相続前の財産分配の念書は有効?専門家が解説【2026年最新】

「兄に全財産を」相続前の約束、その想いを法的に実現するには

「父の面倒をずっとみてくれた兄に、全ての財産を相続してほしいんです。そのための念書を作れませんか?」

千葉市から世田谷の当事務所を訪ねてくださった方から、このようなご相談を受けました。お父様とお兄様が杉並区にお住まいで、近くの専門家を探して私にたどり着いてくださったとのこと。ご兄弟の絆の深さと、お兄様を思う真摯なお気持ちがひしひしと伝わってきました。

「兄より私の方が経済的に余裕がある。だから、父の財産はすべて兄に渡したい」

そう願う弟様のお気持ち、良く伝わってきました。しかし、大変残念ながら、相続が始まる前に特定の誰かが遺産をどう分けるかを約束しても、その約束自体には法的な効力がないのです。むしろ、効力のない文書を無理に作成してしまうと、かえって後々のトラブルの火種になりかねません。

その旨をご説明したところ、ご相談者様は少しがっかりされたご様子でした。しかし、私は続けました。

「念書には法的な効力はありませんが、他の方法で実現していきましょう。ご兄弟の考えが一致していれば問題の半分は解決したようなものです。法的にきちんと形にする方法はちゃんとありますよ。」

このご相談では、最終的にご家族皆様が納得する形で、弟様の想いを実現するお手伝いをさせていただきました。この記事では、この事例のように「相続前に財産の分け方を決めておきたい」と願う方が、なぜ簡単な約束では不十分なのか、そして、どうすればその大切な想いを確実に未来へ繋げられるのかを、専門家の視点から丁寧にご説明します。

なぜ?相続前の「念書」や「合意書」に法的な効力がない理由

「兄弟で話し合って決めたことなのに、どうして法的に無効なの?」と疑問に思われるかもしれません。その理由は、相続に関する権利が「いつ」発生するのか、という法律の基本的なルールにあります。結論から言うと、相続に関する権利は、財産を遺す方(被相続人)が亡くなった瞬間に初めて生まれるものだからです。

相続権はいつ発生するのか?基本的なルールを理解する

まだ誰も持っていない権利について、事前に「放棄します」とか「あなたにあげます」と約束しても、それは法的には意味を持ちません。そもそも、嫌な話にはなりますが人は順番通りに亡くなるとは限りません。もしも相続する立場の方が先に亡くなったら、最初から相続人にすらならないのです。

被相続人がご存命の間は、相続人には「将来、財産を受け取るかもしれない」という期待があるだけで、具体的な権利(相続権)はまだ発生していません。したがって、相続が始まる前に交わした「財産は要りません」「全財産を長男に」といった合意書や念書は、法的には無効と判断されてしまうのです。

「相続放棄」と「遺留分放棄」の違いとタイミング

ここで、よく混同されがちな「相続放棄」と「遺留分放棄」という2つの手続きについて、その違いを明確にしておきましょう。特に「いつできるのか」というタイミングが決定的に異なります。

相続放棄と遺留分放棄の違いを比較した図解。手続き時期、放棄対象、必要な手続きの3つの観点から両者の違いを分かりやすく示している。

相続放棄遺留分放棄
手続きできる時期相続開始後(自分が相続人だと知った時から3ヶ月以内)相続開始前(被相続人の生前)でも可能
放棄の対象プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も全て遺留分のみ(最低限保障された遺産の取り分)
必要な手続き家庭裁判所への申述家庭裁判所の許可が必要
相続放棄と遺留分放棄の比較

「相続放棄」は、借金なども含めた全ての財産を引き継がないための手続きで、相続が開始した後(亡くなった後)にしかできません。一方で、「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の遺産の取り分のことです。そしてこの遺留分に限っては、家庭裁判所の許可を得れば、相続が始まる前(生前)に放棄することが可能です。この違いが、生前の対策を考える上で非常に重要なポイントとなります。

想いを形にする2つの確実な方法:遺言書と遺留分放棄

さて、相続前の念書が無効であることはご理解いただけたかと思います。では、どうすれば「特定の人に財産を多く遺したい」という想いを法的に実現できるのでしょうか。ご安心ください。そのための確実な方法が、主に2つあります。

  1. 遺言書(特に公正証書遺言)を作成する
  2. 生前に遺留分放棄の手続きを行う

これらの方法は、それぞれ単独でも有効ですが、組み合わせることでさらに強力な効果を発揮します。これから、一つずつ詳しく見ていきましょう。

方法1:最も確実な意思表示「公正証書遺言」を作成する

ご自身の意思で財産の分け方を決める最も基本的で確実な方法が、遺言書の作成です。特に、私たち専門家が強くお勧めするのは「公正証書遺言」です。
遺言書には、自分で手書きする「自筆証書遺言」もありますが、法律の専門家である公証人が作成に関与する公正証書遺言には、それを上回る大きなメリットがあります。将来の相続トラブルを本気で防ぎたいと考えるなら、遺言書を作成すべきケースでは、公正証書遺言を選ぶことが賢明な選択と言えるでしょう。

公正証書遺言のメリット:なぜ専門家は勧めるのか

公正証書遺言には、主に次のようなメリットがあります。

  • 法的な不備で無効になるリスクを大幅に低減できる
    自筆証書遺言では、日付の記載漏れや押印ミスといった些細な形式不備で、遺言全体が無効になってしまうケースが後を絶ちません。公正証書遺言は、法律のプロである公証人が作成するため、このようなリスクを限りなくゼロにできます。
  • 相続開始後の手続きがスムーズ(検認不要)
    自筆証書遺言が見つかった場合、原則として家庭裁判所で「検認」という手続きを経なければ、不動産の名義変更や預金の解約などができません。公正証書遺言ならこの検認手続きが不要なため、相続人はスムーズに手続きを進めることができます。
  • 原本が公証役場で保管され、紛失・改ざんの心配がない
    作成された遺言書の原本は公証役場で厳重に保管されます。そのため、誰かに隠されたり、内容を書き換えられたり、あるいは紛失してしまったりする心配がありません。
  • 遺言者の意思能力が担保されやすい
    公証人が遺言者本人と直接面談し、意思能力(判断能力)があることを確認した上で作成します。そのため、後から他の相続人に「遺言を書いた時、本人は正常な判断ができなかったはずだ」と遺言の有効性を争われるリスクを低減できます。

デメリットと注意点:費用と手間はかかる?

一方で、デメリットも存在します。それは、自筆証書遺言に比べて費用と手間がかかる点です。

公正証書遺言の作成には、財産の価額に応じた公証人の手数料が必要です。また、作成時には原則として2名以上の証人が必要となります。しかし、これらのデメリットは、見方を変えればメリットとも言えます。

確かに費用はかかりますが、それは将来の相続トラブルを防ぎ、家族が裁判などで争うことになった場合の膨大な費用や精神的負担を考えれば、むしろ合理的な投資と考えることもできるでしょう。証人が見つからない場合でも、司法書士などの専門家や公証役場で紹介してもらうことが可能です。当事務所の料金一覧もご参考に、まずは一度ご相談ください。

司法書士と相談を終えた依頼者が安心した表情で握手をしている。相続問題が解決に向かう安心感を象徴する写真。

方法2:相続人の合意を得て「生前の遺留分放棄」を行う

遺言書と並んで、もう一つ強力な選択肢となるのが「生前の遺留分放棄」です。これは、特定の相続人に財産を集中させたい場合に、他の相続人にあらかじめ遺留分を放棄してもらう手続きです。冒頭の事例のように、相続人同士の協力が得られる場合には非常に有効な手段となります。

ただし、これは非常に重要な権利を事前に手放すことになるため、簡単な合意書などでは認められず、家庭裁判所に申し立て手続き、そして許可を得ることが必要になります。

民法第1049条に定められた「遺留分放棄」とは

遺留分放棄の根拠となる条文を見てみましょう。

(遺留分の放棄)
第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

このように、民法では生前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必須と定められています。なぜなら、遺留分は相続人の生活を保障するための大切な権利だからです。もし、親や他の兄弟からのプレッシャーなど、本人の自由な意思に基づかない形で安易に権利を放棄させられることがないよう、中立な立場の家庭裁判所が「本当に本人の意思か」「不当な状況に置かれていないか」を慎重に判断する仕組みになっているのです。この手続きは、事業承継などでも活用されることがあります。

家庭裁判所での手続きの流れと許可のポイント

生前の遺留分放棄の手続きは、大まかに以下の流れで進みます。

  1. 被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う
  2. 戸籍謄本や財産目録などの必要書類を提出する
  3. 家庭裁判所による審査(場合によっては申立人との面談・審問)
  4. 許可(または不許可)の審判が下される

家庭裁判所が許可を出すかどうかを判断する際には、主に以下の3つのポイントを重視すると言われています。

  1. 本人の自由な意思に基づいているか(誰かに強要されていないか)
  2. 放棄の理由に合理性・必要性があるか(なぜ放棄するのか、その理由が妥当か)
  3. 見返りとなる代償があるか(放棄する代わりに、生前贈与などを受けているか)

特に③の代償は重要で、全くの無償で重要な権利を放棄することは、本人の不利益が大きすぎると判断され、許可が下りにくくなる傾向があります。そのため、放棄する代わりに一定の金銭を生前贈与するなどの配慮が求められることが一般的です。

注意!遺留分放棄をしても相続権はなくならない

ここで、非常に重要な注意点があります。それは、遺留分を放棄しても、「相続人」としての権利がなくなるわけではない、ということです。

遺留分放棄は、あくまで「遺言の内容が自分の遺留分を侵害していても文句を言いません」という意思表示に過ぎません。もし、遺言書自体が存在しなければ、遺産分割協議に参加して法定相続分を主張する権利は残ったままなのです。

したがって、冒頭の事例のように「兄に全財産を相続させる」という目的を確実に達成するためには、【①お父様に『全財産を長男に相続させる』という内容の公正証書遺言を作成してもらう】ことと、【②弟様が家庭裁判所で生前の遺留分放棄の許可を得る】ことをセットで行うのが最も確実な方法となります。これなら、遺言の内容が遺留分によって覆される心配もなく、お父様の意思とご兄弟の想いを、法的により確実な形で実現しやすくなります。

そもそも「遺留分」は請求しない選択をする場合が多い

ここまで遺留分と遺留分の放棄について説明してきましたが、もう1つ重大なポイントがあります。それは、「そもそも遺留分を請求するかどうかは自由である」という点です。必ず遺留分をもらわなければならないものではありません。今回ご紹介した依頼者様は「遺言さえあれば兄も安心するだろうし、自分が遺留分を請求することはない。遺言作成のみお願いします」とおっしゃられました。後日、私は依頼者様とお父様のご自宅を訪問。お兄様も交えて遺言の説明をお父様にしました。正式にお父様から遺言作成のご依頼をいただき、文案作成・公正役場との文案作成を行い無事に遺言を作成しました。

まとめ:家族の想いを未来へ繋ぐために、今できること

今回は、相続が始まる前の財産分配の約束について解説しました。大切なポイントを振り返りましょう。

  • 相続人同士で交わした「念書」や「合意書」に、法的な効力はない。
  • 想いを法的に実現するには「遺言書(特に公正証書遺言)」の作成が基本となる。
  • 相続人の協力が得られるなら、家庭裁判所の許可を得て「生前の遺留分放棄」も可能。
  • 「公正証書遺言」と「生前の遺留分放棄」を組み合わせることで、最も確実に想いを実現できる。
  • 遺留分はそもそも請求しない選択もできる。家族の中で問題が起こらなそうなら遺留分放棄までがしなくとも良い。

相続の問題は、法律や手続きが複雑なだけでなく、ご家族それぞれの歴史や感情が絡み合う、非常にデリケートな問題です。特に、生前の対策となれば、ご家族にどう切り出せばいいか悩んでしまう方も少なくありません。

当事務所の代表は、心理カウンセラーの資格も有しております。法的な手続きを正確に進めるのはもちろんのこと、ご家族のお気持ちに寄り添い、皆様が納得できる円満な解決策を一緒に見つけていくことを何よりも大切にしています。一人で抱え込まず、まずはお気軽にご自身の想いをお聞かせください。あなたのその大切な想いを、確かな形で未来へ繋ぐお手伝いをさせていただきます。

今回のご依頼のように事務所のある世田谷近辺でなく、他県からのご依頼も頂戴しております。どうぞお気軽にお問合せください。

初回無料相談(お問い合わせフォーム)

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

0368055496電話番号リンク 問い合わせバナー