「身内だから大丈夫」が危ない。成年後見と親族間の不動産トラブル
「親の判断能力が少しずつ衰えてきた。実家やアパートの管理は、これからどうすれば…」
ご自身の親御様の将来を案じ、成年後見制度について情報収集をされている方は、このような不安をお持ちではないでしょうか。特に、親御様が所有する不動産に親族が関わっている場合、その悩みは一層複雑になります。
「まさか、うちの家族に限って揉めることなんてない」「長年の付き合いがある親戚だから、話せば分かってくれるはず」
そう信じたいお気持ちは、痛いほどよく分かります。しかし、残念ながら、相続や財産管理の問題が浮上した途端、それまで良好だったはずの親族関係に深い亀裂が入ってしまうケースは決して珍しくありません。特に、お金が絡む不動産の問題では、相続不動産の売却のように、感情的な対立が生まれやすい場面が数多く存在します。
この記事では、司法書士である私が成年後見人として実際に体験した、収益物件の売却をめぐる親族間トラブルの事例をご紹介します。そこには、成年後見制度、親族間のサブリース契約、そして「口頭約束」という、3つの法律問題が複雑に絡み合っていました。この生々しい事例を通じて、親族間の不動産取引に潜むリスクと、ご自身の家族をトラブルから守るための具体的な教訓をお伝えします。
【司法書士の体験談】口頭での約束を反故にされ、1000万円近い立ち退き料を請求された事例
これは、私が司法書士として成年後見人に就任していた時の、今でも忘れられない経験談です。この一件を通じて、私は専門家としての自分の甘さを痛感すると同時に、法律の世界の厳しさと、人間関係の複雑さを改めて学びました。
私が担当していた被後見人の方は、一棟の収益物件を所有されていました。しかし、その物件は特殊な事情を抱えていました。被後見人の親族が経営する会社が建物を一括で借り上げ、その会社が第三者に転貸する、いわゆるサブリース契約が結ばれていたのです。
さらに問題を複雑にしていたのが、その親族の会社が被後見人に対して多額の負債を抱えていたことでした。私は後見人として、被後見人の財産を守るため、この収益物件を売却し、資産を整理する方針を立てました。
売却を進めるにあたり、当然、サブリース契約を解約し、建物を明け渡してもらう必要があります。そこで私は、親族側の代理人である弁護士と話しました。私からは、立ち退きに応じてもらえるならば貸付金の返済は求めないことを伝えました。
相手方の弁護士も非常に好意的な話を聞いていました。いかにも話の内容に同意しているような雰囲気でした。この時の私はまだその経験の不足から、日常での人間関係を壊さないために相手を問い詰めすぎないコミュニケーションと、こうした大きな金銭が関係する仕事でのコミュニケーションの区別がついいぇいませんでした。少なくとも私の言葉を否定はしなかったし、うなずいて聞いていることから、自分より年長者でまたある意味で格上の職業である弁護士に対してしっかり名言させたり、速やかに書面化させたりすることは、信用していないようで失礼と考えてしまったのです。
その後、私は買主を見つけ、無事に売買契約を締結。あとは物件の引き渡しと決済を待つばかりとなりました。しかし、その決済日が間近に迫ったある日、事態は急転します。
親族側の弁護士から、一本の連絡が入りました。
「先日のお話はなかったことに。立退き料として、1000万円をお支払いいただきたい」
電話口で、彼はそれまでとは打って変わって、淡々とした事務的な口調でそう告げました。一瞬、何を言われているのか理解できませんでした。あの和やかだった交渉は一体何だったのか。決済直前のこのタイミングで、なぜ約束を反故にするのか。頭が真っ白になりました。
「話が違うじゃないか」と抗議しても、「そのような約束をした覚えはない」の一点張り。なるほど。思えば私が勝手に勘違いした・・・というより意図的に勘違いさせる話し方をしたのでしょうがはっきりと立ち退き料を求めないとは言っていませんでした。物件の引き渡しが目前にせまり、一番困るタイミングで高額の立ち退き料を求められました。
最終的に、相手方弁護士と複数回、書面とやりとりし、買主さんにも被後見人がこの件でおうダメージを減らすよう少し売買価格をあげてもらうようにお願いし、家庭裁判所とも調整を重ねました。何とか短期間のうちに立ち退き料を半額近く減額することで決着させ、この件で被後見人にあまり大きな金銭的負担を負わせずに完了させることができました。
かなり教訓を得た経験でした。

なぜトラブルは起きたのか?3つの法律ポイントを解説
なぜ、このような理不尽とも思える事態が起きてしまったのでしょうか。このトラブルは、感情的な問題だけでなく、3つの法律的なポイントが複雑に絡み合っています。一つずつ紐解いていきましょう。
ポイント1:成年後見人の不動産売却と家庭裁判所の役割
まず、成年後見人が本人(被後見人)の財産である不動産を売却する際には、原則として家庭裁判所の監督を受けることになります。
特に、本人が現に住んでいる家やその敷地に限らず、施設入所中で今は住んでいなくても将来居住する可能性がある家などを含む「居住用不動産」を売却する場合には、必ず事前に家庭裁判所の許可を得なければなりません。これは、本人の生活基盤を失わせるという重大な影響を及ぼすため、裁判所がその必要性を厳しく審査するためです。
一方で、今回の事例のような収益物件や更地などの「非居住用不動産」については、法律上、売却にあたって家庭裁判所の許可は必須ではありません。しかし、だからといって後見人が自由に売却できるわけではないのです。
成年後見人には、本人の財産を善良な管理者の注意をもって管理する義務(善管注意義務)が課されています。もし不相当に安い価格で売却するなど、本人に損害を与えるような行為をすれば、後で損害賠償を請求される可能性もあります。そのため、収益物件の売却であっても、事前に裁判所に報告し、指示を仰ぎながら進めるのが実務上の一般的な対応です。
今回のケースでも、親族との間で立退き料という予期せぬトラブルが発生したことで、売却価格や条件について家庭裁判所への詳細な報告と調整が不可欠となりました。このことからも、後見人が背負う責任の重さがうかがえます。
ポイント2:親族間サブリースの特殊性と立退き料の問題
次に、サブリース契約、特にそれが親族間で行われていたという点が、問題を複雑にした大きな要因です。
サブリース契約とは、物件の所有者(オーナー)から不動産会社などが一括で建物を借り上げ、それを入居者に転貸する仕組みを指します。オーナーにとっては、空室リスクや管理の手間を軽減できるメリットがあります。
しかし、この契約が親族間で結ばれると、ビジネスライクな関係とは異なる特殊性が生まれます。契約書の内容が曖昧であったり、そもそも契約書自体が存在しなかったりすることも少なくありません。「身内だから」という馴れ合いが、法的な関係を不透明にしてしまうのです。
そして、ここが重要な点ですが、日本の借地借家法では、建物を借りている人(賃借人)の権利は非常に強く保護されています。たとえオーナーが「物件を売りたいから出ていってほしい」と要求しても、賃借人側に大きな落ち度がない場合、賃貸人からの更新拒絶や解約の申入れが認められるには、借地借家法上の「正当事由」が必要となるのが一般的です。また、正当事由を補完する事情として「立退料」の提供が考慮されることがあります。
今回の事例で相手方が強気に1000万円近い立退き料を請求できたのは、まさにこの借地借家法が盾になっていたからです。親族が経営する会社は、単なる親戚ではなく、法律上「賃借人」という強く保護された立場にあったのです。このような状況は、例えば所有物件で孤独死が発生した場合の告知義務など、不動産オーナーが直面する様々な法的問題とも共通する、専門的な知識が求められる領域といえます。

ポイント3:「口約束」の法的効力と、その危うさ
最後に、このトラブルの最大の原因となった「口約束」の問題です。
意外に思われるかもしれませんが、民法上、契約は必ずしも書面がなくても、当事者間の意思表示が合致すれば口頭でも成立します(これを諾成契約といいます)。つまり、「口約束でも契約は成立する」というのが法律上の原則です。
しかし、この原則には大きな落とし穴があります。それは、「合意内容を証明することの難しさ」です。
契約書が存在しない場合、後になってトラブルが生じると、当事者の一方が「そんな約束はしていない」と主張すれば、たちまち「言った・言わない」の水掛け論に陥ってしまいます。裁判になったとしても、約束の存在やその具体的な内容を客観的な証拠で立証できなければ、権利を主張することは極めて困難です。
今回は明確な形での書面を速やかに残そうとしなかったのが私のミスでした。そうすれば、相手は署名におうじないでしょうから先方の意図が早期のうちに明確になったはずです。早期に立退き料を求めてくることが発覚しました。
特に親族間では、「こんなことを書面にするのは水臭い」という心理的なハードルから、重要な取り決めが口約束で済まされてしまいがちです。しかし、その優しさや信頼が、後に深刻なトラブルの火種となる危険性をはらんでいるのです。
同じ轍を踏まないために。司法書士が伝える3つの教訓
私の痛恨の経験から、皆さまが同じようなトラブルに巻き込まれないために、専門家として3つの教訓をお伝えします。これは、法律の知識であると同時に、ご自身の家族と財産を守るための心構えでもあります。
教訓1:親族間の合意こそ「書面」に残す
「親しき仲にも礼儀あり」ということわざがありますが、法律の世界では「親しき仲こそ書面あり」と読み替えるべきです。
感情的なしがらみがある親族との間で、契約書を交わすことに抵抗を感じるかもしれません。しかし、書面を作成する目的は、相手を疑うことではありません。むしろ、お互いの認識のズレを防ぎ、将来の不安を取り除くことで、良好な関係を長く維持するための「愛情の証」と考えるべきです。
大げさな契約書でなくても構いません。「合意書」や「覚書」といった形で、いつ、誰が、何について、どのように合意したのかを明確に記し、双方が署名・押印しておくだけでも、その効力は絶大です。例えば遺産分割協議書のように、相続人間で合意した内容を書面化することが、後のトラブルを防ぐ最善の策となるのです。
口約束のリスクを再認識し、大切な家族との約束こそ、形に残す勇気を持ってください。
教訓2:相手の「立場」を客観的に分析する
親族間の話し合いでは、どうしても感情が先行しがちです。しかし、不動産や金銭が絡む問題では、相手との関係性だけでなく、相手が法律上どのような「立場」にあり、どのような「権利」を持っているのかを冷静に分析することが不可欠です。
今回の事例で言えば、相手は親族であると同時に、借地借家法で強く保護される「賃借人」という法的な立場にありました。たとえ交渉の場が和やかな雰囲気であっても、その裏で相手が強力な法的カードを持っている可能性を忘れてはなりません。これは、例えば親の介護をしなかった兄弟が法定相続分を主張するケースとも共通します。感情的には納得できなくても、法律が相手の権利を認めているという現実から目を背けてはいけないのです。
私たち司法書士は、ご相談者様のお話をお伺いするだけでなく、登記簿や契約書といった客観的な資料から権利関係を正確に把握し、潜在的なリスクを洗い出します。感情論に流されず、法的な事実に基づいて状況を分析する視点が、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。
教訓3:複雑な問題は誰か意見を求めたり、相談する
この件で私が自分の判断に疑いを持ち、早い段階で弁護士さんをはじめ誰かの意見を求めることができていたらまた展開は違ったと思います。
ただ、立退料を求められてからは不動産会社や弁護士さんに意見を求め、最終的には交渉によって立退き料を大幅に減額することができました。もしも最後まで誰にも相談せずに一人で対応しようとしていたら、もっと高い金額で押し切られていた可能性も強いと思います。
相続や不動産の問題でどの専門家に相談すべきか迷うこともあるかと思いますが、司法書士も不動産登記や相続手続きの専門家として、複雑な権利関係の整理を得意としています。一人で抱え込まず、まずは専門家の意見を聞いてみることが、解決への第一歩です。
まとめ:複雑な不動産相続・後見問題は当事務所へご相談ください
成年後見制度を利用した不動産の売却、特に親族が賃借人になっているような複雑なケースでは、予期せぬトラブルが起こりやすいのが現実です。
私の失敗談からもお分かりいただけるように、「身内だから」という安心感が、かえって大きなリスクを招くことがあります。親族間であっても重要な約束は必ず書面に残すこと、そして少しでも不安や疑問を感じたら、手遅れになる前に専門家へ相談することが、ご自身の、そして大切なご家族の財産と未来を守るために不可欠です。
当事務所の代表司法書士は、不動産業界での実務経験と宅建士の資格も有しており、単なる法律家としてだけでなく、不動産取引に強い司法書士として、複雑な案件にも対応可能です。また、心理カウンセラーの資格も活かし、法律問題だけでなく、ご家族間の感情的な側面にまで配慮した、きめ細やかなサポートを心がけております。
親族間の不動産トラブルや成年後見に関するお悩みは、一人で抱え込まず、ぜひ一度、下北沢司法書士事務所にご相談ください。
下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

