会社設立、夢の実現の前に。登記簿に潜む個人情報のリスク
「いよいよ自分の会社を設立する!」その希望に満ちた一歩は、これからのビジネスの可能性を大きく広げる、本当に素晴らしい決断だと思います。しかしその輝かしい未来の扉を開ける前に、少しだけ立ち止まって考えてみてほしいことがあります。それは、会社を設立すると、あなたの「個人情報」が登記簿を通じて誰でも閲覧できる状態になるという、見過ごされがちなリスクです。
会社設立の手続きを進めると、法務局に会社の情報を登録します。この記録が「登記簿」であり、会社の代表者であるあなたの氏名と自宅住所も記載されるのが原則です。この登記簿は、いわば会社の公式なプロフィール。そして、手数料を払えば誰でもその情報を取得できてしまうのです。
この記事では、なぜ大切な個人情報が公開されるのか、それによってどのような危険が伴うのか、そして何より、あなたのプライバシーを守るための具体的な方法について、専門家の視点から優しく解説していきます。会社設立で後悔しないための第一歩として、まずはこの問題としっかり向き合ってみましょう。
会社設立の全体像についても、会社設立の登記手続きで注意すべきポイントで体系的に解説しています。
なぜ代表者の住所や氏名が公開されるのか?
「どうして自宅の住所まで公開しなくてはいけないの?」そう思われるのは当然のことです。この商業登記制度の目的は、主に「取引の安全を守る」ことにあります。
会社と取引をする相手からすれば、その会社がどこにあり、誰が責任者なのかが分からないと、安心して契約を結んだり、サービスを提供したりできませんよね。万が一トラブルが起きた際に、責任の所在を明確にするためにも、代表者の情報は重要な役割を果たしてきました。このように、会社の情報をオープンにすることで、社会全体の経済活動を円滑にするという大切な目的があるのです。
ですから、株式会社や合同会社といった形態を問わず、代表者の情報は原則として公開されてきたのです。しかしこのルールは大分昔に決められたものです。ネットが普及し、誰もが簡単に情報を手に入れられるようになった現代において、この制度が思わぬリスクを生むことにもなりました。そのため、個人住所を隠すことは、現代社会において非常に意味のある対応と言えるでしょう。
ストーカー、悪質営業…登記情報から起こりうる現実的な危険
登記簿の情報は、法務局の窓口やオンラインで誰でも取得できます。この「誰でも」という点が、現代社会において大きなリスクをはらんでいます。
- ストーカー被害や嫌がらせ:特に女性起業家の方にとって、自宅住所が特定されることは深刻な脅威となり得ます。逆恨みや一方的な好意から、ストーカー行為に発展するケースも考えられます。
- 家族への影響:代表者本人だけでなく、同居するご家族のプライバシーや安全も脅かされる可能性があります。
- 悪質な営業活動:登記情報を元に、毎日大量のダイレクトメールや営業電話が届くようになります。中には、高圧的で悪質な営業も含まれるかもしれません。
- 資産状況の推測:自宅住所と他の情報を組み合わせることで、不動産の所有状況などが推測され、プライバシーが侵害される恐れもあります。
これらのリスクは、決して他人事ではありません。ビジネスを始めるという前向きな一歩が、ご自身や大切な家族を危険に晒すきっかけになってしまうとしたら、これほど悲しいことはありません。

【司法書士の実体験】大家さんが感じた身の危険
先日、町田市でアパートを経営されている大家さんから賃貸物件を管理するための会社設立手続き担当させていただいた時のことです。手続きの合間の雑談で、大家さんがポツリと本音を漏らされました。
「大家も大変ですよ。この間も入居者さんから激しく怒鳴られて…。何年か前に、大家が逆恨みで刺される事件もありましたし、正直、怖いなと感じることがあるんです」
その言葉を聞いて、私もハッとしました。2022年に湘南で起きた痛ましい事件の記憶が蘇ったのです。そして、会社登記で代表者の個人住所を非公開にできる新しい制度が始まったばかりだったことを思い出しました。
「実は、社長の住所について、登記事項証明書などに番地以降を表示しないようにする制度が始まったんですよ」
このお話をしたところ、大家さんは心から安堵された表情を浮かべ、もちろんその方法で登記を進めることになりました。この出来事は、登記簿の個人情報公開が、もはや単なる「制度上の決まり」ではなく、人の心に直接的な「恐怖」を与える現実的な問題なのだと、改めて私に教えてくれました。起業家の皆さんが抱える不安は、決して大げさなものではないのです。
あなたのプライバシーを守る2つの新制度とは
これまで、会社を設立するなら代表者の自宅住所が公開されるのは「当たり前」でした。しかし、先ほどの大家さんのような不安の声が高まり、プライバシー保護の重要性が社会的に認識された結果、ついに国が動きました。
2024年10月1日から、あなたのプライバシーを守るための制度として「代表取締役等住所非表示措置」が利用できるようになりました。加えて、氏名についても、状況によっては登記上の氏名表示を工夫できる場合があります。
これからは、ただ会社を作るだけでなく、「個人情報を守りながら会社を設立する」という新しい常識が生まれます。もう、不安を抱えたまま起業する必要はありません。国が用意したこれらの制度を正しく理解し、活用していきましょう。
【対策1】代表取締役等住所非表示措置とは?
この制度は、ストーカー被害などを防ぐ目的で導入された、非常に画期的なものです。簡単に言うと、会社の登記簿に記載される代表取締役の住所を、番地やマンション名まで公開せず、「市区町村」までの表示に留めることができるという措置です。
例えば、これまでは「東京都世田谷区北沢三丁目21番5号 ユーワハイツ北沢201」と全て公開されていた住所が、「東京都世田谷区」という記載だけで済むようになります。これにより、第三者があなたの自宅をピンポイントで特定することは、極めて困難になります。
この措置は、株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人について、登記事項証明書や登記情報提供サービス等で住所の一部が表示されないようにできる制度です。自宅を本店所在地にしている場合でも、代表者個人の住所としてはこの非表示措置を利用できるため、多くの起業家にとって強力なプライバシー保護の盾となるでしょう。
より詳しい情報については、法務省の公式サイトでも確認できます。
参照:
【対策2】旧姓併記でビジネスキャリアを継続
プライバシーの問題は、住所だけではありません。結婚などで姓が変わった場合、ビジネスで長年使ってきた名前(旧姓)が使えなくなり、キャリアが分断されてしまうという悩みをお持ちの方も少なくありません。
そこで活用できるのが「旧姓併記」制度です。状況によっては、商業登記(役員の氏名)に旧氏(旧姓)を括弧書きで併記できる場合があります。
これにより、結婚後もビジネス上では旧姓を名乗り続けることが公的に証明され、取引先からの信用を維持しやすくなります。契約書や名刺などで旧姓を使っていても、登記簿を見れば本人であることが一目瞭然となり、ビジネス上の本人確認が非常にスムーズになるのです。これは、あなたがこれまで築き上げてきた大切なキャリアと信頼を守るための、もう一つの重要な選択肢と言えるでしょう。

住所非公開・旧姓併記の手続きと知っておくべき注意点
これらの新しい制度は非常に心強いものですが、利用にあたってはいくつかの注意点があり、手続きも決して簡単ではありません。メリットだけでなく、デメリットや手続きのハードルも正しく理解した上で、慎重に判断することが大切です。
ここでは、専門家の視点から、あなたが知っておくべきポイントを詳しく解説します。安易に「自分でできるだろう」と判断する前に、ぜひ一度目を通してみてください。
住所非表示措置のメリットとデメリット
改めて、この制度のメリットとデメリットを整理してみましょう。
| 内容 | |
|---|---|
| メリット | 自宅住所が特定されにくくなり、プライバシーが強力に保護される。ストーカーや悪質な営業、嫌がらせなどのリスクを大幅に低減できる。安心して事業活動に専念できる精神的なメリットが大きい。 |
| デメリット | 金融機関からの融資審査などで、住所を証明する追加書類の提出を求められる可能性がある。一部の取引先から、代表者の住所が不明確であることについて説明を求められる場合がある。手続きが複雑で、申請できるタイミングも限られている。 |
特にデメリットとして挙げられる「信用の低下」については、過度に心配する必要はないかもしれません。しかし、例えば高額な取引や、信用を特に重んじる業界においては、担当者から質問を受ける可能性はゼロではありません。そうした際に、きちんと制度の趣旨を説明できる準備はしておくと良いでしょう。
申請のタイミングと複雑な必要書類
住所非表示措置を利用する上で、最も注意すべき点が2つあります。
1. 申請できるタイミングが限られている
この措置は、いつでも好きな時に申請できるわけではありません。「会社設立登記」や「役員変更登記」など、他の登記手続きと同時に申請する必要があるのです。会社設立時が一番良いタイミングと言えるでしょう。
2. 必要書類の準備が非常に複雑
申請には、通常の設立書類に加えて、特殊な書類を添付する必要があります。例えば、上場会社でない場合は、以下の2点が必要です。
- 本店の実在性を証する書面:本店宛に送られた書留郵便の「配達証明郵便物」など。自分で自分宛に特殊な郵便を出し、その証明書を取得するという、一般の方には馴染みのない手続きが求められます。
- 実質的支配者の本人特定事項を証する書面:実質的支配者リストの写しなど、こちらも準備に専門的な知識が必要です。
これらの書類を不備なく、かつ限られたタイミングで準備するのは、専門家でなければ非常に困難です。もし不備があれば、登記申請そのものが却下されてしまい、会社設立のスケジュールが大幅に遅れてしまうリスクもあります。複雑な役員変更登記と同時に行う場合は、さらに難易度が上がります。
旧姓併記のメリットとデメリット
旧姓併記についても、メリットとデメリットを理解しておきましょう。
| 内容 | |
|---|---|
| メリット | ビジネスで築いたキャリアや人脈、信用を途切れさせることなく継続できる。旧姓での契約や取引において、本人確認がスムーズになる。登記簿上で、旧姓と現在の姓の関係が公的に証明される。 |
| デメリット | あくまで「併記」であり、旧姓のみを登記することはできない。印鑑証明書など、公的な書類では戸籍上の氏名が必要となる場面がある。手続きには、旧姓が記載された戸籍謄本や住民票などが必要となり、準備に手間がかかる場合がある。 |
旧姓併記は、特にフリーランスから法人成りする方や、業界内で知名度のある方にとって非常に有効な手段です。ご自身のビジネススタイルに合わせて、利用を検討する価値は十分にあるでしょう。

会社設立時の個人情報対策は司法書士へ相談を
ここまでお読みいただき、住所非表示措置や旧姓併記の手続きが、決して簡単なものではないことをご理解いただけたかと思います。大切な個人情報を守るための重要な手続きだからこそ、万が一の不備は許されません。
そこで私たちは、これらの複雑な手続きは、専門家である司法書士にご相談いただくことで、手続きの負担や不備のリスクを抑えやすいと考えています。あなたの貴重な時間と労力を、本来集中すべき事業の準備に注いでいただくためにも、専門家のサポートをぜひご活用ください。
なぜ専門家への依頼が最善の選択なのか
司法書士に依頼することで、あなたは以下のようなメリットを得ることができます。
- 複雑な必要書類の準備・作成をすべて任せられる:馴染みのない「配達証明郵便」の取得なども含め、煩雑な書類作成から解放されます。
- 手続きの不備によるリスクを抑えられる:専門家が必要書類や記載内容を確認しながら進めるため、補正対応やスケジュール遅延のリスクを小さくしやすくなります。
- あなたに最適な対策を提案してもらえる:住所非表示と旧姓併記を同時に行うべきかなど、あなたの状況に合わせた最善のプランを一緒に考えます。
- 会社設立全体のプロセスがスムーズに進む:個人情報対策だけでなく、定款作成から登記申請まで、会社設立に関する全ての手続きをワンストップでサポートします。
ご自身で手続きを行う時間的コストや精神的な負担を考えれば、専門家への依頼は、未来への確かな投資と言えるのではないでしょうか。会社設立を専門家に外注することは、あなたが事業の成功に集中するための賢明な選択です。
下北沢司法書士事務所が提供する安心の設立サポート
当事務所は、単に手続きを代行するだけではありません。会社設立という人生の大きな一歩を踏み出すあなたの、一番の味方でありたいと考えています。
代表である私は、司法書士であると同時に心理カウンセラーの資格も持っています。そのため、法律の難しい話から始めるのではなく、まずはお客様が何に不安を感じ、何を一番大切にしたいのか、そのお気持ちをじっくりと伺うことを何よりも大切にしています。
「こんなことを聞いたら恥ずかしいかな?」
「法律のことは何も分からないけれど大丈夫?」
そんな心配は一切いりません。あなたのプライバシーを守り、安心して事業をスタートできるよう、法務面はもちろん、精神面からも力強くサポートします。どうぞ、お気軽な気持ちでご相談ください。エリアも東京をはじめとした首都圏だけでなく、全国の会社設立に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

