こんにちは!下北沢司法書士事務所の竹内と申します。相続、遺言、後見、信託、不動産売却支援、会社設立や会社清算など個人と中小企業の法務手続きをしています。
今日は「認知症になった人の自宅の売却」についてお話したいと思います。認知症になった方の自宅不動産の売却については、ネット上でも様々な知識が飛び回っています。残念ながら、自社のサービスを利用して欲しいばかりに後見制度を利用した不動産売却がとてもハードルが高いように大げさに表現してると感じるものもあります。今日は、認知症になった人が自宅不動産を売却するには実際にはどの程度大変なのか現実の実務的な話をしたいと思います。
認知症になったら不動産は売れないのか?
良く「認知症になったら家は売れない」という話をネットの記事で見かけます。「家が売れない。でも信託を使えば、認知症になっても家を売れますよ。」ということで信託をすすめる文脈でこの手の話が出てきます。売れないとまでは言わないまでも「売るのにかなり高いハードルがある」と思わせる記事も多いです。もしかしたらあなたが目にしたその情報は、信託を利用しないと後々大変なことになるような大げさに表現されたものかも知れません。
後見制度を利用して不動産を売るのはどれくらい大変なのか
それでは認知症の方が不動産売却をするのはどの程度大変なのでしょうか。認知症の方が自宅不動産売却をするにはまず後見人を選任し、家庭裁判所を売却の許可を得なければなりません(民法859条の3)。
しかし、実は後見制度を利用して不動産を売却するのは現実的に可能ですし「家庭裁判所の許可がおりなかったらどうしよう」と心配することもありません。もちろん、あらゆるケースで必ずおりるとは言えませんが司法書士などのサポートを受けて、きちんと家庭裁判所に自宅売却の理由を説明できれば問題無く売却することができます。家庭裁判所に認知症の方ご本人にとって売却することがメリットであることが伝われば許可がおりるので、介護施設の入居費用にあてる場合はもちろん、管理や防災・防犯の意味で空き家と持っていることが本人にとってリスクであるなどの理由が考えられます。また、売却によって本人にデメリットが生じない、例えば自宅に戻る可能性がないことを伝えることもポイントです。
では信託に意味はないのか?
では、認知症になっても後見制度を利用しないで不動産売却ができる信託は利用価値がないのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。信託を利用すれば次のようなメリットがあります。
・不動産売却の時のスケジュール管理・売却先との金額交渉がしやすい
後見制度の利用を1からはじめて、不動産の買い手を探し、家庭裁判所の許可を得て売却するとなると時間がかかりスケジュール管理がしにくくなります。売却先がどれだけ順調に見つかるかにかかる部分が大きいのですが、半年くらいはみておきたいところです。また、建物にトラブルがあっても後見人の立場でその責任を負うのはなかなか大変です。そのため売却後の土地・建物に関する責任は負わない契約にするのが現実的ですが、そうなると不動産業者が買い手になるケースが多くなりエンドユーザーが自己利用のために購入するときより金額は低くなりがちです。こうしたスケジュール管理や金額交渉の面を考えると事前に信託にしておいた方がスムーズです。
・後見人は一度つけるとやめられない。
後見制度を不動産売却だけのために使うことはできません。制度全般の決まりにしばられるため、年に1度家庭裁判所への報告が必要だったり財産額に大きく寄りますが月に数万円ずつ専門家費用がかかります。不動産売却以外で後見制度を利用する必要がないなら事前に信託を利用しておく価値はあります。
・自分の意思で決められる
後見制度を利用した場合、ご本人はその時点で既に認知症になっています。つまり介護施設に入るかや自宅を売却するかなどが現実的に自分で決められない状態です。そのため、後見人に自宅売却するかどうかの判断が委ねられますが、信託を利用すれば自分が元気なうちに自分の意思で物事を決められます。
いかがでしたでしょうか。大切なのは信託や後見、遺言などの手段ありきで考えることでがなく自分の状況と将来どうしたいかを合わせて考えて最適な方法を選ぶことです。信託や遺言できちんと決めておくのも、「もし認知症になった場合は誰々に後見人を任せて自宅を売却して施設に入る」とだけ決めておくのもどちらも正解です。また、判断するときに意識したいのは「そもそも認知症になるかどうかも分からない」ことです。なったときの保険にどれくらいの費用をかけて何をやるのがいいかは人によって全然違います。難しいと思われるかも知れませんが大丈夫。あなたが最適な判断をするため司法書士がサポートし、また書類作成などの実務も担います。「なんだかわからないけど、なにかした方がいい気がする」くらいで全然問題ありません。ぜひ司法書士にご相談ください。
下北沢司法書士事務所 竹内友章