「まさか自分が…」夫婦共有名義の相続で起こりがちな住所変更登記の落とし穴
「夫が亡くなり、自宅の相続手続きを進めているのですが…」
墨田区にお住まいのAさんから、ごく一般的な相続登記のご相談をいただいたときのことです。長年連れ添ったご主人様を亡くされ、ご自宅の名義をご自身のものにしたいというご依頼でした。
手続きに必要な書類をご案内するため、いつものように不動産の登記情報を確認したところ、ご自宅はAさんと亡くなったご主人様の共有名義(それぞれ持分2分の1)になっていました。このようなケースで、私たち司法書士は必ず注意深く確認するポイントがあります。それは、「相続人であるAさんご自身の登記上の住所」です。
果たして、Aさんの登記簿上の住所は、現在お住まいの住所ではなく、何十年も前に住んでいたアパートの住所のままでした。
「えっ、どうして?ずっとこの家に住んでいるのに…」
Aさんが驚かれるのも無理はありません。実はこれ、決して珍しいことではないのです。特に、住宅ローンを組んでマイホームを購入されたご夫婦に非常に多く見られるケースです。
この「住所変更登記の漏れ」を放置したまま相続登記を進めると、後々、不動産を売却しようとした際に深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。登記簿上は同じAさんのはずなのに、古い住所のAさんと新しい住所のAさん、つまり「同姓同名の別人」が家を共有しているかのような、奇妙な状態が生まれてしまうからです。
怖いのは、この状態でも相続登記自体は完了してしまうことがある点です。そして問題は、売却など次のステップに進むまで表面化しないため、まさに「忘れたころにやってくる時限爆弾」となりかねません。
この記事では、多くのご夫婦が見落としてしまう「共有名義不動産の相続における住所変更登記」という盲点について、なぜそれが起こるのか、放置するとどのようなリスクがあるのか、そして正しい手続きと費用について、専門家の視点から詳しく解説していきます。
なぜ見落とす?共有名義の相続で住所変更登記が盲点になる2つの理由
「言われてみれば、住所変更なんて考えたこともなかった」。Aさんのように、多くの方がこの問題に気づきません。それには、手続き上の背景と心理的な要因が複雑に絡み合った、2つの明確な理由が存在します。
理由1:意識が「亡くなった配偶者の持分」に集中してしまうから
相続手続きの主役は、あくまで「亡くなった方の財産」です。そのため、ご相談者様の意識は当然、「亡くなった夫(または妻)の持分を、どうやって自分の名義に移すか」という点に集中します。
ご自身の持分については、「もともと自分の名義なのだから、何もしなくて大丈夫」と思い込んでしまうのが自然な心理です。悲しみの中で多くの手続きに追われる中、ご自身の登記情報にまで注意が向かないのは無理もないことかもしれません。しかし、この「自分は大丈夫」という思い込みこそが、住所変更登記という重要な手続きを見落とす最大の原因となっているのです。
理由2:住宅購入時の登記が旧住所のままになっているから
もう一つの理由は、マイホームを購入した数十年前の状況に遡ります。多くの場合、住宅ローンを利用して不動産を購入する際には、融資実行や所有権移転のタイミングの関係で、新居へ住民票を移す前に手続きを進めることが実務上よくあります。
その結果、購入時の古い住所(前に住んでいたアパートなど)のまま所有権の登記がされてしまうのです。
本来であれば、新居に引っ越して住民票を移した後に、別途「登記名義人住所変更登記」を申請する必要があります。しかし、住宅購入という一大イベントを終えた安堵感や、日々の忙しさから、この手続きの必要性を知らなかったり、知っていても忘れてしまったりする方が後を絶ちません。こうした過去の経緯が、数十年後の相続の場面で「盲点」として姿を現すのです。これは相続登記でありがちなミスの典型的な一つと言えるでしょう。
住所変更登記を怠るとどうなる?将来の売却時に直面する深刻なリスク
「昔の住所のままでも、自分が所有者なのは変わらないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、この小さな見落としが、将来不動産を売却する際に、取引そのものを頓挫させかねない深刻な事態を引き起こします。
登記簿上「同姓同名の別人」が存在する奇妙な状態に
ご自身の住所変更登記をしないまま、亡くなった配偶者の持分について相続登記を行うと、登記簿には次のような記録がされてしまいます。
【登記簿の記録例】
- 持分2分の1:山田 花子(住所:東京都世田谷区北沢1丁目)←もともとの自分の持分(旧住所)
- 持分2分の1:山田 花子(住所:東京都世田谷区代沢2丁目)←夫から相続した持分(新住所)
登記簿上で氏名や住所が異なると、同一人物であることの確認に手間がかかり、売却など次の手続で追加の登記(住所変更登記等)や補正が必要になることがあります。そのため、上記のような登記は「同姓同名の別人である山田花子さん二人が、不動産を半分ずつ共有している」と解釈されてしまうのです。これでは、この不動産全体の所有者が「新住所の山田花子さん」一人であると証明できません。

売却手続きがストップ!買主や不動産会社にも迷惑がかかる
この「同姓同名の別人」のように見える状態のままだと、売却の所有権移転登記の申請時に、住所変更登記等の追加手続や補正が必要となり、決済当日に登記ができないおそれがあります。なぜなら、売主として署名押印しているのは「新住所の山田花子さん」一人だけであり、「旧住所の山田花子さん」の意思が確認できないからです。
最も恐ろしいのは、この問題が売買契約を終え、買主への引き渡し(決済)の直前になって発覚するケースです。決済日当日に登記ができないとなれば、買主は代金を支払うことができず、引き渡しも当然できません。
これにより、売買契約の履行が不可能となり、買主や仲介の不動産会社に多大な迷惑をかけることになります。最悪の場合、契約違反として損害賠償を請求されるなど、深刻な金銭トラブルに発展するリスクすらあります。こうした事態は、不動産売却における契約後のトラブルの中でも特に避けたい問題の一つです。
【要注意】自宅だけじゃない!見落としがちな「私道持分」の住所変更
この住所変更登記の問題は、ご自宅の土地や建物だけに限りません。もう一つ、専門家でなければ気づきにくい、さらに厄介な盲点が存在します。それが「私道持分」です。
ご自宅が私道に面している場合、その道路の土地をご近所の方々と共有で所有している(持分を持っている)ケースが少なくありません。この私道持分も、自宅と同じように相続の対象となり、当然、住所変更登記が必要になるのです。
問題は、私道の場合、共有者の数が非常に多くなることです。登記情報を取得しても、何十人という共有者の中からご自身の名前を探し出し、その住所が旧住所のままになっていないかを確認する作業は、一般の方には非常に困難です。固定資産税の納税通知書にも記載されないことが多く、相続登記の漏れが特に発生しやすい財産といえます。
この私道持分の住所変更を怠った場合も、自宅と同様に将来の売却手続きがストップしてしまいます。こうした複雑な調査や手続きこそ、司法書士のような専門家にご相談いただく大きなメリットがある部分です。
相続登記と住所変更登記の正しい手順と費用
では、この問題を解決するには、具体的にどうすればよいのでしょうか。手続きの正しい順番と、必要となる費用について解説します。なお、2026年4月1日から不動産の住所等変更登記は義務化されており、原則として住所等の変更日から2年以内に申請が必要です。正当な理由なく放置すると5万円以下の過料の対象となる可能性もあるため、早めの対応が重要です。
【基本】相続登記の前に、まず住所変更登記から
手続きは、以下の順番で進めるのが原則です。
- 登記名義人住所変更登記:まず、相続人であるあなたご自身の持分について、登記簿上の住所を現在の住民票の住所に変更します。
- 所有権移転登記(相続):次に、亡くなった配偶者の持分を、あなたに名義変更する相続登記を行います。
実務上は、これら2つの登記申請を「連件(れんけん)」という形で、法務局に同時に提出します。これにより、1回の申請でスムーズにすべての手続きを完了させることが可能です。
被相続人(亡くなった配偶者)の住所変更登記は不要
ここで一つ、よく混同されがちなポイントがあります。それは、亡くなった配偶者(被相続人)の登記簿上の住所が古いままでも、その住所変更登記は原則として不要である、という点です。
被相続人については、戸籍の附票や住民票の除票といった公的な書類で、登記簿上の住所から亡くなった時の最後の住所までの変遷を証明できれば、そのまま相続登記を進めることができます。
【ポイント整理】
- 必要なのは → 相続する「あなた自身」の住所変更登記
- 不要なのは → 亡くなった「配偶者」の住所変更登記
ただし、役所で書類の保存期間が過ぎてしまい、住所の変遷を証明する書類が取得できないケースなど、例外的な対応が必要になることもあります。
司法書士に依頼した場合の費用相場
一連の手続きを司法書士に依頼した場合、費用は大きく分けて「登録免許税(実費)」と「司法書士報酬」の2つで構成されます。当事務所の料金体系もご参照ください。
1. 登録免許税(国に納める税金)
- 住所変更登記:不動産の個数 × 1,000円
(例:土地1筆、建物1棟なら2,000円) - 相続登記:不動産の固定資産税評価額 × 0.4%
(例:評価額2,000万円の不動産(持分1/2)を相続する場合、2,000万円×1/2×0.4%=4万円)
2. 司法書士報酬
- 住所変更登記と相続登記のセット:8万円~15万円程度が一般的な相場です。
(※不動産の数、評価額、戸籍収集の難易度などによって変動します)
ご自身で手続きを行うことも不可能ではありませんが、戸籍謄本の収集や遺産分割協議書の作成、正確な登記申請書の作成など、専門的な知識と多くの時間が必要です。特に今回のようなケースでは、住所変更登記の要否判断や私道持分の調査など、見落としやすいポイントが多いため、専門家への依頼をお勧めします。
まとめ:共有名義の相続登記は「自分の住所確認」から。専門家への相談が安心です
夫婦共有名義の不動産を相続する際、私たちはつい亡くなった配偶者のことばかりに目を向けがちです。しかし、本当に重要な第一歩は、「ご自身の登記情報を確認すること」にあります。
特に、マイホームを購入してから一度でも引っ越しを経験されている方、あるいは購入時に旧住所で登記した記憶がある方は、登記簿上の住所が現在のものと異なっている可能性が高いと言えます。
この小さな見落としが、将来の不動産売却という重要な局面で、思わぬ足かせとなりかねません。手続きに少しでも不安を感じたら、手遅れになる前にぜひ一度、私たち司法書士にご相談ください。問題点を正確に洗い出し、将来にわたって安心できる最適な手続きをご提案することが、専門家である私たちの役割です。誰に相談すべきか迷った際は、相続問題の相談先選びも参考にしてください。
大切なご自宅の権利を確実に守り、未来の選択肢を狭めないために、まずは専門家による無料相談から始めてみてはいかがでしょうか。
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下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

