遺言執行者が協力しない!相続登記を自分で進める方法と注意点

遺言執行者が協力しない…お困りではありませんか?

「遺言で不動産を相続できるはずなのに、遺言執行者に指定された兄弟がまったく動いてくれない…」
「連絡しても返事がなく、どうやって相続登記を進めたらいいのか分からない…」

大切なご家族が遺してくれた遺言。その実現を託されたはずの遺言執行者が協力的でないために、手続きが止まってしまい、時間だけが経過してしまう。そんな状況に、強い不安や焦り、ときには憤りさえ感じていらっしゃるのではないでしょうか。

ご安心ください。遺言の内容や相続関係によっては、遺言執行者の協力がなくても進められる手続きがあります。

この記事では、東京や首都圏で10年にわたり、複雑な人間関係が絡む相続のお悩みをじっくりと伺い、数多くの相続登記を完了させてきた司法書士が、具体的な解決策を丁寧に解説します。この記事では、現在の状況で検討すべき手続きや対応の進め方を整理して解説します。

結論:遺言執行者がいても相続人自身で相続登記はできる

まず、最も知りたい結論からお伝えします。遺言の内容が「特定の不動産を、特定の相続人に相続させる」という趣旨のものであれば、原則として、その不動産を取得する相続人が単独で相続登記を申請することが可能です。

これは「特定財産承継遺言」と呼ばれる形式の遺言の場合で、遺言の効力が発生した時点(被相続人が亡くなった時点)で、不動産の所有権は遺言執行者の関与なくして相続人に移ると考えられているためです。つまり、遺言執行者の協力やハンコがなくても、法務局での手続きは進められるのです。

遺言の内容が特定財産承継遺言に当たる場合は、遺言執行者の対応を待たずに相続登記を検討できます。

参照:法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ」

自分で相続登記を進めるための具体的な手順と必要書類

では、ご自身で相続登記を進める場合、どのような手順を踏むのでしょうか。大まかな流れは以下の4ステップです。

  1. 遺言書の準備
    公正証書遺言であればその謄本、自筆証書遺言であれば、家庭裁判所で「検認」を受けたものを準備します。ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管されている遺言書については、検認は不要です。
  2. 必要書類の収集
    主に以下の書類が必要です。
    • 被相続人(亡くなった方)の死亡の事実が記載された戸籍謄本
    • 不動産を取得する相続人の現在の戸籍謄本
    • 不動産を取得する相続人の住民票
    • 不動産の固定資産評価証明書
  3. 登記申請書の作成
    法務局のウェブサイトにある雛形などを参考に、登記の目的(所有権移転)、原因(相続)、相続人の情報、不動産の情報などを正確に記載します。
  4. 法務局への申請
    不動産の所在地を管轄する法務局へ、作成した申請書と収集した必要書類一式を提出します。この際、登録免許税(固定資産評価額の0.4%)の納付も必要です。

このように、ご自身で進めることは可能ですが、戸籍の収集範囲の判断や、申請書の専門的な記述、登記漏れがないかの不動産調査など、専門的な知識が求められる場面も少なくありません。

注意点:遺言執行者への事前連絡は必要か?

法的に単独で申請できるとはいえ、遺言執行者を完全に無視して手続きを進めることは、あまりお勧めできません。特に遺言執行者が他の相続人(ご兄弟など)である場合、後々の人間関係に思わぬ亀裂を生じさせる可能性があります。

相手方からすれば、「頼まれてもいないのに勝手に手続きを進めた」「自分の役割を無視された」と感じ、感情的なしこりを残すかもしれません。

そこで、穏便に進めるための一つの工夫として、「これから自分で相続登記の手続きを進めます」という旨を、一言伝えておくことをお勧めします。これは許可を求めるのではなく、あくまで報告です。事後報告でも構いません。簡単な手紙やメッセージで簡潔に伝えるだけでも、相手の受け取り方は大きく変わるものです。法律上の手続きだけでなく、人間関係に配慮した連絡を行うことで、相続人間のトラブルを抑えやすくなります。

遺言執行者が協力してくれない問題について、司法書士に相談している女性の様子。専門家が親身に話を聞いている。

【実例紹介】姉が遺言執行者なのに、相続登記が進まなかったケース

先日、江東区にお住まいのAさんから、当事務所のホームページを見てご相談をいただきました。亡くなったお母様が遺言を残されており、Aさんは不動産の一つを相続することになっていました。しかし、そこには一つの問題がありました。

遺言執行者にはAさんのお姉様が指定されていたのです。

Aさんは、こう胸の内を明かしてくださいました。
「遺言執行者の姉には早く相続登記をしてくれるよう頼んでいますが、なかなか進みません。姉は昔からこういう手続きが苦手ですし、興味もあまりないというか無頓着なんです。私は宙ぶらりんの状態が気になって仕方のないタイプなんですが…。生前に母から遺言の内容は聞いていたので、姉が遺言執行者になっていることに嫌な予感はしてたのですが、やはりこうなりました。」

このようなご相談は、決して珍しいことではありません。遺言執行者と仲が悪いケースもあれば、仲は良くてもペースが合わない、というケースもあります。

私はAさんにお伝えしました。
「この遺言には、Aさんが不動産の取得者であることがきちんと書かれていますね。公正証書遺言の謄本もお持ちですので、これがあれば私の方で相続登記を進めることができますよ」

そして、こう付け加えました。
「ただ、お姉様に頼まずに進めるのでしたら、一言お姉さんにも伝えておいた方がいいですね。いくら自分の不動産だからと言って黙って進めると、お姉様も顔をつぶされた気分になってしまうかもしれません。司法書士に頼んで進めることにした、と簡単に伝えておくだけで、全然違いますよ。」

Aさんは安心された表情でこうおっしゃいました。
「ありがとうございます。そうした人間関係の助言もいただけそうだったので、先生に相談しました。」

その後、手続きはスムーズに進み、無事にAさん名義への相続登記を完了することができました。この事例のように、相続問題では、法的な手続きと感情面への配慮の両方を踏まえて対応することが重要です。

遺言執行者が協力しない場合の3つの対処ステップ

ご自身で登記申請ができるとはいえ、預貯金の解約など他の相続手続きで遺言執行者の協力が不可欠な場合や、相手の非協力的な態度にどうしても納得がいかない場合もあるでしょう。その際は、感情的になるのではなく、以下の3つのステップを冷静に検討することをお勧めします。ここまでする必要があるケースは少ないと思いますが、知識として知っておくと安心です。

遺言執行者が協力しない場合の3つの対処ステップ。ステップ1:内容証明郵便で催告、ステップ2:家庭裁判所に解任申立て、ステップ3:新しい遺言執行者の選任申立て。

ステップ1:内容証明郵便で正式に履行を催告する

最初の手段として、遺言執行者に対し「遺言執行者としての任務を果たすよう求める」旨を記載した書面を、内容証明郵便で送付します。これは「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるサービスです。

単なる手紙とは異なり、法的な意思表示としての重みを持ちます。「いつまでに、何をしてほしいのか」を明確に記載することで、相手に心理的なプレッシャーを与え、行動を促す効果が期待できます。また、この催告書は、万が一、次のステップである「解任申立て」に進む際に、相手が任務を怠っていたことを示す重要な証拠にもなります。

より具体的な郵送方法の選び方については、相続人への連絡に使う郵送方法をご覧ください。

ステップ2:家庭裁判所に遺言執行者の解任を申し立てる

催告してもなお遺言執行者が動かない、あるいは連絡すら取れない場合、家庭裁判所に対して「遺言執行者解任申立」を行うことができます。解任が認められるには、「正当な事由」が必要です。具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 正当な理由なく、遺言執行の任務を怠っている(任務懈怠)
  • 特定の相続人に不当に利益または不利益を与えようとするなど、任務に反する行為をした
  • 病気や長期の不在などで、任務の遂行が困難になった

申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。この手続きは専門的な知識を要するため、ご自身で進めるのが難しいと感じる場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

参照:民法第1019条「遺言執行者の解任及び辞任」

ステップ3:新しい遺言執行者の選任を申し立てる

遺言執行者を解任しただけでは、手続きは進みません。解任と同時に、または解任後に、家庭裁判所に新しい遺言執行者の選任を申し立てる必要があります。

この際、候補者として司法書士などの専門家を立てることができます。専門家が遺言執行者に就任することで、中立的な立場から円滑な手続きが期待でき、相続人間の無用な対立を避けることにも繋がります。問題の整理を進め、精神的な負担を軽減するための有力な選択肢となる場合があります。

手続きを放置するリスク|相続登記義務化で過料の可能性も

「そのうち動いてくれるだろう」と考えて対応を先送りにすると、不利益が生じる可能性があります。なぜなら、あなたにとって多くのデメリットが生じるからです。

最も大きなリスクは、相続登記の義務化です。2024年4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に、正当な理由なく相続登記を申請しない場合、10万円以下の過料が科されることになりました。

「遺言執行者が協力してくれない」という理由が、この「正当な理由」に必ずしも該当するとは限りません。自ら登記申請できる道がある以上、登記を怠った責任を問われる可能性は否定できないのです。

その他にも、

  • 不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりできない
  • 他の相続人が亡くなるなどして二次相続が発生し、権利関係がさらに複雑化する
  • 知らぬ間に第三者に不動産を差し押さえられるリスクがある

など、放置することで状況が複雑になる可能性があります。相続登記のミスや放置は、将来の大きなトラブルにつながる可能性があります。

遺言での相続登記は専門家にご相談ください

ここまで見てきたように、遺言執行者が協力しない場合の相続登記は、ご自身で進める道もあれば、法的な手段に訴える道もあります。しかし、どの方法を選択するにしても、法律の知識だけでなく、親族間のデリケートな人間関係への配慮が不可欠です。

ご自身で手続きを進めるストレス、遺言執行者と直接対峙する精神的な負担は、決して小さなものではありません。

そんな時は、一人で抱え込まずに、私たち司法書士にご相談ください。専門家にご依頼いただくことで、

  • 戸籍収集や登記申請書の作成、法務局とのやり取りについて、必要な範囲で専門家のサポートを受けられる
  • 必要に応じて、司法書士が間に入って遺言執行者への連絡調整を行うこともできる
  • 法的な手続きと感情面への配慮の両方から、状況に応じた解決策を提案できる

といったメリットがあります。何より、手続きの煩わしさや精神的な負担を軽減し、落ち着いて対応しやすくなります。

下北沢司法書士事務所では、初回のご相談は無料で承っております。具体的な料金についても、ご依頼いただく前に必ずお見積りを提示いたしますので、ご安心ください。早めに相談することで、現在の状況に応じた対応方針を整理しやすくなります。まずはお気軽にお気持ちをお聞かせください。

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