司法書士が解説|認知症で不動産が売れない本当の理由

「認知症だから売れない」の本当の理由、ご存知ですか?

「親が認知症になってしまったので、施設入居の費用を捻出するために実家を売りたい…」「不動産会社に相談したら、認知症だと売却は難しいと言われてしまった…」

ご家族を想う大切なお気持ちとは裏腹に、予期せぬ壁に突き当たり、途方に暮れていらっしゃるのではないでしょうか。多くの方が「認知症だと契約ができないから」という理由を耳にされるかと思いますが、実は、問題の核心はもう少し別のところにあります。

この記事では、なぜ認知症の方の不動産売却が難航するのか、その「本当の理由」を、日々の業務で不動産登記に深く関わる私たち司法書士の視点から、一歩踏み込んで解説します。

そして、最も大切なことですが、道が閉ざされたわけではないということもお伝えしたいと思います。正しい手順を踏めば、ご本人の財産を守りながら、不動産を売却することは可能です。

一人で抱え込まず、まずはこの記事を読んで、問題の全体像を一緒に整理していきましょう。

不動産売却の最後の砦「司法書士」が登記を認めない現実

不動産売却が頓挫してしまう最大の関門、それは不動産の最終的な名義変更手続き、すなわち「所有権移転登記」にあります。そして、この手続きを担うのが私たち司法書士です。なぜ、私たちが登記申請を受け付けられないケースがあるのでしょうか。その背景には、専門家としての重い責任が隠されています。

登記書類を厳しくチェックする司法書士。専門家としての責任の重さを示している。

なぜ?司法書士が登記手続きを止める本当の理由

認知症の方の不動産が売れない理由として、よく「売買契約が法律的に無効になるから」と説明されます。これは間違いなく事実なのですが、いわば“建前”の部分。

仮に、ご本人の判断能力が低下している状態でも、必要な書類がすべて揃っていれば、法務局は登記を受け付けてしまいます。では、なぜ司法書士は「待った」をかけるのでしょうか。

それは、万が一、後から「本人の意思に基づかない不当な取引だった」として親族などから訴訟が起こされた場合、その取引に関与した司法書士は、多額の損害賠償責任を問われたり、場合によっては司法書士の資格を失うリスクがあるからです。

司法書士が名義変更の登記を完了させなければ、買主様は代金を支払うことができません。つまり、売買が成立しないのです。これが、認知症の方の不動産売却がストップしてしまう、現場のリアルな実情です。

司法書士が行う「意思能力」の確認、その具体的な中身とは

私たちが登記手続きをお受けする際、特にご高齢の方の場合は、必ずご本人と直接お会いして「意思能力」の確認を行います。これは、ご自身の行為の結果を正しく理解し、判断できる能力があるかどうかを確認する、非常に重要なプロセスです。住所やお名前、生年月日、売却意志の有無などを中心にご質問していきます。

これらの質問にスムーズにお答えいただけない場合、残念ながら「意思能力に疑いあり」と判断せざるを得ず、登記手続きを進めることはできません。これは、ご本人の大切な財産を守るための、そして買主様をトラブルから守るための、司法書士としての責務なのです。

【実例】スムーズな登記のためにご家族ができること

法律的な判断はもちろん重要ですが、手続きを円滑に進めるためには、ご家族の協力体制も実は大きなポイントになります。これは、私が実際に経験したことからお伝えできる、大切なアドバイスです。

売却活動の前にご相談を受けたケース

あるご家族から、「父が高齢なので、実家を売る前に認知能力に問題がないか一度確認してほしい」とご相談がありました。早速お父様と面談させていただいたところ、ご自身の状況や売却の理由をしっかりとご説明くださり、意思能力に問題はないと判断しました。

ただ、売却の決済までには時間がかかります。その間にご本人の状態が変わる可能性もゼロではありません。そこで私は、ご家族にこう助言しました。「決済を担当する司法書士の先生が最終判断をされるまで、ご家族間で揉め事を起こさないように気をつけてください。そして、先生が行う本人確認には、どうか快く協力してあげてください」と。

司法書士も人間です。ご家族の間でトラブルの気配がしたり、何かを隠そうとしている雰囲気を感じ取ったりすると、どうしても慎重にならざるを得ません。スムーズに手続きを進めるためには、専門家の要請に誠実に応じていただく姿勢が、現実問題として非常に大切なのです。

道はあります。成年後見制度で不動産売却を実現する方法

「では、意思能力がないと判断されたら、もう売却は諦めるしかないの?」いいえ、そんなことはありません。ご本人の判断能力が低下している場合でも、法律に則った手続きを踏むことで、不動産を売却する道がちゃんと用意されています。それが「法定後見・任意後見」で知られる成年後見制度です。

成年後見制度を利用した不動産売却の流れを示した図解。申立てから登記までの5つのステップが描かれている。

成年後見制度とは?基本をわかりやすく解説

成年後見制度とは、認知症や知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が不十分な方々を保護し、支援するための制度です。ご家族などが家庭裁判所に申立てを行うことで、ご本人のために財産管理や身上監護(生活や医療・介護に関する契約など)を行う「成年後見人」が選任されます。

成年後見人が選ばれると、その人がご本人に代わって法的な手続きを行えるようになります。つまり、成年後見人がご本人に代わって買主と売買契約を結び、司法書士に登記手続きを依頼することで、不動産を正式に売却できるようになるのです。ただし、ご本人が居住している不動産を売却する場合は、家庭裁判所の処分許可が必要となることがあり、許可が得られて初めて売却手続きが可能になります。

参考:成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A

不動産売却までの流れと期間の目安

成年後見制度を利用して不動産を売却する場合、一般的な流れは以下のようになります。

  1. 家庭裁判所への後見開始の申立て:必要書類を収集・作成し、申立てを行います。
  2. 成年後見人の選任:家庭裁判所が審査を行い、候補者の中から(または弁護士や司法書士などの専門職から)成年後見人を選任します。(申立てから約2〜4ヶ月)
  3. 居住用不動産処分許可の申立て:売却する不動産がご本人のご自宅である場合、売却に先立ち「この不動産を売却することを許可してください」という申立てを家庭裁判所に行い、許可を得る必要があります。
  4. 不動産の売買活動・契約:後見人が不動産会社と媒介契約を結び、買主を見つけ、売買契約を締結します。
  5. 決済・登記:買主から売買代金を受け取り、司法書士が所有権移転登記を申請します。

申立てから後見人が選任されるまでに数ヶ月、さらに居住用不動産の売却許可にも時間がかかるため、全体としては半年以上の期間を見ておけるとよいでしょう。

メリットと知っておくべき注意点

成年後見制度には、メリットだけでなく、知っておくべき注意点もあります。両方を理解した上で、利用を検討することが大切です。

メリット

  • 法的に正当な手続きで不動産を売却できる:後々のトラブルの心配なく、堂々と売却手続きを進められます。
  • 本人の財産が守られる:後見人は家庭裁判所の監督下にあり、本人の利益に反するような財産の使い方はできません。悪質な詐欺などから財産を守ることにも繋がります。

注意点

  • 申立てや後見人への報酬に費用がかかる:申立ての実費のほか、専門家が後見人に選ばれた場合は、月々の報酬が発生します。
  • 後見は原則として本人が亡くなるまで続く:不動産売却という目的が達成された後も、後見人による財産管理は続きます。
  • 財産の利用に一定の制限がかかる:本人の財産は本人のためにしか使えなくなるため、例えば家族の生活費に充てる、といったことは原則として認められません(例外あり)。

不動産と法律の専門家だからできる、私たちの強み

認知症の方の不動産売却は、法律の知識だけ、あるいは不動産取引の知識だけでは、スムーズに進めることが非常に困難です。その両方に精通していることこそ、下北沢司法書士事務所の強みです。

不動産売却を成功させた司法書士と不動産業者。専門家同士の連携による問題解決を象徴している。

宅建士資格と不動産実務経験を活かしたサポート

当事務所では司法書士資格に加えは、宅地建物取引士・管理業務主任者の資格を保有しています。また、過去には不動産会社やマンション管理会社での勤務経験もあり、不動産業界の慣習や実務を理解しています。

そのため、単に登記手続きを代行するだけでなく、

  • 信頼できる不動産会社の選び方
  • 売却活動の進め方に関するアドバイス
  • 売買契約書の内容チェック

など、不動産売却のプロセス全体を見据えた、実践的なサポートが可能です。法律と実務、両方の視点から、あなたにとって最善の道筋をご提案します。

成年後見人としての不動産売却サポート

私たちは、家庭裁判所から選任され、成年後見人としてご本人の財産管理を行う業務にも力を入れています。これまでにも、成年後見人という立場で、ご本人に代わって不動産売却の手続きを担当した経験がございます。

家庭裁判所への複雑な許可申立ての手続き、不動産会社との連携、買主様との条件交渉など、豊富な経験と実績があります。困難な状況であっても、安心して私たちにお任せください。

まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください

ご親族が認知症になった中での不動産売却は、法律的な手続きの複雑さに加え、ご家族の精神的なご負担も大きい、非常にデリケートな問題です。

この記事でお伝えしたかったことは、以下の2点です。

  1. 認知症を理由に、不動産売却を諦める必要はないこと。成年後見制度という、国が定めた正式な手続きがあります。
  2. 問題を解決するためには、不動産と法律、両方の知見を持った専門家のサポートが不可欠であること。

何から手をつけていいか分からない、誰に相談すればいいか分からない、そんな時は、どうか一人で抱え込まないでください。

当事務所の司法書士は、心理カウンセラーの資格も有しており、ご相談時には皆様のお気持ちに配慮し、丁寧にお話を伺うことを大切にしています。ご状況を整理し、法的な観点から解決策をご提案いたします。

成年後見人の就任実績エリアも事務所のある世田谷の方だけでなく、中野区の方や茨城県の方、横浜市の方や千葉県の方など広範囲で実績があります。

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