将来取得する不動産持分も遺言に書けます【専門家が解説】
「まだ自分のものになっていない不動産を、遺言に書いても意味がないのでは?」と疑問に思われるかもしれません。特に、ご夫婦で共有しているご自宅など、将来パートナーから相続するかもしれない持分について、今のうちから準備しておきたいと考えるのは自然なことです。結論から申し上げますと、遺言を作成する時点で所有していなくても、将来取得する予定の不動産やその持分を遺言に書くことは法的に可能です。
なぜなら、遺言の効力が発生するのは、遺言を書いた時ではなく、遺言者が亡くなった時だからです。つまり、亡くなった時点でその財産を所有していれば、遺言の内容は有効に実行されます。この仕組みを理解し、活用することで、将来の状況変化を見越した、より思慮深い相続対策が可能になるのです。
もちろん、そのためには法的に有効な書き方をする必要があります。政府広報オンラインでも遺言書の書き方について注意喚起がなされていますが、特に将来の財産については専門的な知識が求められます。この記事では、司法書士の視点から、具体的なケースごとの書き方や注意点を分かりやすく解説していきます。遺言書の全体像については、遺言書を作成すべき典型的なケースで体系的に解説していますので、併せてご覧ください。
【ケース別】将来取得する不動産持分の遺言書への書き方と文例
それでは、具体的にどのような状況で、どのように遺言書を書けばよいのでしょうか。ここでは、ご相談でよくある3つのケースを想定し、司法書士が実務で用いる書き方のポイントと文例をご紹介します。遺言書に不動産を記載する際は、登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、そこに書かれている通りに正確に物件情報を転記することが基本です。少しでも間違うと、相続登記の手続きがスムーズに進まない可能性がありますので、十分にご注意ください。
ケース1:将来相続する配偶者の持分を子どもに相続させたい
ご夫婦で不動産を共有している場合、多くの方が「自分が亡くなったら、自分の持分は配偶者に。そして、配偶者が亡くなったら、その不動産全体を子どもに渡したい」とお考えになります。しかし、それぞれが単純な遺言しか用意していないと、思わぬ事態を招くことがあります。
例えば、夫が先に亡くなり、妻が夫の持分を相続したとします。その後、妻が遺言書を書き直す前に亡くなってしまうと、妻が元々持っていた持分は遺言で指定した子どもに渡りますが、夫から相続した持分は法定相続となり、他の相続人との遺産分割協議が必要になる可能性があるのです。
このような事態を避けるために有効なのが、「停止条件付遺言」という考え方です。これは、「もし、私が配偶者から不動産持分を相続したら、その持分を子どもに相続させる」というように、特定の条件が満たされた場合にのみ効力が発生する遺言です。
※文例が読者の方に合っているかどうかは状況によります。専門家にご相談しながら文案を構成してください。
【文例】
第〇条 遺言者は、遺言者が妻・花子(昭和〇年〇月〇日生)から相続により下記不動産の不動産を取得した場合は、有する共有持分全部を、長男・太郎(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。
(不動産の表示)
所在 〇〇市〇〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇.〇〇平方メートル
この書き方をしておけば、万が一、ご自身より先に配偶者が亡くなった場合、その持分を相続した上で、その持分も含めて確実に子どもへ引き継がせることができます。これは、ご自身の死後、さらにその先の相続(二次相続)まで見据えた、非常に有効な対策といえるでしょう。特にお子さんのいないご夫婦の場合、このような備えは特に重要になります。
ケース2:将来買い増す予定の共有持分も含めて相続させたい
兄弟や親族と不動産を共有している方の中には、将来、他の共有者から持分を買い取って、最終的には単独所有にしたい、あるいは持分を増やしたいと考えている方もいらっしゃるでしょう。このような能動的な財産の変動が予想される場合にも、将来を見越した遺言が役立ちます。
遺言を作成した後に持分を買い増した場合、その都度、遺言を書き直すのは手間がかかります。そこで、次のような包括的な表現を用いることで、遺言の書き直しを防ぐことができます。
【文例】
第〇条 遺言者は、遺言者が相続開始時に有する下記不動産の共有持分全部を、妻・花子(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
(不動産の表示)
※物件情報は登記事項証明書の通りに正確に記載
ポイントは「相続開始時に有する」「共有持分全部」という文言です。この一文があることで、遺言作成後に持分を買い増したとしても、その増えた分も含めた「その時点で所有している全ての持分」が、指定した相続人のものとなります。将来の計画が明確な方にとっては、非常に合理的で便利な書き方です。

ケース3:どの不動産を取得するか不明な場合の包括的な書き方
「将来、親から不動産を相続する可能性があるけれど、どの物件になるか、そもそも相続できるかもはっきりしない」というケースも少なくありません。このように、対象となる不動産が特定できない場合でも、遺言で意思を示しておくことは可能です。
このような場合には、「バスケット条項」とも呼ばれる、非常に包括的な表現を用います。
【文例】
第〇条 遺言者は、遺言者の有する一切の不動産(将来取得する不動産も含む)を、長男・太郎(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。
この書き方の最大のメリットは、将来どのような不動産を取得したとしても、すべて指定した相続人に引き継がせることができる点です。遺産の記載漏れを防ぐ意味でも有効です。
しかし、この方法は注意も必要です。あまりに包括的であるため、相続が起きた際に「この不動産も含まれるのか?」といった解釈をめぐる争いの火種になる可能性があります。遺産分割協議で用いられる「その他一切の財産」という表現と同様に、便利な反面、リスクも内包していることを理解しておく必要があります。専門家としては、可能な限り財産は特定して記載することをお勧めします。
「所有不動産の全て」と書く遺言の効力と注意すべきリスク
ケース3でご紹介した包括的な書き方をさらに進め、「遺言者の有するすべての不動産を〇〇に相続させる」という表現も法的には有効です。この書き方は、遺言作成後に取得した不動産も自動的に遺言の対象に含めることができ、財産の記載漏れを防ぐという大きなメリットがあります。
しかし、司法書士の実務経験から申し上げると、この表現を安易に使うことには警鐘を鳴らしたいのが正直なところです。なぜなら、メリットを上回る可能性のある、重大なリスクが潜んでいるからです。
リスク1:想定外の「負の財産」を相続させてしまう
ご自身でも把握しきれていない、あるいは忘れてしまっている不動産はありませんか?例えば、先代から相続したものの、価値がほとんどなく固定資産税だけがかかる地方の山林や原野、管理が非常に困難な私道持分などです。良かれと思って「すべての不動産」と書いたことで、かえって相続人に管理の負担や金銭的な重荷を背負わせてしまうケースは少なくありません。
リスク2:遺留分侵害のリスクが高まる
遺言によって財産を自由に分配できますが、兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が法律で保障されています。「すべての不動産」を特定の一人に相続させた結果、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性が高まります。そうなると、相続後に「遺留分侵害額請求」という金銭トラブルに発展し、かえって家族間の関係を悪化させてしまうことになりかねません。

このようなリスクを避けるためにも、まずはご自身の財産を正確に把握することが遺言作成の第一歩です。令和8年(2026年)2月2日からは、全国の不動産を一覧で確認できる所有不動産記録証明制度も始まっていますが、やはり専門家と一緒に財産目録を作成し、どの財産を誰に遺すのが最善か、慎重に検討することをお勧めします。
【実例紹介】将来取得する持分を見据えた遺言作成サポート
先日、杉並区にお住まいのCさんから「自宅マンションを子どもに相続させたい」という遺言のご相談をいただきました。お話を伺いながら、まずは基本となるご自宅マンションの登記事項証明書を確認したところ、Cさんと奥様の共有名義になっていることが分かりました。ずいぶん前にご購入されたため、Cさんご自身も共有であるという認識が薄れていらっしゃったようでした。
私はCさんに、まず基本的なルールからご説明しました。
「Cさん、遺言というのは、ご自身の財産についてのみ書くことができます。ですから、奥様が持っているマンションの持分については、Cさんの遺言でどうこうすることはできないのですよ」
その事実をお伝えすると、Cさんは予想外だったようで、少しがっかりされたご様子でした。私は、そこでさらに言葉を続けました。
「ですが、がっかりしないでください。これはあくまで『亡くなった時にご自身の財産ではないもの』に対して遺言はできない、という意味です。遺言を作る今の時点で、必ずしも財産を所有している必要はないのです。例えば、先ほどご説明したように『遺言者が相続開始時に有している持分全部』といった表現を使う方法があります。もし将来、奥様が先にお亡くなりになり、Cさんが奥様の持分を相続された場合には、その持分も含めてお子さんに相続させることができるのです。この一文を入れておけば、将来遺言を書き直す手間も省けますし、Cさんのご希望に最も沿う形になるかと思います」
このご提案に、Cさんの表情はぱっと明るくなりました。「そんな方法があるのか!」と大変喜んでいただき、最終的に、将来取得する可能性のある配偶者の持分も含めてお子さんに相続させる、という内容で遺言書を作成させていただきました。このように、専門家が少し視点を変えてご提案するだけで、将来の安心の度合いは大きく変わることがあります。
知っておくべき遺言の基礎知識とよくある質問
最後に、将来取得する不動産を遺言に書く際に関連して、よくいただくご質問にお答えします。
Q. 遺言に書いた不動産を取得しなかった場合、遺言はどうなりますか?
A. 一般的には、その不動産(持分)に関する部分は効力が生じず、他の部分は影響を受けないことが多いです。
例えば、「妻から相続する予定だった不動産持分を長男に相続させる」と遺言に書いたものの、実際には妻より先にご自身が亡くなった場合、その不動産持分に関する部分だけが効力を失います。遺言書全体が無効になるわけではありませんのでご安心ください。
ただし、注意点もあります。その不動産が遺産の大部分を占めていた場合、その部分が無効になることで、相続人全体の財産のバランスが大きく崩れてしまう可能性があります。財産の状況に大きな変化があった場合や、相続人の状況が変わった場合には、定期的に遺言書を見直すことをお勧めします。
Q. 遺言書は何で書くのがおすすめですか?
A. 確実性を重視するなら「公正証書遺言」を強くお勧めします。
遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」が主にあります。手軽に作成できるのは自筆証書遺言ですが、法律で定められた形式を一つでも間違うと無効になってしまうリスクがあります。
特に、今回テーマにしている「将来取得する不動産」のように、内容が少し複雑になる場合は、法律の専門家である公証人が作成に関与し、原本が公証役場に保管される公正証書遺言が最も安全で確実です。作成費用はかかりますが、形式不備による無効リスクを大きく下げやすく、相続発生後の家庭裁判所での「検認」という手続きも不要になるため、残されたご家族の負担を軽減できる場合があります。
まとめ:将来を見据えた遺言作成は司法書士にご相談ください
この記事では、将来取得する予定の不動産やその共有持分を遺言書に記載する方法と、その際の注意点について解説しました。正しい知識を持って適切な文言で記載すれば、将来の財産変動にも対応でき、ご自身の意思をより確実に実現することが可能です。
しかし、共有持分が絡む不動産や、二次相続まで考慮した遺言は、ご自身だけで作成するには思わぬ落とし穴が潜んでいることも事実です。「これで本当に大丈夫だろうか」という不安を抱えたままでは、本当の意味での安心は得られません。
私たち司法書士は、ご家族の状況や財産の内容、そして何よりもお客様の「想い」を丁寧にお伺いし、法律の専門家として最適な遺言書の作成をサポートします。エリアも東京23区や東京都下、千葉県八千代市や千葉市、横浜市や相模原の方などにご相談を頂戴しております。
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下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

