親族にも貢献できる成年後見
ご家族が認知症などによって判断能力が低下してしまったとき、財産管理をする「成年後見人」をたてるのが成年後見制度。制度趣旨からして当然、「ご本人のため」の制度です。しかし成年後見人があまりりにもこの制度趣旨にこだわりすぎりと、時としてご本人を支えるご家族を経済的・精神的に追い詰め、結果としてご本人にとっても本意ではない状況になることがあると思います。今日はそんな事例についてお話しします。
「施設への支払いが滞らないように、とりあえず自分の貯金から立て替えている…」
「施設側から専門的な話をされても、どう対応していいか分からず、ただプレッシャーを感じる毎日…」
「良かれと思ってやったことが、かえって本人から責められてしまい、心が折れそうだ…」
このようなお悩みを抱え、誰にも相談できずに一人で奮闘されている方は、決して少なくありません。ご本人のことを思うからこそ、ご自身の負担を後回しにしてしまいがちです。しかし、支える方が倒れてしまっては、元も子もありません。
【事例】私が後見人で親族の負担をこう解決した
私が成年後見人として関わらせていただく際、常に心に留めているのは、ご本人だけでなく、その周りで支えているご家族のことも大切にする、ということです。成年後見の教科書には「ご本人のために仕事をするのが成年後見人」と書かれています。しかし、この原則に固執しすぎると、かえって周囲の方を苦しめ、結果的にご本人のためにならないケースがあるのです。
今回ご紹介するのは、まさにそのことを痛感した事例です。※本記事の事例は、ご依頼者の特定に繋がらないよう内容を一般化・抽象化したものであり、金額等も説明のための仮定のものです。

私がこの案件に関わることになったのは、家庭裁判所からの要請がきっかけでした。ご親族が申立てをしたものの、後見人の候補者がいなかったケースです。後見人候補者でもある司法書士が後見人の選任申し立てから関わる場合と違って、事前にいただく情報が限られ、表面的なものになりがちなケースです。
裁判所からの情報で特徴的だったのは、「介護施設の入居費用が、手続き上の問題で支払いが滞っている」という点でした。預貯金は少なくないようでしたので、おそらくお金がないのではなく、手続きができないのだろう、と軽く考えていました。しかし、そこには想像以上に深刻な問題が隠されていたのです。
私が後見人に選任されてから、実質的に活動できるようになるまでには、選任後、即時抗告期間と呼ばれる期間の経過、後見登記事項証明書が取得できるようになるのを待つなど数週間を要します。そんな待機期間の最中、一本の電話がかかってきました。申立人である、ご本人の甥御さんからでした。
そして、その電話で甥御さんが遠慮がちに「叔父の施設費用が本人の口座から引き落とせなくて、300万ほど立て替えているんです・・・」とおっしゃられました。
電話口の甥御さんの様子は、かなり疲れてる様子でした。「まぁ、もう返ってこないと思いますし、保証人になった自分が悪いので良いのですが…」その声は、諦めと疲労に満ちていました。
後見人は、あくまで「ご本人のため」に働きます。ですから、事務的に「調査の上、事実であれば返還しますが、ご本人の生活状況によっては分割のご相談をさせていただく可能性もあります」と答えるのが、教科書的な正解なのかもしれません。
しかし、私は即座にこうお答えしました。「立替金の返還を最優先課題にします。裁判所との調整や資料集めなどあるのである程度時間はかかりますが、極力早く進めます。」と。
本人にお金を請求してくる人に対してまだ事実確認もする前から、ここまで積極姿勢を示すのはあまり教科書的な対応ではないと思います。ですが嘘を言っているようには思えなかったし、この状況は何とか解決したいと思いました。
甥御さんが疲弊していた理由は、お金の問題だけではありませんでした。その後、施設側とやり取りをする中で、その背景が明らかになっていったのです。
その施設は、高級感というか、ホテルのような雰囲気を売りにしている場所でした。しかし、その雰囲気は時として非常に冷淡に感じられるもので、保証人である甥御さんに対して、冷淡な雰囲気で責任の履行を求め続けているようでした。さらに、「ご本人の状態が悪化しているので、他の施設を探して出ていってほしい」と、退去まで要求されていたのです。今の状況だと次の施設を探すのも、その費用を捻出するのも、このままでは甥御さんの負担になってしまいます。認知症になっているご本人からもなぜか辛く当たられ、彼は完全に孤立していました。
私は甥御さんに伝えました。「急いで本人の口座から支払えるようにしてこれ以上の立替金が生じないようにします。また移転の話を施設側からされたら後見人に任せたので分かりませんと回答してください。こちらで時間を稼ぎながらうまくやります。」と。
これもまた、教科書通りではありません。後見人は財産管理はともかく、住む場所をどこにするかなど実際の生活に関わる部分については、むしろ本人のことを昔から知ってる親族の方をイニシアティブをとっていただくのが謙虚な態度だと思います。しかしこのケースでは、甥御さんの精神的な負担を考えれば、私が「盾」になる方が良いと思いました。
そして、具体的な行動に移しました。
- 立替金の返還:ご本人の通帳と甥御さんの支払記録を照合し、立替の事実を通帳コピーなどの客観的な資料で固めました。そして、「甥御さんからの請求に基づき、立て替えられた施設費用を返還します」という形で裁判所に報告し、許可を得て、無事に返金が認められたケースがあります。
- 申立費用の返還:次に、甥御さんが負担していた後見の申立費用についても、ご本人の財産から返還できるよう裁判所に働きかけました。本来、申立費用は申立人の負担が原則です。しかし、「甥が叔母のためにこれだけの費用を自腹で切ることは社会通念上、過大な負担であること。このままでは甥御さんが経済的リスクから本人と距離を置くようになり、結果的にご本人の幸せに繋がらない」と丁寧に説明し、これも許可を得ることができました。
この事例のように、ご家族は時に、経済的にも精神的にも、孤独な立場に追い込まれてしまいます。そんな時、私たちは後見人としての法的な職務を全うしながらも、一番近くで支えているご家族の「味方」でありたいと、心から願っています。
親族の負担を解決する3つのポイントと専門家の役割
先の事例は特別なケースではありません。成年後見制度をうまく活用することで、ご親族が抱える多くの問題を解決に導ける可能性があります。ここでは、そのための3つの重要なポイントと、私たち専門家が果たすべき役割について解説します。
ポイント1:立て替え費用の返還を諦めない
ご家族がご本人のために立て替えた医療費や施設費などは、当然返還すべきと思います。
返還を実現するためには、やはり客観的な証拠が重要です。
- 対象となりやすい費用:医療費、介護サービス費、施設入居費・利用料、税金・公共料金など
- 保管しておくべき証拠::支払いを証明する領収書や振込明細、ご本人の通帳記録、施設からの請求書など
私が後見人になった場合は、これらの証拠を整理し、なぜその支払いが必要だったのかを家庭裁判所に明確に報告・説明することで、ご本人の財産からの返還許可を得られるよう尽力します。「もう返ってこないだろう」と諦める前に、まずはどのような費用を、いつ、いくら支払ったのか、記録を整理しておくことが第一歩となります。

ポイント2:精神的負担は専門家が「盾」になる
成年後見人の仕事は、財産管理だけではありません。ご本人の生活や治療、介護に関する契約などを行う「身上監護」も、非常に重要な職務です。
施設からの退去要求、介護サービス内容の交渉、病院への説明など、ご家族だけでは対応が難しい場面は多々あります。特に精神的に疲弊しているとき、こうした交渉は大きなストレスとなるでしょう。
このような時、専門家である後見人が前面に立つことで、結果としてご家族を精神的なプレッシャーからお守りする「盾」としての役割を果たすことができます。不動産会社での実務経験も持つ私のような司法書士であれば、施設の契約内容を法的な観点だけでなく実務的な観点からも精査し、相手方と対等に交渉を進めることが可能です。ご家族は専門家に任せ、少し距離を置くことで、心穏やかな時間を取り戻し、ご本人と良好な関係を再構築することに専念できるのです。
ポイント3:申立費用も本人財産から支出できる例外
成年後見の申立費用(収入印紙や切手代、診断書取得費用など)は、原則として申立てをした方の負担とされています。しかし、これも絶対ではありません。
家庭裁判所が最も重視するのは「本人の福祉(利益)」です。先の事例のように、「申立費用を親族に負担させることが、経済的な理由から親族と本人との関係を疎遠にさせ、結果的に本人の利益を損なう」といった事情を丁寧に説明することで、本人の財産からの支出が認められることもあります。
この判断は、個別の事情や裁判所の考え方によって異なりますが、「申立てによって利益を受けるのは本人自身である」という視点から、説得力のある上申書を作成し、裁判所に理解を求めるアプローチが有効です。こうした法的な構成や交渉も、専門家だからこそできる重要な役割の一つです。

「親族も大事にする後見人」を選ぶための視点
成年後見制度をうまく活用できるかどうかは、どのような専門家をパートナーに選ぶかにかかっていると言っても過言ではありません。制度の知識が豊富なのは当然として、それ以上に、ご本人だけでなく、支えるご家族の状況や心情にまで寄り添ってくれる専門家を選ぶことが大切です。
専門家へ相談する際には、ぜひ以下のような質問をしてみてください。
- 「これまで親のために立て替えてきた費用があるのですが、返還してもらうことは可能でしょうか?」
- 「施設との今後の交渉が不安なのですが、間に入って対応してもらうことはできますか?」
- 「後見が始まるまでの間、どのようなサポートをしてもらえますか?」
これらの質問に対して、親身になって具体的な解決策を一緒に考えてくれるかどうかは、以下の点を確認すると専門家選びの参考になります。
代表は司法書士資格のほか、不動産取引やマンション管理の実務経験、民間の心理カウンセラー資格を有しています。法律手続きのみならず、家族支援の観点からも対応します。
まとめ:一人で抱え込まず、まずはご相談ください
成年後見制度は、時に冷たく、形式的な制度だという印象を持たれることもあります。しかし、その運用を担う専門家の姿勢や工夫次第で、ご本人だけでなく、長年支えてこられたご家族の経済的・精神的な負担をも大きく軽減できる、非常に心強い制度になり得ます。
あなたが今抱えている立て替え費用の問題や、施設対応のストレスは、決して「仕方がないこと」ではありません。専門家が間に入ることで、解決への道筋が見えてくる可能性は十分にあります。
どうか一人で抱え込まず、その重荷を少しだけ、私にお聞かせいただけないでしょうか。エリアも東京23区(事務所のある世田谷から遠い区でも大丈夫です)、神奈川・千葉・埼玉・茨城でも成年後見人の実績があります。どうぞお気軽にご相談ください!

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

