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相続するか放棄するか?
相続は「そもそも相続するのか」がまず最初の分かれ道です。相続しない場合には相続放棄、一部だけ相続する場合には限定承認、そして相続放棄するつもりでも知らないうちに相続したことになってしまう怖い単純承認。これらがどういったものなのかご紹介します。
相続放棄
相続放棄とは、硬い言葉を使うと「相続の開始により自己に帰属すべき権利・義務を確定的に消滅させる意思表示をすること」です。要は相続をしないということなのですが「権利」と「義務」の2つの言葉が入っていることに注目してください。権利とは「相続財産を受け取る権利」義務とは「借金を支払う義務」のことです。プラスの財産もマイナスの財産も受け取らないのが「相続放棄」で、残念ですがプラスの財産だけ受け取ることはできません。
親名義の家に同居していてその親に借金があった場合、家も相続できなくなってしまうため「プラスの財産が相続できない」はかなり重要な意味を持ちます。
相続放棄が検討される場合
相続放棄はどのような場合に検討されるのでしょうか。主なケースを紹介します。
・多額の借金がある場合
お客様のイメージ通り、一番多いのが借金がたくさんあるケースです。分かりやすく「借金」としましたが税金を滞納したまま亡くなった場合や本人名義ではなくとも経営していた会社に借金が多い場合、あるいは借金があるかはっきりしないがどうも怪しいため念のため相続放棄しておくケースなどもあります。
・相続争いが生じてしまいそうで、関与したくない場合
相続人同士で相続争いが生じてしまい、自然と争いに参加してしまうことの煩わしさや精神的な負担から相続放棄を選択する方もいらっしゃいます。
・遺産分割協議代わりに使う場合
相続権が分散してしまい、相続人の人数が増えてしまった場合に使われることもあります。亡くなった方(被相続人)とほとんど縁のなかった相続人に相続放棄をお願いして、被相続人と交流が深かった相続人に相続権を統一します。相続放棄をした方には、ほとんどお付き合いの無かった方に借金があったとしてもその借金を相続しないで済むメリットがあります。
相続放棄の方法
相続放棄は必ず家庭裁判所を通さなければなりません(民法第938条)。相続の開始を知ってから3ケ月以内に申述書の他、戸籍などの必要な書類を揃えて裁判所に提出します。提出して一カ月前後で本当に相続放棄するかどうかを確認する「照会書」が届きますので、間違いない旨を返送すると特に問題が無ければ相続放棄が受け付けられます。
相続放棄に必要な書類
相続放棄をする時に家庭裁判所に提出する必要がある書類をご紹介します。
細かく記載しておりますので分かりにくいですが、司法書士ならお客様のケースにあわせてご案内できますし、戸籍をお客様の代わりに取得することもできます。
必ず提出する書類
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
亡くなった方と相続放棄する方(申述人)の関係によって必要な書類
【申述人が,被相続人の配偶者の場合】
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
【申述人が,被相続人の子又はその代襲者(孫,ひ孫等)(第一順位相続人)の場合】
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(孫,ひ孫等)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
【申述人が,被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)】
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母))がいらっしゃる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
【申述人が,被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)】
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(おい,めい)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
限定承認
限定承認は亡くなった方の借金を相続財産から清算し、もしも余った場合だけプラスの財産を相続する制度です(民法第922条)。
もしも借金の方が多ければ相続財産の範囲内だけで支払い義務を負い、相続人が自分の財産から支払う必要はありません。こう聞くとリスクが無い、いい制度に聞こえるかも知れませんが実際にはあまり使われません。
相続放棄は自分1人でできますが限定承認は相続人全員(相続放棄した方を除く)でしなければなりません。また官報(国が発行する雑誌)への公告の掲載や判明している債権者へのそれぞれお知らせし、清算のため相手方にお金を振り込み領収書をもらい・・・と、手続きが煩雑な上にプラスの財産が出たところでそこに譲渡所得税がかかるリスクもあります。よって限定承認を検討するよりは相続放棄を検討し、相続放棄を検討する時間が足りないなら熟慮期間の伸長(相続放棄のために財産調査の期間を延ばすこと)を検討した方が良いでしょう。しかしもちろん限定承認もカードの1つであり、このカードを切るケースもあります。例えば次のような場合が考えられます。
- しっかり調査をしたが、相続財産が債務超過なのかはっきりしない場合
- 家業に必要など、借金があることを考えても相続したい財産がある場合
- 相続しても大丈夫そうだが、万が一大きな借金があった時に備えて安全策を取りたい場合
借金などのマイナスの財産がある時の相続は複雑です。是非、司法書士に相談して間違いのない判断をしてください。
単純承認
相続放棄をとっていても、もはや相続放棄が認められなくなってしまう怖いパターンがありこれを法定単純承認と言います(民法第921条)。例えば・・・
- 財産を処分した(例:自宅不動産を売った)
- 相続放棄の期間をオーバーしている
- 相続財産を個人的に使った(例:親名義のお金で車を買った)
などです。
相続財産で車を買った後は相続放棄できないと言われれば「それはそうだろうな」と感じるかも知れませんが、例えば葬儀費用を相続財産から捻出した場合はどうでしょう。「個人的に使ったわけではないのだし大丈夫じゃないかな?でも使ったことは使ったのだからやっぱり駄目かな?」少し迷われるのではないでしょうか。
この点について過去の裁判の結果(判例)があります。「被相続人に相当の財産があるときは、それを持って被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとは言えない」と言っています。平成14年7月3日のことでした。つまり「常識的な金額なら葬儀費用に使った後も相続放棄できる余地はありますよ」という意味ですが裁判になって裁判官が結論を出したということはプロにとっても微妙な判断だったということです。
このように「処分にあたるか問題」は勝手に自分で判断してしまうと非常に危険です。是非、司法書士に相談して正しい情報提供を受けましょう。問題が発見されても、問題が無いことが確認出来て安心できても司法書士への相談はお客様にとって大きなメリットです。
相続に関する問題は思いもよらない複雑な問題があることも多いです。是非、司法書士に相談して安心を手に入れてください。