遺留分侵害と相続登記|不動産しかない場合の対処法

「遺留分を請求されたら、この家を失ってしまうの?」ある相談者の不安

「このまま相続登記を進めて、後から姉に遺留分を請求されたら、とんでもないことになりませんか…?」

当事務所を開業してから数年がたったころ、税理士さんからご紹介いただいた相続登記のご相談でのこと。お母様が遺してくれたご自宅に、一人で暮らすご依頼者の娘さんは、消え入りそうな声でそうおっしゃいました。

遺言には、この家をすべて娘さんに相続させると書かれていました。しかし、戸籍を拝見すると、ご依頼者にはお姉様が一人いらっしゃいます。詳しくお話を伺うと、お母様の財産はこのご自宅がほとんどで、現金はあまりないとのこと。ご依頼者自身も、ご病気のこともあり長時間働くことが難しく、家賃のかからないこの家を頼りに、パート収入でなんとか暮らしているという状況でした。依頼者様はネットで知った「遺留分」について非常に心配されていました。

お母様を亡くされた悲しみと、一人暮らしになった心細さ。そして、「遺留分」という聞き慣れない言葉への漠然とした不安が、依頼者様の心を重くしているのが伝わってきました。

「もし、姉から多額のお金を請求されたら…?どうやって対応すれば良いのですか?」

私は、二つのことを丁寧にお伝えしました。

一つは、遺留分は「必ず請求されるとは限らない」ということ。ご姉妹は疎遠ではあるものの、特段仲が悪いわけではなく、お姉様の生活も安定しているご様子。実際、遺留分が侵害されていても、請求に至らないケースはたくさんあります。例えば「母が全部相続する」という遺言があったからといって子が遺留分請求するケースの方が数としては少ないでしょうし、自宅を相続した長男に次男が遺留分侵害請求することも数としては少ないと思います。

そして、もう一つ。これが最も大切なことですが、「遺留分は『お金』で支払うものなので、請求されたからといって、このご自宅の所有権がすぐに脅かされるわけではない」という事実です。

この言葉に、彼女の表情が少しだけ和らいだのを今でも覚えています。法的な手続きを進めるだけでなく、不安な心に寄り添い、少しでも気持ちを軽くすることを大事にしたいなと思った出来事でした。

この記事を読んでくださっているあなたも、もしかしたら、かつての彼女と同じような不安を抱えているのかもしれません。大丈夫です。この記事を読み終える頃には、その不安の正体が分かり、次に何をすべきかが明確になっているはずです。一緒に、一歩ずつ進んでいきましょう。

まず落ち着いて確認。遺留分と相続登記の基本

不安な気持ちでいると、どうしても悪い方向にばかり考えてしまいがちです。まずは冷静に、今の状況を正しく理解することから始めましょう。遺留分と相続登記について、知っておくべき基本的なポイントは2つです。

遺留分と相続登記の基本を図解したインフォグラフィック。遺留分が金銭請求であること、相続登記が3年以内に義務化されたことを示している。

遺留分とは?最低限の取り分を「お金で」請求する権利

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、最低限の遺産の取り分のことです。具体的には、配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属(父母や祖父母など)が遺留分権利者となります。たとえ遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていても、他の遺留分権利者(例えば次男や長女)は、この遺留分を請求する権利を持っています。

ここで非常に重要なのが、相続法改正(民法等改正)です。改正により、遺留分の請求は「遺留分侵害額請求(民法1046条)」として金銭の支払を求める形に整理され、令和元年(2019年)7月1日以後に開始した相続から適用されています。改正前は、不動産そのものの返還を求める(共有持分を主張する)こともできましたが、現在は原則としてお金での解決が求められます。

つまり、遺留分を請求されても、いきなり不動産が共有状態になったり、家を追い出されたりするわけではない、ということです。これが、まずあなたに知っておいてほしい一番の安心材料です。

遺留分の割合は、法定相続分によって異なります。例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者の遺留分は全財産の1/4、子2人の遺留分は合わせて1/4となります。もし5,000万円の価値がある不動産が唯一の相続財産で、相続人が子2人(長男・次男)だったとします。遺言で「すべて長男へ」とあった場合、次男の遺留分は「5,000万円 × 1/2(法定相続分) × 1/2(遺留分割合) = 1,250万円」となります。次男は長男に対して、この1,250万円を金銭で支払うよう請求できる、ということになります。具体的な相続分の計算は相手方のあること。話し合いで決まってくる部分もあります。

参照:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について|法務省

相続登記の義務化|遺留分問題があっても手続きは必須

もう一つ、避けては通れないのが相続登記です。2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続(遺言を含む。)により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があり、正当な理由なく怠った場合には10万円以下の過料の適用対象となります。なお、施行日前に開始した相続で未登記の不動産にも義務は及び、原則として令和9年(2027年)3月31日までに相続登記が必要です。

「遺留分の問題が解決していないから…」という理由で、相続登記を先延ばしにすることはできません。むしろ、問題が複雑に絡み合っているからこそ、放置すればするほど状況は悪化してしまいます。たとえば、相続人が増えてしまうなど、さらなるトラブルの原因にもなりかねません。

問題が複雑だからこそ、専門家と一緒に計画を立て、着実に進めていくことが何よりも大切なのです。

相続財産が不動産しかない場合の遺留分の支払い方

「理屈は分かったけれど、結局、支払うためのお金がない…」
ここが、多くの方が一番頭を悩ませる点だと思います。相続財産がご自宅だけ、というケースは決して珍しくありません。そんな時に考えられる、具体的な3つの支払い方法を見ていきましょう。

相続財産が不動産しかない場合の遺留分の支払い方3つの方法。不動産売却、代物弁済、期限の許与という選択肢を図解している。

①不動産を売却して現金で支払う

最もシンプルで分かりやすいのが、相続した不動産を売却し、その売却代金から遺留分侵害額を支払う方法です。これを「換価分割」と呼びます。

  • メリット:公平に金銭で解決できるため、後腐れがありません。また、不動産の維持管理といった負担からも解放されます。
  • デメリット:当然ながら、住み慣れた家を失うことになります。また、不動産が希望する価格やタイミングで売れるとは限らないという不確実性もあります。

注意点として、不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、「譲渡所得税」という税金がかかる可能性があります。売却を検討する際は、司法書士だけでなく、税理士にも相談し、税金のことも含めて計画を立てることが不可欠です。私たち司法書士は、不動産の売却を前提とした遺産分割協議書の作成から、登記手続きまでサポートいたします。

②不動産の一部を渡す(代物弁済)

現金を用意できない場合に、金銭の代わりに不動産の所有権の一部を相手方に渡すことで解決する方法です。これを「代物弁済(だいぶつべんさい)」といいます。

  • メリット:手元に現金がなくても解決が可能です。家に住み続けながら、相手方と不動産を共有するという形になります。
  • デメリット:不動産を共有することで、将来の売却や建て替えの際に、また相手方の同意が必要になるなど、新たな問題の火種となる可能性があります。

そして、代物弁済には非常に重要な注意点があります。それは、不動産を渡した側に「譲渡所得税」が課税される可能性があるということです。「お金をもらっていないのになぜ?」と思われるかもしれませんが、税法上は「不動産を時価で売却し、そのお金で借金を返済した」と見なされるのです。

この方法を選択する場合は、当事者間の合意を書面(遺産分割協議書など)に残し、「代物弁済」を原因として所有権を一部移転する登記手続きが必要です。予期せぬ税負担を避けるためにも、必ず事前に専門家へご相談ください。

③支払い期限を延期してもらう(期限の許与)

売却しようにも早急な支払いを求められているなどの事情がある場合、裁判所に対して申し立てを行うことで、支払い期限を延ばしてもらえる「期限の許与」という制度があります。

これは、遺留分を支払う側の資力や状況を考慮して、裁判所が相当の期限を定めてくれるものです。ただし、これはあくまで最終手段の一つであり、認められるかどうかは裁判所の判断によります。まずは当事者間で分割払いの交渉をするなど、話し合いによる解決を目指すのが基本です。このような制度があることを知識として知っておくだけでも、少し心の余裕が生まれるかもしれません。

遺留分と相続登記、誰に相談すべき?最適な専門家の選び方

ここまで読んでいただき、問題の全体像は見えてきたものの、「自分一人で進めるのは無理だ」と感じられたのではないでしょうか。その通りです。遺留分と相続登記が絡む問題は、法律や税金、そして何より家族の感情が複雑に絡み合うため、専門家のサポートが不可欠です。

司法書士事務所で、相談者の女性が司法書士に安心して相談している様子。専門家への相談の重要性を示している。

司法書士と弁護士の役割分担と連携

では、誰に相談すればよいのでしょうか。ここで登場するのが、司法書士と弁護士です。それぞれの役割には違いがあります。

専門家主な役割得意なこと
司法書士登記・書類作成のプロ相続登記、遺産分割協議書の作成、法的な状況の整理、相続人調査など。円満な話し合いのサポート。法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)は、簡易裁判所で取り扱える民事事件(訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求事件)等について、裁判手続や裁判外の和解等の「簡裁訴訟代理等関係業務」の範囲で代理業務を行うことができます。
弁護士交渉・紛争解決のプロ代理人として相手方と直接交渉する、調停や裁判で主張を行うなど、争いになった場合の対応。
司法書士と弁護士の役割

簡単に言えば、話し合いで円満に解決できそうな段階や、手続き・書類作成がメインの場合は「司法書士」すでに関係がこじれており、交渉や裁判が必要な場合は「弁護士」が主な担当となります。

大切なのは、両者が敵対するのではなく、連携してお客様にとって最善の解決を目指すことです。まずは司法書士に相談して状況を整理し、必要に応じて弁護士や税理士と協力しながら進めていくのが、最もスムーズで安心できる進め方です。

まずは司法書士の無料相談で状況を整理しましょう

遺留分と不動産の相続登記。一人で抱え込むには、あまりにも重い問題です。何から手をつけていいか分からず、時間だけが過ぎていく…そんな状況は、精神的にも非常につらいものです。

解決への第一歩は、あなたの状況を専門家に話し、客観的に整理してもらうことです。

下北沢司法書士事務所では、単に手続きを代行するだけではありません。心理カウンセラーの資格を持つ司法書士が、あなたの不安な気持ちに寄り添いながら、法的な状況を分かりやすくご説明します。そして、あなたのご希望を丁寧にお伺いした上で、考えられる選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを提示し、一緒に最適な解決策を見つけていきます。

エリアも事務所のある世田谷区だけでなく東京23区や東京都下、千葉・埼玉・神奈川の首都圏の方から多くご依頼をいただいております。どうぞお気軽に電話やお問合せフォームでご相談ください。

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