成年後見人による施設移転|実際はどのように進むのか?

成年後見人による施設移転は可能か?基本的な考え方

今日は成年後見人として、認知症になったご本人の施設移転をしたケースをご紹介したいと思います。

後見人の権限と本人の意思尊重のバランス

まずは施設移転そのものを後見人がすることができるかどうかについて、基本的な考え方をお伝えしたいと思います。まず、、成年後見人にはご本人の住む場所を強制的に決める「居所指定権」はない、ということです。つまり、「今日からこの施設に住みなさい」と一方的に命令することはできません。

それにもかかわらず施設移転が可能になるのは、それがご本人の心身の状態や生活状況に照らして、安全や生活の質を維持・向上させるために必要不可欠な「身上保護」の義務を果たすことになるからです。

例えば、認知症の進行により一人暮らしでの火の不始末が心配な場合や、介護の必要性が高まりご自宅での生活が困難になった場合など、専門的なケアを受けられる施設へ移ることが、ご本人にとって最善の選択となるケースがあります。この手続きは、ご本人の意思を最大限尊重しつつ、客観的な必要性に基づいて慎重に進める必要があります。このバランス感覚が、後見人には求められます。

施設移転を検討すべき具体的なケースとは

では、具体的にどのような場合に施設移転が現実的な選択肢となるのでしょうか。ご自身の状況と照らし合わせながら、考えてみてください。

  • 経済的な理由:ご自宅での生活費や訪問介護サービスの費用が、施設の利用料を上回ってしまうケースです。年金収入や預貯金の状況を考え、長期的に安定した生活を送るために移転を検討することがあります。
  • 介護上の理由:在宅での介護がご家族の負担の限界を超えていたり、ご本人が常時見守りや専門的な医療ケアを必要とする状態になったりした場合です。より手厚いケアを受けられる環境に移ることで、ご本人もご家族も安心した生活を送れる可能性があります。
  • 安全上の理由:お一人での生活で、転倒による怪我のリスク、火の不始末、緊急時の対応の遅れなどが心配される場合です。特に判断能力が低下していると、ご自身で危険を回避することが難しくなります。

これらの状況に当てはまる場合、施設への移転はご本人の大切な未来を守るための前向きな選択肢となり得ます。

成年後見人として施設移転の手続きの多さに悩む女性

として「登記事項証明書」の提出を求められますので、事前に複数枚取得しておくとスムーズです。

本人が施設移転を拒否する場合の対処法

手続きを進める上で、最も心を悩ませるのが、ご本人から施設への移転を拒否されてしまうケースです。長年住み慣れた家を離れることへの抵抗は、当然の感情です。ここでは、法的な視点だけでなく、心理的な側面からも、どのように向き合っていけばよいのかを考えていきましょう。

なぜ拒否するのか?本人の心理を理解する

まず大切なのは、「なぜ嫌なのだろう?」と、ご本人の心の内を想像してみることです。心理カウンセラーとしての視点から見ると、拒否の背景には様々な感情が隠されています。

  • 愛着と喪失感:「住み慣れたこの家を離れたくない」という、場所への深い愛着と、それを失うことへの寂しさや不安。
  • 変化への恐怖:「知らない場所、知らない人たちの中で暮らすのが怖い」という、新しい環境への適応に対する強い不安感。
  • 自尊心と無力感:「まだ自分でできる」「人の世話にはなりたくない」というプライドや、「家族に迷惑をかけてしまう」という申し訳なさ。
  • 意思の尊重:「自分の人生は自分で決めたい」という、一人の人間として尊重されたいという切実な願い。

こうした複雑な感情を無視して、「あなたのためだから」と一方的に話を進めても、かえって心を閉ざされてしまいます。まずは、ご本人の言葉に静かに耳を傾け、その不安な気持ちに寄り添うことが、対話の第一歩となります。

後見人としてできること:対話と環境整備

ご本人の気持ちを理解した上で、後見人としてできる具体的なアプローチを試してみましょう。大切なのは、一度で説得しようとしないことです。

  • 対話の機会を分ける:時間をかけて、少しずつ、繰り返しお話をします。ご本人の体調や気分が良い時を見計らう配慮も必要です。
  • 不安の傾聴:何が一番不安なのか、何が嫌なのかを具体的に聞き出し、「そうですよね、不安ですよね」と気持ちを受け止める姿勢を見せます。
  • メリットを具体的に伝える:「施設に行けば、24時間誰かがいてくれるから安心だよ」「栄養バランスの取れた温かいご飯が毎日食べられるよ」など、ご本人の生活がどう良くなるのかを具体的に伝えます。
  • 体験入所を提案する:百聞は一見に如かずです。まずはショートステイなどを利用して、施設の雰囲気をご本人に体験してもらうのも有効な方法です。
  • 第三者の力を借りる:後見人やご家族から言われると感情的になってしまうこともあります。ご本人が信頼している医師やケアマネージャーなど、第三者の専門家から客観的な視点で移転の必要性を説明してもらうと、受け入れやすくなることがあります。後見人としてできること:対話と環境整備
  • ご本人の気持ちを理解した上で、後見人としてできる具体的なアプローチを試してみましょう。大切なのは、一度で説得しようとしないことです。

親族の方の苦労にも配慮する

ここまで、成年後見人として施設移転に関する基本的な考え方やご本人の気持ちを大切することについてお話してきました。しかし、私は実際に成年後見人として業務に取り組むうちにあることに気が付きました。それはご本人の周囲にいる親族の方の苦労が置き去りになっていることです。成年後見制度に関する専門書はたくさんあり、そこには親族とのかかわり方についても記載されています。ですが、あくまでご本人のためにいかに親族と良い協力関係を作っていくかという視点で語られています。そこばかりに視点がいくと、結局は親族に対して「ご本人のためにこうして欲しい」という成年後見人とご親族の役割分担の話になりがちです。しかし、親族の方も普通の生活者の1人。ご自身の生活や仕事もあり、休みの日などを使ってご本人のために時間を割いていることに対しての敬意を忘れてはならないと思います。私たち職業後見人は報酬をいただいて仕事としてやっています。その中で、ご親族の方に意見を求めたり協力して欲しいことがある。まわりのご親族も自分の人生の主人公であることを忘れないようにしないとつくづく思います。

【司法書士の現場から】親族と連携し、本人の拒否を乗り越えた事例

私が後見人として関わった、ある方のケースをお話しします(ご本人の特定に繋がらないよう、事実関係を抽象化してご紹介します)。その方は認知症の影響で、ご自身の預貯金が減り続けていることを認識できず、「自分はお金持ちだ」と思い込んでいました。そのため、経済的に見合わない高額な施設への入居にこだわり、親族の方が費用的に無理のない施設への移転を提案すると、感情的に怒り出し、話が全く進まない状況でした。

ご親族は、ご本人の意思に反して移転させることに強い罪悪感を抱き、何年も身動きが取れずにいました。その間に、預貯金はどんどん目減りしていったのです。

私が後見人に就任してから、まずご親族と「このままではいけない」という危機感を共有し、ご本人の財産状況で無理なく暮らせる施設を一緒に探しました。そして移転の日、高級なものが好きなご本人に意にそぐわないことをしてしまうのではないかとある種の罪の意識を感じているご親族に、私はこうお伝えしました。

「もし、心の中で『叔父さんに対して悪いことをした』というお気持ちがあるのなら、それは全部、私が後見人として強引に押し切った、と思ってください。あなたは自分の生活もある中で最大限自分のできることをしています」

このようにお伝えして、心の重荷が少しおろしていただけた様子でした。最終的には、ご親族と協力し、ご本人にも私から改めて移転の必要性を伝え、介護タクシーで新しい施設へ無事に移っていただくことができました。このように、ご家族だけでは感情的に難しい決断も、第三者の専門家が入ることで、ご本人の未来のために一歩踏み出せる場合があります。

施設移転は専門家への相談がおすすめな理由

ここまで見てきたように、成年後見人による施設移転は、法的な手続きの複雑さに加え、ご本人やご親族との感情的な調整など、多くの課題を乗り越えなければなりません。このような難しい問題だからこそ、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

親族では難しい決断も、第三者だからこそ進められる

ご親族が後見人になっている場合、長年の情や「本人の意思に反していいのだろうか」という罪悪感から、客観的に見れば必要な決断であっても、どうしても先延ばしにしてしまいがちです。

その結果、ご本人の預貯金が減り続け、選択肢が狭まってしまうケースは少なくありません。私たちのような専門職後見人は、ご家族の気持ちに寄り添いながらも、第三者としての客観的な視点を持ち、ご本人の財産と生活を守るために、時にドライな判断を下すことができます。それこそが、専門家にご依頼いただく大きな価値の一つだと考えています。

複雑な手続きと親族間の調整をワンストップで代行

施設探しから始まり、煩雑な行政手続き、ライフラインの変更、そしてご本人やご親族とのデリケートな話し合いまで、施設移転には膨大な時間と精神的な労力がかかります。

お仕事をされているご家族が、これらすべてに対応するのは現実的に非常に困難です。当事務所にご相談いただければ、これらの負担から解放され、ご自身の生活を守りながら、ご家族の将来に向けた最善の道筋を一緒に考えることができます。

下北沢司法書士事務所は、単に手続きを代行するだけではありません。心理カウンセラーの資格を持つ司法書士が、「心に優しく、多角的に課題と向き合う」ことをモットーに、皆様の不安な気持ちに寄り添います。もし、ご家族の施設移転でお悩みでしたら、一人で抱え込まずに、ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。あなたにとって最善の解決策を、一緒に見つけていきましょう。エリアも東京23区、神奈川・千葉・埼玉など首都圏の成年後見のご相談に対応しています。ぜひお気軽にご相談ください。

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