成年後見の不動産売却|契約後のトラブル解決実例

売買契約後に発覚した判断能力の問題。あなたならどうしますか?

「お父様は、ご自身の意思で不動産を売却できる状態にないようです。このままでは決済手続きは進められません」

不動産売買の決済(残代金の支払いと物件の引渡し)目前で、司法書士からこう告げられたらあなたはどうしますか?

良かれと思って進めてきた親御さんの不動産売却。契約も無事に終わり、あとはお金を受け取るだけ…そう思っていた矢先の出来事です。頭が真っ白になり、「契約が無効になる?」「買主から違約金を請求されるのでは?」「他の兄弟にどう説明すれば…」といった不安が一気に押し寄せてくるのではないでしょうか。

高齢化が進む現代において、これは決して他人事ではありません。不動産売買契約という重要な法律行為の途中で、売主様の判断能力が問題となるケースは、残念ながら少なくないのです。

この記事では、実際にあった相談を基に、契約無効の危機に瀕した不動産売却を成年後見制度を利用して解決に導いた類型的な事例をモデルケースとして、その具体的な解決プロセスを詳細に解説します。

当事務所は、単に法律手続きを行うだけでなく、代表司法書士が持つ不動産会社での実務経験や宅地建物取引士としての知見を活かし、このような複雑な事案について対応実績がございます。もし今、あなたが同じような状況で出口の見えない不安の中にいるのなら、この記事が解決への一つの参考情報となれば幸いです。

不動産売買契約のトラブルで頭を抱える男性。契約無効や違約金のリスクに悩んでいる様子。

【司法書士の実例】契約無効の危機から不動産売却を成功させた方法

これは、実際にあったご相談をモデルケースとして再構成した、あるご家族の物語です。特定の個人が識別されないよう内容は抽象化していますが、皆様が直面しうる問題の核心に触れるものです。

司法書士が見た、ある売却トラブルの顛末

「もうどうしていいか分からないんです」
ご相談に来られたのは、憔悴しきった表情のご長男でした。お父様が施設に入所されたため、空き家になったご実家を売却する話を進めていたとのこと。買主も見つかり、売買契約も締結。あとは決済を待つばかりでした。

しかし、決済直前の司法書士による本人確認の場で、事態は暗転します。お父様との会話が成り立たず、「ご本人の意思で売却するとは判断できない」と指摘されてしまったのです。

買主は当然、予定していた新生活のプランが崩れ、憤慨しています。決済日は刻一刻と迫り、このままでは契約違反として違約金問題に発展しかねません。さらに、売却を主導したご長男に対し、他のご兄弟から「一体どうなっているんだ」と非難の声が上がり始めていました。

まさに八方塞がりの状況で、ご長男は当事務所の扉を叩かれました。私は、ご親族からの要請を受け、家庭裁判所に申立てを行い、お父様の成年後見人に就任。この状況から、売買を完遂させるのが仕事でした。

成年後見人に就任したからといって、すぐに売却できるわけではありません。むしろ、ここからが大変でした。なぜなら、法的に見れば「契約締結時点でお父様に判断能力がなかった可能性が高く、そもそも売買契約自体が無効である」という風にも考えられるからです。

無事に売却するために、私は3つの関門を突破する必要がありました。

第一の関門:契約無効を回避し「追認」する

まず乗り越えるべきは、「契約が無効かもしれない」という問題です。

不動産売買のような重要な契約は、当事者が「自分が何をしているか」を正しく理解していること(これを「意思能力」と言います)が前提となります。もし契約時に意思能力がなかったと判断されれば、その契約は法律上、初めからなかったこと(無効)になります。

しかし、今回のように成年後見人が就任した場合、後からその契約を有効なものとして認める「追認(ついにん)」という手続きが可能です。

本件の状況を総合的に考慮した結果、私はこの「追認」こそが、状況を打開するための有力な選択肢だと考えました。なぜなら、契約を白紙に戻して一から買主を探し直すことは、以下のような多大なデメリットを伴うからです。

  • 時間と費用のロス:新たな買主が見つかる保証はなく、売却までにさらに時間がかかれば、固定資産税などの維持費もかさみます。
  • 買主との深刻なトラブル:契約が無効となれば、手付金の返還等で問題が複雑化する可能性があります。例えば、民法第557条は手付による契約解除について定めていますが、履行に着手していた場合など状況は単純ではありません。買主が被った損害(新居の仮住まい費用など)について、賠償を求められる訴訟に発展するリスクもありました。
  • より不利な条件での売却:一度トラブルがあった物件として、同条件で売却できるとは限りません。

そこで私は、家庭裁判所に対し、成年後見人としてこの契約を「追認」し、売却を前に進める方針を立てました。これは、単に手続きを簡略化するためではありません。ご本人様とご家族にとって、最も負担が少なく、かつ有益な解決策である考えたからです。

第二の関門:家庭裁判所を「説得」する論理

成年後見人が居住用不動産を売却するには、家庭裁判所の許可が不可欠です。ご本人様がお住まいになっていた不動産(居住用不動産)の売却は、生活基盤を失わせる重大な行為であるため、裁判所は非常に慎重に審査します。なぜこの契約をそのまま活かした方がいいのか、明確に言語化して説明する必要がありました。

私は後見人として、この売買契約を追認することが「ご本人様の利益に繋がる」ことを、多角的な視点から裁判所に説明しました。私が提示した説得の根拠は、主に以下の3点です。

成年後見人が不動産売却の許可を得るために家庭裁判所を説得した3つのポイントを図解。「本人の財産的利益」「買主との紛争回避」「家族関係への配慮」。
  1. ご本人様の財産管理上の利益
    お父様は既に施設に入所されており、今後ご自宅に戻って生活する可能性は身体的な問題から考えても極めて低い状況でした。空き家のまま所有し続けることは、固定資産税や管理費がかかるだけで、財産を減らす一方です。この契約条件は市場価格から見ても妥当であり、不動産を売却して管理しやすい預貯金に変えることは、ご本人様の財産を守る上で合理的かつ有益であると主張しました。
  2. 買主とのトラブル回避という利益
    契約を一方的に破棄すれば、買主との間で深刻な法的トラブルに発展する可能性も高い状況でした。既に手付金も受け取っており、違約金や損害賠償請求に発展すれば、かえってご本人様の財産を大きく損なう結果になります。締結済みの契約を履行することこそが、無用な紛争を避け、経済的損失を防ぐ最善の道であることを訴えました。
  3. ご家族の心情への配慮(身上監護)
    もしこの件が訴訟トラブルになれば、売却を主導したご長男に他のご兄弟からの非難が集中することも予想できました。親御さんとして、ご自身の財産が原因で子ども達が争うことを望むはずがありません。ご家族の平穏を保つことも、後見人としてのご本人様の心情に配慮する「身上監護」の重要な役目であると説明しました。

これらの主張は、司法書士としての法律知識だけでなく、宅地建物取引士として不動産取引の妥当性を判断する知識、そして後見人としてご本人様やご家族の状況を深く理解する視点が一体となって初めて構築できるものです。結果として、裁判所はこちらの方針を理解し、無事に売却の許可を得ることができました。

参考:成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分について

第三の関門:「決済トラブル・違約金」を回避する交渉術

後見人の申し立て(申請手続き)をして後見人に就任、家庭裁判所の許可を得て不動産を売却するには数か月はかかってしまいます。当初の決済日はとうに過ぎてしまっており、買主の不満は募る一方でした。

ここで重要になるのが、買主との交渉です。私は後見人として直ちに買主側の不動産会社と連絡を取り、事情を丁寧に説明しました。そして、単に待ってほしいとお願いするのではなく、「決済日を延長するための覚書」の締結をこちらから提案しました。

この覚書には、

  • 成年後見人として売却に向けて裁判所と調整中であること
  • 家庭裁判所の許可が得られ次第、速やかに決済を行うこと
  • 手続き中の進捗を定期的に報告すること

などを明記し、法的な手続きに則って売却を進めるという真摯な姿勢を示しました。これにより、買主にも「ただ待たされる」のではなく、「法的なプロセスに則って確実に所有権が移転される」という安心感を持ってもらうことができました。

このような不動産実務に即した対応は、不動産会社での勤務経験があるからこそできる交渉術です。相手がどうすれば安心なのか、経験上分かりました。結果的に、買主のご理解を得て違約金等の請求を受けることなく、裁判所の許可後に無事決済を完了させることができました。

不動産売買の決済日延長に関する覚書を締結し、握手を交わす当事者。円満な交渉成立のイメージ。

放置は危険!契約後の判断能力問題が招く最悪のシナリオ

もし、あのご家族が専門家に相談せず、問題を放置していたらどうなっていたでしょうか。考えられる最悪のシナリオは、一つではありません。

  • 契約無効と違約金の支払い
    買主側から契約の無効を主張され、受領した手付金の返還はもちろん、契約書に基づき手付金と同額の違約金を請求される可能性があります。
  • 損害賠償請求訴訟
    買主がこの売買を前提に他の家を売却していたり、引っ越しの手配を進めていたりした場合、違約金だけでは収まらず、それによって生じた損害の賠償を求める訴訟を起こされるリスクがあります。
  • 不動産の塩漬け状態
    トラブルが解決するまで、その不動産を他の人に売ることもできません。訴訟になれば数年単位で身動きが取れなくなり、その間の管理費や税金は払い続けなければなりません。
  • 家族関係の崩壊
    金銭的な損失以上に深刻なのが、家族間の亀裂です。「なぜあんな契約をしたんだ」「お前のせいで大変なことになった」と責任のなすり合いが始まり、修復不可能な関係になってしまうことも少なくありません。

一度こじれてしまった不動産トラブルを、当事者だけで解決するのは極めて困難です。感情的な対立も絡み合い、時間と共に問題はより複雑化していくのです。

高齢者の不動産売却こそ、専門家への相談が有効な選択肢です

今回の実例でお分かりいただけたように、成年後見が関わる不動産売却は、単に書類を作成して提出するだけの手続きではありません。それは、法律の知識、不動産取引の実務、そして裁判所や関係者を説得する交渉力が一体となって初めて前に進めることができる、専門的な知識と経験を要する業務と言えるでしょう。

当事務所の代表司法書士は、司法書士資格に加え、宅地建物取引士の資格と不動産営業マンとしての実務経験を有しており、依頼者様ごとに最適な解決策をご提案できるよう努めております。過去の不動産会社やマンション管理会社での勤務経験で培った「現場感覚」と、後見人として数多くの売却実績で得た「裁判所を説得するノウハウ」を兼ね備えています。

もしあなたが今、判断能力に不安のあるご家族の不動産売却でお悩みでしたら、一人で抱え込まないでください。問題が深刻化する前に、ぜひ一度、私たちの話を聞かせていただけませんか。状況を整理し、あなたにとって最善の道筋を一緒に考えます。エリアも東京23区(事務所のある世田谷から遠い区でも大丈夫です!)のご相談だけでなく、千葉・埼玉・神奈川など首都圏のご相談に対応します。

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