相続は手続きにあらず。感情が手続きを止めてしまう現実
「相続」と聞くと、多くの方は役所での書類集めや法務局への登記申請といった、いわゆる「手続き」を思い浮かべるかもしれません。しかし、当然のことですが実際に手続きを取る前に、どいいう手続きをとるかが決まらなくてはなりません。
「書類に実印を押してくれと頼んだだけなのに、昔の話を持ち出されて一方的に電話を切られてしまった」「疎遠だった親戚から、突然、強い口調でなにか叱責され、何を言ってるか分からないしどうしていいか分からない」
このように、法的な手続き以前に、相続人間の感情的なしこりが大きな壁となり、話し合いが一歩も進まなくなってしまうケースもあります。
この記事を読んでくださっているあなたも、今まさにそうした状況で、先の見えない不安や、やり場のない憤り、そして深い心の疲れを感じているかも知れません。
。この記事では、なぜ相続で感情的な対立が起きてしまうのか、その心のメカニズムを解き明かし、私たち司法書士が、特に「中立な立場」だからこそできる心のケアと、具体的な解決への道筋について、実例を交えながら丁寧にご説明します。一人で抱え込まず、まずは心を少し軽くするつもりで読み進めてみてください。
なぜ話し合いが進まない?感情的対立を生む心のメカニズム
相続の話し合いがこじれる原因は、単純な「欲」だけではありません。その根底には、もっと複雑で根深い、一人ひとりの人間らしい感情が渦巻いています。この見えない感情の正体を理解することが、解決への第一歩となります。
「お金」だけが問題ではない、相続に隠された本当の感情
遺産分割協議の場で、「1円でも多く欲しい」「この不動産は絶対に私がもらう」といった主張がぶつかり合うと、表面的には「お金」や「財産」の奪い合いに見えます。しかし、その言葉の裏には、しばしば次のような感情が隠されています。
- 承認欲求:「親の介護を一番頑張ったのは私なのに、誰もその苦労を分かってくれない」
- 不公平感:「兄だけ大学に進学させてもらった。自分は我慢してきたのだから、その分を考慮してほしい」
- 愛情の確認:「生前、父は私のことをどう思っていたのだろうか。財産の分け方で、自分への愛情を測りたい」
- 過去へのこだわり:「子供の頃、いつも姉ばかりが可愛がられていた。あの時の悔しさを晴らしたい」
これらの感情は、お金という分かりやすい指標に置き換えられて噴出します。つまり、相続人の方々は、お金が欲しいのではなく、お金を通じて「自分の存在を認めてほしい」「これまでの貢献を評価してほしい」「親からの愛情を確かめたい」と、心の奥底で叫んでいるのです。この「本当の気持ち」に気づかずに、法律論や正論だけで相手を説得しようとしても、火に油を注ぐだけになってしまいます。
疎遠な関係がさらに問題を複雑化させる
特に、相続人同士の関係が疎遠であった場合、そもそも相手と連絡が取れないことも問題になります。そして、何年も、あるいは何十年も会っていなかった兄弟姉妹や甥姪と、突然、亡くなった方の財産について話し合わなければならないのです。
普段からコミュニケーションが取れていないため、相手が今どんな生活をしていて、何を考えているのか全く分かりません。そのため、ささいな言動にも「何か裏があるのではないか」「自分を騙そうとしているのではないか」と疑心暗鬼に陥りやすくなります。
また、久しぶりの連絡が「相続」というお金の絡むデケートな話題であるため、相手も強い警戒心を抱きます。意外と多いケースが「借金を押し付けようとしているのではないか」と勘違いされること。共同相続人の方もほとんど知らない人は亡くなったからと言ってその相続財産を取得したと思う方ばかりでなく、むしろ突然の連絡にそのまま応じて、実は借金などを背負ってしまうのでは無いかと想像する方も多いように感じます。

司法書士の「中立性」が、こじれた感情を解きほぐす鍵
「相続で揉めたら弁護士」と考える方が多いかもしれません。しかし、感情的な対立が根深いケースでは、私たち司法書士の「ある特性」が、問題解決の意外な鍵となることがあります。それは、法律上、弁護士さんは依頼者の「代理人」となって他の相続人と交渉することができますが、司法書士は交渉することができないこと。この交渉「できない」ことが実は司法書士の強みになります。
弁護士さんと司法書士の違い
弁護士さんと司法書士の最も大きな違いは、相続における立ち位置です。
もし、あなたが弁護士さんに依頼すれば、その弁護士さんはあなたの主張を代弁し、相手方と戦ってくれるでしょう。それが仕事ですし、戦わなければ依頼者であるあなたからお叱りを受けてしまうかも知れません。しかし、相手は弁護士さんから連絡がきたというだけで怖いですし構えます。もちろん司法書士とのやりとりも警戒感はあるでしょうが、弁護士さんと比較の上ではまだそこまで強い警戒ではないことが多いと思います。
話を聞く専門家が「心の安全地帯」を作る
人が心を閉ざしている時、最も必要なのは「反論せずに、ただ話を聞いてもらえる場」だと思います。です。私は、相手の話を話を聞くことを重要視しています。
ここが弁護士さんではやりにくい部分です。もちろん弁護士さんも話は聞きますが、それがあなたの意見と合わない場合、代理人なだけにあなたの立場にたって相手と交渉するのが仕事です。
しかし時として交渉よりも「傾聴」が効果を発揮することもあります。この「傾聴」は交渉ができない司法書士の方が実はやりやすいと考えております。
「これまで誰にも言えなかった親への想い」「他の兄弟に対する積年の不満」「自分の人生の辛かった出来事」…。そうした胸の内を第三者に吐き出すことで、ご自身の感情が整理され、心が少しずつ落ち着いていく「カタルシス効果」が生まれます。
私は、その方の主張を頭ごなしに否定したり、「法律ではこうなっています」と正論を強い言葉で押し付けたりはしません。まずは「そう思っていらっしゃったのですね」「お辛かったですね」と、その方の感情そのものを、ありのままに受け止めます。何を言っても否定されない、評価されない。そうした安心感が、硬直した心の扉をゆっくりと開いていくのです。
【解決事例】傾聴が心の壁を溶かし、協力へと導いたケース
ここで、私が実際に経験したある相続の事例を、当事者の書面による同意を得た上で、個人が特定されない形でご紹介します。まさに、司法書士の「中立性」と「傾聴」が、膠着した状況を打開するきっかけとなったケースです。
ご依頼は、配偶者を亡くされた奥様からでした。お二人の間にお子様はおらず、ご主人は遺言書も残していませんでした。そのため、法律上の相続人は、奥様と、ご主人のご兄弟、そして既に亡くなっているご兄弟のお子様(甥・姪)でした。その多くは、ご依頼者様とはほとんど面識のない方々でした。
戸籍を辿って相続人全員を確定し、私から皆様にお手紙と電話でご連絡を差し上げました。ほとんどの方はご協力いただけたのですが、相続人のうちのお一人から、強い拒絶の連絡が入りました。
「協力するつもりはない。私には言い分がある」
電話口で、その方は固く心を閉ざしておられました。そこで私は、まずはお会いしてお話を伺うことにしました。ご自宅を訪問した際、私は繰り返しこうお伝えしました。
「誰か特定の人の肩を持つこともありませんので、どうか、あなたのお気持ちをありのままに聞かせていただけませんか」
最初は警戒されていたその方も、私のスタンスを理解してくださったのか、少しずつ、ぽつり、ぽつりと胸の内を語り始めてくださいました。お話の内容は、相続財産が欲しいというものではありませんでした。それは、亡くなったご主人、つまりご自身の兄弟に対する、幼少期からの複雑な感情でした。
「親はいつも兄ばかりを可愛がり、自分はないがしろにされてきた。ずっと心に棘が刺さったままだった」
事実がどうであったかは、私には分かりません。しかし、重要なのは、その方が長年にわたってそう感じ、深く傷ついてこられたということです。私はただ、相槌を打ちながら、その方の言葉に静かに耳を傾け続けました。
お話が一段落したとき、私は一言だけお伝えしました。
「それは、本当にお辛かったと思います。今日はお話をお聞かせいただいて、本当にありがとうございました」
その日は、それだけでお話を終えました。すると数日後、その方からお電話があり、「先日はいろいろと聞いてくれてありがとう。相続手続き、協力します」とのお返事をいただくことができたのです。
心の負担を抱えるあなたへ。司法書士ができる最初の一歩
他の相続人とどのように話をしていくか迷っている時、いきなり相手と話そうとしない方が良いかも知れません。まずは、専門家という「壁打ち相手」を見つけ、ご自身の気持ちや段取りを整理することから始めるのです。
当事務所は不動産の相続登記をはじめ、銀行手続きや証券会社での手続きなど相続手続きのご相談を承っております。エリアも事務所のある世田谷区をはじめ、東京23区(墨田区、江東区、北区などでもご依頼実績があります。)、調布市や小平市、吉祥寺などの東京都下・横浜、相模原、川崎、柏など首都圏からのご依頼も承っております。どうぞお気軽に電話やお問合せフォームでご相談ください。
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