「母がオレオレ詐欺に!」ある日突然の電話【司法書士の実例】
「竹内さん、母がオレオレ詐欺にあったんです!」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、8ヶ月ほど前に家族信託のお手伝いをさせていただいた息子さんの、切迫した声でした。財産管理のご質問かと思っていた私は、思わず「えっ!どういうことですか?」と聞き返しました。
ことの始まりは、埼玉県で一人暮らしをされているお母様にかかってきた一本の電話でした。「亡くなったご主人名義の預貯金がまだ残っています。手続きをします」そう名乗る相手が口にした銀行名は、実際にお父様が口座を持っていた銀行だったそうです。お母様は、それを聞いてすっかり信じ込んでしまいました。
後日、銀行員を名乗る詐欺師が自宅を訪れ、「入金のために奥様のキャッシュカードが必要です。暗証番号も教えてください」と言われるがままに、キャッシュカードと暗証番号を渡してしまったのです。
しかし、幸いなことに被害はごくわずかで済みました。なぜなら、詐欺師に渡してしまった口座の預金は、すでにお母様の手元を離れ、息子さんが管理する信託口口座にほとんど移されていたからです。
このご家族が家族信託を選ばれた本来の目的は、お母様の認知症による資産凍結を防ぐことでした。「将来、母が介護施設に入るときに実家が売れなくなったら困る」という息子さんの心配がきっかけでした。
当初、任意後見制度も選択肢にありましたが、ご家族の財産状況を定期的に家庭裁判所に報告することに抵抗を感じられていました。そこで、ご家族の意思で柔軟な財産管理ができる家族信託をご提案したのです。
ご契約前、私は息子さんと一緒にお母様のご実家へ伺いました。専門家として知識面でサポートさせていただくためです。私たちの仕事は、無理に対策を勧めることではありません。ご家族が心から納得し、前向きな一歩を踏み出すためのお手伝いをすることです。その日、お母様はご自身の意思で「この際だから、預貯金の管理も息子に任せたい」とおっしゃり、預金の大部分を信託することになりました。
まさか、その決断が詐欺被害を防ぐことになるとは、誰も予想していませんでした。認知症対策として組んだ家族信託が、思わぬ形で強力な「盾」となったのです。この出来事は、私にとっても家族信託の新たな可能性を実感する、非常に印象深い経験となりました。
この記事では、認知症による資産凍結への備えについて網羅的に解説した任意後見・家族信託・法定後見の違いを比較|費用・手続きで選ぶの内容をさらに掘り下げ、特に巧妙化する高齢者詐欺への対策という観点から、家族信託の有効性を詳しく解説していきます。
あなたの親も狙われている?巧妙化する高齢者詐欺の手口
「うちの親はしっかりしているから大丈夫」…そう思っていても、近年の詐欺手口は非常に巧妙で、誰が被害に遭ってもおかしくありません。警察庁の発表でも、特殊詐欺の被害は依然として深刻な状況が続いています。
なぜ、多くの高齢者が騙されてしまうのでしょうか。そこには、孤独感や将来への不安、公的機関への信頼といった心理が巧みに利用されています。まずは代表的な手口を知り、ご自身の親御さんの状況と照らし合わせてみてください。

家族の絆を悪用する「オレオレ詐欺」
最も古典的でありながら、今なお被害が後を絶たないのが「オレオレ詐欺」です。「会社の金を使い込んだ」「事故を起こしてしまった」などと息子や孫をかたり、トラブル解決金の名目で現金をだまし取ります。
最近では、声が似ていなくても「風邪をひいて声がおかしい」と言い訳したり、警察官や弁護士を名乗る複数の人物が登場して信じ込ませる「劇場型」の手口も増えています。突然のトラブル連絡に動揺し、冷静な判断ができない心理状態に追い込まれてしまうのです。
公的機関を装う「還付金詐欺」
市役所や税務署の職員を名乗り、「医療費の還付金があります」「税金が戻ってきます」といった電話をかけてくる手口です。そして「今日中に手続きが必要」などとせかし、ATMへ誘導して言葉巧みにお金を振り込ませます。
「公的機関の職員が電話でATMの操作を指示することは通常ありません」と分かっていても、「手続きが複雑でよく分からない」「早くしないと損をする」という焦りから、つい指示に従ってしまう方が少なくありません。
不安を煽る「点検商法・リフォーム詐欺」
「無料で屋根を点検します」「水道管の検査に来ました」などと突然訪問し、「このままでは大変なことになる」と嘘の報告で不安を煽り、不要なリフォーム工事や高額な商品を契約させる手口です。
特に一人暮らしの高齢者はターゲットにされやすく、一度契約してしまうと「あそこも悪い」「これも必要だ」と次々と新たな契約を迫られるケースもあります。断り切れずに高額な支払いをしてしまう背景には、詐欺師との間に信頼関係のようなものが生まれてしまう特殊な心理状態が働くこともあります。
参照:警察庁「特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の 認知・検挙状況等について」
なぜ家族信託は詐欺対策に効果があるのか?
様々な詐欺手口がある中で、なぜ家族信託が有効な対策となるのでしょうか。その理由は、家族信託が持つ「財産管理の権限を分離し、移転する」という仕組みそのものにあります。簡単に言えば、「本人の手元から大金を物理的に遠ざけ、本人の意思だけでは財産を動かせなくする」ことで、詐欺師が入り込む隙をなくすのです。
財産を「守るための金庫」に移す仕組み
家族信託を、財産の「金庫」に例えてみましょう。
まず、親御さん(委託者)が持つ預貯金や不動産といった大切な財産を、「信託」という枠組みに移し、受託者が信託契約で定めたルールに従って管理します。
そして、その金庫の「鍵」を、信頼できるお子さん(受託者)が預かります。親御さんの生活費や医療費が必要になったときは、お子さんが鍵を使って金庫からお金を出し、親御さんに渡したり、直接支払ったりします。

この状態にしておけば、たとえ詐欺師が親御さんを騙してお金を引き出させようとしても、親御さんの手元には日々の生活に必要なお金しかありません。大金が入っている金庫は、鍵を持つお子さんの許可なく開けることはできないのです。
冒頭の事例のお母様も、まさにこの仕組みによって被害を最小限に食い止めることができました。このように、財産管理のあり方そのものを変えるのが家族信託の大きな特徴です。
不動産の名義変更が営業電話をシャットアウトする
家族信託には、あまり知られていないもう一つの詐欺対策効果があります。それは、不動産を信託財産にすると、法務局の登記簿上、所有者欄に受託者が「受託者」として記載されるという点です。
悪質なリフォーム業者や不動産業者の中には、法務局で登記情報を閲覧し、高齢者名義の不動産をリストアップして営業電話や訪問をかけてくる者もいます。
しかし、信託によって登記名義がお子さんに変わっていれば、業者が登記情報を確認しても、そこにはお子さんの名前が受託者として記載されています。親御さんが現在の所有権者ではなくなります。これでは、不動産業者が不当に安い値段でご両親のご自宅を買おうとしても、名義を変えるには受託者であるあなたと契約するほかありません。また自宅に届く不動産営業のDMも、登記情報を元に発送されているようです。これらのチラシも信託によって減らせる可能性が高いです。不要な営業、DM、ひいては詐欺のきっかけとなる接触そのものを物理的に減らす効果が期待できます。
【詐欺対策で比較】家族信託 vs 任意後見制度
高齢者の財産を守る制度として、家族信託とともによく比較されるのが「任意後見制度」です。どちらも大切な制度ですが、「詐欺対策」という観点から見ると、その役割や強みが大きく異なります。ご自身の家庭にはどちらが適しているか、考えてみましょう。なお、かかる費用も制度によって大きく異なるため、総合的な判断が重要です。
予防重視なら「家族信託」:被害に遭う前からの防御壁
家族信託の最大の強みは、判断能力がしっかりしている元気なうちから財産管理をスタートできる点にあります。つまり、「被害を未然に防ぐ」予防効果が非常に高いのです。
冒頭の事例のように、あらかじめ財産を信託しておくことで、本人が万が一騙されてしまっても、詐欺師が手を出せない状況を作り出せます。まさに、被害に遭う前から築く「防御壁」と言えるでしょう。
ただし、家族信託はあくまで財産管理の制度です。介護サービスの契約といった身上監護に関する行為は対象外という側面も理解しておく必要があります。
発動後は任意後見も良:ただし取消権が無いことに注意
一方、任意後見の場合はどうでしょうか。任意後見制度には大きな注意点があります。それは、契約を結んだだけでは効力が発生しないということです。実際に本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に申し立てを行い、「任意後見監督人」が選任されて初めて、後見人としての活動が開始できます。そのため、判断能力が低下する「前」の段階での詐欺被害を防ぐのには向いていないというタイミングの課題があります。なお、成年後見制度は法改正も予定されており、今後の動向にも注意が必要です。
そして、任意後見人として活動ができるようになった後も過去に締結した契約について基本的に取消権はありません。ただ、基本的に任意後見人は代理の範囲に訴訟行為の代理人になる権限をいれておくので、これに基づいて消費者契約法などを根拠に取り消しを主張できることになります。そしてなによりも任意後見人には通帳を管理する権限も付与するのが通常ですので、物理的に通帳やキャッシュカードを預かって、本人が勝手に振り込めなくすることができます。まとめると、任意後見人は任意後見監督人が選任された後は本人を守るのに十分な権限があります。ただ選任されていない状態や、選任されたとしても「選任前に起きた過去の出来事」に対する防衛は不安が残ります。
ちなみに、本人が認知症になった後に裁判所が後見人を選ぶ法定後見制度には取消権があります。
本人が認知症などにより判断能力を欠いた状態で結んでしまった不利益な契約(悪質なリフォーム契約など)を、法定後見の成年後見人等が後から取り消すことができる法的権限です。私は基本的に法定後見を利用するよりできれば元気なうちに任意後見契約を締結した方が良いと考えていますが、この取消権の有無については法定後見制度の方にメリットがあります。
私たちの場合はどっち?判断のポイントを司法書士が解説
それでは、ご自身の家庭ではどちらの制度を検討すべきでしょうか。判断のポイントをまとめました。
- 家族信託が向いているケース
詐欺被害を未然に防ぐことを最優先に考えたい。元気なうちから財産管理を始め、将来の資産凍結にも備えたい。不動産の活用など、柔軟な財産管理を続けたい。 - 任意後見が向いているケース
財産管理だけでなく、介護施設への入所契約など、生活全般の見守りや身上監護を重視したい。万が一、不利益な契約をしてしまった場合の取消権に魅力を感じる。 - 両方の制度を併用するケース
最も盤石な対策として、家族信託と任意後見契約を同時に結ぶ方法もあります。元気なうちは家族信託で財産を守り、将来判断能力が低下した際には任意後見をスタートさせて身上監護もカバーするという、両方の「良いとこ取り」が可能です。
どの方法が最適かは、ご家族の状況や資産内容、そして何よりも「どのような形で親御さんを守りたいか」という想いによって異なります。より詳しい資産凍結防止策の選び方については、別の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。
家族で話し合う勇気。司法書士がその第一歩を支えます
「対策の必要性は分かったけれど、親にどう切り出せばいいか…」
お金や将来の話は、親子であっても非常にデリケートな問題です。多くの方が、その第一歩を踏み出せずに悩んでいらっしゃいます。
下北沢司法書士事務所は、単に法律手続きを代行するだけの存在ではありません。ご依頼があれば、冒頭の事例のようにご自宅へ伺い、ご家族の話し合いの場に専門家として同席させていただきます。
私たちが何よりも大切にしているのは、ご家族全員の「納得」です。一方的に制度を押し付けたり、無理に契約を急がせたりすることは決してありません。それぞれの制度のメリット・デメリットを丁寧にご説明し、ご家庭ごとの事情や想いに寄り添いながら、皆様が心から「この方法で良かった」と思える道筋を一緒に探していきます。どうぞ、安心してご相談ください。
まとめ:大切な家族を詐欺から守るために今できること
高齢の親御さんを狙う詐欺は、もはや他人事ではありません。大切な家族が被害に遭い、財産だけでなく心の平穏まで奪われてしまう前に、私たちにできることがあります。
まず第一に、この記事でご紹介したような詐欺の手口を知り、ご家族で「私たちの家も狙われるかもしれない」という危機感を共有することです。
そして第二に、最も重要なことですが、親御さんが元気で、判断能力がしっかりしているうちに、将来の財産管理について話し合うことです。
家族信託や任意後見といった制度は、元気なうちだからこそ選択できる、未来への「お守り」です。どの対策が最適か迷われたときは、ぜひ私たち専門家にご相談ください。あなたのご家庭の状況を丁寧にお伺いし、最善の道を見つけるお手伝いをさせていただきます。
対応エリアも事務所所在地の世田谷から遠い葛飾区、江戸川区などを含む東京23区はもちろん、今回の事例のように埼玉・千葉・神奈川など首都圏のご相談に対応しております。
対応エリア | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所
あなたからのご相談、心よりお待ちしております。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

