マンション建て替えは長期戦。もし途中で認知症になったら…?
お住まいのマンションの建て替え計画、順調に進んでいますか?老朽化した建物が新しく生まれ変わる未来を想像すると、胸が躍りますよね。しかし、その一方で、心の中に小さな不安が芽生えていないでしょうか。
マンションの建て替えは、計画から完成まで5年以上に及ぶ、非常に息の長いプロジェクトです。この長い年月の間に、もしご自身やご家族の判断能力が低下してしまったら…?特に、認知症を発症してしまったら、一体どうなるのでしょうか。
「まだ元気だから大丈夫」と思われるかもしれません。ですが、この「まさか」は、誰にでも起こりうる現実です。順調に進んでいたはずの計画が、たった一人の意思表示ができなくなったために、すべてが白紙に戻ってしまう可能性だってあるのです。これは決して、他人事ではありません。
決議、契約…建て替えで必要な「意思表示」が全てストップ
認知症などにより意思能力(法律行為の結果を判断できる能力)が不十分な状態で行った契約や意思表示は、後から無効と判断されることがあります。マンションの建て替えプロセスでは、以下のように重要な意思表示を求められる場面が何度も訪れます。
- 建替え決議への賛成・反対の意思表示
- 建替え組合への参加、規約への同意
- 権利変換計画への同意
- 仮住まいを借りるための賃貸借契約
- 新しいマンションの住戸を選ぶ契約、売買契約
- 住宅ローンの契約
- 清算金の授受に関する契約
これらの手続きはすべて、ご本人の明確な意思に基づいて行われる必要があります。もし判断能力が低下していると、「ハンコが押せない」「契約書にサインできない」という状態になり、建て替えに関するすべての手続きがストップしてしまうのです。

「家族だから」は通用しない!最悪の場合、新居を失う可能性も
「もし親が認知症になっても、子どもである自分が代わりに手続きすればいいのでは?」…そう考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その考えは法律の世界では通用しないのが現実です。
たとえ親子であっても、法律上の代理権がなければ、本人の財産に関する契約はできません。ご本人の預金口座からお金を引き出すことが難しくなることがあり、実務上は口座の手続きが止まりやすい状態になってしまうこともあります。
建て替えプロジェクトを守る鍵は「任意後見契約」にあり
では、どうすればこのようなリスクに備えることができるのでしょうか。その最も有効な鍵となるのが「任意後見契約」です。
任意後見契約とは、ご自身が元気で判断能力がはっきりしているうちに、「将来、判断能力が不十分になった場合に、自分の代わりに財産管理や様々な契約手続きをしてもらう人(任意後見人)」を、自分の意思で選び、その方とあらかじめ契約を結んでおく制度です。認知症対策の全体像については、任意後見・家族信託・法定後見の違いを比較|費用・手続きで選ぶで体系的に解説しています。
この制度の最大のポイントは、「元気なうちに」「信頼できる人を」「自分の意思で」将来の代理人として指名できる点にあります。判断能力が低下してから慌てて手続きをするのではなく、ご自身の希望を未来に託す、計画的な備えなのです。
より詳しい制度の概要については、以下の公的機関の情報もご参照ください。
参照:厚生労働省(成年後見はやわかり):任意後見制度とは(手続の流れ、費用)
法定後見との決定的な違い:自分で未来の代理人を指名できる
判断能力が低下した後の備えとして「成年後見(法定後見)制度」を聞いたことがあるかもしれません。しかし、法定後見と任意後見には決定的な違いがあります。
法定後見は、判断能力が低下した後に、家族などが家庭裁判所に申し立てて後見人を選んでもらう制度です。この場合、後見人を誰にするかの決定権は家庭裁判所にあります。そのため、たとえご家族を候補者として希望しても、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースも少なくありません。
また、法定後見人の最も重要な役割は「本人の財産を守ること」です。そのため、マンションの建て替えのように、既存の財産(古いマンション)を処分し、新しい財産(新しいマンション)を取得するという積極的な財産変動を伴う行為については、法定後見では、居住用不動産の処分など一定の行為について家庭裁判所の許可が必要となる場合があり、手続きに時間を要することがあります。その点、任意後見であれば、ご自身が信頼するご家族などを代理人に指定し、ご自身の希望に沿った柔軟な財産管理を託すことができるのです。成年後見の申立てを検討する際には、こうした違いを理解しておくことが大切です。
家族信託では不十分?建て替えに必要な「身上監護」の視点
最近では、認知症対策として家族信託も注目されています。家族信託は財産の管理・処分に特化した柔軟な制度ですが、マンション建て替えのような長期プロジェクトでは、それだけでは不十分な場面が出てくる可能性があります。
任意後見契約には、財産管理に加えて「身上監護」という重要な役割があります。これは、介護サービスの契約、病院の入退院手続き、要介護認定の申請など、ご本人の生活や療養看護に関する法律行為を代理する権限のことです。
建て替え期間中は、仮住まいへの引っ越しや、それに伴う様々な生活上の手続きが発生します。財産管理だけでなく、こうした身上監護に関する権限もあわせて設定しておくことで、より盤石な備えとなるのです。
そしてもう1つ、実務経験者として現実では大きな課題と思うのが借り入れです。マンション建替でが価値の上がった新居を取得するため大きな現金が必要になり、そのために借り入れが必要になるのは通常です。信託の場合は、そもそもマンションの所有権自体が受託者(財産管理を任せられる人)に移る・・つまり名義が移るため、この状態で金融機関が貸し出しをしてくれるかは信託契約を締結するために確認が必要です。ただ、出金を借り入れではなく現金で賄う場合は、むしろ自由度の高い信託の方が任意後見より向いているかも知れません。
【司法書士が解説】マンション建て替え専用「代理権目録」の作り方
任意後見契約を締結する際、最も重要になるのが「代理権目録」です。これは、任意後見人にどのような権限を委任するかを具体的に記載したリストのことで、契約書の根幹をなす部分です。
しかし、マンションの建て替えに備える場合、一般的な「不動産の管理・処分権限」といった記載だけでは、いざという時に権限が不十分だと判断され、手続きが滞るリスクがあります。私自身、独立前に建築・再開発事業を専門とする司法書士事務所に勤務していた経験から、この点には特に注意が必要だと感じています。
ここでは、建て替えという特殊な状況に特化した、代理権目録の作り方のポイントを解説します。
「不動産の管理・処分」だけでは足りない!記載必須の3項目
将来のトラブルを避け、建て替えプロジェクトをスムーズに進めるためには、代理権目録に以下の3つの項目を具体的に盛り込んでおくことが極めて重要です。
1.建物の区分所有等に関する法律に基づく建替え決議に関する一切の権限
これは、建て替え計画の最も重要な入り口である「建替え決議」において、本人に代わって賛成・反対の議決権を行使するための権限です。この記載がないと、そもそも計画のスタートラインに立つことすらできなくなる可能性があります。
2.マンション建替組合の組合員として行う一切の権限(権利変換計画の同意を含む)
建替え決議が可決されると、通常は「マンション建替組合」が設立され、区分所有者はその組合員となります。組合員として、事業計画の決定や、最も重要な「権利変換計画(現在の権利を新しい建物の権利にどう移行させるかの計画)」への同意など、様々な意思決定が求められます。この権限を明記しておくことで、組合員としての活動を代理人がスムーズに行えるようになります。
3.新築マンションの売買契約締結、清算金の支払い・受領、ローン契約等に関する一切の権限
建て替えの最終段階では、新しいマンションの売買契約や、差額の調整金である「清算金」の支払いや受け取り、場合によっては住宅ローンの契約など、具体的な金銭のやり取りや契約行為が発生します。これらの権限を具体的に列挙しておくことで、不動産売買契約後の判断能力の問題が生じても、代理人が滞りなく手続きを進めることができます。

【実例紹介】将来を見越したAさんの先見の明と、私たちの提案
先日、お住まいのマンションが建て替え事業の対象になったというAさんからご相談をいただきました。マンションの名義は80歳を迎えられるお父様。Aさんは、将来の相続のことも漠然と考えていた矢先に建て替え計画が持ち上がり、「もし父がこの長いプロジェクトの途中で認知症になったり相続が発生したら…」と不安を感じ、当事務所の扉を叩いてくださいました。
5年、6年と続く建て替え期間中には、必ず様々な意思表示が求められます。その長期的な視点に立ち、「今のうちに対策が必要かもしれない」と思われたAさんの先見の明には、専門家として本当に感心させられました。そのように将来を見据え、ご家族のために行動を起こせることは、本当に素晴らしいことだと思います。
私たちはAさん親子に、お父様を委任者、Aさんを受任者とする任意後見契約を結ぶことをご提案しました。そして、建て替えという特殊な状況を踏まえ、契約書の中の「代理権目録」を一緒に作り込んでいきました。
一般的な不動産の管理・処分権限に加えて、先ほどご説明した「建替え決議への賛成」や「組合員としての権限」、そして「増し床分を取得するための清算金の支払い」といった、起こりうる事態を想定した具体的な権限を一つひとつ丁寧に盛り込むことを提案させていただいたのです。これは、将来的に権限の範囲について疑義が生じるリスクをできる限り小さくするための、専門家としてのこだわりでもあります。任意後見契約は公正証書で作成する必要があるため、公証人との事前調整も、私たちが責任をもって行いました。
万全の備えで安心を。まずは専門家へご相談ください
ここまでお読みいただき、任意後見契約の重要性、そしてマンション建て替えという特殊な状況に合わせた「代理権目録」の作成がいかに専門的な知識を要するか、お分かりいただけたのではないでしょうか。
「うちの場合は、具体的にどう書けばいいんだろう?」
「公証人との調整って、何をするの?」
「そもそも、誰に任意後見人をお願いすればいいか迷っている…」
こうした疑問や不安を抱えるのは当然のことです。だからこそ、私たち専門家にご相談いただきたいのです。ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。
ご家族の状況に合わせた最適な契約内容を一緒に考えます
司法書士にご相談いただくことで、単に書類を作成するだけではない、きめ細やかなサポートが可能になります。
私たちは、まずご家族の関係性や財産状況を丁寧にヒアリングさせていただきます。その上で、法律的な観点だけでなく、ご家族の想いも反映したオーダーメイドの契約書案をご提案します。公証役場とのやり取りについても、必要書類のご案内や事前調整など、可能な限りこちらでサポートします。
私は独立前に建築・再開発事業を専門としてきた事務所につとめておりました。その時の経験から、建替え組合やデベロッパーとの関係性も見据えた、実践的なアドバイスができると自負しております。
「まだ元気だから大丈夫」が一番危険。対策は今すぐ始めましょう
最後にもう一度、お伝えしたいことがあります。任意後見契約は、ご本人に意思能力があるうちに結ぶ必要があります。
「いつかやろう」と考えているうちに、認知症の症状が進んでしまい、手遅れになるケースは決して少なくありません。高齢の親を持つ方が直面しやすい老老相続の問題も、判断能力の低下によってさらに複雑化します。
今日のこの一歩が、数年後のご家族を大きなトラブルから救うことになるかもしれません。大切なご自宅とご家族の未来を守るための、最も確実な一歩を、今すぐ踏み出してみませんか。私たちはいつでも、あなたの味方です。
特に建替事業や再開発を見越した遺言などの相続対策・任意後見や成年後見の対応は、経験を積んでいる事務所ばかりではありません。少しエリア的に遠いかなと思う方でも、専門性のある当事務所にぜひご相談ください。エリアに関する考え方はこちら↓
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下北沢司法書士事務所 竹内友章

東京都世田谷区北沢にある下北沢司法書士事務所は、相続手続き、遺言作成、相続放棄、会社設立、不動産売却など、幅広い法務サービスを提供しています。代表の竹内友章は、不動産業界での経験を持ち、宅地建物取引士や管理業務主任者の資格を活かし、丁寧で分かりやすいサポートを心掛けています。下北沢駅から徒歩3分の便利な立地で、土日も対応可能です。お気軽にご相談ください。

