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借地権信託は地主の承諾が必要?承諾料の相場と実務を解説

2026-03-09

借地権信託が「難しい」と言われる本当の理由

「元気なうちに、認知症に備えて自宅の管理を任せたい」「相続で子どもたちが揉めないように、今のうちから対策をしておきたい」ご家族を想うそのお気持ちから、柔軟な財産管理を実現する「家族信託」を検討される方は少なくありません。しかし、その対象が“借地”に建つ不動産である場合、多くの方が思わぬ壁に突き当たります。

その壁とは、「地主の承諾」です。

家族信託は、あくまでご家族の間で財産の管理や承継を決める仕組みです。それにもかかわらず、第三者である地主の意向ひとつで、計画が頓挫してしまう可能性があるのです。この構造的な問題こそが、借地権の信託が「難しい」「ハードルが高い」と言われる本当の理由に他なりません。

「家族に管理を任せるだけなのに、なぜ地主さんの許可がいるのだろう?」「もし断られたら、どうすればいいのか…」

このような不安を抱えるのは、あなただけではありません。この記事では、借地権信託における「地主の承諾」という大きな課題に真正面から向き合い、法的な基礎知識から、実務家としての交渉のポイント、そして万が一承諾が得られなかった場合の「奥の手」まで、具体的かつ実践的に解説していきます。認知症対策や相続準備の全体像については、任意後見・家族信託・法定後見の違いでも体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

【基本の「き」】地主の承諾と承諾料の基礎知識

借地権信託を成功させるためには、まず、その根拠となる法律のルールを正しく理解しておくことが不可欠です。なぜ地主の承諾が必要なのか、そして承諾料とは何なのか。ここでは、交渉の前に押さえておくべき基礎知識を分かりやすく解説します。

借地権信託における地主の承諾の要否を比較した図解。賃借権は原則承諾が必要で承諾料が発生するが、例外的に地上権の場合は承諾不要であることを示している。

なぜ地主の承諾が必要?信託は「譲渡」にあたる

多くの方が疑問に思われるのが、「家族に財産管理を任せる信託が、なぜ第三者への『譲渡』と同じ扱いになるのか?」という点でしょう。この疑問を解く鍵は、信託の法的な仕組みにあります。

家族信託契約を結ぶと、たとえ家族間であっても、財産の名義(所有権)は形式的に委託者(親など)から受託者(子など)へ移転します。これは、受託者が対外的に所有者として、財産の管理や処分をスムーズに行えるようにするための信託の根幹をなす仕組みです。

そして、この「所有権の移転」が、民法第612条第1項で定められた「賃借権の譲渡」に該当すると解釈されるのです。条文では、賃借人は賃貸人(地主)の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡すことができないと定められています。

これが、相続との大きな違いです。相続は法律上の地位を包括的に承継するため、地主の承諾は不要です。しかし、信託は当事者の意思による「契約」であり、法律上は「譲渡」として扱われるため、原則として地主の承諾が必要となる訳です。

承諾料の相場は「借地権価格の10%」が目安

地主の承諾を得る際、多くの場合で「承諾料」の支払いを求められます。これは、地主が借地権の譲渡を認めることへの対価として支払われる金銭です。

この承諾料に法律で定められた明確な金額はありませんが、実務上の目安は存在します。一般には、「借地権価格の5%〜10%程度」が一つの目安として語られることが多いです。なお、当事者間の交渉がまとまらない場合に裁判所に許可を求める手続き(後述する「借地非訟」)では、個別事情や鑑定等を踏まえて金額が判断されます。

例えば、借地権の価値が3,000万円と評価される土地であれば、承諾料の目安は300万円となります。かなり大きな金額になるので、信託を検討する上で事前に考慮しておくべき重要なコストと言えるでしょう。承諾料の支払いを求められた場合にそれに応じても信託を進めるのか、悩みどころだと思います。

例外:地上権の場合は承諾不要だが…

借地権には、実は「賃借権」と「地上権」の2種類が存在します。そして、もしあなたの借地権が「地上権」であれば、地主の承諾や承諾料なしで自由に譲渡(信託)が可能です。

なぜなら、賃借権が貸主と借主の信頼関係を基礎とする「債権」であるのに対し、地上権は土地を直接支配できる強力な権利である「物権」だからです。物権は、原則として所有者の意思のみで自由に譲渡できます。

しかし、ここで注意が必要です。実務上、個人間で設定されている借地権のほとんどは「賃借権」です。地上権は、鉄道会社が線路を敷設する場合など、極めて限定的なケースでしか用いられません。「自分の場合は承諾不要かもしれない」と安易に期待せず、まずはご自身の賃貸借契約書を確認し、権利の種類を正確に把握することが重要です。

実践編:地主さんに伝えるべき3つのポイント

ここまで見てきたように、借地上にたつ建物の信託は地主さんの承諾が必要です。ただ地主さんも信託における法律的な内容は、そこまで詳しくないことがほとんどです。そこで承諾を得るにあたって地主さんに伝えておきたいポイントを3つ紹介します。

司法書士事務所で地主と借地人が借地権信託について話し合っている様子。円満な交渉の重要性を象徴している。

①「何のためか」を誠実に伝える

ますはなぜ信託をしたいのか、その目的を正直に、そして丁寧に伝えましょう。

ポイントは、地主が共感しやすい理由を伝えることです。例えば、「親が高齢になり、今後の認知症による資産凍結に備えて、家族が財産管理をできるようにしたい」「将来、相続で揉めることなく、この土地建物を守っていきたい」といった、ご家族の生活を守るために必要なことをつたえましょう。

「資産活用」「節税」「相続対策」といった言葉は、地主に「自分に不利益が及ぶのではないか」という警戒心を与えかねません。あくまで目的は「家族の安心のため」であることを強調し、信頼関係を築くことから始めましょう。

② 地主に「不利益がない」ことを明確にする

おそらく地主さんが最も懸念しているのは、「借地人が変わることで、自分に何か不利益が生じるのではないか」という点です。この不安を払拭することが、承諾を得るための鍵となります。

具体的には、以下の点を明確に説明しましょう。

  • 利用実態の継続性:信託後も、これまで通り家族が住み続けるだけで、土地の使い方は一切変わらないこと。
  • 地代支払いの確実性:地代の支払いは、これまで通り滞りなく行うこと。むしろ、家族(受託者)が管理することで、より確実に支払われる体制になること。
  • 受託者の信頼性:新しい名義人となる受託者は、見知らぬ第三者ではなく、身元のはっきりした信頼できる家族であること。

これらの点を口頭で伝えるだけでなく、後述する「借地権譲渡承諾書」に明記することで、地主の安心感はより一層高まります。

③「借地権譲渡承諾書」を用意し、合意内容を明文化する

もしも承諾を得られることになったら、承諾書を作成して書面に残しまししょう。信託契約は公正証書で締結することが一般的です。公正証書を作成する公証役場もかなり高い確率で承諾書の提出を求めてくるはずです。

できれば承諾書は、地主さんにお話しする前に事前に文案を作成しておくとよいでしょう。そうすると最初から着地点が見えている状態になるので、地主さんも話の見えやすくなります。相続の場面でも言えることなのですが、相続で難しい相手への対応事例には、こうした事前の準備と丁寧なコミュニケーションが不可欠です。

もし承諾が得られなかったら?司法書士の『奥の手』

ここまで地主さんに伝えるべきポイントをお伝えしましたが、残念ながら地主の承諾が得られないことも十分に考えられます。高額な承諾料を要求されたり、理由なく拒否されたりした場合、多くの方はここで諦めてしまうかもしれません。ここから信託がなぜ所有権移転に該当するのかも含めて、事例で説明していきます。

【実例】交渉決裂…承諾料なしでは難しい現実

以前、杉並区にお住まいの方から、借地上のご自宅を信託したいというご相談を受けました。お父様が認知症になった場合に備え、ご子息が管理や売却をできるようにしたい、というご希望でした。私は任意後見も検討するようお話ししましたが「裁判所に家庭に介入されるのは嫌だ」とのこと。気持ちは分かります。しかし私もこう勧めるのはこの方特有の理由がありました。この方のご自宅は借地権だったのです。借地権だとなにが問題なのでしょうか。借地権は上物を建物の所有権を移転するとそれにくっつく形で借地権も移転します。これに対して地主の承諾が必要なのが借地借家法上のルールです。信託は財産管理の手法です。一見、所有権の移転はしないように見えると思います。しかし信託は所有権が移転するのです。よく受託者に「所有権はあるが固有の財産ではない」と表現されます。財産管理をする人(受託者)に所有権を移転して、対外的に必要な財産管理や処分をスムーズにできるようにするのが信託の特徴です。私はこの点をお客様に指摘しました。そうすると「地主さんとの関係は良好だし大丈夫」との回答でした。私は額面通りには受け取らず懸念を伝えます。理由も説明しました。ですが最後はあまり悲観的に考えるのも良くないと思い、お客様と一緒に地主さんに説明にいくことにしました。2人で地主さんのお宅を訪問し、一通り話した後地主さんはこういいます。「~さんのお宅は相続で問題は生じないのでしょうか」微妙に会話がかみあっていません。どちらかというと、借地権者の将来の相続が、自分に影響を与えないか気にしてるように感じました。私の受け取り方がちょっとひねくれているのかなと思いながらも、地主さんと依頼者さんの話がすすみ、最後に地主さんが「一応、家族に確認してから回答します」とおっしゃいました。そこから数日、依頼者さんから「承諾を断られました。あなたの家の事情は私には関係なく、承諾する理由はない」と言われたそうです。私は「やっぱり・・」と思いました。承諾をするかどうかという場面は、地主さんにとっては大きな収入を得るチャンスです。借地権を売買するときには所有権を移転するので、地主さんの承諾がいります。この時に承諾料を売主から支払うのが慣習になっています。金額は決まっているわけではありませんが、およそ売買価格の10%ほどが多いように思います。都内の売買だと数百万におよぶ収入を得られる「承諾」の場面を金額の提示なしに進められるかは疑問でした。私も地主さんとの面談時に、売買と違い使用者も変わらないし受託者の固有の財産になるわけではないと伝えましたがやはりダメでした。断られたといってもおそらく承諾料の支払いを申し出れば、承諾は得られたと思います。しかしもし売買並みの承諾料を支払うとなると数百万規模になり負担が大きすぎます。しかし、この方の場合は任意後見とも併用することで、地主さんからの承諾を得られたに近い状態を作ることができました。どういう工夫をしたのかは、また別のコラムに譲りたいと思います。

最終手段としての「借地非訟」とは?

どうしても借地権そのものの名義を受託者に移転させる必要がある、といった特別な事情がある場合の最終手段として、「借地非訟」という裁判所の手続きがあります。

これは、借地借家法に基づき、地主が承諾しない場合に、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める制度です。裁判所が、譲渡しても地主に不利になるおそれがないと判断すれば、許可の決定がなされます。その際、承諾料の額も裁判所が決定します。

メリットは、地主が承諾しない場合でも、裁判所の判断により、地主の承諾に代わる譲渡許可を得られる可能性がある点です。一方、デメリットとしては、裁判手続きのための時間と費用がかかること、そして何より、地主との関係性が決定的に悪化してしまうリスクが挙げられます。

借地非訟は、あくまで最後のカードです。私たちは、できる限り当事者間の話し合いと契約の工夫によって円満な解決を目指すべきだと考えています。

信託が最適ではない?「任意後見」という選択肢

ここまで借地権信託について解説してきましたが、地主の承諾というハードルを越えられない場合や、そもそも信託という仕組みがご家庭の状況に合わないケースもあります。

当事務所では、お客様一人ひとりの状況を丁寧にお伺いし、信託ありきではなく、最適な解決策を一緒に考えます。その有力な選択肢の一つが「任意後見制度」です。

任意後見は、本人が元気なうちに、将来判断能力が低下した際に備えて、財産管理などを任せる人(任意後見人)をあらかじめ契約で決めておく制度です。信託との大きな違いは以下の通りです。

  • 所有権が移転しない:財産の名義は本人のままなので、借地権信託のように地主の承諾は不要です。
  • すぐに契約の効力が発生するわけではない:任意後見は、契約をしてすぐ効力が発生するわけではなく、ご本人が認知症を発症して裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てた後に効力が発揮します。

「裁判所が関与するのは少し抵抗がある」と感じる方もいらっしゃいますが、地主の承諾が得られず高額な承諾料も支払えない場合には、極めて有効な対策となります。信託と任意後見、それぞれのメリット・デメリットを比較検討し、ご自身の価値観や状況に合った制度を選ぶことが大切です。当事務所では、費用面からも各制度を比較し、お客様にとって最善の選択をサポートしています。

まとめ|最適な解決策はご家庭ごとに異なります

借地権の信託は、「地主の承諾」という大きなハードルがあり、決して簡単な手続きではありません。承諾を得るための丁寧な交渉、承諾料という金銭的な負担、そして万が一に備えた代替案の検討など、乗り越えるべき課題は多岐にわたります。

しかし、困難だからと諦める必要はありません。

  • 地主との円満な交渉を目指す。
  • もし承諾が得られなくても、信託契約書の工夫で目的の達成を目指す。
  • 信託が難しい場合は、任意後見という別の選択肢を検討する。

このように、専門家が介入することで、解決への道筋が見えてくることがあります。

下北沢司法書士事務所では、単に手続きを代行するだけでなく、お客様一人ひとりのご家庭の状況や想いを深く理解することから始めます。法律の専門家として、そして心理カウンセラーとしての視点も活かしながら、信託や任意後見といった選択肢の中から最適な手段をご提案します。そして、お客様が選んだその道を、契約書の工夫などを通じて最大限ご希望に沿う形に創り上げていくのが私たちの使命です。

借地権の問題でご家族の将来設計を諦める前に、ぜひ一度、私たちにご相談ください。エリアも東京23区はもちろん、東京都下や千葉・埼玉・神奈川など首都圏に対応します。最近はなぜか千葉県や、葛飾区や江戸川区などの東京の東側でのお仕事が多いですが、それ以外の地域の方も気軽にご相談ください!

下北沢司法書士事務所 竹内友章

不動産の押し買い手口と対策|成年後見人の役割と実例解説

2026-02-24

急増する不動産の「押し買い」とは?高齢者が狙われる実態

「実家の親、詐欺被害にあったりしないだろうな」
大切なお父様、お母様が持つ不動産について、こんな不安を感じていませんか?今日は当事務所が成年後見業務を通じて経験した、悪質な不動産の「押し買い」事例について紹介します。

一般に「押し買い」は、消費者の自宅等で貴金属やブランド品などの物品を強引に買い取る「訪問購入」トラブルを指します。本記事ではこれにならい、突然の訪問や長時間の勧誘等によって自宅の売却を迫り、相場より著しく低い条件で契約させようとする悪質な自宅売却トラブルも含めて解説します。特に、長年住み慣れた自宅をターゲットにされるケースが増えており、国民生活センターにも多くの相談が寄せられています。

大切な資産を、そして穏やかな暮らしを奪うこの問題は、決して他人事ではありません。この記事では、司法書士として多くのご高齢者と向き合ってきた経験から、押し買いの巧妙な手口、そしてご家族の財産を守るための最も有効な対策の一つである「成年後見制度」について、実例を交えながら詳しく解説していきます。まずは、その具体的な手口から見ていきましょう。

参照:独立行政法人国民生活センター「高齢者の自宅の売却トラブルに注意-強引な勧誘や「リースバック」の契約は慎重に検討を-」

言葉巧みに自宅を奪う「リースバック」悪用の手口

押し買いの中でも、特に巧妙で被害が後を絶たないのが「リースバック」を悪用した手口です。

本来、リースバックは自宅を売却してまとまった資金を得た後も、賃料を払うことでそのまま住み続けられるという、高齢化社会において有効な資金化手段の一つです。リースバックそのものが悪いわけではありません。しかし、悪徳業者はこの「住み続けられる」というメリットだけを強調、長時間の居座りで、高齢者の不安をあおり、またもう業者にかえって欲しい一心で契約をさせます。

典型的な手口はこうです。

  1. 「老後の資金は大丈夫ですか?自宅を有効活用しませんか?」と親身なふりをして接近。
  2. 「売却後も今の家に住み続けられるので安心ですよ」とリースバックのメリットだけを強調。
  3. 複雑な契約内容を十分に説明しないまま、相場より著しく低い価格での売買契約にサインさせる。
  4. 売却後、家賃を請求。支払いが滞ると退去を迫る。

気づいた時には、大切な自宅を二束三文で奪われ、高額な家賃の支払いに苦しむか、最悪の場合は住む場所さえ失ってしまうのです。このような悪質な勧誘を受けた際に「おかしい」と気づけるよう、手口を知っておくことが第一歩となります。

なぜ高齢者がターゲットに?孤独や不安につけ込む心理

なぜ、高齢者ばかりがこのような被害に遭ってしまうのでしょうか。単に「判断能力が低下しているから」という理由だけではありません。悪徳業者は、高齢者特有の心理や生活状況に巧みにつけ込んできます。

  • 社会からの孤立感・孤独感:日頃、話し相手が少ない方ほど、親身に話を聞いてくれる業者を信じ込んでしまいがちです。
  • 将来への経済的な不安:「年金だけでは心もとない」という不安を煽られ、冷静な判断ができなくなります。
  • 「子どもに迷惑をかけたくない」という思い:この強い気持ちを逆手に取られ、「自分で何とかしなければ」と一人で抱え込み、業者に相談してしまうケースも少なくありません。
  • 複雑な契約への苦手意識:分厚い契約書や専門用語を前にすると、思考が停止してしまい、「専門家が言うのだから間違いないだろう」と鵜呑みにしてしまいます。

こうした心理は、誰にでも起こりうることです。ご家族としては、日頃からコミュニケーションを取り、親御さんが一人で悩みを抱え込まないような関係を築いておくことが、何よりの予防策になるのかもしれません。実際に、高齢者を狙った詐欺から財産を守る方法は様々ですが、判断能力が低下する前に備えておくことが極めて重要です。

不動産の押し買いを警戒する家族。強引に契約を迫る業者と困惑する高齢の母親の様子。

【実例】成年後見人が語る不動産押し買いトラブルの一部始終

「私もうこの家売っちゃったんです」
電話口から聞こえてきたお母様の話に、私は一瞬、言葉を失いました。

私は、ある知的障害をお持ちの方の成年後見人をしておりました。その方のお父様が亡くなり、その知的障害を持たれている方が相続人の1人になります。私は法定相続分どおりの持分を各相続人が取得する形で、お母様に提案します。了承を得て、遺産分割協議書の作成・裁判所との文案の調整を終え、遺産分割協議書の署名・押印をいただく日程を調整しようとお母様に電話しました。するととんでもないことを言われます。
「私、この家売っちゃったんです」
えっ・・・・。一瞬何を言っているか分かりませんでした。話を聞くと不動産業者が家に来て、何時間も家に居座り家を売る売買契約を締結してしまったというのです。私はその日の予定を延期して、急遽お母様のご自宅に向かいました。すると本当に売っていたのです。契約書を見ると売却後にお母様が賃借人として賃料を払う契約(リースバック)の契約でした。しかしお母様は相続人の1人。私が後見人のしている方と共同でないと売れないはずですがどういうことなのでしょうか。こういう変わった契約の時は、契約書の「特約条項」をみると大体変なことが書いてあります。案の定、特約条項に特殊な条項が書いてありました。お母様が私が後見人をしている方から持分を取得し、相手方に売却する責任を負う。もし達成できなければ損害賠償を負う。ご丁寧に損害賠償額まで決められており、かなりの高額です。このご家庭は古い自宅マンションがあるものの、他には預貯金はあまりない状況です。こんな損害賠償払えるわけもありません。私はお母様にどんな内容の契約なのか説明します。お母様も高齢なので何回も説明して、ようやくどういう契約なのかご理解いただけました。お母様は解約を希望され、何とかならないですかと目に涙をためながら私に訴えてきます。ただ、私はあくまでお母さんの後見人ではありません。立場上、直接的な行動はできません。そこで、行政に取次ぎました。近くの高齢者支援の部署に連絡し事情説明。お母様と連絡をとりあってもらいます。私は私で裁判所への報告書類を大急ぎで作成し、提出します。裁判所からの返答は「売却に応じるしかないのではないか。後見人としては売買価格に応じた被後見人の持分を確実に取得して欲しい」。てっきり急いでお母様の後見申し立てを手伝えくらいのことを言われると思いましたが意外でした。ただ確かに、民法的に考えると悔しいですがそれしか手が無いのは私にも分かりました。でも、手が無いのはあくまでその方の「子の後見人」の立場だからです、あくる日、行政から連絡をもらいました。行政がサポートして手付解除をしたそうです。手付解除とはある一定期間内で理由の移管をとわず解除できる条項で、デメリットとしては手付金を失います。手付金もそう安くない金額を失いましたがお母様と息子さんは自宅マンションを失わずに済みました。行政の方の話によるとこの業者は苦情がたくさん寄せられている業者とのことでした。

この一件で痛感したのは、後見人の役割は、ただ決められた財産管理をこなすだけではない、ということです。ご本人のために何ができるかを考え、行政など他の機関と連携し、あらゆる手を尽くす。そうした姿勢こそが、ご家族を予期せぬトラブルから守るのだと、改めて心に刻みました。

成年後見制度が不動産詐欺から財産を守る仕組みを図解。後見人の権限と家庭裁判所の許可という二重の防御壁を示している。

成年後見制度が「押し買い」から財産を守る仕組み

先ほどの実例のように、万が一の事態が起こった際にも成年後見人は大きな役割を果たしますが、この制度の真価は「トラブルを未然に防ぐ」予防効果にあります。なぜ成年後見制度が、不動産の押し買いに対する強力な防御策となるのか。その仕組みを詳しく見ていきましょう。

成年後見制度とは、認知症や知的障害などによって判断能力が不十分な方々を保護し、支援するための制度です。家庭裁判所によって選ばれた成年後見人が、ご本人に代わって財産の管理や様々な契約ごとを行います。この「後見人がいる」という事実そのものが、悪徳業者を遠ざける大きな抑止力になるのです。なぜなら、後見人が関わる財産管理は、法的に厳格なルールで守られているからです。

参照:裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分について」

契約を未然に防ぐ「財産管理権」と「取消権」

成年後見人には、ご本人の財産を守るための強力な権限が与えられています。その代表的なものが「財産管理権」と「取消権」です。

財産管理権:
成年後見人が、ご本人の財産全般を管理する権限です。これにより、ご本人が単独で不動産売買契約のような重要な法律行為をしてしまっても、成年後見人が取り消せる(※日常生活に関する行為など一定の例外を除く)ため、被害の拡大を抑えられる可能性があります。悪徳業者がいくら言葉巧みに契約を迫っても、成年被後見人が結んだ契約は、原則として成年後見人が取り消せるため、取引を安定的に成立させにくくなります。つまり、押し買いの入り口をシャットアウトすることができるのです。

取消権:
万が一、ご本人が後見人に知らせずに不利な契約を結んでしまった場合でも、後見人はその契約を取り消すことができます(※食料品や衣料品など、日常生活に関する行為は除く)。これにより、被害に遭ってしまった後でも、財産を取り戻せる可能性が生まれます。実例のように、契約後のトラブル解決においても、後見人の存在は非常に重要です。

最後の砦となる「家庭裁判所の許可」制度

成年後見制度には、さらに強固なセーフティネットがあります。それが「家庭裁判所の許可」制度です。

特に、ご本人が住んでいるご自宅や、それに準ずる重要な不動産を売却・賃貸・担保設定などをする際には、成年後見人が単独で判断することはできず、必ず事前に家庭裁判所の許可を得なければなりません。

家庭裁判所は、本当にその不動産を売却する必要があるのか、売却価格は妥当か、売却後のご本人の住まいは確保されているかなど、あくまで「ご本人の利益」になるかどうかを厳しく審査します。この二重のチェック機能があるため、たとえ後見人がいたとしても、ご本人の利益に反するような不当な条件での不動産売却は認められにくい仕組みになっています。まさに、大切なご自宅を守るための「最後の砦」といえるでしょう。この家庭裁判所の許可を得るプロセスは、専門的な知識が求められます。

もし押し買い被害に遭ってしまったら?相談先と対処法

ここまで予防策について解説してきましたが、万が一「押し買いの被害に遭ってしまったかもしれない」「親が怪しい契約をしていないか心配」という場合は、決して一人で抱え込まず、すぐに専門機関に相談することが重要です。

まずは落ち着いて、契約書やパンフレット、業者の名刺など、手元にある証拠を全て保管してください。その上で、以下の窓口に連絡しましょう。

  • 消費者ホットライン「188」:どこに相談してよいか分からない場合に、お近くの消費生活センターや相談窓口を案内してくれます。まずはここに電話するのが第一歩です。(参照:消費者庁 消費者ホットライン)
  • 警察:脅迫されたり、無理やり契約させられたりした場合は、迷わず警察の相談専用電話「#9110」に連絡してください。
  • 司法書士や弁護士:法律の専門家として、契約内容の確認や法的な対抗策について具体的なアドバイスが可能です。特に不動産が絡むトラブルでは、早期の相談が解決の鍵を握ります。

ここで非常に重要な注意点があります。訪問販売などでは一定期間内であれば無条件で契約を解除できる「クーリング・オフ」制度がありますが、消費者が自宅を不動産業者に売却した場合、クーリング・オフはできません。だからこそ、悪徳業者は不動産を狙うのです。時間が経てば経つほど、解決は難しくなります。不動産で騙される事例は後を絶ちません。少しでも「おかしい」と感じたら、すぐに専門家にご相談ください。

まとめ:大切な家族を守るため、信頼できる後見人選びを

今回は、高齢者を狙った不動産の「押し買い」の手口と、その強力な対策となる成年後見制度について解説しました。判断能力が不十分な状態になってしまうと、ご本人の意思で自宅を売却したり、預金を引き出したりすることが難しくなるだけでなく、悪質な詐欺のターゲットにされる危険性が一気に高まります。

成年後見制度は、そうしたリスクからご本人とご家族の財産を守るための、法的に確立された有効な手段です。

しかし、最も重要なのは「誰を後見人にするか」という点です。先ほどの実例でも、私はあくまで息子さんの後見人であり、お母様の問題に直接介入する法的な義務はありませんでした。しかし、ご家族の涙を見て、何とかしたい一心で、許される範囲で最大限の行動を取りました。

残念ながら、後見人の中には、決められた定型的な業務しか行わない人もいるかもしれません。予期せぬトラブルが起きたとき、本当に親身になって、行政などとも連携しながらご家族のために動いてくれる専門家を選ぶことが、何よりも大切です。

下北沢司法書士事務所では、単に法律手続きを代行するだけでなく、お一人おひとりの状況に寄り添い、最善の解決策を一緒に考え抜くことを信条としています。成年後見の申し立てや成年後見人への就任は、ぜひ当事務所にご依頼ください。大切なご家族を守るための第一歩を、私たちが全力でサポートいたします。エリアも東京23区はもちろん、神奈川・千葉・埼玉などの首都圏に対応しております。どうぞお気軽にご相談ください。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

司法書士が見た高齢者詐欺と家族信託の意外な効果

2026-01-20

「母がオレオレ詐欺に!」ある日突然の電話【司法書士の実例】

「竹内さん、母がオレオレ詐欺にあったんです!」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、8ヶ月ほど前に家族信託のお手伝いをさせていただいた息子さんの、切迫した声でした。財産管理のご質問かと思っていた私は、思わず「えっ!どういうことですか?」と聞き返しました。

ことの始まりは、埼玉県で一人暮らしをされているお母様にかかってきた一本の電話でした。「亡くなったご主人名義の預貯金がまだ残っています。手続きをします」そう名乗る相手が口にした銀行名は、実際にお父様が口座を持っていた銀行だったそうです。お母様は、それを聞いてすっかり信じ込んでしまいました。

後日、銀行員を名乗る詐欺師が自宅を訪れ、「入金のために奥様のキャッシュカードが必要です。暗証番号も教えてください」と言われるがままに、キャッシュカードと暗証番号を渡してしまったのです。

しかし、幸いなことに被害はごくわずかで済みました。なぜなら、詐欺師に渡してしまった口座の預金は、すでにお母様の手元を離れ、息子さんが管理する信託口口座にほとんど移されていたからです。

このご家族が家族信託を選ばれた本来の目的は、お母様の認知症による資産凍結を防ぐことでした。「将来、母が介護施設に入るときに実家が売れなくなったら困る」という息子さんの心配がきっかけでした。

当初、任意後見制度も選択肢にありましたが、ご家族の財産状況を定期的に家庭裁判所に報告することに抵抗を感じられていました。そこで、ご家族の意思で柔軟な財産管理ができる家族信託をご提案したのです。

ご契約前、私は息子さんと一緒にお母様のご実家へ伺いました。専門家として知識面でサポートさせていただくためです。私たちの仕事は、無理に対策を勧めることではありません。ご家族が心から納得し、前向きな一歩を踏み出すためのお手伝いをすることです。その日、お母様はご自身の意思で「この際だから、預貯金の管理も息子に任せたい」とおっしゃり、預金の大部分を信託することになりました。

まさか、その決断が詐欺被害を防ぐことになるとは、誰も予想していませんでした。認知症対策として組んだ家族信託が、思わぬ形で強力な「盾」となったのです。この出来事は、私にとっても家族信託の新たな可能性を実感する、非常に印象深い経験となりました。

この記事では、認知症による資産凍結への備えについて網羅的に解説した任意後見・家族信託・法定後見の違いを比較|費用・手続きで選ぶの内容をさらに掘り下げ、特に巧妙化する高齢者詐欺への対策という観点から、家族信託の有効性を詳しく解説していきます。

あなたの親も狙われている?巧妙化する高齢者詐欺の手口

「うちの親はしっかりしているから大丈夫」…そう思っていても、近年の詐欺手口は非常に巧妙で、誰が被害に遭ってもおかしくありません。警察庁の発表でも、特殊詐欺の被害は依然として深刻な状況が続いています。

なぜ、多くの高齢者が騙されてしまうのでしょうか。そこには、孤独感や将来への不安、公的機関への信頼といった心理が巧みに利用されています。まずは代表的な手口を知り、ご自身の親御さんの状況と照らし合わせてみてください。

電話口で不安そうな表情を浮かべる高齢女性。高齢者詐欺の危険性を暗示している。

家族の絆を悪用する「オレオレ詐欺」

最も古典的でありながら、今なお被害が後を絶たないのが「オレオレ詐欺」です。「会社の金を使い込んだ」「事故を起こしてしまった」などと息子や孫をかたり、トラブル解決金の名目で現金をだまし取ります。
最近では、声が似ていなくても「風邪をひいて声がおかしい」と言い訳したり、警察官や弁護士を名乗る複数の人物が登場して信じ込ませる「劇場型」の手口も増えています。突然のトラブル連絡に動揺し、冷静な判断ができない心理状態に追い込まれてしまうのです。

公的機関を装う「還付金詐欺」

市役所や税務署の職員を名乗り、「医療費の還付金があります」「税金が戻ってきます」といった電話をかけてくる手口です。そして「今日中に手続きが必要」などとせかし、ATMへ誘導して言葉巧みにお金を振り込ませます。
「公的機関の職員が電話でATMの操作を指示することは通常ありません」と分かっていても、「手続きが複雑でよく分からない」「早くしないと損をする」という焦りから、つい指示に従ってしまう方が少なくありません。

不安を煽る「点検商法・リフォーム詐欺」

「無料で屋根を点検します」「水道管の検査に来ました」などと突然訪問し、「このままでは大変なことになる」と嘘の報告で不安を煽り、不要なリフォーム工事や高額な商品を契約させる手口です。
特に一人暮らしの高齢者はターゲットにされやすく、一度契約してしまうと「あそこも悪い」「これも必要だ」と次々と新たな契約を迫られるケースもあります。断り切れずに高額な支払いをしてしまう背景には、詐欺師との間に信頼関係のようなものが生まれてしまう特殊な心理状態が働くこともあります。

参照:警察庁「特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の 認知・検挙状況等について」

なぜ家族信託は詐欺対策に効果があるのか?

様々な詐欺手口がある中で、なぜ家族信託が有効な対策となるのでしょうか。その理由は、家族信託が持つ「財産管理の権限を分離し、移転する」という仕組みそのものにあります。簡単に言えば、「本人の手元から大金を物理的に遠ざけ、本人の意思だけでは財産を動かせなくする」ことで、詐欺師が入り込む隙をなくすのです。

財産を「守るための金庫」に移す仕組み

家族信託を、財産の「金庫」に例えてみましょう。
まず、親御さん(委託者)が持つ預貯金や不動産といった大切な財産を、「信託」という枠組みに移し、受託者が信託契約で定めたルールに従って管理します。
そして、その金庫の「鍵」を、信頼できるお子さん(受託者)が預かります。親御さんの生活費や医療費が必要になったときは、お子さんが鍵を使って金庫からお金を出し、親御さんに渡したり、直接支払ったりします。

家族信託の仕組みを図解したインフォグラフィック。親の財産を子が管理する金庫に移すことで、詐欺師から財産を守る様子が描かれている。

この状態にしておけば、たとえ詐欺師が親御さんを騙してお金を引き出させようとしても、親御さんの手元には日々の生活に必要なお金しかありません。大金が入っている金庫は、鍵を持つお子さんの許可なく開けることはできないのです。
冒頭の事例のお母様も、まさにこの仕組みによって被害を最小限に食い止めることができました。このように、財産管理のあり方そのものを変えるのが家族信託の大きな特徴です。

不動産の名義変更が営業電話をシャットアウトする

家族信託には、あまり知られていないもう一つの詐欺対策効果があります。それは、不動産を信託財産にすると、法務局の登記簿上、所有者欄に受託者が「受託者」として記載されるという点です。

悪質なリフォーム業者や不動産業者の中には、法務局で登記情報を閲覧し、高齢者名義の不動産をリストアップして営業電話や訪問をかけてくる者もいます。
しかし、信託によって登記名義がお子さんに変わっていれば、業者が登記情報を確認しても、そこにはお子さんの名前が受託者として記載されています。親御さんが現在の所有権者ではなくなります。これでは、不動産業者が不当に安い値段でご両親のご自宅を買おうとしても、名義を変えるには受託者であるあなたと契約するほかありません。また自宅に届く不動産営業のDMも、登記情報を元に発送されているようです。これらのチラシも信託によって減らせる可能性が高いです。不要な営業、DM、ひいては詐欺のきっかけとなる接触そのものを物理的に減らす効果が期待できます。

【詐欺対策で比較】家族信託 vs 任意後見制度

高齢者の財産を守る制度として、家族信託とともによく比較されるのが「任意後見制度」です。どちらも大切な制度ですが、「詐欺対策」という観点から見ると、その役割や強みが大きく異なります。ご自身の家庭にはどちらが適しているか、考えてみましょう。なお、かかる費用も制度によって大きく異なるため、総合的な判断が重要です。

予防重視なら「家族信託」:被害に遭う前からの防御壁

家族信託の最大の強みは、判断能力がしっかりしている元気なうちから財産管理をスタートできる点にあります。つまり、「被害を未然に防ぐ」予防効果が非常に高いのです。
冒頭の事例のように、あらかじめ財産を信託しておくことで、本人が万が一騙されてしまっても、詐欺師が手を出せない状況を作り出せます。まさに、被害に遭う前から築く「防御壁」と言えるでしょう。
ただし、家族信託はあくまで財産管理の制度です。介護サービスの契約といった身上監護に関する行為は対象外という側面も理解しておく必要があります。

発動後は任意後見も良:ただし取消権が無いことに注意

一方、任意後見の場合はどうでしょうか。任意後見制度には大きな注意点があります。それは、契約を結んだだけでは効力が発生しないということです。実際に本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に申し立てを行い、「任意後見監督人」が選任されて初めて、後見人としての活動が開始できます。そのため、判断能力が低下する「前」の段階での詐欺被害を防ぐのには向いていないというタイミングの課題があります。なお、成年後見制度は法改正も予定されており、今後の動向にも注意が必要です。

そして、任意後見人として活動ができるようになった後も過去に締結した契約について基本的に取消権はありません。ただ、基本的に任意後見人は代理の範囲に訴訟行為の代理人になる権限をいれておくので、これに基づいて消費者契約法などを根拠に取り消しを主張できることになります。そしてなによりも任意後見人には通帳を管理する権限も付与するのが通常ですので、物理的に通帳やキャッシュカードを預かって、本人が勝手に振り込めなくすることができます。まとめると、任意後見人は任意後見監督人が選任された後は本人を守るのに十分な権限があります。ただ選任されていない状態や、選任されたとしても「選任前に起きた過去の出来事」に対する防衛は不安が残ります。

ちなみに、本人が認知症になった後に裁判所が後見人を選ぶ法定後見制度には取消権があります。
本人が認知症などにより判断能力を欠いた状態で結んでしまった不利益な契約(悪質なリフォーム契約など)を、法定後見の成年後見人等が後から取り消すことができる法的権限です。私は基本的に法定後見を利用するよりできれば元気なうちに任意後見契約を締結した方が良いと考えていますが、この取消権の有無については法定後見制度の方にメリットがあります。

私たちの場合はどっち?判断のポイントを司法書士が解説

それでは、ご自身の家庭ではどちらの制度を検討すべきでしょうか。判断のポイントをまとめました。

  • 家族信託が向いているケース
    詐欺被害を未然に防ぐことを最優先に考えたい。元気なうちから財産管理を始め、将来の資産凍結にも備えたい。不動産の活用など、柔軟な財産管理を続けたい。
  • 任意後見が向いているケース
    財産管理だけでなく、介護施設への入所契約など、生活全般の見守りや身上監護を重視したい。万が一、不利益な契約をしてしまった場合の取消権に魅力を感じる。
  • 両方の制度を併用するケース
    最も盤石な対策として、家族信託と任意後見契約を同時に結ぶ方法もあります。元気なうちは家族信託で財産を守り、将来判断能力が低下した際には任意後見をスタートさせて身上監護もカバーするという、両方の「良いとこ取り」が可能です。

どの方法が最適かは、ご家族の状況や資産内容、そして何よりも「どのような形で親御さんを守りたいか」という想いによって異なります。より詳しい資産凍結防止策の選び方については、別の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。

家族で話し合う勇気。司法書士がその第一歩を支えます

「対策の必要性は分かったけれど、親にどう切り出せばいいか…」
お金や将来の話は、親子であっても非常にデリケートな問題です。多くの方が、その第一歩を踏み出せずに悩んでいらっしゃいます。

下北沢司法書士事務所は、単に法律手続きを代行するだけの存在ではありません。ご依頼があれば、冒頭の事例のようにご自宅へ伺い、ご家族の話し合いの場に専門家として同席させていただきます。

私たちが何よりも大切にしているのは、ご家族全員の「納得」です。一方的に制度を押し付けたり、無理に契約を急がせたりすることは決してありません。それぞれの制度のメリット・デメリットを丁寧にご説明し、ご家庭ごとの事情や想いに寄り添いながら、皆様が心から「この方法で良かった」と思える道筋を一緒に探していきます。どうぞ、安心してご相談ください。

まとめ:大切な家族を詐欺から守るために今できること

高齢の親御さんを狙う詐欺は、もはや他人事ではありません。大切な家族が被害に遭い、財産だけでなく心の平穏まで奪われてしまう前に、私たちにできることがあります。

まず第一に、この記事でご紹介したような詐欺の手口を知り、ご家族で「私たちの家も狙われるかもしれない」という危機感を共有することです。
そして第二に、最も重要なことですが、親御さんが元気で、判断能力がしっかりしているうちに、将来の財産管理について話し合うことです。

家族信託や任意後見といった制度は、元気なうちだからこそ選択できる、未来への「お守り」です。どの対策が最適か迷われたときは、ぜひ私たち専門家にご相談ください。あなたのご家庭の状況を丁寧にお伺いし、最善の道を見つけるお手伝いをさせていただきます。

対応エリアも事務所所在地の世田谷から遠い葛飾区、江戸川区などを含む東京23区はもちろん、今回の事例のように埼玉・千葉・神奈川など首都圏のご相談に対応しております。

対応エリア | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

あなたからのご相談、心よりお待ちしております。

まずはご相談で、あなたのご家庭の状況をお聞かせください

下北沢司法書士事務所 竹内友章

任意後見・家族信託・法定後見の違いを比較|費用・手続きで選ぶ

2026-01-08

認知症による資産凍結リスクとは?いま対策が必要な理由

「親の物忘れが少し気になってきた」「微妙に会話がかみ合わないし、怒りっぽくなった気がする」
その僅かなサイン。見逃さない方が良いかも知れません。今から動き出せば十分に間に合います。

もし、認知症などで判断能力が低下してしまうと、ご本人の意思が確認できないため、法律上、様々な契約行為ができなくなります。具体的には、以下のような事態が起こり得ます。

  • 銀行口座の払戻しや振込などが、金融機関で制限される(代理権を示せないと手続きが進まない)
  • 介護施設の入居費用を支払うため、実家を売却したくてもできない
  • アパート経営をしていても、修繕や新たな賃貸契約が結びにくい
  • (受取人が本人の場合)生命保険金の請求手続きが進めにくくなる/(本人が相続人の場合)遺産分割協議に本人が参加できず手続きが進まない

このように、ご本人の財産でありながら、ご本人やご家族のために使うことができなくなる状態を「資産凍結」と呼びます。この資産凍結は、判断能力が低下した後では、ご家族の意思だけで自由に動かすことはできず、法定後見の申立て等の法的な手続きが必要になる場合があります。特に、ご自宅などの認知症による不動産売却の制限は、多くの方が直面する深刻な問題です。

「手遅れ」になる前に、元気なうちから備えておくことが何よりも重要です。この記事では、資産凍結への3つの主要な対策である「任意後見」「家族信託」「法定後見」について、実務家で家族のお困りごと解決を毎日行っている司法書士の視点から徹底的に比較・解説します。それぞれの違い、費用、手続きを正しく理解し、あなたのご家族にとって最善の選択肢を見つけるための一助となれば幸いです。

また、費用面を中心に比較したコラムも作成しております。特に費用面が気になる方がこちらも合わせてご参照ください。

任意後見・信託・法定後見の費用比較|実務家司法書士が解説 | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所 – 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

【徹底比較】任意後見・家族信託・法定後見の違いが一目でわかる比較表

「任意後見」「家族信託」「法定後見」、この3つの制度は、いずれも判断能力が不十分になった方の財産を守るためのものですが、その目的や仕組みは大きく異なります。まずは、それぞれの特徴がざっくりとわかる比較表をご覧ください。ご自身の状況と照らし合わせながら、どの制度が最も近いかを考えてみましょう。

任意後見・家族信託・法定後見の比較表。目的、開始タイミング、財産管理の自由度、身上監護、取消権、裁判所の関与、費用の観点から3つの制度の違いをまとめている。
比較項目任意後見家族信託法定後見
目的本人の意思に基づき、将来の財産管理と身上監護を任せる本人の意思に基づき、特定の財産の管理・処分を任せる判断能力が低下した本人を法的に保護・支援する
開始タイミング判断能力があるうちに契約し、低下後に開始判断能力があるうちに契約し、契約後すぐに開始可能判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申立て
財産管理の自由度家庭裁判所の監督下で、本人の財産を「維持・保全」することが基本。積極的な活用は難しい。契約内容の範囲内で、柔軟かつ積極的な財産管理・活用(不動産売却、資産運用など)が可能。家庭裁判所の監督下で、本人の財産を「厳格に保護」する。財産処分には裁判所の許可が必要な場合も。
身上監護可能(介護契約、入院手続きなど)不可(財産管理に特化)可能(後見人の重要な職務)
取消権の有無なし(本人が不利な契約をしても取り消せない)なしあり(後見人が本人の不利益な契約を取り消せる)
裁判所の関与開始時に「任意後見監督人」を選任。監督人が裁判所に報告。原則としてなし(自由度が高い)申立てから後見終了まで、継続的に関与・監督する。
初期費用の目安公証役場費用(基本手数料11,000円など)+登記関係費用等+専門家へ依頼する場合の報酬(事案・依頼先により異なる)30〜100万円以上(コンサルティング費用、公正証書作成、登記費用など。財産額による)裁判所に納める費用(収入印紙等)+必要に応じた鑑定料(事案により発生。ほとんどの場合10万円以下)+専門家へ依頼する場合の報酬(依頼先により異なる)
継続費用の目安任意後見人:契約で定めた報酬(定め方・金額は契約内容による)/任意後見監督人:家庭裁判所の審判で定まる報酬(目安は月額1〜2万円程度など。財産額により異なる)原則としてなし(受託者である家族への報酬は任意)(裁判所の審判で決定)基本報酬の目安:管理財産額に応じて月額2万円/3〜4万円/5〜6万円程度(事案により付加報酬が加わることがある)
手続き期間の目安2ヶ月程度3ヶ月~半年程度3〜6ヶ月程度
任意後見・家族信託・法定後見 制度比較表

※費用や期間はあくまで目安であり、事案の複雑さや依頼する専門家によって変動します。

各制度のメリット・デメリットを深掘り解説

比較表で全体像を掴んだところで、次に各制度のメリットとデメリットをより深く掘り下げていきましょう。制度の特性を理解することが、ご家族にとって最適な選択をするための鍵となります。

任意後見|元気なうちに信頼できる人を選べるが、取消権がない

任意後見制度は、ご本人が元気なうちに「将来、もし判断能力が衰えたら、この人に財産管理と身上監護をお願いします」と、信頼できる相手(任意後見人)とあらかじめ契約を結んでおく制度です。

【メリット】

  • 本人の意思で後見人を選べる:最大のメリットは、ご自身の判断で、最も信頼できるご家族や専門家を後見人に指定できることです。法定後見のように、誰が選ばれるかわからないという不安がありません。
  • 身上監護も任せられる:財産管理だけでなく、介護サービスの契約や入院手続きといった身上監護も依頼できるため、生活全般のサポートを包括的に設計できます。

【デメリット】

  • 取消権がない:任意後見人には、法定後見人のような「取消権」がありません。そのため、万が一ご本人が悪質な訪問販売などで不利な契約を結んでしまっても、任意後見人が後からそれを取り消すことはできません。
  • 監督人への報酬が発生する:認知症が進み任意後見が開始されると、家庭裁判所が必ず「任意後見監督人」を選任します。この監督人(多くは弁護士や司法書士などの専門家)への報酬が、ご本人が亡くなるまで継続的に発生します。

家族信託|柔軟な財産管理が可能だが、身上監護はできない

家族信託は、ご本人が元気なうちに、信頼できるご家族に財産を託し、その管理や処分を任せる契約です。「信託」という言葉に難しさを感じるかもしれませんが、簡単に言えば「我が家の財産を、我が家のルールで、家族に託す」仕組みです。

【メリット】

  • 柔軟で積極的な財産管理が可能:裁判所の関与が原則ないため、契約内容の範囲内で、不動産の売却や建て替え、アパート経営の継続といった積極的な資産活用が可能です。「親が施設に入所したら実家を売却して費用に充てる」といった将来の計画をスムーズに実現できます。
  • 二次相続以降の資産承継も指定できる:「自分が亡くなった後は妻に財産を遺し、妻が亡くなった後は長男に」といった、数世代にわたる資産の承継先を指定できるのも大きな特徴です。

【デメリット】

  • 身上監護はできない:家族信託はあくまで財産管理の制度です。そのため、介護施設の入居契約や入院手続きといった身上監護に関する行為は、受託者(財産を託された家族)の権限には含まれません。
  • 認知症発症後は契約できない:任意後見と同様、信託契約も法律行為であるため、ご本人の判断能力がはっきりしているうちでなければ契約を結ぶことはできません。
  • すべての財産を信託できるわけではない:預貯金や不動産は信託できますが、農地や年金受給権など、一部信託できない財産もあります。

法定後見|判断能力低下後でも利用できるが、自由度が低い

法定後見制度は、すでに認知症などで判断能力が低下してしまった方を保護・支援するために、家庭裁判所が「後見人」を選任する制度です。本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。

【メリット】

  • 判断能力低下後でも利用できる:任意後見や家族信託の準備が間に合わなかった場合でも、この制度を利用すれば財産管理を行うことができます。いわば「最後の砦」です。
  • 強力な取消権がある:後見人には「取消権」があり、ご本人が悪徳商法などの被害に遭って結んでしまった不利益な契約を、後から取り消すことができます。本人保護の観点からは非常に強力な権限です。最近では、成年後見制度の利用促進に向けた法改正の動きもあり、社会的な重要性が増しています。

【デメリット】

  • 後見人を自分で選べない:後見人は家庭裁判所が選任します。申立ての際に候補者を立てることはできますが、必ずしもその通りに選任されるとは限らず、本人や家族と全く会ったことの無い弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるケースも少なくありません。
  • 財産活用が厳しく制限される:法定後見の目的はあくまで「本人の財産保護」です。そのため、不動産の売却など本人の居住環境に大きな影響を与える行為には家庭裁判所の許可が必要となり、株式投資などのリスクを伴う資産活用は原則として認められません。
  • 専門家への報酬が継続的に発生する:専門家が後見人に選任された場合、ご本人が亡くなるまで、管理する財産額に応じた報酬を支払い続ける必要があります。

【ケース別】あなたの家族状況に合う制度はどれ?最適な選び方

制度の概要は理解できても、「では、うちの場合はどれを選べば?」と迷われる方も多いでしょう。ここでは、具体的なケーススタディを通して、あなたの家族状況に最適な制度を見つけるヒントを提示します。

司法書士に相談する家族。高齢の母親と50代の夫婦が、司法書士から成年後見制度や家族信託についての説明を安心した様子で聞いている。

ケース1:柔軟に不動産売却や資産活用をしたい場合

「将来、親が介護施設に入ったら、実家を売却してその費用に充てたい」
「所有しているアパートの経営を、判断能力が衰えた後もスムーズに子供に引き継ぎたい」

このような、積極的な財産の活用や組み換えをお考えの場合、最も適しているのは「家族信託」です。

家族信託であれば、あらかじめ契約で定めておくことで、ご本人の判断能力が低下した後でも、受託者であるご家族の判断で不動産を売却したり、大規模修繕を行ったりすることが可能です。家族信託では、契約内容の範囲内で対応できるため、法定後見のように都度家庭裁判所の許可を要する場面は相対的に少なくなります。

もし法定後見制度を利用した場合、後見制度における不動産売却は、それが「本人の生活のために必要不可欠」であると家庭裁判所が認めなければ許可されません。そのため、単なる資産の組み換えや、より有利な条件での売却を待つといった柔軟な対応が取りにくいです。

ケース2:身近に頼れる親族がいない・遠方に住んでいる場合

「子供はおらず、夫婦二人暮らし。どちらかが倒れた時が心配」
「子供はいるが、遠方に住んでおり、頻繁に帰ってきてもらうのは難しい」

このような状況では、財産管理と同じくらい、あるいはそれ以上に「身上監護」が重要になります。具体的には、介護サービスの契約、入院や転院の手続き、要介護認定の申請といった、生活や健康に関わる手続きです。

この場合、身上監護の機能を持たない家族信託だけでは不十分です。最適な選択肢は「任意後見制度」の活用です。信頼できるご友人や、私達のような専門家を任意後見人として指定しておくことで、万が一の時に財産管理と身上監護の両面でサポートを受けることができます。たとえご家族が遠方に住んでいても、地域の専門家がサポートすることで安心して生活を送ることが可能になります。

ケース3:相続人同士の仲が悪く、将来のトラブルが心配な場合

「兄弟間で親の介護や財産に対する考え方が異なり、対立している」
「特定の子供だけが親の面倒を見ているが、他の兄弟がそれを快く思っていない」

ご家族の関係性が複雑な場合、安易に家族信託や任意後見で特定のお子さんを財産管理の担当者に指名すると、かえって「財産を独り占めするつもりではないか」といった疑念を招き、親族間の亀裂を深めてしまうリスクがあります。

このようなケースでは、あえて「法定後見制度」を選択することが、結果的に公平性を保ち、トラブルを未然に防ぐことにつながる場合があります。任意後見や家族信託より、「やむにやまれて仕方なく制度利用した」という雰囲気が出るからです。任意後見や家族信託だと、家族の誰かが自分に優位になるような契約内容にしたなどとあらぬ疑いをかけられやすいかも知れません。また、心配は大きいでしょうがあえて家庭裁判所に成年後見人を選んでもらうことも可能です。家族とはなにも接触がない方が選ばれるため、中立的な立場の専門家(弁護士や司法書士など)を後見人に選任されます。ケースによっては、誰もが納得できる財産管理がにつながるかも知れません。特定の家族に負担や責任が集中することを避け、親族間の無用な争いを防ぐための選択と言えるでしょう。

【応用編】家族信託と任意後見の「良いとこ取り」をする併用も可能

「資産活用は柔軟に行いたいけれど、身上監護も必要」というニーズは少なくありません。この両方を満たすための最適な解決策が、「家族信託」と「任意後見」を併用する方法です。

家族信託と任意後見の併用によるメリットの図解。財産管理は家族信託、身上監護は任意後見が担い、互いの弱点を補完しあう最強の対策であることを示している。

具体的には、以下のように役割を分担します。

  • 財産管理:柔軟な対応が可能な「家族信託」を使い、お子さんなど信頼できるご家族に任せる。
  • 身上監護:財産管理の負担がない「任意後見」を使い、専門家などに任せる。これにより、受託者であるご家族の負担を軽減し、身上監護の専門的な判断を仰ぐことができます。

この2つの制度を組み合わせることで、それぞれのデメリットを補い合い、財産管理と身上監護の両面で盤石な体制を築くことができます。ただし、それぞれの制度で契約が必要となり、費用もその分かかる点には注意が必要です。ご自身の希望やご家族の状況に合わせて、最適な組み合わせを検討することが重要です。

制度利用までの手続きの流れ

実際に制度を利用する際の手続きの流れを解説します。準備を始めるタイミングによって、進め方が大きく異なります。

任意後見・家族信託の場合(判断能力があるうち)

ご本人の意思で準備を進める任意後見と家族信託は、概ね以下のような流れで進みます。

  1. 専門家への相談:まずは司法書士などの専門家に相談し、どの制度が最適か、契約内容をどうするかを検討します。
  2. 契約内容の決定:誰に、どの財産を、どのように管理してもらうかなど、ご家族の希望を反映した具体的な契約内容を詰めていきます。
  3. 公正証書の作成:決定した契約内容に基づき、公証役場で「公正証書」を作成します。特に任意後見契約は、法律で公正証書による作成が義務付けられています。家族信託も、後々のトラブルを防ぐために公正証書で作成することが強く推奨されます。
  4. (信託の場合)信託登記・口座開設:信託財産に不動産が含まれる場合は法務局で信託の登記を、金銭を信託する場合は信託口口座を開設します。

準備開始から契約完了まで、通常1〜3ヶ月程度の期間を見ておくとよいでしょう。

法定後見の場合(判断能力が低下した後)

すでにご本人の判断能力が低下している場合は、ご家族などが家庭裁判所に申立てを行うことになります。

  1. 家庭裁判所への相談:まずはお住まいの地域を管轄する家庭裁判所に相談し、手続きの概要や必要書類について説明を受けます。
  2. 必要書類の収集:申立書のほか、ご本人の戸籍謄本や財産目録、そして最も重要となる「医師の診断書」などを収集します。
  3. 申立て:収集した書類を家庭裁判所に提出し、申立てを行います。
  4. 家庭裁判所による調査・審問:裁判所の調査官が、申立人や後見人の候補者、ご本人と面談(審問)し、状況を確認します。
  5. 後見人選任の審判:調査結果を踏まえ、家庭裁判所が最も適任と判断する人物を後見人として選任し、審判が下されます。

申立てから後見が開始されるまで、事案にもよりますが3〜6ヶ月程度の期間がかかることが一般的です。

より詳しい手続きの流れについては、公的機関のウェブサイトも参考になります。

参照:任意後見制度とは(手続の流れ、費用) – 厚生労働省

どの制度を選ぶべきか迷ったら司法書士へ相談を

ここまで3つの制度を比較してきましたが、「結局、自分の家にはどれが一番合っているのだろう?」と、さらに迷いが深まった方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはずです。最適な選択は、ご本人の財産状況だけでなく、ご家族の関係性、価値観、そして将来の希望といった、法律の条文だけでは測れない要素が複雑に絡み合って決まるからです。

私はまず、あなたの「想い」をお聴きすることから始めます。ご家族がどのような未来を望んでいるのか、何に不安を感じているのか。その上で、各制度のメリット・デメリットを丁寧に説明し、俯瞰的な視点から「あなたの家族にとって」の最適な選択肢を一緒に考えます。

例えば、書類上は家族信託が最適に見えても、ご家族の関係性を伺った結果、あえて公平性の高い法定後見の利用も視野に入れる、といったご提案をすることもあります。それは、手続きを成功させるだけでなく、その後のご家族の円満な関係を守ることこそが、私たちの真の役割だと考えているからです。

当事務所の代表は、司法書士であると同時に心理カウンセラーの資格も有しております。法律の専門家として、そして心の専門家として、あなたの不安に寄り添い、最も納得できる解決策を導き出します。どの制度を選ぶべきか、少しでも迷われたら、ぜひ一度無料法律相談をご利用ください。エリアも事務所のある世田谷はもちろん、北区や江戸川区など世田谷から比較的遠い区や稲城市、小平市などの東京都下、横浜や川崎、さいたま市や松戸市・船橋市などの首都圏全般でご依頼を承っております。

対応エリア | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所 – 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

あなたとご家族の未来のために、私が全力でサポートいたします。

下北沢司法書士事務所 竹内友章

任意後見・信託・法定後見の費用比較|実務家司法書士が解説

2026-01-03

任意後見・信託・法定後見、費用で選ぶならどれ?3制度の全体像

ご自身の老後や、親御さんの将来を考えたとき、「任意後見」「家族信託」「法定後見」といった制度が対応のための候補となります。もちろん、制度の内容そのものがあなたに合っているかが一番大事です。ですが現実問題としてどの制度がどれくらいの費用がかかるのかは、やはり知っておかなければなりません。今回は任意後見、家族信託、法定後見の3つの制度を費用面を中心に比較しています。

この3つの制度は、似ているようでいて、費用の構造が根本的に異なります。ざっくり分けると、最初にまとまった費用がかかる「初期費用型」の家族信託と、月々の支払いが生涯続く可能性のある「ランニングコスト型」の後見制度(任意後見・法定後見)に大別されます。

もし、「初期費用が安いから」という理由だけで安易に選んでしまうと、10年、20年という長い期間で見たときに、結果的に数百万円もの差が生まれてしまうことも少なくありません。この記事では、実務家の司法書士が、各制度の費用を具体的なモデルケースで徹底比較し、費用だけでないメリット・デメリットも踏まえ、あなたにとって本当に最適な選択肢を見つけるお手伝いをします。費用を考える時は、実際にかかるかかくより安い価格で把握してしまっては思いもよらぬ出費になってしまうと思います。そこでみなさんに実際に役にたつ情報とするため、本当にどれくらいかかるのかを伝えます。営業のためだけに安く伝えるようなことはしておりませんので、当事務所にご依頼の方にもそうでない方にも役にたつコラムとなっております。

【比較表】初期費用とランニングコストで見る3制度の違い

まずは、3つの制度の費用がどのように違うのか、全体像を掴んでみましょう。一目でわかるように比較表にまとめました。

任意後見・家族信託・法定後見の費用比較表。初期費用とランニングコストの違いが一目でわかる。
制度初期費用(目安)ランニングコスト(目安)費用の発生タイミング主な支払先
任意後見25万~30万前後(財産管理委任契約含む)月額2万円~6万円(後見人)+月額5千円~3万円(監督人)契約時と、判断能力低下後公証役場、法務局、司法書士、任意後見人、任意後見監督人
家族信託50万円~100万円以上原則なし(監督人など専門家サポートを依頼する場合は別途発生)契約時のみ公証役場、司法書士、登録免許税(不動産がある場合)
法定後見15万円~20万程度(鑑定費用で+10~20万円の場合も)月額2万円~6万円申立時と、開始後ずっと家庭裁判所、書類作成司法書士、医師、後見人
任意後見・家族信託・法定後見の費用比較

この表からもわかるように、家族信託は初期費用が比較的高額ですが、その後の継続的な費用は原則かかりません。一方、後見制度は初期費用が安く見えますが、判断能力が低下してから亡くなるまで、報酬の支払いが続く可能性があるのです。

選択を誤ると数百万円の差?長期視点が重要な理由

どうしても信託が一番初期費用の金額が高いので、比較の上で任意後見・法定後見の方が安く見えるかも知れません。しかし、単純にそうもいかないのが難しいところです。

例えば、認知症を発症(または診断)してから亡くなるまでの期間は、年齢や病型などによって幅があり、数年から10年程度とされる報告もあります。仮に月5万円のランニングコストがかかる制度を選んだ場合、10年間で支払う総額はいくらになるでしょうか。

月5万円 × 12ヶ月 × 10年 = 600万円

いかがでしょうか。初期費用が数十万円安かったとしても、長期的に見ればランニングコストが総額を大きく左右することがお分かりいただけると思います。実務に携わる司法書士からみる現実問題として、成年後見制度を利用してから10年、20年と生きる方の方が少ないです。認知症を発症しているということは体の方にもそれなりに衰えがある場合が多いです。しかし中には長生きする方もいらっしゃいますし、統合失調症などが原因で成年後見制度を利用することになった場合は体の衰えも少ない場合があります。そういう場合まで想定すると、財産管理の制度を選ぶ際には、「今」だけでなく「10年後、20年後」を見据えた長期的な視点が何よりも大切になるのです。

【モデルケースで徹底比較】10年間の総費用はいくら?

では、実際に具体的なケースで、10年間の総費用がどれくらい変わってくるのかをシミュレーションしてみましょう。ここでは、多くの方が当てはまるであろう2つのモデルケースをご用意しました。ご自身の状況と照らし合わせながらご覧ください。

ケース1:預貯金3,000万円・自宅不動産ありの場合

まず、一般的なご家庭を想定したケースです。

  • 財産状況:預貯金3,000万円、自宅不動産(評価額2,000万円)
  • 総資産:5,000万円
  • 前提:法定後見は制度利用時、任意後見契約は公証役場からの契約締結時をスタート時点に設定。そこから10年間にかかる費用をシュミレーションしました。任意後見契約は、スタート時点ではまだ認知症ではないのが前提なので、契約から6年目に認知症を発症したと想定します。
制度初期費用(概算)10年間のランニングコスト(概算)10年間の総費用(概算)
任意後見25万円(財産管理委任契約含む)月3万3000円(後見人報酬。消費税含む。5年のみ発生と想定 )+任意後見発動に必要な監督人申し立てにかかる費用として10万円を計上約233万円
家族信託約100万円(コンサルティング・登記費用等)0円約100万円
法定後見約20万円月3万3,000円(後見人報酬。消費税含む)約416万円
【ケース1】10年間の総費用シミュレーション

※上記はあくまで一般的な目安であり、事案の複雑さや専門家によって費用は変動します。

このケースでは、家族信託と後見制度で、10年間に300万円以上の差がつく結果となりました。後見制度は、管理する財産額が大きくなると専門家への報酬も高くなる傾向があります。そのため、資産額が多いほど、ランニングコストの負担が重くのしかかってくるのです。

ケース2:預貯金800万円・賃貸住まいの場合

次に、比較的資産が少ない方を想定したケースです。

  • 財産状況:預貯金800万円、賃貸住まい
  • 総資産:800万円
  • 前提:法定後見は制度利用時、任意後見契約は公証役場からの契約締結時をスタート時点に設定。そこから10年間にかかる費用をシュミレーションしました。任意後見契約は、スタート時点ではまだ認知症ではないのが前提なので、契約から6年目に認知症を発症したと想定します。
制度初期費用(概算)10年間のランニングコスト(概算)10年間の総費用(概算)
任意後見約25万円月約2万2,000円(後見人報酬。5年間のみ発生)+任意後見発動に必要な監督人申し立てにかかる費用として10万円を計上約167万円
家族信託約60万円(コンサルティング費用等)0円約60万円
法定後見約15万円月約2万2,000円(後見人報酬 月3万円)約279万円
【ケース2】10年間の総費用シミュレーション

※上記はあくまで一般的な目安であり、事案の複雑さや専門家によって費用は変動します。

資産が比較的少ないこのケースでも、10年間で200万円以上の差が生じました。特に、資産が限られている場合、月々のランニングコストは生活費を圧迫する大きな要因になりかねません。資産が少ないからこそ、ランニングコストのかからない家族信託が有効な選択肢となる場合があるのです。

シミュレーションから分かる最適な制度の選び方

2つのモデルケースから、以下のことが見えてきます。

  • 長期的な総費用を抑えたいなら「家族信託」が有利:初期費用はかかりますが、10年以上の長いスパンで見れば、トータルコストを最も安く抑えられる可能性が高いです。
  • 資産が多いほど後見制度の費用は高くなる:後見人の報酬は管理財産額に比例する傾向があるため、資産家の方ほどランニングコストの負担が大きくなります。
  • 柔軟な財産管理をしたいなら「家族信託」:費用面だけでなく、後述する財産活用の自由度の高さも信託の大きなメリットです。
  • 身寄りがなく、公的な保護を重視するなら「後見制度」:信頼できる家族がいない場合や、身上監護(生活や介護に関する契約など)を含めた包括的なサポートが必要な場合は、家庭裁判所が監督する後見制度が適していることもあります。

ただし、これはあくまで認知症になってから法定後見・任意後見を長期に渡り利用したことを前提としています。初期費用は任意後見のが抑えられますし、そもそも誰しも認知症になるわけではありません。そこで、念のため任意後見を保険的に締結しておくのも1つの考え方だと思います。

費用の内訳を徹底解説!何にいくらかかるのか

「総額はわかったけど、具体的に何にいくら払うの?」という疑問にお答えするため、各制度でかかる費用の内訳を詳しく見ていきましょう。

任意後見制度でかかる費用(初期・継続)

任意後見は、判断能力があるうちに将来の後見人を自分で決めておく制度です。費用は大きく2段階に分かれます。

1. 契約時にかかる初期費用

  • 公正証書作成手数料:1契約につき1万3,000円が基本で、証書の枚数等により加算されることがあります。
  • 登記嘱託手数料・収入印紙代など:収入印紙代2,600円、登記嘱託手数料1,600円のほか、郵便代等がかかります。
  • 司法書士などの専門家への報酬:契約書案の作成や公証役場との調整などを依頼した場合、15万円~25万円程度が相場です。多くの司法書士事務所では任意後見契約と財産管理契約を分けて報酬を提示していますが、この2つはセットで利用することがほとんどです。2つ合わせると、25万程度になることが多いです。

2. 開始後に継続してかかる費用

本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した時点から発生します。

  • 任意後見人への報酬:司法書士などの専門職が後見人になる場合は月額2万円~6万円程度が目安です。親族が後見人になる場合でも、報酬を設定することは可能です。
  • 任意後見監督人への報酬:月額5千円~3万円程度が目安です。専門家(弁護士や司法書士など)が選任され、この費用は必ず発生します。後見人が適切に仕事をしているかをチェックするための費用であり、長期的な負担となります。

任意後見契約の費用については、日本公証人連合会のウェブサイトも参考になります。
参照:Q 22. 任意後見契約公正証書を作成する費用は

家族信託でかかる費用(初期費用のみが基本)

家族信託は、元気なうちに信頼できる家族に財産の管理を託す制度です。費用は基本的に契約時に集中します。

司法書士に家族信託の相談をする夫婦。専門家から丁寧な説明を受けている。
  • 専門家へのコンサルティング報酬:信託契約書の作成や全体のプランニングを司法書士などに依頼する費用です。信託する財産の内容や額、契約の複雑さによって異なり、30万円~100万円以上が目安となります。
  • 公正証書作成費用:契約書を公正証書にする場合の費用で、信託する財産の価額に応じて数万円~十数万円程度かかります。
  • 登録免許税:不動産を信託財産に入れる場合にかかる税金です。税率は不動産の種類や軽減措置の有無で異なります(例:土地は固定資産税評価額×0.3%となるケースがあり、評価額2,000万円なら6万円)。
  • 不動産登記の司法書士報酬:不動産の名義変更登記を依頼する費用で、10万円前後が目安です。

家族信託の費用メリットとして、受託者報酬を定めなければ、受託者が無報酬で担うことも可能な点が挙げられます。ただし、運用状況によっては、帳簿作成や税務、専門家サポート等の費用が発生する場合があります。

法定後見制度でかかる費用(申立・継続)

法定後見は、すでに判断能力が不十分になった方のための制度です。家庭裁判所に申し立てて後見人などを選んでもらいます。

1. 申立時にかかる費用

  • 収入印紙代:3,400円(内訳:申立手数料800円+後見登記手数料2,600円)
  • 郵便切手代:3,000円~5,000円程度
  • 診断書作成料:数千円~1万円程度
  • 鑑定費用(必要な場合):10万円~20万円程度。本人の判断能力の程度を医学的に詳しく調べる必要がある場合に発生します。
  • 司法書士などへの申立書類作成報酬:12万円~20万円程度が相場です。

2. 開始後に継続してかかる費用

  • 後見人・保佐人・補助人への報酬:家庭裁判所が、管理する財産額に応じて決定します。本人が亡くなるまで、この報酬は継続的に発生します。
管理財産額基本報酬の目安
1,000万円以下2万円
1,000万円超 5,000万円以下3万円~4万円
5,000万円超5万円~6万円
後見人等の報酬額の目安(月額)

※身上監護等で特別な業務を行った場合は、基本報酬に加えて「付加報酬」が認められることもあります。

法定後見制度における報酬の目安については、裁判所のウェブサイトで詳細を確認できます。
参照:報酬の付与(成年後見制度)

司法書士への依頼費用|個人事務所と大手・銀行の違い

これらの制度を利用する際、専門家に相談することが一般的ですが、どこに依頼するかで費用やサービスの内容は大きく変わります。特に、大手法人・信託銀行と私たちのような個人事務所には明確な違いがあります。

大手法人・信託銀行は本当に安心か?費用の実態

「大手だから安心」というイメージがあるかもしれませんが、費用面では注意が必要です。大手司法書士法人や信託銀行は、一般的に次のような傾向があります。

  • 費用が高額になりやすい:テレビCMなどの広告費や多くの従業員を抱える人件費、立地の良いオフィス賃料といったコストが、コンサルティング料や信託報酬に上乗せされている可能性があります。
  • サービスが画一的:多くの案件を効率的に処理するため、サービスがパッケージ化されていることが少なくありません。そのため、ご家庭ごとの細かな事情や特別な希望に合わせた、オーダーメイドの対応が難しい場合があります。
  • 担当者が変わる可能性:組織である以上、人事異動はつきものです。契約時に親身になってくれた担当者が、数年後には別の部署に移ってしまうということも考えられます。

もちろん、大手ならではの組織力やブランド力というメリットもありますが、「高額な費用を払って、必ずしも自分に最適なサービスが受けられるとは限らない」という点は知っておくべきでしょう。

個人事務所ならではの費用メリットと柔軟な対応

一方で、私たちのような個人事務所には、大手にはない強みがあります。それは、お客様一人ひとりの状況に深く寄り添えることです。

私が大切にしているのは、お客様の考えやご家庭の事情をじっくりお伺いし、どの制度が最適かを「自分事として」一緒に考えることです。これは、営業成績のプレッシャーや組織のルールに縛られる大きな組織では、なかなか実現が難しい部分かもしれません。

個人事務所は、状況によって費用を抑えられる場合があります。

  • 固定費が少ない:大々的な広告や都心の一等地のオフィスを持たない分、コストを抑え、その分をお客様に還元できます(当事務所も、事務所自体は立派でもなんでもないです・・・)。
  • 代表が直接対応:最初のご相談から手続きの完了まで、代表である司法書士が一貫して担当します。話が途中で変わったり、担当者によって言うことが違ったりするリスクを抑えやすい場合があります。
  • 真に最適な提案:特定の金融商品を売るノルマを設けない方針で運営している事務所もあります。純粋にお客様の利益だけを考え、ご家庭の状況に合わせた最も費用対効果の高い、柔軟なプランをご提案できるのです。

費用面でも、ご相談のしやすさという点でも、個人事務所は身近で頼れるパートナーになれると信じています。

費用以外のデメリットも考慮しよう|後悔しないための注意点

ここまで費用を中心に比較してきましたが、制度選びで後悔しないためには、費用以外のデメリットにも目を向ける必要があります。「安かろう悪かろう」では、本末転倒です。

任意後見・法定後見の注意点:財産処分の不自由さ

後見制度(任意後見・法定後見)の最も大きな注意点は、財産の柔軟な活用が難しくなることです。

後見制度は、家庭裁判所の監督のもと、あくまで「本人の財産を守る」ことを最優先とします。そのため、以下のような行為は原則として認められません。

  • 相続税対策を目的とした生前贈与
  • 株式投資や不動産投資などの積極的な資産運用
  • 被後見人に経済的メリットのない行為全般

たとえ家族が後見人になったとしても、この制約は同じです。「本人のためを思って」の行為でも、裁判所が「本人の財産を減らすリスクがある」と判断すれば、許可されないのです。将来的に自宅の売却などを検討している場合は、成年後見での不動産売却には家庭裁判所の許可が必要となり、手続きが複雑になる可能性があります。

家族信託の注意点:身上監護ができない・家族間のトラブル

一方で、家族信託にも注意点があります。

一つは、信託はあくまで「財産管理」の仕組みであるため、「身上監護」はできないという点です。身上監護とは、介護施設の入所契約を結んだり、入院手続きや手術の同意をしたりといった、本人の生活や身体に関する法律行為を指します。これらは信託の範囲外なのでケースによっては、任意後見契約を併用するなどの対策が必要になる場合があります。

もう一つは、家族間のトラブルのリスクです。財産管理を任された家族(受託者)が、他の親族から「親の金を使い込んでいるのではないか」「管理方法が不公平だ」などと疑われ、争いに発展するケースも考えられます。こうした事態を防ぐためにも、契約書を作成する段階で、専門家を交えて財産の使い道や報告義務などを明確に定め、家族全員の合意を得ておくことが重要になることもあります。信託と後見ではお金の使い方が大きく違うため、その特性を理解しておく必要があります。

まとめ|あなたに最適な制度は?費用と目的で選ぶ最終チェック

ここまで、任意後見、家族信託、法定後見の費用と注意点を比較してきました。最後に、ご自身にとってどの制度が合っているのかを判断するための最終チェックをしてみましょう。

【簡易診断】3つの質問でわかるおすすめの制度

簡単な3つの質問にお答えください。YESが多いほど、その制度の検討をおすすめします。

3つの質問に答えるだけで自分に合った制度がわかる簡易診断フローチャート。

質問1:将来、相続税対策や不動産の売却など、財産を柔軟に活用したいですか?
YESなら…【家族信託】がおすすめです。後見制度では難しい積極的な財産活用も可能です。

質問2:介護施設の契約や入院手続きなど、身の回りのことも含めて任せたいですか?
YESなら…【任意後見・法定後見】がおすすめです。身上監護は後見制度の得意分野です。(※家族信託と任意後見の併用も有効です)

質問3:月々の継続的な費用負担は、できるだけ避けたいですか?
YESなら…【家族信託】がおすすめです。初期費用はかかりますが、ランニングコストは原則かかりません。

この診断はあくまで簡易的なものです。実際には、ご家族の状況や財産の内容によって、最適な組み合わせは変わってきます。

費用で後悔しないために、まずは司法書士へ相談を

任意後見、家族信託、法定後見。どの制度にも一長一短があり、「誰にとってもこれが一番」という絶対の正解はありません。インターネットの情報だけで判断し、手続きを進めてしまうと、「こんなはずではなかった」と後悔する結果になりかねません。

家庭に合わない手法を選んでしまうと、費用も高上りになって使い勝手もよくない状態にもなりかねません。本当にご自身に合った、無駄のない選択をするためには、あなたの目線にたって一緒に考える専門家と話し合いながらメリット・デメリットを理解することが不可欠です。

私たちのような個人事務所の司法書士は、費用面でも柔軟なご提案ができ、何よりお客様一人ひとりの心に寄り添うことを大切にしています。まずはお気軽に、あなたの不安や希望をお聞かせください。一緒に、最善の道を探していきましょう。エリアも東京23区はもちろんのこと、東京都下や千葉・埼玉・神奈川など首都圏全般でご依頼実績があります。

対応エリア | 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所 – 相続手続、遺言、相続放棄、会社設立、不動産売却なら下北沢司法書士事務所

ご相談は、将来への安心を手に入れるための第一歩です。どうぞお気軽にご連絡ください。

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成年後見制度の法改正案を司法書士が解説!

2025-12-26

成年後見制度の法改正へ!実務家司法書士が注目するポイント

ご家族の将来を考え、成年後見制度について調べている皆様にとって、非常に重要なニュースが飛び込んできました。2025年に、法制審議会(法務省所管)の部会で『中間試案』が取りまとめ・公表され、複数の見直し案が示されました。まだいくつかの案が示されてる段階ですし、実際に法改正されて、後見制度を利用される方にどの程度影響があるかは未知数といえあす。

ただ、現行の成年後見制度は一度利用すると事実上、ずっと制度利用がやめられないことがほとんどであることが皆様が制度利用をためらう部分です。この部分が改正されそうであり、一番大きな部分だと思います。

当事務所は、成年後見業務を専門分野の一つとしており、これまでにも不動産の売却や施設の入所契約、遺産分割協議など、ご本人様の財産と生活を守るための様々な手続きをサポートしてまいりました。その実務の現場にいる司法書士として、今回の法改正がご本人様やご家族にどのような影響を与えるのか、注目すべきポイントを分かりやすく解説していきます。

司法書士に成年後見制度の相談をする夫婦

なぜ今?成年後見制度が見直される背景にある課題

そもそも、なぜ今、成年後見制度の大きな見直しが必要とされているのでしょうか。それは、現行制度が超高齢社会のニーズに必ずしも応えきれていない、いくつかの課題を抱えているからです。私たちが実務で日々直面している問題点でもあります。

課題①:一度始めたらやめられない事実上の「終身制」の壁

利用をためらう要因の一つとして、一度開始すると、判断能力の回復等で開始審判が取り消されない限り、結果として長期間(死亡まで)継続しやすい点が挙げられます。

もちろん、ご本人の判断能力が回復するなど、後見が必要な理由がなくなれば制度を取り消すことは可能です。しかし、多くの場合、認知症などが原因で制度を利用するため、判断能力が回復することは極めて稀です。結果的に、生涯にわたって制度を利用し続けることになります。

確かに、近しい親族もいらっしゃらず終身まで継続的な財産管理が必要な方はたくさんいらっしゃいます。しかし、「実家を売却して施設入所の費用に充てたい」「相続人である親の代わりに遺産分割協議を進めたい」といった、特定の目的のために制度を利用なされる方ももちろんいらっしゃいます。特定の目的のために制度利用するk太は、その目的を達成するためだけに後見人が必要なのは、多くの方が納得されるでしょう。

しかし、問題はその後です。不動産の売却や遺産分割協議といった目的が達成された後も、後見人の役割は延々と続きます。本当に必要な手続きのために費用や手間がかかるのは当然ですが、目的達成後も、生涯にわたって専門家への報酬や家庭裁判所への報告義務が継続することに対し、納得できないと感じる方が多いのが実情です。この点が、利用への大きな心理的ハードルとなっているのです。

課題②:専門家への報酬など継続的な費用の負担

終身制と密接に関わるのが、経済的な負担です。司法書士や弁護士などの専門家が後見人に選任された場合、家庭裁判所が決定する報酬を継続的に支払う必要があります。

(例:東京家庭裁判所等が公表した『報酬額のめやす』では)本人の財産額等に応じて月額2〜5万円程度が一つの目安とされます。ただし、報酬は家庭裁判所が事案ごとに判断し、地域や内容により異なります。

成年後見制度の継続的な費用負担に悩む様子

課題③:本人の意思が反映されにくい柔軟性の欠如

成年後見制度の最も重要な目的は、ご本人様の「財産保護」です。そのため、後見人は時に厳格な財産管理を行う必要があり、それが柔軟性の欠如につながることがあります。

例えば、ご本人様が「お孫さんの入学祝いにまとまったお金を贈与したい」と希望されても、後見人としては財産を減少させる行為であるため、慎重な判断が求められ、裁判所に対して「本人の生活に影響がない」「本人の意向にもかなっている」など理由の説明が必要と考えるべきです。また、株式投資などの積極的な資産運用なども原則として行うことができません。

「本人のための制度」であるはずが、かえってご本人様やご家族の希望を縛ってしまう。このような硬直性が、制度を使いにくいものにしている一因と考えられています。

【最新情報】成年後見制度の法改正案、3つの注目ポイント

それでは、今回公表された中間試案では、これらの課題を解決するためにどのような見直しが検討されているのでしょうか。私が注目した3つのポイントを解説します。

①【最大の変更点】「期間設定・更新制」の導入

中間試案では、法定後見に期間(任期)を設け、必要に応じて更新する案(複数案のうちの一つ)が示されています。

例えば、以下のような利用方法が可能になるかも知れません。

  • 不動産売却のために、後見人の任期を「2年」と設定して申し立てる。
  • 2年以内に無事売却が完了すれば、そこで後見人の役割は終了する。
  • もし手続きに時間がかかり、さらに期間が必要な場合は、家庭裁判所で更新手続きを行う。

必要な期間に限って利用できる仕組みになれば、負担が軽減される可能性があります(ただし具体的な負担軽減の程度は個別事情や制度設計によります)。

成年後見制度の法改正による「終身制」から「期間設定・更新制」への変化を示す比較図解

②より柔軟に「必要な支援だけ」を選べるように

中間試案では、現行の類型の在り方を含め、より柔軟な支援の形を検討する案が示されています(詳細は今後の審議で整理されます)。

具体的には、現行の制度より狭い範囲の特定の法律行為に限定して代理権を与えるなど、ご本人様の状態やニーズに合わせて、必要な支援だけをピンポイントで提供できる仕組みが議論されています。おそらく「預貯金の管理」「相続」「不動産の売却」など仕事の範囲を限定する趣旨だと思います。おそらく、やって欲しい部分や複雑な手続きが必要な部分だけ後見人に任せるような運用が想定されているのかなと思います。

③本人の意思を尊重する仕組みの強化

制度が「本人のためのもの」であることをより明確にするため、本人の意思を尊重する仕組みも強化を目的としている案も示されています。

中間試案では、原則として本人の同意を要件とする案が示されており、本人の意思尊重をより重視する方向で検討されています。

ご家族が一方的に手続きを進めてしまうのではなく、可能な限りご本人様の意思を確認し、納得の上で制度を利用するというプロセスが明確化されることで、「勝手に財産を管理されてしまうのではないか」といったご本人様の不安を和らげる効果も期待できます(ただ、個人的にはそもそも同意ができないような状態であるから成年後見人が必要なのであり、その部分との兼ね合いはどうなるのだろうなと思っています)

参考:民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」(令和7年 …

法改正のメリット・デメリットと利用判断への影響

今回の法改正は、成年後見制度をより使いやすく、ポジティブな選択肢へと変える大きな可能性を秘めています。しかし、実務家の視点からは、メリットだけでなく注意すべき点も見えてきます。

メリット:心理的・経済的負担が減り利用しやすくなる

法改正による最大のメリットは、やはり「終わりが見える安心感」です。

成年後見人に一定の任期や期間を定めることは、利用者にとって大いにプラスになります。「不動産売却」や「遺産分割協議」など、達成したい目的に必要な期間だけ後見人を選任し、もし期間内に業務が終わらなければ更新する。これは非常に合理的であり、これまで制度利用をためらっていた多くの方々の背中を押すことになるでしょう。

必要な時に、必要な分だけ専門家のサポートを受けられるようになれば、総費用を抑制できるだけでなく、「一度始めたら抜け出せない」という心理的なプレッシャーからも解放されます。

デメリットと注意点:短期終了による新たなリスクも

一方で、良いことばかりではありません。期間を区切って短期で終了できる仕組みには、新たなリスクも潜んでいます。

成年後見制度を利用される方の中には、残念ながらご親族から経済的な搾取を受けているなど、ご自身の力だけでは財産を守れない状況にある方もいらっしゃいます。認知症であるがゆえに、お金を無心されても断れず、知らぬ間に財産が失われていくケースです。

このような場合、長期的な視点で財産を見守る後見人の存在が不可欠です。しかし、「不動産売却」といった表面的な目的だけで短期間の後見を終えてしまうと、その裏に隠された経済的虐待などの深刻な問題が見過ごされ、後見終了後に再び財産が危険に晒される可能性も否定できません。

期間設定が可能になるからこそ、私たち専門家は、より一層注意深くご本人様の生活状況や人間関係を把握し、潜在的なリスクがないかを見極める責任が重くなると感じています。

私たちの利用判断はどう変わる?専門家の視点

法改正が実現すれば、成年後見制度の利用に関する私たちの判断基準は大きく変わります。

  • 「一時的な手続きのため」という積極的な利用:これまで躊躇していたような、特定の目的達成のための短期的な利用が現実的な選択肢になります。
  • 「お試し」での利用:まずは短期間で制度を利用してみて、その効果や後見人との相性を見極め、必要であれば更新するという柔軟な使い方も可能になるかもしれません。
  • 家族信託など他の制度との比較検討:制度の柔軟性が高まることで、家族信託や任意後見といった他の財産管理手法との比較が、これまで以上に重要になります。

「法改正を待つべきか、現行制度ですぐに動くべきか」と悩まれる方もいらっしゃるでしょう。ただ、法定後見制度の利用を検討するということはなにか差し迫った事情がある場合が多く、少なくとも1年以上のレベルで時間がかかるであろう法改正を待てるケースは少ないかも知れません。

法改正はいつから?今後のスケジュールと私たちが準備すべきこと

現時点(2025年12月)で、法改正の具体的な施行時期はまだ確定していません。今後の一般的なスケジュールとしては、以下の流れが想定されます。

  1. 中間試案に対するパブリックコメント(意見公募)の実施
  2. 法制審議会でのさらなる審議を経て、最終的な法案の取りまとめ
  3. 国会への法案提出・審議・可決
  4. 公布・施行

施行時期は未定です。一般に、意見募集→要綱案→法案提出→成立→公布→施行という手続きを経るため、早期に進んだ場合でも施行はまだ先で、いつになるか読めないと考えておいた方が良いと思います。内容も時期も時期は今後の審議・立法過程次第です。

では、法改正を待つ間に私たちは何を準備すべきでしょうか。まず最も大切なのは、ご家族での話し合いです。ご本人様の判断能力がしっかりしているうちに、「将来、財産管理や生活についてどうしてほしいか」という意思を確認し、家族で共有しておくことが重要です。その内容を「任意後見契約」や「遺言」といった形で残しておくことも有効な手段です。

また、現状でどのような選択肢があるのか、法改正によってどう変わる可能性があるのかを専門家に相談し、情報収集を進めておくことも、いざという時に慌てないための大切な準備となります。

法改正を前に、将来について家族で話し合う母娘

まとめ:成年後見制度はより身近な選択肢へ。不安な点は専門家にご相談を

今回の法改正に向けた動きは、成年後見制度が「一度始めたらやめられない、使いにくい制度」から、「必要な時に、必要なサポートを受けられる、身近で頼れる制度」へと生まれ変わる大きな一歩です。特に、期間設定・更新制が導入されれば、多くの方が抱いていた心理的・経済的なハードルは大きく下がり、より前向きな選択肢として検討できるようになるでしょう。

とはいえ、法律や制度のことは、ご自身の状況に当てはめて考えると、どうしても分からないことや不安な点が出てくるものです。「私たちの場合はどうなんだろう?」「今、何から始めればいい?」といった疑問は、一人で抱え込まずに専門家にご相談ください。

当事務所は、司法書士として法律や手続きの面から多角的に課題を検証するだけでなく、心理カウンセラーの資格を持つ代表が、ご家族が抱える不安やお辛いお気持ちにも寄り添うことを大切にしています。手続きの負担をできる限り軽減できるよう支援し、必要となるご協力事項(資料収集・意思確認等)も含めて、状況に応じた解決策を一緒に検討・提案します。

初回相談は無料です。

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成年後見での不動産売却|家庭裁判所の許可を得るポイント

2025-12-19

ご自宅の売却、本当に大丈夫?成年後見制度の大きな壁

「親が施設に入所したため、空き家になった実家を売却して費用に充てたい」
「誰も住んでいない家の固定資産税や管理費が、年々重くのしかかってくる」
「遠方で管理もままならず、庭は荒れ放題。このままでは近隣に迷惑をかけてしまう…」

このような悩みがあるにも関わらず、名義人であるご両親が認知症であるため成年後見制度利用の壁に阻まれ、前に進めない方のご相談に対応してまいりました。仕事や日々の生活が忙しい中でこういうテーマになかなか行動力が出ないのは当然だと思います。しかし不動産は、管理の手間や維持費がかかるだけでなく、放置すれば資産価値の低下や思わぬトラブルを招く可能性もあることも事実。成年後見制度の利用をしなければならないと思いつつも、進んでいないという方も多いでしょう。

今日は成年後見制度を利用した場合の自宅や不動産の売却についてお話しします。既にご両親や親族の成年後見になられている方や、これから成年後見制度を利用する必要の方にとって役に立つ内容だと思います。ぜひご一読ください。

成年後見制度における家族の絆と財産保護を象徴する、重ねられた手。

不動産の売却は家庭裁判所の許可が必要

成年後見制度を利用しての自宅売却には家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。また自宅以外の収益不動産なども、売却前に売却することそのものや金額などを調整しておかないと、裁判所との間のトラブルになりかねません。事実上、とにかく不動産の売却には家裁の許可が必要と持っていく方が安全でしょう。

では裁判所はどういう状況や理由であれば、スムーズに不動産売却の許可をしてくれるのでしょうか。

今日は成年後見制度を利用している司法書士が特に意識している「裁判所の基本的な考え方」についてお話しします。

許可の判断基準は「本人の利益」になるかの一点

家庭裁判所は何を基準に許可・不許可を判断するのでしょうか。その基準は、突き詰めれば「その売却が、ご本人の利益になるか」という一点に尽きます。

具体的には、以下のような要素を総合的に考慮して判断されます。

  • 売却の必要性:なぜ今、売却する必要があるのか。
  • 価格の妥当性::売却価格は適正か。不当に安くないか。
  • 売却後の生活:売却によってご本人の生活環境が悪化しないか。
  • ご本人の意思::ご本人の意思が確認できる場合、その意向はどうか。

後見人自身の都合や、他の相続人の希望が優先されることは決してありません。あくまでも主役はご本人であり、その方の利益を守ることが絶対的な基準となります。

参考:成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可

裁判所を納得させる「売却理由」の伝え方と具体例

家庭裁判所の許可を得るためには、「本人の利益」に繋がる売却の必要性を、客観的な証拠に基づいて論理的に説明することが不可欠です。ここでは、裁判所を納得させるための具体的な「売却理由」とその伝え方について解説します。

【王道】介護費用や医療費を捻出するため

最も一般的で、裁判所の理解を得やすいのが「ご本人のための介護費用や医療費、施設利用料を捻出する」という理由です。

ただし、単に「お金が足りません」と主張するだけでは不十分です。実際に今の預貯金がいくらで、どの程度赤字があるのか(または今後赤字が出ると予測されるのか)、このままだと後何年くらいで預貯金がショートしてしまうかなどを説明できる必要があります。この時、「売却しないと本当にギリギリ」である必要まで無いです。ある程度余裕をもった資金計画に売却が必要であれば、十分な理由になるでしょう。

成年後見での不動産売却理由として、収入と介護費用の支出バランスを図で示したインフォグラフィック。

【応用】維持費や空き家のリスクから本人を守るため

「当面、預貯金で生活費は賄える」という状況でも、不動産の売却が許可されるケースは少なくありません。それは、不動産を所有し続けること自体が、ご本人にとってデメリットになる場合です。

例えば、空き家になった実家を所有し続けることには、以下のような負担やリスクが伴います。

  • 金銭的負担:固定資産税、都市計画税、火災保険料、マンションの場合は管理費・修繕積立金、庭の手入れ費用など、継続的な支出が発生します。
  • 管理の手間:定期的な換気や清掃、郵便物の確認など、遠方であればあるほど管理の負担は大きくなります。
  • 物理的リスク:建物の老朽化による倒壊の危険、不審者の侵入や放火といった防犯上の問題、自然災害による損壊のリスクなど。

これらのデメリットを具体的に示し、「これらの負担やリスクからご本人を解放し、管理が容易で安全な預貯金に換えることこそが、ご本人の財産を守ることに繋がる」と売却理由を説明していきます。これもまた、立派な「本人の利益」と言えます。

【実例】維持費と災害リスクを伝え、売却許可を得たケース

ここで、当事務所が担当した事例をご紹介します。実際の事例とは若干変えております。

【ご相談時の状況】

  • ご本人は施設に入所しており、ご自宅に戻る見込みはなかった。
  • 地方にある自宅の市場価値はそれほど高くなく、売却しても大きな金額にはならない見込みだった。
  • ご本人には生活に困らない程度の預貯金があった。
  • 将来の相続人となる親族からも「私の自宅からかなり遠い不動産を引き継ぐことになるのは困ります。プロである竹内さんが後見人である間に、売却していただけると助かります」と要望を受けていた。

当初、家庭裁判所は売却価格があまり伸びないことから、売却に難色を示していました。預貯金が十分にある中で、あえて価格の伸びない不動産を売却する必要性を疑問視されたのです。

【私が裁判所に伝えたこと】

そこで私は、単に「不要だから売りたい」という主張ではなく、「所有し続けることのリスク」を報告書としてまとめ、資料と一緒に裁判所に提出しました。

まず、市役所のハザードマップ等を取り寄せ、当該不動産が土砂災害警戒区域に含まれており、土砂災害に巻き込まれるリスクを指摘しました。さらに、現地に赴き、野生の猪によって庭が掘り返され、荒れ果てている状況を写真に撮影しました。

そして、これらの客観的な資料を添えて、裁判所に以下のように説明したのです。

「この不動産を保有し続けることは、固定資産税などの継続的な支出が発生するほか、ハザードマップ等に基づき土砂災害のリスクが指摘される場合は将来的な資産価値低下の懸念があります。また、現実に鳥獣被害も発生しており、建物の毀損も懸念されます。価格が伸びませんが、もはや大きなリスク要因となってしまった自宅を管理責任を免れることが、ご本人にとって大きなメリットです。

【結果】

客観的な証拠と説明が認められ、家庭裁判所から無事に売却許可が下りました。ご親族からも「不安が1つ消えました。」と安堵の言葉をいただき、ご本人にとっても将来の不安要素を取り除くことができた、まさにプラスの解決となった事例です。

管理されずに庭が荒れ果てた空き家。成年後見での不動産売却を検討するきっかけとなる状況。

不動産売却を成功に導く司法書士の専門性とは

成年後見制度を利用した不動産売却は、法律の知識だけでなく、不動産取引の実務や家庭裁判所との折衝など、多岐にわたる専門性が求められます。

特に当事務所では、法定後見・任意後見の申立てから後見人としての実務まで、長年にわたり多数の案件を取り扱ってまいりました。

家庭裁判所との円滑なコミュニケーション能力

成年後見人による不動産売却を成功させる上で、実は最も重要と言っても過言ではないのが、売却活動の初期段階から家庭裁判所と丁寧なコミュニケーションを取ることです。私たちは、裁判所の考え方や手続きの進め方を熟知しているため、どのような情報を、どのタイミングで報告・相談すべきかを的確に判断できます。

許可申立ての前に、「なぜ売却が必要なのか」「どのような方法で売却を進めようと考えているか」といった方針を事前に共有し、裁判所の意向を確認しながら進めることで、後の手続きを円滑にし、許可の確度を高めることができるのです。

「宅建士資格」と不動産実務経験を持つ司法書士が最適な理由

さらに、当事務所の大きな特徴は、代表司法書士が宅地建物取引士(宅建士)の資格を保有し、不動産会社での実務経験も豊富である点です。

成年後見での不動産売却には、大きく分けて二つの側面があります。

  1. 法律手続きの側面:家庭裁判所への許可申立て、売買に伴う所有権移転登記など。
  2. 不動産実務の側面:適正な売却価格の査定、信頼できる不動産会社の選定、売買契約書の内容チェックなど。

「宅建士資格を持つ司法書士」であれば、成年後見人として2つの側面の両方に対応できます。査定価格の妥当性を判断し、契約内容に不利な点がないかを厳しくチェックすることで、ご本人の利益を最大化し、あらゆるリスクからお守りします。都心のマンションや戸建て、収益物件など、様々なタイプの物件の取り扱い経験があります。

手続きの流れと注意点|まず何から始めるべきか

ここでは、実際に不動産売却を進める際の一般的な流れと、各ステップでの注意点を解説します。

成年後見制度における不動産売却手続きの4つのステップを示したフローチャート。

STEP1:専門家への相談と方針決定

まずは専門家にご相談いただくことから始まります。ご本人の状況、財産の内容、不動産の概要などをお伺いし、売却の必要性やメリット・デメリットを一緒に整理させていただきます。その上で、家庭裁判所の許可を得るための方針をご提案し、今後の見通しをご説明します。この時点で後見制度利用そのものがまだ開始していないようでしたら、開始後にスムーズに売却につなげられる申し立て書類の作成からはじめます。

STEP2:不動産の査定と売却活動の準備

方針が決まったら、売却の準備に入ります。家庭裁判所に価格の妥当性を示すため、いくつかの購入希望者から購入と希望価格の意思表示である「買付証明書」を取り付けることをまずは目標とします。その中で一番高い価格を提示して購入希望者を中心に売却交渉を進めます。裁判所にも進捗状況の報告をしながら、指示を仰ぎます。こうすることでスムーズに売却許可を得ることにつながります。

STEP3:家庭裁判所への「居住用不動産処分許可」申立て

必要書類が揃ったら、管轄の家庭裁判所へ「居住用不動産処分許可申立」を行います。申立書には、これまで準備してきた売却の必要性を裏付ける資料(収支計画書、不動産査定書、売買契約書案など)を全て添付します。申立てから許可までは事案により異なりますが、事前にしっかり裁判所に説明できていれば、2週間程度が目安になります。

STEP4:売買契約の締結と決済・登記

無事に裁判所から許可審判書が発行されたら、いよいよ買主と正式な売買契約を締結します。その後、定められた決済日に買主から売買代金を受領すると同時に、物件の鍵を引渡し、法務局へ所有権移転登記を申請します。所有権移転登記の完了後には、裁判所に入金した通帳のコピーや登記事項証明書を資料として添付して、売買が完全に終わったことを報告します。

まとめ:一人で悩まず、まずはご相談ください

成年後見制度を利用した不動産の売却は、法律や不動産に関する専門知識が求められるだけでなく、家庭裁判所とのやり取りなど、精神的なご負担も大きい複雑な手続きです。

特に、ご家族の思い出が詰まったご実家の売却であれば、様々な思いが交錯することでしょう。司法書士として法律・手続面の支援を行い、ご相談に際しては依頼者の心情に配慮して対応します。

手続きの煩わしさやストレスからご依頼者様を解放し、ご本人にとって最善の解決策を「一緒に考えて提案する」パートナーとして、全力でサポートさせていただきます。

「何から手をつけていいか分からない」「うちのケースでも売却できるだろうか」

そんなご不安を抱えていらっしゃるなら、どうか一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。

エリアも東京だけでなく千葉、神奈川、茨城の方で成年後見人の就任実績があります。首都圏であれば対応できますので、どうぞお気軽にご相談ください

初回無料相談(事前予約制)はこちらから

司法書士が解説|認知症で不動産が売れない本当の理由

2025-12-17

「認知症だから売れない」の本当の理由、ご存知ですか?

「親が認知症になってしまったので、施設入居の費用を捻出するために実家を売りたい…」「不動産会社に相談したら、認知症だと売却は難しいと言われてしまった…」

ご家族を想う大切なお気持ちとは裏腹に、予期せぬ壁に突き当たり、途方に暮れていらっしゃるのではないでしょうか。多くの方が「認知症だと契約ができないから」という理由を耳にされるかと思いますが、実は、問題の核心はもう少し別のところにあります。

この記事では、なぜ認知症の方の不動産売却が難航するのか、その「本当の理由」を、日々の業務で不動産登記に深く関わる私たち司法書士の視点から、一歩踏み込んで解説します。

そして、最も大切なことですが、道が閉ざされたわけではないということもお伝えしたいと思います。正しい手順を踏めば、ご本人の財産を守りながら、不動産を売却することは可能です。

一人で抱え込まず、まずはこの記事を読んで、問題の全体像を一緒に整理していきましょう。

不動産売却の最後の砦「司法書士」が登記を認めない現実

不動産売却が頓挫してしまう最大の関門、それは不動産の最終的な名義変更手続き、すなわち「所有権移転登記」にあります。そして、この手続きを担うのが私たち司法書士です。なぜ、私たちが登記申請を受け付けられないケースがあるのでしょうか。その背景には、専門家としての重い責任が隠されています。

登記書類を厳しくチェックする司法書士。専門家としての責任の重さを示している。

なぜ?司法書士が登記手続きを止める本当の理由

認知症の方の不動産が売れない理由として、よく「売買契約が法律的に無効になるから」と説明されます。これは間違いなく事実なのですが、いわば“建前”の部分。

仮に、ご本人の判断能力が低下している状態でも、必要な書類がすべて揃っていれば、法務局は登記を受け付けてしまいます。では、なぜ司法書士は「待った」をかけるのでしょうか。

それは、万が一、後から「本人の意思に基づかない不当な取引だった」として親族などから訴訟が起こされた場合、その取引に関与した司法書士は、多額の損害賠償責任を問われたり、場合によっては司法書士の資格を失うリスクがあるからです。

司法書士が名義変更の登記を完了させなければ、買主様は代金を支払うことができません。つまり、売買が成立しないのです。これが、認知症の方の不動産売却がストップしてしまう、現場のリアルな実情です。

司法書士が行う「意思能力」の確認、その具体的な中身とは

私たちが登記手続きをお受けする際、特にご高齢の方の場合は、必ずご本人と直接お会いして「意思能力」の確認を行います。これは、ご自身の行為の結果を正しく理解し、判断できる能力があるかどうかを確認する、非常に重要なプロセスです。住所やお名前、生年月日、売却意志の有無などを中心にご質問していきます。

これらの質問にスムーズにお答えいただけない場合、残念ながら「意思能力に疑いあり」と判断せざるを得ず、登記手続きを進めることはできません。これは、ご本人の大切な財産を守るための、そして買主様をトラブルから守るための、司法書士としての責務なのです。

【実例】スムーズな登記のためにご家族ができること

法律的な判断はもちろん重要ですが、手続きを円滑に進めるためには、ご家族の協力体制も実は大きなポイントになります。これは、私が実際に経験したことからお伝えできる、大切なアドバイスです。

売却活動の前にご相談を受けたケース

あるご家族から、「父が高齢なので、実家を売る前に認知能力に問題がないか一度確認してほしい」とご相談がありました。早速お父様と面談させていただいたところ、ご自身の状況や売却の理由をしっかりとご説明くださり、意思能力に問題はないと判断しました。

ただ、売却の決済までには時間がかかります。その間にご本人の状態が変わる可能性もゼロではありません。そこで私は、ご家族にこう助言しました。「決済を担当する司法書士の先生が最終判断をされるまで、ご家族間で揉め事を起こさないように気をつけてください。そして、先生が行う本人確認には、どうか快く協力してあげてください」と。

司法書士も人間です。ご家族の間でトラブルの気配がしたり、何かを隠そうとしている雰囲気を感じ取ったりすると、どうしても慎重にならざるを得ません。スムーズに手続きを進めるためには、専門家の要請に誠実に応じていただく姿勢が、現実問題として非常に大切なのです。

道はあります。成年後見制度で不動産売却を実現する方法

「では、意思能力がないと判断されたら、もう売却は諦めるしかないの?」いいえ、そんなことはありません。ご本人の判断能力が低下している場合でも、法律に則った手続きを踏むことで、不動産を売却する道がちゃんと用意されています。それが「法定後見・任意後見」で知られる成年後見制度です。

成年後見制度を利用した不動産売却の流れを示した図解。申立てから登記までの5つのステップが描かれている。

成年後見制度とは?基本をわかりやすく解説

成年後見制度とは、認知症や知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が不十分な方々を保護し、支援するための制度です。ご家族などが家庭裁判所に申立てを行うことで、ご本人のために財産管理や身上監護(生活や医療・介護に関する契約など)を行う「成年後見人」が選任されます。

成年後見人が選ばれると、その人がご本人に代わって法的な手続きを行えるようになります。つまり、成年後見人がご本人に代わって買主と売買契約を結び、司法書士に登記手続きを依頼することで、不動産を正式に売却できるようになるのです。ただし、ご本人が居住している不動産を売却する場合は、家庭裁判所の処分許可が必要となることがあり、許可が得られて初めて売却手続きが可能になります。

参考:成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A

不動産売却までの流れと期間の目安

成年後見制度を利用して不動産を売却する場合、一般的な流れは以下のようになります。

  1. 家庭裁判所への後見開始の申立て:必要書類を収集・作成し、申立てを行います。
  2. 成年後見人の選任:家庭裁判所が審査を行い、候補者の中から(または弁護士や司法書士などの専門職から)成年後見人を選任します。(申立てから約2〜4ヶ月)
  3. 居住用不動産処分許可の申立て:売却する不動産がご本人のご自宅である場合、売却に先立ち「この不動産を売却することを許可してください」という申立てを家庭裁判所に行い、許可を得る必要があります。
  4. 不動産の売買活動・契約:後見人が不動産会社と媒介契約を結び、買主を見つけ、売買契約を締結します。
  5. 決済・登記:買主から売買代金を受け取り、司法書士が所有権移転登記を申請します。

申立てから後見人が選任されるまでに数ヶ月、さらに居住用不動産の売却許可にも時間がかかるため、全体としては半年以上の期間を見ておけるとよいでしょう。

メリットと知っておくべき注意点

成年後見制度には、メリットだけでなく、知っておくべき注意点もあります。両方を理解した上で、利用を検討することが大切です。

メリット

  • 法的に正当な手続きで不動産を売却できる:後々のトラブルの心配なく、堂々と売却手続きを進められます。
  • 本人の財産が守られる:後見人は家庭裁判所の監督下にあり、本人の利益に反するような財産の使い方はできません。悪質な詐欺などから財産を守ることにも繋がります。

注意点

  • 申立てや後見人への報酬に費用がかかる:申立ての実費のほか、専門家が後見人に選ばれた場合は、月々の報酬が発生します。
  • 後見は原則として本人が亡くなるまで続く:不動産売却という目的が達成された後も、後見人による財産管理は続きます。
  • 財産の利用に一定の制限がかかる:本人の財産は本人のためにしか使えなくなるため、例えば家族の生活費に充てる、といったことは原則として認められません(例外あり)。

不動産と法律の専門家だからできる、私たちの強み

認知症の方の不動産売却は、法律の知識だけ、あるいは不動産取引の知識だけでは、スムーズに進めることが非常に困難です。その両方に精通していることこそ、下北沢司法書士事務所の強みです。

不動産売却を成功させた司法書士と不動産業者。専門家同士の連携による問題解決を象徴している。

宅建士資格と不動産実務経験を活かしたサポート

当事務所では司法書士資格に加えは、宅地建物取引士・管理業務主任者の資格を保有しています。また、過去には不動産会社やマンション管理会社での勤務経験もあり、不動産業界の慣習や実務を理解しています。

そのため、単に登記手続きを代行するだけでなく、

  • 信頼できる不動産会社の選び方
  • 売却活動の進め方に関するアドバイス
  • 売買契約書の内容チェック

など、不動産売却のプロセス全体を見据えた、実践的なサポートが可能です。法律と実務、両方の視点から、あなたにとって最善の道筋をご提案します。

成年後見人としての不動産売却サポート

私たちは、家庭裁判所から選任され、成年後見人としてご本人の財産管理を行う業務にも力を入れています。これまでにも、成年後見人という立場で、ご本人に代わって不動産売却の手続きを担当した経験がございます。

家庭裁判所への複雑な許可申立ての手続き、不動産会社との連携、買主様との条件交渉など、豊富な経験と実績があります。困難な状況であっても、安心して私たちにお任せください。

まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください

ご親族が認知症になった中での不動産売却は、法律的な手続きの複雑さに加え、ご家族の精神的なご負担も大きい、非常にデリケートな問題です。

この記事でお伝えしたかったことは、以下の2点です。

  1. 認知症を理由に、不動産売却を諦める必要はないこと。成年後見制度という、国が定めた正式な手続きがあります。
  2. 問題を解決するためには、不動産と法律、両方の知見を持った専門家のサポートが不可欠であること。

何から手をつけていいか分からない、誰に相談すればいいか分からない、そんな時は、どうか一人で抱え込まないでください。

当事務所の司法書士は、心理カウンセラーの資格も有しており、ご相談時には皆様のお気持ちに配慮し、丁寧にお話を伺うことを大切にしています。ご状況を整理し、法的な観点から解決策をご提案いたします。

成年後見人の就任実績エリアも事務所のある世田谷の方だけでなく、中野区の方や茨城県の方、横浜市の方や千葉県の方など広範囲で実績があります。

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下北沢司法書士事務所 竹内友章

成年後見の不動産売却|契約後のトラブル解決実例

2025-12-16

売買契約後に発覚した判断能力の問題。あなたならどうしますか?

「お父様は、ご自身の意思で不動産を売却できる状態にないようです。このままでは決済手続きは進められません」

不動産売買の決済(残代金の支払いと物件の引渡し)目前で、司法書士からこう告げられたらあなたはどうしますか?

良かれと思って進めてきた親御さんの不動産売却。契約も無事に終わり、あとはお金を受け取るだけ…そう思っていた矢先の出来事です。頭が真っ白になり、「契約が無効になる?」「買主から違約金を請求されるのでは?」「他の兄弟にどう説明すれば…」といった不安が一気に押し寄せてくるのではないでしょうか。

高齢化が進む現代において、これは決して他人事ではありません。不動産売買契約という重要な法律行為の途中で、売主様の判断能力が問題となるケースは、残念ながら少なくないのです。

この記事では、実際にあった相談を基に、契約無効の危機に瀕した不動産売却を成年後見制度を利用して解決に導いた類型的な事例をモデルケースとして、その具体的な解決プロセスを詳細に解説します。

当事務所は、単に法律手続きを行うだけでなく、代表司法書士が持つ不動産会社での実務経験や宅地建物取引士としての知見を活かし、このような複雑な事案について対応実績がございます。もし今、あなたが同じような状況で出口の見えない不安の中にいるのなら、この記事が解決への一つの参考情報となれば幸いです。

不動産売買契約のトラブルで頭を抱える男性。契約無効や違約金のリスクに悩んでいる様子。

【司法書士の実例】契約無効の危機から不動産売却を成功させた方法

これは、実際にあったご相談をモデルケースとして再構成した、あるご家族の物語です。特定の個人が識別されないよう内容は抽象化していますが、皆様が直面しうる問題の核心に触れるものです。

司法書士が見た、ある売却トラブルの顛末

「もうどうしていいか分からないんです」
ご相談に来られたのは、憔悴しきった表情のご長男でした。お父様が施設に入所されたため、空き家になったご実家を売却する話を進めていたとのこと。買主も見つかり、売買契約も締結。あとは決済を待つばかりでした。

しかし、決済直前の司法書士による本人確認の場で、事態は暗転します。お父様との会話が成り立たず、「ご本人の意思で売却するとは判断できない」と指摘されてしまったのです。

買主は当然、予定していた新生活のプランが崩れ、憤慨しています。決済日は刻一刻と迫り、このままでは契約違反として違約金問題に発展しかねません。さらに、売却を主導したご長男に対し、他のご兄弟から「一体どうなっているんだ」と非難の声が上がり始めていました。

まさに八方塞がりの状況で、ご長男は当事務所の扉を叩かれました。私は、ご親族からの要請を受け、家庭裁判所に申立てを行い、お父様の成年後見人に就任。この状況から、売買を完遂させるのが仕事でした。

成年後見人に就任したからといって、すぐに売却できるわけではありません。むしろ、ここからが大変でした。なぜなら、法的に見れば「契約締結時点でお父様に判断能力がなかった可能性が高く、そもそも売買契約自体が無効である」という風にも考えられるからです。

無事に売却するために、私は3つの関門を突破する必要がありました。

第一の関門:契約無効を回避し「追認」する

まず乗り越えるべきは、「契約が無効かもしれない」という問題です。

不動産売買のような重要な契約は、当事者が「自分が何をしているか」を正しく理解していること(これを「意思能力」と言います)が前提となります。もし契約時に意思能力がなかったと判断されれば、その契約は法律上、初めからなかったこと(無効)になります。

しかし、今回のように成年後見人が就任した場合、後からその契約を有効なものとして認める「追認(ついにん)」という手続きが可能です。

本件の状況を総合的に考慮した結果、私はこの「追認」こそが、状況を打開するための有力な選択肢だと考えました。なぜなら、契約を白紙に戻して一から買主を探し直すことは、以下のような多大なデメリットを伴うからです。

  • 時間と費用のロス:新たな買主が見つかる保証はなく、売却までにさらに時間がかかれば、固定資産税などの維持費もかさみます。
  • 買主との深刻なトラブル:契約が無効となれば、手付金の返還等で問題が複雑化する可能性があります。例えば、民法第557条は手付による契約解除について定めていますが、履行に着手していた場合など状況は単純ではありません。買主が被った損害(新居の仮住まい費用など)について、賠償を求められる訴訟に発展するリスクもありました。
  • より不利な条件での売却:一度トラブルがあった物件として、同条件で売却できるとは限りません。

そこで私は、家庭裁判所に対し、成年後見人としてこの契約を「追認」し、売却を前に進める方針を立てました。これは、単に手続きを簡略化するためではありません。ご本人様とご家族にとって、最も負担が少なく、かつ有益な解決策である考えたからです。

第二の関門:家庭裁判所を「説得」する論理

成年後見人が居住用不動産を売却するには、家庭裁判所の許可が不可欠です。ご本人様がお住まいになっていた不動産(居住用不動産)の売却は、生活基盤を失わせる重大な行為であるため、裁判所は非常に慎重に審査します。なぜこの契約をそのまま活かした方がいいのか、明確に言語化して説明する必要がありました。

私は後見人として、この売買契約を追認することが「ご本人様の利益に繋がる」ことを、多角的な視点から裁判所に説明しました。私が提示した説得の根拠は、主に以下の3点です。

成年後見人が不動産売却の許可を得るために家庭裁判所を説得した3つのポイントを図解。「本人の財産的利益」「買主との紛争回避」「家族関係への配慮」。
  1. ご本人様の財産管理上の利益
    お父様は既に施設に入所されており、今後ご自宅に戻って生活する可能性は身体的な問題から考えても極めて低い状況でした。空き家のまま所有し続けることは、固定資産税や管理費がかかるだけで、財産を減らす一方です。この契約条件は市場価格から見ても妥当であり、不動産を売却して管理しやすい預貯金に変えることは、ご本人様の財産を守る上で合理的かつ有益であると主張しました。
  2. 買主とのトラブル回避という利益
    契約を一方的に破棄すれば、買主との間で深刻な法的トラブルに発展する可能性も高い状況でした。既に手付金も受け取っており、違約金や損害賠償請求に発展すれば、かえってご本人様の財産を大きく損なう結果になります。締結済みの契約を履行することこそが、無用な紛争を避け、経済的損失を防ぐ最善の道であることを訴えました。
  3. ご家族の心情への配慮(身上監護)
    もしこの件が訴訟トラブルになれば、売却を主導したご長男に他のご兄弟からの非難が集中することも予想できました。親御さんとして、ご自身の財産が原因で子ども達が争うことを望むはずがありません。ご家族の平穏を保つことも、後見人としてのご本人様の心情に配慮する「身上監護」の重要な役目であると説明しました。

これらの主張は、司法書士としての法律知識だけでなく、宅地建物取引士として不動産取引の妥当性を判断する知識、そして後見人としてご本人様やご家族の状況を深く理解する視点が一体となって初めて構築できるものです。結果として、裁判所はこちらの方針を理解し、無事に売却の許可を得ることができました。

参考:成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分について

第三の関門:「決済トラブル・違約金」を回避する交渉術

後見人の申し立て(申請手続き)をして後見人に就任、家庭裁判所の許可を得て不動産を売却するには数か月はかかってしまいます。当初の決済日はとうに過ぎてしまっており、買主の不満は募る一方でした。

ここで重要になるのが、買主との交渉です。私は後見人として直ちに買主側の不動産会社と連絡を取り、事情を丁寧に説明しました。そして、単に待ってほしいとお願いするのではなく、「決済日を延長するための覚書」の締結をこちらから提案しました。

この覚書には、

  • 成年後見人として売却に向けて裁判所と調整中であること
  • 家庭裁判所の許可が得られ次第、速やかに決済を行うこと
  • 手続き中の進捗を定期的に報告すること

などを明記し、法的な手続きに則って売却を進めるという真摯な姿勢を示しました。これにより、買主にも「ただ待たされる」のではなく、「法的なプロセスに則って確実に所有権が移転される」という安心感を持ってもらうことができました。

このような不動産実務に即した対応は、不動産会社での勤務経験があるからこそできる交渉術です。相手がどうすれば安心なのか、経験上分かりました。結果的に、買主のご理解を得て違約金等の請求を受けることなく、裁判所の許可後に無事決済を完了させることができました。

不動産売買の決済日延長に関する覚書を締結し、握手を交わす当事者。円満な交渉成立のイメージ。

放置は危険!契約後の判断能力問題が招く最悪のシナリオ

もし、あのご家族が専門家に相談せず、問題を放置していたらどうなっていたでしょうか。考えられる最悪のシナリオは、一つではありません。

  • 契約無効と違約金の支払い
    買主側から契約の無効を主張され、受領した手付金の返還はもちろん、契約書に基づき手付金と同額の違約金を請求される可能性があります。
  • 損害賠償請求訴訟
    買主がこの売買を前提に他の家を売却していたり、引っ越しの手配を進めていたりした場合、違約金だけでは収まらず、それによって生じた損害の賠償を求める訴訟を起こされるリスクがあります。
  • 不動産の塩漬け状態
    トラブルが解決するまで、その不動産を他の人に売ることもできません。訴訟になれば数年単位で身動きが取れなくなり、その間の管理費や税金は払い続けなければなりません。
  • 家族関係の崩壊
    金銭的な損失以上に深刻なのが、家族間の亀裂です。「なぜあんな契約をしたんだ」「お前のせいで大変なことになった」と責任のなすり合いが始まり、修復不可能な関係になってしまうことも少なくありません。

一度こじれてしまった不動産トラブルを、当事者だけで解決するのは極めて困難です。感情的な対立も絡み合い、時間と共に問題はより複雑化していくのです。

高齢者の不動産売却こそ、専門家への相談が有効な選択肢です

今回の実例でお分かりいただけたように、成年後見が関わる不動産売却は、単に書類を作成して提出するだけの手続きではありません。それは、法律の知識、不動産取引の実務、そして裁判所や関係者を説得する交渉力が一体となって初めて前に進めることができる、専門的な知識と経験を要する業務と言えるでしょう。

当事務所の代表司法書士は、司法書士資格に加え、宅地建物取引士の資格と不動産営業マンとしての実務経験を有しており、依頼者様ごとに最適な解決策をご提案できるよう努めております。過去の不動産会社やマンション管理会社での勤務経験で培った「現場感覚」と、後見人として数多くの売却実績で得た「裁判所を説得するノウハウ」を兼ね備えています。

もしあなたが今、判断能力に不安のあるご家族の不動産売却でお悩みでしたら、一人で抱え込まないでください。問題が深刻化する前に、ぜひ一度、私たちの話を聞かせていただけませんか。状況を整理し、あなたにとって最善の道筋を一緒に考えます。エリアも東京23区(事務所のある世田谷から遠い区でも大丈夫です!)のご相談だけでなく、千葉・埼玉・神奈川など首都圏のご相談に対応します。

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下北沢司法書士事務所 竹内友章

不動産売却、契約後の判断能力問題。専門家が事例解説

2025-12-15

「契約は済んだのに…」不動産売却、決済直前の落とし穴

ご高齢の親御様が所有する不動産の売却。長い時間をかけて買主様を見つけ、無事に売買契約を締結し、あとは数か月後の決済(残代金の受領と物件の引渡し)を待つばかり…。「これで一安心」と胸をなでおろしたのも束の間、順調に進んでいたはずの計画が、ある日突然、暗礁に乗り上げてしまうことがあります。

その最大の原因の一つが、「売主様の判断能力の問題」です。

特に、売買契約が終わってから決済日までの間に、司法書士による本人確認などをきっかけにこの問題が発覚するケースは少なくありません。契約書に署名・捺印が済んでいるから大丈夫、というわけではないのです。

もし決済直前に「売主様は、ご自身の意思で不動産を売却することを本当に理解していますか?」という問いが突き付けられたらどうしますか? これは、決して他人事ではありません。大切な資産を守り、円満な取引を実現するために、すべての関係者が知っておくべき、不動産売却に潜む重大な落とし穴について解説します。

【実例】決済直前に司法書士から「診断書を」と言われたら

これは、当事務所が実際に経験したご相談です。(プライバシー保護のため事例は内容を一部変更・匿名化しています)この事例ほど、不動産売却における売主様の判断能力の重要性を痛感させられた案件はありませんでした。

司法書士が見た、ある不動産売却の舞台裏

ご相談者は、高齢のお父様が所有する不動産の売却を進めていたお子様でした。お父様は施設に入居されており、外出が難しいため、売却活動から買主様との契約まで、すべてお子様が代理人として進めてこられました。

滞りなく売買契約は完了。あとは2か月後の決済を待つだけという、まさに最終段階でした。

ところが、決済を目前に控えたある日、事態は急変します。決済時の登記手続きを担当する司法書士が、お父様の本人確認のために施設を訪れた後、不動産会社の担当者を通じてこう告げたのです。

「お父様の診断書を取得してください」

このまま淡々と決済手続きに向かうと思っていたご親族と不動産会社はかなり違和感を感じたようです。診断書取得の前に、同じ司法書士である私、竹内のもとへご相談が寄せられたのです。

この「診断書を」という言葉の裏にある本当の意味を、私は理解しました。これは、単なる確認書類の依頼ではありません。おそらく、「このままでは決済はできません。成年後見制度を利用しなければ、登記手続きは進められない」という意味です。

裁判所が成年後見の必要性を判断する際に参考とする医師の診断書(家庭裁判所所定様式の意見書)が重要な役割を果たします。診断書には医師の所見が記載され、必要に応じて認知機能検査の結果(MMSE・HDS‑R等)が添付されることがありますが、必ずしも特定の“計算問題”形式に限定されるわけではありません。ご高齢の方がこれを受けて「判断能力に全く問題なし」という結果を得るのは、かなり難しいように思えました。

状況を正確に把握するため、私もご本人様との面談をセッティングしていただきました。施設でお会いしたお父様は、残念ながらご自身の住所はおろか、お名前さえもはっきりとおっしゃることができない状態でした。診断書を取るまでもなく、ご自身の財産を売却するという重大な判断ができる状態ではないことは明らかでした。

最初の司法書士さんは、買主側の不動産会社が依頼した先生だったようです。おそらく、普段から付き合いのある買主様の手前、「決済は不可能です」と断言することができず、遠回しな表現になったのでしょう。

私はご家族に状況をありのままに説明しました。そしてご家族からの要請を受けて成年後見に就任し、裁判所との調整の上無事に売却を完了させました。

結果としては無事に売却できましたが、当初の決済予定日は数か月も後ろ倒しになりました。買主様のご理解があったからこそ契約解除には至りませんでしたが、一歩間違えれば、すべてが白紙に戻り、多額の違約金が発生していたかもしれないのです。

この一件は、売買契約を結ぶ「前」に、売主様の判断能力の状態を専門家が確認することの重要さを、改めて浮き彫りにした事例でした。

介護施設で窓の外を眺める高齢男性。判断能力の問題を象徴している。

なぜ契約が無効に?不動産売買と「意思能力」の重要性

先の事例で、なぜ決済直前に手続きがストップしてしまったのでしょうか。それは、法律行為が有効に成立するための大前提である「意思能力」が関係しています。

意思能力とは、かんたんに言えば「自分が行う行為の結果を正しく理解し、判断できる能力」のことです。不動産売却でいえば、「この不動産を、いくらで、誰に売るのか。その結果、自分は所有権を失い、代わりに代金を受け取る」という契約内容を、きちんと理解している状態を指します。

民法第3条の2は、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときはその法律行為は無効になると定めています(令和2年改正民法で明文化された規定です)。たとえ売買契約書に本人の署名や実印の押印があったとしても、契約時に意思能力がなければ、その契約は法的に効力を持ちません。

この「契約無効」のリスクは、売主様だけでなく、買主様や取引に関わるすべての人にとって、極めて深刻な問題を引き起こします。

司法書士が必ず行う「本人確認・意思確認」とは

不動産取引の最終段階である決済時には、必ず司法書士が立ち会います。司法書士の重要な役割の一つが、所有権移転登記の申請代理です。この登記を行うにあたり、司法書士には売主様ご本人の「本人確認」「登記原因(売却の事実)の確認」、そして「売却する意思の確認」を行う法的義務があります。

たとえご家族が代理で手続きを進めていても、最終的には司法書士が売主様ご本人と直接面談し、「この不動産をご自身の意思で売却することに間違いありませんね?」と確認しなければなりません。この確認が取れない限り、司法書士は怖くて登記申請の委任を受けることができないのです。

先の事例で、買主側の司法書士が「診断書を」と要求したのは、この意思確認の過程で「ご本人に有効な売却の意思(意思能力)があるとは断定できない」と判断したためです。これは、司法書士としての当然の職責なのです。

「認知症=即、契約無効」ではないが…潜むリスク

ここで注意が必要なのは、「認知症っぽいからといって、即座にすべての契約が無効になる」というわけではない、という点です。認知症の症状には波があり、軽度であれば契約内容を十分に理解できる方もいらっしゃいます。

しかし、問題なのは、その判断が非常に難しいということです。契約時点での意思能力の有無は、後になってから他の親族などが「あの時の契約は無効だ」と裁判で争う火種になり得ます。

買主様からすれば、代金を支払ったのに、後から契約の無効を主張されて所有権を失うかもしれない、という大きなリスクを抱えることになります。このような不確実性がある以上、少しでも意思能力に疑いがあれば、専門家は手続きを進めることに慎重にならざるを得ません。安易な自己判断は、関係者全員を大きなトラブルに巻き込む危険性をはらんでいるのです。

不動産売買契約が意思能力の欠如により無効になる流れを示した図解

対応が遅れた場合の最悪のシナリオ

「少し様子を見よう」「なんとかなるだろう」といった対応の遅れは、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。具体的にどのようなリスクが考えられるのか、それぞれの立場から見ていきましょう。

買主への違約金発生と信頼失墜

売主側の事情で定められた決済日に物件を引き渡せない場合、契約違反となります。これにより、売買契約書に基づき、買主様に対して違約金を支払う義務が生じる可能性があります。違約金は契約書で個別に定められるため金額はケースバイケースですが、実務上、契約書で売買価格の10%~20%程度に設定されることもあり、例えば3,000万円の物件であれば300万円から600万円もの高額な金銭的負担が発生しかねません。

さらに、買主様が住宅ローンを利用する場合、金融機関との金銭消費貸借契約にも影響が及びます。決済の遅延は、買主様の人生設計を大きく狂わせ、売主様は社会的な信用を失うことにも繋がります。

売却機会の損失と資産価値の下落

一度契約が白紙に戻ってしまうと、同じ条件で新たな買主様を見つけるのは容易ではありません。不動産業界では情報が広まりやすく、「何か問題があった物件(訳あり物件)」というレッテルを貼られてしまう恐れがあります。

その結果、次の買主様が見つかりにくくなったり、売却価格を大幅に下げざるを得なくなったりするケースも少なくありません。対応が遅れるほど、大切な資産の価値が目減りしていくという、まさに「時間との勝負」になるのです。

家族・親族間のトラブルへの発展

不動産という高額な資産が絡む問題は、家族や親族の関係に深刻な亀裂を生じさせることがあります。判断能力の問題が発覚すると、「なぜもっと早く気づかなかったのか」「対応が悪いからこうなった」といった責任のなすり合いが始まることがあります。

また、売却手続きを進めていなかった他のご兄弟などから、「親の判断能力がないのに勝手に話を進めたのではないか」と疑念を抱かれ、関係が悪化することも考えられます。法律問題が、解決の難しい感情的なしこりを残してしまうのです。心理カウンセラーの視点からも、このようなご家族の精神的負担は計り知れないものがあると実感しています。

不動産売却で判断能力の問題への対応が遅れた場合の3つの最悪のシナリオを示したイラスト

唯一の解決策「成年後見制度」の利用と専門家の役割

では、売主様の意思能力が不十分だと判断された場合、不動産売却を諦めるしかないのでしょうか。いいえ、そうではありません。

このような状況で、法的に正しく、安全に不動産売却を進めるためのほぼ唯一の手段が「成年後見制度」の利用です。

成年後見制度とは、判断能力が不十分な方に代わって財産を管理したり、契約などの法律行為を行ったりする「成年後見人」を、家庭裁判所が選任する制度です。ご親族または司法書士などの専門家が後見人となり、ご本人の利益を守るために活動します。

自宅不動産を売却する場合は、後見人が単独で判断するのではなく、「居住用不動産処分許可」を家庭裁判所に申し立て、その許可を得る必要があります。裁判所が「ご本人のために売却が必要である」と判断して初めて、後見人は本人に代わって買主様と売買契約を結び、決済手続きを進めることができるのです。

この一連の手続きは、専門的な知識と多くの書類作成が必要となるため、司法書士のような専門家のサポートが不可欠です。専門家が関与することで、法的に保護された安全な取引を実現し、買主様や関係者にも安心して手続きを進めてもらうことができます。

手遅れになる前に。判断能力の確認は「契約前」が鉄則

ここまで解説してきたように、判断能力の問題は、発覚するタイミングが遅れれば遅れるほど、関係者全員に大きな負担と損害を与えます。

このトラブルを未然に防ぐために最も重要なことは、たった一つです。

それは、不動産会社と媒介契約を結ぶ前、あるいは売買契約を締結する「前」の段階で、売主様の判断能力について専門家による客観的な確認を行うことです。というよりも、売却活動の初動から判断能力を確認しながら進めるべきです。

「うちの親はまだ大丈夫だろう」「家族がしっかりしているから問題ない」といった希望的観測は禁物です。少しでもご不安な点があれば、売却活動を本格的に開始する前に、一度司法書士にご相談ください。

事前に成年後見制度の利用が必要だと分かっていれば、売却活動のスケジュールもそれに合わせて組むことができます。買主様にも事情を説明した上で契約に臨めるため、決済直前になって慌てることも、契約が破談になるリスクもありません。結果として、それが時間と費用、そして何よりご家族の精神的な平穏を守るための、最も確実な近道となるのです。

不動産売却の判断能力でお悩みなら当事務所へご相談を

高齢の親御様の不動産売却は、法律や税金の手続きだけでなく、ご本人の意思やご家族のお気持ちなど、非常にデリケートな問題が絡み合います。

「親の判断能力について、誰に相談すればいいか分からない」
「不動産会社から、後見制度の利用を勧められたが、どうすれば…」
「契約を控えているが、このまま進めて良いのか不安だ」

このようなお悩みを抱えていらっしゃるなら、ぜひ一度、下北沢司法書士事務所にご相談ください。

当事務所の代表司法書士は、不動産会社での勤務経験があり、法律だけでなく不動産取引の実務にも精通しています。机上の空論ではない、現場の実情を踏まえた具体的なアドバイスが可能です。

また、司法書士だけでなく上級心理カウンセラー資格を有しており、法律的な問題解決と同時に、ご家族が抱える不安やストレスに寄り添い、心に優しいサポートを提供することを目指しています。成年後見制度を利用すべきか迷われている段階でも構いません。ご家族にとって最善の道は何かを「一緒に考え、提案する」パートナーになります。

初回のご相談は無料です(要予約)。土日祝日のご相談も承っておりますので、まずはお気軽にお気持ちをお聞かせください。専門家として、事案に応じた適切な対応を一緒に検討させていただきます。エリアも東京23区や狛江市、稲城市などの東京都下、首都圏(千葉・神奈川・埼玉・茨城など)のご相談に対応しています。

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下北沢司法書士事務所 竹内友章

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