借地権信託は地主の承諾が必要?承諾料の相場と実務を解説

借地権信託が「難しい」と言われる本当の理由

「元気なうちに、認知症に備えて自宅の管理を任せたい」「相続で子どもたちが揉めないように、今のうちから対策をしておきたい」ご家族を想うそのお気持ちから、柔軟な財産管理を実現する「家族信託」を検討される方は少なくありません。しかし、その対象が“借地”に建つ不動産である場合、多くの方が思わぬ壁に突き当たります。

その壁とは、「地主の承諾」です。

家族信託は、あくまでご家族の間で財産の管理や承継を決める仕組みです。それにもかかわらず、第三者である地主の意向ひとつで、計画が頓挫してしまう可能性があるのです。この構造的な問題こそが、借地権の信託が「難しい」「ハードルが高い」と言われる本当の理由に他なりません。

「家族に管理を任せるだけなのに、なぜ地主さんの許可がいるのだろう?」「もし断られたら、どうすればいいのか…」

このような不安を抱えるのは、あなただけではありません。この記事では、借地権信託における「地主の承諾」という大きな課題に真正面から向き合い、法的な基礎知識から、実務家としての交渉のポイント、そして万が一承諾が得られなかった場合の「奥の手」まで、具体的かつ実践的に解説していきます。認知症対策や相続準備の全体像については、任意後見・家族信託・法定後見の違いでも体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

【基本の「き」】地主の承諾と承諾料の基礎知識

借地権信託を成功させるためには、まず、その根拠となる法律のルールを正しく理解しておくことが不可欠です。なぜ地主の承諾が必要なのか、そして承諾料とは何なのか。ここでは、交渉の前に押さえておくべき基礎知識を分かりやすく解説します。

借地権信託における地主の承諾の要否を比較した図解。賃借権は原則承諾が必要で承諾料が発生するが、例外的に地上権の場合は承諾不要であることを示している。

なぜ地主の承諾が必要?信託は「譲渡」にあたる

多くの方が疑問に思われるのが、「家族に財産管理を任せる信託が、なぜ第三者への『譲渡』と同じ扱いになるのか?」という点でしょう。この疑問を解く鍵は、信託の法的な仕組みにあります。

家族信託契約を結ぶと、たとえ家族間であっても、財産の名義(所有権)は形式的に委託者(親など)から受託者(子など)へ移転します。これは、受託者が対外的に所有者として、財産の管理や処分をスムーズに行えるようにするための信託の根幹をなす仕組みです。

そして、この「所有権の移転」が、民法第612条第1項で定められた「賃借権の譲渡」に該当すると解釈されるのです。条文では、賃借人は賃貸人(地主)の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡すことができないと定められています。

これが、相続との大きな違いです。相続は法律上の地位を包括的に承継するため、地主の承諾は不要です。しかし、信託は当事者の意思による「契約」であり、法律上は「譲渡」として扱われるため、原則として地主の承諾が必要となる訳です。

承諾料の相場は「借地権価格の10%」が目安

地主の承諾を得る際、多くの場合で「承諾料」の支払いを求められます。これは、地主が借地権の譲渡を認めることへの対価として支払われる金銭です。

この承諾料に法律で定められた明確な金額はありませんが、実務上の目安は存在します。一般には、「借地権価格の5%〜10%程度」が一つの目安として語られることが多いです。なお、当事者間の交渉がまとまらない場合に裁判所に許可を求める手続き(後述する「借地非訟」)では、個別事情や鑑定等を踏まえて金額が判断されます。

例えば、借地権の価値が3,000万円と評価される土地であれば、承諾料の目安は300万円となります。かなり大きな金額になるので、信託を検討する上で事前に考慮しておくべき重要なコストと言えるでしょう。承諾料の支払いを求められた場合にそれに応じても信託を進めるのか、悩みどころだと思います。

例外:地上権の場合は承諾不要だが…

借地権には、実は「賃借権」と「地上権」の2種類が存在します。そして、もしあなたの借地権が「地上権」であれば、地主の承諾や承諾料なしで自由に譲渡(信託)が可能です。

なぜなら、賃借権が貸主と借主の信頼関係を基礎とする「債権」であるのに対し、地上権は土地を直接支配できる強力な権利である「物権」だからです。物権は、原則として所有者の意思のみで自由に譲渡できます。

しかし、ここで注意が必要です。実務上、個人間で設定されている借地権のほとんどは「賃借権」です。地上権は、鉄道会社が線路を敷設する場合など、極めて限定的なケースでしか用いられません。「自分の場合は承諾不要かもしれない」と安易に期待せず、まずはご自身の賃貸借契約書を確認し、権利の種類を正確に把握することが重要です。

実践編:地主さんに伝えるべき3つのポイント

ここまで見てきたように、借地上にたつ建物の信託は地主さんの承諾が必要です。ただ地主さんも信託における法律的な内容は、そこまで詳しくないことがほとんどです。そこで承諾を得るにあたって地主さんに伝えておきたいポイントを3つ紹介します。

司法書士事務所で地主と借地人が借地権信託について話し合っている様子。円満な交渉の重要性を象徴している。

①「何のためか」を誠実に伝える

ますはなぜ信託をしたいのか、その目的を正直に、そして丁寧に伝えましょう。

ポイントは、地主が共感しやすい理由を伝えることです。例えば、「親が高齢になり、今後の認知症による資産凍結に備えて、家族が財産管理をできるようにしたい」「将来、相続で揉めることなく、この土地建物を守っていきたい」といった、ご家族の生活を守るために必要なことをつたえましょう。

「資産活用」「節税」「相続対策」といった言葉は、地主に「自分に不利益が及ぶのではないか」という警戒心を与えかねません。あくまで目的は「家族の安心のため」であることを強調し、信頼関係を築くことから始めましょう。

② 地主に「不利益がない」ことを明確にする

おそらく地主さんが最も懸念しているのは、「借地人が変わることで、自分に何か不利益が生じるのではないか」という点です。この不安を払拭することが、承諾を得るための鍵となります。

具体的には、以下の点を明確に説明しましょう。

  • 利用実態の継続性:信託後も、これまで通り家族が住み続けるだけで、土地の使い方は一切変わらないこと。
  • 地代支払いの確実性:地代の支払いは、これまで通り滞りなく行うこと。むしろ、家族(受託者)が管理することで、より確実に支払われる体制になること。
  • 受託者の信頼性:新しい名義人となる受託者は、見知らぬ第三者ではなく、身元のはっきりした信頼できる家族であること。

これらの点を口頭で伝えるだけでなく、後述する「借地権譲渡承諾書」に明記することで、地主の安心感はより一層高まります。

③「借地権譲渡承諾書」を用意し、合意内容を明文化する

もしも承諾を得られることになったら、承諾書を作成して書面に残しまししょう。信託契約は公正証書で締結することが一般的です。公正証書を作成する公証役場もかなり高い確率で承諾書の提出を求めてくるはずです。

できれば承諾書は、地主さんにお話しする前に事前に文案を作成しておくとよいでしょう。そうすると最初から着地点が見えている状態になるので、地主さんも話の見えやすくなります。相続の場面でも言えることなのですが、相続で難しい相手への対応事例には、こうした事前の準備と丁寧なコミュニケーションが不可欠です。

もし承諾が得られなかったら?司法書士の『奥の手』

ここまで地主さんに伝えるべきポイントをお伝えしましたが、残念ながら地主の承諾が得られないことも十分に考えられます。高額な承諾料を要求されたり、理由なく拒否されたりした場合、多くの方はここで諦めてしまうかもしれません。ここから信託がなぜ所有権移転に該当するのかも含めて、事例で説明していきます。

【実例】交渉決裂…承諾料なしでは難しい現実

以前、杉並区にお住まいの方から、借地上のご自宅を信託したいというご相談を受けました。お父様が認知症になった場合に備え、ご子息が管理や売却をできるようにしたい、というご希望でした。私は任意後見も検討するようお話ししましたが「裁判所に家庭に介入されるのは嫌だ」とのこと。気持ちは分かります。しかし私もこう勧めるのはこの方特有の理由がありました。この方のご自宅は借地権だったのです。借地権だとなにが問題なのでしょうか。借地権は上物を建物の所有権を移転するとそれにくっつく形で借地権も移転します。これに対して地主の承諾が必要なのが借地借家法上のルールです。信託は財産管理の手法です。一見、所有権の移転はしないように見えると思います。しかし信託は所有権が移転するのです。よく受託者に「所有権はあるが固有の財産ではない」と表現されます。財産管理をする人(受託者)に所有権を移転して、対外的に必要な財産管理や処分をスムーズにできるようにするのが信託の特徴です。私はこの点をお客様に指摘しました。そうすると「地主さんとの関係は良好だし大丈夫」との回答でした。私は額面通りには受け取らず懸念を伝えます。理由も説明しました。ですが最後はあまり悲観的に考えるのも良くないと思い、お客様と一緒に地主さんに説明にいくことにしました。2人で地主さんのお宅を訪問し、一通り話した後地主さんはこういいます。「~さんのお宅は相続で問題は生じないのでしょうか」微妙に会話がかみあっていません。どちらかというと、借地権者の将来の相続が、自分に影響を与えないか気にしてるように感じました。私の受け取り方がちょっとひねくれているのかなと思いながらも、地主さんと依頼者さんの話がすすみ、最後に地主さんが「一応、家族に確認してから回答します」とおっしゃいました。そこから数日、依頼者さんから「承諾を断られました。あなたの家の事情は私には関係なく、承諾する理由はない」と言われたそうです。私は「やっぱり・・」と思いました。承諾をするかどうかという場面は、地主さんにとっては大きな収入を得るチャンスです。借地権を売買するときには所有権を移転するので、地主さんの承諾がいります。この時に承諾料を売主から支払うのが慣習になっています。金額は決まっているわけではありませんが、およそ売買価格の10%ほどが多いように思います。都内の売買だと数百万におよぶ収入を得られる「承諾」の場面を金額の提示なしに進められるかは疑問でした。私も地主さんとの面談時に、売買と違い使用者も変わらないし受託者の固有の財産になるわけではないと伝えましたがやはりダメでした。断られたといってもおそらく承諾料の支払いを申し出れば、承諾は得られたと思います。しかしもし売買並みの承諾料を支払うとなると数百万規模になり負担が大きすぎます。しかし、この方の場合は任意後見とも併用することで、地主さんからの承諾を得られたに近い状態を作ることができました。どういう工夫をしたのかは、また別のコラムに譲りたいと思います。

最終手段としての「借地非訟」とは?

どうしても借地権そのものの名義を受託者に移転させる必要がある、といった特別な事情がある場合の最終手段として、「借地非訟」という裁判所の手続きがあります。

これは、借地借家法に基づき、地主が承諾しない場合に、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める制度です。裁判所が、譲渡しても地主に不利になるおそれがないと判断すれば、許可の決定がなされます。その際、承諾料の額も裁判所が決定します。

メリットは、地主が承諾しない場合でも、裁判所の判断により、地主の承諾に代わる譲渡許可を得られる可能性がある点です。一方、デメリットとしては、裁判手続きのための時間と費用がかかること、そして何より、地主との関係性が決定的に悪化してしまうリスクが挙げられます。

借地非訟は、あくまで最後のカードです。私たちは、できる限り当事者間の話し合いと契約の工夫によって円満な解決を目指すべきだと考えています。

信託が最適ではない?「任意後見」という選択肢

ここまで借地権信託について解説してきましたが、地主の承諾というハードルを越えられない場合や、そもそも信託という仕組みがご家庭の状況に合わないケースもあります。

当事務所では、お客様一人ひとりの状況を丁寧にお伺いし、信託ありきではなく、最適な解決策を一緒に考えます。その有力な選択肢の一つが「任意後見制度」です。

任意後見は、本人が元気なうちに、将来判断能力が低下した際に備えて、財産管理などを任せる人(任意後見人)をあらかじめ契約で決めておく制度です。信託との大きな違いは以下の通りです。

  • 所有権が移転しない:財産の名義は本人のままなので、借地権信託のように地主の承諾は不要です。
  • すぐに契約の効力が発生するわけではない:任意後見は、契約をしてすぐ効力が発生するわけではなく、ご本人が認知症を発症して裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てた後に効力が発揮します。

「裁判所が関与するのは少し抵抗がある」と感じる方もいらっしゃいますが、地主の承諾が得られず高額な承諾料も支払えない場合には、極めて有効な対策となります。信託と任意後見、それぞれのメリット・デメリットを比較検討し、ご自身の価値観や状況に合った制度を選ぶことが大切です。当事務所では、費用面からも各制度を比較し、お客様にとって最善の選択をサポートしています。

まとめ|最適な解決策はご家庭ごとに異なります

借地権の信託は、「地主の承諾」という大きなハードルがあり、決して簡単な手続きではありません。承諾を得るための丁寧な交渉、承諾料という金銭的な負担、そして万が一に備えた代替案の検討など、乗り越えるべき課題は多岐にわたります。

しかし、困難だからと諦める必要はありません。

  • 地主との円満な交渉を目指す。
  • もし承諾が得られなくても、信託契約書の工夫で目的の達成を目指す。
  • 信託が難しい場合は、任意後見という別の選択肢を検討する。

このように、専門家が介入することで、解決への道筋が見えてくることがあります。

下北沢司法書士事務所では、単に手続きを代行するだけでなく、お客様一人ひとりのご家庭の状況や想いを深く理解することから始めます。法律の専門家として、そして心理カウンセラーとしての視点も活かしながら、信託や任意後見といった選択肢の中から最適な手段をご提案します。そして、お客様が選んだその道を、契約書の工夫などを通じて最大限ご希望に沿う形に創り上げていくのが私たちの使命です。

借地権の問題でご家族の将来設計を諦める前に、ぜひ一度、私たちにご相談ください。エリアも東京23区はもちろん、東京都下や千葉・埼玉・神奈川など首都圏に対応します。最近はなぜか千葉県や、葛飾区や江戸川区などの東京の東側でのお仕事が多いですが、それ以外の地域の方も気軽にご相談ください!

下北沢司法書士事務所 竹内友章

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