過去の引き出しや領収書不足は成年後見で追及される?
認知症が進んだ親御さんのために、日々の生活費や病院の医療費、介護サービスの利用料などを親御さんの口座から現金で引き出して支払ってきたご家族はたくさんいらっしゃいます。介護や通院の付き添いに追われる毎日の中で、すべての領収書やレシートをきれいにファイリングし、1円単位で家計簿をつけているご家庭ばかりではありません。
それにもかかわらず、いざ成年後見制度を利用しようと考えたとき、「過去の領収書が残っていないと、私が親のお金を使い込んだと疑われるのではないか」「裁判所や後見人から厳しく追及されるのではないか」と強い不安に駆られ、申立てをためらってしまう方が後を絶たないのです。
なお、成年後見制度の基本的な仕組みや全体像については、法定後見・任意後見のページで体系的に解説しています。
先日も、親御さんの後見制度のご利用を検討されていたAさんが、このような不安を抱えて当事務所へ相談にいらっしゃいました。
「竹内さん、言いにくい事なのですが・過去の母の医療費などの支払いの領収書などちゃんと保管ができてないのです。現金で引き出したものも多いので、私がとったと思われて後見制度を使うと大変なことになってしまうのではないでしょうか?」
ごもっともなお悩みです。今日はこのお悩みに対して、実際に現在も10人ほどの成年後見人をしている世田谷区の司法書士がお応えします。
- まず、過去の領収書関係がきっちりとってあったり、現金の引き出しの記録が細部まで残っている家庭ばかりではありません。むしろそちらの方が少ないかも知れません。過去の現金の引き出し記録が分からない場合からと言って過度に心配する必要はないでしょう。
- また、基本的に成年後見人はやはり、実際に自分が成年後見人に選ばれた後の財産管理を気にします。過去のことで常識的にこのくらいのお金を使って当然と思われるものを追及するようなタイプの司法書士後見人は少ないと思われます。
- ただ、もしも大きなお金を使った場合。例えば車を買ってその車がお子さんの名義になっているということが数年内におきていた場合、少し対応は考えた方が良いかも知れません。例えば「車は実際に運転する子の名義だが、本人が介護施設や病院に通う送迎用に利用している」など理由を説明できる状態にしておくのは対応の1つと言えるでしょう。こういう大きな出金があった場合は、申し立て前に司法書士等に相談した方が良いです。
- とはいえ、後見人候補者をたてないとどんな人が後見人になるか分からないですし、ご親族が後見人になると「監督人」といって業務を監督する立場で司法書士や弁護士さんがつくことも多いです。過去の責任を追及してくるかどうか、外れをひくと追及されるということはありえると思います。
Aさんのお話を基に、私はお母様の通帳履歴を見せていただきました。ざっと見る限り、目を引くような大きな出金記録はありません。少なくとも私が後見人なら過去の記録がないことに対する責任追及など考えないし、それで後見人としての役割を十分に果たしているといえると思うとお伝えしました。
Aさんは安心した様子で、私に後見人就任のご依頼をくださりました。AさんとAさんのお母様は、特に大きな課題を抱えることもなく穏やかに暮らしております。

申立て前の家計管理と就任後の記録義務は基準が違う
そもそも、なぜ多くのご家族が「領収書がないと責められる」とこれほどまでに心配されるのでしょうか。その大きな理由のひとつに、インターネットや書籍などで「成年後見人は領収書や出納帳をきっちり保管し、家庭裁判所に報告しなければならない」という情報を目にすることが挙げられます。
この情報自体は間違いではありません。しかし、ここで知っておいていただきたいのは、その厳密なルールはあくまで「成年後見人に選ばれた後の業務上の義務」だという点です。
成年後見人が選ばれる前の一般のご家庭でのやりくりにまで、同じような厳密さが求められるわけではありません。親子や家族の間で、体調の優れない親御さんに代わってATMでお金を下ろし、食費や日用品、病院代を支払うときに、わざわざ毎回領収書をもらってノートに貼っておくようなご家庭は少数派です。
実際に選任された後の成年後見人の財産管理と、申立て前にご家族が善意で行っていた日々のサポートとでは、求められる基準がまったく異なります。もちろん、ご本人の財産被害や不正な流用が強く疑われるようなケースでは過去の支出も調査対象となりますが、そうした事情がない限り、後見人が重視するのは「自分が就任した時点から、ご本人の財産をどう守り、どう生活に役立てていくか」という未来に向けた管理です。過去の日常的な医療費や生活費の領収書が手元にないこと自体で、直ちに使い込みを疑われたり問題視されたりするわけではありませんので、まずは肩の荷を下ろしてください。
領収書がないときに申立て前の相談で整理しておきたいこと
過去の日常的な引き出しについて過度に怯える必要はないとはいえ、家庭裁判所へ成年後見の申立てをする際には、ご本人の現在の財産状況や収支の目安を書類にまとめて提出する必要があります。
領収書が残っていないからといって、家中の引き出しをひっくり返して何年も前のレシートを探し回る必要はありません。大切なのは、家庭裁判所や相談先の司法書士が「実際にどこを見て状況を判断するのか」というポイントに沿って、手元の情報を整理しておくことです。
家庭裁判所への申立てで求められる書類の全体像については、裁判所が公開している成年後見申立ての手引(裁判所資料)なども参考になります。ここでは、領収書がない場合にご家族が事前相談に向けて準備しておきたい2つのステップを具体的に見ていきましょう。
過去1年分ほどの通帳履歴から日常的な支出かを確認する
家庭裁判所への申立てで提出が必要となる通帳コピーの対象期間は、申立先の裁判所の最新の手引や個別の指示によって定められています(たとえば東京家庭裁判所の手引では、直近2か月分の取引が記帳されたページのコピーや、主な医療費・施設費等の領収書の提出が案内されています)。一方で、司法書士への事前相談に向けてご家族自身が自主的に状況を振り返る際には、過去1年分程度の通帳の履歴に目を通しておくと安心です。
そのため、まずはお手元にある親御さんの通帳を最新の状態まで記帳してみてください。そして、自主的な確認の目安として過去1年ほどのページをめくりながら、お金の動きをざっと眺めてみましょう。
確認したいのは、「定期的に引き出されている金額が、親御さんの年金収入や普段の生活水準、入院・施設利用の状況に照らし合わせて、常識的に使って当然と思える範囲に収まっているか」という点です。たとえば、毎月決まった時期に10万円〜15万円程度の現金引き出しがあり、それが日々の食費や日用品、通院費、光熱費などに充てられているのであれば、特別な違和感はありません。
先ほどご紹介したAさんの事例でも、お母様の通帳履歴を拝見したところ、生活費として自然な範囲の出金が並んでいるだけでした。通帳の履歴は出金時期や金額を確認するうえで非常に有用な資料であり、現金そのものの具体的な使途についても、当時の生活状況に関するご家族からの説明や手元に残っている補足資料と併せて確認することで、細かい領収書がすべて残っていなくても司法書士は生活の実態を把握することができます。
高額な出金や家族名義の購入は理由をメモにまとめる
一方で、過去数年内の通帳を見直す中で、普段の生活費とは明らかに異なる「数十万円〜数百万円単位のまとまった引き出し」がある場合は、少し丁寧な準備をしておいたほうが安心です。
たとえば、次のようなケースが挙げられます。
- 親御さんの介護や病院への送迎のために自動車を購入したが、実際に運転するお子さんの名義で登録している
- 親御さんが自宅で安全に暮らせるように、手すりの設置や段差解消などのバリアフリーリフォームを行い、まとまった工事代金を現金で支払った
- 親御さんの入所一時金や長期入院の費用として、一度に大きな金額を引き出した
こうした申立て前のお金の使い方は、事情を知らない第三者が通帳の数字だけを見ると、「なぜ本人の口座から大金が消えているのか」「なぜ子どもの名義の車になっているのか」と疑問を抱き、使途不明金や使い込みではないかと誤解されやすいポイントになります。
もし領収書が見当たらない場合でも、注文書や契約書の控え、パンフレット、あるいは当時のカレンダーの書き留めなど、何か手がかりになるものがないか探してみてください。そうした書類もまったくない場合は、ご家族の記憶をもとに「いつ・いくら引き出し・何のために使い・それがご本人の生活にどう役立っているか」という背景事情を、時系列のメモに書き出しておくことをおすすめします。
申立てをする前にそのメモと通帳を司法書士へそのまま見せて相談すれば、裁判所へ提出する書類の中でどのように事情を説明すれば誤解を防げるか、具体的な対策を一緒に考えることができます。
過去の管理で家庭の和を壊さないための司法書士への相談方法
ここまで、常識的な範囲の引き出しであれば心配はいらないこと、大きな出金は理由を整理しておけばよいことをお伝えしてきました。しかし、冒頭の4つ目のポイントでも触れたとおり、成年後見制度を利用する際には「誰が後見人や監督人に選ばれるかによって、対応が変わるリスクがある」という現実も知っておかなければなりません。
せっかく親御さんのために一生懸命介護とお金のやりくりをしてきたのに、選ばれた専門家から過去の細かい記録不足を追及され、ご家族が傷ついたり家庭の和が壊れたりする事態は何としても避けたいところです。そうしたトラブルを未然に防ぐためには、申立て前の段階で司法書士と直接面談し、信頼できる候補者を見極めることが非常に重要になります。
候補者未定の申立てや監督人選任で生じる追及リスク
家庭裁判所に成年後見の申立てをする際、「後見人候補者」を記入する欄があります。ここを空欄(候補者なし)にして家庭裁判所に選任を一任した場合、裁判所が名簿などから選んだ司法書士や弁護士などの専門職が後見人に就任します。
また、ご家族(お子さんなど)を後見人候補者として申し立てた場合でも、ご本人の財産額や事案の内容によっては、ご家族の業務をチェックする立場として専門職の後見監督人が選任されるケースも少なくありません。
手続の中では、審判が下りる前に家庭裁判所から後見人等の候補者名が伝えられ、親族の意向照会が行われる場合もあります。しかし、候補者の名前を知らされたとしても、「その専門家が実際の業務でどのような対応方針をとるのか、ご家族との相性が合う人物なのかまでは、事前に直接話してみなければ十分に分からない」という点には注意が必要です。
もちろん、多くの司法書士や弁護士は常識的な感覚を持っており、過去の細かな生活費の引き出しをむやみに問題視することはありません。しかし、司法書士が後見人になる実態を見ていくと、専門家の中にもさまざまな性格やスタンスの人がいます。ごくまれにですが、これまでのご家族の介護の苦労や家庭内の事情を顧みず、法律やルールを杓子定規に当てはめて過去の記録不足を厳しく追及してくるタイプ(いわゆる「外れ」)に当たってしまう可能性もゼロではないのです。
一度後見人や監督人が選任されると、ご家族と相性が合わないからといって途中で交代してもらうことは原則としてできません。だからこそ、申立てをする前にご家族自身で司法書士を探して相談し、「この人なら私たちの事情を理解してくれる」と納得できる司法書士に後見人候補者になってもらう方法が、ご家族を守るための有効な選択肢となります(最終的な選任判断は家庭裁判所が行いますが、事前の検討と適切な書類作成により希望が通るケースは多くあります)。

事前相談の面談で司法書士に確認したい3つの質問
では、申立て前の事前相談で司法書士と面談するとき、相手が「過去の引き出しをむやみに追及せず、家族に寄り添ってくれる人物か」をどう見極めればよいのでしょうか。面談の場では、ぜひ実際の通帳を持参したうえで、次の3つのポイントを確認してみてください。
| 確認したいポイント | 面談での具体的な相談・質問のしかた | 寄り添ってくれる司法書士の反応例 |
|---|---|---|
| 1. 通帳履歴を見たときの反応と対応方針 | 実際の通帳を見せながら「領収書がない引き出しが多いのですが、申立てで問題になりますか?」と尋ねる | 「このくらいの生活費の引き出しなら自然ですよ」「この大きな出金だけ、こういう理由書を添えておきましょう」と具体的な見通しを示してくれる |
| 2. 過去の支出に対する基本的な考え方 | 「過去の領収書が残っていない出金について、後見人としてどのように確認や調査をされますか?」と率直に聞く | 領収書がないことだけを杓子定規に責めるのではなく、介護や生活の実態・補足資料をどう確認するかを丁寧に説明し、「ご本人の財産被害が疑われる場合を除き、日常的な支出までむやみに問題視することはありません」と判断基準を示してくれる |
| 3. 就任後の家族との連絡方法や関わり方 | 「後見が始まった後、日々の生活費の受け渡しや連絡はどのように進めますか?」と確認する | 親族の気持ちや介護の負担を尊重し、無理のない管理方法や穏やかな関係を保てる説明をしてくれる |
特に3つ目の「就任後の関わり方」は、その司法書士の人間性がよく表れる部分です。たとえば成年後見人の訪問頻度や連絡の取り方ひとつをとっても、ご本人の体調やご家族のペースに合わせて柔軟に対応してくれるかどうかは、事前に直接話してみることでしっかりと肌感覚でつかむことができます。
「こんなことを聞いたら怪しまれるのではないか」と遠慮する必要はまったくありません。むしろ、こうした質問をぶつけたときに、あなたの不安を受け止めて誠実に答えてくれるかどうかを見ることこそが、後悔しないための大切なステップなのです。
過去の引き出しが不安な方は下北沢司法書士事務所へご相談を
親御さんの介護や生活のサポートは、毎日が待ったなしの連続です。その中で、親御さんのために時間や労力を割いてお金の管理をしてきたご家族が、「領収書をちゃんと取っておかなかったから」という理由だけで自分を責めたり、必要な成年後見の申立てを諦めたりする必要はありません。
過去の細かい責任追及をして家庭の和を壊すような成年後見人が選ばれないためには、事前に候補者となる司法書士と面談して、そういう人物でないか見極めることも非常に有効です。少しでもご不安がある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
下北沢司法書士事務所の代表司法書士である竹内は、現在も約10名の方の成年後見人を務めているほか、心理カウンセラーの資格も有しております。「不安や辛さを抱えた人でも相談しやすい優しい事務所にしたい」という想いから、当事務所の無料相談では、難しい法律の話を一方的にするのではなく、お客様が一番気になっていることや不安に感じているポイントに真っ先に耳を傾けることを何より大切にしています。
ご相談の際には、ぜひ親御さんの通帳をそのままお持ちください。ご一緒に履歴を拝見しながら、「このままで全く問題ありませんよ」「この部分だけ、こんな風にメモを添えておきましょう」と、状況に合わせて丁寧に情報を整理いたします。平日お忙しい方のために土日も無料相談を行っており、ご自宅などへの出張相談(※遠方の場合は出張費をいただくことがあります)にも対応しております。
一人で通帳を見つめて悩み続ける時間は、とても苦しいものです。あなたとご家族がこれからも穏やかな毎日を送れるよう、まずはお電話やお問い合わせフォームから、あなたのタイミングで気軽にお声をかけてください。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

