遠方に住んでいても成年後見人になれるのか?
遠く離れて暮らすご両親のことが気にかかり、「もし認知症が進んだら、自分が成年後見人になるべきだろうか…」と、お考えになっているかもしれませんね。しかし、いざという時に「遠方に住んでいる自分でも、後見人になれるのだろうか?」という不安が、大きな壁のように感じられることもあるでしょう。
ご安心ください。結論から申し上げますと、遠方に住んでいても成年後見人になることは可能です。法律には、後見人になる方の居住地を制限する決まりはありません。
ただし、誰でも無条件に選ばれるわけではなく、いくつかの大切なポイントがあります。この記事では、遠方にお住まいの方が成年後見人になるための具体的な道のり、家庭裁判所が何を見ているのか、そして実務上の課題をどう乗り越えればよいのかを、司法書士の視点から優しく、そして詳しく解説していきます。あなたの不安が少しでも和らぎ、次の一歩を踏み出すためのヒントになれば幸いです。
原則可能だが、家庭裁判所の判断が重要
成年後見人になるために、ご本人の近くに住んでいる必要は法律上ありません。しかし、実際に誰を後見人に選任するかを決めるのは、家庭裁判所です。家庭裁判所は、ただ一人、ご本人の「利益」や「身上保護」を第一に考えます。
そのため、「この候補者は、ご本人の財産をしっかりと守り、生活を見守る『後見の職務』をきちんと果たせるだろうか?」という視点で、候補者の方の状況を総合的に判断します。遠方に住んでいるという事実は、その意味ではマイナス要因になってしまうと考えるべきでしょう。厚生労働省の示す成年後見人等の選任と役割においても、職務を適切に行えるかどうかが重視されています。大切なのは、物理的な距離というハンディキャップがありつつも、その人が後見人になることがご本人のメリットになることを説明できることになってきます。

家庭裁判所はここを見る!遠方の後見人選任における判断基準
では、家庭裁判所は具体的にどのような点を見て、遠方に住む候補者が後見人としてふさわしいかを判断するのでしょうか。後見人の主な仕事は「財産管理」と「身上監護」の二つです。家庭裁判所も、この二つの職務を遠方からでも適切に行えるかという視点で、候補者の方を評価します。
1. 財産管理を適切に行えるか
財産管理とは、ご本人の預貯金の入出金管理、不動産や有価証券の管理、年金の受領、税金や公共料金の支払いなど、お金に関する一切の管理を指します。後見人は、これらの収支をすべて記録し、定期的に家庭裁判所に報告する義務があります。
遠方にお住まいでも財産管理は過不足なく行えるとは思いますが、特に次のような点について自ら積極的に説明する姿勢を見せると、家庭裁判所としても安心だと思います。
- 可能な限り支払いを引き落としにして、現金を取り扱う場面を少なくする
- 近隣の管理会社と連携する等、ご本人がお持ちの不動産について適切に維持管理する
- ご本人に定期的に現金を渡す必要がある時は交通費とのバランスも考えて適切なペースや金額を提示する
こういうポイントに聞かれてから答えるのではなく、家庭裁判所に後見申し立てをする時点で積極的に説明するのも一案です。
2. 身上監護を適切に行えるか
身上監護とは、ご本人が安心して穏やかな生活を送れるように、生活環境を整えることです。具体的には、ご本人の心身の状態や生活の様子を定期的に確認し、必要な介護サービスや医療機関との契約手続き、施設への入退所手続きなどを行います。
物理的な距離があると、この身上監護が最も難しい課題となりがちです。家庭裁判所が特に懸念するのは、「緊急時にすぐ駆けつけられない」「日々の小さな変化に気づきにくいのではないか」という点です。そのため、以下のような点を明確に説明する必要があります。この点、施設に入居しており本人を保護する体制が整えられていたり、介護関係者と連携して本人の様子を誰かしら身に行ける状況が作られているなど、遠いことで生じるマイナス面をどうフォローするのか、後見人の職務として考える必要があります。
3. 協力者や支援体制が整っているか
2とも繋がりますが、遠方にお住まいの方が後見人に選ばれる上で、最も強力な後押しとなるのが「支援体制」です。すべてを一人で抱え込むのではなく、周囲の協力を得られる環境が整っていることを示すことができれば、家庭裁判所も安心して選任しやすくなります。後見人そのものも、誰かを頼らないで自分だけで駆け込むと体力的・精神的なプレッシャーに押しつぶされてしまうかも知れません。
例えば、以下のような協力者がいると心強いでしょう。
- ご本人の近隣に住んでいて、何かあればすぐに様子を見に行ってくれる他のご親族
- 日々の生活をサポートしてくれるケアマネージャーやヘルパーとの良好な関係
- 地域の民生委員や地域包括支援センターとの連携
「自分は遠くにいるけれど、これだけの人たちがチームとしてご本人を支える体制ができています」と示すことができると良いと思います。

司法書士が解説!遠方で後見人になるデメリットと具体的な対策
家庭裁判所の判断基準をご理解いただいた上で、ここでは実務上、遠方で後見人になる際に直面しがちなデメリットと、それを乗り越えるための具体的な対策をセットで解説します。事前に課題を把握し、備えておくことで、不安は大きく軽減されます。
デメリット1:緊急時の対応が遅れる
最も心配されるのが、ご本人の急な体調変化や事故などの緊急事態です。遠方にいると、連絡を受けてもすぐに駆けつけることができません。このタイムラグが、ご本人の不利益につながってしまう可能性はゼロではありません。
【対策】
このリスクを最小限にするためには、「緊急連絡網」と「代理対応の協力者」を事前に確保しておくことが不可欠です。ご本人の状況をよく知るケアマネージャー、施設の職員、近隣にお住まいのご親族など、複数の連絡先をリストアップし、緊急時には誰がどのような役割を担うのかを明確に決めておきましょう。「何かあったら、まず〇〇さんに連絡し、病院への付き添いをお願いする」といった具体的な取り決めがもしできれば、本人も後見人も安心です。
デメリット2:日常的な見守りやコミュニケーションが困難
頻繁に会えないことで、ご本人の心身の小さな変化に気づきにくくなる可能性があります。また、コミュニケーションが不足すると、ご本人が孤独を感じたり、後見人に対して不信感を抱いてしまったりすることもあります。
【対策】
もしもご本人が対応できる状態なら、現代のテクノロジーを積極的に活用するのも一案です。スマートフォンやタブレットを使った定期的なビデオ通話は、お互いの顔を見ながら話せるため、電話だけよりも安心感が高まります。また、地域の見守りサービスを利用したり、ヘルパーさんから訪問時の様子をこまめに報告してもらったりすることも有効です。ご親族間でLINEグループなどを作り、ご本人の情報を常に共有できる体制を整えておくのも良い方法です。確かに認知症がかなり進んでしまった状態ではできないでしょうが、ご本人の状態によっては有効です。
デメリット3:交通費や時間の負担が大きい
ご本人のもとへ定期的に通うための交通費や移動時間は、決して無視できない負担です。「この費用は自腹なのだろうか…」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
【対策】
後見事務に必要な費用(合理的な範囲の交通費等)は、民法861条2項により本人の財産から支弁します。なるべく引き落としにすると振り込む手間も省けるし、通帳に振込先も記録されるので楽です。現金の場合は支出の必要性・相当性が説明できるよう、日付・目的・経路・金額、領収書等を記録・保管し、定期報告で説明できる形にしておきましょう。エクセルなどで簡単で良いので費用内訳表を作っておくと、裁判所に説明するときもそれを提出すれば簡単なため、便利だと思います。
参考資料
後見人の費用負担に関する基本的な考え方については、以下の資料も参考になります。
裁判所|早わかり 成年後見人

【実績紹介】当事務所が担当した遠方の成年後見ケース
ここでは、実際に当事務所が司法書士として、遠方にお住まいのご本人様の成年後見人に就任したケースをいくつかご紹介します。机上の空論ではなく、実際の経験から見えてきた「遠方でも後見業務を全うするための勘所」を感じていただければと思います。
成年後見人は、ご本人の様子を見に行きやすいという点で、お住まいが近いに越したことはありません。しかし、様々な事情から、遠方に住むご親族や専門家が後見人に就任するケースは実際に存在します。当事務所がこれまでに経験した事例には、それぞれに特別な背景がありました。
ケース1:複雑な不動産売却が控えていたケース(ご本人:千葉県)
このケースでは、ご本人様が所有する不動産の売却が予定されていましたが、近隣の土地所有者と歩調を合わせて売却する必要があり、非複雑な調整が求められる状況でした。事務所からは遠方でしたが、私の不動産会社での勤務経験や売却実務の知識に期待を寄せていただき、後見人に選任されました。法律手続きだけでなく、不動産取引の機微を理解している専門家だからこそ、円滑に話を進められた事例です。
ケース2:ご家庭の事情を長年把握していたケース(ご本人:茨城県)
あるご家庭とは、相続対策の生前贈与などで長年お付き合いがありました。そのお父様が認知症となり後見人が必要になった際、ご家庭の状況や人間関係を深く理解している私に白羽の矢が立ちました。お住まいは茨城県でしたが、信頼関係が構築できていたことが、距離の壁を越える決め手となりました。
ケース3:ご親族が都内にお住まいだったケース(ご本人:神奈川県)
ご本人様は神奈川県にお住まいでしたが、後見の申立てを主導するご親族が都内の方でした。そのご親族が複数の事務所を比較検討された上で、当事務所にご依頼くださいました。後見業務は、ご本人様だけでなく、ご親族との密なコミュニケーションが不可欠です。ご親族が安心して相談できる相手であることも、後見人選びの重要なポイントだと改めて感じたケースです。
ケース4:家計の立て直しが急務だったケース(ご本人:神奈川県)
施設に入居されている方の甥御さんからご相談を受け、当初は甥御さん自身が後見人になる予定で準備を進めていました。しかし、財産状況を詳しく調べると、家計は赤字で、このままでは10年以内に預貯金が底をつくことが判明。施設の移転なども含めた抜本的な立て直しが必要な状況でした。
甥御さんを候補者として申立てをしましたが、家庭裁判所から「本当に家計の立て直しができますか?」と計画の提出を求められ、甥御さんは対応に苦慮されていました。裁判所から、専門職後見人の選任も含めて検討するよう示唆があり、最終的に専門職後見人として当職が選任されました。ご本人の生活を守るためには、時に専門家によるシビアな判断と実行力が求められるのです。
このように、一口に「遠方」と言っても事情は様々です。特にご自宅で生活されている場合は、介護関係者と密に連携し、安定した生活基盤を築けるかが鍵となります。選任可否は距離だけで一律には決まりません。面会頻度、緊急時の支援体制、財産管理の具体的方法、関係機関(ケアマネ等)との連携体制などを具体的に示せるかが重要です。
遠方からの成年後見、専門家への相談も選択肢に
ここまでお読みいただき、遠方にお住まいでも成年後見人になれる可能性と、そのために乗り越えるべき課題について、具体的なイメージが湧いてきたのではないでしょうか。
ご自身で後見人になる道を選ぶにせよ、様々な課題を前に「自分一人では難しいかもしれない」と感じる場面もあるかもしれません。特に、ご親族間の意見調整が難航しそうな場合や、不動産の売却など専門的な知識が必要な手続きが控えている場合は、無理に一人で抱え込まず、私たちのような専門家を頼ることも有効な選択肢の一つです。成年後見では、ご本人の居住用不動産(ご自宅など)を売却する場合、家庭裁判所の許可が必要であり、専門的な手続きが求められます。
司法書士は、法律の専門家として申立て手続きをサポートするだけでなく、時には自らが後見人に就任し、ご本人とご家族の皆様に寄り添いながら、財産と生活を守るお手伝いをします。
ご自身で後見人になる方も、専門家への依頼を検討する方も
「自分が後見人になるつもりだが、手続きの進め方だけ教えてほしい」
「やはり自分では難しいので、専門家にお願いすることを検討したい」
どちらの段階であっても、私たちはあなたの良き相談相手でありたいと考えています。ご自身の状況やご希望を丁寧にお伺いし、あなたとご家族にとって最善の道は何かを「一緒に考える」パートナーとして、全力でサポートいたします。どんな些細なことでも、一人で悩まずにお話しください。
東京近郊(千葉・埼玉・神奈川・茨城)からのご相談も歓迎します
当事務所は下北沢にありますが、これまでにもご紹介した通り、東京都内だけでなく、千葉県、埼玉県、神奈川県、茨城県など近隣県にお住まいの方からのご相談も数多くお受けしてきました。
主な対応エリアはこちら↓
対応エリア | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所
「うちのケースは遠いから、相談しても断られるかもしれない」と諦めてしまう前に、ぜひ一度、当事務所のご相談をご利用ください。お話を伺った上で、私たちができること、そして最善の解決策を一緒に見つけていきましょう。あなたからのご連絡を、心よりお待ちしております。

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

