし決議を活用した役員変更登記の具体的なステップ

では、実際にみなし決議を使って役員変更登記を行うための手順を、4つのステップで見ていきましょう。

  1. ステップ1:決議事項の「提案書」を作成する
    まず、「取締役〇〇を解任し、後任として△△を選任する」といった、株主総会で決議したい内容を記載した提案書を作成します。
  2. ステップ2:株主全員に提案書を送り、同意書を取得する
    作成した提案書を、議決権を持つ株主全員に送付します。そして、その提案内容に同意する旨を記した「同意書」に署名または記名押印してもらい、回収します。
  3. ステップ3:「株主総会議事録」を作成する
    株主全員分の同意書が揃ったら、それに基づいて株主総会議事録を作成します。この議事録には、通常の議事録の内容に加え、「会社法第319条第1項の規定により、株主総会の決議があったものとみなされた」という旨を必ず記載する必要があります。決議があったとみなされる日付は、株主全員の同意の意思表示(書面又は電磁的記録)がそろった日など、全員の同意が確定した日となります。
  4. ステップ4:法務局へ登記申請を行う
    作成した株主総会議事録と、その他役員変更登記に必要な書類(就任承諾書など)を揃えて、管轄の法務局に登記申請を行います。

これらのステップを正確に踏むことで、招集権者がいなくても、合法的に役員変更登記の申請を進めることが可能になります。特にステップ3の議事録作成は、登記官が納得する形式で作成する必要があり、専門的な知識が求められる部分です。

株主が複数いる場合の注意点と進め方

株主があなた一人であれば、手続きは比較的シンプルに進みます。しかし、株主が複数いる場合は、注意が必要です。

みなし決議は、あくまで「株主全員の同意」が絶対条件です。

一人でも反対する株主がいる場合や、連絡がつかない株主がいる場合は、この方法は使えません。そのため、手続きを始める前に、他の株主に対して現状を丁寧に説明し、「なぜ役員変更が必要なのか」「なぜ、みなし決議という方法を取るのか」を理解してもらい、協力を取り付けることが何よりも重要になります。

複数の株主がテーブルを囲んで、みなし決議のための同意書に納得し、協力し合っている様子の写真。

同意の意思表示は、後日のトラブルを防ぐためにも、書面やメールなど記録に残る形で確実にもらっておきましょう。株主間の人間関係が複雑な場合など、当事者同士での調整が難しいと感じる場合は、専門家が間に入ることでスムーズに話が進むこともあります。

参照:

会社法(e-Gov法令検索)

解決策②:連絡が取れない役員を「解任」する手続きとリスク

株主全員の同意が得られず、「みなし決議」が使えない。そんな場合に検討するのが、通常の株主総会を開催して役員を「解任」するという方法です。しかし、「招集権者がいないのにどうやって?」と疑問に思われるでしょう。

この場合、少数株主権(総株主の議決権の100分の3以上を持つ株主)を持つ株主などが、裁判所の許可を得て株主総会を招集するという方法があります。しかし、手続きが煩雑で時間もかかるため、最後の手段と考えるべきです。

ここでは、何らかの方法で株主総会が開催できたとして、役員を解任する際のリスクについて解説します。役員の解任は、株主総会の普通決議(定款で特別決議と定めている場合は特別決議)によって、いつでも行うことができます。役員本人の同意は必要ありません。

ただし、ここには大きな注意点があります。それは、「正当な理由」なく役員を解任した場合、会社はその元役員に対して損害賠償責任を負う可能性があるという点です(会社法339条2項)。

では、「正当な理由」とは何でしょうか。

  • 正当な理由に該当しうるケース:
    法令や定款への重大な違反、心身の故障により職務執行が困難な場合、そして冒頭の事例のような横領や背任行為など。
  • 正当な理由に該当しにくいケース:
    単なる経営方針の対立、能力不足、他の株主や役員との人間関係の悪化など。

もし正当な理由がないにもかかわらず解任した場合、会社は、その役員が任期満了まで得られたはずの役員報酬などを賠償しなければならない可能性があります。そのため、役員の解任という手段を取る前には、その理由が法的に「正当な理由」と認められるものなのか、慎重に検討する必要があります。この判断には専門的な知見が不可欠であり、後の損害賠償リスクを避けるためにも、安易な判断は禁物です。会社を解散させるような事態になる前に、専門家へ相談することをお勧めします。

まとめ:複雑な役員変更登記は司法書士にご相談ください

ここまで見てきたように、役員変更登記、特に招集権者がいないといったイレギュラーなケースでは、会社法の深い知識と実務経験が不可欠です。

会社法319条1項の「みなし決議」は非常に有効な手段ですが、議事録などの書類作成を一つ間違えるだけで登記が受理されなかったり、手続きの不備を後から指摘されたりするリスクが伴います。また、役員の解任を選択する場合には、損害賠償という大きなリスクを事前に回避するための法的な検討が欠かせません。

「自分の会社の場合は、どの方法がベストなんだろう?」
「書類の作り方が分からない…」
「他の株主をどう説得すればいいか不安だ…」

もしあなたがこのような不安を抱えているなら、どうか一人で悩まないでください。商業登記を専門とする私たち司法書士は、あなたの会社の状況を正確に分析し、最も安全で確実な手続きをご提案します。

会社設立や役員変更などの商業登記は、ぜひ当事務所にご相談ください。エリアも名古屋、沖縄、静岡など全国に本店のある会社さんからご依頼をいただいた実績があります。

会社あなたの会社を会社法と登記の知識でサポートします。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

所有不動産記録証明制度とは?相続での使い方を司法書士が解説

2026-01-29

親の不動産、すべて把握できていますか?相続の不安を解消する新制度

「親が亡くなったけれど、持っていた不動産が全部どこにあるのか、正直よくわからない…」
相続を目の前にして、多くの方がこのような不安にぶつかります。ご実家が遠方だったり、昔のままになっている田舎の土地や、ご先祖様から引き継いだ共有名義の不動産があったりすると、その全容を把握するのは本当に大変なことです。

固定資産税の納税通知書だけを頼りにしていても、非課税の私道や価値が低い山林などは記載されていないことも多く、「これで全部だろう」と思っていたら、後から登記漏れの不動産が見つかって大慌て…というケースは決して珍しくありません。

そんな相続手続きにおける不動産調査の悩みを、大きく解決してくれる新しい制度が、2026年2月2日から始まります。それが「所有不動産記録証明制度」です。

この記事では、相続手続きを専門とする司法書士が、この新しい制度がどのようなもので、あなたの相続にどう役立つのか、そして専門家から見た注意点まで、わかりやすく解説していきます。この記事を読み終える頃には、不動産調査への不安が和らぎ、次の一歩を踏み出すための知識が身についているはずです。どうぞ、肩の力を抜いて読み進めてみてくださいね。

所有不動産記録証明制度とは?3つのポイントでわかる基本のキ

「所有不動産記録証明制度」と聞くと、少し難しく感じるかもしれませんね。でも、ご安心ください。この制度のすごいところは、実はとてもシンプルです。ここでは、特に重要な3つのポイントに絞って、その基本を解説します。

所有不動産記録証明制度の3つのポイントを解説した図解。全国の不動産を一度に調査、相続人が請求できる、法務局が公的に証明という特徴がアイコン付きで示されている。

ポイント1:全国どこでも「一括」で不動産を探せる

この制度の最大のメリットは、なんといっても亡くなった方(被相続人)名義の不動産を、全国の法務局から一度の請求で探し出せる点です。

これまでは、故人が所有する不動産を調べるには、市区町村ごとに「名寄帳(なよせちょう)」という書類を取得する必要がありました。もし「もしかしたら、昔住んでいた〇〇県にも土地があるかもしれない…」と思ったら、その市区町村の役所に一つひとつ問い合わせなければならず、時間も手間も非常にかかっていたのです。

この新制度を使えば、最寄りの法務局で手続きをするだけで、故人が日本全国に所有している登記された不動産のリスト(証明書)を手に入れることができます。故郷が遠方にある方や、親が転勤族で複数の場所に住んでいた可能性がある方にとって、これまでの負担が劇的に軽くなる、画期的な仕組みと言えるでしょう。

ポイント2:誰が請求できる?費用はいくら?

この便利な制度ですが、誰でも利用できるわけではありません。プライバシー保護の観点から、請求できる人は限定されています。

請求できる主な人

  • 不動産の所有者本人(所有権の登記名義人)
  • 相続人等(相続人その他の一般承継人)
  • 上記から委任を受けた代理人

相続手続きで利用する場合、あなたが故人の相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)を提出すれば請求が可能です。

手数料と請求場所

手数料は、証明書1通につき1,600円です。(2026年1月29日現在)
請求は、全国の法務局で行うことができ、オンラインでの請求も可能です。

これまでの「名寄帳」とは何が違うのか?

不動産調査で使われてきた「名寄帳」と、新しい「所有不動産記録証明制度」。この二つはどう違うのでしょうか。それぞれの特徴を理解し、うまく使い分けることが大切です。

所有不動産記録証明制度名寄帳
調査範囲全国市区町村ごと
発行元法務局市区町村役場(都税事務所など)
元になる情報登記記録固定資産課税台帳
わかること登記されている不動産の一覧課税されている不動産の一覧
特徴非課税の私道などもわかる可能性がある未登記の建物(家屋番号がないもの)もわかる場合がある
所有不動産記録証明書と名寄帳の比較

一番大きな違いは、調査範囲です。全国を一度に調べられる新制度は、故人の不動産の全体像を大まかに把握するのに非常に強力です。一方、名寄帳は市区町村単位ですが、固定資産税の課税情報が元になっているため、登記されていない建物が見つかる可能性があるなど、より詳細な調査に向いています。

どちらか一方が優れているというわけではありません。「まずは新制度で全国の不動産を広く浅く洗い出し、不動産がありそうな市区町村がわかったら、今度は名寄帳で深く掘り下げて確認する」というように、両者を組み合わせるのが、専門家が実践する確実な調査方法です。相続登記の漏れを防ぐための複合的な調査が重要になります。

より詳しい情報については、法務省の公式サイトもご参照ください。
参照:法務省「所有不動産記録証明制度について」

司法書士が語る「所有不動産記録証明制度」の本当の価値と限界

ここからは、私たち司法書士が実務の現場でこの制度をどう見ているか、少し踏み込んだお話をさせてください。この制度は非常に強力なツールですが、決して「万能薬」ではありません。その本当の価値と、知っておくべき限界について解説します。

司法書士に相続の相談をする夫婦。専門家からの説明を受け、不安が和らいでいる様子。

実録:こんな場面で役立つ!相続登記での活用ケース

この制度が特に力を発揮するのは、次のようなケースです。

  • ケース1:親が転勤族で、どこに不動産があるか見当もつかない
    全国を転々とされていた方の不動産を、これまでの方法で探し出すのは至難の業でした。この制度を使えば、相続人の記憶にない場所にある不動産も発見できる可能性が飛躍的に高まります。
  • ケース2:価値が低いと思われがちな地方の山林や原野の存在が判明
    固定資産税がほとんどかからないような山林や原野は、納税通知書にも載らず、家族もその存在を忘れがちです。相続登記が義務化された今、これらの不動産も見逃すわけにはいきません。この制度は、そうした忘れられた不動産の発見に繋がります。
  • ケース3:売却時に発覚しがちな「私道持分」の見落としを防ぐ
    ご自宅を売却しようとした時に、前面道路の「私道」の持分だけ相続登記が漏れていたことが発覚し、慌てて手続きする…というのは典型的なトラブルです。この制度は、こうした見落としがちな権利の発見にも役立ちます。

【要注意】この制度でも見つからない不動産とは?

非常に便利な制度ですが、弱点もあります。それは、氏名・住所等を条件に検索する制度であるため、登記簿上の氏名・住所と請求時の検索条件に差異がある場合、リストに反映されない不動産が生じ得るという点です。

具体的には、以下のような不動産は見つからない可能性があります。

  • 登記簿上の住所が古いまま更新されていない不動産
    例えば、親が若い頃に購入した不動産の登記住所が、結婚前の古い住所のままになっているケースです。現在の住所で検索しても、この不動産はヒットしません。
  • 結婚や養子縁組で姓が変わる前の、旧姓のまま登記されている不動産
    同様に、現在の姓で検索しても、旧姓で登記された不動産は見つけることができません。
  • そもそも登記されていない建物(未登記建物)
    昔建てた離れや物置など、登記されていない建物は、この制度の調査対象外です。

このように、所有不動産記録証明制度は完璧なものではなく、使い方を間違えると重大な見落としに繋がる可能性があるのです。こうした相続登記でありがちなミスを避けるためにも、制度の限界を知っておくことが重要です。

プロの技:制度の穴を埋める「戸籍の附票」活用術

では、どうすれば制度の穴を埋め、調査の精度を上げることができるのでしょうか。その鍵を握るのが「戸籍の附票(こせきのふひょう)」という書類です。

戸籍の附票とは、その戸籍が作られてから現在までの住所の履歴が記録された公的な書類です。本籍地の市区町村役場で取得できます。

私たち専門家は、相続が開始したら、まず亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて集めます。そして、それらの戸籍に対応する「戸籍の附票」もすべて取得するのです。ただ古いものは破棄されてしまっていることも多いのですがそれでもかなり遡れると思います。

所有不動産記録証明制度を請求する際に、附票で判明した過去の住所と姓をすべて検索条件として指定するのです。

手間はかかりますが、ここまでやって初めて、制度の検索漏れのリスクを最小限に抑えることができます。これは、正確な相続手続きを行うための、いわばプロの技です。こうした地道な戸籍の読み込みと調査が、後々のトラブルを防ぐことに繋がります。

事務所の体験談から学ぶ、新制度への向き合い方

相続のお手伝いをしていると、ご家族も知らなかった山林や、ご自宅のほんのわずかな私道持分など、不動産の見落としは本当に多く発生します。後から見つかると、遺産分割協議をやり直さなければならなかったり、売却の直前で慌てて手続きをしたりと、大変なことになりがちです。

そうした登記漏れを防ぐために、これまでは市区町村ごとの「名寄帳」が主な調査手段でした。しかし、名寄帳はあくまで課税台帳がベースなので、例えば共有名義の建物が載ってこなかったり、非課税の小さな土地は正確性に欠ける部分があったり、そして何よりその市区町村内の不動産しかわからないという限界がありました。

その点、今回の新制度は全国を網羅してくれるので、相続登記の漏れを防ぐ上で非常に心強い味方になってくれると期待しています。

下北沢司法書士事務所の代表司法書士。オフィスで親しみやすい笑顔を見せている。

ただ、この制度にも弱点はあります。先ほども説明があったように、この制度は「住所と名前」で検索をかけます。そのため、例えば登記簿上の住所が昔のままだったりすると、今の住所で検索しても見つからないのです。これは、ご高齢で亡くなった方の場合、過去の住所や旧姓をすべて洗い出すのが現実的ではないケースもあり、悩ましい点です。

実は、これと似たような仕組みは既に他の分野にもあります。それは株式の相続調査です。亡くなった方がどの証券会社に口座を持っていたかわからない時、「ほふり(証券保管振替機構)」という機関に照会をかけるのですが、これも住所と氏名で名寄せをするため、引っ越し前の古い住所もすべて指定しないと正確な調査ができません。

これまでも私たちは、権利証や売買契約書を確認し、名寄帳を取得するなど、様々な方法を組み合わせて登記漏れがないかを確認してきました。この新制度は、そこに新たな選択肢を加えてくれるものです。確認できる方法が増えることは、相続人の方にとっても、私たち専門家にとっても、間違いなく良いことだと考えています。

まとめ:相続不動産調査の「次の一歩」を踏み出しましょう

今回は、2026年2月2日から始まる「所有不動産記録証明制度」について解説しました。

この記事のポイントを振り返ってみましょう。

  • 所有不動産記録証明制度は、全国の不動産を一度に調査できる画期的な制度です。
  • 相続人も、戸籍謄本などで関係を証明すれば請求できます。
  • ただし、「登記簿上の氏名・住所」が一致しないと検索にヒットしないという限界があります。
  • 制度の穴を埋めるには、「戸籍の附票」で過去の住所や旧姓をすべて洗い出し、検索条件に加えることが有効です。
  • 従来からの「名寄帳」と組み合わせることで、より精度の高い調査が可能になります。

この新しい制度は、相続手続きにおける不動産調査の負担を大きく減らしてくれる強力な味方です。しかし、それだけで安心するのではなく、制度の特性をよく理解し、必要に応じて他の調査方法と組み合わせることが、正確な財産目録を作成し、後のトラブルを防ぐためには不可欠です。

もし、ご自身での手続きに不安を感じたり、戸籍の収集が複雑で難しいと感じたりした際には、決して一人で抱え込まないでください。私たち司法書士は、こうした複雑な調査や手続きの専門家です。あなたの不安に寄り添い、何から手をつければ良いのかを一緒に整理し、最も良い方法をご提案します。

下北沢司法書士事務所では、ご相談内容を伺ったうえで、費用の目安や進め方をご案内しています。まずはお気軽に、あなたの状況をお聞かせいただけませんか。東京23区はもちろん、埼玉・神奈川・千葉などからご依頼をいただくことも多いです。この記事をお読みの方みなさんに、お気軽ご相談いただけたら嬉しいです。

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成年後見人の財産管理、どこまでやる?司法書士が解説

2026-01-28

「1円単位で完璧に」は無理!後見人のリアルな金銭管理

ご親族の成年後見人になられた方、そしてこれからなろうと考えている方へ。今、大きな責任を前にして、不安でいっぱいかもしれませんね。

裁判所での面接に同席して、お金の管理についてかなり厳しく言われることがありました。「人のお金を管理する自覚を持ってください!」「親子といえど後見人の責任は同じです!」と強い口調で言われ、横で聞いている私自身、「そんなに強く言わなくても…」と思いながら余計な口出しすると話がこんがらがるので黙っていたことがあります。

裁判所から渡される冊子やビデオでも、お金の管理の重要性が繰り返し強調されます。それらを見聞きするうちに、「自分にできるだろうか」「もし少しでもミスをしたり、領収書をなくしたりしたら大変なことになるのでは」と、どんどんプレッシャーが大きくなってしまう方もいらっしゃいます。

今日、私が一番お伝えしたいのは、「安心してください!」ということです。実際のところ、日々の細かなお金の管理に、そこまで心配する必要はありません。

この記事では、司法書士である私が実際にどのようにご本人の財産を管理しているのか、裁判所からはどこまで厳しく見られるのか、特に日々の小さな支出に焦点を当てて、私の経験をありのままにお話ししたいと思います。この記事を読み終える頃には、きっと心が少し軽くなっているはずです。

なぜ成年後見人には厳格な財産管理が求められるのか

「そんなに神経質にならなくていい」と言われても、なぜ裁判所はあれほど厳しく指導するのか、不思議に思いますよね。その背景には、成年後見制度が持つ「ご本人の財産を断固として守る」という、とても大切な使命があるのです。

残念ながら、中には立場を悪用し、ご本人の財産を自分のために使ってしまうケースも存在します。それは専門職後見人であっても例外ではなく、士業による横領事件がニュースになることもあります。たとえ親子であっても、財産が不適切に使われるリスクはゼロではありません。むしろ親子だからこそ、自分のお金と同一視しやすいでしょう。だからこそ、裁判所は後見人に対し、ご本人のお金を自分のお金とは明確に区別し、客観的な記録に基づいて管理することを強く求めるのです。

この「原則」を理解しておくことは、とても重要です。なぜなら、これからお話しする「現実的な管理方法」が、単なる手抜きではなく、原則を理解した上での合理的な工夫なのだと、あなた自身が自信を持てるようになるからです。

成年後見人の権利や義務について、より詳しく知りたい方は、裁判所の資料も参考になります。

参照:成年後見人の権利と義務 (PDF)

【司法書士の実践術】メリハリで乗り切る!現実的な財産管理

ここから書くことは完全に経験則なので、どの地方のどの担当裁判官でも通用するとは言いません。でも、少なくとも私は今のところこの方針でおります。どうすれば日々の管理を無理なく続けられるのでか?答えは「管理にメリハリをつける」ことです。すべての支出を同じレベルで管理しようとすると、必ず疲弊してしまいます。大切なのは、「ここは緩めても大丈夫な部分」と「ここは絶対に厳しく管理すべき部分」を見極めることです。

日々の生活費:レシートに神経質にならなくてもOKな範囲と記録のコツ

ご本人様がご自宅で生活されている場合、日々の食費やおやつ代などを現金で渡すことがあります。この「日常の少額な現金支出」こそ、多くの方が頭を悩ませるポイントです。

以前、私が担当していた方で、月に3〜4万円の生活費を現金でお渡ししていたケースがあります。そのお金は主に食費やおやつに使われ、訪問介護のヘルパーさんがご本人の代わりに買い物に行ってくれていました。ヘルパーさんはきちんとレシートを残してくれましたが、私がそのレシートと財布の残金を照らし合わせて、1円単位で計算していたかというと…正直に申し上げて、そんなことはしていません。

そもそも、そこまで細かく管理するのは現実的に不可能です。ご本人様が残金チェックをさせてくれないこともありますし(普通は財布の中を人に見せませんよね)、小銭を家の中でなくしてしまうことだってあります。若い人だってどこか家のどこかに小銭を置きっぱなしにすることがあってもそんなに不自然はないでしょう。もし、本人がそんなにきっちりとお金の管理ができる方なら、そもそも成年後見制度は必要ないかもしれません。

では、どうしていたのか。私は、月に渡した3〜4万円は「すでにご本人のために支出され、なくなったもの」として扱いました。通帳の現金引出し記録に横に「生活費○○円」とシャーペンで書き込んでおきます。もちろん、実際には手元に少しずつお金が残り、お亡くなりになった際にはある程度の現金が残りましたが、それは「新たにみつかった財産」として裁判所に報告しました。このやり方で、裁判所から特にお叱りを受けたことはありません。

大切なのは、毎月定額を渡し、その範囲内でのやりくりはご本人や介護の方に任せるという信頼と、それを「生活費」として一括で処理する割り切りです。その上で、急にお金を使い切るのが早くなったなどがあったらそれはサインです。それをきっかけに何に使ったのか調べたり、認知能力が衰えて家にあるのに使ったと思ってしまっているなど原因を調べるべきです。

高額な支出:記録必須!通帳と領収書で証拠を残す鉄則

日々の生活費は柔軟に対応して良い一方で、1万くらいの金額を1つの物やサービスにだけ使うまとまった金額の支出は、原則として記録(通帳の履歴・領収書等)を残しておくのが安全です。ここが管理の「メリ」の部分です。

例えば、以下のような支出が該当します。

  • 医療費や入院費
  • 介護施設やサービスの利用料
  • 高価な家電や家具の購入費
  • 税金や社会保険料の支払い
  • 不動産の維持管理費など

これらの支出については、「誰が、いつ、何のために、いくら支払ったのか」を第三者が見ても明確にわかるように証拠を残すことが鉄則です。具体的な方法は2つです。

  1. 可能な限り銀行振込を利用する: 通帳に記録が残るため、最も確実で客観的な証拠となります。
  2. 現金払いの場合は必ず領収書をもらう: 領収書は小さい紙なので、紛失のリスクがあります(特に公共料金を払った時にちっちゃい領収書は危ない・・)。私は、もらったらすぐにスマートフォンで写真を撮ったり、スキャンしてPDF化したりして、二重で保管するようにしています。あとは領収書の記録がPCに入っていると、裁判所に年に一度の報告書類の提出の時にサッと印刷出来て楽なのもあります。

このように、「日常の少額な現金」と「特別な高額支出」で管理のレベルを使い分けることで、無理なく、かつ確実に後見人としての責任を果たすことができます。

リビングで家計簿をつけながら少し安心した表情を浮かべる女性。成年後見人の財産管理のプレッシャーから少し解放された様子。

親族後見人のよくある疑問と対処法Q&A

ここでは、親族後見人の方からよく寄せられる具体的な質問にお答えしていきます。

Q. 本人のお金で、家族の食事代を払ってもいい?

A. 原則として、後見人やそのご家族のためにご本人のお金を使うことは認められません。後見人の役割は、あくまで「ご本人のため」に財産を管理することだからです。

ただし、例外もあります。例えば、ご本人の通院に付き添った際の、ご本人と後見人2人分の昼食代や交通費はどうでしょうか。この場合、「後見人が付き添わなければ、ご本人が病院に行けない」という状況であれば、その費用はご本人の利益に資する支出と認められる可能性が高いです。判断に迷うときは、「この支出がなければ、ご本人が何らかの不利益を被るか?」という視点で考えてみると良いでしょう。それでも迷う場合は、ご家族の負担が大きくなりすぎる前に、監督人にも聞いてみましょう。

Q. 裁判所への報告書は、どのように書けばいい?

A. 年に一度の裁判所への報告は、後見人にとって大きな仕事の一つです。ですが、これまでお話しした「メリハリ管理」ができていれば、報告書の作成もずっと楽になります。

収支報告書には、日々の生活費として渡したお金は「〇月分生活費として本人へ現金交付 〇〇円」のように、月ごとにまとめて記載すれば基本的に大丈夫です。そして、医療費や施設利用料などの高額な支出については、領収書や通帳のコピーを添付して、個別に記載します。こうすることで、報告書がシンプルになり、裁判所にもお金の流れが明確に伝わります。

裁判所のウェブサイトには、報告書の書式や記載例が公開されていますので、参考にしながら作成しましょう。場合によっては、裁判所から後見監督人が選任され、その監督人が報告先となることもあります。

Q. 他の親族から「通帳を見せろ」と言われたら?

A. これは非常にデリケートな問題ですね。まず法的な観点から言うと、成年後見人の報告先は基本的に家庭裁判所(監督人がいる場合は監督人)です。ご本人の個人情報なので見せないのが原則でしょう。

しかし、感情的な観点から「義務はない」と突っぱねてしまうと、親族間の関係が悪化し、「財産を隠しているのではないか」という不信感につながりかねません。これでは、円満な家族関係を保つのが難しくなってしまいます。

1つの方法として裁判所への報告書類を見せると言うのはあるかも知れません。でも見せてることには変わりないし・・・。ここは個別に考えるほかないと思います。

それでも不安なあなたへ。一人で抱え込まないでください

ここまで、私が実践している現実的な財産管理の方法についてお話ししてきました。正直に言うと、このような内情をお話しすることには、少しリスクを感じています。「そんなにいい加減な管理をしているのか!」と、お叱りを受けるかもしれないからです。「1円単位でピッタリ合わせるのが後見人の義務です」と言い切っておく方が、私にとっては安全です。

それでもこの記事を書いたのは、これから後見人になる、あるいは今まさに後見人として奮闘しているご親族の方に、心から安心していただきたかったからです。

ご自身の仕事や生活で手一杯な中、さらに後見人という重責を担う。体調が悪い日だってあるでしょう。そんな皆さんが、裁判所や周囲からのプレッシャーに押しつぶされて苦しんでほしくないのです。だから、あえてもう一度言わせてください。大丈夫、もっと気楽にいきましょう!

法律家であると同時に、心理カウンセラーの資格を持つ司法書士として、あなたの心の負担も軽くするお手伝いができればと願っています。

あなたのケースに合わせた最適な管理方法を一緒に考えます

今日お話しした管理方法は、あくまで一つの実践例であり、全てのケースに当てはまるわけではありません。ご本人様の財産状況や生活スタイルによって、最適な管理方法は異なります。

もしあなたが、成年後見人の申立てを考えている段階であれば、ぜひ一度ご相談ください。申立ての段階からご相談いただくことで、あなたが後見人に就任した後、スムーズに業務を進められるように工夫した書類を作成することができます。

最大のメリットは、一般論ではなく、「あなたのケース」に合わせて、実際に成年後見人として活動している司法書士から具体的な助言を受けられることです。一人で悩みを抱え込まず、専門家の知識と経験を頼ってください。私たちが、あなたの伴走者として、法律面と精神面の両方からしっかりとサポートします。

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相続手続きの理不尽さ・難しさ|専門家がストレスを減らす方法

2026-01-27

銀行からの『追加書類のお願い』。私も経験した理不尽な話

「理不尽だな…」と感じることは、日常生活のなかで誰にでもあるのではないでしょうか。実は、相続手続きの専門家である私も、仕事のなかで同じように感じることがあります。

今回は、私が経験した「ちょっとした理不尽」なお話から始めさせてください。ただ、もしあなたが相続手続きに不慣れで、仕事や家事で手一杯のときに同じ状況に陥ったら、とんでもないストレスになりかねない、そんなお話です。

当事務所は、お子さんがいらっしゃらないなどのご事情で相続人の数が多くなる、複雑な相続手続きを得意としています。その日も、戸籍の収集から相続人の確定、住所の調査、そして相続人全員へのご案内と、遺産分割協議書への署名・押印まで、すべてが順調に進んでいました。

いよいよ最後のステップ、銀行預金の払い戻しと不動産の名義変更(相続登記)です。今回は不動産の売却も控えていたため、まずは相続登記を優先して無事に完了させました。

残るは5つの銀行での預金手続き。1行目、2行目と順調に終わり、3行目の手続きで、それは起こりました。

銀行との書類のやり取りは、多くが郵送です。手続きが終わると、計算書類や解約済みの通帳などが書留郵便で返送されてきます。その日も、いつものように書留を受け取り、「これで3行目も終わったな」と安堵しながら封筒にハサミを入れました。

いつもなら真っ先に見つかるはずの、振り込み額が記載された計算書が見当たらないのです。あれ?おかしいな、と書類の束をかき分けていると、一枚の案内文が目に飛び込んできました。そのタイトルは、「追加書類のお願い」

終わったわけではありませんでした。相続登記も通り、他の2つの銀行も同じ書類で問題なく手続きできたのに、なぜ…?

追加で求められたのは、すでに関係を証明するために提出済みの戸籍と内容が重なるようなものでした。幸い、手元に保管していたのですぐに返送して事なきを得ましたが、その時ふと思ったのです。

「これが一般の方だったら、どれほど大変だろう」と。

まず、書留郵便を平日の昼間に受け取ること自体が難しい方もいるでしょう。案内文に書かれた「追加の戸籍」が具体的に何を指すのか理解するのも一苦労かもしれません。もし手元になければ、また役所に取りに行かなければならないのです。体調が優れなかったり、仕事で心がすり減っていたりしたら…。「もういいや」と手続きを放置してしまっても、何ら不思議はないと感じました。

この経験から、相続手続きがもたらすストレスの根深さを改めて痛感したのです。

相続手続きで多くの人がぶつかる「3つの高い壁」

あなたが今感じているストレスや「理不尽だ」という思いは、決してあなた一人が抱えているものではありません。多くの方が、相続手続きという道のりで、大きく分けて3つの高い壁にぶつかります。この全体像を理解するだけでも、少し心が軽くなるかもしれません。このテーマの全体像については、相続手続きが遅れる主な原因と、司法書士選びのポイントで体系的に解説しています。

相続手続きで多くの人が直面する「銀行の壁」「人間の壁」「手続きの壁」という3つの困難を図解したインフォグラフィック。

第1の壁:なぜ?銀行ごとに違う「理不尽な」追加書類

「法務局では通ったのに」「A銀行では大丈夫だったのに、なぜB銀行だけダメなの?」これは、多くの方が抱く当然の疑問であり、まさに「理不尽」の正体です。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。銀行は「相続人ではない人にお金を渡してしまう」というミスを防いでトラブルに巻き込まれないようにしたいからです。

そのため、各銀行はトラブルを未然に防ぐために、それぞれ独自の厳格な内部ルールを設けています。法務局や他の銀行がOKとした書類でも、「当行のルールでは、念のためこの戸籍も必要です」という判断がなされることがあるのです。これは、あなたを困らせたいわけではなく、銀行側の防衛策なのです。

具体的には、

  • 亡くなった方の出生まで遡る戸籍だけでなく、さらに古い戸籍を求められるケース
  • 発行から3ヶ月や6ヶ月を過ぎた印鑑証明書を再取得するよう言われるケース
  • 遺産分割協議書の内容について、より詳細な説明を求められるケース

など、様々なパターンがあります。「そういう事情があったのか」と頭では理解できても、実際に何度も追加書類を求められると、心が折れそうになるお気持ちは痛いほど分かります。この銀行相続手続きの負担を軽くする方法は、特に精神的な負担が大きい場面の一つと言えるでしょう。特に追加書類を求める案内には理由の説明などが書いてわけでもないし、この辺も小さなストレスとなって日常生活の質を下げてしまうかも知れません。

第2の壁:話が進まない…複数相続人との「連絡の難しさ」

相続手続きで最も心をすり減らすのが、他の相続人との人間関係かもしれません。特に相続人が複数いる場合、スムーズに話が進まないことが少なくありません。

連絡が取れなくなったり、非協力的な態度をとられたりする背景には、様々な理由が考えられます。

  • 長年疎遠で、今さら連絡を取りづらい
  • 過去の家族間の出来事から、感情的なわだかまりがある
  • 相続への関心が薄く、手続きの重要性を理解してもらえない
  • 他の相続人が主導することに不満を感じている

こういう時にもらいなおすのが大変なのが印鑑証明書です。重要な書類なので関係性が悪いと何回もだすの嫌なのは当然と言えるかも知れません。印鑑証明書は日付制限があるので手続きが長引きそうなときは注意が必要です。期限ぎれでもらいなおしが必要になると厄介です。

第3の壁:心身ともに限界…手続きそのものがもたらす「ストレス」

銀行や相続人との調整だけでなく、手続きそのものの煩雑さが、じわじわと心と体を蝕んでいきます。

時間的な制約:役所や銀行の窓口は、基本的に平日の昼間しか開いていません。仕事や家事の合間を縫って、何度も足を運ぶのは大変な負担です。
膨大な労力:亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書、住民票、固定資産評価証明書…。集めるべき書類は多岐にわたり、遺産分割協議書などの専門的な書類作成も必要になります。
精神的なプレッシャー:何より辛いのは、「いつになったら終わるのか」という先が見えない不安です。「相続手続き 疲れた」「相続 ノイローゼ」といった言葉で検索してしまうほど、精神的に追い詰められる方もいらっしゃいます。

大切な方を亡くされた悲しみが癒えない中で、これだけの負担を一人で抱え込むのは、あまりにも過酷です。あなたが疲れ果ててしまうのは、決して無理もないことなのです。不動産がない場合の相続手続き(遺産承継)の進め方であっても、その負担の大きさは変わりません。

そのストレス、専門家ができる限り引き受けます

これまでお話ししてきた「銀行の壁」「人間の壁」「手続きの壁」。これら3つの高い壁を乗り越える最も効果的な方法が、司法書士のような専門家に依頼することです。

専門家に依頼するメリットは、単に手続きを代わりにやってもらうだけではありません。それは、あなたの「時間」「労力」「精神的負担」を劇的に軽減し、あなたの生活の質そのものを向上させることにあります。私たち司法書士は、遺産分割協議書の取り付けや相続登記といった専門技術が必要な部分はもちろん、手続き全体を通してあなたの心の平穏を守るパートナーです。

メリット1:時間と心の余裕が生まれる

専門家に依頼すれば、あなたはもう、平日の昼間に役所や銀行の窓口で長時間待つ必要はありません。山のような書類の束と格闘したり、「次に何をすべきか」と常に考え続けたりするプレッシャーからも解放されます。

手続きにかけていた時間を、あなたは本来使うべきことに使えるようになります。仕事に集中する、家族と穏やかな時間を過ごす、あるいは静かに故人を偲ぶ…。相続手続きという非日常のストレスから解放され、あなた自身の人生を取り戻すこと。それが、私たちが提供できる最大の価値の一つです。

相続手続きのストレスから解放され、自宅でリラックスしてコーヒーを飲む女性。専門家への依頼で心の平穏を取り戻した様子を象徴している。

メリット2:難しい連絡・調整役をすべて任せられる

相続人間の連絡や調整は、最も精神を消耗する作業です。特に、関係性がこじれていたり、相手が非協力的だったりする場合、当事者同士で話を進めるのは困難を極めます。

私たち司法書士が第三者として中立的な立場で間に入ることで、感情的な対立を避け、冷静な話し合いの土壌を作ることができます。法的な知識と経験に基づき、疎遠な相続人や難しい相手にも丁寧かつ的確にアプローチします。

「自分からは言いにくい…」「どう伝えたらいいか分からない…」
そんな相続で感情的対立があるときの中立的な進め方を伴うようなデリケートな連絡も、状況に応じてできる限り私たちがサポートします。あなたはそのストレスから解放され、安心して結果を待つことができるのです。

メリット3:手続きの漏れやミスを防ぎ、将来の安心を確保する

相続手続きは、一つ一つのステップが法律で厳密に定められています。もし書類に不備があったり、期限のある手続き(例えば相続放棄など)を忘れてしまったりすると、後々もっと大きなトラブルに発展したり、思わぬ金銭的損失を被ったりする可能性があります。

専門家が手続きを行うことで、法的に適切な手続きとなる可能性が高まり、抜け漏れやミスのリスクを抑えやすくなります。特に、不動産の名義変更である相続登記で起こりがちなミスと対策は、2024年4月から義務化され、専門的な知識が不可欠です。目先の手間を省くだけでなく、将来にわたる法的なリスクを回避し、確かな安心を手に入れることができるのです。

下北沢司法書士事務所ができること

相続手続きは、法律や制度の知識だけで乗り越えられるものではありません。そこには、家族の歴史や、言葉にならない様々な感情が複雑に絡み合っています。

当事務所の司法書士は、心理カウンセラーの資格も有しております。これは、「法律」という論理的な側面だけでなく、ご依頼者様が抱える不安や悲しみといった「心理」の側面にも寄り添いたい、という強い想いからです。

私たちは、単に手続きを代行するだけの専門家ではありません。あなたの話をじっくりと伺い、法律と心理の両面から、あなたが抱える不安を一つひとつ丁寧に解消していくパートナーです。理不尽な思いや、誰にも言えないストレスを、どうか一人で抱え込まないでください。

エリアも葛飾区や江東区など事務所所在地より遠い東京23区の方、千葉・埼玉・神奈川など首都圏の方も大歓迎しております。

対応エリア | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

まずは無料相談で、あなたの状況をお聞かせください

下北沢司法書士事務所 竹内友章

遺産分割協議の意外な落とし穴|相続分の譲渡で円満解決

2026-01-26

【司法書士の実例】遺産分割協議書が招く意外な“しこり”

相続が始まると、多くの場合「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員で財産をどう分けるかを取り決めます。これは相続手続きの王道ともいえる方法ですが、実はこの「王道」が、かえってご親族間に感情的なしこりを残してしまうケースがあることをご存知でしょうか。

これは、当事務所が遺産承継業務で実際に経験したお話です。

ご依頼は、お子さんがいらっしゃらない方(被相続人)のご兄弟からでした。相続人は全部で7名。戸籍調査の結果、ご依頼者様のお話どおりの相続関係であることが確認できました。幸い、相続人の皆様は昔は交流があったとのことで、故人の近くにずっといらっしゃったご依頼者様がすべてを相続するという内容で、ほとんどの方の合意が得られました。

しかし、お一人だけ「故人と親しかったから、一定の金銭を相続したい」というお申し出があったのです。幸い、その方が希望する金額は明確で、ご依頼者様も快く承諾されました。当事者間で合意ができたのですから、一見、何の問題もないように思えます。

ところが、ここに遺産分割協議書の「意外な落とし穴」が潜んでいました。それは「遺産分割は共同相続人全員の合意が必要で、同じ内容の遺産分割協議書に相続人全員が署名押印して手続きを進めることが一般的」という大原則です。

もし遺産分割協議書に「相続人のAは金〇〇円を取得し、その余はすべてB(ご依頼者様)が相続する」と記載すれば、その内容は相続人全員の知るところとなります。今回、他の相続人の方々は「Bさんがすべて相続する」という前提で合意してくださっています。その方々にとって、ご自身が財産を取得しないことに変わりはありません。しかし、「Aさんだけが特別にお金をもらう」という事実を知ったら、どう感じるでしょうか。「少しモヤモヤする」「Aさんがもらうなら、自分も同額欲しい」…そう考えを変える方が現れても不思議ではありません。せっかくまとまりかけた話が、振り出しに戻ってしまう可能性すらあったのです。

そこで当事務所がご提案したのが、「相続分の譲渡」という手法でした。これは、本来ご自身が相続する権利(相続分)を、特定の相続人に譲渡する手続きです。これを用いることで、金銭を希望されたAさんとご依頼者様Bさんの間のやり取りは、お二人の間の書面の取り交わしだけで完結させることができます。他の相続人の方々には、その具体的な内容をお伝えする必要がありません。

結果として、AさんとBさんの間では「相続分の譲渡」を行い、その他の相続人の方々とは当初の通り「Bさんがすべて相続する」という内容の遺産分割協議を成立させました。これにより、誰の心にもしこりを残すことなく、無事に預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)を終えることができたのです。

「相続分の譲渡」は、司法書士であれば誰もが知っている法律知識です。しかし、私自身も実務でこの手法の真価に触れるまでは、「一体、いつ使うのだろう?」と正直に思っていました。遺産分割協議だけで十分事足りて、使う場面のない手法と思ってしまっていましたこの経験は、同じゴールを目指すにも、お客様のご家庭の事情や感情に配慮し、最適なルートを選ぶことこそが専門家の本当の役割なのだと、改めて教えてくれました。

なぜ?遺産分割協議の原則と構造的なデメリット

先の事例で問題の本質となったのは、遺産分割協議が持つ「構造的なデメリット」です。それは、「遺産分割は共同相続人全員の合意が必要で、実務上は内容を同じくする遺産分割協議書に相続人全員が署名押印して手続きを進めるのが一般的」という点に起因します。

この原則があるからこそ、法的に有効な遺産分割が成立するのですが、一方で、相続人間の関係性が複雑な場合には、これが大きな足かせとなり得ます。

例えば、以下のような状況を想像してみてください。

  • 長男には事業資金として多めに渡したいが、他の兄弟には知られたくない。
  • 介護で特に負担をかけた一人にだけ、感謝の気持ちとして金銭を上乗せしたい。
  • 疎遠な相続人がおり、細かいお金の話を共有することに抵抗がある。

このような繊細な配慮が必要なケースで、すべての情報をオープンにしてしまうと、不要な憶測や嫉妬を生み、かえって協議が紛糾する火種になりかねません。全員の合意形成という原則が、皮肉にも円満な解決を遠ざけてしまう可能性があるのです。

この「全員への情報公開」という構造的なデメリットを回避し、より柔軟な解決を可能にするのが、次にご説明する「相続分の譲渡」なのです。

遺産分割協議と相続分の譲渡の比較図解。遺産分割協議は全員の合意が必要で情報が公開されるのに対し、相続分の譲渡は当事者間で完結し協議から離脱できる点をイラストで示している。

解決策としての「相続分の譲渡」とは?

「相続分の譲渡」とは、ご自身の法定相続分を、他の相続人や相続人ではない第三者に対して譲り渡す法律行為を指します。これは単に「特定の預貯金や不動産をもらう権利」といった個別の財産を譲渡するのとは異なり、「遺産全体に対する持分(相続分)を譲渡し、遺産分割協議への参加関係(当事者)が移る」という、より根本的な手続きです。

譲渡の対価は、有償(お金を受け取る)でも無償(無償で譲る)でも構いません。ここを選べるのも相続分の譲渡のメリット。今回のような使い方のほかに、遺産分割協議の合意までまつと時間がかかってしまう場合に早々に各種の手続きから離脱したい人は相続分を譲渡することによって離脱できます(ただし、亡くなった方に債務がある場合は請求される可能性があるので要注意)。

参照:民法 | e-Gov法令検索

メリット:協議からの離脱と柔軟な財産承継

相続分の譲渡には、主に以下のようなメリットがあります。

  • 遺産分割協議から離脱できる:相続に全く関わりたくない場合、ご自身の相続分を誰か一人に譲渡してしまえば、その後の煩雑な遺産分割協議に参加する必要がなくなります。特に、他の相続人と顔を合わせたくない事情がある方には有効な手段です。
  • 早期に現金化できる可能性がある:相続分を有償で譲渡する契約を結べば、遺産分割協議がまとまるのを待たずに、譲受人から対価となる金銭を受け取ることができます。
  • 特定の相続人に財産を集中させられる:複数の相続人が一人の相続人に対して相続分を譲渡することで、事業承継などのために特定の人物に財産をスムーズに集約させることが可能です。
  • 他の相続人への配慮が可能になる:そして、冒頭の事例のように、一部の相続人間の特別な合意内容を他の相続人に知らせることなく、円満に手続きを進めることができます。これは、単なる法律テクニックではなく、ご親族間の関係性を守るための「大人の対応」とも言えるでしょう。

デメリット:最大の注意点は「債務」の承継

非常に便利な相続分の譲渡ですが、重大な注意点があります。それは、プラスの財産(預貯金や不動産)に対する権利を譲渡しても、マイナスの財産(借金などの債務)の支払義務からは逃れられないという点です。

相続分の譲渡は、あくまで相続人間の内部的な権利移転に過ぎません。お金を貸している債権者から見れば、あなたが相続人である事実に変わりはないのです。

例えば、あなたが相続分を兄に有償で譲渡し、「被相続人の借金もすべて兄が引き継ぐ」という合意書を交わしたとします。しかし、その後、債権者があなたに対して「法定相続分に従って借金を返済してください」と請求してきた場合、あなたはそれを拒むことができません。もちろん、あなたが返済した分は後から兄に請求できますが、もし兄に支払い能力がなければ、その負担はあなたが負うことになります。ただし同じことは遺産分割協議でも同じことが言えるため、相続放棄も検討する必要があります。

被相続人に借金があることが分かっているケースでは、相続分の譲渡は慎重に検討する必要があります。

【比較】相続放棄との決定的な違い

「相続に関わりたくない」という目的で使われる点で、相続分の譲渡は「相続放棄」と混同されがちですが、両者は全く異なる制度です。安易な選択は思わぬ結果を招くため、その違いを正確に理解しておくことが極めて重要です。

項目相続分の譲渡相続放棄
債務の扱い支払義務は残る支払義務はなくなる
権利の承継先譲渡した相手(相続人・第三者)他の法定相続人
手続きの期限原則なし(遺産分割協議成立まで)相続開始を知った時から3ヶ月以内
家庭裁判所の関与不要(当事者間の合意のみ)必須(家庭裁判所への申述が必要)
相続分の譲渡と相続放棄の比較

最大の違いは「債務の扱い」です。被相続人の借金から完全に解放されたいのであれば、選択肢は相続放棄しかありません。相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったことになります。一方で相続分の譲渡は、あくまで相続人という地位を保ったまま、その権利内容を他人に移す手続きなのです。

相続分の譲渡と相続放棄の違いを比較する図解。債務の扱い、権利の承継先、家庭裁判所の関与という3つの観点から、それぞれの制度の特徴を分かりやすく解説している。

相続分の譲渡が他の相続人に与える影響

相続分の譲渡は、譲渡人(譲り渡す人)と譲受人(譲り受ける人)だけの問題ではありません。特に、相続人ではない「第三者」に相続分を譲渡した場合には、他の相続人に大きな影響を与えます。

これまで家族や親族だけで進めてきた遺産分割協議に、全く無関係の第三者が参加してくることになるからです。これにより、話し合いが複雑化したり、感情的な対立が生まれたりするリスクがあります。

このような事態を防ぐため、民法は他の相続人に「相続分の取戻権(とりもどしけん)」という権利を認めています。

これは、第三者に譲渡された相続分を、他の相続人が「その譲渡価額+費用」を支払うことで取り戻せるという制度です。見ず知らずの第三者が遺産分割に介入してくることを防ぎ、相続人間の円満な解決を保護することを目的としています。

ただし、この取戻権はいつでも行使できるわけではありません。譲渡の時から1ヶ月以内に行使する必要があり、この期間を過ぎると権利は消滅してしまいます。もし、他の相続人の誰かが第三者に相続分を譲渡したことを知った場合は、速やかに対応を検討する必要があります。こうした事態は、疎遠な相続人がいるケースなどで起こることがゼロとは言えません。滅多にないケースですが相続分の第三者への譲渡を匂わせる相続分がいた場合は、対応を考えなければいけないかも知れません。

手続きと税金、登記について司法書士が解説

それでは、実際に相続分の譲渡を行う際の実務的な手続き、そして避けては通れない税金や登記の問題について、司法書士の視点から具体的に解説します。

手続きの流れと「相続分譲渡証明書」の作り方

相続分の譲渡は、以下のステップで進めるのが一般的です。

  1. 譲渡人・譲受人間の合意:誰が誰に、どのような条件(有償か無償か、対価はいくらか等)で相続分を譲渡するのかを当事者間で明確に合意します。
  2. 相続分譲渡証明書の作成:合意内容を証明する書面を作成します。法的に決まった書式はありませんが、後のトラブルを防ぐため、以下の項目は必ず記載しましょう。
    • 被相続人の氏名、本籍、死亡日譲渡人と譲受人の氏名、住所「相続分を譲渡した」という明確な意思表示譲渡の対象となる相続(どの被相続人の相続か)譲渡日(有償の場合)対価の金額
    実務上、この証明書には譲渡人が実印で押印し、印鑑証明書を添付することが不可欠です。この形でないと相続登記(不動産の名義変更)に使えませんし書面の信頼性が担保する意味合いもあります。
  3. 他の相続人への通知:相続分を譲り受けた譲受人は、他の相続人に対して「私が〇〇さんから相続分を譲り受けました」と通知するのが一般的とされています。ただ、元々相続人だった人が相続分の譲渡を受けた場合は不自然さはないため、とりたてて通知するのが良いかどうか、事案によると当事務所は考えております。

注意すべき税金問題(贈与税・所得税)

相続分の譲渡は、その条件によって関わってくる税金の種類が大きく異なります。安易に手続きを進めると、予期せぬ高額な税金が発生するリスクがあるため、特に注意が必要です。ここに記載するのは一般論なので、ご自身の事案に合わせて税理士への確認は必要です。当事務所にご依頼いただいた方には提携税理士のご紹介も行っておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

パターンは大きく4つに分けられます。

  1. 他の相続人へ「無償」で譲渡:この場合、譲渡した側に税金はかかりません。譲り受けた側は、最終的に取得した財産全体に対して相続税が課税されます。贈与税が問題にならないこともありますが、契約内容や実質(対価の有無・時価との差など)によって課税関係は変わり得ます。
  2. 他の相続人へ「有償」で譲渡:譲渡した側は、受け取った対価が譲渡した相続分の時価を上回らない限り、原則として税金はかかりません。譲り受けた側は、最終的に取得した財産から支払った対価を差し引いた部分に対して相続税が課税されます。
  3. 第三者へ「無償」で譲渡:最も注意が必要なケースです。譲渡した側には、相続分の時価に相当する金額を譲渡したとして所得税(譲渡所得)が課税される可能性があります。さらに、譲り受けた側には、その時価相当額に対して贈与税が課税されます。二重課税のリスクがあるため、通常は避けるべき選択です。
  4. 第三者へ「有償」で譲渡:譲渡した側は、受け取った対価が相続分の時価を上回る部分について所得税(譲渡所得)が課税される可能性があります。譲り受けた側は、譲り受けた相続分について贈与税が課税される可能性があります。

このように、誰に、どのような条件で譲渡するかによって税務上の取り扱いは大きく変わります。贈与税などの税金問題は非常に専門的ですので、必ず事前に税理士さんへ相談することをお勧めします。

相続登記への影響は?司法書士の視点

遺産に不動産が含まれる場合、相続分の譲渡は相続登記の手続きにも影響を及ぼします。ここが我々司法書士の専門分野です。

例えば、相続人がA、B、Cの3人で、CがAに相続分を譲渡したとします。その後、AとBの遺産分割協議により、不動産はAが単独で取得することになりました。

この場合、登記手続きとしては、被相続人から直接Aに名義を移すことができます。途中でCが相続したという登記を入れる必要はありません。

しかし、もしCが相続人ではない第三者Dに相続分を譲渡し、その後の協議等で不動産をAが取得することになった場合はどうでしょうか。このケースでは、原則として共同相続の登記を経た後に、CからDへの「相続分の売買(贈与)」等を原因とする持分移転登記が必要になるなど、登記が複数段階になり、登録免許税や司法書士報酬などの費用が増える可能性があります。

相続登記は専門的な判断を要する場面が多いため、相続分の譲渡を検討する際は、登記への影響も見据えて計画を立てることが重要です。

まとめ|最適な手続きはご家庭の事情で変わります

ここまで見てきたように、「相続分の譲渡」は、遺産分割協議の「全員が同じ内容で合意しなければならない」という構造的なデメリットを回避し、より柔軟で円満な相続を実現するための非常に有効な選択肢です。

特に、相続人間の関係性や個別の事情に配慮したい場合に、その真価を発揮します。

しかしその一方で、

  • 債務の承継義務からは逃れられない
  • 第三者への譲渡は「取戻権」のリスクがある
  • 税金の取り扱いが複雑で、思わぬ課税リスクがある
  • 不動産登記の手続きが煩雑になる可能性がある

といった、専門的な判断を要する多くの注意点も存在します。安易な自己判断は、かえって新たなトラブルを生む原因にもなりかねません。

相続手続きは、一つとして同じものはありません。同じ「財産を承継する」というゴールにたどり着くにも、ご家庭の事情や皆様の想いによって、最適な道のりは異なります。相続登記(不動産の名義変更)だけに焦点をあてすぎると、その部分は達成できても不要な感情的なしこりを残すことも考えられます。その数ある選択肢の中から、法律、税務、そして何より皆様のお気持ちに寄り添い、最も適切な手段をご提案することが、私たち専門家の使命だと考えています。

もしあなたが遺産分割の進め方にお悩みでしたら、どうか一人で抱え込まないでください。「相続分の譲渡」という選択肢があなたのケースに合うのかどうか、まずはお気軽にご相談いただければ幸いです。

東京23区はもちろん、千葉県・神奈川県・埼玉県など首都圏の方のご相談を承っております。どうぞお気軽にご相談ください。

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下北沢司法書士事務所 竹内友章

後見監督人とは?成年後見人との違いを司法書士が解説

2026-01-22

成年後見人と後見監督人、なぜ混同しやすい?司法書士が解説

「成年後見制度」と聞くと、多くの方が「成年後見人」がご本人の財産管理や身上監護を行う制度、というイメージをお持ちかと思います。ただ成年後見制度には似たような用語で「後見監督人」というのも出てきます。会話の中だと成年後見人と後見監督人がごっちゃになるとうまく伝わらないことも少なくありません。この2つが違う立場であることを意識すると裁判所に後見人になるための面接に行くときなども話が分かりやすくなります。

まず抑えておきたいのは、成年後見制度を利用する場合「成年後見人」は必ず選ばれますが「後見監督人」は選ばれるかどうかはケースによるということです。監督人は必ずつくものではありません。一般に司法書士をはじめとする専門職だと監督人がつきにくく、親族が後見人だと監督人がつく可能性が高いです。ただ専門職でも司法書士の場合は後見の組合組織(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート)に属していない場合は監督人がつきやすいでしょうし、あくまで傾向性がそうだとしかコラムでは言えません。あなたのご家庭の事情や後見制度を利用したい目的などが分かればもう少し具体的にお話しできると思います。成年後見制度利用のご相談をしたい方は、ぜひ下北沢司法書士事務所までご相談ください。

もう1つお伝えしておきたいことがあります。後見人は候補者を推薦できますが監督人は基本的に候補者を推薦できません。裁判所に後見制度利用の際に提出する申し立て書に後見人候補者を書く欄はあっても、監督人候補者を書く欄はありません。監督する人まで推薦させたら、監督人がご本人よりも後見人のために仕事をしてしまうリスクが上がりますので当然かもしれません。

それでが成年後見人と後見監督人の役割や権限、費用の違いについて、私も監督人を経験しているので実務上の経験も交えながら解説していきます。

一目でわかる!成年後見人と後見監督人の違い

成年後見人と後見監督人では役割が違います。後見人は実際に財産管理をする人、監督人はその人から相談を受けて回答をしたり、後見人の業務に問題があったら注意したり、あるいは後見人が作成した報告書類をチェックするのが主な仕事です。

両者の違いをより具体的に理解するために、「役割」「選任」の観点から比較してみましょう。

成年後見人と後見監督人の違いを比較した図解。成年後見人は「実行する人」、後見監督人は「監督する人」と役割や選任方法の違いをアイコン付きで分かりやすく解説。

役割の違い:財産を「管理する人」と「監督する人」

両者の最も大きな違いは、その役割にあります。

  • 成年後見人:ご本人の代理人として、預貯金の管理、不動産の処分、施設の入所契約など、財産管理や身上監護に関する事務を「実行」するのが主な役割です。いわば、最前線で動くプレイヤーです。
  • 後見監督人:成年後見人の業務が、ご本人の利益のために、そして法律や家庭裁判所の指示に従って適切に行われているかを、第三者の客観的な視点から「チェック(監督)」するのが役割です。後見人から定期的に財産状況の報告を受け、その内容を審査し、家庭裁判所に報告します。

後見監督人は、後見人の事務を監督しますが、後見人に代わって財産管理を直接行うわけではありません。

選任の違い:必ず選ばれる後見人と、必要に応じて選ばれる監督人

選任されるプロセスにも明確な違いがあります。

  • 成年後見人:成年後見制度(法定後見)の利用が開始されると、必ず選任されます。後見人がいなければ制度は始まりません。
  • 後見監督人:常に選任されるわけではなく、家庭裁判所が「後見人の業務を監督する必要性が高い」と判断した場合に選任されます。親族が後見人になる時はかなり高い確率で選任されるでしょう。後述する任意後見制度を利用する場合には必ず選任されます。

この違いを理解することが、制度利用の全体像を掴む上で非常に重要です。成年後見制度の全体像については、「任意後見・家族信託・法定後見の違い」で体系的に解説しています。よろしければこちらも合わせてご覧ください。

【法定後見】後見監督人の権限

ここからは、家庭裁判所が判断能力の不十分な方のために後見人を選ぶ「法定後見」制度において、後見監督人がどのような権限を持つのかを詳しく見ていきましょう。

後見監督人の権限:どこまで関与するのか

後見監督人には、後見人の業務を適切に監督するため、民法でいくつかの権限が定められています。

  • 後見事務の監督と報告請求権:いつでも後見人に対して後見事務の報告を求め、財産の状況を調査することができます。
  • 財産目録の作成への立ち会い:後見人が就任後に行う財産調査と財産目録の作成に立ち会います。
  • 後見監督人の同意を要する行為:後見監督人が選任されている場合、後見人が被後見人に代わって営業や民法13条1項各号の行為をするには、原則として後見監督人の同意が必要です。
  • 利益相反行為における本人代理権:後見人とご本人の利益が相反する法律行為について、ご本人を代理します。
  • 後見人の解任請求権:後見人に不正な行為や著しい不行跡、その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所にその解任を請求することができます。

これらの権限は強力ですが、監督人はあくまで後見業務が適正に行われるよう見守る立場です。日常の細かな買い物や介護の方針決定などに、都度介入するわけではありません。

実際の監督人はどんなことをするのか:監督人経験者である司法書士の実体験

後見監督人の権限について民法にどう書いてあるかお話ししました。法律上の用語を使いながら説明したのでなんだか随分理屈っぽくて細かそうな人のように感じるかも知れません。実際に監督人につくのは弁護士さんや司法書士が多いです。私は司法書士ですので、自分が監督人をつとめることもあれば同業の方に監督人就任を業務としている方もたくさんいらっしゃいます。その経験と現場の雰囲気を知っている立場からすれば、ぜひみなさんに安心して頂きたいと思います。杓子定規に法律の話ばかりしたり細かい報告を求めたりする人は少数派だと思います。たまそういう人もいますが、このコラムに行きついてくれるあなたならそんな人にあたらないでしょう。大丈夫です!私も本当はいけないのかも知れませんが、裁判所向けの書類作成に慣れない親族後見人のために、ほとんど代わりに書類を作っている状態の時もあります。当然、後見人ご本人にも事実関係に間違いがないかなど良く確認して頂いてはいますが、少しでも後見業務の負担を減らしていただけるよう努力しているつもりです。ただ、不動産売却など複雑な課題が控えている場合は要注意かも知れません。あなた自身も行う作業が難しかったり、段取りにもある種のセンスが必要です。加えて監督人も実はまだ監督業務に慣れない人で、過度に慎重になったりうまくあなたに助言ができなかったりすると話が一向に進まず、先方と約束した契約期限ばかりがどんどん迫ってくるなんてことも考えられます。重いテーマがある場合は、司法書士などの専門職に後見人を任せることも検討しましょう。

後見監督人になれない人とは?(欠格事由)

後見監督人は、後見人を監督するという重要な役割を担うため、誰でもなれるわけではありません。法律で、以下の人は後見監督人になることができないと定められています(欠格事由)。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
  • 破産者
  • 本人に対して訴訟をした者、その配偶者、直系血族
  • 行方の知れない者
  • 後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹

未成年者や既に他の方の成年後見人として解任された人、自分が破産した人は財産管理をする立場としてふさわしくありません。後は後見人に近しい人も除かれています。

(参考:成年後見監督人(保佐監督人、補助監督人)の選任|裁判所

【任意後見】任意後見監督人の役割と選任の重要性

任意後見契約について司法書士と相談する老夫婦のイラスト。将来への備えをすることで安心感を得ている様子。

次に、ご本人が元気なうちに、将来判断能力が低下したときに備えて自ら後見人を選ぶ「任意後見」制度における監督人の役割を見ていきましょう。ここには、法定後見とは決定的に違う重要なポイントがあります。

任意後見では監督人の選任が必須!その理由とは

法定後見では監督人が選任されないケースもありますが、任意後見制度では、任意後見監督人が選任されて初めて契約の効力が生じます。つまり、任意後見監督人の選任は「必須条件」なのです。

なぜ必須なのでしょうか。それは、任意後見が、ご本人の意思に基づいて自由に後見人(任意後見受任者)を選び、財産管理の内容も契約で決められる、自由度の高い制度だからです。その自由度を担保する代わりに、いざ判断能力が低下して契約が発効する段階になったら、公的機関である家庭裁判所が選んだ監督人が、その契約がきちんと守られているかをチェックする仕組みになっているのです。

本人が選んだ後見人だからこそ、客観的な第三者による監督が不可欠である、という考え方が根底にあります。より詳しい制度の違いについては、「任意後見・家族信託・法定後見の違い」の記事もご参照ください。

任意後見監督人の仕事:契約内容の遵守をチェック

任意後見監督人の主な仕事は、任意後見人が事前に結ばれた「任意後見契約書」に定められた内容通りに業務を行っているかを監督し、家庭裁判所に定期的に報告することです。

法定後見監督人との違いは、監督の基準が法律だけでなく、当事者間で定めた「契約書の内容」になる点です。契約で定められた代理権の範囲を逸脱した行為をしていないか、任意後見人にために代理権を行使しているか、といった点が任意後見監督人の注目するポイントになります。

気になる費用は?後見監督人の報酬の目安

後見監督人が選任された場合、気になるのが費用面です。後見人だけでなく、監督人にも報酬を支払う必要があります。

報酬は誰が払う?金額の目安は?

後見監督人への報酬は、成年後見人への報酬と同様に、ご本人の財産の中から支払われます。後見人や親族が負担するわけではありません。

報酬額は、後見監督人が行った業務内容に応じて、家庭裁判所が決定します。明確な基準があるわけではありませんが、一般的に、管理財産額に応じて以下のような目安が示されています。

管理財産額報酬月額の目安
5,000万円以下1万円~2万円
5,000万円超2万5,000円~3万円
後見監督人の報酬額の目安

また、不動産の売却など通常の後見事務以外の特別な業務を行った場合には、上記の基本報酬とは別に「付加報酬」が認められることもあります。ご自身の状況でどの程度の費用がかかるか知りたい方は、「任意後見・信託・法定後見の費用比較」のページも参考にしてください。

(参考:成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所

【専門家の視点】後見監督人と上手く付き合うためのポイント

親族後見人が専門家である後見監督人と協力して業務を進めている様子。二人は良好な関係を築いている。

ご親族が成年後見人になった場合、監督人として弁護士さんや司法書士などの専門家が選任されることが多くあります。「専門家に監視されるようで、なんだかやりにくい…」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、後見監督人は決して敵ではありません。むしろ、適正な後見業務を行うための心強いパートナーです。ここでは、監督人と良好な関係を築くためのポイントを解説します。

監督人は「味方」。定期的な報告・連絡・相談を

基本的に後見監督人はあなたの味方です。仮に監督人がいなかったとしても、どの道裁判所には監督されます。監督人がいる場合は「裁判所が納得する報告書類の作り方や説明の仕方を一緒に考えてくれる人」と考えると良いと思います。監督人になる人も色んな方がいますのでこの姿勢でいつもうまくいくわけではありませんが、少なくとも最初から警戒感ガチガチで対峙するよりはスムーズなコミュニケーションがとれると思います。

財産管理の透明性を保つための記録の付け方

監督人からの信頼を得るためには、日々の財産管理の透明性を確保することが不可欠です。ご本人の財産から支出をした場合は、必ず記録を残しましょう。といっても、難しく考える必要がありません。引き落としにできるものは極力引き落としにして、現金をおろしたときは通帳にシャーペンや鉛筆で何に使ったかメモし、領収書もとっておきましょう。これを意識するだけでかなりの部分、財産管理の透明性は保たれると思います。現金で細かい買い物をたくさんした場合は、できればエクセルなどに何にいくら使ったかまとめておくと良いです。

こうした丁寧な記録は、監督人への年次報告の際にも役立ちますし、何よりも後見人自身を他の親族からのあらぬ疑いから守ることにも繋がります。後見業務における精神的な負担を軽減するためにも、記録の習慣化は非常に重要です。

まとめ:後見人と監督人の違いを理解し、最適な制度利用を

この記事では、成年後見人と後見監督人の違いについて解説しました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。

  • 成年後見人は「実行者(プレイヤー)」:ご本人の代理人として財産管理や身上監護を実際に行う。
  • 後見監督人は「監督者(審判)」:後見人の業務が適正に行われているかをチェックする。
  • 法定後見では、監督人は家庭裁判所が必要と判断した場合に選任される。
  • 任意後見では、監督人の選任が契約発効の必須条件となる。
  • 監督人は、後見人を監視する「敵」ではなく、適正な業務を支える「味方」である。

後見監督人は、一見すると後見人にとって堅苦しい存在に思えるかもしれません。しかし、その役割は後見業務の透明性を確保し、ご本人の財産を守ると同時に、不慣れな後見人を支え、法的なトラブルから守ると効果もあります。

当事務所では親族が後見人になる場合も申し立て書類の作成をサポートし、その後のスムーズな後見業務に後見します。特に不動産売却などの大きなイベントが控えている場合は、事情を適切に裁判所に説明する書類を用意した方が良いケースが多いです。また、成年後見人としても東京だけでなく、千葉・埼玉・神奈川・茨城の方の後見人に就任の実績があります。皆様それぞれの背景事情を組みとってくれる司法書士を探し、ご縁あって私がつとめさせていただいております。

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下北沢司法書士事務所 竹内友章

司法書士が解説!遺言書を作成すべき典型的な5つのケース

2026-01-21

遺言書があれば…司法書士が現場で感じること

こんにちは。下北沢司法書士事務所の竹内です。
当事務所では、相続人が10名を超えるような複雑な相続手続き(遺産承継業務)も得意としております。相続人の方を一人ひとり調査し、ご連絡を取り、皆様にご納得いただける形で遺産分割協議書を作成し、不動産の名義変更まで一貫してサポートさせていただく。それはまさに、司法書士としての専門性が問われる仕事です。

しかしそのような複雑な案件に携わるたび、ふと思わずにはいられません。
「もし遺言書があったらなぁ・・・」

もちろん遺言がなくても、依頼者様のご負担が少ないように最大限サポートします。ただ、どうしてもかかる時間には大きな差がでますし、ご判断いただいたり相談させていただいたりする場面は遺言がある時と比べて増えてしまいます。

この記事では、遺言書がないことで手続きが複雑になりがちな典型的なケースを、現場の視点から具体的にお伝えします。ご自身の状況と照らし合わせ、「我が家には関係ない」と思わず、ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。このテーマの全体像については、遺言が必要なケースとは?司法書士が相談事例で解説でも解説しています。

司法書士が解説!遺言書を作成すべき5つの典型ケース

相続は、どのご家庭でも起こることです。そして、少しでも法律で定められた相続人の関係が複雑になると、遺言書がない場合にトラブルへと発展する可能性が格段に高まります。ここでは、特に遺言書の作成を強くお勧めする5つのケースをご紹介します。

リビングで遺言書について悩んでいる様子の熟年夫婦のイラスト

ケース1:お子さんがいないご夫婦

「夫婦二人だけだから、私に何かあっても全財産は妻(夫)にいくはず」
このように考えていらっしゃる方は非常に多いのですが、実は法律上のルールは異なります。お子さんがいないご夫婦の場合、亡くなった方の親がご存命であれば親も相続人になります。もし親もすでに亡くなっている場合は、亡くなった方の兄弟姉妹(その兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥や姪)が相続人になるのです。

遺言書がなければ、残された配偶者は、亡き夫(妻)の兄弟姉妹という、普段あまり付き合いのない、場合によっては何十年も会っていない親族と、遺産の分け方について話し合う「遺産分割協議」をしなければなりません。思い出の詰まったご自宅も、話し合いの結果によっては売却して代金を分けなければならなくなったり、共有名義になったりする可能性もあります。

最愛のパートナーに全財産を確実に遺し、無用な心労をかけないために、「全財産を妻(夫)〇〇に相続させる」という一文を記した遺言書は、大切な「お守り」と言えるでしょう。

ケース2:再婚していて、前配偶者との間にお子さんがいる

再婚されている方の相続は、特に複雑化しやすいケースです。遺言書がない場合、現在の配偶者やその間のお子さんと、前配偶者との間のお子さんが、同じ立場で相続人となります。

長年顔を合わせていない、あるいは全く面識のない者同士が、財産について話し合いをしなければならない状況を想像してみてください。感情的な対立が生まれやすく、お互いの生活状況もわからないため、協議がまとまらずに長期化・泥沼化する典型的な例です。

現在の家族の生活を守りたい、あるいは前妻の子と後妻との間で公平に財産を分けたいなど、ご自身の想いを実現するためには、遺言書で明確に意思表示をしておくことが不可欠です。

ケース3:相続人同士の仲が良くない、または疎遠である

「うちは財産も少ないし、揉めることなんてない」と思っていても、相続をきっかけに、それまで表面化しなかった兄弟間の不満や確執が噴出し、「争続」へと発展するケースは後を絶ちません。

遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立しません。一人でも納得しない人がいれば、話し合いは平行線をたどり、家庭裁判所での調停や審判へと進むことになります。そうなれば、解決までに数年単位の時間がかかることも珍しくなく、弁護士費用などの金銭的負担はもちろん、家族関係に修復不可能な亀裂が入ってしまう精神的なコストは計り知れません。

遺言書は、誰に、どの財産を、どれだけ遺すかを明確に指定することで、相続人同士が直接話し合う必要性をなくし、無用な争いを防ぐ「防波堤」の役割を果たします。そこには、相続における感情的な対立を未然に防ぐという、大きな価値があるのです。

ケース4:内縁の配偶者など、相続人以外に財産を渡したい人がいる

婚姻届は出していないものの、長年連れ添ったパートナー(内縁の配偶者)や、我が子同然に面倒を見てくれた長男のお嫁さん、あるいはご自身の介護で大変お世話になった方。こうした方々に「感謝の気持ちとして財産を遺したい」と考えても、遺言書がなければその想いは叶いません。

なぜなら、内縁の配偶者や子の配偶者は、法律上の相続人ではないため、相続する権利がないためです。遺言書がない場合、財産は基本的に全て法定相続人が相続します。

感謝の気持ちを形にし、特定の人に財産を遺す方法の一つが「遺言(遺贈)」です。また、お世話になった団体などに遺言によって寄付をすることも可能です。あなたの想いを確実に届けるために、遺言書の作成を検討することが重要です。

ケース5:個人事業主や会社経営者で、事業用の財産がある

個人で事業を営んでいる方や、会社の経営者にとって、遺言書は事業の未来を左右する極めて重要なツールです。事業で使っている土地・建物や、会社の株式(自社株)も、個人の財産として相続の対象となります。

もし遺言書がないまま相続が発生すると、これらの事業用資産が法定相続分に応じて相続人全員に分散されてしまう可能性があります。その結果、後継者が事業に必要な議決権を確保できなくなったり、不動産が共有状態となり事業継続に支障をきたしたりと、最悪の場合、事業そのものが立ち行かなくなるリスクを孕んでいます。

信頼できる後継者に事業用資産を集中して相続させ、会社の経営を安定させるためには、遺言書による明確な指定が不可欠です。相続財産に株式が含まれる場合の手続きは複雑であり、専門家のアドバイスを受けながら計画的に準備を進めることが重要です。

司法書士に遺言書作成の相談をし、安心している夫婦の様子

もし遺言書がなかったら?相続手続きの過酷な現実

では、もし遺言書がないまま相続が発生した場合、残されたご家族はどのような現実に直面するのでしょうか。その手続きの流れは、多くの方が想像する以上に過酷なものです。

  1. 戸籍謄本の収集:まず、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本など)をすべて集める必要があります。本籍地が何度も変わっている場合、全国の役所に請求しなければならず、これだけで数ヶ月かかることもあります。
  2. 相続人の確定:集めた戸籍を読み解き、法律上の相続人が誰なのかを確定させます。前妻との間に子がいたり、認知した子がいたり、あるいは兄弟姉妹が相続人になる場合、会ったこともない相続人が見つかるケースも少なくありません。
  3. 財産調査:不動産、預貯金、有価証券、借金など、プラスの財産もマイナスの財産もすべて調査し、一覧(財産目録)を作成します。
  4. 遺産分割協議:確定した相続人全員で、財産の分け方を話し合います。この協議は、一人でも欠けたり、一人でも合意しなかったりすると成立しません。
  5. 遺産分割協議書の作成:全員の合意内容を書面にまとめ、相続人全員が署名し、実印を押印します。
  6. 各種名義変更:遺産分割協議書に、相続人全員印鑑証明書を添付して、ようやく銀行預金の解約や不動産の名義変更などの手続きに進むことができます。

このプロセスの最大の関門は、「相続人全員の協力が不可欠」という点です。一人でも非協力的な方、連絡が取れない方、行方がわからない方がいれば、手続きは完全にストップしてしまいます。この煩雑さと精神的ストレスは、多数の相続人がいるケースでは特に顕著となり、多くの方が「とても自分たちだけでは無理だ」と感じられるのが実情です。

想いを確実に実現する「有効な遺言書」作成の3つの要点

ご自身の想いを確実に実現し、残された家族を守るためには、法的に「有効な」遺言書を作成することが何よりも重要です。ここでは、最低限押さえておくべき3つの要点をご紹介します。

有効な遺言書を作成するための3つの要点をまとめた図解。種類の選択、形式の厳守、遺留分への配慮の3点。

要点1:自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきか

遺言書には主に2つの種類があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の状況に合わせて選択することが大切です。

  • 自筆証書遺言:
    全文、日付、氏名を自筆で書き、押印することで作成できる遺言書です。手軽で費用がかからないのがメリットですが、形式の不備で無効になったり、紛失・改ざんされたりするリスクがあります。また、相続開始後、(自宅等で保管していた場合は)家庭裁判所での「検認」という手続きが原則として必要になります(ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管された遺言書は検認不要です)。
  • 公正証書遺言:
    公証役場で、公証人と証人2名の立会いのもと作成する遺言書です。作成に費用と手間はかかりますが、法律の専門家である公証人が関与するため、形式不備で無効になる心配がほぼなく、原本が公証役場に保管されるため紛失・改ざんのリスクもありません。検認手続きも不要で、一般に確実性が高い方法です。

どちらが良いか一概には言えませんが、財産が多い方や相続関係が複雑な方は、後々のトラブルを避けるためにも公正証書遺言の作成を強くお勧めします。

法務省のウェブサイトでも自筆証書遺言に関する情報が公開されていますので、ご参照ください。
参照:法務省:自筆証書遺言に関するルールが変わります。

要点2:無効にならないための絶対条件(日付・署名・押印)

特に自筆証書遺言で注意が必要なのが、法律で定められた厳格な形式です。一つでも欠けていると、せっかく書いた遺言書が「ただの紙切れ」になってしまいます。

  • 全文の自筆:財産目録を除き、本文はすべて自分で手書きする必要があります。(※法改正により財産目録はパソコン作成や通帳コピーの添付が可能になりましたが、その全ページに署名・押印が必要です。)
  • 日付の明記:「令和〇年〇月〇日」のように、作成した年月日を正確に記載します。「〇月吉日」といった曖昧な記載は無効です。
  • 氏名の自署:戸籍上の氏名を正確に自分で書きます。
  • 押印:必ず印鑑を押します。認印でも法律上は有効ですが、後々の紛争を避けるためにも実印を使用するのが望ましいでしょう。

これらの要件は絶対です。安易な自己判断はせず、少しでも不安があれば専門家に相談することが賢明です。

要点3:トラブルの火種「遺留分」への配慮

「全財産を、介護をしてくれた長男に相続させる」
このような遺言は、一見すると親心のように思えますが、実は大きなトラブルの火種になる可能性があります。なぜなら、法律では兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、親)に、最低限の財産の取り分として「遺留分」という権利が保障されているからです。

遺留分を侵害された他の相続人は、財産を多く受け取った相続人に対して、侵害された分に相当する金銭を請求することができます(遺留分侵害額請求)。この請求をきっかけに、家族間で深刻な争いに発展するケースは少なくありません。

もちろん、特定の相続人に多くの財産を遺したいという想いは尊重されるべきです。しかし、なぜそのような分け方にしたのかという理由を付言事項として記したり、他の相続人の遺留分にも配慮した内容にしたりすることで、将来の争いを防ぐことができます。

遺言書作成から複雑な相続まで、司法書士にご相談ください

遺言書の必要性を感じても、「何から手をつければいいのか分からない」「自分の場合はどう書けばいいのか」と悩まれるのは当然のことです。そんな時は、ぜひ私たち司法書士にご相談ください。

法的に有効な遺言書の作成をトータルサポート

司法書士にご依頼いただければ、まずお客様のお気持ちやご希望を丁寧にお伺いすることから始めます。その想いを法的に有効な形にするための文案を作成し、財産調査や必要書類の収集、そして最も確実な公正証書遺言を作成する際の公証役場との調整や証人の手配まで、一貫してサポートいたします。煩雑で専門的な手続きはすべて専門家にお任せいただき、安心して想いを形にすることができます。

万が一の場合も安心!遺産承継業務もお任せください

この記事を読んで、「うちはもう遺言書がないまま相続が始まってしまった…」と不安に思われた方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。当事務所は、遺言書作成のサポートだけでなく、もし遺言書がなくて相続が複雑になってしまった場合の解決も得意としています。

相続人調査から、遺産分割協議のサポート、不動産の名義変更、預貯金の解約手続きのサポートまで、司法書士の資格が許す限り最大限の範囲で相続手続きをまとめて支援する遺産承継業務もお任せいただけます。相続人同士で直接やり取りするのが難しい場合でも、私たちが中立な立場で間に入り、円満な解決を目指します。実は遺言がない人の方が多いと思います。事前に作れてなかったとしてもごく普通のことですので、お気軽にご相談ください。

不安な気持ちに寄り添う、下北沢司法書士事務所の無料相談

相続や遺言の問題は、法律や手続きの話だけでは終わりません。そこには、ご家族の歴史や様々な想いが複雑に絡み合っています。少しでもみなさんに心を軽くしたいと思い、上級心理カウンセラーの資格も取得しました。相続の背景にある不安や辛いお気持ちにも寄り添うことを大切にしています。

「誰に相談すればいいのか分からない」「こんなことを聞いてもいいのだろうか」と一人で悩まず、まずは当事務所の無料相談をご利用ください。あなたのお話を丁寧にお伺いし、問題解決への第一歩を一緒に見つけ出します。エリアも東京23区はもちろん、首都圏全般(千葉・埼玉・神奈川・茨城)でご依頼実績があります。

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下北沢司法書士事務所 竹内友章

司法書士が見た高齢者詐欺と家族信託の意外な効果

2026-01-20

「母がオレオレ詐欺に!」ある日突然の電話【司法書士の実例】

「竹内さん、母がオレオレ詐欺にあったんです!」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、8ヶ月ほど前に家族信託のお手伝いをさせていただいた息子さんの、切迫した声でした。財産管理のご質問かと思っていた私は、思わず「えっ!どういうことですか?」と聞き返しました。

ことの始まりは、埼玉県で一人暮らしをされているお母様にかかってきた一本の電話でした。「亡くなったご主人名義の預貯金がまだ残っています。手続きをします」そう名乗る相手が口にした銀行名は、実際にお父様が口座を持っていた銀行だったそうです。お母様は、それを聞いてすっかり信じ込んでしまいました。

後日、銀行員を名乗る詐欺師が自宅を訪れ、「入金のために奥様のキャッシュカードが必要です。暗証番号も教えてください」と言われるがままに、キャッシュカードと暗証番号を渡してしまったのです。

しかし、幸いなことに被害はごくわずかで済みました。なぜなら、詐欺師に渡してしまった口座の預金は、すでにお母様の手元を離れ、息子さんが管理する信託口口座にほとんど移されていたからです。

このご家族が家族信託を選ばれた本来の目的は、お母様の認知症による資産凍結を防ぐことでした。「将来、母が介護施設に入るときに実家が売れなくなったら困る」という息子さんの心配がきっかけでした。

当初、任意後見制度も選択肢にありましたが、ご家族の財産状況を定期的に家庭裁判所に報告することに抵抗を感じられていました。そこで、ご家族の意思で柔軟な財産管理ができる家族信託をご提案したのです。

ご契約前、私は息子さんと一緒にお母様のご実家へ伺いました。専門家として知識面でサポートさせていただくためです。私たちの仕事は、無理に対策を勧めることではありません。ご家族が心から納得し、前向きな一歩を踏み出すためのお手伝いをすることです。その日、お母様はご自身の意思で「この際だから、預貯金の管理も息子に任せたい」とおっしゃり、預金の大部分を信託することになりました。

まさか、その決断が詐欺被害を防ぐことになるとは、誰も予想していませんでした。認知症対策として組んだ家族信託が、思わぬ形で強力な「盾」となったのです。この出来事は、私にとっても家族信託の新たな可能性を実感する、非常に印象深い経験となりました。

この記事では、認知症による資産凍結への備えについて網羅的に解説した任意後見・家族信託・法定後見の違いを比較|費用・手続きで選ぶの内容をさらに掘り下げ、特に巧妙化する高齢者詐欺への対策という観点から、家族信託の有効性を詳しく解説していきます。

あなたの親も狙われている?巧妙化する高齢者詐欺の手口

「うちの親はしっかりしているから大丈夫」…そう思っていても、近年の詐欺手口は非常に巧妙で、誰が被害に遭ってもおかしくありません。警察庁の発表でも、特殊詐欺の被害は依然として深刻な状況が続いています。

なぜ、多くの高齢者が騙されてしまうのでしょうか。そこには、孤独感や将来への不安、公的機関への信頼といった心理が巧みに利用されています。まずは代表的な手口を知り、ご自身の親御さんの状況と照らし合わせてみてください。

電話口で不安そうな表情を浮かべる高齢女性。高齢者詐欺の危険性を暗示している。

家族の絆を悪用する「オレオレ詐欺」

最も古典的でありながら、今なお被害が後を絶たないのが「オレオレ詐欺」です。「会社の金を使い込んだ」「事故を起こしてしまった」などと息子や孫をかたり、トラブル解決金の名目で現金をだまし取ります。
最近では、声が似ていなくても「風邪をひいて声がおかしい」と言い訳したり、警察官や弁護士を名乗る複数の人物が登場して信じ込ませる「劇場型」の手口も増えています。突然のトラブル連絡に動揺し、冷静な判断ができない心理状態に追い込まれてしまうのです。

公的機関を装う「還付金詐欺」

市役所や税務署の職員を名乗り、「医療費の還付金があります」「税金が戻ってきます」といった電話をかけてくる手口です。そして「今日中に手続きが必要」などとせかし、ATMへ誘導して言葉巧みにお金を振り込ませます。
「公的機関の職員が電話でATMの操作を指示することは通常ありません」と分かっていても、「手続きが複雑でよく分からない」「早くしないと損をする」という焦りから、つい指示に従ってしまう方が少なくありません。

不安を煽る「点検商法・リフォーム詐欺」

「無料で屋根を点検します」「水道管の検査に来ました」などと突然訪問し、「このままでは大変なことになる」と嘘の報告で不安を煽り、不要なリフォーム工事や高額な商品を契約させる手口です。
特に一人暮らしの高齢者はターゲットにされやすく、一度契約してしまうと「あそこも悪い」「これも必要だ」と次々と新たな契約を迫られるケースもあります。断り切れずに高額な支払いをしてしまう背景には、詐欺師との間に信頼関係のようなものが生まれてしまう特殊な心理状態が働くこともあります。

参照:警察庁「特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の 認知・検挙状況等について」

なぜ家族信託は詐欺対策に効果があるのか?

様々な詐欺手口がある中で、なぜ家族信託が有効な対策となるのでしょうか。その理由は、家族信託が持つ「財産管理の権限を分離し、移転する」という仕組みそのものにあります。簡単に言えば、「本人の手元から大金を物理的に遠ざけ、本人の意思だけでは財産を動かせなくする」ことで、詐欺師が入り込む隙をなくすのです。

財産を「守るための金庫」に移す仕組み

家族信託を、財産の「金庫」に例えてみましょう。
まず、親御さん(委託者)が持つ預貯金や不動産といった大切な財産を、「信託」という枠組みに移し、受託者が信託契約で定めたルールに従って管理します。
そして、その金庫の「鍵」を、信頼できるお子さん(受託者)が預かります。親御さんの生活費や医療費が必要になったときは、お子さんが鍵を使って金庫からお金を出し、親御さんに渡したり、直接支払ったりします。

家族信託の仕組みを図解したインフォグラフィック。親の財産を子が管理する金庫に移すことで、詐欺師から財産を守る様子が描かれている。

この状態にしておけば、たとえ詐欺師が親御さんを騙してお金を引き出させようとしても、親御さんの手元には日々の生活に必要なお金しかありません。大金が入っている金庫は、鍵を持つお子さんの許可なく開けることはできないのです。
冒頭の事例のお母様も、まさにこの仕組みによって被害を最小限に食い止めることができました。このように、財産管理のあり方そのものを変えるのが家族信託の大きな特徴です。

不動産の名義変更が営業電話をシャットアウトする

家族信託には、あまり知られていないもう一つの詐欺対策効果があります。それは、不動産を信託財産にすると、法務局の登記簿上、所有者欄に受託者が「受託者」として記載されるという点です。

悪質なリフォーム業者や不動産業者の中には、法務局で登記情報を閲覧し、高齢者名義の不動産をリストアップして営業電話や訪問をかけてくる者もいます。
しかし、信託によって登記名義がお子さんに変わっていれば、業者が登記情報を確認しても、そこにはお子さんの名前が受託者として記載されています。親御さんが現在の所有権者ではなくなります。これでは、不動産業者が不当に安い値段でご両親のご自宅を買おうとしても、名義を変えるには受託者であるあなたと契約するほかありません。また自宅に届く不動産営業のDMも、登記情報を元に発送されているようです。これらのチラシも信託によって減らせる可能性が高いです。不要な営業、DM、ひいては詐欺のきっかけとなる接触そのものを物理的に減らす効果が期待できます。

【詐欺対策で比較】家族信託 vs 任意後見制度

高齢者の財産を守る制度として、家族信託とともによく比較されるのが「任意後見制度」です。どちらも大切な制度ですが、「詐欺対策」という観点から見ると、その役割や強みが大きく異なります。ご自身の家庭にはどちらが適しているか、考えてみましょう。なお、かかる費用も制度によって大きく異なるため、総合的な判断が重要です。

予防重視なら「家族信託」:被害に遭う前からの防御壁

家族信託の最大の強みは、判断能力がしっかりしている元気なうちから財産管理をスタートできる点にあります。つまり、「被害を未然に防ぐ」予防効果が非常に高いのです。
冒頭の事例のように、あらかじめ財産を信託しておくことで、本人が万が一騙されてしまっても、詐欺師が手を出せない状況を作り出せます。まさに、被害に遭う前から築く「防御壁」と言えるでしょう。
ただし、家族信託はあくまで財産管理の制度です。介護サービスの契約といった身上監護に関する行為は対象外という側面も理解しておく必要があります。

発動後は任意後見も良:ただし取消権が無いことに注意

一方、任意後見の場合はどうでしょうか。任意後見制度には大きな注意点があります。それは、契約を結んだだけでは効力が発生しないということです。実際に本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に申し立てを行い、「任意後見監督人」が選任されて初めて、後見人としての活動が開始できます。そのため、判断能力が低下する「前」の段階での詐欺被害を防ぐのには向いていないというタイミングの課題があります。なお、成年後見制度は法改正も予定されており、今後の動向にも注意が必要です。

そして、任意後見人として活動ができるようになった後も過去に締結した契約について基本的に取消権はありません。ただ、基本的に任意後見人は代理の範囲に訴訟行為の代理人になる権限をいれておくので、これに基づいて消費者契約法などを根拠に取り消しを主張できることになります。そしてなによりも任意後見人には通帳を管理する権限も付与するのが通常ですので、物理的に通帳やキャッシュカードを預かって、本人が勝手に振り込めなくすることができます。まとめると、任意後見人は任意後見監督人が選任された後は本人を守るのに十分な権限があります。ただ選任されていない状態や、選任されたとしても「選任前に起きた過去の出来事」に対する防衛は不安が残ります。

ちなみに、本人が認知症になった後に裁判所が後見人を選ぶ法定後見制度には取消権があります。
本人が認知症などにより判断能力を欠いた状態で結んでしまった不利益な契約(悪質なリフォーム契約など)を、法定後見の成年後見人等が後から取り消すことができる法的権限です。私は基本的に法定後見を利用するよりできれば元気なうちに任意後見契約を締結した方が良いと考えていますが、この取消権の有無については法定後見制度の方にメリットがあります。

私たちの場合はどっち?判断のポイントを司法書士が解説

それでは、ご自身の家庭ではどちらの制度を検討すべきでしょうか。判断のポイントをまとめました。

  • 家族信託が向いているケース
    詐欺被害を未然に防ぐことを最優先に考えたい。元気なうちから財産管理を始め、将来の資産凍結にも備えたい。不動産の活用など、柔軟な財産管理を続けたい。
  • 任意後見が向いているケース
    財産管理だけでなく、介護施設への入所契約など、生活全般の見守りや身上監護を重視したい。万が一、不利益な契約をしてしまった場合の取消権に魅力を感じる。
  • 両方の制度を併用するケース
    最も盤石な対策として、家族信託と任意後見契約を同時に結ぶ方法もあります。元気なうちは家族信託で財産を守り、将来判断能力が低下した際には任意後見をスタートさせて身上監護もカバーするという、両方の「良いとこ取り」が可能です。

どの方法が最適かは、ご家族の状況や資産内容、そして何よりも「どのような形で親御さんを守りたいか」という想いによって異なります。より詳しい資産凍結防止策の選び方については、別の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。

家族で話し合う勇気。司法書士がその第一歩を支えます

「対策の必要性は分かったけれど、親にどう切り出せばいいか…」
お金や将来の話は、親子であっても非常にデリケートな問題です。多くの方が、その第一歩を踏み出せずに悩んでいらっしゃいます。

下北沢司法書士事務所は、単に法律手続きを代行するだけの存在ではありません。ご依頼があれば、冒頭の事例のようにご自宅へ伺い、ご家族の話し合いの場に専門家として同席させていただきます。

私たちが何よりも大切にしているのは、ご家族全員の「納得」です。一方的に制度を押し付けたり、無理に契約を急がせたりすることは決してありません。それぞれの制度のメリット・デメリットを丁寧にご説明し、ご家庭ごとの事情や想いに寄り添いながら、皆様が心から「この方法で良かった」と思える道筋を一緒に探していきます。どうぞ、安心してご相談ください。

まとめ:大切な家族を詐欺から守るために今できること

高齢の親御さんを狙う詐欺は、もはや他人事ではありません。大切な家族が被害に遭い、財産だけでなく心の平穏まで奪われてしまう前に、私たちにできることがあります。

まず第一に、この記事でご紹介したような詐欺の手口を知り、ご家族で「私たちの家も狙われるかもしれない」という危機感を共有することです。
そして第二に、最も重要なことですが、親御さんが元気で、判断能力がしっかりしているうちに、将来の財産管理について話し合うことです。

家族信託や任意後見といった制度は、元気なうちだからこそ選択できる、未来への「お守り」です。どの対策が最適か迷われたときは、ぜひ私たち専門家にご相談ください。あなたのご家庭の状況を丁寧にお伺いし、最善の道を見つけるお手伝いをさせていただきます。

対応エリアも事務所所在地の世田谷から遠い葛飾区、江戸川区などを含む東京23区はもちろん、今回の事例のように埼玉・千葉・神奈川など首都圏のご相談に対応しております。

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あなたからのご相談、心よりお待ちしております。

まずはご相談で、あなたのご家庭の状況をお聞かせください

下北沢司法書士事務所 竹内友章

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