「1円単位で完璧に」は無理!後見人のリアルな金銭管理
ご親族の成年後見人になられた方、そしてこれからなろうと考えている方へ。今、大きな責任を前にして、不安でいっぱいかもしれませんね。
裁判所での面接に同席して、お金の管理についてかなり厳しく言われることがありました。「人のお金を管理する自覚を持ってください!」「親子といえど後見人の責任は同じです!」と強い口調で言われ、横で聞いている私自身、「そんなに強く言わなくても…」と思いながら余計な口出しすると話がこんがらがるので黙っていたことがあります。
裁判所から渡される冊子やビデオでも、お金の管理の重要性が繰り返し強調されます。それらを見聞きするうちに、「自分にできるだろうか」「もし少しでもミスをしたり、領収書をなくしたりしたら大変なことになるのでは」と、どんどんプレッシャーが大きくなってしまう方もいらっしゃいます。
今日、私が一番お伝えしたいのは、「安心してください!」ということです。実際のところ、日々の細かなお金の管理に、そこまで心配する必要はありません。
この記事では、司法書士である私が実際にどのようにご本人の財産を管理しているのか、裁判所からはどこまで厳しく見られるのか、特に日々の小さな支出に焦点を当てて、私の経験をありのままにお話ししたいと思います。この記事を読み終える頃には、きっと心が少し軽くなっているはずです。
なぜ成年後見人には厳格な財産管理が求められるのか
「そんなに神経質にならなくていい」と言われても、なぜ裁判所はあれほど厳しく指導するのか、不思議に思いますよね。その背景には、成年後見制度が持つ「ご本人の財産を断固として守る」という、とても大切な使命があるのです。
残念ながら、中には立場を悪用し、ご本人の財産を自分のために使ってしまうケースも存在します。それは専門職後見人であっても例外ではなく、士業による横領事件がニュースになることもあります。たとえ親子であっても、財産が不適切に使われるリスクはゼロではありません。むしろ親子だからこそ、自分のお金と同一視しやすいでしょう。だからこそ、裁判所は後見人に対し、ご本人のお金を自分のお金とは明確に区別し、客観的な記録に基づいて管理することを強く求めるのです。
この「原則」を理解しておくことは、とても重要です。なぜなら、これからお話しする「現実的な管理方法」が、単なる手抜きではなく、原則を理解した上での合理的な工夫なのだと、あなた自身が自信を持てるようになるからです。
成年後見人の権利や義務について、より詳しく知りたい方は、裁判所の資料も参考になります。
【司法書士の実践術】メリハリで乗り切る!現実的な財産管理
ここから書くことは完全に経験則なので、どの地方のどの担当裁判官でも通用するとは言いません。でも、少なくとも私は今のところこの方針でおります。どうすれば日々の管理を無理なく続けられるのでか?答えは「管理にメリハリをつける」ことです。すべての支出を同じレベルで管理しようとすると、必ず疲弊してしまいます。大切なのは、「ここは緩めても大丈夫な部分」と「ここは絶対に厳しく管理すべき部分」を見極めることです。
日々の生活費:レシートに神経質にならなくてもOKな範囲と記録のコツ
ご本人様がご自宅で生活されている場合、日々の食費やおやつ代などを現金で渡すことがあります。この「日常の少額な現金支出」こそ、多くの方が頭を悩ませるポイントです。
以前、私が担当していた方で、月に3〜4万円の生活費を現金でお渡ししていたケースがあります。そのお金は主に食費やおやつに使われ、訪問介護のヘルパーさんがご本人の代わりに買い物に行ってくれていました。ヘルパーさんはきちんとレシートを残してくれましたが、私がそのレシートと財布の残金を照らし合わせて、1円単位で計算していたかというと…正直に申し上げて、そんなことはしていません。
そもそも、そこまで細かく管理するのは現実的に不可能です。ご本人様が残金チェックをさせてくれないこともありますし(普通は財布の中を人に見せませんよね)、小銭を家の中でなくしてしまうことだってあります。若い人だってどこか家のどこかに小銭を置きっぱなしにすることがあってもそんなに不自然はないでしょう。もし、本人がそんなにきっちりとお金の管理ができる方なら、そもそも成年後見制度は必要ないかもしれません。
では、どうしていたのか。私は、月に渡した3〜4万円は「すでにご本人のために支出され、なくなったもの」として扱いました。通帳の現金引出し記録に横に「生活費○○円」とシャーペンで書き込んでおきます。もちろん、実際には手元に少しずつお金が残り、お亡くなりになった際にはある程度の現金が残りましたが、それは「新たにみつかった財産」として裁判所に報告しました。このやり方で、裁判所から特にお叱りを受けたことはありません。
大切なのは、毎月定額を渡し、その範囲内でのやりくりはご本人や介護の方に任せるという信頼と、それを「生活費」として一括で処理する割り切りです。その上で、急にお金を使い切るのが早くなったなどがあったらそれはサインです。それをきっかけに何に使ったのか調べたり、認知能力が衰えて家にあるのに使ったと思ってしまっているなど原因を調べるべきです。
高額な支出:記録必須!通帳と領収書で証拠を残す鉄則
日々の生活費は柔軟に対応して良い一方で、1万くらいの金額を1つの物やサービスにだけ使うまとまった金額の支出は、原則として記録(通帳の履歴・領収書等)を残しておくのが安全です。ここが管理の「メリ」の部分です。
例えば、以下のような支出が該当します。
- 医療費や入院費
- 介護施設やサービスの利用料
- 高価な家電や家具の購入費
- 税金や社会保険料の支払い
- 不動産の維持管理費など
これらの支出については、「誰が、いつ、何のために、いくら支払ったのか」を第三者が見ても明確にわかるように証拠を残すことが鉄則です。具体的な方法は2つです。
- 可能な限り銀行振込を利用する: 通帳に記録が残るため、最も確実で客観的な証拠となります。
- 現金払いの場合は必ず領収書をもらう: 領収書は小さい紙なので、紛失のリスクがあります(特に公共料金を払った時にちっちゃい領収書は危ない・・)。私は、もらったらすぐにスマートフォンで写真を撮ったり、スキャンしてPDF化したりして、二重で保管するようにしています。あとは領収書の記録がPCに入っていると、裁判所に年に一度の報告書類の提出の時にサッと印刷出来て楽なのもあります。
このように、「日常の少額な現金」と「特別な高額支出」で管理のレベルを使い分けることで、無理なく、かつ確実に後見人としての責任を果たすことができます。

親族後見人のよくある疑問と対処法Q&A
ここでは、親族後見人の方からよく寄せられる具体的な質問にお答えしていきます。
Q. 本人のお金で、家族の食事代を払ってもいい?
A. 原則として、後見人やそのご家族のためにご本人のお金を使うことは認められません。後見人の役割は、あくまで「ご本人のため」に財産を管理することだからです。
ただし、例外もあります。例えば、ご本人の通院に付き添った際の、ご本人と後見人2人分の昼食代や交通費はどうでしょうか。この場合、「後見人が付き添わなければ、ご本人が病院に行けない」という状況であれば、その費用はご本人の利益に資する支出と認められる可能性が高いです。判断に迷うときは、「この支出がなければ、ご本人が何らかの不利益を被るか?」という視点で考えてみると良いでしょう。それでも迷う場合は、ご家族の負担が大きくなりすぎる前に、監督人にも聞いてみましょう。
Q. 裁判所への報告書は、どのように書けばいい?
A. 年に一度の裁判所への報告は、後見人にとって大きな仕事の一つです。ですが、これまでお話しした「メリハリ管理」ができていれば、報告書の作成もずっと楽になります。
収支報告書には、日々の生活費として渡したお金は「〇月分生活費として本人へ現金交付 〇〇円」のように、月ごとにまとめて記載すれば基本的に大丈夫です。そして、医療費や施設利用料などの高額な支出については、領収書や通帳のコピーを添付して、個別に記載します。こうすることで、報告書がシンプルになり、裁判所にもお金の流れが明確に伝わります。
裁判所のウェブサイトには、報告書の書式や記載例が公開されていますので、参考にしながら作成しましょう。場合によっては、裁判所から後見監督人が選任され、その監督人が報告先となることもあります。
Q. 他の親族から「通帳を見せろ」と言われたら?
A. これは非常にデリケートな問題ですね。まず法的な観点から言うと、成年後見人の報告先は基本的に家庭裁判所(監督人がいる場合は監督人)です。ご本人の個人情報なので見せないのが原則でしょう。
しかし、感情的な観点から「義務はない」と突っぱねてしまうと、親族間の関係が悪化し、「財産を隠しているのではないか」という不信感につながりかねません。これでは、円満な家族関係を保つのが難しくなってしまいます。
1つの方法として裁判所への報告書類を見せると言うのはあるかも知れません。でも見せてることには変わりないし・・・。ここは個別に考えるほかないと思います。
それでも不安なあなたへ。一人で抱え込まないでください
ここまで、私が実践している現実的な財産管理の方法についてお話ししてきました。正直に言うと、このような内情をお話しすることには、少しリスクを感じています。「そんなにいい加減な管理をしているのか!」と、お叱りを受けるかもしれないからです。「1円単位でピッタリ合わせるのが後見人の義務です」と言い切っておく方が、私にとっては安全です。
それでもこの記事を書いたのは、これから後見人になる、あるいは今まさに後見人として奮闘しているご親族の方に、心から安心していただきたかったからです。
ご自身の仕事や生活で手一杯な中、さらに後見人という重責を担う。体調が悪い日だってあるでしょう。そんな皆さんが、裁判所や周囲からのプレッシャーに押しつぶされて苦しんでほしくないのです。だから、あえてもう一度言わせてください。大丈夫、もっと気楽にいきましょう!
法律家であると同時に、心理カウンセラーの資格を持つ司法書士として、あなたの心の負担も軽くするお手伝いができればと願っています。
あなたのケースに合わせた最適な管理方法を一緒に考えます
今日お話しした管理方法は、あくまで一つの実践例であり、全てのケースに当てはまるわけではありません。ご本人様の財産状況や生活スタイルによって、最適な管理方法は異なります。
もしあなたが、成年後見人の申立てを考えている段階であれば、ぜひ一度ご相談ください。申立ての段階からご相談いただくことで、あなたが後見人に就任した後、スムーズに業務を進められるように工夫した書類を作成することができます。
最大のメリットは、一般論ではなく、「あなたのケース」に合わせて、実際に成年後見人として活動している司法書士から具体的な助言を受けられることです。一人で悩みを抱え込まず、専門家の知識と経験を頼ってください。私たちが、あなたの伴走者として、法律面と精神面の両方からしっかりとサポートします。

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

