急増する不動産の「押し買い」とは?高齢者が狙われる実態
「実家の親、詐欺被害にあったりしないだろうな」
大切なお父様、お母様が持つ不動産について、こんな不安を感じていませんか?今日は当事務所が成年後見業務を通じて経験した、悪質な不動産の「押し買い」事例について紹介します。
一般に「押し買い」は、消費者の自宅等で貴金属やブランド品などの物品を強引に買い取る「訪問購入」トラブルを指します。本記事ではこれにならい、突然の訪問や長時間の勧誘等によって自宅の売却を迫り、相場より著しく低い条件で契約させようとする悪質な自宅売却トラブルも含めて解説します。特に、長年住み慣れた自宅をターゲットにされるケースが増えており、国民生活センターにも多くの相談が寄せられています。
大切な資産を、そして穏やかな暮らしを奪うこの問題は、決して他人事ではありません。この記事では、司法書士として多くのご高齢者と向き合ってきた経験から、押し買いの巧妙な手口、そしてご家族の財産を守るための最も有効な対策の一つである「成年後見制度」について、実例を交えながら詳しく解説していきます。まずは、その具体的な手口から見ていきましょう。
参照:独立行政法人国民生活センター「高齢者の自宅の売却トラブルに注意-強引な勧誘や「リースバック」の契約は慎重に検討を-」
言葉巧みに自宅を奪う「リースバック」悪用の手口
押し買いの中でも、特に巧妙で被害が後を絶たないのが「リースバック」を悪用した手口です。
本来、リースバックは自宅を売却してまとまった資金を得た後も、賃料を払うことでそのまま住み続けられるという、高齢化社会において有効な資金化手段の一つです。リースバックそのものが悪いわけではありません。しかし、悪徳業者はこの「住み続けられる」というメリットだけを強調、長時間の居座りで、高齢者の不安をあおり、またもう業者にかえって欲しい一心で契約をさせます。
典型的な手口はこうです。
- 「老後の資金は大丈夫ですか?自宅を有効活用しませんか?」と親身なふりをして接近。
- 「売却後も今の家に住み続けられるので安心ですよ」とリースバックのメリットだけを強調。
- 複雑な契約内容を十分に説明しないまま、相場より著しく低い価格での売買契約にサインさせる。
- 売却後、家賃を請求。支払いが滞ると退去を迫る。
気づいた時には、大切な自宅を二束三文で奪われ、高額な家賃の支払いに苦しむか、最悪の場合は住む場所さえ失ってしまうのです。このような悪質な勧誘を受けた際に「おかしい」と気づけるよう、手口を知っておくことが第一歩となります。
なぜ高齢者がターゲットに?孤独や不安につけ込む心理
なぜ、高齢者ばかりがこのような被害に遭ってしまうのでしょうか。単に「判断能力が低下しているから」という理由だけではありません。悪徳業者は、高齢者特有の心理や生活状況に巧みにつけ込んできます。
- 社会からの孤立感・孤独感:日頃、話し相手が少ない方ほど、親身に話を聞いてくれる業者を信じ込んでしまいがちです。
- 将来への経済的な不安:「年金だけでは心もとない」という不安を煽られ、冷静な判断ができなくなります。
- 「子どもに迷惑をかけたくない」という思い:この強い気持ちを逆手に取られ、「自分で何とかしなければ」と一人で抱え込み、業者に相談してしまうケースも少なくありません。
- 複雑な契約への苦手意識:分厚い契約書や専門用語を前にすると、思考が停止してしまい、「専門家が言うのだから間違いないだろう」と鵜呑みにしてしまいます。
こうした心理は、誰にでも起こりうることです。ご家族としては、日頃からコミュニケーションを取り、親御さんが一人で悩みを抱え込まないような関係を築いておくことが、何よりの予防策になるのかもしれません。実際に、高齢者を狙った詐欺から財産を守る方法は様々ですが、判断能力が低下する前に備えておくことが極めて重要です。

【実例】成年後見人が語る不動産押し買いトラブルの一部始終
「私もうこの家売っちゃったんです」
電話口から聞こえてきたお母様の話に、私は一瞬、言葉を失いました。
私は、ある知的障害をお持ちの方の成年後見人をしておりました。その方のお父様が亡くなり、その知的障害を持たれている方が相続人の1人になります。私は法定相続分どおりの持分を各相続人が取得する形で、お母様に提案します。了承を得て、遺産分割協議書の作成・裁判所との文案の調整を終え、遺産分割協議書の署名・押印をいただく日程を調整しようとお母様に電話しました。するととんでもないことを言われます。
「私、この家売っちゃったんです」
えっ・・・・。一瞬何を言っているか分かりませんでした。話を聞くと不動産業者が家に来て、何時間も家に居座り家を売る売買契約を締結してしまったというのです。私はその日の予定を延期して、急遽お母様のご自宅に向かいました。すると本当に売っていたのです。契約書を見ると売却後にお母様が賃借人として賃料を払う契約(リースバック)の契約でした。しかしお母様は相続人の1人。私が後見人のしている方と共同でないと売れないはずですがどういうことなのでしょうか。こういう変わった契約の時は、契約書の「特約条項」をみると大体変なことが書いてあります。案の定、特約条項に特殊な条項が書いてありました。お母様が私が後見人をしている方から持分を取得し、相手方に売却する責任を負う。もし達成できなければ損害賠償を負う。ご丁寧に損害賠償額まで決められており、かなりの高額です。このご家庭は古い自宅マンションがあるものの、他には預貯金はあまりない状況です。こんな損害賠償払えるわけもありません。私はお母様にどんな内容の契約なのか説明します。お母様も高齢なので何回も説明して、ようやくどういう契約なのかご理解いただけました。お母様は解約を希望され、何とかならないですかと目に涙をためながら私に訴えてきます。ただ、私はあくまでお母さんの後見人ではありません。立場上、直接的な行動はできません。そこで、行政に取次ぎました。近くの高齢者支援の部署に連絡し事情説明。お母様と連絡をとりあってもらいます。私は私で裁判所への報告書類を大急ぎで作成し、提出します。裁判所からの返答は「売却に応じるしかないのではないか。後見人としては売買価格に応じた被後見人の持分を確実に取得して欲しい」。てっきり急いでお母様の後見申し立てを手伝えくらいのことを言われると思いましたが意外でした。ただ確かに、民法的に考えると悔しいですがそれしか手が無いのは私にも分かりました。でも、手が無いのはあくまでその方の「子の後見人」の立場だからです、あくる日、行政から連絡をもらいました。行政がサポートして手付解除をしたそうです。手付解除とはある一定期間内で理由の移管をとわず解除できる条項で、デメリットとしては手付金を失います。手付金もそう安くない金額を失いましたがお母様と息子さんは自宅マンションを失わずに済みました。行政の方の話によるとこの業者は苦情がたくさん寄せられている業者とのことでした。
この一件で痛感したのは、後見人の役割は、ただ決められた財産管理をこなすだけではない、ということです。ご本人のために何ができるかを考え、行政など他の機関と連携し、あらゆる手を尽くす。そうした姿勢こそが、ご家族を予期せぬトラブルから守るのだと、改めて心に刻みました。

成年後見制度が「押し買い」から財産を守る仕組み
先ほどの実例のように、万が一の事態が起こった際にも成年後見人は大きな役割を果たしますが、この制度の真価は「トラブルを未然に防ぐ」予防効果にあります。なぜ成年後見制度が、不動産の押し買いに対する強力な防御策となるのか。その仕組みを詳しく見ていきましょう。
成年後見制度とは、認知症や知的障害などによって判断能力が不十分な方々を保護し、支援するための制度です。家庭裁判所によって選ばれた成年後見人が、ご本人に代わって財産の管理や様々な契約ごとを行います。この「後見人がいる」という事実そのものが、悪徳業者を遠ざける大きな抑止力になるのです。なぜなら、後見人が関わる財産管理は、法的に厳格なルールで守られているからです。
参照:裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分について」
契約を未然に防ぐ「財産管理権」と「取消権」
成年後見人には、ご本人の財産を守るための強力な権限が与えられています。その代表的なものが「財産管理権」と「取消権」です。
財産管理権:
成年後見人が、ご本人の財産全般を管理する権限です。これにより、ご本人が単独で不動産売買契約のような重要な法律行為をしてしまっても、成年後見人が取り消せる(※日常生活に関する行為など一定の例外を除く)ため、被害の拡大を抑えられる可能性があります。悪徳業者がいくら言葉巧みに契約を迫っても、成年被後見人が結んだ契約は、原則として成年後見人が取り消せるため、取引を安定的に成立させにくくなります。つまり、押し買いの入り口をシャットアウトすることができるのです。
取消権:
万が一、ご本人が後見人に知らせずに不利な契約を結んでしまった場合でも、後見人はその契約を取り消すことができます(※食料品や衣料品など、日常生活に関する行為は除く)。これにより、被害に遭ってしまった後でも、財産を取り戻せる可能性が生まれます。実例のように、契約後のトラブル解決においても、後見人の存在は非常に重要です。
最後の砦となる「家庭裁判所の許可」制度
成年後見制度には、さらに強固なセーフティネットがあります。それが「家庭裁判所の許可」制度です。
特に、ご本人が住んでいるご自宅や、それに準ずる重要な不動産を売却・賃貸・担保設定などをする際には、成年後見人が単独で判断することはできず、必ず事前に家庭裁判所の許可を得なければなりません。
家庭裁判所は、本当にその不動産を売却する必要があるのか、売却価格は妥当か、売却後のご本人の住まいは確保されているかなど、あくまで「ご本人の利益」になるかどうかを厳しく審査します。この二重のチェック機能があるため、たとえ後見人がいたとしても、ご本人の利益に反するような不当な条件での不動産売却は認められにくい仕組みになっています。まさに、大切なご自宅を守るための「最後の砦」といえるでしょう。この家庭裁判所の許可を得るプロセスは、専門的な知識が求められます。
もし押し買い被害に遭ってしまったら?相談先と対処法
ここまで予防策について解説してきましたが、万が一「押し買いの被害に遭ってしまったかもしれない」「親が怪しい契約をしていないか心配」という場合は、決して一人で抱え込まず、すぐに専門機関に相談することが重要です。
まずは落ち着いて、契約書やパンフレット、業者の名刺など、手元にある証拠を全て保管してください。その上で、以下の窓口に連絡しましょう。
- 消費者ホットライン「188」:どこに相談してよいか分からない場合に、お近くの消費生活センターや相談窓口を案内してくれます。まずはここに電話するのが第一歩です。(参照:消費者庁 消費者ホットライン)
- 警察:脅迫されたり、無理やり契約させられたりした場合は、迷わず警察の相談専用電話「#9110」に連絡してください。
- 司法書士や弁護士:法律の専門家として、契約内容の確認や法的な対抗策について具体的なアドバイスが可能です。特に不動産が絡むトラブルでは、早期の相談が解決の鍵を握ります。
ここで非常に重要な注意点があります。訪問販売などでは一定期間内であれば無条件で契約を解除できる「クーリング・オフ」制度がありますが、消費者が自宅を不動産業者に売却した場合、クーリング・オフはできません。だからこそ、悪徳業者は不動産を狙うのです。時間が経てば経つほど、解決は難しくなります。不動産で騙される事例は後を絶ちません。少しでも「おかしい」と感じたら、すぐに専門家にご相談ください。
まとめ:大切な家族を守るため、信頼できる後見人選びを
今回は、高齢者を狙った不動産の「押し買い」の手口と、その強力な対策となる成年後見制度について解説しました。判断能力が不十分な状態になってしまうと、ご本人の意思で自宅を売却したり、預金を引き出したりすることが難しくなるだけでなく、悪質な詐欺のターゲットにされる危険性が一気に高まります。
成年後見制度は、そうしたリスクからご本人とご家族の財産を守るための、法的に確立された有効な手段です。
しかし、最も重要なのは「誰を後見人にするか」という点です。先ほどの実例でも、私はあくまで息子さんの後見人であり、お母様の問題に直接介入する法的な義務はありませんでした。しかし、ご家族の涙を見て、何とかしたい一心で、許される範囲で最大限の行動を取りました。
残念ながら、後見人の中には、決められた定型的な業務しか行わない人もいるかもしれません。予期せぬトラブルが起きたとき、本当に親身になって、行政などとも連携しながらご家族のために動いてくれる専門家を選ぶことが、何よりも大切です。
下北沢司法書士事務所では、単に法律手続きを代行するだけでなく、お一人おひとりの状況に寄り添い、最善の解決策を一緒に考え抜くことを信条としています。成年後見の申し立てや成年後見人への就任は、ぜひ当事務所にご依頼ください。大切なご家族を守るための第一歩を、私たちが全力でサポートいたします。エリアも東京23区はもちろん、神奈川・千葉・埼玉などの首都圏に対応しております。どうぞお気軽にご相談ください。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

