駐車場で契約者死亡。相続放棄された放置車両の対処法|司法書士解説

「相続放棄したので関係ない」契約者死亡で放置された車、どうすれば?

月極駐車場を経営されているオーナー様にとって、契約者が死亡してしまうトラブルは頭の痛い問題です。

賃料の支払いは止まり、連絡もつかなくなった契約者様。ようやく連絡が取れたご遺族からは「相続放棄」という聞き慣れない言葉を告げられる…。駐車場の一区画は車に占有されたまま、新たな契約者を募集することもできず、賃料収入は途絶えてしまいます。車両は風雨にさらされ、日に日に劣化していく様子は、駐車場の景観を損なうだけでなく、オイル漏れや部品の脱落など、安全上のリスクにもなりかねません。

「いっそのこと、レッカーで移動してスクラップにしてしまいたい…」

そうお考えになるお気持ちは痛いほどわかります。しかし、その行動はオーナー様ご自身を、さらに深刻な法的トラブルに巻き込む危険性をはらんでいます。この記事では、駐車場経営者様が直面するこの複雑で厄介な問題について、法的なリスクから具体的な解決プロセスまで、司法書士の視点から詳しく解説いたします。

相続放棄した相続人に責任はない?民法940条の「管理責任」とは

「相続放棄したのだから、一切関係ない」という相続人の主張は、本当に正しいのでしょうか。実は、民法にはこの状況に関する重要な条文があります。それが民法940条です。この条文は、相続放棄をした人にも一定の責任が残ることを定めており、問題解決の重要な糸口となります。

「占有」していた相続放棄者には管理義務が残る

民法940条1項には、次のように定められています。

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を管理しなければならない。

少し難しい表現ですが、要約すると「相続放棄をしても、その財産を現に占有している時は次の管理者(他の相続人や相続財産清算人)に引き渡すまで、自分の財産と同じようにきちんと管理し続けなければならない」ということです。

「現に占有」がどういう状態を指すか難しいところですが、例えば亡くなった契約者のご家族が、生前に車の鍵を預かっていたり、運転することがあったりした場合、この「占有」にあたる可能性があります。その場合、「相続放棄したから知らない」では済まされず、法的な管理責任が残っているのです。

管理責任を怠った場合のリスクとは?

では、相続放棄者がこの管理責任を怠るとどうなるのでしょうか。例えば、放置された車両の劣化が進み、ガソリンやオイルが漏れ出して駐車場の地面を汚染してしまった場合、オーナー様はその原状回復費用を、管理義務違反を理由に相続放棄者へ請求できる可能性があります。

また、タイヤの空気が抜けて車体が傾き、隣の車や通行人に損害を与えてしまったようなケースでは、第三者に対する損害賠償責任を問われることも考えられます。この「管理責任」は、放置を続けることが相続放棄者自身にとってもリスクであることを示しており、相続放棄した方と交渉を行う上で非常に重要な法的根拠となるのです。

司法書士が駐車場経営者の相談に乗り、法律書を指差しながら民法940条の管理責任について説明している様子。

司法書士による放置車両問題の解決プロセス【実際の相談事例】

法的なリスクや根拠が分かっても、具体的にどう動けばよいのか、当事者であるオーナー様が判断するのは難しいでしょう。ここからは、私たち司法書士が、実際にこのようなご相談を受けた際に、どのように問題解決へと導いていくのか、具体的なプロセスを当事務所の事例を交えてご紹介します。

【専門家の視点】ある駐車場オーナー様からのご相談

「契約者さんが亡くなり、ご遺族から相続放棄したと連絡がありました。駐車場には車が置きっぱなしです。このままだと次の人に貸すこともできず、本当に困っています…」

このような切実なご相談を受け、私が実際に行った対応は、単に法律論を振りかざすのではなく、相手方の状況にも配慮しながら、一つひとつ着実に手続きを進めるというものでした。

まず、最初に行ったのは事実確認です。
ステップ1:陸運局で自動車登録事項証明書を取得し、亡くなった契約者様が車の所有者であることを法的に確認します。
ステップ2:次に、契約者様の戸籍謄本を収集し、法的な相続人が誰であるかを正確に確定させます。

事実関係が固まったところで、いよいよ相続人との交渉に入ります。
ステップ3:確定した相続人全員に対し、通知文を送付します。相続放棄をされているのであれば、その事実を証明する「相続放棄申述受理証明書」の写しを送っていただくよう、丁寧にお願いします。なお、この証明書で家庭裁判所が申述を受理した事実は確認できますが、民法上の管理責任や占有の有無は、別途戸籍・住民票の調査や実際の状況確認などから総合的に判断する必要があります。

ここからが、この問題解決における最も重要な局面です。
ステップ4:相続放棄の事実が確認できた後、再度相続人の方にご連絡します。そして、「車両の処分費用はすべてオーナー様側で負担しますので、『車両の処分について異議を述べない』という内容の書面に、ご署名とご捺印をいただけないでしょうか」と要請します。ただし、このような書面の取得には細心の注意が必要です。相続放棄をした人は、担当した弁護士さんや司法書士からこの時、相手方の不安をいかに取り除くかが鍵となります。相続放棄をされた方は、弁護士や司法書士から「相続財産には一切手を出さないでください。処分行為とみなされると、相続放棄が無効になるリスクがあります」と指導されていることが多いです。そのため、強硬な態度で「車を何とかしろ」と迫れば、相手はかえって態度を硬化させてしまうでしょう。

そこで、私は2つの点を丁寧に説明します。

  1. 相手の立場への配慮:「処分を認める」という文言では、相手方が財産の処分を許可したことになり、相続放棄の効力に影響を与えかねません。そうではなく、「異議は述べない」という表現であれば、ご自身の財産ではないのだから異議を唱える立場にない、という論理になり、相手方の相続放棄を傷つけることなく、安心して署名していただけます。
  2. 民法940条の管理責任:「相続放棄をされても、実は法律上、次の管理者が現れるまで管理を続ける責任が残っています。このまま放置して万が一オイル漏れなどで損害が出た場合、逆に責任を問われる可能性もございます。オーナー様側で責任をもって処分することで、そのリスクからも解放されますよ」と、相手方にとってもメリットがあることをお伝えします。

ステップ5:相続人全員から無事に「処分異議なし」の書面をいただくことができれば、オーナー様は法的なリスクを回避した上で、安心して車両を処分し、駐車場を正常な状態に戻すことができるのです。

簡裁代理権を活用した法的措置

簡易裁判所での代理権の認定を受けた司法書士は、訴額が140万円以下の民事事件について、弁護士と同様に代理人として訴訟手続きを行う「簡易裁判所訴訟代理等関係業務」が認められています。認定司法書士は原則として訴額140万円以下の民事事件で簡易裁判所における訴訟代理が可能ですが、駐車場の1区画であれば、この範囲で収まることも非常に多いです。司法書士はこの簡裁代理権を前提として先方との交渉を行います(もしもこの範囲を出てしま場合は司法書士は交渉ができないため、弁護士さんのご紹介などの対応を取ります)。

時間も費用もかかる「相続財産清算人」選任は最後の手段

インターネットでこの問題を調べると、「相続財産清算人(民法改正により名称・制度が整理され、2023年4月1日に施行されるまで『相続財産管理人』と呼ばれていました)を家庭裁判所に選任してもらう」という解決策が見つかるかもしれません。これは、相続人がいない(または全員が相続放棄した)場合に、利害関係者の申立てにより、家庭裁判所が財産の管理者を選任する制度です。

確かに、これは法的に正当な手続きの一つです。しかし、私たちはこれを「最後の手段」と考えています。なぜなら、オーナー様にとって大きな負担が伴うからです。

  • 高額な予納金:申立てをする際には、清算人の報酬や管理費用として、数十万円から100万円程度の「予納金」を裁判所に納める必要があります。この費用は、原則として申立人が負担します。
  • 長い手続き期間:申立てから清算人が選任され、実際に車両が処分されるまでには、1年以上の長い時間がかかることも想定されます。

未払い賃料と逸失利益で損失が出ている上に、さらに高額な費用と時間をかけて手続きを進めるのは、現実的な解決策とは言えない場合が多いのです。だからこそ、私たちはまず、前述したような粘り強い交渉による解決を目指します。

放置車両問題の解決策を比較する図解。司法書士による交渉が費用と時間面で優れているのに対し、相続財産清算人選任は高額な予納金と長い期間がかかることを示している。

放置車両でお困りの駐車場経営者様へ

契約者の死亡と相続放棄による車両の放置問題は、法律と交渉が複雑に絡み合う、非常にデリケートな問題です。自己判断で動くことのリスク、そして原則的な法的手続きの負担の大きさをご理解いただけたかと思います。

当事務所は、単に相続手続きに詳しいだけでなく、代表自身が不動産会社やマンション管理会社での勤務経験を持ち、宅地建物取引士の資格も保有しております。そのため、駐車場経営者様の事業内容や悩みを深く理解した上で、現実的な解決策をご提案することが可能です。同様のケースとして、賃貸アパートの入居者様が亡くなり、ご遺族が相続放棄をされた際の残置物処理に関するご相談にも、数多く対応してまいりました。

また、私は心理カウンセラーの資格も有しております。法的な問題に直面した際のオーナー様の不安やストレスに寄り添い、ただ手続きを進めるだけでなく、「心に優しく、多角的に丁寧に課題と向き合う」ことを信条としています。この厄介な問題から一日も早く解放され、安心して駐車場経営に専念できるよう、全力でサポートいたします。エリアも東京23区、東京都下、神奈川・千葉・埼玉・茨城などの首都圏でのご相談に対応します。

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下北沢司法書士事務所 竹内友章

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