「実家を継ぐ代わりに、兄弟にいくら払えば…」専門家の回答
「自分が実家を継ぐ代わりに、他の兄弟には現金を渡して公平にしたい。でも、一体いくら渡せば納得してもらえるのだろうか…」
相続において、遺産の中心がご実家の不動産であるケースは非常に多く、このようなお悩みは後を絶ちません。特に、ご兄弟との関係が良好であればあるほど、「自分のせいで不公平だと思われたくない」というお気持ちが強くなるのは、当然のことでしょう。
先日、当事務所にも世田谷区にお住まいのAさんから、まさに同じようなご相談が寄せられました。
ご両親と同居していたご自宅で相続が発生したAさんは、こう切り出しました。
「自宅は私が相続したいので、現金は姉に渡そうと思っています。ただ、預貯金だけでは不動産の価値に及ばないはずです。そこで、私から姉に不足分を現金で支払って、相続分を公平にしたいのです。でも、その『公平な金額』をどうやって決めたら良いのか分からなくて…」このAさんのお考えは、法律上「代償分割」と呼ばれる、ごく一般的な遺産の分割方法です。私はまず、その点をお伝えして安心いただいた上で、こう続けました。
「金額を決める基準には、相続税の申告に使う『路線価』や、固定資産税の基準になる『固定資産税評価額』などがあります。もちろん、不動産会社に査定を依頼して、実際に売れる価格である『時価』を基準にすることも可能です。差し支えなければ教えていただきたいのですが、お姉様とのご関係は良好ですか?」「特に悪いということはありません。むしろ、私がこのまま家を相続すると言っても、姉は文句を言わないかもしれません。ただ、私が一方的に得をするのは、何となく気が引けるんです」
この誠実なお気持ちこそが、円満な相続の鍵となります。私はAさんに一つのご提案をしました。
「でしたら、いずれにせよ相続税の申告は必要になりますから、その際に税理士が算出する評価額を基準にお話を進めてみてはいかがでしょうか。時価よりは低い金額になりますが、税理士という専門家が算出した客観的な数字であれば、お姉様も納得しやすいと思います」Aさんはこの提案を受け入れ、税理士が算出した評価額をもとに代償金の額を計算し、お姉様に丁寧に説明されました。結果、お姉様は「あなたの気持ちだけで十分よ」と、代償金の受け取りを辞退されたのです。
もしAさんが最初からご自身の利益だけを考えていたら、結果は違っていたかもしれません。ご兄弟を想う誠実な姿勢が、最良の結果を生んだのだと私は感じています。
この記事では、かつてのAさんのように悩んでいるあなたが、ご兄弟との関係を大切にしながら、誰もが納得できる「公平な金額」を見つけ出すための具体的な方法を、専門家の視点から分かりやすく解説していきます。この記事を読み終える頃には、代償分割を円満に進めるための道筋が、はっきりと見えているはずです。
なお、相続財産の分け方の全体像については、相続分の計算(法定相続分)で体系的に解説しています。
なぜ不動産の値段は一つじゃないの?4つの評価額を整理しよう
代償金の計算で多くの方が最初に戸惑うのが、「不動産の値段が一つではない」という事実です。時価、路線価、固定資産税評価額…なぜこれほど多くの価格が存在するのでしょうか。
答えはシンプルで、「目的が違うから」です。服に例えるなら、普段着とフォーマルウェアがあるように、不動産の価格も「誰が」「何のために」使うかによって、異なる物差しが用意されているのです。
まずは、それぞれの評価額が持つ役割を理解し、頭の中を整理していきましょう。

①時価(実勢価格):実際に売れる値段
「もし、この実家を今すぐ売却したらいくらになるか?」
この、最もシンプルで分かりやすい価格が「時価(実勢価格)」です。これは、不動産会社が近隣の取引事例や物件の状態などを総合的に判断して算出する、市場の需要と供給を反映したリアルな価格を指します。
兄弟間の話し合いにおいては、この時価を基準にすることで、「実際に売った場合と同じ価値で分ける」という分かりやすい理屈が成り立つため、最も公平感を得やすいと言えるでしょう。ただし、査定を依頼する不動産会社によって金額に幅が出ることがある点には注意が必要です。当事務所では、営業を受けることなく客観的な不動産の査定額を知るためのお手伝いも可能です。
②公示地価:国が示す土地取引の目安
「公示地価」とは、国土交通省が毎年1月1日時点の土地の価格を調査し、3月に公表するものです。全国の標準的な地点を選んで「1平方メートルあたりの正常な価格」を示すもので、いわば国が定める土地取引の「公的な目安」と言えます。
この公示地価は、不動産鑑定士が土地を評価する際や、公共事業で土地を取得する際の基準となり、時価を判断する上での重要な指標の一つです。ただし、あくまで標準的な土地の価格であり、個別の不動産の事情(建物の状態、日当たり、接道状況など)は反映されないため、直接この価格で代償金を計算することは一般的ではありません。
③相続税評価額(路線価):相続税を計算するための値段
「相続税評価額」は、その名の通り、相続税や贈与税を計算するために使われる価格です。国税庁が定めており、土地については主に「路線価」という基準が用いられます。
路線価とは、主要な道路に面した土地の1平方メートルあたりの価格のことで、毎年7月頃に公表されます。この路線価は、公平な課税を実現するために、地価の変動リスクなどを考慮して、公示地価の8割程度の水準に設定されるのが一般的のようです。
あくまで「税金計算用の価格」であるため、実際の取引価格である時価よりは低くなるのが一般的です。この価格を代償分割の基準に使う場合は、その点を相続人全員が理解し、納得している必要があります。不動産を相続すると、相続税申告が必要になるケースも少なくありません。
参照:財産評価基準書|国税庁
④固定資産税評価額:固定資産税を計算するための値段
不動産をお持ちの方にとって最も身近なのが、この「固定資産税評価額」ではないでしょうか。毎年春頃に市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されている価格です。
これは、固定資産税や都市計画税、不動産取得税、登録免許税といった税金を計算するために、市区町村が3年ごとに評価し直している価格です。目安としては、公示地価の7割程度が一般的のようです。す。
手元で簡単に確認できるため便利な反面、評価替えが3年に一度であることや、時価との乖離が他の評価額より大きい傾向があるため、代償分割の基準として用いる場合は、その特性を理解した上で慎重に検討する必要があります。
【本題】兄弟に渡すお金はどの評価額で決めるべき?
4つの評価額の違いを理解したところで、いよいよ本題です。兄弟に渡す代償金は、どの評価額を基準に決めるのが最も良いのでしょうか。
結論から言うと、「この方法が唯一の正解」というものはありません。最も大切なのは、相続人である兄弟全員が「この基準なら公平だね」と納得できるルールを決めることです。ここでは、状況に応じた最適な選択肢を2つのケースに分けてご提案します。
ケース1:最も公平を期すなら「時価」
ご兄弟との間で少しでも不公平感を生みたくない、あるいは、過去の経緯などから関係性が少しデリケートな状況にある。そのような場合に最も推奨されるのが「時価(実勢価格)」を基準にする方法です。
【メリット】
- 「もし売却していたら、この金額で分けられたはず」という明確な根拠があり、誰もが納得しやすい。
- 相続人間の不公平感をなくし、将来的な不満の種を摘むことができる。
【注意点】
- 客観性を担保するために、複数の不動産会社(できれば3社程度)に査定を依頼し、その平均額を基準にするなどの手間がかかる。
- 不動産査定には営業がつきものであり、その対応が負担になる場合がある。
- ・実際に売却するわけではないので、「本当はいくらで売れたのか」というの厳密には分からない。
お金のことで後々揉めたくない、というお気持ちが強いのであれば、少し手間はかかりますが、時価を基準にするのが最も安全な選択と言えるでしょう。
ケース2:兄弟仲が良好で手間を省きたいなら「相続税評価額」
長年にわたり兄弟間の信頼関係が厚く、円満な話し合いができると確信している。そんな場合には、「相続税評価額(路線価)」を基準にするのも合理的な選択肢です。
【メリット】
- 相続税の申告が必要な場合、いずれにせよ税理士が算出するため、その数字を流用すれば査定の手間が省ける。
- 国税庁が定める公的な価格であるため、一定の客観性と説得力がある。
【注意点】
- 時価の8割程度が目安であるため、実際に売れる価格よりは低くなる。つまり、不動産を取得する側が経済的に少し有利になることを、相続人全員が理解し、納得していることが絶対条件。
冒頭でご紹介したAさんのケースは、まさにこのパターンです。お互いの信頼関係を基に、手続きの簡便さを優先した円満な解決策と言えます。

【司法書士の実務】時価の目安を自分で知る方法
「不動産会社に査定を依頼するのは、まだ少し気が引ける。でも、おおよその時価は知っておきたい」
このようなご要望は、実務の現場で非常によく伺います。そこで、私が不動産会社に査定を依頼する前に、大まかな時価の目安を把握するためによく使う計算式をお伝えします。
それは、「相続税路線価 ÷ 0.8」という計算式です。
前述の通り、相続税路線価は、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定されています。そのため、路線価を0.8で割り戻すことで、簡易的に時価に近い金額を推計することができるのです。
例えば、路線価が2,400万円の土地であれば、「2,400万円 ÷ 0.8 = 3,000万円」となり、時価はおおよそ3,000万円前後ではないかと見当をつけることができます。
もちろん、これはあくまで簡易的な計算方法であり、個別の不動産の特性を反映した正確な時価ではありません。また地方は固定資産材評価額が市場価格より高いこともあり得るので、都心部のみに使える方法でしょう。しかし、この目安を知っておくだけで、不動産会社から提示された査定額が妥当な範囲にあるか判断する材料になりますし、兄弟との話し合いを始める上でのたたき台としても活用できるでしょう。
代償分割を円満に進める3つのステップと注意点
代償分割の基準となる評価額の方向性が決まったら、次はいよいよ具体的な手続きに進みます。後々のトラブルを防ぎ、円満に相続を完了させるためには、丁寧に手順を踏むことも重要です。ここでは、その手順を3つのステップに分けて解説します。
ステップ1:兄弟全員で話し合い、評価の基準を決める
最初に行うべき、そして最も重要なステップが、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)です。感情的になるのではなく、まずは「どの評価額を基準にして金額を決めるか」というルール作りから始めましょう。ここで全員が合意できれば、その後の金額計算は事務的に進めることができます。
話し合いが難航しそうな場合や、冷静に話を進める自信がない場合は、専門家が間に入ることで、円満な解決に向けたサポートが可能です。遺産分割協議は相続人全員の合意が絶対条件となります。
ステップ2:合意内容を「遺産分割協議書」に明記する
話し合いで決まった内容は、必ず「遺産分割協議書」という法的な書面に残してください。口約束は「言った、言わない」のトラブルの元となり、非常に危険です。
代償分割を行う場合の遺産分割協議書には、最低でも以下の項目を明確に記載する必要があります。
- 誰がどの不動産を相続するのか
- 不動産を相続する代償として、誰が誰に、いくらの金銭を支払うのか
- いつまでに支払うのか(支払期日)
- どのように支払うのか(支払方法)
この遺産分割協議書をきちんと作成しておかないと、代償金の支払いが税務署から「贈与」とみなされ、思わぬ贈与税が課されてしまうリスクもあります。作成は専門家にお任せいただくのが最も安全です。より詳しい記載方法については、遺産分割協議書の「その他一切の財産」とは?プロが解説をご覧ください。
ステップ3:不動産の名義変更(相続登記)と代償金の支払い
遺産分割協議書が完成したら、最後の手続きです。協議書の内容に基づき、法務局で不動産の名義をあなたに変更する「相続登記」を行います。この手続きは司法書士の専門分野です。
そして、協議書で定めた期日までに、ご兄弟へ代償金を支払います。支払いは、後々の証拠となるよう、銀行振込など記録が残る形で行うことを強くお勧めします。この2つが完了すれば、代償分割の手続きはすべて終了です。具体的な相続登記の手続きについては、別の記事で詳しく解説しています。
代償金の支払いが難しい…そんな時の対処法
「実家の価値が高く、代償金が数千万円になってしまった。とても一括では支払えない…」
不動産の価値によっては、代償金が高額になり、自己資金だけでは支払いが困難なケースも考えられます。そんな時も、慌てる必要はありません。いくつかの対処法があります。
①分割払いを交渉する
まずは、他の相続人であるご兄弟に、分割での支払いを交渉してみましょう。これが最も現実的な選択肢です。もし合意が得られた場合は、支払期間、毎月の支払額、支払いが遅れた場合の取り決めなどを遺産分割協議書に詳細に記載することが不可欠です。受け取る側が安心できるよう、協議書を公正証書にしておくことも有効な手段です。
②金融機関からローンを組む
一括での支払いを求められた場合には、相続した不動産を担保にして金融機関から融資を受ける「不動産担保ローン」などを利用する方法もあります。問題を早期に解決できるメリットがある一方で、当然ながら金利の負担が発生し、長期的な返済義務を負うことになります。利用する際は、今後のライフプランも考慮し、慎重に検討する必要があるでしょう。
③他の分割方法を再検討する
どうしても代償金の支払いが難しい場合は、代償分割という方法に固執せず、一度立ち止まって他の分割方法を再検討することも、円満解決のためには重要です。
例えば、実家を売却して現金化し、その現金を相続分に応じて分ける「換価分割」という方法もあります。思い出の詰まった実家を手放す決断は辛いものですが、誰もが金銭的に納得でき、しこりを残さないという点では優れた方法です。相続で最も大切なのは、家族が納得できる結論を見つけることです。多数の相続人がいる不動産の売却も選択肢の一つとして考えてみてください。
まとめ:兄弟との円満な相続は専門家への相談から
相続した実家を代償分割で引き継ぐ際に、兄弟に渡す公平な金額の決め方について解説してきました。
不動産の評価額には時価や路線価など複数の種類がありますが、どの基準を選ぶかに絶対の正解はありません。最も重要なのは、「どの評価額を基準にするか、相続人全員で話し合い、心から納得して合意すること」、この一点に尽きます。
不動産の評価、複雑な法律手続き、そして何よりご家族間の感情の調整は、決して簡単なことではありません。一人で抱え込み、良かれと思って進めたことが、かえって誤解やトラブルを生んでしまうこともあります。
私たち司法書士は、法律手続きの専門家であると同時に、皆様のお気持ちに寄り添い、円満な話し合いをサポートする身近な相談相手です。誰に相談すべきか迷った時は、まずはお気軽にご連絡ください。あなたとご兄弟にとって、最良の解決策を一緒に見つけていきましょう。
当事務所では、代償分割や相続に関するご相談を無料で承っております。まずはお話をお聞かせください。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

