遺言はみんな書く必要あるのか?

結論:遺言がなくても円満に相続が進むケースとは

「うちは家族仲も良いし、財産もそれほどない。本当に遺言なんて必要なんだろうか?」相続を考え始めたとき、多くの方が抱く素朴な疑問だと思います。結論から申し上げますと、遺言書がなくても円満に相続が進むケースは、確かに存在します。

具体的には、以下の条件がすべて揃っているような場合です。

  • 相続人が一人しかいない(例:配偶者も親も亡くなっており、子どもが一人だけ)
  • 相続人全員の仲が極めて良好で、財産の分け方について一切の揉め事なく合意できると確信できる
  • 財産が預貯金など、物理的に分けやすいものだけで構成されている

これらのケースでは、相続が発生した後、相続人全員で話し合って財産の分け方を決める「遺産分割協議」によって、スムーズに手続きを進められる可能性があります。

しかし、正直にお伝えすると、これほど条件が綺麗に揃うご家庭は、決して多くはありません。「うちは大丈夫」と思っていても、想定していなかった問題が生じることもあります。安易な自己判断はせず、この記事を最後まで読み進めて、ご自身の状況を客観的に見つめ直してみてくださいね。

司法書士も「遺言は不要」と判断することがあります

私たち司法書士は、いつも「遺言を書きましょう」とだけお伝えしているわけではありません。ご家庭の状況を丁寧にお伺いした結果、「このご家庭なら、遺言がなくてもきっと大丈夫でしょう」と判断し、その旨を正直にお伝えすることもあるのです。

以前、杉並区にお住まいのお客様から遺言作成のご相談を受けた際のことをお話しさせてください。その方は、以前に登記のお仕事でお世話になった方でした。ご家族は、奥様とお子様がお一人。お話を伺うと、ご家族の仲はとても良好で、将来の相続についても「まず妻がすべて相続して、その次は娘に」というお考えがご家族の中で共有されているようでした。

私は、お客様にこうお伝えしました。
「もちろん、遺言書があれば銀行での手続きや不動産の名義変更(相続登記)はスムーズに進みます。ですが、ご家族の状況を考えると、遺言書がなくても、皆さんでの話し合い(遺産分割協議)で円満に進めることも可能だと思いますよ」と。

このケースは、必ずしも遺言がなければならない、という状況ではありませんでした。それでも、最終的にはお客様とじっくり話し合い、将来の手続きの負担を少しでも軽くするために遺言を作成されることになりました。

専門家は「遺言は重要です」と一括りにしがちですが、より正確に言えば「遺言が絶対に必要になるご家庭もあれば、なくても大丈夫なご家庭もある」というのが実情です。私たち下北沢司法書士事務所では、画一的なアドバイスではなく、一つひとつのご家庭の事情に寄り添い、本当にそのご家族にとって最適な方法をご提案することを大切にしています。中には、遺言がマイナスに働く可能性についてお話しすることさえあります。

「うちは大丈夫」と考える場合に確認したい相続トラブルのリスク

前の章で「遺言が不要なケースもある」とお伝えしましたが、安易な自己判断は禁物です。多くの方が「うちは大丈夫」と考える背景には、見過ごされがちなリスクがあります。特に「家族仲が良いから」という理由だけでは、相続時の合意形成を十分に見通せない場合があります。

相続は、お金の問題だけでなく、家族それぞれの感情が絡み合う非常にデリケートな問題。それまで良好だった関係が、相続をきっかけに一変してしまうことは、決して珍しい話ではないのです。ここでは、よくある「大丈夫」という思い込みに潜む、具体的なトラブルの火種について解説します。より詳しい内容は、遺産分割協議で起こりうる問題点の記事でも触れています。

主な財産が「不動産」の場合、共有状態がトラブルにつながることがある

ご自宅やアパートなど、主な財産が不動産である場合は特に注意が必要です。遺言がない場合、不動産は法定相続分に応じて相続人全員の「共有」状態となります。この共有状態が、後のトラブルにつながることがあります。

例えば、相続人が子ども3人だったとしましょう。長男は「親の家に住み続けたい」、次男は「売却して現金で分けたい」、長女は「人に貸して家賃収入を得たい」と考えた場合、どうなるでしょうか。共有不動産を売却したり、大規模な変更を加えたりするには、原則として共有者全員の同意が必要です。また、賃貸などの活用についても、契約内容によっては共有者間の合意形成が問題になります。意見がまとまらない場合、不動産の処分や活用が進みにくくなることがあります。

さらに注意が必要なのは、この共有状態が次の世代へ引き継がれ、共有者が増えていく可能性がある点です。もし長男が亡くなれば、長男の配偶者や子どもが新たな共有者になります。次男、長女も同様です。時間が経つにつれ、面識が少ない親戚が権利者として加わり、話し合いが難しくなることがあります。こうなる前に、不動産を売却して公平に分ける方法もありますが、遺言で「この不動産は長男に」と指定しておけば、このような混乱を避けやすくなります。

遺言がない場合の不動産相続で共有者が増えていく問題を示す図解。一次相続で子供3人が共有し、二次相続以降で孫の世代まで権利者が増え、問題が複雑化する様子が描かれている。

相続人同士の「口約束」や「暗黙の了解」は通用しない

「長男が家業を継ぐから、実家も継ぐのが当たり前」「親の介護を一身に引き受けてくれた長女に、多めに財産を渡してあげたい」

こうした家族内での口約束や暗黙の了解は、残念ながら法的な効力を一切持ちません。遺言書がない限り、相続手続きは法律で定められた「法定相続分」を基準とした遺産分割協議で進めるのが大原則です。

生前は皆が納得していたはずなのに、いざ相続が始まると「法律上の権利は平等なはずだ」と主張する相続人が現れるケースは少なくありません。また、相続人の配偶者など、家族の歴史を直接知らない人が「あなたの権利なのだから、ちゃんと主張すべきよ」と口を挟むことで、話がこじれてしまうこともあります。

親の介護に尽くした貢献分は、「寄与分」として主張できる可能性はありますが、その証明は非常に難しく、認められるハードルは高いのが現実です。感謝の気持ちや特定の願いは、必ず遺言書という法的な形で残しておく必要があります。

相続人の中に連絡が取りづらい人がいる

遺産分割協議の最も重要なルールは、「相続人全員の合意」がなければ成立しない、という点です。

たとえ相続人のうちの一人と音信不通であったり、海外に住んでいて連絡がつきにくかったりするだけで、預金の解約や不動産の名義変更など、すべての相続手続きが完全にストップしてしまいます。

「あの子は昔に家を飛び出して以来、どこで何をしているか分からないから…」といった事情は通用しません。法的な手続きを踏んで戸籍から現在の住所を調査し、手紙を送るなどして連絡を試みる必要があります。それでも連絡がつかない、あるいは話し合いに応じてもらえない場合、手続きが進みにくくなります。詳しい手続きについては連絡が取れない相続人がいる場合の手続きでも解説していますが、時間も費用もかかります。

しかし、遺言書があれば、遺産分割協議を経ずに手続きを進めることができます。相続人全員による遺産分割協議が不要になる場合があるため、このようなリスクを軽減できます。

遺言書を書くべきか?迷ったときの判断基準

ご自身の状況を客観的に見て、「うちの場合は、やはり遺言書があったほうが安心かもしれない」と感じ始めた方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、特に遺言書の作成を強くおすすめする具体的なケースをご紹介します。一つでも当てはまるものがあれば、専門家への相談を検討するきっかけにしてみてください。遺言が必要なケースは、ご家庭の数だけ存在します。

遺言書を作成すべきかリビングで話し合う初老の夫婦。夫は腕を組んで考え込み、妻は心配そうに見守っている。

子どもがいないご夫婦

子どもがいないご夫婦の場合、夫が亡くなると、相続人は妻だけだと思っていませんか?実はそうではありません。夫の両親が健在であれば「妻と夫の両親」が、両親が既に亡くなっている場合は「妻と夫の兄弟姉妹」が共同で相続人になります。

長年連れ添った配偶者が亡くなった悲しみの中、普段あまり付き合いのない義理の兄弟姉妹と、財産の分け方について話し合い(遺産分割協議)をしなければならない…。これは、残された配偶者にとって、精神的に非常に大きな負担となります。最悪の場合、住み慣れた自宅を売却して、その代金を分けなければならない事態にもなりかねません。

「全財産を妻(夫)に相続させる」という内容の遺言書を残しておけば、遺産分割協議の負担を減らし、残されたパートナーの生活を守りやすくなります。特に疎遠な義兄弟への連絡は、多くの方が頭を悩ませる問題です。

再婚していて、前の配偶者との間に子どもがいる

再婚されている方で、前の配偶者との間にお子さんがいる場合、そのお子さんにも現在の配偶者やお子さんと同じように相続権があります。つまり、現在の家族と、前婚のお子さんが、一緒に遺産分割協議をしなければならないのです。

普段ほとんど交流のない者同士が、お金の絡む話し合いを円満に進めるのは、非常に難しいと言わざるを得ません。感情的な対立も生まれやすく、相続トラブルに発展しやすい典型的なケースです。遺言書で「現在の妻に自宅を、前婚の子には預貯金を」というように、誰にどの財産を渡すかを明確に指定しておくことで、家族間の無用な争いを未然に防ぎやすくなります。このような状況は後妻と子の遺産分割という複雑な問題につながりやすいため、事前の対策が重要です。

内縁のパートナーや、お世話になった人がいる

長年連れ添い、事実上の夫婦として生活してきた「内縁のパートナー」には、法律上の相続権が一切ありません。また、ご自身の介護を熱心にしてくれた「息子の妻(お嫁さん)」や、懇意にしていたご友人など、血の繋がりのない第三者も同様です。

これらの大切な人たちに相続財産を遺したいと願うのであれば、遺言書の作成が有力な方法となります。「遺贈(いぞう)」という形で財産を渡すことを書き記すことで、あなたの感謝の気持ちを形にして届けることができます。法律の改正により、相続人以外の親族の貢献が金銭的に評価される制度もできましたが、ご自身の意思を反映させやすくするには、遺言の活用が有効です。

相続人の中に行方不明者や判断能力に不安がある人がいる

相続人の中に、認知症などで判断能力が不十分な方や、行方不明の方がいる場合、遺産分割協議は非常に困難になります。

判断能力が不十分な方がいる場合は、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選任してもらう必要があります。行方不明者がいる場合は、同じく家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てなければなりません。これらの手続きは、申立てから選任まで数ヶ月単位の時間がかかり、費用も決して安くはありません。

しかし、遺言書があり、その内容を実現する「遺言執行者」が指定されていれば、遺産分割協議を前提とする手続きの負担を軽減し、預金の解約や不動産の名義変更などを進めやすくなる場合があります。これは、残された家族の負担を大きく軽減する、実務上の非常に大きなメリットと言えるでしょう。

参照:裁判所「不在者財産管理人選任」

【5分で診断】遺言の必要性セルフチェックリスト

ここまで読み進めて、ご自身の状況を色々と考えられたことと思います。最後に、ご自身の状況を客観的に整理し、遺言の必要性を判断するためのかんたんなチェックリストをご用意しました。「はい」か「いいえ」で答えてみてください。

リビングでノートパソコンを見ながら遺言の必要性セルフチェックリストに回答し、真剣に考える女性。
チェック項目はいいいえ
1. 主な財産に自宅などの不動産が含まれる
2. 子どもがいない、もしくはおひとり様である
3. 再婚しており、前の配偶者との間に子どもがいる
4. 内縁のパートナーなど、相続人以外に財産を渡したい人がいる
5. 各相続人に渡したい財産の割合を、法定相続分とは違うものにしたい
6. 介護などでお世話になった特定の相続人に多く財産を渡したい
7. 相続人同士の仲があまり良くない、または将来が少し心配だ
8. 相続人の中に行方不明の人や、連絡が取りづらい人がいる
9. 相続人の中に判断能力に不安がある人(認知症など)がいる
10. 個人で事業を営んでいる、または会社の株式を所有している
遺言の必要性セルフチェック

【診断結果】
いかがでしたでしょうか。もし、「はい」が一つでもついた方は、遺言書がないことで将来ご家族が困る可能性があるかもしれません。一度、専門家に相談してみることを強くおすすめします。また、ご自身ではなく、親への遺言作成の伝え方も、その伝え方にはコツがあります。

迷ったら、まずは司法書士にご相談ください

「遺言を書くべきか、書かなくても大丈夫か」
この記事を読んで、その判断がいかに難しいかを感じられたのではないでしょうか。最終的な判断は、ご家庭の財産状況、家族構成、そして何よりも「家族への想い」によって変わってきます。インターネットの情報だけでご自身で判断するのは、とても難しいことです。

そんなときは、ぜひ私たち司法書士にご相談ください。私たち下北沢司法書士事務所は、単に法律に沿って手続きを進めるだけの専門家ではありません。

実は、代表の私は心理カウンセラーの資格も持っています。それは、法律的な正しさだけでなく、お客様一人ひとりの不安や辛さ、家族への愛情といった「心」の部分に寄り添いたいという強い想いがあるからです。

「こんなことを聞いてもいいのだろうか」とためらう必要はまったくありません。あなたの想いをじっくりとお伺いし、ご家族にとって納得しやすい相続対策を一緒に検討していきたいと考えています。

初回のご相談は無料です。まずはお気軽にお気持ちをお聞かせください。

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