Archive for the ‘相続・遺言’ Category

特別受益の持ち戻しが相続トラブルになる理由【司法書士が心理面も解説】

2026-05-12

なぜ特別受益の持ち戻しは相続トラブルの火種になるのか?

「うちの親は、長男だけ家の頭金を出した」「妹だけ、私立大学の高い学費をずっと払ってもらっていた」…。相続が現実的になったとき、ふと、そんな過去の出来事が頭をよぎり、もしかしてこれが揉め事の原因になるのでは…と不安に感じていらっしゃいませんか。

その不安は、残念ながら的中することが少なくありません。「特別受益の持ち戻し」は、数ある相続問題の中でも、特に根深く、感情的な対立を生みやすいテーマの一つです。

司法書士としての正直な想い

司法書士として、この特別受益の問題にどう向き合うかは、常に悩ましい課題です。ご相談者様が「兄弟が親から特別な援助を受けていた」という認識をお持ちであれば、公平な相続を実現するために、この制度について積極的にお伝えすべきだと考えています。

しかし、ご家族の誰もがその点を問題視していない穏やかな状況で、私たちが「こういう制度もありますよ」と知識を提供することが、かえって無用な争いの火種を生んでしまうかもしれない。そんな葛藤があるのです。特別受益は、「誰かが過去に得をした」という一点に注目が集まりがちです。援助を受けていない側は「損をした」と感じ、受けた側は昔のことなので忘れていたり、当然の援助だと考えていたりする。この認識のズレが、深刻な対立を招きやすいのです。

さらに、過去のお金の動きを証明する記録が残っていないことも多く、これが問題をより複雑にします。特別受益は必ず主張しなければならないものではありません。専門家として公平な解決のための情報を提供しつつ、ご家族の平穏を壊さない。このバランスをどう取るか、一件一件、ご家族の状況と想いを丁寧に伺いながら、慎重に考えるほかありません。

この記事では、なぜ特別受益がこれほどまでにトラブルになりやすいのか、その根本的な理由を法的な側面だけでなく、家族の心理的な側面からも深く掘り下げて解説します。そして、その上で、どうすればこうした悲しい争いを未然に防げるのか、具体的な解決策までお伝えしていきます。

理由1:当事者間の「認識のズレ」が大きい

トラブルの最大の原因は、関係者の立場による「認識のズレ」です。同じ一つの贈与という事実も、立場が違えば全く違う景色に見えてしまいます。

  • 贈与した親:「あの子は今一番大変な時期だから、少し援助してあげよう」という、特定の子供への愛情表現や支援のつもり。
  • もらった子:「親が助けてくれるのは当たり前」「もう何十年も前の話だ」と、特別な恩恵を受けたという意識が薄い、あるいは忘れている。
  • もらっていない子:「自分は我慢したのに、兄(妹)だけ不公平だ」「あれは実質的な財産の前渡しだ」と、強い不公平感を抱いている。

特に重要なのは、援助を受けた側に悪気がないケースがほとんどだということです。彼らにとっては、それは親からの愛情であり、当然の援助でした。そのため、他の兄弟から不公平を指摘されると、「なぜ今さらそんなことを言うんだ」「親の愛情にケチをつけるのか」と感情的に反発し、話がこじれてしまうのです。

理由2:「過去」を証明する難しさと不確かさ

「兄が家を建てた30年前、親が1,000万円援助したはずだ」——。そう主張しても、多くの場合、それを裏付ける客観的な証拠は残っていません。

贈与契約書を作成しているケースは稀ですし、銀行の取引履歴も一定期間を過ぎると取得が難しくなることがあります。結果として、それぞれの記憶だけが頼りとなり、「言った・言わない」「もらった・もらっていない」という水掛け論に発展してしまいます。

不確かな記憶を元にした主張は、相手への不信感を増幅させます。「そんな大金をもらっていない」「お前こそ、昔〇〇を買ってもらっていたじゃないか」と、互いの過去を詮索し合う泥沼の展開になりかねません。客観的な証拠が乏しいからこそ、感情的な対立が先鋭化しやすいのです。

理由3:「お金」と「家族の愛情」が結びつく問題だから

特別受益の問題は、単なる財産の計算問題ではありません。その根底には、「兄弟姉妹より冷遇されていた」という、非常にデリケートな感情の問題が横たわっています。

心理的な視点から見ると、相続の話し合いは、長年家族の中に蓄積されてきた不満やコンプレックスが噴出する場になりがちです。

  • 「自分はずっと親の面倒を見てきたのに、都会にいる兄ばかり優遇されていた」
  • 「弟の学費のために、私は進学を諦めた」
  • 「親はいつも姉のことばかり気にかけていた」

こうした過去の寂しさや不満が、生前贈与という具体的な「お金の差」と結びついたとき、「財産の不公平」は「愛情の不公平」として認識されます。それは、お金の問題以上に深く心を傷つけ、簡単には修復できない家族の亀裂を生んでしまうのです。特に、親の介護を献身的に行ってきた方が感じる不公平感は、計り知れないものがあります。

【基礎知識】特別受益と持ち戻しの仕組み

なぜトラブルになるのか、その背景をご理解いただいたところで、次に法律上の基本的な仕組みを見ていきましょう。「特別受益」や「持ち戻し」という制度は、もともと相続人間の不公平をなくし、円満な解決を図るために作られたルールです。このテーマの全体像については、相続の計算方法を解説した記事で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

特別受益とは?対象となる3つの贈与

「特別受益」とは、一部の相続人が被相続人(亡くなった方)から生前に受けた特別な利益のことを指します。すべての生前贈与が対象になるわけではなく、法律(民法903条)では主に以下の3つの類型が定められています。

  1. 遺贈
    遺言によって財産を譲り受けることです。包括遺贈も特定遺贈も、原則として特別受益にあたります。
  2. 婚姻・養子縁組のための贈与
    持参金や嫁入り道具、支度金などがこれにあたります。ただし、社会通念上相当と認められる範囲の挙式費用や結納金は、通常は含まれません。
  3. 生計の資本としての贈与
    これが最も範囲が広く、判断が難しいものです。具体的には、独立して事業を始めるときの開業資金、住宅購入資金の援助、アパート経営のための不動産の贈与などが典型例です。また、他の兄弟に比べて著しく高額な学費(例:私立医大の学費など)もこれに該当する場合があります。

2019年の民法改正(2019年7月1日施行)により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産(居住用の建物またはその敷地)の遺贈・贈与がされた場合は、原則として「持ち戻し免除の意思表示があったもの」と推定されます(民法903条4項)。これは、長年の貢献に報いるための特別な配慮です。

特別受益の対象となる3つの贈与(遺贈、婚姻・養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与)をアイコン付きで分かりやすく解説した図解。

持ち戻しとは?不公平を是正する計算方法

「持ち戻し」とは、この特別受益を相続財産に加算して、相続分を再計算する手続きのことです。これにより、生前に多くの財産をもらっていた相続人と、そうでない相続人との間の不公平を是正します。

重要なのは、これはあくまで「計算上の操作」だということです。実際に援助されたお金や不動産を返却するわけではありません。

計算は、以下の3ステップで行います。

  1. みなし相続財産を算出する
    被相続人が亡くなった時点で残っていた相続財産に、特別受益の価額を足し合わせます。これを「みなし相続財産」と呼びます。
  2. 各相続人の法定相続分を計算する
    ステップ1で算出した「みなし相続財産」を、法定相続分に従って各相続人に割り振ります。これが、本来各相続人が受け取るべきだった財産の額になります。
  3. 特別受益分を差し引く
    特別受益を受けた相続人は、ステップ2で計算された本来の取得分から、自分がすでに受け取った特別受益の額を差し引きます。その残りが、今回実際に相続できる財産額となります。

この計算によって、生前に何ももらっていなかった相続人の取り分が増え、公平が図られるという仕組みです。

こんなケースはどうなる?特別受益の具体例と計算シミュレーション

言葉だけでは少し分かりにくいかもしれませんので、具体的なケースで計算の流れを見ていきましょう。

ケース1:長男にだけ住宅購入資金1,000万円を援助した場合

相続で最もよくある典型的な事例です。実家を誰が相続するかといった問題と絡むことも少なくありません。

【設定】

  • 被相続人:父
  • 相続人:長男、次男の2人
  • 相続財産:預貯金3,000万円
  • 生前贈与:長男は10年前に父から住宅購入資金として1,000万円の援助を受けていた。

【持ち戻し計算をしない場合】

単純に相続財産3,000万円を法定相続分(各1/2)で分けるだけです。

  • 長男の取得分:3,000万円 × 1/2 = 1,500万円
  • 次男の取得分:3,000万円 × 1/2 = 1,500万円

この場合、長男は生前贈与と合わせて合計2,500万円(1,000万円+1,500万円)を取得し、次男は1,500万円のみ。1,000万円もの差が生じ、次男としては不公平に感じるでしょう。

【持ち戻し計算をする場合】

  1. みなし相続財産を算出
    3,000万円(相続財産) + 1,000万円(長男の特別受益) = 4,000万円
  2. 各相続人の本来の取得分を計算
    4,000万円 × 1/2 = 2,000万円
    (長男、次男ともに本来の取得分は2,000万円となります)
  3. 特別受益分を差し引く
    • 長男の最終的な取得分
      2,000万円(本来の取得分) – 1,000万円(特別受益) = 1,000万円
    • 次男の最終的な取得分
      2,000万円(本来の取得分) – 0円 = 2,000万円

持ち戻し計算を行うことで、長男と次男の最終的な取得額の合計は、生前贈与分も含めてそれぞれ2,000万円となり、公平が保たれることになります。

住宅資金1000万円の特別受益があった場合の相続分計算シミュレーション。持ち戻し計算をしない場合と、する場合の各相続人の取得額の違いを比較した図解。

ケース2:一人だけ高額な私立医大の学費を援助した場合

学費の援助が特別受益にあたるかどうかは、判断が分かれやすいポイントです。親には子を扶養する義務があるため、通常の大学の学費程度であれば、扶養の範囲内とみなされ、特別受益にはあたらないことが多いです。

しかし、ポイントは「他の兄弟との比較」「被相続人の資産状況」です。

例えば、長男は地元の公立大学(4年間の学費総額250万円)に進学したのに対し、次男は私立医科大学(6年間の学費総額3,000万円)に進学し、その費用をすべて親が負担したとします。この場合、兄弟間の学費の差額は著しく大きく、親の資産状況から見ても過分な援助だと判断されれば、通常の扶養の範囲を超えた「生計の資本としての贈与」として、特別受益と考えられる可能性が高くなります。

【注意】生命保険金や通常の生活費援助は原則対象外

特別受益と誤解されやすいものに、生命保険金があります。特定の相続人が受取人に指定されている生命保険金は、原則として受取人固有の財産とされ、相続財産には含まれず、特別受益にもあたりません。

また、子どもが経済的に困窮しているときに親が仕送りをするような、通常の生活費の援助も、親族間の扶養義務の範囲内として扱われるため、特別受益には該当しないのが一般的です。

ただし、生命保険金の額が相続財産総額に対してあまりにも大きいなど、著しく不公平な結果となる場合には、例外的に特別受益に準じて考慮されるべきだとした判例もあります。ケースバイケースの判断が必要になるため、迷った場合は専門家にご相談ください。

トラブルを未然に防ぐ「持ち戻し免除」という意思表示

ここまで見てきたように、特別受益の持ち戻しは公平を図るための制度ですが、その主張や証明の過程で家族関係に亀裂が入ってしまうリスクをはらんでいます。

こうした悲しい争いを避けるために、被相続人(財産を遺す側)ができる最も強力な対策が「持ち戻し免除の意思表示」です。

これは、被相続人が自らの意思で、「あの時の援助は、相続分の計算から除外してほしい」と明確に意思を示すことです。「事業を継いでくれる長男に少しでも多く財産を遺したい」「介護で苦労をかけた長女に報いたい」といった、親の特別な想いを法的に実現するための大切な手段と言えます。より詳しい手順については、特別受益証明書に関する解説記事もご覧ください。

遺言書で意思を明確に残すことが最も確実

持ち戻し免除の意思表示は、口頭でも可能とされています(黙示の意思表示)。しかし、それでは相続が始まったときに「言った・言わない」の争いになるのは目に見えています。

争いを確実に防ぐためには、遺言書を作成して、その中に持ち戻しを免除する旨を明確に記載しておくことが何よりも重要です。

特に、専門家としては、自筆証書遺言よりも、公証人が作成に関与し、原本が公証役場に保管される「公正証書遺言」を強くお勧めします。公正証書遺言は、形式不備で無効になるリスクが極めて低く、家庭裁判所での検認手続きも不要なため、相続開始後の手続きがスムーズに進むという大きなメリットがあります。

【文例付き】遺言書への具体的な書き方と注意点

遺言書に持ち戻し免除を記載する場合、以下のような文例が考えられます。

【遺言書 文例】

第〇条 遺言者は、長男・〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に対し、令和〇年〇月〇日に贈与した住宅取得資金〇〇万円について、民法第903条第3項に基づき、その持ち戻しを免除する。

【注意点】

  • どの贈与か特定できるように書く:「いつ、誰に、何を、いくら」贈与したのかを具体的に記載し、他の贈与と区別できるようにすることが大切です。
  • 付言事項を活用する:遺言書の最後には「付言事項」として、法的な効力はありませんが、家族へのメッセージを遺すことができます。なぜそのように財産を分けるのか、その理由や他の相続人への感謝の気持ちなどを自分の言葉で綴ることで、相続人たちの納得感を得やすくなり、感情的なしこりを和らげる効果が期待できます。親に遺言の話を切り出すのは勇気がいるかもしれませんが、家族の未来のために大切な一歩です。

持ち戻しを免除しても「遺留分」には注意が必要

ここで一つ、専門家として非常に重要な注意点をお伝えしなければなりません。それは「遺留分」の存在です。

遺言によって持ち戻しを免除し、特定の子に多くの財産を遺すことは可能ですが、それが他の相続人の「遺留分」を侵害するほど極端な内容だった場合、新たなトラブルの原因になってしまいます。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、最低限の遺産の取り分のことです。もし遺言や生前贈与によって自分の遺留分が侵害された場合、その相続人は、多くの財産を受け取った他の相続人に対して、侵害された分を金銭で支払うよう請求(遺留分侵害額請求)することができます。

つまり、持ち戻し免除は万能ではなく、他の相続人の遺留分に配慮したバランスの取れた内容にすることが、真の円満相続を実現する鍵となります。遺留分を侵害する遺言は、新たな争いを生む可能性があることを覚えておいてください。

まとめ:家族の想いを形にするために司法書士にご相談ください

特別受益の持ち戻しが相続トラブルの大きな火種となるのは、法律的な複雑さに加え、ご家族それぞれの「認識のズレ」や、お金と愛情が結びついた根深い感情の問題が絡み合っているからです。

この複雑でデリケートな問題を未然に防ぐ最も有効な方法は、財産を遺す方が生前の元気なうちに、公正証書遺言を作成し、ご自身の想いを明確な形で遺しておくことです。特に「持ち戻し免除」の意思表示は、特定の子供への感謝や支援の気持ちを法的に実現し、無用な争いを避けるための非常に重要な手続きです。

しかし、遺留分への配慮など、専門的な知識がなければ思わぬ落とし穴にはまってしまうことも少なくありません。

エリアも東京23区のほか、千葉・埼玉・神奈川など首都圏からのご相談に対応しております。

相続手続きは遠方の司法書士に依頼できる?全国対応の現実 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

どうぞお気軽にご相談ください。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

相続した実家の代償分割|兄弟に渡す公平な金額の決め方

2026-05-05

「実家を継ぐ代わりに、兄弟にいくら払えば…」専門家の回答

「自分が実家を継ぐ代わりに、他の兄弟には現金を渡して公平にしたい。でも、一体いくら渡せば納得してもらえるのだろうか…」

相続において、遺産の中心がご実家の不動産であるケースは非常に多く、このようなお悩みは後を絶ちません。特に、ご兄弟との関係が良好であればあるほど、「自分のせいで不公平だと思われたくない」というお気持ちが強くなるのは、当然のことでしょう。

先日、当事務所にも世田谷区にお住まいのAさんから、まさに同じようなご相談が寄せられました。

ご両親と同居していたご自宅で相続が発生したAさんは、こう切り出しました。
「自宅は私が相続したいので、現金は姉に渡そうと思っています。ただ、預貯金だけでは不動産の価値に及ばないはずです。そこで、私から姉に不足分を現金で支払って、相続分を公平にしたいのです。でも、その『公平な金額』をどうやって決めたら良いのか分からなくて…」

このAさんのお考えは、法律上「代償分割」と呼ばれる、ごく一般的な遺産の分割方法です。私はまず、その点をお伝えして安心いただいた上で、こう続けました。
「金額を決める基準には、相続税の申告に使う『路線価』や、固定資産税の基準になる『固定資産税評価額』などがあります。もちろん、不動産会社に査定を依頼して、実際に売れる価格である『時価』を基準にすることも可能です。差し支えなければ教えていただきたいのですが、お姉様とのご関係は良好ですか?」

「特に悪いということはありません。むしろ、私がこのまま家を相続すると言っても、姉は文句を言わないかもしれません。ただ、私が一方的に得をするのは、何となく気が引けるんです」

この誠実なお気持ちこそが、円満な相続の鍵となります。私はAさんに一つのご提案をしました。
「でしたら、いずれにせよ相続税の申告は必要になりますから、その際に税理士が算出する評価額を基準にお話を進めてみてはいかがでしょうか。時価よりは低い金額になりますが、税理士という専門家が算出した客観的な数字であれば、お姉様も納得しやすいと思います」

Aさんはこの提案を受け入れ、税理士が算出した評価額をもとに代償金の額を計算し、お姉様に丁寧に説明されました。結果、お姉様は「あなたの気持ちだけで十分よ」と、代償金の受け取りを辞退されたのです。

もしAさんが最初からご自身の利益だけを考えていたら、結果は違っていたかもしれません。ご兄弟を想う誠実な姿勢が、最良の結果を生んだのだと私は感じています。

この記事では、かつてのAさんのように悩んでいるあなたが、ご兄弟との関係を大切にしながら、誰もが納得できる「公平な金額」を見つけ出すための具体的な方法を、専門家の視点から分かりやすく解説していきます。この記事を読み終える頃には、代償分割を円満に進めるための道筋が、はっきりと見えているはずです。

なお、相続財産の分け方の全体像については、相続分の計算(法定相続分)で体系的に解説しています。

なぜ不動産の値段は一つじゃないの?4つの評価額を整理しよう

代償金の計算で多くの方が最初に戸惑うのが、「不動産の値段が一つではない」という事実です。時価、路線価、固定資産税評価額…なぜこれほど多くの価格が存在するのでしょうか。

答えはシンプルで、「目的が違うから」です。服に例えるなら、普段着とフォーマルウェアがあるように、不動産の価格も「誰が」「何のために」使うかによって、異なる物差しが用意されているのです。

まずは、それぞれの評価額が持つ役割を理解し、頭の中を整理していきましょう。

相続不動産の4つの評価額「時価」「公示地価」「相続税評価額」「固定資産税評価額」の目的と時価との関係性を比較した図解。

①時価(実勢価格):実際に売れる値段

「もし、この実家を今すぐ売却したらいくらになるか?」
この、最もシンプルで分かりやすい価格が「時価(実勢価格)」です。これは、不動産会社が近隣の取引事例や物件の状態などを総合的に判断して算出する、市場の需要と供給を反映したリアルな価格を指します。

兄弟間の話し合いにおいては、この時価を基準にすることで、「実際に売った場合と同じ価値で分ける」という分かりやすい理屈が成り立つため、最も公平感を得やすいと言えるでしょう。ただし、査定を依頼する不動産会社によって金額に幅が出ることがある点には注意が必要です。当事務所では、営業を受けることなく客観的な不動産の査定額を知るためのお手伝いも可能です。

②公示地価:国が示す土地取引の目安

「公示地価」とは、国土交通省が毎年1月1日時点の土地の価格を調査し、3月に公表するものです。全国の標準的な地点を選んで「1平方メートルあたりの正常な価格」を示すもので、いわば国が定める土地取引の「公的な目安」と言えます。

この公示地価は、不動産鑑定士が土地を評価する際や、公共事業で土地を取得する際の基準となり、時価を判断する上での重要な指標の一つです。ただし、あくまで標準的な土地の価格であり、個別の不動産の事情(建物の状態、日当たり、接道状況など)は反映されないため、直接この価格で代償金を計算することは一般的ではありません。

参照:地価・不動産鑑定:地価公示|国土交通省

③相続税評価額(路線価):相続税を計算するための値段

「相続税評価額」は、その名の通り、相続税や贈与税を計算するために使われる価格です。国税庁が定めており、土地については主に「路線価」という基準が用いられます。

路線価とは、主要な道路に面した土地の1平方メートルあたりの価格のことで、毎年7月頃に公表されます。この路線価は、公平な課税を実現するために、地価の変動リスクなどを考慮して、公示地価の8割程度の水準に設定されるのが一般的のようです。

あくまで「税金計算用の価格」であるため、実際の取引価格である時価よりは低くなるのが一般的です。この価格を代償分割の基準に使う場合は、その点を相続人全員が理解し、納得している必要があります。不動産を相続すると、相続税申告が必要になるケースも少なくありません。

参照:財産評価基準書|国税庁

④固定資産税評価額:固定資産税を計算するための値段

不動産をお持ちの方にとって最も身近なのが、この「固定資産税評価額」ではないでしょうか。毎年春頃に市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されている価格です。

これは、固定資産税や都市計画税、不動産取得税、登録免許税といった税金を計算するために、市区町村が3年ごとに評価し直している価格です。目安としては、公示地価の7割程度が一般的のようです。す。

手元で簡単に確認できるため便利な反面、評価替えが3年に一度であることや、時価との乖離が他の評価額より大きい傾向があるため、代償分割の基準として用いる場合は、その特性を理解した上で慎重に検討する必要があります。

【本題】兄弟に渡すお金はどの評価額で決めるべき?

4つの評価額の違いを理解したところで、いよいよ本題です。兄弟に渡す代償金は、どの評価額を基準に決めるのが最も良いのでしょうか。

結論から言うと、「この方法が唯一の正解」というものはありません。最も大切なのは、相続人である兄弟全員が「この基準なら公平だね」と納得できるルールを決めることです。ここでは、状況に応じた最適な選択肢を2つのケースに分けてご提案します。

ケース1:最も公平を期すなら「時価」

ご兄弟との間で少しでも不公平感を生みたくない、あるいは、過去の経緯などから関係性が少しデリケートな状況にある。そのような場合に最も推奨されるのが「時価(実勢価格)」を基準にする方法です。

【メリット】

  • 「もし売却していたら、この金額で分けられたはず」という明確な根拠があり、誰もが納得しやすい。
  • 相続人間の不公平感をなくし、将来的な不満の種を摘むことができる。

【注意点】

  • 客観性を担保するために、複数の不動産会社(できれば3社程度)に査定を依頼し、その平均額を基準にするなどの手間がかかる。
  • 不動産査定には営業がつきものであり、その対応が負担になる場合がある。
  • ・実際に売却するわけではないので、「本当はいくらで売れたのか」というの厳密には分からない。

お金のことで後々揉めたくない、というお気持ちが強いのであれば、少し手間はかかりますが、時価を基準にするのが最も安全な選択と言えるでしょう。

ケース2:兄弟仲が良好で手間を省きたいなら「相続税評価額」

長年にわたり兄弟間の信頼関係が厚く、円満な話し合いができると確信している。そんな場合には、「相続税評価額(路線価)」を基準にするのも合理的な選択肢です。

【メリット】

  • 相続税の申告が必要な場合、いずれにせよ税理士が算出するため、その数字を流用すれば査定の手間が省ける。
  • 国税庁が定める公的な価格であるため、一定の客観性と説得力がある。

【注意点】

  • 時価の8割程度が目安であるため、実際に売れる価格よりは低くなる。つまり、不動産を取得する側が経済的に少し有利になることを、相続人全員が理解し、納得していることが絶対条件。

冒頭でご紹介したAさんのケースは、まさにこのパターンです。お互いの信頼関係を基に、手続きの簡便さを優先した円満な解決策と言えます。

司法書士に代償分割の相談をし、安心した表情を浮かべる男性。専門家への相談で問題解決の糸口が見つかった様子。

【司法書士の実務】時価の目安を自分で知る方法

「不動産会社に査定を依頼するのは、まだ少し気が引ける。でも、おおよその時価は知っておきたい」

このようなご要望は、実務の現場で非常によく伺います。そこで、私が不動産会社に査定を依頼する前に、大まかな時価の目安を把握するためによく使う計算式をお伝えします。

それは、「相続税路線価 ÷ 0.8」という計算式です。

前述の通り、相続税路線価は、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定されています。そのため、路線価を0.8で割り戻すことで、簡易的に時価に近い金額を推計することができるのです。

例えば、路線価が2,400万円の土地であれば、「2,400万円 ÷ 0.8 = 3,000万円」となり、時価はおおよそ3,000万円前後ではないかと見当をつけることができます。

もちろん、これはあくまで簡易的な計算方法であり、個別の不動産の特性を反映した正確な時価ではありません。また地方は固定資産材評価額が市場価格より高いこともあり得るので、都心部のみに使える方法でしょう。しかし、この目安を知っておくだけで、不動産会社から提示された査定額が妥当な範囲にあるか判断する材料になりますし、兄弟との話し合いを始める上でのたたき台としても活用できるでしょう。

代償分割を円満に進める3つのステップと注意点

代償分割の基準となる評価額の方向性が決まったら、次はいよいよ具体的な手続きに進みます。後々のトラブルを防ぎ、円満に相続を完了させるためには、丁寧に手順を踏むことも重要です。ここでは、その手順を3つのステップに分けて解説します。

ステップ1:兄弟全員で話し合い、評価の基準を決める

最初に行うべき、そして最も重要なステップが、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)です。感情的になるのではなく、まずは「どの評価額を基準にして金額を決めるか」というルール作りから始めましょう。ここで全員が合意できれば、その後の金額計算は事務的に進めることができます。

話し合いが難航しそうな場合や、冷静に話を進める自信がない場合は、専門家が間に入ることで、円満な解決に向けたサポートが可能です。遺産分割協議は相続人全員の合意が絶対条件となります。

ステップ2:合意内容を「遺産分割協議書」に明記する

話し合いで決まった内容は、必ず「遺産分割協議書」という法的な書面に残してください。口約束は「言った、言わない」のトラブルの元となり、非常に危険です。

代償分割を行う場合の遺産分割協議書には、最低でも以下の項目を明確に記載する必要があります。

  • 誰がどの不動産を相続するのか
  • 不動産を相続する代償として、誰が誰に、いくらの金銭を支払うのか
  • いつまでに支払うのか(支払期日)
  • どのように支払うのか(支払方法)

この遺産分割協議書をきちんと作成しておかないと、代償金の支払いが税務署から「贈与」とみなされ、思わぬ贈与税が課されてしまうリスクもあります。作成は専門家にお任せいただくのが最も安全です。より詳しい記載方法については、遺産分割協議書の「その他一切の財産」とは?プロが解説をご覧ください。

ステップ3:不動産の名義変更(相続登記)と代償金の支払い

遺産分割協議書が完成したら、最後の手続きです。協議書の内容に基づき、法務局で不動産の名義をあなたに変更する「相続登記」を行います。この手続きは司法書士の専門分野です。

そして、協議書で定めた期日までに、ご兄弟へ代償金を支払います。支払いは、後々の証拠となるよう、銀行振込など記録が残る形で行うことを強くお勧めします。この2つが完了すれば、代償分割の手続きはすべて終了です。具体的な相続登記の手続きについては、別の記事で詳しく解説しています。

代償金の支払いが難しい…そんな時の対処法

「実家の価値が高く、代償金が数千万円になってしまった。とても一括では支払えない…」

不動産の価値によっては、代償金が高額になり、自己資金だけでは支払いが困難なケースも考えられます。そんな時も、慌てる必要はありません。いくつかの対処法があります。

①分割払いを交渉する

まずは、他の相続人であるご兄弟に、分割での支払いを交渉してみましょう。これが最も現実的な選択肢です。もし合意が得られた場合は、支払期間、毎月の支払額、支払いが遅れた場合の取り決めなどを遺産分割協議書に詳細に記載することが不可欠です。受け取る側が安心できるよう、協議書を公正証書にしておくことも有効な手段です。

②金融機関からローンを組む

一括での支払いを求められた場合には、相続した不動産を担保にして金融機関から融資を受ける「不動産担保ローン」などを利用する方法もあります。問題を早期に解決できるメリットがある一方で、当然ながら金利の負担が発生し、長期的な返済義務を負うことになります。利用する際は、今後のライフプランも考慮し、慎重に検討する必要があるでしょう。

③他の分割方法を再検討する

どうしても代償金の支払いが難しい場合は、代償分割という方法に固執せず、一度立ち止まって他の分割方法を再検討することも、円満解決のためには重要です。

例えば、実家を売却して現金化し、その現金を相続分に応じて分ける「換価分割」という方法もあります。思い出の詰まった実家を手放す決断は辛いものですが、誰もが金銭的に納得でき、しこりを残さないという点では優れた方法です。相続で最も大切なのは、家族が納得できる結論を見つけることです。多数の相続人がいる不動産の売却も選択肢の一つとして考えてみてください。

まとめ:兄弟との円満な相続は専門家への相談から

相続した実家を代償分割で引き継ぐ際に、兄弟に渡す公平な金額の決め方について解説してきました。

不動産の評価額には時価や路線価など複数の種類がありますが、どの基準を選ぶかに絶対の正解はありません。最も重要なのは、「どの評価額を基準にするか、相続人全員で話し合い、心から納得して合意すること」、この一点に尽きます。

不動産の評価、複雑な法律手続き、そして何よりご家族間の感情の調整は、決して簡単なことではありません。一人で抱え込み、良かれと思って進めたことが、かえって誤解やトラブルを生んでしまうこともあります。

私たち司法書士は、法律手続きの専門家であると同時に、皆様のお気持ちに寄り添い、円満な話し合いをサポートする身近な相談相手です。誰に相談すべきか迷った時は、まずはお気軽にご連絡ください。あなたとご兄弟にとって、最良の解決策を一緒に見つけていきましょう。

当事務所では、代償分割や相続に関するご相談を無料で承っております。まずはお話をお聞かせください。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

遺言執行の費用は誰が負担?民法1021条でわかる内訳と注意点

2026-04-24

遺言執行の費用は誰が負担?民法1021条が示す大原則

「遺言書に書いた内容を実現するための費用は、一体誰が払うのだろう?」
「相続する財産から支払うと聞いたけど、自分の貯金から一時的にでも立て替える必要があるのかな?」

遺言書の作成を考え始めると、このような費用に関する疑問や不安が頭をよぎるのではないでしょうか。特に、残されたご家族に負担をかけたくないというお気持ちが強い方ほど、気になる点だと思います。

ご安心ください。この疑問には、法律が明確な答えを用意しています。

結論から申し上げますと、遺言執行にかかる費用は、原則として「相続財産」の中から支払われます。つまり、相続人や遺言執行者の方が、最終的にご自身の財産から負担するのが原則ではありません(ただし、手続上いったん立て替えが必要になるケースはあります)。

この大原則を定めているのが、民法第1021条です。

(遺言の執行に関する費用の負担)
第千二十一条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。

少し硬い言葉ですが、要するに「遺言内容を実現するためにかかったお金は、亡くなった方の財産から支払ってくださいね」と国が定めている、ということです。遺言執行は、亡くなった方の最終的な意思を実現するための手続きですから、その費用も亡くなった方の財産でまかなうのが合理的である、という考え方に基づいています。

ただし、この条文には「ただし、これによって遺留分を減ずることができない」という続きがあります。これは、遺言執行費用を支払った結果、他の相続人の最低限の取り分である「遺留分」を侵害してはいけない、というルールです。費用の支払いも大切ですが、相続人の権利も守られるべき、というバランスが図られているのです。

このように、法律上の原則は明確です。しかし、実務の現場では「原則通りにはいかない」ケースも存在します。特に、相続財産の大半が不動産で、すぐに支払いに使える預貯金が少ない場合などは注意が必要です。

この記事では、まず遺言執行にかかる費用の具体的な内訳をご説明し、その後で、実務で起こりがちな問題点とその対策について、専門家の視点から詳しく解説していきます。将来の相続が円満に進むための知識として、ぜひ最後までお付き合いください。

(参照:民法 | e-Gov 法令検索

遺言執行にかかる費用の具体的な内訳

「相続財産から支払われる」といっても、具体的にどのような費用が発生するのでしょうか。遺言執行にかかる費用は、大きく分けて「手続きのために必ずかかる実費」と「専門家に依頼した場合の報酬」の2種類があります。ここでは、代表的な費用の内訳を見ていきましょう。

遺言執行にかかる費用の内訳を示した図解。費用は「実費(登録免許税、手数料)」と「専門家報酬(遺言執行者報酬)」に大別される。

不動産の名義変更(相続登記)にかかる登録免許税

遺言によって不動産を特定の相続人に相続させる場合、法務局で不動産の名義変更手続き(相続登記)を行う必要があります。この際に、税金として国に納めるのが「登録免許税」です。

登録免許税の金額は、以下の計算式で算出されます。

登録免許税 = 不動産の固定資産税評価額 × 0.4%

例えば、固定資産税評価額が3,000万円の土地と家屋を相続した場合、登録免許税は12万円(3,000万円 × 0.4%)となります。この費用は、司法書士への報酬とは別に必ず発生する「実費」です。相続財産に不動産が含まれる場合、この登録免許税が費用の大きな割合を占めることも少なくありません。

なお、一定の要件を満たす土地の相続登記については、登録免許税の免税措置が設けられています。

預貯金の調査・解約に必要な手数料(取引履歴や残高証明など)

遺言執行者は、まず亡くなった方の財産を正確に把握する必要があります。そのために、各金融機関に対して口座の有無を調査し、亡くなった日時点での取引履歴や残高証明をの取得を行うことがあります。この残高証明書は、相続税の申告が必要な場合などに、死亡日時点の預貯金残高を正確に示す資料として求められることが多い重要な書類です。

残高証明書の発行には、1通あたり数百円から千円程度の手数料がかかります。これは金融機関ごとに発生するため、故人が複数の銀行に口座を持っていた場合は、その数だけ手数料が必要になります。

一見、少額に見えるかもしれませんが、故人の取引金融機関が多岐にわたる場合や、ゆうちょ銀行の相続手続きのように独自のルールがある場合など、調査や解約手続きそのものに手間と時間がかかることも少なくありません。これらの手続きにかかる手数料も、すべて相続財産から支払われる費用です。

遺言執行者への報酬(専門家に依頼した場合)

遺言の内容をスムーズかつ正確に実現するため、司法書士などの専門家を遺言執行者に指定することがあります。この場合、その専門家に対して支払うのが「遺言執行者報酬」です。

報酬の体系は事務所によって様々で、相続財産の総額に一定の料率を掛けて算出する方法や、手続きの難易度に応じた定額報酬を設定している場合などがあります。一般的には、遺産総額の1%~3%程度が目安とされることが多いですが、財産の内容や相続人の数によって変動します。

専門家に依頼すると費用はかかりますが、戸籍の収集から財産目録の作成、不動産の名義変更、預貯金の解約・分配まで、煩雑で時間のかかる一連の手続きをすべて任せることができます。相続人間のトラブルを未然に防ぎ、精神的な負担を大きく軽減できるというメリットは、費用以上の価値があると言えるかもしれません。

原則と現実。費用の支払い方で注意すべきこと

「費用は相続財産から支払う」という民法の原則はご理解いただけたかと思います。しかし、実務の現場では、この原則だけではスムーズに進まないケースに直面することがあります。特に、多くの方が不安に感じるのが「すぐに使える現金が相続財産にない」という状況です。こういう場合は、現実問題としてご自身の預貯金を支出する可能性があるかも知れません。ただ、相続した不動産を売却するなどで結果的にプラスになることは十分考えられます。それでもプラスが無く、負担ばかりが多い場合は無理すことはありません。相続放棄も検討しましょう。

費用負担で揉めないための司法書士からのアドバイス

先日、新宿区にお住まいのAさんが、お父様の遺言作成のご相談にお見えになりました。遺言の内容を伺い、手続きをスムーズに進めるために遺言執行者を指定することをお勧めしたところ、Aさんからこんなご質問をいただきました。

「先生、こういう手続きの費用って、結局誰が出すことになるんでしょうか?」

これは、非常に鋭いご質問です。実は、遺言執行の費用について、ご相談者様からご質問をいただくことは、それほど多くありません。なぜなら、この論点自体が少し専門的な話なので、多くの方はそこまで気が回らないからです。

私はAさんに、民法1021条によって費用は相続財産から支払われること、そして、後々のトラブルを防ぐために、その旨を遺言書の中にもはっきりと書いておくことをお勧めしました。「ふと気になっただけなんです」とAさんはおっしゃっていましたが、この「ふとした疑問」こそが、将来の家族間の揉め事を防ぐ大切な鍵になるのです。費用負担の問題は、法律の原則を知っているだけでは不十分で、ご自身の財産の状況に合わせて「現実的な支払い方法」まで考えておく必要がある、ということを、この事例は教えてくれます。

司法書士に遺言作成の相談をする夫婦。専門家のアドバイスに安心した様子で耳を傾けている。

遺言作成時にできる費用の対策

では、将来の相続人たちが費用の支払いで困らないように、遺言を作成する段階でどのような準備ができるのでしょうか。ここでは、専門家の視点から実用的で効果的な2つの対策をご紹介します。

遺言書に費用の支払い方法を明記しておく

最もシンプルかつ効果的な対策は、遺言書の中に費用の支払い方法を具体的に書き記しておくことです。これは、遺言者の意思として「費用の出どころ」を明確にする、いわば道筋をつけてあげる作業です。これにより、遺言書を作成することで、相続人が立て替えの負担で悩んだり、どの財産から支払うかで意見が対立したりするのを防ぐことができます。

例えば、以下のような一文を加えておことも、手続きの透明性やスムーズさを増すための一案です。

【遺言書の記載例】
「本遺言の執行に関する一切の費用は、相続財産から支払うものとする。」
 金融機関名:〇〇銀行 〇〇支店
 種別:普通預金
 口座番号:1234567」

このように特定の預金口座を指定しておくことで、遺言執行者は迷うことなくその口座から費用を支払うことができ、他の相続人に対しても明確な説明が可能になります。この方法を取った場合は、もちろんその口座に預貯金を残しておくよう、管理することも大切になります。

生命保険を活用して納税・支払い資金を準備する

相続財産に不動産が多く、預貯金が少ない場合のもう一つの有効な対策が、生命保険の活用です。

死亡保険金は、原則として「受取人固有の財産」とみなされ、遺産分割協議の対象にはなりません。つまり、相続が発生すると、保険金受取人に指定された相続人は、他の相続人の同意を得ることなく、比較的速やかにまとまった現金を手にすることができます。

この仕組みを利用し、特定の相続人(例えば、遺言執行を主に担ってくれそうな方)を受取人として生命保険に加入しておくのです。そして、その保険金を遺言執行費用や相続税の支払いに充ててもらうよう、事前に伝えておきます。これは法的な支払い義務を課すものではありませんが、故人の意思として資金を準備しておくことで、残された家族の負担を大きく減らすことができます。保険金は、相続手続きの潤滑油として非常に有効な手段となり得るのです。

ただし、保険商品の詳細や税務上の取り扱いについては専門的な知識が必要ですので、あくまで資金準備の一つの方法としてご検討ください。

まとめ:遺言執行の費用は事前の準備でスムーズに

今回は、遺言執行の費用負担という、多くの方が疑問に思う点について詳しく解説しました。最後に、大切なポイントを振り返っておきましょう。

  • 原則は「相続財産」から負担:民法1021条により、遺言執行費用は相続人が自腹を切る必要はなく、故人の財産から支払われます。
  • 預貯金が少ない場合は要注意:相続財産の大半が不動産の場合、費用の支払いのために相続人が立て替えたり、不動産を売却したりする必要が出てくる可能性があります。
  • 遺言書での対策が重要:将来のトラブルを防ぐため、遺言書を作成する際に「どの財産から費用を支払うか」を明記しておくことが極めて有効です。

遺言書は、ご自身の財産を誰にどのように遺すかという意思表示であると同時に、残されたご家族が円満に手続きを進めるための「設計図」でもあります。費用の問題は、その設計図の中でも特に重要な要素の一つです。

「自分の場合はどうだろう?」「うちの財産状況だと、どんな準備が必要だろうか?」といった具体的なご不安や疑問がございましたら、ぜひ一度、私たち司法書士にご相談ください。相続の専門家として、あなたの状況に合わせた最適なアドバイスをさせていただきます。

エリアも東京23区だけでなく、東京都下や千葉・茨城・神奈川など首都圏のご相談を承っております。

相続手続きは遠方の司法書士に依頼できる?全国対応の現実 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

大切な想いを確実に、そしてスムーズに実現するために、専門家と一緒に万全の準備を整えましょう。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

有限会社から株式会社化へ。事業承継を円滑にする3つのメリット

2026-04-21

あなたの会社は大丈夫?事業承継を控えた有限会社が抱える隠れたリスク

「このままで、本当に大丈夫なのだろうか…」

会社の将来を想う経営者の方であれば、一度はそんな漠然とした不安に駆られたことがあるかもしれません。特にご自身が築き上げてきた、あるいは先代から受け継いだ大切な会社を次の世代へ引き継ぐ「事業承継」を控えているなら、その想いは一層強くなるのではないでしょうか。

先日、当事務所にご相談に来られた町田市で製造業を営むBさんも、そんなお一人でした。Bさんの会社は、お父様が設立した有限会社。今も代表取締役はお父様ですが、ご高齢ということもあり、事実上は取締役であるBさんが経営の舵取りを担っています。事業は順調、しかしBさんの心にはずっと、ある「もやもや」がありました。

「会社の株のことは、今までなぁなぁで来てしまった。兄弟もいるし、万が一父に相続が起きたら、遺産分割の話し合いがうまくまとまるだろうか…。そもそも、何から手をつければ良いのかも分からない」

このBさんの不安は、決して特別なものではありません。むしろ、事業承継を控えた多くの有限会社が抱える、非常に根深く、そして見過ごされがちなリスクの表れなのです。

有限会社(現在は法律上「特例有限会社」と呼ばれます)は、かつて多くの町工場や商店で採用された、なじみ深い会社形態です。しかし、その手軽さの裏側には、事業承継という局面で大きな火種となりうる弱点が潜んでいます。それは「株式(持分)の分散リスク」です。

もし、今の経営者に相続が発生した場合、その株式(持分)は相続人全員の共有財産となります。遺産分割協議がスムーズに進めば良いのですが、もし話がこじれてしまったらどうなるでしょう。あるいは、経営に全く関心のないご親族が「法律上の権利だから」と株式を相続したら…?

最悪の場合、経営権が不安定になり、会社の重要な意思決定が滞ってしまうかもしれません。会社の将来を真剣に考える後継者の足を、経営に関心のない株主が引っ張るという事態も起こり得ます。会社の根幹を揺るがしかねないこのリスクは、相続した株式の扱いに不慣れな方が多いことも問題を複雑にしています。

Bさんとの面談で、私はお父様の遺言についてのアドバイスとあわせ、もう一つの重要な選択肢をご提案しました。それが、「有限会社から株式会社への変更」です。株式会社化したからといって株式分散リスクがなくなるわけではありませんが、その戦略的なメリットをご説明した結果、未来を見据えて株式会社化を実行する決断をされました。

この記事では、Bさんのように事業承継に悩む有限会社の経営者様や後継者様に向けて、株式会社化がなぜ円滑な事業承継の助けとなり得るのか、その3つの大きなメリットを具体的にお伝えしていきます。

事業承継を成功に導く!株式会社化で得られる3つの戦略的メリット

有限会社から株式会社化する3つのメリットを示した図解。相続トラブル防止、経営の健全化、対外信用力アップの3点がアイコンと共に分かりやすく説明されている。

有限会社から株式会社へ。これは単なる名前の変更ではありません。会社の未来を守り、成長を加速させるための、積極的な経営戦略です。特に事業承継の場面においては、有限会社のままでは得られない、強力な武器を手にすることができます。ここでは、その中でも特に重要な3つのメリットを詳しく見ていきましょう。

メリット1:【最重要】「株式売渡請求」で相続トラブルのリスクを抑える

事業承継における最大のリスクは、後継者以外の相続人に株式が渡り、経営権が分散してしまうこと。この問題を根本から解決しうる、株式会社だけの強力な制度が「相続人等に対する株式の売渡請求」です。

これは、株主が亡くなり相続が発生した際に、会社が、その株式を相続した人(経営に関与しない相続人など)に対して、「その株式を会社に売り渡してください」と請求できる権利のことです。この規定を会社のルールブックである「定款」に定めておくことで、万が一の時にも株式が意図しない人物に渡るのを防ぎ、後継者へ経営権を集中させることが可能になります。

この制度は、会社法174条等に基づき、定款に定めを置くことで利用できます(特例有限会社も会社法上は「株式会社」として整理されています)。まさに、事業承継を考えるなら株式会社化すべき最大の理由と言えるでしょう。

定款にはどう書くの?【記載例】

この制度を導入するには、定款に次のような条文を追加する必要があります。これはあくまで一例ですが、ご参考にしてください。

(相続人等に対する売渡請求)

第〇条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、当該株式が譲渡制限株式でない場合は、この限りでない。

2 前項の規定による請求は、株主総会の特別決議によって、その請求をする株主及びその株主が売り渡すべき株式の数を定めなければならない。

売渡請求の手続きの流れ

実際にこの権利を行使する際は、会社法に定められた手続きを踏む必要があります。

  1. 株主総会の特別決議:まず、会社は株主総会を開き、株式の売渡請求をすることを「特別決議」で決定します。これは、議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成が必要な、非常に重要な決議です。
  2. 会社からの通知:決議後、会社は株式を相続した人に対して、売渡請求の通知を送ります。
  3. 売買価格の協議:次に、会社と相続人の間で株式の買取価格を話し合います。
  4. 価格決定の申立て:もし当事者間の話し合いで価格が決まらない場合は、会社または相続人が裁判所に対して「売買価格決定の申立て」を行い、裁判所に公正な価格を決めてもらうことになります。

このように、株主分散のリスクを制度的に回避できる「株式売渡請求」は、円滑な事業承継を目指す上で、計り知れない価値を持つ選択肢なのです。

参照:会社法 | e-Gov 法令検索

メリット2:「役員任期」の設定で経営の健全化と承継計画を促進

オフィスの会議室で事業承継について話し合う父親と息子。テーブルの上の書類を見ながら、穏やかな雰囲気で会社の未来について語り合っている。

有限会社の大きな特徴の一つに、「役員の任期がない」という点があります。一見すると、面倒な役員変更の手続きが不要で楽なように思えるかもしれません。しかし、事業承継という観点からは、これが思わぬ足かせになることがあります。

任期がないということは、役員構成が固定化しやすく、経営がマンネリ化してしまうリスクをはらんでいます。また、「いつでも交代できる」という状況は、かえって事業承継のタイミングを先延ばしにする原因にもなりがちです。「まだ大丈夫だろう」と思っているうちに年月が過ぎ、いざという時に準備が間に合わない、というケースも少なくありません。

一方、株式会社に変更すると、役員の任期を設定することが義務付けられます(非公開会社の場合、最長で10年まで伸長可能)。この「任期」が、経営に良いリズムと健全な緊張感をもたらしてくれるのです。

  1. 経営の新陳代謝を促す:任期満了のタイミングは、役員構成を見直す絶好の機会です。会社の現状や将来のビジョンに合わせて、最適な経営体制を再構築することができます。これにより、経営に新陳代謝が生まれ、組織の活性化につながります。
  2. 事業承継の「節目」になる:「次の役員任期満了のタイミングで、息子に社長を譲ろう」というように、任期を事業承継計画の具体的なマイルストーンとして活用できます。これにより、漠然としていた承継計画が現実的な目標となり、計画的に準備を進めることが可能になります。

役員の任期満了時には、たとえ同じ人が再任(重任)する場合でも、法務局へ役員変更の登記を申請する必要があります。この定期的な手続きが、会社の状況を客観的に見つめ直し、未来への舵を切るための大切なきっかけを与えてくれるのです。

メリット3:対外信用の向上で融資やM&Aが有利に

会社の「名前」が持つ力は、決して侮れません。「有限会社」と「株式会社」。法律上の違いもさることながら、社会や取引先が抱くイメージにも差があるのが実情です。

「有限会社」という響きには、どこか「地域密着」「家族経営」といった、小規模で歴史のあるイメージが伴います。それはそれで一つの良さではありますが、事業を拡大していく上では、時に足かせとなる可能性も否定できません。一方で、「株式会社」という名称は、より現代的で、一定の規模と組織体制を持つ「しっかりした会社」という印象を与えやすい傾向があります。

このイメージの違いは、具体的なビジネスシーンで以下のようなメリットとなって現れます。

  • 金融機関からの融資:融資審査において、会社の形態が直接的な評価項目になるわけではありません。しかし、株式会社化に伴い、役員任期の設定や決算公告の義務(※官報掲載などの方法あり)が生じることは、ガバナンス(企業統治)がしっかりしているという印象を与え、金融機関の心証を良くする可能性があります。
  • 新規取引や人材採用:大手企業との取引開始や、優秀な人材を採用する際に、「株式会社」という看板が信頼につながることがあります。特に若い世代にとっては、株式会社と合同会社の違いも含め、より一般的な「株式会社」の方が安心感を持たれやすいと言えるでしょう。
  • M&A(事業の売却・買収):将来的に、会社の売却や事業の譲渡(M&A)を視野に入れる場合も、株式会社の方が有利です。株式譲渡の手続きが法律で明確に整備されているため、買い手側も安心して手続きを進めることができます。有限会社のままでは手続きが煩雑になるケースもあり、M&Aの選択肢が狭まる可能性もあります。

対外的な信用力の向上は、会社の成長と未来の選択肢を広げるための重要な布石となるのです。

有限会社から株式会社へ変更するための手続きと注意点

株式会社化のメリットをご理解いただけたところで、次に「具体的にどうすればいいのか?」という手続きの概要と、知っておくべき注意点について触れておきましょう。

有限会社(特例有限会社)から株式会社への移行は、「商号変更による株式会社設立登記」という手続きで行います。大まかな流れは以下の通りです。

  1. 株式会社としての定款の作成:まず、株式会社用の新しい定款を作成します。この段階で、メリットとして挙げた「株式の売渡請求」に関する規定や、役員の任期などを盛り込みます。
  2. 株主総会での特別決議:株主総会を招集し、「商号(会社名)を『株式会社〇〇』に変更する」という議案と、新しい定款を承認するための特別決議を行います。
  3. 法務局での登記申請:決議後、管轄の法務局へ「特例有限会社の解散登記」と「株式会社の設立登記」を同時に申請します。この申請が受理されれば、手続きは完了です。

手続きにかかる費用としては、法務局に納める登録免許税が合計6万円(解散登記3万円+設立登記3万円。資本金の額によっては設立登記分が高くなる場合があります)かかります。その他、司法書士に依頼する場合は別途報酬が必要です。期間としては、準備から登記完了まで1ヶ月程度を見ておくと良いでしょう。

ここで、一つだけ非常に重要な注意点があります。それは、「一度株式会社になったら、二度と有限会社には戻れない」ということです。この変更は不可逆的なものですから、安易な判断は禁物です。本当に自社にとってメリットがあるのか、タイミングは今が最適なのか、有限会社特有のルールも踏まえ、慎重に検討する必要があります。

より詳しい手続きについては、法務局が提供する資料も参考になります。

参照:特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請書 – 法務局

事業承継の不安、ひとりで悩まず専門家にご相談ください

司法書士事務所で相談する男性経営者。司法書士が親身に話を聞き、相談者は安心した表情を浮かべている。

ここまで、事業承継を円滑に進めるための戦略として、有限会社から株式会社へ移行する3つの大きなメリットと、その手続きについて解説してきました。

  • 相続による株式分散を防ぐ「株式売渡請求」
  • 経営の健全化と承継計画を促す「役員任期」
  • 融資やM&Aを有利にする「対外信用の向上」

これらはいずれも、会社の未来を盤石にするための重要な要素です。しかし、実際に手続きを進めるとなると、自社の状況に合わせた最適な定款の設計や、複雑な登記手続きなど、専門的な知識が不可欠となります。見よう見まねで進めてしまうと、後々思わぬトラブルの原因になりかねません。

事業承継は、単なる手続きではありません。経営者様の想い、ご家族の関係、会社の歴史、そのすべてが関わる、非常にデリケートで重要な一大プロジェクトです。

私たち下北沢司法書士事務所は、まさにこうした事業承継のお悩みや、会社の法務手続きを専門としています。司法書士としての法律知識はもちろんのこと、私自身、心理カウンセラーの資格も有しており、お客様一人ひとりの不安な気持ちに寄り添い、法律的な観点だけでなく、心の面からもサポートすることを大切にしています。

「何から相談していいか分からない」「うちの会社でも株式会社化はできるのだろうか」

そんな段階でも全く問題ありません。まずは現状を整理し、課題を明確にするだけでも、未来への大きな一歩です。ひとりで悩まず、まずはお気軽に当事務所の無料相談をご利用ください。あなたと、あなたの会社にとって最善の道筋を、一緒に見つけていきましょう。エリアも東京23区だけでなく、東京都下や千葉・埼玉・神奈川など首都圏からご相談を承っています。

相続手続きは遠方の司法書士に依頼できる?全国対応の現実 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

事業承継・株式会社化に関する無料相談はこちら

不動産を妻へ、次は甥へ。希望を叶える相続・信託の方法

2026-04-20

「妻へ、そして甥へ」先祖代々の不動産、想いを繋ぐには?

「私が亡き後、妻が安心してこの家に住み続けられるようにしたい。そして、妻が亡くなった後は、私の血を引く甥にこの土地を継いでほしい」

お子さんのいらっしゃらないご夫婦にとって、これは切実な願いではないでしょうか。

先日、当事務所にも杉並区にお住まいのAさんという方から、まさに同じご相談が寄せられました。

「この自宅は、もともと祖父が苦労して手に入れた大切な土地なんです。私が亡くなった後、まずは妻の生活を第一に考え、この家を確実に妻に相続させたい。でも、妻が亡くなった後は、妻の親族ではなく、私の甥に引き継いでもらうのが、祖父の想いにも応えることになると思うのです。どうすれば、この願いを叶えられるでしょうか」

Aさんの真剣な眼差しには、妻への深い愛情と、ご先祖様から受け継いだ土地への責任感が溢れていました。この「妻へ、そして甥へ」という二段階の想いを法的に実現するのは、実は簡単なことではありません。

しかし、ご安心ください。あなたのその大切な想いを、未来へと確実に繋ぐための方法は存在します。この記事では、司法書士の視点から、Aさんのようなお悩みを解決するための具体的な道筋を、一つひとつ丁寧に解説していきます。長年の願いを叶えるための第一歩を、ここから一緒に踏み出しましょう。

なぜ普通の遺言書だけでは想いを実現できないのか

多くの方がまず思いつくのが、「遺言書に書いておけば大丈夫だろう」ということかもしれません。しかし、残念ながら、遺言で法的に指定できるのは、原則として「自分が亡くなった時点で、誰に財産を承継させるか」までです。これは非常に重要なポイントです。

例えば、「私が死んだら不動産は妻に相続させる。妻が死んだらその不動産は甥に相続させる」という内容の遺言書を作成したとします。この遺言に基づき、あなたが亡くなった後、不動産の名義は奥様のものになります。その瞬間、その不動産の所有権は完全に奥様の財産となるのです。

つまり、その不動産を将来どうするのか(売却するのか、誰かに贈与するのか、誰に相続させるのか)を決める権利は、すべて奥様に移ってしまいます。あなたの遺言には、奥様の財産の使い道までを指定する法的な力(拘束力)はないのです。

もし奥様が「夫の甥ではなく、自分の兄弟に相続させたい」と考えて新しい遺言書を作成すれば、不動産はそちらに渡ることになります。また、奥様が遺言書を作成しないまま亡くなったり、認知能力の衰えにより遺言を残せなくなった場合は、法律(民法)に従い、奥様の親族(ご両親や兄弟姉妹など)が相続人となります。これでは、あなたの「甥に継がせたい」という想いは実現できません。

遺言の効力が一代限りであることを示す図解。夫から妻へ相続された不動産は、妻の遺言や法定相続によって妻の親族へ渡る可能性があり、夫の遺言で指定した甥には渡らないことを示している。

このように、一度相続された財産は、相続した人の完全な所有物となり、その先の未来は、その所有者の意思に委ねられてしまうのです。自分の想いを次の世代、さらにその先まで確実に届けたいと考えるなら、通常の遺言書だけでは不十分である、という現実を知ることが最初のステップになります。

遺言と相続の基本的な関係については、人事院のウェブサイトでも解説されています。
参照:遺産相続と遺言

想いを実現する2つの解決策|メリット・デメリットを徹底比較

では、どうすれば「妻へ、そして甥へ」という想いを形にできるのでしょうか。ご安心ください。法的には、主に2つの有効な解決策があります。それは、「予備的遺言」を夫婦で活用する方法と、「家族信託」という仕組みを使う方法です。

どちらの方法にも、それぞれメリットとデメリットがあります。ご自身の家族関係や、どこまで「確実性」を求めるかによって、最適な選択は変わってきます。それぞれの特徴をじっくり比較し、あなたにとって最良の道筋を見つけていきましょう。

解決策①:夫婦で協力する「予備的遺言」の活用

一つ目の方法は、奥様とよく話し合い、協力して遺言書を作成するアプローチです。

具体的には、ご夫婦それぞれが、次のような内容の遺言書を作成します。

  • ご自身の遺言書:「自分の全財産は妻に相続させる。ただし、もし自分より先に妻が亡くなっていた場合は、財産を甥の〇〇に遺贈する」と記載します。この後半部分を「予備的遺言」と呼びます。
  • 奥様の遺言書:「自分の全財産は夫に相続させる。ただし、もし自分より先に夫が亡くなっていた場合、夫から相続した不動産を、夫の甥である〇〇に遺贈する」と記載してもらうのです。

この方法であれば、あなたが先に亡くなった場合、不動産はまず奥様に相続されます。そして、その後奥様が亡くなったとき、奥様の遺言書によって不動産はあなたの甥御さんへと引き継がれることになります。

実際に、先ほどご紹介したAさんはこの方法を選ばれました。奥様と何度も話し合い、お互いの想いを確かめ合った上で、二人で当事務所にお越しになり、協力して遺言書を作成されました。この方法の最大のメリットは、比較的費用を抑えられ、手続きがシンプルであることです。

しかし、大きなデメリット、つまりリスクも存在します。それは、あくまで奥様の「約束」に基づいているという点です。あなたが亡くなった後、奥様が「やはり考えが変わった」と遺言書を書き換えてしまったり、撤回してしまったりする可能性は、法律上ゼロにはできません。この方法は、ご夫婦間の深い信頼関係があって初めて成り立つ選択肢と言えるでしょう。このような状況は、まさに遺言が必要なケースの典型例です。

解決策②:法的に未来を拘束する「家族信託」の活用

もう一つの、より強力で確実な方法が「家族信託」です。特に、何代にもわたって財産の承継先を指定したい場合に有効な「受益者連続型信託」という仕組みを活用します。

少し専門的になりますが、仕組みはこうです。

  1. あなた(委託者)が、信頼できる人(例えば甥御さんなど)を財産の管理者(受託者)に指名します。
  2. そして、不動産などの財産を「信託財産」として受託者に託し、管理・運用してもらいます。
  3. その信託財産から得られる利益(例えば、家に住む権利や賃料収入など)を受け取る人(受益者)を指定します。

今回のケースでは、信託契約の中で次のように定めます。

  • 当初の受益者:
  • 妻が亡くなった後の次の受益者(または財産の帰属先):

このように設定することで、あなたが亡くなった後、奥様は「受益者」として、これまで通りその家に住み続けることができます。そして、奥様が亡くなった瞬間に、不動産に関する権利は契約で定められた通り、自動的に甥御さんへと引き継がれます。これは遺言と違い、信託契約に基づいて承継先をあらかじめ定められるため、奥様の意思だけで承継先が変わってしまうリスクを抑えられます(ただし、設計内容や関係者状況によっては見直し・紛争等の余地が生じることがあります)。

この方法の最大のメリットは、あなたの想いを法的に確定させ、未来にわたって確実に実現できることです。また、万が一奥様が認知症などで判断能力が低下した場合でも、受託者である甥御さんが財産管理を続けられるため、資産が凍結されるリスクにも備えられます。こうした財産管理の側面は、家族信託が持つ重要な機能の一つです。

一方で、デメリットとしては、契約書の作成や登記手続きが複雑になるため、専門家への依頼費用が発生すること、そして財産管理を任せられる信頼できる受託者を見つける必要があることが挙げられます。

「予備的遺言」と「家族信託」のメリット・デメリットを比較する図解。予備的遺言は低コストだが確実性に欠け、家族信託は費用がかかるが法的に確実であることを示している。

あなたはどちらを選ぶ?司法書士が示す判断のポイント

「予備的遺言」と「家族信託」。どちらも有効な手段ですが、あなたとご家族にとっては、どちらがより適しているのでしょうか。ここでは、選択のための具体的な判断ポイントを整理してみましょう。

「夫婦の協力と信頼」を軸にするなら予備的遺言

以下のようなお考えの方には、「予備的遺言」を夫婦で作成する方法が向いているかもしれません。

  • 夫婦間の信頼関係が非常に強く、妻が約束を守ってくれると確信している。
  • できるだけ費用を抑えて、シンプルな手続きで済ませたい。
  • 将来、妻が考えを変える可能性は低いと考えている。

この方法の根幹は、法的な拘束力ではなく、夫婦間の愛情と信頼です。お互いの想いを尊重し、未来を託し合える関係性が大前提となります。ただし、専門家としては、人の気持ちや状況は年月と共に変化する可能性があるというリスクも、念のため心に留めておく必要があることをお伝えしなければなりません。

「法的な確実性」を最優先するなら家族信託

一方で、次のような状況やご希望をお持ちの場合は、「家族信託」が最適な選択となるでしょう。

  • 多少コストがかかっても、自分の想いをできる限り確実に実現したい。
  • 妻側の親族に財産が渡る可能性をできる限り小さくしたい。
  • 妻が高齢で、将来、遺言を書く判断能力が低下する可能性に備えたい。
  • 不動産の管理や将来的な処分まで、スムーズに甥に引き継がせたい。

家族信託は、未来の不確実性を排除し、「安心」を契約によって手に入れる方法です。特に、認知症による資産凍結といった、遺言だけではカバーしきれないリスクにも対応できる点が大きな強みです。あなたの想いを、誰にも邪魔されることなく、法的に守り抜きたいと強く願うのであれば、家族信託を積極的に検討する価値があります。

まとめ|大切な想いを未来へ繋ぐために、今できること

「妻の生涯の安心を守りたい。そして、先祖代々の土地は自分の血筋に還したい」

お子さんのいらっしゃらないご夫婦が抱えるこの切実な願いには、「予備的遺言」と「家族信託」という、確かな解決策が存在することをご理解いただけたでしょうか。

信頼を基に夫婦で協力する「予備的遺言」。法的な力で未来を確定させる「家族信託」。どちらの方法を選ぶとしても、法的に有効な書類を作成し、複雑な手続きを正確に進めることが不可欠です。ご自身での判断や手続きは、思わぬ落とし穴や無効のリスクを伴います。

あなたの、そしてご家族の長年の想いを、できる限りトラブルを避けながら実現するために、まずは専門家である私たち司法書士にご相談ください。当事務所は、法律的な手続きを代行するだけでなく、心理カウンセラーの資格も持つ司法書士が、あなたの心に寄り添い、多角的な視点から最も良い解決策を一緒に考えます。

エリアも東京23区はもちろん、東京都下や千葉・神奈川・埼玉など東京都下のご相談に対応しております。対応エリアについてはこちら↓

相続手続きは遠方の司法書士に依頼できる?全国対応の現実 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

お悩みの方は、ぜひ一度法律相談をご利用ください。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

住民票が廃棄済み?法定相続情報の作成と手続きを専門家が解説

2026-04-15

「書類が廃棄済み…」法定相続情報が作れず、手続きが止まっていませんか?

「お父様の住民票の除票ですが、保存期間を過ぎているので廃棄済みです」

役所の窓口で淡々とそう告げられ、頭が真っ白になってしまった…あなたも今、そんな状況にいらっしゃるのではないでしょうか。「必要な書類がないなんて、この先の相続手続きは一体どうすればいいんだろう」「銀行や法務局の手続きが、すべて止まってしまうんじゃないか」と、暗闇の中に一人で取り残されたような、強い不安と焦りを感じていらっしゃるかもしれません。

でも、どうか安心してください。あなただけではありません。特に、亡くなられてから年数が経っている方の相続では、同じ壁に突き当たるケースは決して珍しくないのです。そして、最もお伝えしたいのは、たとえ役所で「廃棄済み」と言われたとしても、手続きを諦める必要は全くない、ということです。

この記事では、司法書士である私が、実際に何度も経験してきたこの絶望的な状況を乗り越え、無事に相続手続きを完了させるための具体的な解決策を、順を追って分かりやすく解説します。読み終える頃には、あなたの不安は希望に変わっているはずです。一緒に、解決への一歩を踏み出しましょう。

【実例】住所を証明できなくても、相続手続きは完了できます

「本当に大丈夫なの?」というあなたの疑問にお答えするため、まずは私が実際に担当させていただいた事例をお話しさせてください。これは、机上の空論ではなく、現実に起こったお話です。

杉並区にお住まいのAさんから、「平成11年に亡くなった父の相続手続きをお願いしたい」とご相談をいただきました。相続登記の義務化も始まり、ずっと気になっていた足立区のご実家の名義変更と、手つかずだった銀行預金の手続きを、この機会にきちんと済ませたいとのことでした。

私は早速、専門家が持つ「職務上請求」という権限を使い、相続手続きに必要な戸籍謄本や住民票の除票の収集を開始しました。しかし、数日後、役所から郵送されてきた書類を見て、すぐに問題に気づきました。亡くなったお父様の最後の住所を証明するはずの「戸籍の附票」が、保存期間経過を理由に廃棄されていたのです。

さらに、Aさんにはお父様より少し後に亡くなられたご兄弟もいらっしゃり、その方の住所を証明する書類も同様に取得できませんでした。

でも、当事務所にはこのようなケースでどう対応すべきか、専門家としての知識と経験がありました。

まず、亡くなったお父様については、一覧図に「最後の住所」が書けない代わりに「最後の本籍」を記載し、「なぜ住所が書けないのか」を証明するために役所から「廃棄証明書」を取り寄せ、これを添付して法定相続情報一覧図の申出を行いました。結果、法務局はこれを問題なく受理し、住所の記載がない法定相続情報一覧図が完成しました。

そして、この「住所記載なし」の一覧図を使って、無事に相続登記とすべての銀行手続きを完了させることができました。

この事例が示すように、たとえ重要な書類が廃棄されていたとしても、状況に応じた資料の準備と手順を踏むことで、手続きを進められる場合があります。

司法書士に相続手続きの相談をしている女性。テーブルには書類が広げられ、専門家が親身に話を聞いている。

なぜ?住民票の除票や戸籍の附票が「廃棄」される理由

そもそも、なぜ公的な書類であるはずの住民票の除票(亡くなった方の住民票)や戸籍の附票(住所の履歴が記録された書類)が「廃棄」されてしまうのでしょうか。それは、これらの書類に法律で定められた「保存期間」があるからです。

住民票の除票や(除)戸籍の附票には保存期間があり、自治体によって「平成26年4月1日以降に除票となったものは150年」など、一定の時期以降に保存期間が延長された取扱いが案内されています。そのため、例えば平成20年に亡くなった方の場合、平成25年にはすでに保存期間が満了し、役所によっては廃棄されていてもおかしくない状況だったのです。

法令改正等により、住民票の除票や(除)戸籍の附票の保存期間は延長されており、いつ除票になったか等の条件によって「150年保存」となる取扱いが案内されています。しかし、重要なのは、このルールは未来に向かって適用されるということです。つまり、法改正が行われる前に、すでに5年の保存期間が過ぎて廃棄されてしまった書類は、残念ながら元には戻りません。

あなたが直面している「廃棄済み」という事態は、役所のミスや特別なトラブルではなく、古い相続では法律上起こり得ることなのです。まずはこの事実を冷静に受け止めることが、次の一歩に進むための第一歩となります。

参考: 住民基本台帳法施行令の一部を改正する政令等について(通知)(総務省)

【解決策】住所が証明できなくても法定相続情報は作成できる

では、いよいよ核心部分です。被相続人の最後の住所を証明する書類が取得できない場合、どうすれば法定相続情報一覧図を作成できるのでしょうか。答えは、驚くほどシンプルです。

法定相続情報一覧図には「最後の住所」を記載するのが基本ですが、法務局の案内では、申出人の選択により「最後の本籍」も記載できるとされています。最後の住所を証する書類が取得できない場合は、取得不能である事情が分かる資料を添付するなど、個別事情に応じた対応を取ったうえで申出を行います。このテーマの全体像については、法定相続情報証明制度の概要で体系的に解説しています。

ポイントは「最後の本籍」の記載

法務局が定めている法定相続情報一覧図のルールでは、被相続人の欄には「最後の住所」を記載するのが原則です。しかし、それを証明する書類が取得できないケースを想定し、例外的な取り扱いが認められています。

一覧図は「最後の住所」を基本として作成し、必要に応じて「最後の本籍」も併記します。住所を証する書類が取得できない事情がある場合は、その事情が分かる資料を添付するなどして、法務局に申出を行います。これにより、「住所は証明できませんが、代わりに本籍地を記載します」という形で申出が可能になるのです。なお、相続放棄した人がいる場合でも、一覧図への記載方法は変わりません。

申出時に添付する代替書類とは?

ただし、単に一覧図の記載を「最後の本籍」に変えるだけでは不十分です。「なぜ、原則である住所を記載できないのか」その理由を、法務局に対して客観的に証明する必要があります。

その理由を補強する資料として、市区町村によっては、書類が保存期間満了等で発行できない旨を示す証明書類を交付している場合があります。

  • 廃棄証明書:「ご請求の住民票の除票(または戸籍の附票)は、保存期間満了により廃棄したため発行できません」ということを公的に証明してくれる書類です。
  • 不在住証明書・不在籍証明書:「その住所にその氏名の人は住民登録されていません」「その本籍地にその氏名の人は在籍していません」ということを証明する書類。これも、書類が存在しないことの間接的な証明になります。

これらの書類を法定相続情報一覧図の申出書に添付することで、法務局の担当者は「なるほど、証明書が取得できない正当な理由があるのだな」と納得し、手続きを進めてくれるのです。役所での戸籍収集は、相続人が多いと特に複雑になりがちです。

住民票が廃棄された場合の法定相続情報作成フロー図。住所を本籍に書き換え、廃棄証明書を添付して法務局に申し出るという3ステップを示している。

相続人の住所はどうする?記載は任意です

ここで、よく混同されがちな「相続人の住所」についても整理しておきましょう。被相続人の住所証明が問題になっていると、相続人自身の住所についても不安に思われるかもしれませんが、心配は不要です。

法定相続情報一覧図において、相続人の住所を記載するかどうかは「任意」、つまり自由です。必ずしも記載しなければならないものではありません。

  • 住所を記載するメリット:不動産の相続登記を申請する際に、別途、相続人の住民票を提出する必要がなくなります。
  • 住所を記載しない場合:相続登記や銀行手続きの際に、その都度、相続人の住民票を求められます。

冒頭のAさんの事例のように、他の相続人の住所証明書も廃棄されているようなケースでは、無理に住所を記載せず、空欄のまま一覧図を作成することも可能です。特に相続人が多い場合は、全員の住民票を集める手間を省くために、あえて記載しないという選択も考えられます。

「住所記載なし」の法定相続情報で手続きは本当に可能?

解決策が見えてきた一方で、「被相続人の住所が書かれていない、いわば不完全な書類で、本当に相続登記や銀行手続きができるのだろうか?」という新たな疑問が湧いてくることと思います。ごもっともな心配です。ここでは、実務上の運用について具体的に解説し、あなたの最後の不安を解消します。

相続登記(不動産の名義変更)での使い方

不動産の名義変更(相続登記)において、法定相続情報一覧図は2つの役割を期待されています。

  1. 相続関係を証明する役割
  2. 被相続人の最後の住所を証明する役割

今回作成した「住所記載なし・本籍記載」の一覧図は、このうち(1)の「相続関係を証明する役割」は完璧に果たせます。戸籍謄本の束の代わりとして、問題なく使用できます。

しかし、(2)の「最後の住所を証明する役割」は果たせません。そのため、この部分を補う別の書類が別途必要になります。具体的には、以下のような書類を法務局に提出します。

  • 上申書:「住民票の除票等が廃棄済みで取得できないため、登記簿上の名義人と被相続人は同一人物に相違ありません」といった内容を相続人全員で証明する書類。相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付します。
  • 権利証(登記済証):不動産を取得した際に発行された権利証があれば、それが本人であることの強力な証明になります。
  • 固定資産税の納税通知書など:被相続人宛に送付されていた納税通知書なども、補強材料となる場合があります。

たとえ権利証が見当たらないような最悪のケースでも、「上申書」を作成することで対応可能です。このように、代替手段を組み合わせることで、相続登記は問題なく完了できます。

銀行など金融機関での預貯金解約手続き

銀行などの金融機関における預貯金の解約手続きでは、状況はさらにシンプルです。

多くの金融機関が法定相続情報一覧図に求めている主な役割は、「相続人が誰であるかを確定する」ことです。金融機関が法定相続情報一覧図に求める目的は「相続人の確定」であることが多い一方で、必要書類や確認方法は金融機関ごとに異なります。そのため、一覧図に被相続人の住所が記載されていない場合でも受付されるケースはありますが、事前に金融機関へ確認しておくのが確実です。

実務上の感覚としても、「住所記載なし」の法定相続情報一覧図が原因で銀行手続きが滞ったという経験は、今のところありません。

ただし、金融機関ごとに内部のルールが異なる可能性はゼロではありません。最も確実なのは、手続きに行く前に一度電話を入れ、「被相続人の住民票の除票が廃棄済みで取得できず、最後の本籍を記載した法定相続情報一覧図を持参しますが、手続きは可能でしょうか?」と確認しておくことです。この一手間が、無駄足を防ぎ、スムーズな手続きにつながります。ゆうちょ銀行の相続など、金融機関によっては特殊なルールがある場合もあります。

相続手続きを終え、新しい権利証を手に安心した表情の夫婦。専門家に依頼して問題が解決した様子。

古い相続で書類が揃わない…一人で悩まず専門家にご相談ください

ここまで、書類が廃棄されてしまった場合の具体的な解決策を解説してきました。解決への道筋は見えたものの、同時に「これを全部、自分一人でやるのは大変そうだ…」と感じられたのではないでしょうか。

その感覚は、とても正しいものです。戸籍一式を正確に読み解き、役所で代替書類を取得し、法務局の様式に合わせて一覧図を作成し、さらには相続登記のために上申書を用意する…これらは、専門的な知識と経験がなければ、非常に時間と手間のかかる作業です。

もし、少しでも不安を感じたり、手続きの途中で手が止まってしまったりした場合は、どうか一人で抱え込まないでください。私たち司法書士は、このような困難な状況を解決するための専門家です。

ご依頼いただければ、煩雑な戸籍の収集から、法務局や金融機関との折衝、そして最終的な相続登記の完了まで、すべての手続きをあなたの代理人として責任を持って進めます。「どの専門家に相談すべきか」迷った時も、不動産が絡む手続きの司令塔となる司法書士が最初の窓口として最適です。

エリアも東京23区だけでなく、千葉・神奈川・埼玉など首都圏のご依頼に対応しております。

相続手続きは遠方の司法書士に依頼できる?全国対応の現実 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

ぜひお気軽にご相談ください。

無料相談の問い合わせフォーム

下北沢司法書士事務所 竹内友章

相続しない人の法定相続情報一覧図|放棄・欠格等の記載例

2026-04-10

相続放棄した兄弟…法定相続情報一覧図に書くべき?

相続手続きを円滑に進めるために、戸籍謄本の束の代わりとなる「法定相続情報一覧図」。この制度も一般の方に広く認知されるようになってきました。しかし、いざご自身で作成しようとすると、思わぬ疑問に突き当たることがあります。

先日、当事務所にご相談くださった吉祥寺にお住まいのAさんも、そんなお一人でした。相続対象の不動産があったため、管轄の東京法務局府中支局に提出する法定相続情報一覧図を作成しようと試みたのですが、途中で手が止まってしまったのです。

「家庭裁判所で正式に相続放棄の手続きを終えた弟がいるのですが、この弟のことは一覧図に記載すべきなのでしょうか?」

あなたも今、Aさんと同じような疑問や不安を抱えて、このページにたどり着かれたのかもしれません。相続しない人がいるケースは決して珍しくありませんが、その場合の正確な書き方となると、自信を持って判断するのは難しいものです。

ご安心ください。この記事を最後までお読みいただければ、相続放棄、相続欠格、相続人排除など、財産を相続しない人がいる場合の法定相続情報一覧図の作成方法について、明確な答えと具体的な記載例を得ることができます。一緒に、その疑問を解消していきましょう。

結論:相続放棄・欠格・「取得しない合意」の場合は記載/廃除(相続人排除)は記載しない

早速、結論から申し上げます。相続放棄、相続欠格、あるいは遺産分割協議によって結果的に財産を取得しない場合でも、法定相続情報一覧図から省略することはできません。一方で、推定相続人から廃除(相続人排除)された方は、法定相続情報一覧図に記載しません。

「え、相続しないのにどうして?」と疑問に思われるかもしれません。その理由は、この制度の根本的な目的にあります。

一覧図の目的は「相続関係の証明」であり「財産取得者の証明」ではない

ここが最も重要なポイントです。法定相続情報一覧図は、「最終的に誰がどの遺産を取得したか」を証明するための書類ではありません。その目的は、あくまで「被相続人(亡くなった方)が亡くなった時点で、法律上の相続人は誰と誰であったか」を、戸籍情報に基づいて公的に証明することにあります。

金融機関や法務局といった手続き先がこの一覧図で確認したいのは、「遺産を受け取った人」ではなく、「そもそも遺産分割協議や相続登記の申請に参加すべき当事者が全員揃っているか」という点です。相続放棄をした人も、亡くなった時点では紛れもなく相続人の一人でした。だからこそ、一覧図には必ず記載する必要があるのです。

この制度の全体像については、法定相続情報証明制度の概要で体系的に解説しています。

法定相続情報一覧図の目的を解説した図。財産取得者の証明ではなく、死亡時点での相続関係を証明するものであることを示している。

もし記載しなかったら?法務局で修正を求められ二度手間に

では、もし相続放棄した人などの記載を省略して一覧図を法務局に提出したらどうなるのでしょうか。答えは明白です。法務局の担当者から、添付した戸籍謄本との整合性が取れないことを指摘され、一覧図の修正や再提出を求められる可能性が高いです。

「せっかく時間と費用をかけて戸籍一式を集め、慣れないパソコンで図を作成して法務局まで足を運んだのに、結局やり直しになってしまった…」これでは、徒労感が大きいだけでなく、相続手続き全体が遅延してしまいます。場合によっては、戸籍調査の段階から見直しが必要になる可能性すらあります。貴重な時間と労力を無駄にしないためにも、ルールに則った正確な記載が不可欠なのです。

(参考:法定相続情報証明制度の具体的な手続について – 法務局

【ケース別】相続しない人の法定相続情報一覧図の書き方と記載例

それでは、ここからは「相続放棄」「相続欠格・排除」「遺産分割協議」という3つの具体的なケースに分け、それぞれの記載方法を詳しく解説していきます。ご自身の状況に合わせてご確認ください。

ケース1:相続放棄した場合の記載方法

最も多くの方が悩まれるのが、この「相続放棄」のケースです。家庭裁判所で相続放棄の申述が受理された人がいる場合、一覧図にはどのように記載すればよいのでしょうか。

答えは、「他の相続人と全く同じように記載する」です。

一覧図に「相続放棄」といった文言を追記したり、特別な記号を付けたりする必要は一切ありません。他の相続人と同様に、氏名、生年月日、続柄、住所(任意)を記載します。

相続放棄した人がいる場合の法定相続情報一覧図の記載例。相続放棄者も他の相続人と同様に記載し、「相続放棄」とは書かないことを示している。

では、相続放棄したという重要な事実は、何によって証明するのでしょうか。それは、法定相続情報一覧図とは別の書類で証明します。具体的には、家庭裁判所が発行する「相続放棄申述受理証明書」を、一覧図とセットで金融機関や法務局に提出することで、「この人は一覧図には載っているが、相続権は放棄しています」と証明するのです。

あくまで一覧図は「死亡時点の相続関係」、相続放棄申述受理証明書は「その後の権利変動」と、それぞれの書類の役割が明確に分かれていると理解してください。なお、数次相続で相続放棄が絡むような複雑なケースでは、特に専門的な判断が必要となります。

ケース2:相続欠格・相続人排除の場合の記載方法

次に、相続権を失う特殊なケースである「相続欠格」と「相続人排除」についてです。これらは混同されがちですが、一覧図への記載方法において決定的な違いがあります。

  • 相続欠格とは:被相続人を殺害したり、遺言書を偽造したりするなど、法律が定めた特定の非行があった場合に、当然に相続権を失う制度。
  • 相続人排除とは:被相続人が、虐待や重大な侮辱などを理由に、家庭裁判所への申立てによって特定の相続人の権利を剥奪する制度。

この2つのケースでは、記載の有無が次のように分かれます。

【相続欠格の場合】
相続欠格の事実は、戸籍には記載されません。そのため、法定相続情報一覧図の扱いは相続放棄の場合と同じです。つまり、欠格者も他の相続人と同様に一覧図に記載します。そして、相続欠格の事実を証明するためには、その事実を記載した遺産分割協議書や、場合によっては確定判決の謄本などを別途用意する必要があります。相続財産を隠すなどの不正行為が欠格事由にあたる可能性もあります。

【相続人排除の場合】
一方、相続人排除は、家庭裁判所の審判が確定すると、その事実が戸籍に記載されます。戸籍に「推定相続人から廃除」と記載された方は、法律上、相続開始時点で相続人ではなかったとみなされます。したがって、法務局の取り扱いでは、相続人排除された方は法定相続情報一覧図には記載しません。

この違いは非常に専門的なポイントであり、ご自身で判断するのは難しい部分です。戸籍を正確に読み解く知識が求められます。

ケース3:遺産分割協議で財産を取得しない人の記載方法

最後に、「相続権は放棄しないが、話し合いの結果、特定の財産や全ての財産を今回は取得しないことにした」というケースです。例えば、「不動産は長男が相続し、預貯金は長女が相続する。次男は何も相続しない」といった合意が成立した場合がこれにあたります。

この場合も、考え方は相続放棄のケースと全く同じです。

遺産分割協議で結果的に財産を取得しなかった人も、他の相続人と同様に法定相続情報一覧図に記載します。

誰がどの財産を取得し、誰が取得しなかったか、という事実は、一覧図ではなく「遺産分割協議書」によって証明します。この遺産分割協議書に相続人全員が署名し、実印を押印することで、その内容が全員の正式な合意であることを証明するわけです。遺産分割協議書は、相続手続きにおける最も重要な書類の一つと言えるでしょう。

(参考:主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例 – 法務局

まとめ:複雑な相続こそ、司法書士への相談が解決の近道です

今回は、相続しない人がいる場合の法定相続情報一覧図の書き方について、ケース別に解説しました。重要なポイントは、「法定相続情報一覧図は、あくまで被相続人が亡くなった時点での相続関係を証明する書類である」という一点に尽きます。

相続放棄、相続欠格、遺産分割協議で財産を取得しないといった事情は、一覧図とは別の書類で証明する、と覚えておきましょう。(ただし、戸籍に記載される相続人排除は例外です)

相続放棄や相続欠格といった特殊な事情が絡むケースでは、戸籍の正確な読み解きと法律知識が不可欠です。書類作成は、複雑な相続手続きのほんの入り口に過ぎません。その先には、遺産分割協議など、さらに多大な労力と精神的な負担を伴うプロセスが待ち構えていることも少なくないのです。

もし、少しでも「自分だけで進めるのは不安だ」「手続きが複雑でよく分からない」と感じたら、一人で抱え込まずに、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。特に、相続を専門とする司法書士は、手続き面の知識だけでなく、実際に実務を遂行してきた経験があります。

エリアも東京23区のほか、東京都下や千葉や神奈川など首都圏に対応しています。エリアの考え方はこちら↓↓

相続手続きは遠方の司法書士に依頼できる?全国対応の現実 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

当事務所の代表司法書士は心理カウンセラーの資格も有しており、法律的なサポートはもちろんのこと、手続きを進める中で生じる皆様の心の負担にも寄り添うことを大切にしています。初回のご相談は無料です。どうぞお気軽に、あなたのタイミングでお問い合わせください。

無料相談のお問い合わせ

下北沢司法書士事務所 竹内友章

親に遺言を頼む角が立たない伝え方【司法書士が解説】

2026-04-09

「そろそろ親に遺言を…」そう思うのはあなただけではありません

「親もだんだん年を重ねてきたし、万が一の時のために、そろそろ遺言を書いてもらえたら…」

そう考えながらも、なかなか話を切り出せずに、胸の中で言葉を飲み込んでしまう。そんなふうに悩んでいらっしゃる方は、決して少なくありません。先日も、ある会社の経営者の方と雑談をしていた際に、ふと「そろそろ親も年だし、遺言を書いて欲しいけど、なかなか言いにくいですよね」というお話になりました。50代前半のその方も、あなたと同じように、親を想う気持ちと現実的な問題との間で揺れ動いていたのです。

親に遺言の話をするのは、とても勇気がいることです。デリケートな話題だからこそ、どう伝えればいいのか分からなくなってしまうのは、ごく自然なこと。そのお悩みは、あなたがご家族を深く愛し、大切に思っている証拠に他なりません。

この記事では、司法書士として、そして心理カウンセラーとして多くの方のお悩みに耳を傾けてきた経験から、ご両親との関係を損なうことなく、穏やかに遺言の話を切り出すための具体的な方法をお伝えします。あなたのその優しい気持ちが、ご両親にまっすぐ伝わるように、一緒に考えていきましょう。この記事が、あなたの不安を和らげ、次の一歩を踏み出すための小さなきっかけになれば幸いです。相続の話し合い全般の進め方については、相続の話を切り出す時期と進め方で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

なぜ、私たちは親に遺言の話を切り出せないのか?

「遺言」の三文字を口にする前に、私たちの心には様々なブレーキがかかります。それは法律の問題というより、もっと深く、私たちの心根にある感情の問題です。なぜ、私たちはこれほどまでに行動をためらってしまうのでしょうか。その心の奥を少しだけ、一緒に覗いてみませんか。

リビングで母親と向き合い、遺言について穏やかに話す娘の様子。

「縁起でもない」と言われることへの恐怖

最も大きなハードルは、これかもしれません。「遺言なんて、縁起でもない!」と親に一喝されてしまうのではないか。この言葉を言われるのが怖くて、口をつぐんでしまう方は本当に多いです。

この言葉の裏には、「死」について語ることをどこかタブー視してきた世代の価値観があるのかもしれません。決して、あなたを拒絶したいわけではないのです。ただ、親御さん自身も、自らの「老い」や「死」と向き合うことに戸惑いを感じているのかもしれません。その言葉を過度に恐れる必要はありません。それは、あなたへの否定ではなく、親御さん自身の心の揺れ動きの表れなのだと、少しだけ引いて考えてみると、気持ちが楽になるかもしれません。

「財産目当て?」と誤解されたくない気持ち

次に私たちの心を縛るのは、「財産目当てだと思われたらどうしよう」という不安です。お金の話をすることに、どこか後ろめたさを感じてしまう。遺言をお願いする本当の目的は、「家族が揉めないように」「残されたみんなが困らないように」という、家族への深い愛情から来ているはずです。それなのに、その真意が伝わらず、あらぬ誤解をされてしまったら…。そう考えると、言葉が喉の奥でつかえてしまいますよね。

この気持ちを抱えてしまうのは、あなたが誠実で、ご両親を心から尊敬している証拠です。だからこそ、この誤解を生まないための「伝え方」が、何よりも大切になってくるのです。万が一、相続財産をめぐる誤解が生じると、家族関係に深い溝が生まれてしまう可能性もあります。

今の穏やかな家族関係を壊したくない

「今は家族みんな、穏やかに暮らしている。わざわざ波風を立てるような話はしたくない…」
そう考えて、問題を先送りにしてしまう気持ちも、痛いほどよく分かります。「触らぬ神に祟りなし」ということわざがあるように、デリケートな問題から目をそむけたくなるのは、今の平和を守りたいという優しい心があるからです。

しかし、司法書士として多くのご家族を見てきた経験からお伝えしたいのは、「話さないこと」こそが、将来の大きな火種になりうるという事実です。遺言がないことで、残された家族が遺産分割の話し合いで対立し、関係がこじれてしまうケースは後を絶ちません。今の穏やかな関係を未来へとつなぐために、ほんの少しの勇気を出すことが、実は何よりの家族孝行になるのかもしれません。

【実践編】角が立たない『遺言』の切り出し方3ステップ

では、具体的にどのように話を進めていけば良いのでしょうか。「これなら自分にもできそう」と感じていただけるよう、心理的なハードルが低い順に3つのステップでご紹介します。焦らず、ご自身のペースで試してみてください。

ステップ1:きっかけを作る「自分の話」から始める

いきなり「遺言の話なんだけど…」と切り出すのは、あまりにも唐突です。まずは、ごく自然な会話の流れで、相続や終活といったテーマに触れる雰囲気作りから始めましょう。ポイントは、「親の話」ではなく「自分の話」や「第三者の話」をクッションにすることです。

例えば、こんなフレーズはいかがでしょうか。

  • 「最近、テレビで終活の特集をやっていて、自分の将来について考えちゃったよ。お父さんたちは、何か考えたりしてる?」
  • 「この間、友人のところが相続で大変だったみたいでさ…。ちゃんと準備しておくって大事なんだなって痛感したよ」
  • 「自分の保険を見直してるんだけど、こういうのって、家族にちゃんと伝えておかないとダメだね。うちのことも、少し整理しておいた方が安心かなって思って」

このように、あくまで「自分の気づき」や「情報共有」というスタンスで話すことで、相手の警戒心を和らげることができます。「あなたに何かしてほしい」というメッセージではなく、「一緒に考えたい」という姿勢を示すことが大切です。

親に遺言を切り出すための3ステップ図解。ステップ1はきっかけ作り、ステップ2はエンディングノートの提案、ステップ3は家族のためと伝えること。

ステップ2:本題への橋渡し「エンディングノート」を提案する

「遺言」という言葉には、どうしても法的な響きや財産のイメージがつきまといます。そこで、本題に入る前のワンクッションとして、「エンディングノート」を提案してみるのが非常に効果的です。

エンディングノートは、財産のことだけでなく、自分の人生の思い出、家族への感謝のメッセージ、好きな音楽や映画、延命治療や葬儀の希望など、様々なことを自由に書き記すものです。財産の話を前面に出さず、「思い出の記録」という側面を強調してみましょう。

  • 「お母さんの若い頃の話、もっとたくさん聞いてみたいな。忘れないように、エンディングノートっていうのに一緒に書いてみない?人生のアルバムみたいで、楽しそうじゃない?」
  • 「もしもの時、お父さんの好きな曲でお見送りしたいからさ。好きな音楽とか、大切にしてる思い出とか、そういうのをノートに書いておいてくれると嬉しいな」

このように、親の人生そのものへの興味や敬意を示すアプローチは、心に響きやすいものです。楽しみながらエンディングノートを書いていく中で、自然と財産のことや将来のことが話題にのぼるかもしれません。それが、遺言へのスムーズな橋渡しとなります。また、将来の死後事務のことなどを考えるきっかけにもなるでしょう。

ステップ3:本音を伝える「家族のため」という愛情のメッセージ

エンディングノートなどを通じて、ある程度、心の準備が整ってきたら、いよいよ本題です。ここで最も大切なのは、「財産が欲しいから」ではなく、「残される私たちが困らないため、家族がこれからも仲良くあり続けるため」という、愛情に基づいたメッセージをストレートに伝えることです。

あなたの真心を、正直な言葉で伝えてみてください。

  • 「お父さんの想いが分からないまま、僕たちが勝手に財産を分けることになったら、すごく悲しい。だから、お父さんの気持ちを道しるべとして遺してほしいんだ」
  • 「私たちは、お母さんがいなくなった後も、ずっと仲の良い兄弟でいたい。そのためにも、お母さんの言葉で、みんなが納得できる形を示しておいてもらえると、本当に心強いんだ」
  • 「これは、私たちのわがままかもしれないけど…。残された家族の負担を少しでも軽くしてほしい。それが、一番の願いなんだ」

親を敬い、その意思を尊重したいという気持ちと、家族の未来を心から案じているという気持ち。この二つを誠実に伝えることが、「財産目当て」という最大の誤解を避ける、何よりの防御策となるのです。

これだけは避けたい!親子関係を損なうNGな伝え方

良かれと思って取った行動が、かえって親の心を閉ざさせてしまうこともあります。ここでは、ついやってしまいがちなNGな伝え方を3つご紹介します。なぜそれがダメなのか、親御さんの気持ちになって想像しながら読んでみてください。

NG例1:いきなり財産や相続税の話から入る

最もやってはいけない、そして最もやりがちな失敗がこれです。

「この家の名義って、どうなってるの?」
「うちに相続税って、かかるのかな?」

こんな風に、お金や財産に直結する話から入ってしまうと、親は瞬時に「結局、この子はお金のことしか考えていないのか」と心を閉ざしてしまいます。たとえあなたにそんなつもりがなくても、そう受け取られてしまう危険性が非常に高いのです。
話には順番があります。まずは感情の共有から。この鉄則を忘れないでください。特に不動産が関わる相続登記と相続税申告は複雑なため、いきなり話をすると親を混乱させてしまうだけです。

NG例2:他のきょうだいや親戚と比較する

「兄さんは、ちゃんと書いておくべきだって言ってたよ」
「隣の〇〇おじさんのところは、とっくに準備してるらしいじゃない」

他人と比較されるのは、誰だって気持ちの良いものではありません。特に、長年自分のやり方で家庭を築いてきた親世代にとって、これはプライドを傷つけられる行為に他なりません。「よその家はよそうち。うちはうちだ!」と、かえって頑なになってしまうだけです。たとえ他の兄弟と意見が一致していても、それを盾に親を説得しようとするのは逆効果。あくまで「私たち親子(家族)の問題」として、誠実に向き合う姿勢が大切です。

NG例3:一方的に話を進め、無理強いする

親が少しでも難色を示した途端、焦って正論をまくしたててしまう。これもよくある失敗です。

「でも、ちゃんとしないと後で困るのは僕たちなんだよ!」
「だって、法律で決まってるんだから!」

正論は、時に人を追い詰めます。反論するのではなく、まずは「そっか、今はそういう気持ちなんだね」「縁起でもないって思う気持ちも分かるよ」と、一度親の感情をまるごと受け止めてあげてください。傾聴と受容の姿勢が、相手の心を開く鍵となります。相続の話は、一度で全てを決めようとする必要はありません。時間をかけて、ゆっくり進めていけばいいのです。

【司法書士の視点】もし話がこじれてしまったら

ここまで心理的なアプローチを中心にお話ししてきましたが、万が一のケースについても触れておきたいと思います。良かれと思ってしたことが、思わぬトラブルを招いてしまうこともあるのです。

親に遺言の話をする際のNG例の図解。財産の話から入る、他人と比較する、無理強いする、という3つのやってはいけないこと。

事例:良かれと思って…兄弟が別々に頼んだ結果、遺言が2通!?

これは実際にあったご相談に近いケースです。あまり仲の良くないご兄弟が、それぞれ別々に「遺言を書いてほしい」と親御さんにお願いしました。お兄さんは「長男の俺に家を相続させてほしい」、弟さんは「兄弟で平等に分けてほしい」と、それぞれ自分に都合の良い内容を伝えたのです。

板挟みになった親御さんは、それぞれの顔を立てるために、内容の異なる2通の遺言書を作成してしまいました。さて、この場合、どうなるのでしょうか。

法律では、内容が抵触する複数の遺言書がある場合、抵触する部分については後の日付の遺言によって前の遺言が撤回されたものとみなされます(民法1023条)。しかし、日付の前後だけで、本当に親御さんの真意が反映されたと言えるでしょうか。良かれと思った行動が、かえって親御さんを深く悩ませ、新たな争いの火種を作ってしまったのです。この事例は、遺言が必要なケースにおいて、兄弟姉妹間での事前のすり合わせがいかに重要かを示しています。

一度立ち止まる勇気と専門家への相談

もし、親御さんとの話し合いがうまくいかなかったり、兄弟間で意見が対立してしまったりした場合は、無理に当事者だけで解決しようとしないでください。一度「立ち止まる勇気」も必要です。

そんな時は、私たち司法書士のような客観的な第三者に相談することも、有効な選択肢の一つです。専門家が間に入ることで、感情的な対立が整理され、法的な観点から何が問題なのかを冷静に把握することができます。誰に相談すればよいか迷った場合は、相続問題の相談先について解説した記事も参考にしてみてください。

私たち下北沢司法書士事務所は、法律の専門家であると同時に、ご家族の心に寄り添うパートナーでありたいと考えています。もし話がこじれてしまい、どうしていいか分からなくなってしまったら、一人で抱え込まずに、どうぞお気軽にご相談ください。
初回無料相談の問い合わせフォーム

まとめ:遺言の話は、家族の未来を想う愛情表現です

親に遺言の話を切り出すことは、決して「死」を急かすことでも、「財産」をねだることでもありません。

それは、「お父さん、お母さんが大切に築き上げてきた家族が、この先もずっと仲良く、幸せであり続けてほしい」という、あなたの心からの願いを伝える行為です。いわば、家族の未来を想う、最高の愛情表現と言えるのではないでしょうか。

この記事でご紹介したステップや言葉が、あなたの勇気を後押しできれば、これほど嬉しいことはありません。大切なご両親と、そしてご家族の未来のために、ぜひ次の一歩を踏み出してみてください。そもそも遺言書を作成すべきケースは様々ですが、その根底にあるのは家族への想いです。あなたのその温かい気持ちが、きっとご両親にも伝わるはずです。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

相続人死亡時の法定相続情報の書き方|数次・代襲相続を解説

2026-04-03

相続人が亡くなっている…法定相続情報はどう書く?【司法書士が解説】

「相続の手続きは、できるだけ自分でやってみよう」。そう思って準備を始めたものの、思わぬ壁にぶつかってしまう方は少なくありません。

以前、当事務所にご相談くださった杉並区のAさんも、そんなお一人でした。事務的な作業がお好きで、ご自身の相続手続きもご自身で進めようと、法務局で使う「法定相続情報一覧図」の作成に取り掛かりました。しかし、すぐに手が止まってしまったのです。

相続人であるはずのAさんのお兄様(Bさん)が、すでにお亡くなりになっていたからです。さらに、Bさんにはお子さんもいらっしゃいました。「亡くなった兄のことは、どう書けばいいんだろう?」「その子どもは?」。調べていくうちに、どんどん分からなくなり、「もし間違った書類を作ってしまったらどうしよう…」と、大きな不安を感じて当事務所のホームページからお問い合わせをくださいました。

あなたも今、Aさんと同じように、亡くなった相続人の記載方法で頭を悩ませていらっしゃるのではないでしょうか。ご安心ください。そのお悩みは、決して特別なことではありません。多くの方が同じポイントでつまずかれます。

この記事では、司法書士である私が、Aさんのようなお悩みを持つ方のために、以下の点を分かりやすく解説していきます。

  • 「数次相続」と「代襲相続」の決定的な違い
  • それぞれのケースで、法定相続情報一覧図をどう書けばよいのか
  • なぜ、そのような書き方をする必要があるのかという根本的な理由

この記事を読み終える頃には、頭の中のモヤモヤが晴れ、ご自身のケースで何をすべきかが明確になっているはずです。一緒に、一歩ずつ進んでいきましょう。

【結論】カギは死亡時期!数次相続と代襲相続の違い

法定相続情報一覧図の書き方で迷ったとき、最も重要なポイントはたった一つです。それは「亡くなった相続人が、今回の相続の始まりである被相続人より『後』に亡くなったか、それとも『前』に亡くなっていたか」という死亡時期の順番です。

このシンプルな違いが、手続きを「数次相続(すうじそうぞく)」と「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という、まったく異なる2つの道に分けるのです。

数次相続と代襲相続の違いを比較する図解。被相続人の死亡後に相続人が亡くなるのが数次相続、前に亡くなるのが代襲相続であることを示している。

まずはこの大原則を理解することが、混乱から抜け出す一番の近道です。それぞれのケースについて、もう少し詳しく見ていきましょう。法定相続情報証明制度の全体像については、別の記事で体系的に解説していますので、そちらもご参照ください。

数次相続:相続発生「後」に相続人が亡くなったケース

数次相続とは、被相続人が亡くなって相続が開始した「後」に、遺産分割協議などが終わらないうちに相続人の誰かも亡くなってしまい、次の相続が始まってしまう状況を指します。

例えば、「お父さんが亡くなり(一次相続)、その遺産分割の話がまとまらないうちに、相続人であるお母さんも亡くなってしまった(二次相続)」というようなケースです。相続が数珠つなぎに発生していくイメージですね。

ここで大切な原則があります。法定相続情報一覧図は、あくまで「被相続人が亡くなった“時点”での相続関係を証明する」ための書類である、ということです。

お父さんが亡くなった時点では、お母さんはご存命で、間違いなく相続人の一人でした。ですから、お父さんの法定相続情報一覧図には、後から亡くなったお母さんもしっかりと相続人として記載する必要があるのです。これが、数次相続における書き方の基本ロジックとなります。場合によっては、数次相続で相続放棄をした方が、別の相続で再び相続人になるという複雑な状況も起こり得ます。

代襲相続:相続発生「前」に相続人が亡くなっていたケース

一方、代襲相続とは、被相続人が亡くなるより「前」に、相続人となるはずだった子や兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合に、その人の子ども(被相続人から見れば孫や甥・姪)が代わりに相続人になる制度のことです。

例えば、「おじいさんが亡くなったが、相続人であるはずのお父さんは、それよりも前に亡くなっていた」というケースがこれにあたります。

この場合、相続が開始した時点(おじいさんの死亡時)で、お父さんはすでにお亡くなりになっています。つまり、お父さんは“相続人ではない”のです。そのため、おじいさんの法定相続情報一覧図に、お父さんの名前が相続人として記載されることはありません。

その代わりに、お父さんの相続権を引き継いだ子ども、つまりおじいさんから見た孫が相続人として一覧図に記載されることになります。これが代襲相続です。

「相続が始まった時に生きていたかどうか」。この一点が、記載の有無を分ける大きな違いなのです。

【ケース別】法定相続情報一覧図の具体的な書き方と記載例

それでは、理論がわかったところで、数次相続と代襲相続、それぞれのケースにおける法定相続情報一覧図の具体的な書き方を見ていきましょう。ご自身の状況と照らし合わせながら、確認してみてください。

数次相続の場合:亡くなった相続人もそのまま記載する

数次相続のケースでは、法定相続情報一覧図の書き方は比較的シンプルです。一番最初に確認すべきことは、被相続人より先に亡くなっているか、後に亡くなっているかです。後に亡くなっている場合は数次相続となり、法定相続情報一覧図には亡くなった方の情報を記載します。

ポイントは、被相続人が亡くなった後に亡くなった相続人も、他の存命の相続人と同じように「氏名」「生年月日」「続柄」を記載するという点です。通常、亡くなった方の欄に「(死亡)」と書いたり、死亡年月日を記載したりはしません。

数次相続における法定相続情報一覧図の記載例。被相続人の死亡後に亡くなった妻も、存命の長男と同様に相続人として記載されている。

なぜなら、先ほども触れたように、法定相続情報一覧図は「被相続人の死亡時点」の相続関係を証明するものだからです。その時点では相続人全員がご存命だったので、そのまま記載するのが正しい方法となります。

ここで、非常に重要な注意点があります。それは、「この一覧図を見るだけでは、記載されている相続人が今、ご存命なのか亡くなっているのかは判断できない」ということです。亡くなっている相続人も、ご存命の相続人も、一覧図上では全く同じように表記されるからです。

そのため、金融機関などで手続きをする際には、亡くなった相続人については、その方が亡くなった事実を証明するために、別途その方の死亡が記載された戸籍謄本などが必要になります。あるいは、その亡くなった相続人を「被相続人」とする、もう一つの法定相続情報一覧図を作成して証明することになります。これが、数次相続の手続きが複雑になる大きな理由の一つです。場合によっては、相続人全員の合意を証明するために遺産分割協議証明書という形式をとることもあります。

代襲相続の場合:「被代襲者」と記載し、代襲相続人を書く

代襲相続のケースでは、少し特殊な書き方をします。被相続人より先に亡くなっている場合、その方は相続発生前に亡くなっているので、そもそも相続人ではありません。そのため、法定相続情報一覧図には「相続人」としては記載せず、「被代襲者」として表示します。

具体的には、被相続人より先に亡くなった相続人(子など)の欄には氏名を書かず、代わりに「被代襲者(〇〇 死亡)」と記載します。〇〇には、先に亡くなった方の氏名を記入します。そして、その線の下に、代わりに相続人となる子ども(被相続人の孫など)の情報を通常通り記載します。

代襲相続における法定相続情報一覧図の記載例。被相続人より先に亡くなった長男は「被代襲者」と記載され、その子供である孫が「代襲者」として記載されている。

なぜ氏名を書かないのかといえば、相続が始まった時点ですでに亡くなっており、「相続人」ではないからです。そして、なぜその子どもが記載されるのかといえば、親の権利を引き継いで「代襲相続人」として相続する権利があるからです。

数次相続の記載例と見比べていただくと、その違いがはっきりとお分かりいただけるかと思います。孫が相続人となるケースでは、この書き方をしっかりと覚えておきましょう。

より詳しい様式や記載例については、法務局のウェブサイトも参考になります。

参照:主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例 – 法務局

数次相続が大変な理由|なぜ専門家への相談を勧めるのか

ここまでお読みいただき、代襲相続に比べて数次相続の手続きが複雑そうだと感じられたかもしれません。その通りで、数次相続はご自身で進めるには非常に大変なケースが多いのが実情です。

単に「複雑です」と言うだけでは分かりにくいので、具体的に何が大変なのかを挙げさせていただきます。

  • 必要な戸籍謄本の数が爆発的に増える
    一次相続の被相続人の出生から死亡までの戸籍に加え、二次相続の被相続人(亡くなった相続人)の出生から死亡までの戸籍も必要になります。戸籍を集めるだけでも、膨大な時間と手間がかかります。
  • 相続人の数が増え、関係性も疎遠になりがち
    一次相続の相続人に加え、二次相続の相続人(例:おじ・おば、いとこなど)も話し合いに参加する必要があります。普段付き合いのない遠い親戚と遺産分割というデリケートな話し合いをまとめるのは、精神的に大きな負担となります。時には、戸籍調査で知らない相続人が発覚するケースも少なくありません。
  • 遺産分割協議が難航する
    相続人が増えれば、それだけ意見の調整が難しくなります。誰がどの財産を相続するのか、全員の合意を取り付けるのは至難の業です。
  • 被相続人ごとに法定相続情報一覧図が必要になることも
    先述の通り、手続きをスムーズに進めるためには、一次相続の被相続人の一覧図と、二次相続の被相続人の一覧図、それぞれを作成する必要が出てくる場合があります。

これらの膨大な作業と精神的なストレスを考えると、数次相続が発生している場合は、お早めに専門家である司法書士にご相談いただくことを強くお勧めします。

ご自身で挑戦した経験は無駄になりません【司法書士からのメッセージ】

ここまで読み進めてくださったあなたは、きっとご自身でなんとかしようと、一生懸命に情報を集め、手続きに挑戦されたことと思います。その結果、この記事にたどり着かれたのかもしれません。

「難しくて、結局専門家に頼むことになってしまった…」と、もし少しでも残念に思われているとしたら、そんな風に思う必要は全くありません。むしろ、一度ご自身で法定相続情報一覧図を作ろうと試みたそのご経験は、私たち司法書士にご相談いただく際に、この上なく貴重なものになるのです。

なぜなら、手続きの難しさや、どこでつまずいたのかを身をもって体験されているからです。そのご経験があるからこそ、私たちが専門的なご説明をしたときにも、「ああ、あの複雑な部分のことか」と、すんなりとご理解いただけます。話の飲み込みが格段に早くなり、よりスムーズに、そして納得感を持って手続きを進めていくことができるのです。

あなたの努力は、決して無駄ではありません。それは、問題をより深く理解するための大切なプロセスだったのです。

下北沢司法書士事務所は、単に手続きを代行するだけではありません。ご相談者様がこれまで抱えてこられた不安や、ご自身で頑張ってこられたお気持ちをしっかりと受け止め、尊重することを大切にしています。代表司法書士は心理カウンセラーの資格も有しており、法律的な問題だけでなく、手続きを進める中での心の負担にも寄り添える事務所でありたいと願っています。

もし、少しでも「一人で進めるのは限界かもしれない」と感じられたら、どうかその頑張りを認め、私たち専門家を頼ってください。あなたのその経験を力に変えて、最善の解決策を一緒に見つけていきましょう。エリアも東京23区だけでなく、首都圏に対応しています。エリアに対する考え方はこちら↓

相続手続きは遠方の司法書士に依頼できる?全国対応の現実 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

いつでもお気軽に、電話やお問合せフォームでご相談ください。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

戸籍調査で知らない兄弟が発覚!司法書士が語る相続事例

2026-03-19

戸籍調査で知らない兄弟が…司法書士が体験した相続の現場

「戸籍を調べてみたら、全く知らない兄弟がいることがわかったんです…」

まるでドラマのような話ですが、これは相続の現場では時々は経験します。司法書士として相続のお手伝いをしていると、依頼者様も知らない兄弟がいることが調査により分かる経験をするものです。もし今、あなたが同じような状況で、大きな衝撃と不安を感じているとしたら、それは決してあなただけではないということを、まずはお伝えさせてください。

私たち専門家が戸籍を調査し、ご依頼者様も知らなかったご家族の歴史が明らかになることがあります。例えば、こんなケースがありました。

  • 亡くなったお父様に離婚歴があること自体、ご家族が誰も知らなかったケース。
    戸籍を遡っていくと、離婚の事実、そして前の配偶者との間にお子さんがいることが判明しました。ご依頼者様にとっては、お父様の過去と、会ったことのない兄弟の存在が同時に発覚し、言葉を失っていらっしゃいました。
  • 離婚歴は知っていたけれど、お子さんがいるとは聞かされていなかったケース。
    この場合、ご依頼者様も「もしかしたら…」という予感があったようで、ご報告した際には「ああ、やっぱりそうでしたか」と、どこか覚悟を決めたような、落ち着いた反応をされていたのが印象的でした。
  • ご自身の兄弟が、実はお母様の連れ子で、父親が違っていたケース。
    これも、ご依頼者様が全くご存知なかった事実でした。長年家族として過ごしてきた歴史の裏側を知り、複雑な表情をされていました。

こうした事実を発見した時、司法書士はご依頼者様にどうお伝えすべきか、いつも深く悩みます。

ビジネスの場では「結論から話せ」と言われますが、ご家族の歴史に関わる、これほどデリケートな問題をそのように報告するのは、あまりにも配慮がなさすぎるのではないか。電話でお伝えすべきか、直接お会いすべきか、それともまずはメールで心の準備をしていただく時間を作るべきか…。

戸籍謄本を前に、依頼者への伝え方に悩む司法書士の真剣な横顔。

私は話が上手なタイプではないので、声のトーンや言葉の選び方の間違いでご依頼者様のショックが大きくならないよう、慎重に言葉を選べるメールでご報告することが多いです。「重大な事実が分かりました。申し上げにくいことなのですが…」と前置きし、「相続人の方がもうお一方いらっしゃることが判明しました」と続け、詳細を記していきます。しかし、こんなに大切な話をメールでお伝えして本当に良いのか、今でも自問自答を続けています。

この仕事は、単なる手続きの代行ではありません。ご家族の歴史と、そこに生きる人々の感情に触れる仕事なのだと、常に心に刻んでいます。

「知らない兄弟」にも相続権はある?法律上の厳しい現実

新たな相続人の発見は、相続手続きを進める上でも大きな影響があります。

戸籍上で親子関係が認められる限り、あなたが会ったことのない兄弟にも、あなたと全く同じ相続権があります。

法律の世界では、亡くなった方(被相続人)のお子さんであれば、婚姻関係にある配偶者から生まれた子(嫡出子)も、そうでない子(非嫡出子)も、相続における権利は平等です。重要なのは、法律上の親子関係、特に父親との関係でいえば「認知」されているかどうかという点になります。

かつては非嫡出子の相続分は嫡出子の半分とされていましたが、最高裁決定と法改正を受け、現在は嫡出子・非嫡出子で法定相続分の区別はありません。つまり、戸籍調査で判明した異母・異父兄弟は、あなたと全く同じ割合で財産を受け取る権利を持っている、これが法律上のルールです。

参照:法務省「民法の一部が改正されました」

なぜ戸籍調査で初めて分かるのか?その仕組み

「なぜ、今まで誰も知らなかったんだろう?」と不思議に思うのも当然です。その理由は、戸籍の仕組みにあります。

結婚や他の市区町村への引っ越し(転籍)などで新しい戸籍が作られると、その前の戸籍に書かれていた離婚や認知といった情報の一部は、新しい戸籍には引き継がれないことがあるのです。

普段、私たちが目にするのは最新の戸籍だけです。しかし、相続手続きでは、亡くなった方の「生まれてから亡くなるまで」の全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)を遡って取得する必要があります。この一連の戸籍を丹念に読み解くことで、これまで誰も知らなかった家族の歴史が明らかになるのです。

ですから、あなたが知らなかったのは無理もないこと。この事実が明らかになったのは、あなたがきちんと法に則って手続きを進めようとしている証拠でもあるのです。

遺産分割協議は相続人全員の参加が絶対条件

遺産分割協議は相続人全員の参加が必須であることを示す図解。全員の合意があって初めて有効になり、一人でも欠けると無効になることが視覚的にわかる。

相続手続きの核心ともいえるのが「遺産分割協議」です。これは、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを、相続人全員で話し合って決める手続きです。

ここで最も重要なルールがあります。それは、「遺産分割協議は、相続人全員の参加がなければ無効になる」という絶対的な原則です。

たとえ何十年も会っていなくても、全く面識がなくても、法律上の相続人である以上、その方を除外して行った話し合いは法的に全く意味を持ちません。銀行は口座を解約してくれませんし、法務局も不動産の名義変更(相続登記)を受け付けてはくれません。なぜなら、遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印する必要があるからです。

この問題から、目をそらすことはできないのです。まずはこの厳しい現実を受け止め、次の一歩をどう踏み出すかを冷静に考える必要があります。このテーマの全体像については、遺産分割協議(全員合意の原則)で体系的に解説しています。

問題を放置するとどうなる?考えられる最悪のシナリオ

「今は考えたくない」「そのうち何とかなるだろう」…そう思ってしまうお気持ちは、痛いほど分かります。しかし、この問題を先送りにすると、状況はより複雑で困難なものになってしまう可能性が高いのです。

具体的には、以下のような事態が考えられます。

  • 預貯金が凍結されたまま引き出せない
    銀行口座は相続開始後に凍結されるのが一般的ですが、遺産分割前でも相続人が単独で一定額の払戻しを受けられる制度(いわゆる預貯金の仮払い制度)があります。ただし、残額の払戻しや解約などは、原則として相続人全員の合意が必要になります。そのため、葬儀費用や入院費用の支払いに困るケースもあります。
  • 不動産が「塩漬け」状態になる
    誰も住んでいない実家を売却したくても、相続人全員の合意がなければ売ることも、貸すことも、取り壊すこともできません。活用できないまま、管理の手間とコストだけがかかり続けます。
  • 固定資産税の支払い義務だけが続く
    不動産が活用できなくても、固定資産税の納税通知書は毎年届きます。相続人の誰かが代表して支払い続けるか、あるいは滞納してしまい、最終的に差し押さえられてしまうリスクもあります。
  • 時間が経つほど、関係者が増えていく
    もし、会ったことのない兄弟が亡くなってしまうと、今度はその方のお子さん(あなたにとっては甥や姪)が相続人となります(代襲相続)。関係者がネズミ算式に増え、話し合いはさらに困難を極めることになるでしょう。

時間が解決してくれることはなく、むしろ問題をより根深く、複雑にしてしまいます。特に不動産の相続登記は義務化されており、放置し続けることのデメリットは計り知れません。「今、行動を起こさなければ」と、少しだけ勇気を出していただくことが、未来のあなた自身を助けることに繋がるのです。

【実践編】面識のない兄弟との相続、どう進める?

では、具体的にどう行動すれば良いのでしょうか。感情的になって突然連絡を取るようなことは、かえって事態をこじらせてしまいます。法的な手続きに則って、一歩ずつ慎重に進めることが何よりも大切です。

ステップ1:まずは相手の情報を正確に把握する(戸籍の附票)

最初に行うべきは、相手の現在の状況を正確に知ることです。感情的な行動は禁物。まずは冷静に、事務的に情報を集めましょう。

戸籍謄本が取得できていれば、相手の方の本籍地が分かります。その本籍地の役所で「戸籍の附票(ふひょう)」という書類を取り寄せます。これには、その戸籍が作られてからの住所の履歴(および附票に記載されている最新の住所)が記録されているため、相手方の直近の住所を把握する手がかりになります。

ステップ2:最初の連絡は「手紙」が鉄則。その注意点とは

相手の住所がわかっても、いきなり電話をかけたり、訪問したりするのは絶対に避けるべきです。突然の連絡は、相手に強い警戒心や不信感を抱かせてしまい、その後の話し合いを困難にする原因になりかねません。

このようなケースでの最初の接触は、丁寧な手紙を送るのが鉄則です。特に、司法書士など第三者の専門家から、中立的な立場で事実を伝える手紙を送るのが最も穏便な方法です。

手紙には、以下の内容を簡潔に、そして事務的に記載します。

  • 誰が亡くなり、相続が発生したという事実
  • あなたが相続人の一人であること
  • 相手の方も相続人であることが戸籍で判明したこと
  • 遺産分割協議を進めるために、一度お話合いをさせていただきたい旨のお願い

ここでのポイントは、感情的な言葉や、こちらの要求を押し付けるような表現を一切使わないことです。相手にも心の準備をする時間を与え、冷静な対話のテーブルについてもらうことが目的です。この疎遠な相続人とのやりとりは、非常に精神的な負担が大きいプロセスですが、ここを丁寧に行うことが円満解決の鍵となります。

ステップ3:遺産分割の話し合いと合意形成

相手方と連絡が取れ、話し合いの準備が整ったら、いよいよ遺産分割協議に進みます。ここでも、焦りは禁物です。

まずは、相手の方がどのようなお考えを持っているのか、何を望んでいるのかを丁寧にヒアリングすることが大切です。相手にも、突然知らされた事実に対する戸惑いや感情があるはずです。その気持ちを無視して、こちらの都合だけで話を進めようとすれば、関係はすぐにこじれてしまうでしょう。

話し合いの基本は、法律で定められた「法定相続分」です。その上で、お互いが納得できる着地点を探っていきます。例えば、

  • 不動産をあなたが相続する代わりに、相手には相当額の現金(代償金)を支払う「代償分割」
  • 不動産を売却して現金化し、そのお金を相続分に応じて分ける「換価分割」

といった具体的な方法があります。特に多数の相続人がいる不動産の売却では、換価分割が公平な解決策となり得ます。

しかし、自分は両親と暮らせなかった兄弟姉妹が、あなたに対して複雑な感情を抱くことも考えられます。公平な第三者である専門家が間に入ることで、お互いの主張を整理し、冷静な話し合いを通じてスムーズな合意形成を目指すことができます。

一人で抱えないで。司法書士があなたの「心」と「手続き」に寄り添います

相談者の不安な気持ちに優しく寄り添い、耳を傾ける司法書士との無料相談の様子。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。戸籍調査で知らない兄弟の存在が発覚するということは、法的な手続きが複雑になるだけでなく、あなたの心にも大きな負担をかける、本当に大変な出来事です。

法的なルールは厳格で、手続きは複雑。そして、会ったことのない相手と、ご家族の歴史や財産について話し合わなければならない精神的なストレスは、計り知れないものがあるでしょう。この問題を、たった一人で乗り越えるのは、あまりにも過酷です。

私たち下北沢司法書士事務所は、単に法律に則って手続きを代行するだけの存在ではありません。ご依頼者様が抱える不安や衝撃、戸惑いといった「心」に、何よりもまず寄り添いたいと考えています。

当事務所の代表司法書士は、法律家であると同時に、心理カウンセラーの資格も有しています。これは、「法律」と「心理」の両面から、あなたの状況を深く理解し、サポートしたいという強い想いの表れです。難しい法律の話を一方的にするのではなく、まずあなたの「気になっていること」をじっくりお伺いすることから始めます。

相続手続きは、時に難しい人との対応が求められることもあります。そんな時でも、私たちはあなたの味方として、冷静かつ粘り強く交渉にあたります。

一人で悩みを抱え込まず、まずはその胸の内をお聞かせいただけませんか。「何から話せばいいか分からない」という状態でも全く問題ありません。お話を伺いながら、情報を整理し、あなたにとって最善の道筋を一緒に見つけていくのが私たちの仕事です。

エリアも事務所のある東京だけでなく、首都圏のご相談に対応しております。

相続手続きは遠方の司法書士に依頼できる?全国対応の現実 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

まずやることは電話やメールをするだけ。うまく話す必要もありません。ぜひお問合せ下さい。

無料相談のお問い合わせ

下北沢司法書士事務所 竹内友章

« Older Entries

トップへ戻る

0368055496電話番号リンク 問い合わせバナー