遺産分割協議は可能?認知症の判断基準を司法書士が解説

ご家族の認知能力に不安がある場合の遺産分割協議の注意点

「最近、親の物忘れが気になるけれど、話し合いはまだできるはず…」「相続の話を進めたいけど、うちの親は本当に内容を理解できているだろうか?」ご家族の認知能力に少しでも不安を感じながら、遺産分割協議を前にして、このように悩んでいる方は少なくありません。

インターネットで調べると、「認知症の人は遺産分割協議ができず、成年後見制度が必要」と出てきますが、認知症といっても程度は様々。果たしてどの程度までなら大丈夫なのか。

今日は認知症と遺産分割協議をテーマに、世田谷から相続の現場で課題解決してきた司法書士があなたにお話しさせていただきます。

ご家族が亡くなった後は、相続手続きを進める必要があります。その中心となるのが、相続人全員での「遺産分割協議」です。しかし、この協議に参加するご家族の中に一人でも認知能力に不安がある方がいると、遺産分割協議の有効性や、その後の相続手続きに支障が生じることがあります。

「まあ、まだ大丈夫だろう」という安易な判断で話し合いを進めてしまうと、せっかくまとまったはずの協議が、後から「無効」だと判断され、協議をやり直す必要が生じる可能性があるのです。

そうなれば、預貯金の解約や不動産の名義変更といった手続きが何年もストップし、ご家族の関係にまで亀裂が入りかねません。特に、高齢の親からその子どもへ、さらにその子どもへと世代をまたぐ老老相続では、こうした問題がより深刻になりがちです。

この記事では、そうしたトラブルを避けるため、どのような場合に遺産分割協議が可能で、どこからが危険なラインなのか、その判断基準を司法書士の視点から具体的にお伝えします。ご家族の未来を守るための大切な知識です。ぜひ、最後までお読みください。

【司法書士の私見】遺産分割協議が可能かの判断基準5つ

「共同相続人の中に認知症の人がいると遺産分割協議が無効」「認知症の人が遺産分割協議をするには成年後見制度の利用が必要」相続が発生した人は、このような知識に触れることがあるかも知れません。確かにその通りではあるのですが、実際に皆様が自分のケースにあてはまると非常にとまどう部分も出るかも知れません。自分の親は確かに最近物忘れが激しかったり同じ話を繰り返すことが増えたがこれは認知症なのかどうなのか・・・叔父さんや叔母さんの相続が発生し、存命の叔父・叔母の認知能力はどうなのか。現実問題として成年後見制度の利用は大変だし時間もかかるどうしても利用しなければいけないのか。こういう疑問がわくと思います。当事務所は、法律を杓子行儀に述べていくだけの仕事はしないように気を付けています。現実問題として目の前にある皆様の課題を解決していくことを大切にしています。どういう状態であれば遺産分割協議は可能であるか、みなさまに基準をお示しします。これは本来は誰でも見れるホームページで書くようなことではないかもしれません。この基準はあくまで私見ですし、みなさまのケースにあてはめた時問題が起きないことを保証するものではありません。具体的には必ず当事務所にご相談いただきたいのですが、参考になれば幸いです。

司法書士が解説する遺産分割協議が可能かを判断するための5つの基準を示した図解。認知症の程度、法定相続分、相続人の関係性、相続の背景、印鑑証明書の取得可否の5項目。

1.認知症の程度

まず、遺産分割協議に必要な認知能力はどの程度のものか考えていきたいと思います。基本的には、自分の住所、氏名、生年月日を言えて、ざっくりと相続の内容を理解できれば、有効に協議ができると考えます。日常生活の中で認知能力があやしいところがある、または過去と比較して衰えた雰囲気があっても上記を満たしていれば問題ないと考えます。医師の診断を受けている場合でも、その診断書の内容によっては協議を進められることもあります。

逆に、全く言葉を発することができない状態、ほぼ終日寝たきりで「うーん」などの言葉を少し話す程度の時は、基本的には成年後見制度の利用が必要でしょう。こういう状態の場合、「~月~日の時点でそういう状態であった」というのはほぼ後からでも証明できる状態と思います。入院しているか介護施設にいるでしょうし、何らかの形で記録もとられていると思います。ということは証拠があって「後から無効主張しやすい」状態でもあるので成年後見制度を利用しないで進めるのは、読者の方にとって危険と考えます。

2.法定相続分を満たしているか

これも成年後見制度を利用するか、現実問題として考える基準になってくると私は考えます。成年後見制度はそもそもが「認知症になった方等の権利を守るため」にあります。そこで、そもそもの協議の内容が法律上の権利(法定相続分)を満たしているか、遺産分割協議において法定相続分を下回る内容になるのか。これも現実問題として成年後見制度を利用するかどうかの判断基準になりえると考えます

3.共同相続人同士の関係性

共同相続人同士の仲が悪いと、誰かが遺産分割協議の内容に不満を持つかも知れません。不満を持つということは、無効主張できる材料がある場合、それを使って無効主張する危険性が高まります。これも成年後見制度を利用して無効主張させない体制を作るかどうか、考える基準になると思います。

4.相続の背景

例えばこんなケースがよくあります。子どもがいない夫婦で配偶者が亡くなった。亡くなった配偶者と遺産分割協議が必要だが、実際には配偶者が全て相続する。こういう時に財産を相続せず、単に手続きに協力するだけの兄弟姉妹に成年後見制度の利用を求めることが現実的でしょうか。成年後見制度を利用すると、選ばれた成年後見人の立場としては全部を配偶者に相続する内容の協議は、立場上かなりしづらいと思います。また、協議後に成年後見制度の利用によって大変になるのは配偶者ではなく利用した兄弟姉妹の家族です。手続きに協力を求める相手方に、成年後見制度の利用に伴う手続きや継続的な負担を求めることが現実的かどうかも検討が必要です。

5.印鑑証明書は取得できるのか

不動産の相続登記や遺産分割協議をして銀行での預貯金の払い戻しをするにあたり、印鑑証明書の提出が求められます。もともと印鑑登録していなかったり、身体的都合で印鑑証明書を取得できないなどの事情があった場合、各種の手続きを通すことができません。考える基準になると思います。

自己判断で進めた場合に起こりうる主なリスク

先ほどの判断基準を見て、「うちは大丈夫そうだ」と少し安心されたかもしれません。しかし、安易な自己判断は非常に危険です。法的な観点から見た「意思能力」の有無は、専門家でなければ正確な判断が難しい領域です。もし判断を誤ったまま手続きを進めてしまうと、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。

ここでは、問題を放置したり、自己判断で進めてしまったりした場合に起こりうる、3つの最悪のシナリオをご紹介します。こうした相続手続きの難しさを軽視すると、後で大きな後悔につながりかねません。

ケース1:他の相続人から「無効だ」と訴えられる

最も避けたいのが、親族間での争いです。遺産分割協議が一度まとまったとしても、後になって他の相続人の気が変わり、「あの時の母(父)には正常な判断能力がなかった。だから協議は無効だ」と、遺産分割協議無効確認の訴えを起こされるリスクがあります。

こうなると、時間も費用も、そして何より精神的に大きな負担を強いられる裁判へと発展してしまいます。一度は合意したはずの家族と法廷で争うことは、精神的な負担が大きい手続きになる可能性があります。特に、生前の意思確認が不十分だったために契約が無効とされた家族信託の判例もあり、本人の意思能力は極めて厳格に判断される傾向にあります。

ケース2:金融機関や法務局で手続きが止まる

相続人全員で署名・押印した遺産分割協議書を作成しても、いざ手続きに進んだ段階でストップがかかるケースも少なくありません。銀行の窓口担当者や法務局の登記官が、相続人名簿に記載されたご高齢の方の意思能力に疑問を抱き、「ご本人様の意思確認ができないと手続きは進められません」と判断することがあるのです。

特に最近は、金融機関での本人確認が厳格化しています。専門家が関与していない当事者だけの協議書では、窓口で受理を拒否され、銀行手続きが頓挫してしまうという現実的なリスクがあります。故人の口座が凍結されたまま、葬儀費用や当面の生活費を引き出せないといった事態にもなりかねません。

ケース3:相続税の特例が使えず、納税額が増える

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限内に遺産分割協議が確定していない場合、当初申告では「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を適用できません。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して申告し、原則として申告期限から3年以内に分割された場合には、後から特例の適用を受けられる可能性があります。

もし協議が無効になったり、意思能力の問題で長引いたりすると、当初申告でこれらの特例を使えず、いったん相続税の負担が大きくなる可能性があります。問題を先送りすることが、結果的に大きな金銭的損失につながる最悪のシナリオです。相続税の申告期限が迫っている状況では、特に注意が必要です。

相続手続きの書類を前に、頭を抱え悩んでいる中年の夫婦。遺産分割協議の難しさや精神的な負担を象徴している。

どうしても手続きが必要な場合の解決策「成年後見制度」とは

ここまでお読みいただき、自己判断で進めることのリスクを強く感じられたのではないでしょうか。では、判断能力が不十分な相続人がいる場合、法的に最も安全で確実な手続きは何か。その答えが「成年後見制度」です。

この制度に対して、「手続きが面倒」「費用がかかる」「家族が自由にできなくなる」といったネガティブなイメージをお持ちの方も多いかもしれません。

しかし、成年後見制度は、判断能力が不十分になったご本人の財産を守り、法的に有効な契約や手続きを進めるために国が定めた、ご本人を保護するための大切な仕組みです。この制度を利用することで、家庭裁判所が選んだ「成年後見人」がご本人に代わって遺産分割協議に参加し、財産管理を行うことができます。これにより、協議の有効性をめぐるリスクを抑えながら、法的な手続きに沿って相続手続きを進めやすくなります。他にも任意後見や家族信託といった制度もありますが、認知症が発症した後に利用できるのは基本的にこの法定後見制度となります。

より詳しい情報については、厚生労働省の成年後見制度利用促進ポータルサイトもご参照ください。
参照:法定後見制度とは(手続の流れ、費用)

成年後見制度を利用するメリットとデメリット

成年後見制度を利用するかどうかは、メリットとデメリットを正しく理解した上で慎重に判断する必要があります。

【メリット】

  • 法的に有効な遺産分割協議を進めやすくなる:後から無効を主張されるリスクを抑え、手続きを進めやすくなります。
  • 不動産の売却や預貯金の管理が可能になる:ご本人名義の不動産を売却して介護費用に充てるなど、財産を有効活用できます。成年後見制度を利用した不動産売却には家庭裁判所の許可が必要ですが、法的な手続きを踏むことで可能になります。
  • ご本人の財産が保護される:後見人が財産を管理するため、悪質な詐欺などからご本人を守ることができます。

【デメリット】

  • 申立てに手間と費用がかかる:家庭裁判所への申立てには、多くの書類作成が必要で、数万円から十数万円程度の実費がかかります。
  • 専門家が後見人に選ばれると報酬が発生する:司法書士や弁護士が後見人になると、財産額に応じて月々数万円の報酬が発生します。
  • 家族が後見人になれない場合がある:財産額が大きい、親族間に争いがあるなどのケースでは、中立的な立場の専門家が選ばれやすくなります。
  • 一度始めると原則やめられない:ご本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで制度は続きます。
  • 財産管理が厳格になる:後見人は家庭裁判所に定期的な報告義務があり、ご本人のためにならない財産の処分(例えば、相続税対策のための生前贈与など)は認められません。

申立てから遺産分割協議までの流れ

実際に成年後見制度を利用する場合、どのような流れで進むのでしょうか。大まかなステップは以下の通りです。

  1. 家庭裁判所への申立て準備:申立書、親族関係図、財産目録、本人の診断書など、必要な書類を収集・作成します。この段階で司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。
  2. 家庭裁判所での審理:申立て後、家庭裁判所の調査官が申立人や後見人候補者と面談を行います。場合によっては、本人の意思能力について医師による鑑定が行われることもあります。
  3. 後見人の選任(審判):審理が終わると、家庭裁判所が最も適任と判断した人物を成年後見人として選任する「審判」を下します。家族が候補者となっていても、確実に選ばれるとは限りません
  4. 遺産分割協議への参加:選任された成年後見人が、本人に代わって他の相続人と遺産分割協議を行います。後見人は本人の法定相続分を確保することを第一に考えるため、協議内容は法的に公平なものになります。

申立てから法定後見の開始までの期間は事案によって異なりますが、多くの場合は4か月以内とされています。相続手続きを円滑に進めるためには、早めの準備が重要です。

こんな時はどうする?印鑑証明書が取得できないケースの対処法

遺産分割協議を進める上で、具体的な問題となるのが「印鑑証明書」の取得です。相続手続きには実印と印鑑証明書が不可欠ですが、ご本人の状況によっては取得が困難な場合があります。状況別にどう対処すべきかを見ていきましょう。

判断能力はあるが、身体的に窓口へ行けない場合

意思ははっきりしているものの、入院中であったり、施設に入所していたりして、物理的に役所の窓口に行けないというケースです。この場合、成年後見制度を利用する必要はありません。

多くの市区町村では、代理人による印鑑登録申請や、委任状を使った印鑑証明書の取得が認められています。必要な書類や手続きは自治体によって異なるため、事前に電話などで確認しましょう。司法書士にご依頼いただければ、こうした外出困難な方の手続き代行も可能です。

判断能力が不十分で、本人が手続きできない場合

認知症が進行し、ご本人が印鑑登録の意味を理解できない、あるいは自署ができないといった場合は、代理人による手続きは認められません。本人の意思確認ができないためです。

このようなケースでは、成年後見制度の利用が必要です。前述の流れで家庭裁判所に申立てを行い、成年後見人を選任してもらう必要があります。選任された後見人は、本人の代理人として役所で印鑑登録の手続きを行い、印鑑証明書を取得することができるようになります。例えば、親名義の不動産に関する手続きを進める際など、判断能力の有無によって解決策が大きく変わってきます。

少しでも不安なら、まずは司法書士にご相談ください

ここまで、認知能力に不安のあるご家族がいる場合の遺産分割協議について、判断基準からリスク、具体的な解決策まで解説してきました。お読みいただいて、「思ったより複雑で、自分たちだけで判断するのは難しい」と感じられたのではないでしょうか。

その通りです。相続人の判断能力の問題は、法律的な知識だけでなく、ご家族の状況やご本人の状態を総合的に見て判断する必要がある、非常にデリケートな問題です。自己判断で進めてしまうと、後日のトラブルにつながる可能性があります。

私たち下北沢司法書士事務所は、こうしたご家族の不安に寄り添うことを何よりも大切にしています。代表司法書士は心理カウンセラーの資格も有しており、法律的な問題解決はもちろん、ご家族が抱えるお気持ちの面でもサポートさせていただきます。少しでも不安を感じたら、どうか一人で抱え込まず、私たち専門家にご相談ください。それが、ご家族全員にとって最も安全で確実な道です。

相続手続きの相談予約

当事務所が提供できるサポート内容

司法書士事務所で相談する女性。親身に話を聞く司法書士に安心した表情を見せている。

ご相談いただくことで、皆様の負担を大きく軽減できます。具体的には、以下のようなサポートを提供しています。

  • 現状の丁寧なヒアリングと法的なリスク診断:ご家族の状況を詳しくお伺いし、将来起こりうるリスクを具体的にお伝えします。
  • 成年後見制度の利用要否の判断サポート:実務経験に基づき、制度を利用すべきか、他の方法はないか、ご家族にとって最適な選択肢を一緒に考えます。
  • 複雑な手続きのサポート:成年後見の申立てから、戸籍収集、遺産分割協議書の作成、不動産や預貯金の名義変更まで、必要な確認をいただきながら煩雑な手続きを支援する遺産承継サービスもご用意しています。
  • 税理士や弁護士との連携:相続税の申告が必要な場合や、相続人間で争いが生じている場合には、信頼できる税理士や弁護士と連携してワンストップで問題解決にあたります。

ご相談から解決までの流れと費用

「専門家に相談すると、高額な費用を請求されるのでは…」というご心配は無用です。当事務所では、安心してご相談いただけるよう、透明性の高い料金体系を心がけています。

1.初回無料相談のご予約
まずはお電話かメールフォームでお気軽にお問い合わせください。ご都合の良い日時を調整いたします。

2.ご状況のヒアリングと解決策のご提案
事務所にお越しいただくか、ご自宅への出張相談も可能です。丁寧にお話を伺い、最適な解決策と手続きの流れをご説明します。

3.お見積りの提示
ご依頼いただく前に、必ず明確なお見積りを提示いたします。内容にご納得いただけないまま手続きを進めることは一切ありません。

4.業務開始・解決
ご依頼後は、私たちが責任を持って手続きを進め、定期的に進捗状況をご報告します。

相続の問題は、ご家族の事情や財産状況によって必要な対応が異なります。下北沢駅から徒歩3分、アクセスしやすい事務所で、あなたのお話をお待ちしております。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

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