「私たちがいなくなったら…」統合失調症の家族を想うご両親へ
「もし、私たち夫婦に何かあったら、この子の将来はどうなってしまうのだろう…」
「財産を遺しても、あの子が一人で正しく管理できるだろうか。悪い人に騙されてしまったら…」
「誰が、この子の人生に寄り添い、支え続けてくれるんだろう…」
統合失調症のお子様を想うご両親から、このようなお気持ちを伺うたび、私は胸が締め付けられる思いがします。先の見えない未来への不安、誰にも打ち明けられない孤独感。そのお悩みは、決してあなたご家族だけのものではありません。
こんにちは。下北沢司法書士事務所の竹内と申します。私は司法書士として財産管理や相続のお手伝いをすると同時に、心理カウンセラーとしてご家族のお心に寄り添う活動もしています。
この記事は、単に法律の制度を解説するためだけのものではありません。皆様が抱える心の重荷を少しでも軽くし、「親亡き後」という漠然とした不安を、具体的な「安心」へと変えるための道筋を示すためにあります。法律と心の両面から、あなたと、あなたの大切なご家族の未来を一緒に考えさせてください。読み終える頃には、きっと希望への第一歩が見えているはずです。
統合失調症と認知症、成年後見はどう違う?知っておきたい3つのポイント
「成年後見」と聞くと、多くの方が認知症の高齢者をイメージされるかもしれません。しかし、統合失調症の方の成年後見には、認知症のケースとは本質的に異なる、いくつかの重要なポイントがあります。この違いを理解することが、お子様の将来を守るための最適な形を見つける鍵となります。
ポイント1:支援期間の長さ|数十年単位の長期的なパートナーシップ
最も大きな違いは、支援が必要となる「期間の長さ」です。
統合失調症は10代後半から30代といった比較的若い年代で発症することが多く、成年後見制度の利用を開始するのも20代や30代からというケースも少なくありません。これは、後見人との関係も長期に渡る可能性があることを意味します。
認知症の高齢者の場合、多くは「残りの人生をいかに穏やかに支えるか」という視点になりますが、統合失調症の場合は全く異なります。後見人は、目先の財産管理を行うだけでなく、ご本人の加齢、ご両親との死別、病状の変化といった、様々なライフステージの変化に対応する必要が出る可能性が強いです。後見人を選ぶということは、短期的な問題を解決する相手を探すのではなく、お子様の長い人生を託せる、信頼できるパートナーを選ぶことに他なりません。
ポイント2:関わり方の違い|症状の波と「できること」に寄り添う
統合失調症には、症状が落ち着いている「寛解期」と、幻覚や妄想などが現れやすい「増悪期」という、症状の波があるのが特徴です。
そのため、後見人の関わり方も、画一的なものではなくなる可能性があります。状態が安定している時期には、ご本人の意思を尊重し、ご本人の趣味ややりたいことに財産を支出することもあるでしょう。
一方で、症状が強く出ている時期には、ご本人が不利益な契約を結んでしまったり、高額な買い物をしてしまったりしないようするなど、保護の色合いが強くなります。このように、ご本人の状態に合わせた後見人の方針も変えていく必要が出るかも知れません。

ポイント3:課題の違い|本人の意思と周囲との「架け橋」になる
統合失調症の方の後見人が直面する特有の課題として、ご本人の意思と、周囲の現実との調整役を担う場面が多くあることが挙げられます。
例えば、ご本人の趣味を安全性の理由から入居施設から止められる場面などが考えられます。確かに安全性も大事なのでうまく調整をする方法がないか、アイデアを出す必要があるかも知れません。
状況によっては、老老相続のように判断能力の低下が主な課題となるケースとはまた違った配慮が必要です。
成年後見制度で「できること」と「できないこと」
ここで、成年後見制度の基本について、改めて整理しておきましょう。この制度は万能ではありません。何ができて、何ができないのかを正しく理解しておくことが大切です。
【できることの例】
- 財産の管理:預貯金の入出金、年金の受け取り、公共料金や家賃の支払いなどを本人に代わって行います。
- 契約行為の代理・取消:本人が不利な契約を結んでしまった場合に、その契約を取り消したり、福祉サービスの利用契約や施設への入所契約などを本人に代わって結んだりします。
- 遺産分割協議:相続が発生した際に、本人に代わって遺産分割の話し合いに参加します。
【できないことの例】
- 日々の介護や身の回りのお世話:食事の支度や入浴の介助といった事実行為は後見人の仕事ではありません(別途ヘルパーなどを手配します)。
- 医療行為への同意:手術や延命治療など、本人の身体に関わる重大な医療行為について同意することはできません。
- 身分行為の代理:結婚、離婚、養子縁組などを本人に代わって行うことはできません。
成年後見人は、あくまで法律面・生活面での手続きをサポートする「代理人」です。財産を安全に守り、ご本人が安心して生活できる環境を整えるのが主な役割であり、その職務は家庭裁判所によって監督されます。時には、後見監督人が選任され、より厳格なチェックが行われることもあります。
ある統合失調症の方との歩み:司法書士が見た「安心」の形
制度の説明だけでは、なかなか具体的なイメージが湧かないかもしれません。ここで、私が後見人として関わらせていただいている、Aさんという女性のお話をさせてください。
Aさんは統合失調症を抱え、狛江市の施設で暮らしています。彼女の趣味は、縫い物でした。しかし、針を使うのは危ないという施設のルールで、大好きな趣味を諦めざるを得ない状況に、Aさんはとてもがっかりされていました。
私は施設側と話し合いの場を持ち、「編み物ではどうでしょうか。針のように尖ったものは使いませんし、間違って飲み込む心配もありません」と提案したのです。
最初は少し難色を示していた施設の方も、自室ではなく共有スペースで行うことを条件に、最終的には認めてくださいました。再び編み物ができるようになったAさんの嬉しそうな顔、そして「初めて彼女のの立場に立って、現実的な対応をしてくれる人が現れて本当に嬉しい」とご両親にも喜んでいただいたことは、今も忘れられません。
実は、ご両親から後見を依頼されたのには、もう一つ大きな理由がありました。それは将来の相続への備えです。Aさんのご兄弟は、過去にAさんの病気が原因でからかわれた経験から、Aさんに対して複雑な感情を抱えていました。ご両親は、自分たちがいなくなった後、Aさんが相続で不利益を被らないか、将来ご兄弟間で感情的な対立が起きないか、深く心配されていたのです。
成年後見人の役割は、単に財産を管理することだけではありません。Aさんの「編み物がしたい」というささやかな願いを叶えるように、ご本人の生活の質(QOL)を高めること。そして、将来訪れる相続の時に、Aさんとご兄弟が公平な形で財産を受け継げるよう、法的な盾となること。ご両親がお元気なうちから、その時に備えて伴走していく。これこそが、私たちが目指す「安心」の形なのです。こうしたサポートは、判断能力が低下した方を不動産の押し買いのような悪質な手口から守ることにも繋がります。
気になる費用は?申立てから長期支援までのコストと助成制度
制度を利用する上で、費用の心配は当然のことと思います。成年後見にかかる費用は、大きく分けて2種類あります。
① 申立て時にかかる初期費用
家庭裁判所への申立て手続きに必要な実費です。収入印紙代、郵便切手代、戸籍謄本などの取得費用、そして医師の診断書作成費用などがかかります。合計で数万円程度が目安ですが、ご本人の判断能力を詳しく調べる「鑑定」が必要になった場合は、さらに10万~20万円程度の鑑定費用が必要となることもあります。
② 後見人への継続的な報酬
後見人が選任された後、継続的に発生する費用です。親族が後見人になる場合は無報酬のこともありますが、私のような司法書士などの専門職が後見人になる場合は、家庭裁判所が本人の財産状況に応じて報酬額を決定します。一般的には、管理する財産額にもよりますが、月額2万円~が目安となり、本人の財産から支払われます。
「継続的な支払いは経済的に難しい…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。そのような場合には、市区町村が費用の一部または全部を助成してくれる「成年後見制度利用支援事業」という公的な制度があります。利用できる条件は自治体によって異なりますので、まずはお住まいの市区町村の福祉担当窓口に問い合わせてみることが大切です。申立て前の支出については、後見開始後に問題となるケースもあるため、慎重な対応が求められます。
成年後見だけじゃない?「親亡き後」に備える他の選択肢
ご家族の状況によっては、成年後見制度以外の方法が適している場合もあります。視野を広げ、最適な選択肢を検討することも重要です。
家族信託
信頼できる家族(例えばご兄弟など)に財産の管理を託す契約です。成年後見制度のように家庭裁判所の監督を受けないため、より柔軟で自由な財産管理が可能になります。ただし、身上監護(生活や療養に関する配慮)は含まれないため、成年後見制度との併用を検討することもあります。
任意後見契約
これは、まだご本人の判断能力がしっかりしているうちに、将来判断能力が低下したときに備えて、あらかじめご自身で後見人を選んでおく契約です。ご両親が元気なうちに、信頼できる専門家などと契約を結んでおくことで、将来への備えができます。任意後見は、法定後見と比べて本人の意思をより強く反映できるのが大きなメリットです。
どの制度が最適かは、ご家族の状況、財産の内容、そして何よりもご本人の意思によって異なります。それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、ご家族に合った方法を選ぶために、一度専門家にご相談いただくことをお勧めします。
まとめ:未来への第一歩は「話すこと」から始まります
ここまで、統合失調症の家族の将来を守るための成年後見制度について、認知症との違いや具体的な事例を交えながらお話ししてきました。
精神的な問題を抱えたご親族に対す漠然とした不安も、一つひとつ紐解き、法的な制度という具体的な形に落とし込んでいくことで、着実な「備え」に変えることができます。
そのための第一歩は、専門家に「話すこと」です。
あなたの不安な気持ち、お子様への想い、誰にも言えなかった悩みを、どうか私たちに聞かせてください。司法書士として、そして心理カウンセラーとして、法律的な解決策をご提案するだけでなく、ご家族皆様のお心に深く寄り添いながら、未来への道を一緒に探すパートナーでありたいと願っています。
エリアも東京23区に限らず、千葉・埼玉・神奈川・茨城の方の後見人をつとめた実績があります。
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下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

