相続登記しない選択肢|義務化後の賢い対処法【司法書士解説】

相続登記義務化でも「あえて進めない」選択をした事例

2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産をお持ちの方にとって大きな関心事となっています。当事務所にも、この義務化をきっかけとしたご相談が数多く寄せられるようになりました。「早く手続きをしないと」と焦るお気持ちでいらっしゃる方も少なくありません。

もちろん、法律で定められた義務ですから、基本的には速やかに手続きを進めるべきです。しかし、ご事情によっては、すぐに相続登記を完了させることだけが唯一の正解とは限らない、とが考えるケースもあります。

そもそも相続登記義務化によって早めの相続登記をお勧めする理由は、「依頼者様のためになるから」です。義務を果たすのが所有者の責任であるという観点ばかりではありません。

実は、ご相談者様と一緒にじっくりお話を伺った結果、最終的に「今は相続登記をせず、少し様子を見る」という結論に至ったこともあります。少し、その時のお話をさせてください。

それは、千葉県にお住まいの方からのご相談でした。ご自宅の相続登記を進めたいとのことで、私たちは早速、必要な書類の準備と調査を始めました。ところが、固定資産の名寄せ帳を確認していると、ご依頼の土地とは別に、見慣れない土地の情報が見つかったのです。

詳しく調べてみると、それは数十人の共有者がいる山林の共有持分で、ご依頼者様のお祖父様の名義のままでした。私はすぐにご依頼者様にご報告し、お祖父様からの相続関係についてお話を伺いました。すると、お孫さんであるご依頼者様の代に至るまでに相続が何回かも繰り返され(数次相続)、相続人のの人数もかなり多人数にのぼりそうなことが分かりました。

相続登記を完了させるには、原則として、その膨大な数の相続人全員と連絡を取り、遺産分割協議をまとめなければなりません。長い時間がかかることが予想されました。

そこで私は、義務化への対策として新設された「相続人申告登記制度」をご説明しました。これは、遺産分割がすぐに整わない場合に、「私が相続人の一人です」と法務局に申し出ることで、ひとまず義務を果たしたことにできる制度です。最大のメリットは、相続登記をしないことによる過料を避けられる点にあります。

しかし…私は登記情報をもう一度注意深く見直しました。すると、他の何十人もの共有者の方々の登記も、何十年も前の日付で止まったままだったのです。

この状況で、ご依頼者様だけが相続人申告登記をするとどうなるでしょう。登記簿に新しい記録としてご依頼者様のお名前が載ることで、まるでご自身が率先してこの山林の問題を解決するリーダー役をかって出るような形に見えるかも知れません。他の共有者から問い合わせが集中したり、連絡がとりやすくなり管理責任に関する問い合わせが依頼者様に集中する可能性も感じました。

私は、相続人申告登記のメリットや過料のリスクについてご説明すると同時に、この「他の共有者の登記も全く動いていない」という事実もお伝えしました。私の説明をじっくりと聞いたご依頼者様の判断は、「一旦、様子を見ましょう」というものでした。

それから1年半ほど経った頃、ご依頼者様から連絡がありました。親族内で話し合いが進み、山林の件についてもある程度の合意ができたとのこと。そして、一時しのぎの相続人申告登記ではなく、正式な相続登記のご依頼をいただいたのです。

このように、私たちは単に「義務だから」と手続きを押し進めるのではなく、一つひとつのご家庭の状況や想いを丁寧に伺い、最善の道筋を一緒に考えます。このテーマの全体像については、相続人が多数・不明でも大丈夫!相続登記義務化の解決事例で体系的に解説しています。

「登記しない」は不可能。でも「すぐ登記しない」は可能

相続登記の義務化により、「相続した不動産の名義変更を全くしない」という選択肢は、法的には存在しなくなりました。正当な理由なく放置すれば、10万円以下の過料が科される可能性があります。

しかし、「“今すぐには”相続登記を完了させなくても、義務違反による過料を回避する方法」はあります。

そのための制度が、先ほどの事例でも触れた「相続人申告登記制度」です。

これは、相続登記の義務を果たすための、いわば「時間稼ぎ」を合法的に認めてくれる制度と考えると分かりやすいかもしれません。

この制度が作られた背景には、深刻化する所有者不明土地問題と、相続人の方々が抱える現実的な困難があります。国としては、不動産の所有者をきちんと把握したい。一方で、相続人が大勢いたり、遺産の分け方で揉めていたりと、すぐに相続登記ができない事情があることも理解しているのです。

そこで、まずは「自分が相続人の一人である」ことだけでも申し出てもらえれば、ひとまず義務は果たしたことにしましょう、という一種の救済措置としてこの制度が生まれました。

もちろん、これは根本的な解決ではなく、最終的には正式な相続登記が必要です。しかし、この制度を賢く利用することで、焦って不利な判断をすることなく、じっくりと問題解決に取り組むための貴重な時間を得ることができるのです。将来のトラブルを避けるためにも、相続登記でありがちなミスを未然に防ぐ視点も大切になります。

より詳しい情報については、法務省のウェブサイトも参考になります。

参照:相続登記の申請義務化に関するQ&A

相続人申告登記制度とは?メリットとデメリットを徹底解説

では、この「相続人申告登記制度」とは具体的にどのようなものでしょうか。あなたの状況に当てはめて利用すべきかどうかを判断できるよう、メリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

相続人申告登記制度のメリット(過料回避、手続きが簡単、時間的猶予)とデメリット(売却不可、根本解決ではない、矢面に立つリスク)を比較した図解。

メリット:過料を回避し、時間的猶予を確保できる

この制度を利用する最大のメリットは、何と言っても「時間」という味方を手に入れられることです。具体的には、以下の3つの点が挙げられます。

  1. 10万円以下の過料をひとまず回避できる
    これが最も直接的で分かりやすいメリットです。相続登記の申請義務の履行期間内(原則として、相続の開始と不動産の取得を知った日から3年以内)にこの申し出を行えば、申出をした相続人については相続登記の申請義務を履行したものとみなされ、過料リスクを下げることができます。
  2. 相続人が単独で、少ない費用と書類で申請できる
    通常の相続登記は、相続人全員の戸籍謄本を集め、遺産分割協議書を作成し、全員の実印と印鑑証明書を揃えるなど、大変な手間と時間がかかります。しかし、相続人申告登記であれば、申し出をする相続人自身が被相続人の相続人であることが分かる戸籍謄本などを提出するだけで、他の相続人の協力なしに一人で手続きが可能です。費用も比較的安価で済みます。
  3. 遺産分割協議がまとまらない場合でも、時間的な猶予を確保できる
    相続人間で意見が対立している場合、「3年以内」という期限に追われて焦ってしまうと、不本意な内容で合意してしまうことにもなりかねません。この制度を使えば、ひとまず義務違反の状態を解消した上で、腰を据えて遺産分割協議を進めることができます。いわば、複雑な問題を解決するための「準備期間」を合法的に得られるのです。

デメリット:権利関係は未確定、根本的な解決にはならない

手軽で便利な制度に見えますが、もちろん良いことばかりではありません。安易に利用する前に、知っておかなければならないデメリットもあります。

  1. 不動産の売却や担保設定ができない
    この申し出は、あくまで「私が相続人の一人です」と公示するだけで、不動産の所有権が誰に移ったかを確定させるものではありません。そのため、相続人申告登記だけでは相続による権利移転が公示されず、売却や担保設定を進めるには、最終的に正式な相続登記(所有権移転登記)を行う必要があります。
  2. 最終的には相続登記が必要で、二度手間になる可能性がある
    相続人申告登記は、問題の根本的な解決にはなりません。また、遺産分割が成立して不動産を取得する人が決まった場合には、相続人申告登記とは別に、取得したことを知った日から3年以内に正式な相続登記(所有権移転登記)を行う必要があります。つまり、手続きが二段階になり、結果的に手間が増えてしまう可能性も考慮しなければなりません。
  3. 登記簿に自分の住所氏名が載ることのリスク
    これは実務上、非常に重要なポイントです。申し出をすると、登記簿にあなたの住所と氏名が記録されます。これにより、登記簿上で連絡先として認識されやすくなり、他の共有者や近隣住民から管理に関する問い合わせや交渉の窓口と見なされるなど、思わぬ連絡が入る可能性があります。問題解決の矢面に立ちたくない場合には、慎重な判断が必要です。

【司法書士の見解】この制度を賢く使うべき人、使うべきでない人

メリットとデメリットを踏まえた上で、どのような方がこの制度を戦略的に活用すべきか、司法書士としての見解をまとめました。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。

【使うべき人(戦略的活用がおすすめのケース)】

  • 相続人の数が多く(例えば10人以上)、全員の戸籍収集や連絡に時間がかかると予想される方
  • 相続人の中に行方不明の方や海外在住の方がいて、すぐに連絡が取れない方
  • 遺産の分け方で意見がまとまらず、家庭裁判所での調停や審判に移行する可能性が高い方
  • 遺言書の内容に納得できない相続人がいて、遺留分侵害額請求などの法的な争いに発展しそうな方

【使うべきでない人(通常の相続登記を急ぐべきケース)】

  • 相続人が配偶者と子のみなど少数で、関係も良好であり、話し合いの見込みが十分にある方
  • 相続後、速やかに不動産を売却して現金で分けたいと考えている方
  • 相続不動産が自宅のみなど、権利関係がシンプルで共有者もいない方
  • 手続きを二度行う手間や費用を避け、一度で完結させたい方

特に困難なケース:共有山林・数次相続の対処法

相続登記の手続きの中でも、特に「共有山林」と「数次相続」が絡むケースは、専門家である私たちにとっても非常に骨の折れる仕事です。冒頭の事例のように、多くの方がここで手続きを断念してしまいます。なぜこれほどまでに困難なのか、そしてどうすれば乗り越えられるのか、具体的な対処法を見ていきましょう。

なぜ「共有山林」や「数次相続」の登記は進まないのか?

問題が進まないのには、構造的な理由があります。

【共有山林の問題点】

  • 価値が低く費用倒れになる: 資産価値がほとんどない山林のために、高額な調査費用や登記費用を負担することに誰も積極的になれません。
  • 共有者が多すぎて合意形成が不可能: 何十年も前に登記されたきりの山林では、共有者が数十人、数百人に膨れ上がっていることも珍しくありません。面識もない人たち全員から合意を取り付けるのは、事実上不可能です。
  • 境界が不明確: 隣地との境界がはっきりせず、どこからどこまでが自分たちの土地なのか分からないケースも多々あります。

【数次相続の問題点】

  • 相続人がネズミ算式に増える: 祖父の相続を放置している間に父が亡くなり、さらに叔父も亡くなる…というように相続が繰り返されると、関係者がどんどん増えていきます。誰が現在の正式な相続人なのかを確定させるだけでも、膨大な戸籍を読み解く必要があり、専門家でなければほぼ不可能です。
  • 連絡調整の物理的な困難: やっとの思いで相続人を特定できても、全国、場合によっては海外に散らばっている人たち全員と連絡を取り、事情を説明し、書類に署名・押印をもらう作業は想像を絶する困難を伴います。

これらの問題が絡み合うことで、「もう自分たちの代で解決するのは無理だ」と多くの方が諦めてしまうのです。より具体的な手順については、数次相続の難しさ|放置した古い相続手続きの解決策をご覧ください。

数次相続によって相続人がネズミ算式に増えていく仕組みを表した家系図。祖父から始まり、子、孫の代へと相続が繰り返されることで関係者が増え、手続きが複雑化する様子を示している。

第一の選択肢:相続人申告登記で時間的猶予を作る

このような絶望的に思える状況でこそ、現実的な第一歩として「相続人申告登記」が有効な選択肢となります。

これは単なる時間稼ぎではありません。複雑に絡み合った問題を解きほぐすための「戦略的な準備期間」を確保する手段なのです。この3年間の猶予期間を使って、専門家とともに腰を据えて相続人調査を進めたり、他の共有者との交渉方針を練ったりすることができます。

ただし、冒頭の事例でお話ししたように、あえて「今は何もしない」という判断が最善となるケースもあり得ます。周囲の状況を冷静に分析し、どの選択がご自身にとって最も負担が少ないかを慎重に見極めることが大切です。

第二の選択肢:相続土地国庫帰属制度を検討する

どうしても相続登記も売却も困難で、ただただ負担になっているだけの土地、いわゆる「負動産」を手放したいと考える方のための制度が「相続土地国庫帰属制度」です。

これは、一定の要件を満たす土地を、国に引き取ってもらう制度です。特に価値の低い山林や原野などを手放したい場合に有効な選択肢となり得ます。

しかし、この制度には厳しいハードルがあることも知っておかなければなりません。

  • 建物が建っていない、担保権が設定されていないなど、承認されるための要件が細かい。
  • 崖地であったり、管理に過大な費用がかかったりする土地は引き取ってもらえない。
  • 審査手数料に加え、承認された際には10年分の土地管理費相当額の負担金(山林の場合は原則20万円~)を納付する必要がある。

全ての土地が引き取ってもらえるわけではなく、相応の費用もかかります。過度な期待はせず、あくまで最終手段の一つとして、専門家と相談しながら冷静に検討することが重要です。負担金の詳細については相続土地国庫帰属制度の負担金に関する法務省のページで確認できます。

まとめ:義務化時代でも、あなたに合った最善の策を一緒に考えます

相続登記は法律上の義務となりました。しかし、だからといって全ての人が同じ方法で、同じように手続きを進めなければならないわけではありません。

ご紹介したように、一時的に過料を回避するための「相続人申告登記」、不要な土地を手放す「相続土地国庫帰属制度」、そして最終的な解決策である「相続登記」と、あなたの状況に応じて選べる道はいくつもあります。

大切なのは、法律のルールに自分を無理やり当てはめるのではなく、あなたのご家庭の事情、親族との関係性、そして何よりあなた自身の想いを大切にしながら、最も納得できる解決策を見つけ出すことです。信頼できる専門家を見つけることも、その第一歩と言えるでしょう。

共有の山林問題、何代にもわたる相続…。一人で抱え込むには、あまりにも重すぎる問題です。私たちは、法律の専門家として手続面を支えるだけでなく、心理面にも配慮しながら、あなたのお話を丁寧に伺い、複雑な課題と多角的に向き合います。

「うちのケースは複雑すぎて、どこから手をつけていいか分からない」
「義務だからと急かされるのではなく、親身に話を聞いてほしい」

そう感じていらっしゃるなら、どうか一人で悩まないでください。世田谷だけでなく、東京23区、千葉・埼玉・神奈川などの首都圏、時には全国からの方があなたと同じように当事務所にご相談いただいております。

まずはご相談で、あなたの状況をお聞かせください。私たちが、あなたにとっての最善の策を一緒に考えます。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

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